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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科37巻8号

2002年08月発行

雑誌目次

巻頭言

第17回日本整形外科学会基礎学術集会を開催するにあたって

著者: 原田征行

ページ範囲:P.904 - P.905

 第17回日本整形外科学会基礎学術集会のテーマは「基礎と臨床の架け橋」としました.整形外科は主に骨を扱う臨床科として認められてきました.基礎的研究については古くから,多くの研究者が結合組織を含む骨の組織,病理,骨代謝などに取り組んできました.しかし本邦では軟部組織である消化管のがんの基礎的研究に比べ,研究態様とその取り組みに遅れがあったことは否めません.骨組織という特異性から,組織標本の作製が簡単にできないこと,骨・軟骨細胞の分子生物学的研究手法の困難さにあったと思います.しかし一方,生体を主体にしたバイオメカニクス,運動機能の解析などには多くの先端的な研究が行われました.20数年前,米国などに比べ,本邦整形外科の基礎的研究は30年遅れているのではないかとの指摘もされました.勿論その研究体制も各大学整形外科教室の研究に依存し,いわゆる臨床家が外国にresearch留学する形で研究が積み重ねられました.先人の努力のかいがあって,近年本邦の整形外科の基礎的研究は,骨・軟骨の研究は勿論のこと結合組織,さらには遺伝子研究,分子生物学などが飛躍的に進展しました.内容も充実し,世界をリードするものも出てきました.研究体制も従来の医学部での基礎医学教室と,臨床医学教室との越えがたい障壁が少なくなり,基礎医学者の目が骨,軟部組織研究にも向けられるようになったことも影響しているものと思います.

論述

肩腱板完全断裂に対する鏡視下肩峰下除圧術―短期治療成績

著者: 宍戸裕章 ,   菊地臣一 ,   紺野慎一

ページ範囲:P.907 - P.910

 抄録:われわれは,痛みによるADL障害を主訴とし,腱板機能が温存されており挙上能力が保たれている腱板完全断裂例に対し鏡視下肩峰下除圧術(ASD)を行ってきた.本研究の目的は,腱板完全断裂例に対するASDの2年以上経過例についての治療成績を検討することである.ASD術後2年以上経過した腱板完全断裂21例21肩を対象とした.追跡調査率は91%であった.治療成績は,日整会肩関節疾患治療成績判定基準,運動時痛と夜間痛のvisual analog pain scale(VAS),および患者の手術に対する満足度を用い,術後2年と最終経過観察時に評価した.大断裂群はJOAスコアの機能項目での評価点が,小・中断裂群と比べて有意に低かった.除痛に関しては,腱板断裂の大きさとは関係なく術後のVASは有意に改善し,71%の症例が手術に満足していた.ASDは,疼痛が主訴で腱板機能の回復を必ずしも必要としない腱板断裂の症例に対しては,考慮されてよい治療手段と考えられる.

キアリ奇形に伴う脊髄空洞症の手術成績―特に疼痛の改善と空洞の局在に着目して

著者: 中村雅也 ,   千葉一裕 ,   田村睦弘 ,   西澤隆 ,   丸岩博文 ,   松本守雄 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.911 - P.916

 抄録:多彩な症状を呈する脊髄空洞症において疼痛は主徴候の1つであるが,脊髄に起因する疼痛の発生メカニズムはいまだ不明な点が多いため,治療効果は一定せず術後改善の予測も困難である.今回われわれは疼痛発生機序の解明に資する知見を得るため,脊髄空洞症の疼痛の改善と術前後のMRI所見を比較検討した.空洞はその局在により中心型,偏在型,モザイク型,膨大型の4型に分類した.その結果,空洞が術前MRI横断像で疼痛発生部位と一致する髄節レベルの後外側に偏在する場合は,術後も後外側部に残存する頻度が高く,術後疼痛の改善は不良であった.また,術前に最も高頻度にみられた膨大型は,中心型に移行するか,空洞が消失した場合に疼痛の改善は良好であったが,偏在型に移行した場合には疼痛の改善は不良であった.キアリ奇形に伴う脊髄空洞症による疼痛の発生および術後改善には,脊髄後角部神経細胞の関与が示唆された.

