icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科38巻1号

2003年01月発行

雑誌目次

巻頭言

第76回日本整形外科学会学術集会を開催するにあたって

著者: 富田勝郎

ページ範囲:P.2 - P.3

 第76回日本整形外科学会学術集会を今年:平成15(2003)年5月22日(木)~25日(日)の4日間にわたり,金沢で開催させていただきますことを,金沢大学整形外科学教室・同門会一同,大変光栄に存じております.金沢での日整会は初代・高瀬武平教授が昭和47(1972)年に第45回を担当させていただきましてから30年ぶりのことですので,整形外科関係者はもちろんのこと,県,市からも力強い声援をいただきながら,鋭意準備にいそしんでいるところです.学会場はJR金沢駅に隣接する石川県立音楽堂と駅を要に広がるホテル群を中心として展開いたします.

 学会のスローガンは“Human Orthopaedics Now!”とさせていただきました.新世紀に入り,ゲノム医学をはじめとしてロボット技術応用医学にいたるまで,医学はまことに目覚しく発展し続けておりますが,それらに目を奪われがちな今こそ,本来の医療の原点である「人間らしさをみつめながらの整形外科医療」を求めた学術集会を皆さんの協力をいただいて展開していきたいと願っております.

論述

脊髄麻痺患者の下肢痙縮に対するくも膜下フェノールブロック

著者: 尾鷲和也 ,   鈴木聡 ,   佐本敏秋

ページ範囲:P.5 - P.12

 抄録:ADLに支障を来した下肢・体幹痙縮に対する痙性除去法として,歩行および自立排尿不能な脊髄麻痺患者7例にくも膜下フェノールブロックを行った.まず脊椎麻酔剤によるテストブロックで効果と膀胱直腸への影響を確認し,後日10%フェノール・グリセリンとイソビスト1:1混合液をくも膜下に片側につき1~4ml注入し,30分側臥位のまま固定した.髄膜刺激症状が1例みられた以外は治療を要する副作用は生じなかった.全例で痙性が消失し,ADL向上,痛み・しびれ感の軽減,自律神経反射の消失などがみられた.一方,問題点としては便秘傾向2例,移動時の軽度尿失禁2例,肛門括約筋弛緩による浣腸使用時の液漏れ1例などがみられた.下肢痙縮は2~24(平均9)カ月で再発し,患者の希望により5例で複数回のブロックを行った.本法は有期限という問題はあるが効果が確実かつ簡便で侵襲が少なく,痙性除去法のひとつとして広く試みられてよい.

腰痛・坐骨神経痛治療アルゴリズムの試み

著者: 勝尾信一 ,   林正岳 ,   水野勝則 ,   荒川仁 ,   高田秀夫 ,   内藤充啓

ページ範囲:P.13 - P.21

 抄録:腰椎変性疾患に対する治療方針は同じ病院の中でも各医師によって異なることがある.そこで入院中の治療の流れを1本化し,腰痛・坐骨神経治療アルゴリズムを作成した.アルゴリズム作成にあたっては2年間の入院患者の治療経過を検討し,その結果から治療方針を決定した.アルゴリズムは脊髄造影に始まり,その後には手術あるいは神経根造影・ブロックを行う.ブロックの効果判定の結果,効果があれば外泊しその後退院・手術あるいは再ブロックの選択となる.効果がなければ違う神経根造影・ブロックあるいは椎間板造影・ブロックか椎間関節ブロックを行う.さらにその後も効果によって次の方針が決まっており,最終的に退院・手術あるいは再検討に至るようになっている.アルゴリズムを使用して入院時の説明がよりわかりやすくなり,入院後もブロックや手術の受け入れがよくなってきている.

