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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科38巻10号

2003年10月発行

雑誌目次

視座

日本整形外科学会認定「脊椎脊髄病医」制定に思う

著者: 宗田大

ページ範囲:P.1237 - P.1238

 2003年5月に金沢で開催された第76回日本整形外科学会学術総会の前日,日整会代議員会が開催された.そこでいわば緊急議題として「日整会認定脊椎脊髄病医」の制定が決定した.近年の日整会執行部の柔軟で実行力のある一面を見せた決定であった一方,また「認定医」を増やすのか,という率直な疑問がわいてくる.いままでのリウマチ医もスポーツ医も正直な話,役に立っていない肩書きである.リウマチ医はリウマチ学会のリウマチ医がより重みを持ち,スポーツ医も日本体育協会の認定医が幅を利かせている現状である.それはなぜか? リウマチ医もスポーツ医もその制度を実際に生かすために,対象であるリウマチ患者やスポーツマンに浸透するようなアピールに欠けているからである.

 「脊椎脊髄病医」も他学会のそれへの対抗策のようである.対抗しないよりもましかもしれない.しかし再び患者にアピールできない認定医にとどまれば「認定医」自体の意義が問われる.また患者にとって「日本整形外科学会」認定医であることがわからなければ,「認定医」のみが強調され,「日整会」のもくろみが成功するとは思えない.日整会として大切なことは,整形外科を訪れた脊椎脊髄障害患者の大多数が,保存的治療により早期に満足できる状態に復帰できるような,日整会の整形外科医全員に対する技術と心がけの教育を徹底することである.患者に「整形外科にかかれば手術をせずに,たいていはよくなる」という社会的な常識を植えつけることである.整形外科医に必要なことは,手術を必要としない患者に対し,自らが「運動器疾患」の専門医としての自覚を持ち,正しい判断と早期の効果的な治療を下せることである.同時に手術を要する少数の患者を適切に見極め,患者に十分な説明をし,安心して任せられる脊椎脊髄手術の専門病院を紹介することである.

シンポジウム 整形外科医療におけるリスクマネジメント

緒言―整形外科医療におけるリスクマネジメントの重要性 フリーアクセス

著者: 中村茂

ページ範囲:P.1240 - P.1242

 筆者が数年前にアメリカ整形外科学会に参加したときのことである.人工股関節関連の会場で大きなカラーのポスターが目にとまった.そのポスターは殿部を外側から見たイラストであり,サインペンのようなもので“Sign your site!”と大きく皮膚に文字が書かれていた.はじめは何のことかわからなかったが,wrong site surgery,すなわち左右間違えて反対側の股関節にメスを入れてしまうという「予想もしない誤り」を予防するための方法であった.このような「予想もしない誤り」を確実に予防することがリスクマネジメントの第一歩である.

 一般的に,リスクマネジメントには大規模災害時の対応なども含まれるが,この誌上シンポジウムでは,日常診療における医療事故の予防,分析,対応上の問題に限って取り上げてある.本論文では総論的な問題を個人的な意見とともに述べる.

特定機能病院(大学病院)における危機管理体制の問題点

著者: 青木治人

ページ範囲:P.1243 - P.1246

 要旨:大学病院を主とする特定機能病院では様々な医療事故に対する危機管理体制の整備が求められている.2000年(平成12年)に特定機能病院に整備が義務付けられた安全管理体制について,日本整形外科学会医事紛争調査委員会(当時)が行ったアンケート調査では,その対応は必ずしも十分ではないことが明らかであった.また厚生労働省に届けられたインシデント,アクシデント報告例の数も大学により大きく異なり,報告基準の統一の困難さが示された.一方,報告元をみてみると,各大学で違いはあるものの,医師以外からの報告が多かった.平成12年度厚生科学特別事業の研究報告では,医療事故防止にあたっては,医療保険上の支援に加え,病院長の専任化,病院長の人事権の強化,人的資源の確保,および医療行為の基準化,などの必要性が報告されている.

