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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科38巻11号

2003年11月発行

雑誌目次

視座

最小侵襲手術の現況

著者: 大塚隆信

ページ範囲:P.1353 - P.1354

 先日の朝日新聞に,『切らぬ乳癌治療を臨床研究―20余の病院が10月から』との題にて,手術せずに治療できる究極の乳房温存に関する記事が掲載された.外科領域ではどの科においても最小侵襲手術が,最近のトピックスになっている.最小侵襲手術の究極は,手術を行わないことであるが,この記事は,乳腺外科が究極の目標に到達しつつあることを意味している.おそらく数年先には,乳癌に続き他の手術も必要なくなる可能性が大と思われる.

 整形外科領域で最もその可能性が高いのは,関節リウマチの手術である.現在は人工関節,滑膜切除術をはじめとして,多くの手術が行われている.しかし近年サイトカイン(IL-1,TNF-α)の関節リウマチ滑膜炎症機序が明らかになり,これらのサイトカインに直接作用する薬剤が登場してきた.またこれらの薬剤が,骨軟骨の破壊進行を防止する効果も明らかとなっている.これに伴い近い将来,関節リウマチに対する手術がなくなることはないが,激減するだろうと予想されている.その他の関節の手術は,ナビゲーションなどを利用した最小侵襲人工関節手術,関節鏡視下手術がますます多くなるであろう.

シンポジウム RSDを含む頑固なneuropathic painの病態と治療

緒言 フリーアクセス

著者: 二見俊郎

ページ範囲:P.1356 - P.1357

 整形外科とは「運動器障害に対する機能再建をその主な目的とする」という旨が多くの教科書に記載されている.しかしながら臨床の現場においてほとんどの患者さんは,疼痛などの感覚障害を主訴として整形外科外来を受診する.患者さんの多くは少しばかりの運動器障害だけでは決して整形外科を受診しないものであり,これに疼痛が伴ってきて初めて来院する.このように疼痛などの感覚障害の病態解明や治療がわれわれ整形外科医にとって最も重要なテーマであるにもかかわらず,おろそかにされてきた傾向がある.整形外科医が社会に対して今後その存在意義,存在価値を高めるためにも,これらに対する知識および対応(治療を含む)は必須であろう.

 前置きが長くなったが,今回は感覚障害の中でも最も治療に難渋するRSD(reflex sympathetic dystrophy)を含む頑固なneuropathic painの病態と治療を取り上げた.RSD(カウサルギーを含む)に関しては,19世紀以降その存在は知られていたが,今日でもその病態・治療に関しては十分に解明されているとは言いがたい1~3).またRSDの発生頻度は2,000例の手術に1例程度の発症,また手術侵襲が低い症例の術後に発生することが多い傾向があるなどから,第一線の整形外科医は対応に苦慮されていると思われる5).この誌上シンポジウムでは,各専門領域の経験豊かな先生方に執筆をご依頼した.その理由はRSDに対する治療は包括的に行うべきであるということが,徐々にではあるがわかってきたからである.すなわち従来RSDは主として交感神経系の関与が強いといわれてきたが,最近の研究結果からは複合的要素が発症に関与する可能性が高いということ,その結果として治療は包括的に行うべきであるという見解が一般的になってきたからである.このような背景からも1993年に国際疼痛学会(IASP)では,RSDを「CRPS(complex regional pain syndrome)」と呼称することを提案しているようである4).この誌上シンポジウムで「RSDに関してはここまでわかっている,また治療に関してもこのような方法がある,さらには今後この研究を進めるにあたっては,どのあたりに注目すべきか」というあたりが理解してもらえたらと思う.

