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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科37巻9号

2002年09月発行

雑誌目次

視座

卒後臨床研修の必修化について思う

著者: 持田讓治

ページ範囲:P.1015 - P.1016

 平成16年度からいわゆるsuper rotation方式による2年間の医師卒後臨床研修必修化が始まる.10年以上前から極めて類似したsystemで卒後2年間の研修を実施してきた私達の大学では,これを当然のこととして受け止めている.しかしそのsystemづくりが始まるや見えてきたことは,臨床研修を行う場となる施設間における研修医の引っぱりあいの様相である.
 そもそもこのsystemの導入目的は,新卒の若い医師にgeneral medicineの基礎を身につけさせるための組織だった教育をすることであり,その2年間およびその後の労働力としての彼らを確保することでは全くない.したがっていかに合理的で片寄りのないsystemづくりをするかが現時点での最大の関心事である.特に教える側,つまり指導者としての医師スタッフの質と量に関して,厳しい基準を設けるべきと感じている.

シンポジウム 橈骨遠位端骨折の保存的治療のこつと限界

緒言 フリーアクセス

著者: 荻野利彦

ページ範囲:P.1017 - P.1019

 橈骨遠位端骨折は頻度の高い骨折であり,老人が手をついて倒れたときに受傷するものとして知られている.筆者が整形外科の研修を始めた当時に購入した『神中整形外科学』第19版(1971年発行)の橈骨遠位端骨折の項をみると,その治療法について,「非観血的整復,固定,および固定中の手指屈伸運動の励行を原則とする.」さらに「非観血的整復不能な陳旧例,および粉砕骨折で固定が困難なものには観血的治療が行われる.」と記載されている.一方,1990年発行の第21版の同じ項をみると,Gartlandの分類が引用されている.すなわち,「骨折線が関節外にあるものはⅠ型,関節内に骨折線が及ぶが関節内の段差を生じるような転位がないものはⅡ型,関節内骨折片の転位と関節面段差を伴うものはⅢ型である」.Ⅲ型については,橈骨関節面中央部の陥没骨折を伴うもの,尺側縁の陥凹を伴うもの,尺側背側骨片の転位を伴うものがあることが記載されている.また,治療については,「Ⅰ型とⅡ型では遠位骨片全体の転位をできる限り整復,固定すればよい」ことと「Ⅲ型では観血整復術とKirschner鋼線固定が必要なこと,骨欠損を生じた場合には骨移植が必要なこと」が記載されている.一見,異なることが書かれているように錯覚するが,記載されている要旨はほぼ同じである.すなわち,転位がない骨折は保存療法の適応であり,転位があって保持が困難な骨折は観血的治療の適応であるということである.

橈骨遠位端骨折の保存的治療―骨折型の分類によるその適応と限界について

著者: 藤尾圭司 ,   梁瀬義章

ページ範囲:P.1021 - P.1028

 要旨:橈骨遠位端骨折の分類法を関節外骨折については古典的分類法を,関節内骨折についてはMayo clinicに準じた分類法で分類し,その治療方針を述べた.いずれの骨折の場合も橈骨短縮が健側に比べて4mm以内,palmar tiltが-20°以内の整復を目標としている.関節内骨折では関節面のstep offが若年者の場合1mm以内を,高齢者では2mm以内を目標としている.保存的治療の適応と思われる症例でも1週間に一度X-Pをチェックすることが重要であり,転位を来す場合は,臨機応変に観血的整復に切り替える勇気を持つことを強調したい.