手術をめぐるリスクマネジメント

著者: 最首俊夫

ページ範囲:P.1247 - P.1252

 抄録:手術をめぐるリスクマネジメントとして,医療事故,リスクマネジメントの体制,具体的なリスクマネジメント,医療現場での業務見直しについて,主に東北大学医学部附属病院での経験に基づき言及した.手術をめぐっては,患者誤認,手術部位間違い,薬品誤投与,針刺し事故,異物遺残,神経損傷,皮膚損傷,輸血事故,ME機器トラブル,手術部位感染などの医療事故を回避しなければならない.医療現場では,問題点の把握,システムの改善など,チーム医療として最大限の努力を行う必要がある.しかし,実際の医療現場では,まだ完全なシステムでない印象がある.今後は病院全体でリスクマネジメントに取り組み,誰でもわかりやすく,間違いがなく無駄のないシステムを構築する必要がある.

輸血をめぐるリスクマネジメント―87件の輸血関連事例からの考察

著者: 田崎哲典

ページ範囲:P.1253 - P.1258

 抄録:生物由来製剤である輸血用血液には様々な不可避的副作用が潜んでいる.輸血はリスク以上にベネフィットが優ると判断され,かつ患者の同意を得て行われる.一方,輸血を準備・実施する過程で生ずる人為的ミスは回避可能なリスクである.当院の過去3年間の輸血関連インシデント・アクシデントからは,その約70%が血液型誤記などのいわゆる事務的エラーであり,確認不足,思い込み,自己判断の誤りなどが原因であった.当事者としては実際の輸血に携わる機会の多い看護師が約40%で,病棟で発生していた.発生時間帯に関し,異型輸血の場合は人手薄の定時外・緊急時に多いとの報告があるが,今回の事例では過半数が日勤帯で発生していた.「ヒトは過ちを犯す」ことを前提に,最近は輸血検査の自動化,バーコード照合システムの導入などが叫ばれているが,先ずは検査技師による24時間体制の確立が望まれる.実際の輸血に際しては輸血に内在する問題を認識し適正な輸血療法に心がけること,インフォームド・コンセントを実施すること,声を出し合い複数人で確認すること,一患者ごとの輸血,輸血後5/15分観察などの基本が重要である.

医薬品をめぐるリスクマネジメント

著者: 土屋文人

ページ範囲:P.1259 - P.1264

 抄録:医薬品をめぐる医療事故やヒヤリ・ハット事例が多数報告されている.本稿では,これらの実例を紹介するとともに,その対策を検討する.これらを防止するために,行政においてもさまざまな対策が打ち出されているが,医療機関単独で解決をはかることが可能なものも多数存在する.そのためには,従来の利便性中心の考えから,使用の安全を重視した観点での採用薬見直しが必要である.また,精神論的な防止対策としないためには,人間工学的研究など,ヒューマンエラーを防止するための研究も必要である.

整形外科におけるインシデントレポートの活用

著者: 山崎隆志

ページ範囲:P.1265 - P.1270

 抄録:1996年8月以降に整形外科医が提出したインシデントレポート(IR)238件を検討した.これは全医師が提出したIRの44%に相当し,整形外科が事故防止に積極的に取り組んでいることを示していた.インシデントの原因としては能力,知識不足,安易な判断などの医師の個人的資質によるものが60%を占め,医師の事故防止に対するモチベーションを高めることが重要と思われた.また,インシデントをアクシデントに至らせないためには,コメディカルとの良好な関係,病院や科のシステムの改善が必要であり,システム変更に繋がったケースが38件あった.IRにより医療に内在する問題点が顕在化し,大きな事故防止だけでなく,医療の質の改善にも有用であった.しかし,恣意的に定義したアクシデントの件数は経年的に減少することはなく,事故防止活動の困難さが実感された.

総説

骨肉腫予後と血管新生―新たな治療戦略の開発に向けて

著者: 加谷光規 ,   和田卓郎 ,   名越智 ,   川口哲 ,   山下敏彦 ,   平賀博明 ,   井須和男 ,   石井清一

ページ範囲:P.1273 - P.1279

はじめに

 近年の化学療法の導入と,外科的手術手技の進歩により骨肉腫患者の機能的予後,あるいは生命予後は劇的に改善した.その一方,約40%の骨肉腫患者は原発巣の根治手術後に肺転移が生じ予後不良な経過をたどる.肺転移が生じた場合には化学療法剤に対して抵抗性を示すことが多く,その制御ははなはだ困難となる.骨肉腫の予後をさらに向上させるためには,①原発巣に対する根治手術後に肺転移巣が出現しやすい骨肉腫患者を明らかにすること,②原発巣根治手術後に肺転移巣が発現増大する機序を明らかにすることが問題解決への糸口を与えることになる.