Neuropathic Pain・RSD発症のメカニズム

著者: 山本達郎

ページ範囲:P.1359 - P.1363

 抄録:Neuropathic pain発症・維持のメカニズムは現在のところ十分には理解されていない.現在,neuropathic painの症状のうち刺激により誘発される疼痛(allodynia,hyperalgesiaなど)の病態を説明する研究成果としては,脊髄後角における神経損傷後の有髄神経の発芽の現象がある.この発芽のため,通常触刺激の伝達を担っているAβ線維が,疼痛刺激の伝達に関与している脊髄後角細胞へ直接情報伝達するようになる可能性が出てくる.また,薬理学的な研究としてはNMDA受容体の関与が強く示唆されている.NMDA受容体は,脊髄後角細胞の可塑性と関連が強いと考えられており,疼痛刺激が脊髄へ1度入力されると,その後に入力する刺激は実際よりも強い刺激と認識され,上位中枢へと伝達される.一方,自発痛に関する研究はその動物実験の困難さから十分には進んでいない.この中で,自発痛の代表的な疼痛である電撃痛のメカニズムとしては,神経損傷後に発症する異所性の異常発火が考えられている.RSDとneuropathic painの間で,痛みの性質には大きな相違点はない.一番の相違点は血流障害や発汗の異常などの交感神経系の異常を伴うかどうかである.RSD特有の発症メカニズムに関しては現在のところ理解はほとんど進んでいない.

上肢におけるRSDの治療―手術症例を中心に

著者: 堀内行雄 ,   菊地淑人 ,   高山真一郎 ,   仲尾保志 ,   池上博泰 ,   中村俊康 ,   内西兼一郎

ページ範囲:P.1365 - P.1372

 抄録:頑固なneuropathic painに対する治療方針は,疼痛を緩和することと機能障害を最小限に抑えることである.治療法は,各種ブロック療法,薬物療法,温熱・運動療法などであるが,カウザルギーの一部には手術による改善の余地が残されている.1993年以降8年間にわれわれが神経の手術を行った上肢カウザルギー患者は,11症例であった.内訳は,男性7例女性4例,右6例左5例,受傷神経は,尺骨神経3,橈骨神経3,正中神経2例などであった.術中所見は,瘢痕,絞扼,癒着のほかに,perineurial window,結紮糸,神経断裂などであった.手術は神経剝離,神経切除,神経縫合などを行い,結果は優5,良2,可3,不可1例であった.手術所見では,末梢の狭い範囲の神経損傷の場合には,障害の原因が除去可能で適切な手術が行え成績も良好であった.手術で明らかになった病態もあり,手術の必要性と治療の困難さを痛感した.

ペインクリニックの立場から

著者: 小川節郎

ページ範囲:P.1373 - P.1379

 抄録:ペインクリニックにおけるRSDの治療のうち疼痛治療に重点を置いて述べた.遷延した炎症が本態とされる初期にはステロイド薬が必要であり,有用である.「完成した」RSDでは病態が多様であるので,各症例において異なる病態の把握が重要である.病態の判別の一助として薬理学的疼痛機序判別テストを紹介した.ペインクリニックにおける治療法として交感神経ブロック,薬物療法,神経刺激療法,光線照射療法について述べた.

精神科医の立場から

著者: 吉邨善孝

ページ範囲:P.1381 - P.1385

 抄録:反射性交感神経性萎縮症(RSD)などのneuropathic painでは,痛みに起因する行動のため,患者の訴えが過剰なもの,演技的なもの,精神医学的に問題があるとみなされることが多い.しかし,心理的要因の関与を安易に考えるべきではない.心因性疼痛と診断する際には,性格や環境などの要因を十分に検討し,治療者側の問題から診断に不一致が起こりやすいことを念頭に置かなければいけない.心理的要因が病因として関与していることを検討するために,精神科への適切なコンサルトができる体制が求められる.精神医学的にはneuropathic painが認められる患者に特異的な治療方法はなく,疼痛性障害として一般的な治療が選択される.精神医学的アプローチは,疾患による痛みそのものに対してではなく,痛み行動や随伴して生じている不安や抑うつなどの精神症状に対して行われる.抗うつ薬や抗不安薬を用いた薬物療法,精神療法,認知行動療法などを組み合わせて疼痛性障害の各病態にあった治療が実施される.