橈骨遠位端骨折の保存的治療法とその限界―特に不安定型骨折に対する保存的治療の限界症例について

著者: 佐々木孝

ページ範囲:P.1029 - P.1039

 要旨:橈骨遠位端骨折は,かつては変形治癒でも比較的予後のよい骨折と考えられており,特に高齢者においては変形治癒を許容する考えが主流であった.しかしながら,治癒後の形態と予後の間には密接な関係があることが知られるようになってきた.解剖学的形態に近い癒合を得るためには,骨折を安定型と不安定型に分類し,それぞれに適した治療法を用いることが肝要であり,安定型には外固定を行い,不安定型には外固定以外に固定法が必要であるという考え方が一般的なものとなってきている.しかしながら,患者側の諸条件(特に超高齢,痴呆)から治療に対する理解力がないなどの理由で,保存療法の限界に挑戦しなければならないような症例にも遭遇する.本稿では著者が行っている保存療法について記すとともに,本来保存療法の適応外であった症例に行われた保存療法の結果を示し,読者が今後の治療について考え行く上での一助としたい.

橈骨遠位端骨折の保存的治療法―高齢者ギプス固定の適応

著者: 佐久間雅之 ,   木野義武

ページ範囲:P.1041 - P.1048

 要旨:高齢者に発生した橈骨遠位端骨折では良好な整復位が得られているようにみえてもギプス固定のみでは整復保持は難しいことが多い.転位は固定後数日で起こりやすく,1週以内のX線による再確認が必要でいったん再転位が発生すると徐々に進行し,骨癒合時には受傷時とほぼ同程度まで転位することもある.再転位の可能性の診断には整復後の断層撮影,CT撮影が有用である.保存療法の適応は断層像,CT像で背側骨皮質の支持性が保たれており,骨髄内の骨の圧潰が少ない症例にとどめておくのがよく,他の症例では整復位が得られていても骨移植を適宜併用した経皮ピンニングや創外固定を選択すべきである.

橈骨遠位端骨折の保存的治療法―手関節背屈位ギプス

著者: 高畑智嗣

ページ範囲:P.1049 - P.1053

 要旨:背屈型の橈骨遠位端骨折(以下本骨折)に対する手関節背屈位ギプスの手技と成績を報告する.適応は掌側骨皮質の粉砕がなく,茎状突起骨折以外の尺骨骨折がない本骨折で,関節内骨折の場合は関節面の転位が小さい症例である.徒手整復では静脈内局所麻酔を用いて掌側骨皮質のズレもできるだけ整復する.前腕から手にプラスチックギプスを巻き,手関節を背屈し,手根骨背側部を圧迫して固定する.腫脹防止のために患肢の挙上と日常生活での使用を十分に指導して帰宅させる.ギプスは4週で除去する.本骨折38例(平均年齢62歳)を本法で治療した.Palmar tiltは初診時平均-20.8°が整復直後平均3.6°となり骨癒合後平均0.9°であった.骨癒合後に-10°未満の症例は5例であった.10週以上経過観察した31例の臨床成績はexcellentが20例,goodが11例であった.保存的治療法を改良し手技に熟練していくことで,変形治癒例や手術適応例を減らすことができると考える.

橈骨遠位端骨折後の変形治癒と機能的予後

著者: 西井幸信

ページ範囲:P.1055 - P.1060

 要旨:自験例をもとに保存的治療を行った高齢者における橈骨遠位端骨折後の変形治癒と自覚症状,機能障害について検討した.1994年1月から2001年12月までに当院で治療した160例のうち受傷年齢65歳以上の51例中,直接検診できた29例を対象とした.男性3例,女性26例,受傷時平均年齢は75.3歳(66~92歳),平均観察期間は1年6カ月(3カ月~4年9カ月).全例Colles骨折であった.最終診察時の単純X線正面像,側面像をもとにdorsal tilt,radial deviation,shortening(以下DT,RD,Sh)をそれぞれ計測した.自覚症状について疼痛,使い勝手,変形,腫脹,神経症状の5項目をそれぞれ3段階で評価した.その合計点で優,良,可,不可を定め,各群間でDT,RD,Shを比較検討した.関節可動域,握力を患側および健側で計測し,それぞれの患健側比についてDT,RD,Shとの関係を比較検討した.自覚症状の成績は良好であった.DTと関節可動域において相関関係を認めた.