 Folkmanら6)が癌の増殖や転移巣形成の際の血管新生の重要性を提唱して以来,胃癌,食道癌,子宮癌,腎癌など様々の癌腫で増殖と進展における血管新生の関与が研究されている.1998年以来,われわれも骨肉腫肺転移成立に血管新生が関与しているとの仮説を立てて研究を行ってきた.現在までに明らかになった知見をふまえ,骨肉腫肺転移成立における血管新生の役割を解説し,骨肉腫に対する新たな治療戦略を考えてみたい.

論述

腰椎椎間板ヘルニアに対するMETRx systemを用いたmicro-discectomyの短期成績―同一術者によるLove法との比較検討

著者: 藤田拓也 ,   奥田鉄人 ,   細川栄隆 ,   波多野栄重 ,   松本忠美

ページ範囲:P.1281 - P.1286

 抄録:腰椎椎間板ヘルニア症例に対して,METRx micro-discectomy(METRx MD)と従来のLove法との結果を比較し,本術式の低侵襲性およびその有用性を検討した.同一術者がMETRx MDを行った連続する19例および,Love法を行った連続する17例を対象にした.結果は手術時間はMETRx MDで平均65分,Love法で平均68分とまったく有意差を認めず,さらにMETRx MD導入初期の10例に限ってみても,平均66分とLove法と有意差を認めなかった.また術後6カ月のJOAスコア改善率もそれぞれ86.6%,82.7%とまったく両群間に有意差を認めなかった.一方,術後のジクロフェナック座薬使用個数はMETRx MDが有意に少なく,また血液データでも術後1週のCRP値は有意にMETRx MDで低値を呈した.以上より,METRx MDは低侵襲であり,非常に有用な術式と結論できた.

変形性股関節症に対するオマリー変法筋解離術の長期成績

著者: 藤井克之 ,   大谷卓也

ページ範囲:P.1287 - P.1293

 抄録:教室における変形性股関節症に対するオマリー変法筋解離術90例93関節の術後平均20年の長期成績を検討した.約7割の症例では術直後ないし1年以内に明らかな除痛効果が得られ,術後平均14年頃から疼痛の再発傾向が認められた.約2割の症例では術後約5年の経過で徐々に疼痛が軽減したが,その後の疼痛の再発傾向は少なかった.約1割の症例では明らかな除痛効果は得られなかった.THAなど追加手術を受けた時点を終点とした生存曲線では,術後10年,20年における生存率は90%,71%で,追加手術を受けていない症例の術後平均20年におけるJOAスコアは72点であった.術後,疼痛点は経過年数に,また,歩行能力とADL点は加齢にそれぞれ相関して徐々に低下する傾向がみられた.筋解離術は変形性股関節症に対する他の関節温存手術の成績と比較して遜色ない長期成績を示し,その手術侵襲が小さいことからも有用性の高い術式と思われる.

統計学/整形外科医が知っておきたい

9.メタ分析―臨床研究の統合

著者: 小柳貴裕

ページ範囲:P.1295 - P.1301

◆データの統合と意義と整形外科での現状

 メタアナリシスは,同じテーマの独立した研究データを統計学的にまとめ,一定の見解を得ようとするものである.当初,心理学,教育学でのreviewの主観を排除する目的で唱えられたものだという2).臨床統計の巨人Petoがβblockerの心筋梗塞後の死亡リスク予防効果を統合してから急速に臨床医学でも普及しつつあり,いまやEBMの根幹をなすものといっても過言でない.Controversialな治療法の優劣を客観的に知りたいとき,あるいは最終的に同じ成績なら治癒までの期間や副作用はどうかといったことがその好対象となる.しかし整形外科領域ではいまだに市民権を得たとは言い難い.その論拠としてBhandariら1)は,整形外科領域ではいまだRCTが可能なテーマが限られるためかその数が少なく,またRCTのみならず,観察的研究が統合されていること,とくにfracture treatmentなどではthrombosisの診断や薬剤の効果に比べてrandomizationが困難なことにより,バイアスの回避が難しく,それぞれの研究の不偏性―quality scoreが内科領域の研究におけるそれより小さくなるためである,としている.