論述

脊髄星状細胞腫の治療成績と長期予後

著者: 中村雅也 ,   千葉一裕 ,   西澤隆 ,   丸岩博文 ,   松本守雄 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.1387 - P.1393

 抄録:手術治療を施行した脊髄星状細胞腫26例の生命および機能的予後をレトロスペクティブに検討した.低悪性群(grade Ⅰ,Ⅱ)の生命予後は高悪性群(grade Ⅲ,Ⅳ)より有意に良好であった.低悪性群では胸髄発生例の生命予後は頚髄より良好であったが,高悪性群では病巣高位の違いによる差はみられなかった.また,低悪性群では部分的摘出術,高悪性群では肉眼的全摘出術施行例の生命予後は生検施行例より有意に良好であった.機能的予後は,低悪性群で術前麻痺が軽度な場合は部分摘出および全摘出術施行例で良好であったが,高悪性群の機能的予後はいずれの術式でも極めて不良であった.また,放射線療法が予後に及ぼす影響に関しては,今後さらなる検討が必要と思われる.

高齢者の大腿骨頚部内側骨折に対するAustin-Moore人工骨頭の有用性

著者: 安部哲哉 ,   田中歩 ,   田中ハルカ ,   万本建生

ページ範囲:P.1395 - P.1399

 抄録:医療費の高騰が社会全体の問題となっているが,低侵襲・低コストなAustin-Moore人工骨頭の有用性を検討した.対象は当院で大腿骨頚部内側骨折と診断し人工骨頭置換術を施行した患者で経過観察が可能であった8例で,性別は男1例,女7例,平均年齢83.9歳であった.方法は,1.除痛・歩行能力,2.手術時間,3.出血量,4.入院期間,5,医療費,6.手術合併症について調査した.2~5の項目については,同時期に施行したバイポーラー人工骨頭置換術群と比較した.結果は,Austin-Moore人工骨頭の8例は受傷前とほぼ同等のADLを獲得しており,除痛も良好に得られていた.手術時間,術中出血量はバイポーラー群に比べ有意に少なく,医療費はインプラント代が約1/8,入院費も60万円安であった.

 1.高齢者大腿骨頚部内側骨折に対するAustin-Moore人工骨頭の有用性を検討した.

 2.Austin-Moore人工骨頭は低侵襲・低コストであった.

 3.高齢者および受傷前から歩行能力が低い症例に対して,Austin-Moore人工骨頭は有用であると考えた.

手術手技/私のくふう

腰部脊柱管狭窄症に対し後方軟部支持組織を温存する術式―棘突起縦割式椎弓切除術

著者: 渡辺航太 ,   細谷俊彦 ,   白石建

ページ範囲:P.1401 - P.1406

 抄録:腰部脊柱管狭窄症における腰椎椎弓切除術は,後方支持組織に対する侵襲が大きくなることが欠点とされている.そこでわれわれは,後方支持組織を極力温存する椎弓切除術(腰椎棘突起縦割式椎弓切除術)を試みた.症例は72歳,女性.間欠跛行と両足部の筋力低下および知覚障害に対し,L3-5の除圧術を施行した.L4棘突起を付着する傍脊柱筋と棘間靱帯は剥離せず,正中で縦割した.縦割した棘突起は基部より分離させ,左右に展開し,除圧を行った.除圧後,棘突起および棘間靱帯は締結し温存した.術後経過は良好で,脊柱弯曲の増悪は認めていない.またMRIで計測した傍脊柱筋の萎縮率は7%であった.本法の利点は,まず縦割した棘突起およびそれに付着する棘上・棘間靱帯が温存され,しかも開窓術や片側進入両側除圧術と比べ広い視野が得られる点である.さらに,棘突起より筋を剝離しないので,傍脊柱筋への損傷が最小限に抑えられる点である.