高齢者の骨粗鬆症と橈骨遠位端骨折

著者: 進藤隆康 ,   徳永純一 ,   王寺享弘 ,   吉本隆昌 ,   小林晶 ,   松田和浩

ページ範囲:P.1061 - P.1065

 要旨:今回腰椎X線より判定した骨粗鬆症の程度が,橈骨遠位端骨折の骨折型と治療成績に与える影響を調査検討した.骨粗鬆症の進行につれて関節外骨折が多く,尺骨茎状突起骨折の合併が減少する傾向を認めた,受傷時の手関節にかかる力と方向,橈骨遠位端における背側骨皮質と関節面の骨強度の差TFCCの変性断裂などの関与が考えられた.骨粗鬆症の進行は,術後に骨折再転位を来しやすい傾向が認められた.特に受傷時の転位が強い例はその傾向が有意に認められた.治療法別の再転位は,徒手整復群が一番強く,次に経皮的キルシュナー鋼線刺入固定群,観血治療群の順に認められた.骨移植併用例が一番転位が少なかった.高齢者の場合転位,再転位に対し正確で強固な整復固定をすることも必要であるが,患者の活動性,骨粗鬆症の程度に応じた治療を行い,術後の疼痛・腫脹の管理・拘縮予防に対する処置を怠らないことも重要である.

論述

スノーボードによる第5中足骨骨折

著者: 東裕隆 ,   安田和則 ,   眞島任史 ,   青木喜満 ,   三浪明男

ページ範囲:P.1067 - P.1073

 抄録:1988年から9シーズンにわたり,スノーボードおよびスキーによる第5中足骨骨折について検討した.対象はニセコスキー場において,唯一の基幹病院を受診し本症と診断されたスノーボード外傷(以下,ボード群)17例およびスキー外傷(以下,スキー群)1例,計18例である.これらの症例に対し,retrospectiveに調査した.結果はボード群において有意に男性の占める割合が高く(65%),受傷側は左側が71%であり,経験年数3年目以内が94%であった.また,転倒方向に関してはフロントサイド24%,バックサイド76%であり,受傷側が右側の症例はフロントサイドへの転倒が多く,左側の症例は全例バックサイドへの転倒であった.骨折部位は,ボード群においてJones'骨折59%,骨幹部骨折35%,裂離骨折6%であった.第5中足骨骨折は,スノーボードにおいても比較的多く発生する外傷のひとつであり滑走技術の向上,安全教育,ビンディングの改良が急がれる.

大腿骨近位部骨折に対するAO Small Proximal Femoral Nail(Small PFN)の使用経験―他の髄内固定具との比較検討

著者: 久保晴司 ,   松原伸明 ,   山本晃裕 ,   松島真司

ページ範囲:P.1075 - P.1080

 抄録:近年,各種の髄内固定具が大腿骨近位部骨折の内固定材料として使用され,その有用性が報告されているが,術中術後の合併症の報告も多い.これらを考慮し,東洋人向けに考案されたAO small proximal femoral nail(以下small PFN)についての短期臨床成績を,これまでに発表された国内における他の髄内釘の臨床成績と比較検討した.
 諸家の報告によると,他の髄内釘の平均手術時間は52分,平均出血量は103.7g,平均荷重開始時期は12.3日である.Small PFN使用による自験例では,平均手術時間は54分と他の髄内釘と遜色なく,平均出血量は55.8g,平均荷重開始時期は7.6日と他の髄内釘に比べ良好な成績が得られた.また術後合併症である二次的骨幹部骨折については,他の髄内釘では2~11%に発生しているが,自験例では経験していない.以上のことからsmall PFNは大腿骨近位部骨折に有用であると思われた.