整形外科基礎

慢性圧迫下の神経根内血流障害に対する5-HT2A受容体拮抗薬の効果―セロトニンによる血管収縮反応抑制効果の検討

著者: 関口美穂 ,   菊地臣一 ,   紺野慎一 ,   岩渕真澄 ,   五十嵐章

ページ範囲:P.917 - P.921

 抄録:慢性圧迫モデルにおける神経根内血流障害に対する5-HT2A受容体拮抗薬の効果について検討した.雑種成犬20頭を用いて慢性馬尾圧迫モデルを作製した.実験系は,セロトニン0.5μM投与群(S群;n=5),5-HT2A受容体拮抗薬(5-HTRA)投与後セロトニン0.5μM投与群(A群:5-HTRA 0.5μg/ml,n=5,B群;5-HTRA 0.05μg/ml,n=5),セロトニン0.5μM投与後5-HTRA0.5μg/ml投与群(C群;n=5)の4群を設定した.セロトニン投与後10分ごとに神経根内血管の血管径と血流量の計測を行った.S群とC群ではセロトニン投与後に血管の収縮が認められた.これに対し,A群とB群では血管収縮反応は出現しなかった.すなわち,5-HT2A受容体拮抗薬はセロトニンによる慢性圧迫下での神経根内血管収縮反応を抑制する効果がある.神経根内血管の血流量は,S群ではセロトニン投与により減少したが,A群,B群,およびC群では,血流量の減少が抑制された.以上の結果から,5-HT2A受容体拮抗薬は,腰部脊柱管狭窄による神経根内血流減少を改善する可能性があるといえる.

シリーズ 関節鏡視下手術―最近の進歩

鏡視下Bankart修復術における前方Portalの工夫―Mother and Baby Cannulation Technique

著者: 玉井幹人

ページ範囲:P.923 - P.926

 抄録:外傷性肩関節前方不安定症に対する鏡視下Bankart修復術が盛んに行われるようになってきた.筆者は1997年以降,suture anchorを用いた鏡視下Bankart修復術を行ってきた.Suture anchor法の利点はBankart病変の解剖学的修復が容易な点であるが,一方,anchor糸が絡まりやすく,術中操作が煩雑であった.Anchor糸の整理方法として,一般的にはworking portalを前方に作成し,anchor糸を整理する前方two portal法が用いられている.筆者はサイズの異なる2種類のcannulaを前方portalとして使用することによって前方one portalでanchor糸を整理するMother and Baby Cannulation法を用いている.本法はworking portalを作成することなく,簡便かつ確実にanchor糸が整理できる方法であり,最小侵襲に行える方法であると考える.

整形外科philisophy

医療における国際化とグローバル化の意味

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.929 - P.933

●初期の国際化
 近代国家の国際化は,当然のことながら,国や人々の利益のために互いに交易を行い,情報や技術を交換したことに始まる.即ち,国際化の初期段階では双方の利益追求ということが共通の目標であったといえよう.そのような国際化は国家レベルのみでなく,個人や種々の集団のレベルでも急速に進んできたが,1970年代迄はあくまでも自国対外国という発想が国際化の基本にあって,地球全体をみるというグローバルな発想は殆ど無かったように思われる.
 医学の領域においても同様で,わが国では知識や技術の導入のため海外留学が奨励され,外国の医学雑誌が読まれ,多くの国際学会が日本でも開催されるようになるなど,国際化が進んできた.しかし,およそ1970年代迄は日本医学の国際化の相手は殆どが欧米先進国ばかりであったように思われる.欧米先進国から学び,先進国の仲間入りをしようというのが20世紀後半における多くの発展途上国の悲願であったが,第二次世界大戦後のわが国も例外ではなかったのである.

専門分野/この1年の進歩

日本膝関節学会―この1年の進歩

著者: 鳥巣岳彦

ページ範囲:P.934 - P.936

 第27回日本膝関節学会は2002年2月22,23日,大分県別府市で開催された.一般演題の応募は171題あり,その34%が靱帯損傷に関する臨床的・基礎的発表であった.発表形式として,A会場では発表5分,討論10分と研究会発足当時の形式を踏襲させていただいた.冨士川恭輔前会長のときは靱帯損傷が主題であったので,今回の学会の課題は今まであまり取り上げられることがなかった“膝関節疾患の病態と治療に必須のバイオメカニクス”と“靱帯損傷やOAのリハビリテーション”を選択した.外国からの招待講演者4人もすべてその分野の一流のPh.Dであり,異なった分野の研究者の発想に基づく研究成果が報告された.