整形外科philosophy

一整形外科医として

著者: 山野慶樹

ページ範囲:P.1409 - P.1415

 40年間にわたり整形外科全般を一途にやってきた.この間取り扱う傷病は移り変わり,診断・治療機器の進歩,さらにバイオロジー,バイオメカニクスをはじめ医科学の進歩に伴い臨床医学も理論的になり,大きく変革した時期であった.ほとんどが教育施設である大学病院であったことから,それとなくあるいは否応なく医師としてあるべき姿を模索したが,まずは患者のための医療を第一に率先垂範を心がけてきた.大学病院として新しい研究や先端的治療法の追究のなかにあって,施設や症例さらには先輩,後輩に恵まれ,努力の甲斐があったことは幸いであった.病院の性格から患者の多くが診断や治療のいわゆる難治例で,正面から対峙せねばならず,困難な症例に対しては文献を渉猟したり,私なりに理論的に考え新しい方法も含め,それぞれに良いと思われる方法で対処してきた.振り返ってみると一整形外科医としての足跡に思える.

最新基礎科学/知っておきたい

ADAM

著者: 岡田愛子 ,   岡田保典

ページ範囲:P.1416 - P.1420

 細胞外マトリックス(extracellular matrix:ECM)は細胞表面や細胞間に存在する一群の機能分子であり,単独あるいは他の成分と高次構造を形成し,全身臓器に分布している.線維性組織や基底膜のように,組織構築の維持や細胞の接着・保持・バリヤー機能,血漿の濾過作用などを示すほか,関節腔や疎生結合組織のように,代謝産物の通路や増殖因子の貯蔵庫として働いている.これらの作用を通して細胞の接着・増殖・分化,運動,形態形成や組織再生など,生体内での多彩な細胞機能を規定している.したがって,ECMの過剰な分解は,多くの病的状態を惹起する.

講座

専門医トレーニング講座―画像篇・61

著者: 渡辺雅彦

ページ範囲:P.1421 - P.1424

症例:54歳,女性

 主訴:歩行障害

 現病歴:4年前より特に誘因なく右下肢のしびれが出現した.しびれは徐々に増悪し,2年前からは左下肢の脱力も自覚した.症状はさらに増悪し数カ月前からは歩行障害も出現してきたため,精査加療目的にて当科を紹介受診となった.

 既往歴,家族歴:特記すべきことはない.

 現症:右胸髄レベル以下の知覚障害と左下肢にMMT4程度の筋力低下がみられ,左Brown-Sequard型の麻痺を呈した.また膀胱直腸障害として排尿遅延が認められた.

整形外科/知ってるつもり

胎児手術

著者: 橋都浩平

ページ範囲:P.1426 - P.1427

 胎児手術を定義するとすれば,以下のようになるだろう.

 「胎児に対して,外科的な操作を加え,さらにその後に妊娠を継続させることにより,胎児の生命予後の改善,胎児の臓器の機能の回復を目的とすること」.

 これに含まれる外科的な操作としては,子宮切開を伴う狭義の胎児手術の他に,内視鏡的手術,超音波ガイド下のカテーテル留置が考えられるが,最後のカテーテル留置は胎児手術には含めないのが一般的な考え方である.

連載 整形外科と蘭學・6

蘭学の里中津シンポジウム

著者: 川嶌眞人

ページ範囲:P.1428 - P.1429

 国際ロータリークラブの会長,向笠広次氏(1911~1992)を育て,世界に送り出したことで知られている中津ロータリークラブは来年(平成16年)で50周年を迎えることになった.この記念すべき年度にあたり,中津ロータリークラブの会長として筆者は中津の市民,特に若者たちに何か夢と希望とロマンを感じてもらう活動はないかと検討してきた.そのためには前野良沢,田代基徳,福澤諭吉を生み出した蘭学を中心とする中津の歴史をもう一度見直し,中津が輩出した多くの先哲から何かを学び,次の世代に引き継いでゆくことが大切ではないかと考えた.佐藤正直中津ロータリークラブ50周年実行委員長をはじめとする実行委員会は,今年10月11日(土曜)に一般市民に向けて「蘭学の里中津に夢と希望を」と題する記念シンポジウムを中津市文化会館で行った.出席対象は中学生以上の一般市民とした.