手術手技 私のくふう

大菱形中手関節症に対するセラミックボールの長期成績

著者: 政田和洋 ,   根本孝一 ,   尼子雅敏 ,   中島秀人

ページ範囲:P.1083 - P.1087

 抄録:Calandruccioらは1997年,球状のセラミックを用いた母指の大菱形中手関節(TMC関節)の形成術を発表した.われわれは,同様のセラミック製のインプラントを彼らより以前に独自に開発し,1991年から4例に対して手術を行った.今回は追跡が可能であった3例3指(外傷後の関節症1例,変形性関節症2例)の長期成績を報告する.男性,1例,女性,2例,手術時平均年齢は48.3歳,追跡期間は平均9年1カ月である.1例は術後2年で骨性強直を来したが他の2例は疼痛もなく可動域も良好であった.X線像ではインプラント周囲に骨硬化像が認められたが骨吸収や沈み込みはみられなかった.TMC関節症に対するセラミック製のインプラントを用いた関節形成術は良好な長期成績が期待できる.

シリーズ 関節鏡視下手術―最近の進歩

T-Fixによる関節内半月板修復術とその応用術としてのHybrid法

著者: 園田昌毅

ページ範囲:P.1089 - P.1093

 抄録:外側半月板損傷に対するT-Fixによる関節内修復術と,これを従来のInside out法による縫合と併用したHybrid法の手術手技と自験例の結果について検討した.自験例は6カ月以上経過観察できた9半月で,その内訳はT-Fixのみで修復したT-Fix群8半月,Hybrid群1半月であった.術後Lysholm scoreは,T-Fix群95.0,Hybrid群は1例のみで100であった.再鏡視しえたT-Fix群5半月のうち完全治癒4半月・不全治癒1半月であった.半月板修復においては,Inside out法による縫合がgold standardである.しかし,外側半月板後節に限局する損傷に対するT-Fixによる関節内修復術や,外側半月板中後節の損傷に対するT-FixとInside out法の併用(Hybrid法)は,安全な方法で安定した成績が得られるものと考えられた.

統計学/整形外科医が知っておきたい

5.多重比較―ANOVAの終焉?

著者: 小柳貴裕

ページ範囲:P.1095 - P.1099

 統計処理ではt検定やノンパラメトリック法など,20世紀前半に確立された方法が今なお主流である.また分散分析(analysis of variance=ANOVA)なる用語の登場する論文は現在でも枚挙に暇がない.しかし,コンピュータの進化などに伴い,前提や制限が徐々に緩和され,またFisherの提唱した尤度の概念の確立をベースに,多変量解析も判別や重回帰からロジスティック回帰や比例ハザードモデルへと流れが変わりつつある.しかし現在最も過渡期であると思われるのは,今回言及する多重比較であろう.僭越ではあるが,現代でも援用に混乱があることは否めない.統計パッケージは種々の手法が可能となっているが,どれを選択していいのかも当惑する.

境界領域/知っておきたい

創傷被覆材

著者: 鈴木茂彦

ページ範囲:P.1100 - P.1102

【はじめに】
 創傷被覆材は水分,電解質,栄養分などの漏出と細菌の侵入を防ぎ,痛みを和らげ,肉芽形成と上皮化を促進する目的で用いられる.創傷治癒の進行には湿潤状態が必須であることが明らかにされて以来,湿潤状態に保つための閉鎖包帯(オクルーシブドレッシング),半閉鎖包帯(セミオクルーシブドレッシング)が種々開発されている.オクルーシブドレッシングは主に合成材料からなり,セミオクルーシブドレッシングは生体材料(バイオロジカルドレッシング)や生体親和性繊維性ドレッシングなどからなる.またこれらを複合した材料,抗菌剤を組み込んだ材料も開発されている.さらにこれらの創傷被覆材から一歩進んだ材料として,人工真皮,培養表皮,培養皮膚なども開発されている(表).
 創傷の治療には,これらの創傷被覆材の特徴をよく理解して使用する必要がある.また外用剤との正しい使い分けも必要である2)