明らかなすべりのない椎間における腰椎の前後方向への椎体動揺性と臨床症状との関連

著者: 笠原孝一 ,   井口哲弘 ,   栗原章 ,   金村在哲 ,   赤浦潤也

ページ範囲:P.23 - P.30

 抄録:明らかな変性すべりがなく腰下肢症状を呈する810例の患者で,L4/5椎間におけるL4の前後方向への椎体動揺性をX線機能撮影を用いて調査し,動揺性の程度と臨床症状との関連について検討した.さらに椎体動揺性が症状の経時的な変化に及ぼす影響についても追跡調査を行った.その結果,明らかなすべりのない椎間では4mm以上の椎体動揺性を呈するものは3%しか認めなかった.臨床評価では,3mm以上の椎体動揺性を有する症例は,それ未満のものに比べて症状の改善が不良で日常生活の制限も強かった.また,3mm以上の椎体動揺性は,下肢症状のない場合には腰痛の増悪因子となり,下肢症状のある場合には臨床症状の回復阻害因子となっていた.したがって,初診時に明らかなすべりが認められなくても,3mm以上の動揺性を有する症例には予後をよく説明したうえで積極的な治療の介入が必要と思われた.

肩こりの病態―第2報:青壮年者と高齢者の比較

著者: 矢吹省司 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.31 - P.35

 抄録:青壮年者と高齢者の肩こりの特徴を明らかにすることを目的として,肩こりに関するアンケートを実施した.ある農村地区でアンケートを実施し,「肩こりあり」と回答した278例(全例女性)を本研究の対象とした.278例を60歳未満の青壮年群と60歳以上の高齢群の2群に分類した.17の検討項目について2群間で比較検討した.その結果,「青壮年群の肩こりの特徴」は,「常にあって,増悪は仕事の大変さと関連している.また,頭痛を代表とする様々な症状を合併していて,楽になる姿勢がない.治療は医療機関以外で受けていて,頚椎牽引が効果的である」というものであった.一方,「高齢群の肩こりの特徴」は,「家事や家庭の問題と関連し,高血圧や他科疾患を有している.治療は医療機関で受け,局所注射が効果的である」というものであった.何らかの形のストレスは,両群に共通した肩こり関与因子であった.

整形外科philosophy

骨肉腫研究から学んだこと

著者: 石井清一

ページ範囲:P.37 - P.41

●私と骨肉腫研究とのかかわり

 40年ほど前の1962年,私は島敬吾教授が主宰されていた北海道大学整形外科の大学院に入学した.教授室に挨拶にうかがったその場で,骨腫瘍を研究テーマにするように申し渡された.その数年前に松野誠夫助教授は米国留学から帰国されており,わが国では新しい分野に属する骨腫瘍の研究に着手しておられた.自分の研究テーマができたことで,学生時代とは違う自分になったような気がして,心にときめきを感じたのを想い出す.

 私が骨腫瘍の研究を始めた頃は,腫瘍学全体が活気に満ち,そのなかで色々な分野が動き出しているのをひしひしと感じた時代であった.ワトソンとクリックが,20世紀最大の発見といわれるDNAの二重らせん構造を発見したのは1953年である.腫瘍学における分子生物学が黎明期を迎えようとしていた.染色体を中心とした細胞遺伝学,それに腫瘍免疫学の分野では,腫瘍に対するこれまでの認識を新たにする新事実が次々に発見されていた.

専門分野/この1年の進歩

日本骨折治療学会─この1年の進歩

著者: 森久喜八郎

ページ範囲:P.42 - P.44

 本学会は整形外科の根幹を扱う分野であり,かつまた臨床に直結する問題を討論,研究するゆえに1978年に骨折研究会として発足しましたが,年々急速に発展の一途を辿り,1982年からは日本骨折研究会となり,さらに1995年に日本骨折治療学会と改称し今日に至りました.会員数も毎年増加し,既に2,500名を超える大学会に成長いたしました.近年は,世界各国からの特別講演も行われ,また中国,韓国,台湾などからの参会も行われるようになりました.