 前野良沢から福澤諭吉に至るまで,中津藩は多くの蘭学者を輩出し,日本の近代化のために大きな貢献をした藩である.明治4年(1871年),中津医学校校長に就任した大江雲沢は「医は仁ならざるの術,務めて仁をなさんと欲す」という医訓を残し,華岡清洲の弟子という外科医としてのみならず,教育者としての業績を残した人として知られており,その家からは1,000点の史料が発見されたことから,中津市によって貴重な医家として保存され,平成16年度には一般公開も期待されている.

医療の国際化 開発国からの情報発信

海外医療ボランティア活動記(4)―クルド その2―スレイマニヤを拠点に

著者: 藤塚光慶 ,   藤塚万里子

ページ範囲:P.1430 - P.1434

 クルド人難民医療救援のためにクルド人自治区の街,スレイマニヤに着いて3日目になる1993年12月26日は銃撃音も途絶え,静かな1日であった.イスラム過激派がクルド愛国同盟(PUK)に制圧されたようで,町中から兵隊の姿が少なくなり,交通量も増えている.同行のA氏,現地で合流した日本人写真家のH氏,現地NGOのジャミール氏と豆スープ,ナン(パン),チャイ(甘い紅茶)の朝食をすませ,朝8時半に日本製のランドクルーザーで出発しようとしたが,バッテリー(イラン製)があがってしまって,下り坂を押してやっとエンジンがかかった.しばらく走ってからタイヤのパンクを発見し,スペアのタイヤと交換した.またしばらく走ってどうもハンドルがいうことをきかないというので調べたら,なんとスペアタイヤの大きさが違う.少し小さい.それでも何とか修理できる所まで転がしていって「正しい大きさのタイヤ」に取り替えた.このような国では,鉄砲玉よりも,交通事故のほうが危ない.見にくいフロントガラスから前方を凝視し,ツルツルのタイヤで,でこぼこ道を吹っ飛ばす.穴の空いた床から,流れていく道路が見える.遙か向こうにUターンをしているタンクローリーが見えた.こちらの運転手はスピードを緩めない.数十メートル手前で「ストップ!ストップ!」と大声を出しても止めない.やっと急ブレーキをかけて20メートルほどスリップして衝突寸前で止まった.両方の運転手が怒鳴りあっていた.運転手を変えようと思ったが誰でも同じだというのであきらめ,幸運を祈ることにした.

臨床経験

当科における骨粗鬆症治療の検討―主訴,年齢,初診時骨塩量と治療効果との関係について

著者: 渡辺航太 ,   松村崇史 ,   相羽整 ,   吉田祐文 ,   八代忍

ページ範囲:P.1435 - P.1438

 抄録:われわれは,主訴,年齢,初診時骨塩量が骨粗鬆症治療効果を予測できる因子となり得るかどうかを検討した.対象は当科で骨粗鬆症治療を受けた女性106例,平均年齢は68.6歳であった.治療はEHDPの間欠投与とし,24カ月後の骨塩量増加率を評価の指標とした.主訴に関しては疼痛群,検診,希望群において骨折群に比べ骨塩量増加率が有意に高かった.年齢と骨塩増加率との間に正の相関,また初診時骨塩量と骨塩量増加率との間に負の相関を認めた.主訴,年齢,初診時骨塩量は治療効果を予測する因子となりえると考えられた.