最新基礎科学/知っておきたい

VEGF(vascular endothelial growth factor)

著者: 榎本宏之

ページ範囲:P.1304 - P.1307

 VEGF(vascular endothelial growth factor)は血管内皮細胞へ比較的特異的に作用し,増殖促進作用と走化作用によって血管新生を促進する成長因子である.血管新生は胎児の器官発生や創傷治癒の過程に必須であるが,一方で関節リウマチ,糖尿病性網膜症や癌の転移においても血管新生が病態に関与する.これらの事実より生体の恒常性を維持するためには血管新生の適確な制御が重要であることは自明である.VEGFファミリーには他にアミノ酸配列に相同性があるPlGF,VEGF-B,VEGF-C,VEGF-D,VEGF-Eがあるが,発現組織や生物学的役割について不明な点が多い14).本稿ではVEGFおよびその受容体の構造と作用,関節内組織での発現,VEGFの作用を調整して血管新生を調節することで治療に結びつける臨床応用への可能性についても概説する.

運動器の細胞/知っておきたい

ニューロン(神経細胞)

著者: 仲嶋一範

ページ範囲:P.1308 - P.1310

【はじめに】

 本稿では,ニューロン(神経細胞)の一般的特徴をまとめたのち,運動器を直接支配する細胞として,特に脊髄における運動ニューロンを中心に,最近の知見をまとめてみたい.

整形外科/知ってるつもり

MIPO/LISS/LCP

著者: 田中正

ページ範囲:P.1312 - P.1313

 最近さまざまな分野で「最小侵襲……」という言葉が多く聞かれる.骨折治療におけるプレート法は,1970年代までは局所を大きく展開し,時には骨膜を全周性に剝離して整復固定するなど,非常に侵襲の大きな手術法であった.しかし,その後術式は変化し,現在のプレート固定法は軟部組織を温存して手術する,いわゆるbiological fixation(plating)の概念の下に行うことが鉄則となっており,従来のような侵襲の大きな手術法という評価は当てはまらない.MIPO(minimally invasive plate osteosynthesis)は最小侵襲プレート固定法(あるいは骨接合法)と言われる.何をもって最小侵襲というのかは判然としないが,プレートの歴史をみれば,今まであったさまざまな手技の中では最小侵襲といってよいのかもしれない.以下,プレート法の最近の話題を紹介していきたい.

連載 医者も知りたい【医者のはなし】 6

日本の衛生・医療行政の父・長與專斎―2・專斎,長崎から上京

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1314 - P.1318

はじめに

 私は日本病院協会主催の医療情報管理士の講義を10年以上行っている.今年(2003年)8月26日の「医学用語」の講義のとき,長崎県西彼杵郡長与町の看護師さんにお会いした.奇遇である.今回は長與專斎が明治維新後に上京し,欧米医事事情を視察して,衛生と医療行政の改革を次々と行い,さらに專斎と福沢諭吉との交友関係から北里柴三郎が,細菌学を通じて日本の衛生業務と医療事情を改革していったことを述べる.

医療の国際化 開発国からの情報発信

世界を繋ぐ草の根の国際協力―(4)ネパールでのこと

著者: 小原安喜子

ページ範囲:P.1320 - P.1322

 1986年6月,カルカッタからネパールの主都カトマンドゥに飛んだ.雲海をつき抜いてヒマラヤの峰々が見えてしばらく経つと,着陸体勢に入るとアナウンスが流れた.だが機体降下の感じは余りない.標高1,300mの盆地を囲む山々に沿って着陸指示を待ち旋回する飛行機は,多分2,000m余りの高度を保って飛んでいたのだろう.山の国に来たことを実感する.

 ネパールと言えば誰もがヒマヤラの山々を想う.そしてシェルパと登山家,勇敢なグルカ兵,去年起った王朝内での荒れごと,さらに毛沢東主義を信奉する人々の問題提起行動などを思い浮べるだろう.既に訪れたことのある日本人も多い魅力豊かな秘境である.