 本年度の第28回日本骨折治療学会は7月12・13日の2日間にわたりホテルニューオータニ博多と電気ホールで開催し,特別講演を含めて277題の演題発表が行われ,参加者も約1,200名ありました.この1年の進歩といえるかわかりませんが,今回の学会からいくつかの話題を取り上げて紹介いたします.

国際学会印象記

『国際足の外科学会』について

著者: 高倉義典

ページ範囲:P.46 - P.47

 国際足の外科学会は1956年にフランスのDr. LeLievreと数名のヨーロッパの整形外科医によって創設されたCIP(College International de Podologie)がその基盤になっている.1996年に英国のMr. HelalがCIPのPresidentになった際に,彼が提唱して,米国の足の外科学会(American Orthopaedic Foot and Ankle Society)の当時のPresidentであったDr. Sammarco,CIPのPresident electの私やGeneral secretaryのDr. Andersonらが中心となって,北米を含めた新しい国際足の外科学会(International Federation of Foot and Ankle Societies,IFFAS)が3年間にわたって討議された後に設立された.また,1999年に京都で開催されることになった第20回のCIP総会を第1回のIFFASの学会にすることが決定された.

 京都学会は鈴木良平長崎大学名誉教授の会長のもと,24カ国から300名を越える参加者があり,アジアで初めて開催される国際足の外科学会として盛大に開催された.学会終了日に第1回のIFFASの理事会が開かれ,新しいIFFASの初代のPresidentに私が選出され,役員としてPresident electにDr. Coughlin(USA),General secretaryにDr. Simonovich(Argentina),TreasureにProf. Dereymaeker(Bergium)がそれぞれ決定された.

『側弯症学会(Scoliosis Research Society)』に参加して

著者: 平泉裕

ページ範囲:P.48 - P.49

 2002年9月17~21日の期間,米国シアトルにおいてDennis Drummond会長(図1)のもと,第37回側弯症学会(Scoliosis Research Society)が開催された.本学会は37年前に北米中心に脊柱変形治療の専門学会として発足した由緒ある学会であるが,現在では側弯症以外の脊椎関連演題も採用され,基礎,疫学,臨床を網羅した総合的学会となっている.現会員数は635名でほぼ全世界から会員を受け入れており,日本人会員は20名である.3年に1度は北米以外で開催され国際学会の形態をとっている.

 今回,日本からは竹光,金田両名誉教授以下,私を加えて約30名が参加した.昨年の本学会はワールドトレードセンターテロ直後で,日本から10名しか参加せず,演者不在で座長が抄録を代読した寂しさから一変して大盛況であった.本学会は一会場口演方式(図2)をとっているため口演86題と採用率が非常に厳しいなか,日本からは北海道大学グループから4題,千葉大学グループから1題が採用された.他にポスター72題,電子ポスター55題,ビデオ演題5題も展示された.

講座

専門医トレーニング講座―画像篇・60

著者: 野村栄貴

ページ範囲:P.51 - P.54

症例:18歳,女性

 主訴:右膝関節の腫脹と疼痛

 現病歴:バトンの練習中,ターン動作で右足を軸に左に捻った瞬間に膝ががくっとなり倒れた.しばらく動けなかったが,なんとか歩行可能となり帰宅した.夜に膝の腫脹と痛みが強くなり翌日近医を受診した.関節内血腫30ml(脂肪滴+),さらには翌日にも関節内血腫55mlを排血したため,精査目的にて当科を紹介された.

 初診時現症:膝蓋跳動(+),膝関節可動域は痛みのため0~90°に制限されていた.大腿骨内側上顆部と膝蓋骨内側縁に圧痛を認めた.膝関節内外反動揺性(-),Lachmanテスト(-),Anterior drawer test,Jerk test,rotatory friction testは痛みのため検査不可であった.Patellar hypermobility(+),patellar apprehension sign(+)であった.