血管柄付き肋骨移植を行った骨粗鬆症性椎体圧壊の3例

著者: 松本守雄 ,   千葉一裕 ,   西澤隆 ,   中村雅也 ,   丸岩博文 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.1439 - P.1443

 抄録:骨粗鬆症性椎体圧壊は時に強い疼痛や麻痺などを惹起し,高齢者のQOLを著しく損なう.今回,ハイドロキシアパタイト(HA)ブロックを併用した血管柄付き肋骨移植を行った椎体圧壊の3例を経験した.症例1,2は63歳女性,症例3は51歳女性であり,それぞれ関節リウマチ(RA),慢性気管支炎による低酸素血症,血小板減少性紫斑病などの基礎疾患を有するcompromised hostであった.罹患高位はT12,L1,T11であり,全例強度の腰背部痛を有し,脊髄・神経根症状のため歩行障害を呈していた.手術はMini-ALIFの開窓器を用いた少切開で進入し,椎体を掻爬後,前方にHA緻密体ブロック,後方に血管柄付き肋骨を移植した.全例で骨癒合および疼痛,麻痺の改善が得られた.本法は比較的低侵襲で行い得る椎体修復術であり,特に神経症状を呈するcompromised hostには有用な方法であると思われた.

頚椎前方固定術における移植骨採取法―腸骨内側半層骨採取は術後の採骨部痛を軽減する

著者: 雄山博文 ,   池田公 ,   井上繁雄 ,   勝又瞬 ,   渋谷正人

ページ範囲:P.1445 - P.1449

 抄録:頚椎前方固定術における腸骨移植骨採取の合併症につき,全層骨および内側半層骨採取の2群に分けて検討した.症例全体をみると,術後の採骨部痛は全層骨採取法の40.5%,内側半層骨採取法の38.5%に生じ,うち術後2週間を越える痛みは全層骨採取法の16.2%,内側半層骨採取法の7.7%であった.採骨部痛を生じた例のみをみると,全層骨採取法の66.7%で痛みが6日以上継続したのに対し,内側半層骨採取法の80%で痛みが5日以下で止まっていた.以上,内側半層骨採取法は全層骨採取法と比べ,術後の採骨部痛を軽減する効果のあることがわかったが,その理由としては腸骨外側に強固に付着する筋肉を温存できることが考えられた.腸骨が十分な厚みを有しているときは,腸骨内側半層骨採取法においても十分量の移植骨を採取でき,術後の採骨部痛の軽減と併せ,よい方法であると思われる.

症例報告

鎖骨骨折に鋼線刺入固定術を行って腕神経叢麻痺を来した1例

著者: 柳下昌史 ,   池田和夫 ,   山内大輔 ,   納村直希 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.1451 - P.1454

 抄録:症例は60歳の女性で,前医で鎖骨骨折に対して鋼線刺入固定術を施行された.術翌日から左上肢の疼痛と筋力低下が出現した.鎖骨中1/3の骨折で,短縮転位と鋼線による角状変形が著明であった.骨片が腕神経叢を圧迫して麻痺が発生したと考えて抜釘および内固定術を行った.術後麻痺は速やかに回復した.鎖骨骨折の骨折部位を過去の症例および文献的に調査した.その結果,本例のような腕神経叢直上での骨折は2.5%であった.本例は稀な骨折部位,鋼線固定により生じた骨折部の短縮転位と角状変形という特殊な条件が重なって麻痺が生じた症例と考えた.この部位の骨折に対しては直下の腕神経叢に注意して治療法を選択する必要がある.

大腿骨頭後方回転骨切り術にて治療した股関節前方脱臼を伴う骨頭陥没骨折の1例

著者: 鈴木孝治 ,   片山直行 ,   三浪三千男 ,   松野誠夫 ,   九津見圭司

ページ範囲:P.1455 - P.1459

 抄録:われわれは股関節前方脱臼に大腿骨頭陥没骨折を合併した1症例を経験した.杉岡式大腿骨頭後方回転骨切り術を行い陥没した骨頭を荷重部分から完全に外した.術後2年にて臨床上股関節痛はなく,股関節単純X線写真,MRIで,骨頭の壊死,関節症変化は出現していない.股関節前方脱臼に大腿骨頭陥没骨折が伴いうることを念頭に置くことは診断上重要である.またその治療として大腿骨頭回転骨切り術は有用な治療法の1つである.