整形外科/知ってるつもり

骨粗鬆症の血液・尿検査項目―(2)治療効果のモニター

著者: 中村利孝

ページ範囲:P.938 - P.939

 Evidence based medicine(EBM)の原理に基づいた大規模な臨床試験の成績が明らかになるにつれて,世界的にはビスホスホネートが骨粗鬆症治療の標準薬となってきた.ビスホスホネートは亢進した骨代謝を抑制し,骨密度を増加させて骨折防止作用を発揮する.効果の発現には時間的な順序があり,まず骨代謝が抑制され,その後,骨密度が増加するにつれて骨折防止効果が発現する.したがって,ビスホスホネート治療では,開始初期における骨代謝マーカーのモニターが,その後の骨密度増加と骨折防止効果の発現を予測するうえで有用となる.

最新基礎科学/知っておきたい

マイクロ波による骨加温処理

著者: 内山勝文

ページ範囲:P.940 - P.942

 マイクロ波とは,波長がcmオーダー(約1~30cm)で呼ばれる電磁波の総称であり,一般に周波数が1GHzから30GHzまでの電磁波をさすことが多い10).マイクロ波は戦時中,通信,レーダー等に広く利用されてきた.加熱応用装置として家庭用の電子レンジが良く知られているが,工業利用としては,ゴム,食品,木材,印刷等の広い分野で,加熱・乾燥のエネルギーとして有効利用されている.
 誘電体をマイクロ波の電界中に置くと,イオンと電子の対が電界の方向に整列する.この電界が逆になるとイオン・電子対の方向も逆の配列に変わる.このようにして,分子内で双極子の回転や振動が発生し,その内部摩擦により発熱する(図1)10).マイクロ波加熱法の利点としては,①内部まで短時間に加熱が可能である,②加熱効率が良く,省エネルギーである,③内外面温度差を少なく均一加熱が可能である,④選択加熱が可能である,⑤起動,停止,出力調整のコントロールが容易である,⑥密閉加熱が可能(清潔操作が可能),などが挙げられる10)

運動器の細胞/知っておきたい

グリア細胞(Glia,Glial cells)

著者: 澤田誠 ,   田中謙二

ページ範囲:P.944 - P.947

【はじめに―グリア細胞とは5)
 中枢神経系はひとつの器官系であって複数の組織から成り立っている.それは,外胚葉由来の神経細胞とグリア細胞ならびに中胚葉由来の内皮細胞とそれに付随する平滑筋組織,脳膜などの結合組織を含む.このうちグリア細胞は神経細胞の周囲を隙間なくとりまき,物理的な支持細胞として働くばかりでなく,神経細胞の活動を維持するために積極的に働いている.グリア細胞は,中枢神経系の容積のほぼ半分を占めるといわれているが,細胞数は神経細胞の10倍程度存在する.出生後まもなく分裂増殖能を失う神経細胞とは異なって,グリア細胞は動物の生涯を通して盛んな分裂増殖能を維持し続けていて,様々な原因で神経細胞やグリア細胞が死滅した場合にはその周辺にあるグリア細胞が分裂してその欠損部分の隙間が充塡される.
 グリア細胞はその性質や形態の違いからアストロサイト(星状細胞,astrocyte),オリゴデンドロサイト(乏突起膠細胞,oligodendrocyte),ミクログリア(小膠細胞,microglia)の3種類の細胞に分類される(図および表).また,アストロサイトとオリゴデンドロサイトは外胚葉性で発生初期の神経上皮から分化したものであり,中胚葉由来のミクログリアと対比して,両者をまとめてマクログリア(macroglia,大膠細胞)と呼ぶこともある.さらにそれぞれの細胞は存在様式や形態,性質の違いのあるサブタイプに分類される.