臨床経験

骨悪性線維性組織球腫転移症例の検討

著者: 木下藤英 ,   大幸俊三 ,   龍順之助

ページ範囲:P.1325 - P.1328

 抄録:転移を生じた骨悪性線維性組織球腫(MFH)8例(男性4例,女性4例,初診時年齢19~79歳,平均44.5歳)の臨床像および治療成績について検討した.転移発生時期について1例は初診時に肺転移がすでにみられていたが,他の7例は初診後3~43カ月,平均20.1カ月で転移が生じた.転移部位は7例に肺転移がみられ,3例にみられた肺外転移は脊椎,軟部(大腿皮下),リンパ節に生じた.治療は転移に対して手術,化学療法,放射線療法が単独あるいは併用で施行された.結果は肺転移の7例は転移後2~24カ月,平均8.7カ月で全例死亡したが,肺転移治療症例群は未治療症例群よりも平均生存期間は長く,肺外転移治療では長期生存が得られた症例,麻痺の回復など生活の質の向上を得た症例がみられた.以上より,MFH転移症例の予後は不良であるが,できうる限り転移に対する治療を考慮するべきと思われた.

症例報告

透析患者の手指MP関節に発症したアミロイド関節炎の1例

著者: 柳浦敬子 ,   山本哲司 ,   丸井隆 ,   秋末敏宏 ,   人羅敏明 ,   河本旭哉 ,   黒坂昌弘

ページ範囲:P.1331 - P.1334

 抄録:長期の透析に伴う合併症の1つとして関節周囲のアミロイドの沈着による様々な症状が報告されている.今回われわれは手指の中手骨指節骨間(MP)関節に単独で発症したアミロイド関節炎の1例を経験した.症例は45歳の男性で右中指MP関節の腫脹と疼痛を主訴に来院した.理学所見上,MP関節の腫脹,熱感,圧痛を認めた.単純X線像ではMP関節は橈側に亜脱臼しており,関節裂隙の狭小化を認めた.MRIにて関節内にT1強調像で低信号,T2強調像で高信号の領域を認め,またガドリニウムで造影効果を認めたため,滑膜の増殖と考えた.症状が持続するため滑膜切除術を施行した.病理組織学的には,関節滑膜の増殖と炎症細胞の浸潤がみられ,Congo-red染色にて滑膜の一部にアミロイドの存在を確認することができた.透析患者の関節病変として本症は念頭に置くべき疾患である.

距骨外側突起骨折を伴った距骨脱臼骨折の1例

著者: 田中領 ,   糸数万正 ,   中村正生 ,   大西量一郎 ,   福田雅 ,   伊藤芳毅 ,   清水克時 ,   平尾純子

ページ範囲:P.1335 - P.1338

 抄録:距骨頚部脱臼骨折治療後に右外果下部の疼痛を呈した34歳男性に対してCTにて距骨外側突起骨折による遊離骨片を認め,同骨片を摘出することで疼痛は消失した.単純X線写真では圧痛部に異所性骨化様所見を認めたが,摘出標本の病理組織診断では軟骨組織を有する骨片であると診断され,確定した.以上の所見より本症例における疼痛の原因として,骨折後の骨壊死に伴う変形性関節症によるものではなく,距骨外側骨折の合併により発生した遊離骨片によるものであり,疼痛を引き起こす原因の1つとして念頭に置く必要がある.

特発性脊髄ヘルニアの1例

著者: 細江英夫 ,   若原和彦 ,   赤池敦 ,   坂口康道 ,   宮本敬 ,   野沢聡 ,   小原明 ,   西本裕 ,   清水克時

ページ範囲:P.1339 - P.1343

 抄録:特発性脊髄ヘルニアの1例を経験したので報告する.症例は,63歳,女性.20年前から左下肢のしびれを自覚.下肢知覚障害,下肢筋力低下の進行により1年前より歩行不能となり,膀胱直腸障害も認めるようになった.MRIでは,T4/5高位で脊髄陰影の欠損途絶とその頭尾側で腹側への偏位を認め,CTMでは,脊髄は腹側に痕跡的に認めるのみであった.椎弓切除,硬膜切開した後,左側第4胸髄神経根と第4,5胸椎高位の両側歯状靱帯を切離し脊髄腹側部を観察した.硬膜欠損部に陥入した脊髄は絞扼され可動性を認めなかった.硬膜内層を切開切除することにより,赤褐色に変色した舌状の嵌頓脊髄は背側へ移動した.術後,知覚障害,下肢筋力,膀胱直腸障害は改善した.極めて稀とされてきた本疾患であるが,MRIの普及とこの疾患の認識の広まりにより報告は100例を超えた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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