運動器の細胞/知っておきたい

Schwann細胞

著者: 斎藤治和

ページ範囲:P.1104 - P.1106

【はじめに】
 末梢神経系を構成する細胞は神経細胞とグリア細胞に大別される.Schwann細胞はグリア細胞に属しており,髄鞘を形成する細胞(myelin-forming Schwann cell)と髄鞘を形成しない細胞(non-myelin-forming Schwann cell)がある.両者は軸索の影響を受けて相互に変化することが報告されており,起源は同一で異なる表現型(phenotype)ではないかと考えられている.Schwann細胞の分化に関しては,いまだ十分に解明されていないことも少なくないが,近年はその過程が徐々に明らかにされつつあり,新たなphenotypeの可能性も指摘されている.本稿では,Schwann細胞の形態や機能について解説するとともに,Schwann細胞の分化に関する最近の知見も紹介する.

講座

専門医トレーニング講座―画像篇・56

著者: 北岡克彦

ページ範囲:P.1107 - P.1109

症例:22歳,男性
 主訴:右肩関節部腫脹,疼痛
 現病歴および現症:スノーボードで滑走中に転倒し,右肩部を雪面に強打し受傷した.肩鎖関節を中心に右肩関節部は腫脹し,疼痛のため肩関節の自動運動は著明に制限されていた.

整形外科Topics

The Bone and Joint Decade 2000-2010―『運動器の10年』の動向と運動器の意義

著者: 河合伸也

ページ範囲:P.1111 - P.1113

I.はじめに
 運動器(筋骨格系)の重要性がようやく脚光を浴びる時代になりました.20世紀は『がんの10年』や『脳の10年』でしたが,21世紀は『運動器の10年』から始まります.運動器の障害・外傷は個人的・社会的損失が大きいだけでなく,運動器が高いQOLを保持する役割を担っているという観点から運動器が見直されています.この観点において運動器に関連する専門職(殊に,整形外科医)の役割は大きいものがあります.

臨床経験

指神経欠損に後骨間神経終末枝を移植した3例

著者: 井上林 ,   荻野利彦 ,   土田浩之

ページ範囲:P.1115 - P.1117

 抄録:指神経欠損に対して後骨間神経終末枝を用いて神経移植術を行った3例を報告する.対象は男性2例,女性1例,年齢は18歳,28歳,31歳であった.受傷から手術までの期間は受傷翌日,3カ月後,1年後であった.移植部位は,右示指橈側,右環指橈側,左示指橈側の指神経であり,指神経の欠損長は1.0~1.5cmであった.後骨間神経終末枝を手関節背側より3~4cm採取し,神経上膜縫合にて移植した.術後経過観察期間は6カ月~1年であり,全例に満足すべき知覚の回復が得られた.後骨間神経終末枝は,採取後に皮膚の知覚脱失を生じないこと,同一術野で採取と移植が可能であるという利点があり,指神経欠損に対する移植材料として有用である.

関節リウマチの母指に対するThompson法

著者: 橋本英雄 ,   政田和洋 ,   安田匡孝 ,   竹内英二 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.1119 - P.1124

 抄録:関節リウマチ(RA)患者の大菱形中手骨(TMC)関節は亜脱臼や内転拘縮を合併していることが多いため,関節の安定性と同時に橈側外転,掌側外転の可動域を改善する必要がある.われわれは現在,Thompson法を用いて良好な成績を得ているのでその術式を紹介し,短期成績を報告する.Thompson法は大菱形骨を全切除した後,長母指外転筋(APL)の1本を停止部より7cm近位で切離し反転させ第1中手骨の基部橈側から関節面を通し,さらに第2中手骨に通して短橈側手根伸筋腱(ECRB)に縫着する術式である.疼痛は術前11例全例に認められたが,術後は9例で完全に消失し2例も軽減した.関節可動域は掌側外転が術前平均29.4~43.6°,橈側外転は術前平均17.7~34.1°と有意に改善した.本法はRA母指のTMC関節に対して除痛効果と内転拘縮の改善に優れた術式であった.