整形外科/知ってるつもり

深部静脈血栓症と急性肺動脈塞栓症

著者: 髙木理彰 ,   松田雅彦 ,   清重佳郎

ページ範囲:P.56 - P.58

【はじめに】

 エコノミークラス症候群として広く知られるようになった深部静脈血栓症(deep venous thrombosis;DVT)は,主として下肢や骨盤内の深部静脈にできる血栓による灌流障害で,さらに血栓が剝離して肺動脈を塞栓すると急性肺動脈塞栓症(acute pulmonary embolism;APE)の原因となります.整形外科領域でも脊椎・骨盤・下肢の手術侵襲や長期臥床が誘因となって少なからずDVTが発生することがわかってきました.APEは,発症から短時間のうちに致死的な転帰をとることもある救急疾患であり,DVT/APEに関しては病態のみならず,診断から治療に至る流れを知っておくことが大切で,その概略を述べたいと思います.

境界領域/知っておきたい

内軟骨性骨化とレプチン

著者: 久米景子 ,   里村一人

ページ範囲:P.60 - P.63

【はじめに】

 近年,抗肥満ホルモンであるレプチンが本来の肥満抑制という作用以外に造血,胎児の成長,生殖機能などの調節にも関与するなど,極めて多彩な生理的作用を有していることが明らかになりつつある.本章では,成長期における骨形成,特に内軟骨性骨化におけるレプチンの役割についてのわれわれの知見2,3)を紹介するとともに,整形外科領域に関係すると考えられる今後の研究の方向性について概説する.

連載 医療の国際化 開発国からの情報発信

世界を繋ぐ草の根の国際協力―(2)東チモールでのこと

著者: 小原安喜子

ページ範囲:P.64 - P.66

 1993年の或る日,一面識もないシスターからお便りが届いた.内容は1994年夏の,東チモール・フィールド・ワーク参加への呼びかけだった.今日でこそ,東チモールといえば2002年に独立した旧ポルトガル植民地で,1975年以来インドネシアが武力併合を強行し支配していたこと,オーストラリアの北にあるチモール島の東半分を占める国だ,程度のことは常識になっている.その当時の私は,世界地図にその名を探しあぐね,知っていそうな人に電話で尋ねた.何故私に誘いかけがきたのかを訝りながら読んでみると,旧い時代,日本のハンセン病医療に働かれた3人の先輩女医の方々の御紹介と書かれてあった.打ち合わせ会に行き,そのグループは1992年,多くの住民が犠牲になったサンタクルス事件前後から,人道支援として農業,教育,医療の分野で支援を始めているグループであると知った.フィールドの或る地域でハンセン病の診療に関わっているインドネシア人ワーカーから,ハンセン病診療施設の建設支援を求められたが,必要の実態と,もし必要性が高ければ,グループの実力としてどこまで支援するのが妥当かの判断を頼みたいとのことだった.そしてチームに医師が少ないのでその協力もしてほしいということだった.

 グループはカトリック系の専門学校を拠点に様々の思想・信条・職種の人々,学生が集っていた.化学系の大学を出て分析を専門にしていた人が農業グループで活躍していたり,社会福祉系の大学を出てからフィールド・ワークをめざして看護を修め,さらにアメリカ留学をしたという女性,カトリックの司祭,シスター等々.東チモールについてのグループ学習や,チームの活動計画を立てるなど準備をし,1994年,夏休みで活動に参加する学生たちと一緒に出かけた.バリ島のデンパサールに一泊し,東チモールの現主都ディリに飛んだ.厳重な管制が敷かれていることは聞いていたし,1965年台湾に派遣されたときや,1972年韓国入りしたとき程度かと思っていたが,インドネシア政府の管制はさらに厳しかった.1994年から1998年秋までに8回程往復し,長いときは4週間近いフィールド滞在だった.