腸腰筋腱に由来した両側弾発股の1例

著者: 水掫貴満 ,   和田誠 ,   仲川喜之 ,   長谷川克純 ,   上松耕太 ,   賀代篤二 ,   大島学 ,   梅垣修三

ページ範囲:P.1461 - P.1464

 抄録:腸腰筋腱と腸恥隆起で起こる関節外・内側型の弾発股の報告は少ない.患者は24歳・女性.以前より両股関節に随意性の弾発を自覚していた.2001年7月29日バレーボールでジャンプの遊脚時に右股関節痛を認め,歩行困難となり当科を受診した.初診時右股関節前面に圧痛を認め,疼痛のため右股関節自動運動不能であった.健側股関節では,屈曲・外転・外旋位から伸展する際,約45°屈曲位で弾発を再現できた.腸腰筋腱鞘造影検査にて,右股関節を自動的に屈曲・外転・外旋位から伸展する際,腸腰筋腱が腸恥隆起部で外側から内側へとスキップする像を確認でき,確診にいたった.同年10月24日小転子部での腸腰筋腱切離術を施行した.術直後より,股関節痛は消失し,経過良好である.比較的稀とされている腸腰筋由来の弾発股を手術的に加療し良好な結果を得た.診断には腸腰筋腱鞘造影が有効であった.

巨大神経鞘腫による著明な脊柱の破壊に対して矯正短縮術を行った1例

著者: 石黒基 ,   川原範夫 ,   吉田晃 ,   小林忠美 ,   赤丸智之 ,   村田淳 ,   渡辺偉二 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.1465 - P.1469

 抄録:われわれは,再発性巨大神経鞘腫により著明な脊柱の破壊を生じた症例に対し,腫瘍摘出および脊柱矯正短縮術を施行した.症例は47歳女性.24歳時に胸腰椎移行部の神経鞘腫摘出術を受けたが,20年の経過で再発し,著しい背部痛のため短時間の坐位保持も困難となった.画像上,腫瘍はT11からL4レベルにわたり,椎体には著明なscallopingが認められた.L1椎体はほぼ消失しており,T12椎体もごく一部を残すのみで,脊柱の後弯変形および著しい不安定性を認めた.手術では腫瘍を一塊として摘出し,支持性の消失したT12,L1椎体を切除して,T11/L2間で脊柱矯正短縮術を行った.術後,背部痛が消失し,長時間の坐位保持が可能となり,ADLが著しく向上した.

非外傷性小指伸筋腱脱臼の1例

著者: 宮本雅文 ,   八木省次 ,   三橋雅 ,   西岡孝 ,   花岡尚賢 ,   久保貴博 ,   小林亨

ページ範囲:P.1471 - P.1474

 抄録:小指総指伸筋腱が欠如し,小指伸筋腱が2本に分かれ,その2腱間の非外傷性解離により,2本の腱が屈曲時にそれぞれ橈尺側に脱臼する.その結果,2腱間から中手骨頭がボタン穴様に現れる稀な1例を報告する.51歳,男性.2年前から誘因なく,右小指に弾発現象が出現した.小指総指伸筋腱は欠如し,環指総指伸筋腱と小指伸筋腱との間に,Y字型腱が存在した.小指伸筋腱は2本に分かれ,指背腱膜の一部とその中枢付近には瘢痕組織が存在し,2本の腱間の結合は解離していた.小指を屈曲すると,2本の小指伸筋腱はそれぞれ橈尺側に脱臼し,その間から第5中手骨頭がボタン穴様に現れる.伸展すると脱臼した2本の腱は中手骨頭を背側に滑り上がり,その時小指は弾発現象を伴う.そこで2腱間を側側縫合して,3週間の外固定後リハビリテーションを開始した.術後10カ月現在,可動域制限や弾発現象もなく経過良好である.中手指節関節(以下MP関節)背側における伸筋腱の脱臼は,関節リウマチに発症するもの以外は比較的稀である.今回われわれは,小指MP関節に発症した非外傷性の伸筋腱脱臼の1例を経験し,観血的治療で良好な結果を得たので,若干の文献的考察を加え報告する.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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