症例報告

外傷後12年経過し症状を呈した異物による膝関節障害の1例

著者: 大橋隆 ,   森雄二郎 ,   吉川浩二 ,   山下博樹

ページ範囲:P.1125 - P.1128

 抄録:膝関節に迷入した異物が,外傷後12年経過し障害を引き起こした1例を経験したので報告する.症例は33歳男性.2000年5月初旬より特に誘因なく左膝関節の腫脹,疼痛が出現し当科を初診した.既往歴として1988年に交通事故にて脳挫傷,顔面骨骨折,左膝蓋骨開放骨折で加療を受けている.初診時左膝には関節水腫,軽度の伸展制限を認め,McMurrey testでは外側にclickを触れることから,外側半月板損傷の疑いで関節鏡を施行した.外側半月板をプロービングしていたところ約3mmのガラス片を𦙾骨側の軟骨損傷部分に認め,これを摘出した.この部分と接触する面の大腿骨顆部にガラス片によって削られたものであると推測される溝状の軟骨損傷を認めた.受傷当時の記憶が定かでなく,画像所見においても確認できない場合,異物の診断には難渋することがあり,詳細な病歴の聴取が重要であると痛感させられた.

競輪選手における両膝蓋上隔壁障害の1例

著者: 光野芳樹 ,   廣藤栄一 ,   西松秀和 ,   近藤啓 ,   吉田憲治 ,   池田光正 ,   伊藤岳之

ページ範囲:P.1129 - P.1131

 抄録:膝関節腔内の隔壁,またはその遺残物である滑膜ヒダは時に膝関節痛の原因となる.今回われわれは,比較的稀な膝蓋上隔壁障害の1症例を経験した.症例は21歳男性で競輪学校生である.主訴は両膝関節痛(左側優位)である.術前,両側ともに膝蓋内側上部に圧痛を認めたが,圧痛部に一致した索状物,clickは認めなかった.1999年11月26日左膝関節,翌年1月18日に右膝関節鏡視下手術を施行し,膝蓋上隔壁切除を行った.両側ともに隔壁付着部に滑膜の増殖を認めた.左側の膝蓋上隔壁は膝蓋上包と膝蓋大腿関節を完全に隔てた完全隔壁であり,右側の膝蓋上隔壁は外側に一部穿孔を認めた.術後,両膝関節痛は消失し現在も再発していない.今回の疼痛の原因は,自転車をこぐという膝屈伸運動が繰り返され,隔壁に炎症,線維化が起こり緊張が強くなった結果,隔壁付着部に滑膜の増殖が起こったためと推測された.特に左膝関節では,完全隔壁であったことが,さらに隔壁の緊張を強くしていたものと思われた.

観血的整復を要した外傷性母趾IP関節背側脱臼の2例

著者: 柳橋寧 ,   石田博英 ,   渡辺隆洋

ページ範囲:P.1133 - P.1136

 抄録:徒手整復が困難で観血的整復術を必要とした母趾IP関節背側脱臼の2例を経験したので報告する.症例1は57歳の男性で,高所より転落した際に右母趾IP関節の背屈を強制され受傷した.X線像上母趾IP関節の背側脱臼を認めたため,徒手整復を試みるも整復されず観血的に整復した.症例2は25歳の男性で,自動車を運転中,ブレーキを踏んだ状態で壁に激突し受傷した.単純X線像にて右母趾IP関節の開大と小さな骨片が確認され,透視下に徒手整復を行ったが関節裂隙の開大は改善されず,観血的に脱臼を整復した.徒手整復が困難となる病態としては,一般にIP関節底側のplantar plateが,種子骨を伴って関節内に嵌頓するためと言われており,X線像上種子骨が確認されなくても,肉眼解剖では高率に存在することが報告されている.したがって,本外傷の治療には種子骨の有無にかかわらず観血的整復術を念頭に置くことが重要である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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