講座

専門医トレーニング講座―画像篇・55

著者: 中村俊康

ページ範囲:P.949 - P.952

症例:24歳,男性
 主訴:左手関節尺側部痛,ドアノブや蛇口をひねる際の疼痛,手が抜けるような感覚
 現病歴:3カ月前に転倒し,手をついた後に左手関節尺側部痛が出現した.直ちに近医を受診したがX線所見では異常ないと言われ,捻挫と診断された(図1).しばらく様子をみていたが,次第に手関節尺側部痛が増強し,ドアノブや蛇口をひねることが困難になってきた.タオル絞りもできない.人に物を渡したり,物を持ち上げる際に,特に回外位から中間位にかけて不意に手が抜けるような感覚も出現した.

臨床経験

鏡視下椎間板切除術(Microendoscopic discectomy)の初期経験―同一術者によるLove法との比較

著者: 坂浦博伸 ,   細野昇 ,   清水広太 ,   山崎勇二 ,   多田浩一

ページ範囲:P.955 - P.959

 抄録:鏡視下椎間板切除術(MED)導入初期15例の成績を同一術者が施行したLove法15例と比較検討した.MEDの1例で術中Love法に変更したが,残りの14例では鏡視下に完遂できた.2群間で術後JOAスコアの改善に差はなかった.MEDはLove法より出血が少なく,術後CRPも低値で,術後熱発期間と入院期間も短かったが,手術時間が有意に長かった.MEDに用いるカメラは斜視鏡のため,死角や見えていても器具の届かない範囲がある.さらに狭い操作空間のため器具の操作性が不良で,時間がかかる原因になっている.2方向透視でtubular retractorを最適位置に設置すること,頻回に内視鏡の位置を変更して視野を変更することである程度手術時間を短縮することができた.MEDには皮切が小さく旁脊柱筋へのダメージが少ない利点があり,今後ますます広まっていく術式ではあるが,手術時間短縮に向けての工夫が必要である.

後十字靱帯温存型セラミックス製LEA人工膝関節の開発コンセプトとその2~8年成績

著者: 安田和則 ,   井上雅之 ,   東裕隆 ,   谷岡寛子 ,   遠山晴一 ,   真島任史 ,   青木喜満 ,   三浪明男

ページ範囲:P.961 - P.969

 抄録:本研究の目的は,セラミックス製LFA-Ⅰ人工膝関節によるTKA症例の2~8年成績を明らかにすることである.本機種は日本人膝関節からデザインした後十字靱帯を温存できる構造を有するアルミナセラミックス製大腿骨コンポーネント,ポリエチレンインサート,およびチタン合金製モデュラー型𦙾骨コンポーネントから構成される.両コンポーネントの固定には全例で骨セメントが用いられた.評価できた症例は81人105膝(調査率92.2%)であり,手術時年齢は42~83歳(平均66歳)であった.OAは42人50膝,RAは50人63膝であり,2~8年(平均5.0年)の経過観察を行った.経過中に再置換術が行われた症例は,チタン製トレイ内側の破損例1膝と遅発性感染例1膝の計2膝であった.それ以外の膝では,経過観察時のJOA評価はOAで術前平均50点が術後平均80点に,RAで術前平均35点が術後平均79点にそれぞれ著明に改善していた.ROMに関してはOAでは術前平均107°が術後平均115°となり,RAでは術前101°が術後109°となった.X線学的評価で弛みや骨融解は認めなかった.幅が1mm以下の限局した骨透亮線は,大腿骨側では前方骨切り面の近位部に2%の頻度で,𦙾骨側では𦙾骨トレイ直下の一部に4%の頻度で認められた.しかし,1mm以上の骨透亮線はどこにも認めなかった.