整形外科と蘭學・2

奥平昌鹿と母親の骨折

著者: 川嶌眞人

ページ範囲:P.68 - P.69

 筆者はたまたま中津市にある福澤諭吉の家のすぐ裏で生まれ,姉とともに諭吉の家を掃除しながら育ったので,諭吉がどうして慶應義塾を開設したり,欧米の文化を次々と紹介したりしたのか幼い頃から知りたかった.小学校に通うようになって初めて子供向けの『福翁自伝』を読み,諭吉が長崎や大阪の適塾でオランダ語を学んだことを知った.諭吉は適塾で蘭学をみっちりと学び,安政5(1858)年に江戸の中津藩中屋敷(現在の聖路加病院付近)に蘭学塾を開くときには,江戸の人たちに蘭学を教えられる自信に満ちていたと述べている.諭吉の脳裏にいつも焼きついていたのは,同じ中津藩の先輩で蘭学の鼻祖とも呼ばれる前野良沢のことである.明和8(1771)年,前野良沢たちが骨ヶ原で解剖を行い,翌日から『ターヘル・アナトミア』の翻訳を開始した場所も築地の中津藩中屋敷である.諭吉の蘭学塾はやがて慶應義塾へと発展し,オランダ語に見切りをつけて,英語を中心とした学問と文化の発展に貢献することになるのであるから,中津藩は蘭学の開始から発展,終焉に至るまでに大きな影響を与えたことになる.

 諭吉は杉田玄白の著した『蘭学事始』を明治2(1859)年に再版し,大槻玄沢追悼50回忌の中でも,蘭学を創始した前野良沢,杉田玄白たち先人の労苦は涙無しには語れないと述べている.

臨床経験

一期的両側人工膝関節置換術と二期的両側人工膝関節置換術の比較検討

著者: 小島博嗣 ,   原田基 ,   山崎悟 ,   玉置哲也

ページ範囲:P.71 - P.74

 抄録:変形性膝関節症ならびに関節リウマチの症例のなかには変形や骨破壊が高度なもので両側罹患例がある.従来は二期的に両側人工膝関節置換術が行われていた.今回,両側罹患例に対して一期的両側人工膝関節置換術を施行し,その術後成績,その他問題点について二期的両側手術法と比較検討を行った.対象は一期的両側手術例14例,二期的両側手術例10例である.JOAスコアにて術後成績を評価し,入院期間,後療法期間,手術時間,麻酔時間,出血量,輸血量,平均診療報酬について調べた.その結果,術後成績,手術時間,麻酔時間,出血量,輸血量は有意な差は認められなかったが,入院期間ならびに後療法期間の短縮,平均診療報酬の軽減については有意な差が認められた.以上より一期的両側人工膝関節置換術は両膝罹患例には有用な方法であると考えられた.

多発性神経鞘腫4例の治療経験と本邦報告例の検討

著者: 高橋勇次 ,   守屋秀繁 ,   六角智之

ページ範囲:P.75 - P.80

 抄録:神経鞘腫は一般に単発性であり,多発することは神経線維腫症(NF)に合併する場合を除き稀であるとされているが,近年,末梢神経や脊髄神経系に発生し,いわゆるNFとは異なる病態を示す多発性神経鞘腫の報告例が多くみられるようになってきた.今回われわれは,本邦において1964年から1998年まで医学中央雑誌に掲載され,“多発性神経鞘腫”と題された論文,抄録120例のうちNFとは異なる病状を呈したもの85例に自験例4例を加えた89例を対象とし,検討を行った.臨床的に,発生する神経が同一か否かという異所性の有無と,個々の腫瘍が臨床的に発見された時期に時間差があるかどうかという異時性の有無について分類した.文献による報告例では85例中57例が,自験例では4例すべてが異時性,異所性のいずれかを認めた.日常診療において神経鞘腫に遭遇した場合,多発性であることを念頭に置き,注意深く診察を行うべきと考える.