症例報告

硬膜内に発生した傍神経節腫の1例

著者: 市原大輔 ,   西澤隆 ,   渡辺雅彦 ,   中村雅也 ,   丸岩博文 ,   松本守雄 ,   千葉一裕 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.971 - P.974

 抄録:硬膜内に発生した稀な傍神経節腫を経験した.症例は39歳,男性.1999年2月頃より右下肢しびれが出現した.MRIでは,L2椎体下縁からL3椎体下縁高位に内部に嚢胞を有しガドリニウムで強く造影される腫瘍を認めた.また,脊髄造影では,L3椎体高位に騎跨状陰影を認め,CT myelography(以下CTM)では馬尾が右側へ高度に圧排されていた.以上の所見より神経鞘腫を疑い手術を施行した.1本の神経根を頭尾側で切離することにより容易に全摘可能であった.病理組織所見ではHE染色にて腫瘍細胞が胞巣状に増生しているZellballen構造が認められ,傍神経節腫と診断された.術後1年2カ月の現在,両下肢に軽度のしびれを自覚するものの,MRI上再発も認めず経過良好である.馬尾発生の傍神経節腫は非常に稀であるが,悪性化や局所再発,髄腔内播種の報告もあるため,これらを念頭に置き注意深い経過観察が必要である.

広範囲腰椎椎弓切除術後の脱出ヘルニアに対し再手術を施行した1例

著者: 佐々木智浩 ,   宮本敬 ,   森敦幸 ,   児玉博隆 ,   細江英夫 ,   清水克時

ページ範囲:P.975 - P.978

 抄録:症例は82歳,男性.腰部脊柱管狭窄症(LSCS)に対する椎弓切除4年後に著明な腰痛・右下肢痛が出現.コルセットなどの外固定,および4 pad frame上に腹臥位で固定すると腰痛・右下肢痛は軽快した.広範囲椎弓切除後の腰椎不安定性と,L2/3における逸脱ヘルニアが本症例の病態と考え,ヘルニア摘出およびL1~L3後側方固定術を行った.術中,L1/2・L2/3不安定性を認め,後方瘢痕組織の存在がL3神経根の可動性を低下させ,逸脱ヘルニアによる圧迫をより重度のものとしていた.術直後より腰背部痛と右下肢痛は軽快し,術後5カ月の現在,JOAスコアは20点と著明な改善を示し,単純X線像においてインプラントの逸脱などは認めていない.広範囲腰部脊柱管狭窄症に対する脊椎固定を併用しない広範囲椎弓切除は,一般的に低侵襲とされ広く行われているが,逸脱ヘルニアと神経根の癒着が共存した本病態は,脊椎非固定椎弓切除の遅発性合併症のひとつとして念頭に置くべきである.

アキレス腱部に発生した淡明細胞肉腫の1例

著者: 佐藤多賀子 ,   大幸俊三 ,   角野隆信 ,   桑原明彦 ,   森聖 ,   清水一郎 ,   大川章裕 ,   若林健 ,   逸見明博 ,   龍順之助

ページ範囲:P.979 - P.981

 抄録:アキレス腱部に発生した稀な淡明細胞肉腫の1例を報告する.患者は40歳,男性.2年前頃より左足関節痛が出現したため,当科を受診した.画像上,MRIのT1強調像でアキレス腱近位部にlowintensity,Gadoliniumでenhanceされる腫瘤塊を認め,生検術を施行した.病理組織学的には淡明細胞肉腫であった.術前化学療法を2クール施行したが,有効性は認めず,広範切除術,リンパ節郭清,大腿筋膜張筋筋皮弁,神経移植による機能再建術を行った.病理組織学的所見ではメラニンが豊富に認められ,細胞は紡錘形の明るい胞体を持ち,核分裂が散見され,淡明細胞肉腫と診断された.術後1年6カ月の現在,アキレス腱の作用は徐々に回復しており,足関節固定装具で歩行している.

手掌に発生したグロムス腫瘍の1症例

著者: 園田広典 ,   高下光弘 ,   吉田盛治 ,   平博文 ,   津村弘

ページ範囲:P.983 - P.986

 抄録:左手小指球部に発生したグロムス腫瘍の1症例を経験したので報告する.症例は19歳女性で,中学生の頃から左手掌小指球部に疼痛を自覚していたものの原因不明のまま放置していた.次第に疼痛が増悪し,左小指球部に腫瘤を触知するようになったため当科を受診した.初診時,左小指球部に触れるのが困難なほどの疼痛を伴う弾性腫瘤を認め,MR像で左第4,5中手骨間に腫瘤像を認めた.摘出術を行い症状は軽快した.病理組織診断はグロムス腫瘍であった.グロムス腫瘍は,爪下に発生することが多く,手指以外の発生は比較的稀とされるが,これまでの報告では手指以外にも約35%の割合で発生している.

慢性腎不全患者に発生した化膿性椎体炎に対し二期的手術療法を施行した1例

著者: 喜久生健太 ,   宮本敬 ,   細江英夫 ,   武内章彦 ,   有本利恵子 ,   糸数万正 ,   清水克時

ページ範囲:P.987 - P.990

 抄録:症例は69歳,男性.合併症として慢性腎不全(人工透析),糖尿病があり,透析用に設置された左前腕の内シャント部から感染し,敗血症,化膿性椎体炎となった.腰椎病変が診断しえた際には,椎体破壊が著しく,疼痛のために著明なQOLの低下が認められた.また,全身状態は不良であり,一期的前方後方固定術は侵襲過大と判断し,二期的固定術を選択した.後方固定術施行後に,疼痛および全身状態の改善を待ち,病巣郭清,前方固定術を施行した.これにより,全身状態の極めて悪い本症例においても十分な手術効果が得られ,QOLの著しい改善を認めた.

線維軟骨性索状物切除により肘屈曲伸展・前腕回内外の改善を得た尺側列形成障害の1例

著者: 吉田礼徳 ,   川端秀彦 ,   北野元裕 ,   三木健司 ,   御勢真一 ,   稲垣友里 ,   瓦井義広 ,   藤岡真紀 ,   市口牧子

ページ範囲:P.991 - P.993

 抄録:患児は生下時より右上肢低形成を認め,肘屈曲伸展・前腕回内外不能であった.X線写真にて尺骨の大部分は欠損しており,橈骨にも弯曲と短縮を認めた.1歳7カ月時に手術を施行した.手根骨と上腕骨の間に線維軟骨性索状物(以下索状物)を認め,索状物切除,橈骨矯正骨切り術を行った.術後,肘屈曲伸展・前腕回内外の可動域改善を認めた.文献的には索状物切除は機能的改善の意味はもたないとする意見が強いが,本症例では機能的にも有用な治療法であった.

滑車部骨化前に起こった小児上腕骨内顆骨折の2例

著者: 兼子秀人 ,   瀬戸洋一 ,   鈴木茂夫 ,   二見徹 ,   柏木直也 ,   添田恒光

ページ範囲:P.995 - P.999

 抄録:小児上腕骨内顆骨折は稀な骨折である.しかし,本骨折は軟骨成分を多く含む骨折のためX線による正確な骨折形態の把握が困難である.特に本骨折が滑車部の骨化前に起こるとそのほとんどが軟骨成分であるため,単純X線では内上顆骨折と正確に鑑別することができない.しかし,内顆骨折は外顆骨折と同様に関節面の転位を来す骨折であるため,解剖学的整復が必要である.したがって,内上顆骨折と早期に鑑別することが治療上重要である.本稿では滑車部の骨化前に起こった本骨折の2例を報告する.また,早期診断における注意点やMRIを用いた本骨折の診断などについて検討した.

先天性𦙾骨偽関節症に対する遊離血管柄付き腓骨移植術―1例報告

著者: 鳥越均 ,   菊地臣一 ,   矢吹省司

ページ範囲:P.1001 - P.1005

 抄録:先天性𦙾骨偽関節症の1例に対して遊離血管柄付き腓骨移植術を行い良好な結果を得たので報告する.症例は,手術時1歳11カ月の女児である.生後10カ月時に,つかまり立ちをしようとして急に左下肢痛を訴え前医を受診した.von Recklinghausen病に伴う左先天性𦙾骨偽関節症の診断で当科に紹介された.X線写真上,𦙾骨偽関節の両端は,taperingを来しBoyd分類のType Ⅱであった.左𦙾骨の偽関節部を切除し,健側の腓骨を用いた遊離血管柄付き腓骨移植術による再建を施行した.術後3週で移植腓骨に横径の増大が,術後5カ月で骨癒合が完成した.術後10カ月で装具を除去し,全荷重歩行が可能となった.術後3年の時点で,日常生活が全く制限なく可能である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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