症例報告

Retropharyngeal tendinitisの1例

著者: 江川雅章 ,   西脇聖一 ,   松末吉隆

ページ範囲:P.81 - P.83

 抄録:軟部組織の石灰沈着は,一般に激しい疼痛と運動制限を伴い,日常診療上は,肩,肘,股関節周囲に多くみられ,それ以外の部位では珍しい.今回,retropharyngeal tendinitisの1例を経験したので報告する.症例は42歳女性で,主訴は項部痛と嚥下痛である.頚部単純X線の側面像にてretropharyngeal spaceが8mmと拡大し,環椎前弓直下に淡い卵円状の石灰化陰影を認めた.CT像では,環椎,軸椎のレベルで前方に石灰化を認めた.以上よりretropharyngeal tendinitisと診断した.局所安静と非ステロイド系消炎鎮痛剤で症状は軽快し,単純X線像でもretropharyngeal spaceは正常化した.

肘頭血管腫の1例

著者: 杉本義久 ,   藤田享介

ページ範囲:P.85 - P.88

 抄録:長幹骨に発生する骨血管腫の報告は少ない.なかでも非常に稀な肘頭に発生した血管腫を経験したので報告する.症例は18歳男性.腕相撲の際に右肘関節痛を生じ来院した.X線像にて肘頭に孤立性の骨透亮像を認めた.MRIではT1強調像にて等信号,T2強調像にて高信号であった.CTでは皮質は保たれていたが,内部に石灰化を認めた.経過観察にて疼痛は消失したが,画像上異常陰影が残存しているため,確定診断と病的骨折の予防目的に手術を施行した.病変部は暗赤色で非常に硬く,境界が不明瞭なため可及的に掻爬し,リン酸カルシウムの充填を行った.病理診断は海綿状血管腫であった.本症例は腫瘍が正常骨髄に置き換わるように浸潤していたため,非常に硬く,T1強調像にて信号が低下していたものと考えられた.

大腿四頭筋腱皮下断裂の1例

著者: 韋明範 ,   萩原雅司

ページ範囲:P.89 - P.92

 抄録:比較的稀な大腿四頭筋腱皮下断裂の1例を経験した.症例は60歳,男性,肥満体.2001年8月7日,階段を踏み外し受傷.左膝の疼痛,歩行困難のため翌日初診.左膝の腫脹が強く,膝蓋跳動と膝蓋骨上部の陥凹を認め,関節可動域は自動運動で30~60°と制限されていた.MRIで,大腿四頭筋腱の断裂を認めたため,同年8月31日左大腿四頭筋腱縫合術および補強術を施行した.大腿四頭筋腱は膝蓋骨付着部で断裂し,断裂部をパナロックアンカーにて縫合後,冨士川法でLeeds-Keio人工靱帯を用いて補強した.術後14週で,可動域は0~120°,自動完全伸展可能となった.本症例は,素因として肥満,加齢が存在し,介達外力により膝伸展位での屈曲を強制されて受傷したと考えられた.

非定型抗酸菌(Mycobacterium abscessus)による有鉤骨骨髄炎の1例

著者: 光野芳樹 ,   廣藤栄一 ,   西松秀和 ,   近藤啓 ,   吉田憲治 ,   池田光正 ,   伊藤岳之 ,   長坂陽子

ページ範囲:P.93 - P.96

 抄録:症例は57歳男性.当院神経内科で重症筋無力症に対し,ステロイド,免疫抑制剤の投与を受けていた.主訴は右手背部の疼痛であった.2000年10月11日当科初診.抗生剤内服にて経過観察するものの徐々に症状が増悪してきた.外来での穿刺および切開排膿による培養検査所見,X線所見にてMycobacterium abscessusによる右有鉤骨骨髄炎と考え2001年2月20日病巣郭清術を施行した.有鉤骨の部位に一致した病的肉芽組織が認められた.病的肉芽組織の郭清,有鉤骨をほぼ一塊として摘出した.摘出標本による培養検査にてもM. abscessusと同定された.以上よりステロイド,免疫抑制剤の服用による免疫能低下症例に発生したM. abscessusによる右有鉤骨骨髄炎と考え,イミペネムの留置チューブからの局所注入,および点滴静注を行い炎症症状は軽快した.重症筋無力症の合併のため抗菌剤の内服投与は行っていないが,幸い現在のところ感染の再燃は認められていない.

サルモネラ菌による小児踵骨骨髄炎の1例

著者: 白石元 ,   海永泰男 ,   高野信一

ページ範囲:P.97 - P.99

 抄録:サルモネラ菌による小児踵骨骨髄炎の1例を経験した.11歳の男児で,発熱に続いて右踵部痛が出現した.初診時,右踵部に炎症所見を認めたが,単純X線像では異常を認めなかった.抗生剤によって軽快したが,2年後に再発した.単純X線像で骨透亮像を認め,病巣掻爬,洗浄および抗生剤の投与を行った.術中の膿の培養よりサルモネラ菌O7群を検出した.小児の踵部痛は日常診療で頻度の高いもので,踵骨骨端症,アキレス腱周囲炎,捻挫,打撲などが多いが,稀にこの症例のように血行性の踵骨骨髄炎であることもあり注意が必要である.

後頭骨-胸椎固定術を要した透析性脊椎症頚椎病変の1例

著者: 蔭山敬久 ,   李一浩 ,   夫徳秀 ,   横山浩 ,   青木康夫 ,   荒川晃 ,   釜江清矢 ,   李潤基 ,   足立克 ,   岩田康男 ,   圓尾宗司

ページ範囲:P.101 - P.105

 抄録:長期透析患者にみられる透析性脊椎症は,本邦において近年多くの報告がある.Poor riskの患者に対する手術法の選択は慎重に行うべきであるが,われわれは軸椎に巨大骨嚢腫,C3~C5両側外側塊部に多発性の骨嚢腫を合併した症例に対し後頭骨-胸椎固定術を施行した.症例は,23年の透析歴を有する70歳男性で,単純X線像ではC4椎体前方すべり,MRI像ではC3/4,C4/5レベルに軸椎下病変,CT-MPR(multiplanar reconstruction)像では軸椎体部に巨大骨嚢腫,環椎・軸椎右外側塊部およびC3~C5の両側外側塊部に多発性の骨嚢腫を認めた.C3/4,C4/5レベルの軸椎下病変に対し後方除圧術を行った.Three columnにおよぶ軸椎巨大骨嚢腫は,切迫骨折の可能性があり,poor riskな患者に再手術が困難なことより,Olerud cervical systemを用いた後頭骨-胸椎固定術を併用した.日本整形外科学会頚髄症治療判定基準(以下JOAスコア)は,14点満点中(膀胱機能3点を除く)術前2.5点から術後7.5点に改善した.

大腿骨遠位後十字靱帯付着部に発生した軟骨芽細胞腫の1例

著者: 鈴木孝治 ,   葛城良成 ,   川村大介 ,   片山直行 ,   三浪三千男 ,   松野誠夫 ,   松野丈夫

ページ範囲:P.107 - P.111

 抄録:大腿骨遠位後十字靱帯付着部に発生した軟骨芽細胞腫の1例を経験したので報告する.症例は24歳,男性.2001年4月頃より誘因なく,左膝最大屈曲時に痛みを感じた.単純X線像で大腿骨骨端部内顆外側に円形の溶骨性病変を,CTで斑点状の高輝度像を,MRIではT1,T2で低信号部に中等度信号を認めた.腫瘍の増大の可能性,確定診断のため関節切開による手術を行った.PCLの機能を障害しないように腫瘍を掻爬し,リン酸カルシウム骨ペーストを充塡した.病理所見では軟骨芽細胞腫に特徴的な円形~卵円形の核を有し,好酸性の胞体をもつ境界明瞭な腫瘍細胞やchicken-wire calcificationが認められた.骨欠損部分の充塡材料としてのリン酸カルシウムペーストは移植骨,人工材料に比べ様々な利点を有する.荷重部に使用するには異論もあると思われるが,本症例のように非荷重部への利用は有用であると思われた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら