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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科38巻12号

2003年12月発行

雑誌目次

視座

「先生ならどうされますか?」

著者: 石黒隆

ページ範囲:P.1485 - P.1486

 最近の学会に参加して,手術的治療に偏った報告が多いと感じられている先生は多い.整形外科医であれば誰でも治療する機会のある橈骨遠位端骨折に関し,2000年(平成12年)から2003年(15年)にかけての治療に関する演題数を調べてみた.日本骨折治療学会では手術的治療61題に対し保存的治療が12題,日本手の外科学会にいたっては手術的治療69題に対し保存的治療はわずかに4題であった.

 診断技術の進歩や新しい医療材料の出現は骨折治療にとって非常に有用である.しかし,その一方でX線写真などによる見栄えを重視した発表が多くなり,手術適応の拡大のしすぎではないかと心配している.本来であれば保存的に治療すべきと思われる症例も手術的に治療され,質問も治療方針には触れず手技的なことに終始していることが多い.最後に座長が「症例を増やして,またご報告ください」と締めくくるのをみれば,手術的治療が当たり前のような印象を持たれても仕方がない.学会での発表と日常診療とがかけ離れた印象を持たれて本当によいのであろうか.

論述

非骨傷性頚髄損傷に対する頚椎椎弓形成術の術後成績

著者: 濱田健一郎 ,   小田剛紀 ,   小橋潤巳 ,   山村在慶 ,   塚本泰徳 ,   鈴木省三 ,   藤田悟 ,   森茂樹 ,   藤原桂樹

ページ範囲:P.1487 - P.1492

 抄録:X線上明らかな骨傷のない頚髄不全損傷手術例で,術後1年以上追跡可能であった29例を対象とし,受傷後3カ月未満に手術を施行した群(17例)と受傷後3カ月以降に手術を施行した群(12例)に分け術後成績を比較検討した.後者の群では全例,受傷後にみられていた脊髄麻痺の自然回復は停止していたが,手術により麻痺の改善が得られた(改善率34.0%).前者での改善率は46.9%で,両群間に有意差はなかった.MRIで髄内輝度変化領域として脊髄損傷高位が確認された症例は16例であった.脊髄損傷高位と頚髄に圧迫を認める高位が一致した7例での平均改善率は57.3%,一致しない9例での改善率は31.1%で,前者が高い傾向にあったが有意差はなかった.本症に対する頚椎椎弓形成術は,慢性期においても,また,MRIでの髄内輝度変化高位と頚髄圧迫高位が異なる症例においても有効であった.

Hybrid頚椎片開き式拡大椎弓形成術の試み

著者: 池上仁志 ,   田中恵 ,   矢数俊明 ,   遠藤健司 ,   今給黎篤弘

ページ範囲:P.1493 - P.1498

 抄録:われわれはHAスペーサーと棘突起を利用した自家骨スペーサーを交互に拡大椎弓に挿入・固定するHybrid片開き式拡大術(以下Hybrid拡大術)を発案し,今回,その術後成績と本法の利点,意義について検討した.対象は1997年以降にHybrid拡大術を施行した108例(男78例,女30例)である.最終診察時の手術成績はJOAスコア(17点法)14.7点,改善率は68.1%であり良好であった.また,頚椎弯曲指数において術前後のアライメントに有意差はなかった.CTによる骨癒合判定では,自家骨スペーサーが早期に癒合し,HAスペーサーにより形成された椎孔を,構築学的に補強,安定化させていた.Hybrid拡大術は利点としてHAスペーサーによる良好な椎弓形態の獲得・保持と,自家骨スペーサーの早期で確実な骨癒合による安定化という双方の長所を取り入れられる点である.Hybrid拡大術は臨床的,構築学的にも長期に良好な手術成績が維持されるものと考える.

骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折におけるMRI像と椎体変形の予後との関連

著者: 山口研 ,   大谷晃司

ページ範囲:P.1499 - P.1503

 抄録:われわれは,脊椎圧迫骨折と診断された症例のうちで治療に安静や体幹装具を要しないものが存在するかどうかについて検討した.対象は胸腰椎移行部における骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折8症例10椎体である.いずれも,入院安静臥床や体幹装具の装着を拒否し,外来通院での経過観察のみを行った症例である.全例,疼痛発生後1週間以内に単純X線およびMRI検査を行った.最終経過観察時の椎体変形を単純X線像を用いて評価した.受傷早期の造影MRI矢状断像において造影効果が認められた部位は椎体圧潰の進行を認めず,増強効果が認められない部位では,椎体圧潰の進行を認めた.受傷早期の造影MRIを撮影することにより,最終経過観察時の椎体変形の予測が可能であった.この事実は,椎体変形予防の観点からみると,受傷早期のMRIで広範囲の造影効果を認める場合には,積極的治療を行わなくてもよい可能性があることを示唆していると考えられる.

腰椎疾患診断における病歴の重要性の検討

著者: 伊藤研二郎 ,   井口哲弘 ,   栗原章 ,   山崎京子 ,   佐藤啓三 ,   笠原孝一 ,   金村在哲 ,   赤浦潤也

ページ範囲:P.1505 - P.1511

 抄録:病歴のみで腰椎部疾患の診断がどの程度可能であるかを調査するため,診断が確定している腰椎10疾患,100例の病歴を抽出し,整形外科医53名にこれらの病歴のみからの診断を依頼した.そして卒後年数,専門医資格および脊椎専門病院での研修歴の有無による診断率の差について比較検討した.2回答選択性とし,どちらかが正解であれば正答とすると,全体では75%の高い正答率が得られた.しかし,卒後5年未満の研修医はそれ以上の医師と比較して有意に正答率が低かった.また日整会の非専門医であっても脊椎専門病院で研修した医師は日整会専門医と同率の正答率を得ており,研修の重要性が確認できた.10疾患のうち正答率が特に低かったのは分離すべり症,化膿性脊椎炎,椎間孔外ヘルニア,馬尾腫瘍の4疾患であった.十分な病歴と神経学的所見に基づき,適切な補助診断法を選択する必要があると考えられた.

講座

専門医トレーニング講座―画像篇・62

著者: 高平尚伸 ,   糸満盛憲

ページ範囲:P.1513 - P.1516

症例:46歳,女性

 主訴:右股関節痛

 現病歴:4年前に右股関節痛を自覚するようになり,30分くらいの立位や2時間くらいの歩行,あるいは靴紐を結ぶときに疼痛が出現した.近医を受診しX線像上で石灰沈着性股関節炎と診断され,非ステロイド性抗炎症薬と関節内注射にて治療されていたが,症状の改善がみられないため当院へ紹介された.

 初診時現症:トレンデレンブルグ徴候陰性.スカルパ三角に圧痛を認めた.パトリックテスト陽性.股関節可動域:屈曲120°,伸展0°,外転30°,内転20°,外旋40°,内旋20°.日整会股関節機能判定基準では,疼痛30点,可動域20点,歩行能力18点,日常生活20点,合計88点であった.

 既往歴:特になし

運動器の細胞/知っておきたい

多核巨細胞(multinucleated giant cells)

著者: 穴澤卯圭

ページ範囲:P.1518 - P.1520

【はじめに】

 一般に運動器における多核巨細胞としては,骨の吸収に携わる破骨細胞,感染などの炎症,異物反応の結果として生じる反応性の巨細胞があげられる.さらに,骨軟部腫瘍性疾患では,骨および腱鞘巨細胞腫などで破骨細胞様巨細胞が観察される.破骨細胞については,近年その分化形成のメカニズムの研究が急速に進んでいる.一方,反応性の巨細胞の詳細な形成機構はいまだ明らかではない.さらに,破骨細胞様巨細胞についても,その形態,機能が破骨細胞に酷似し,破骨細胞のモデルとして使用されているにもかかわらず,その本態は明らかでない.本稿では,多核巨細胞の起源,形態学的な特徴および機能について破骨細胞,異物巨細胞,破骨細胞様巨細胞を比較して述べる.

境界領域/知っておきたい

Electrochemotherapy

著者: 石川朗

ページ範囲:P.1522 - P.1524

【はじめに】

 遺伝子工学上,パルス状高電圧が細胞膜に可逆性の細孔を形成する特性は,DNAを細胞内に取込む遺伝子導入法の1つとして既に確立され,electroporation5)(電気穿孔)法と呼ばれている.電気穿孔の応用として充実性腫瘍の治療を目的に腫瘍局所への荷電と,ブレオマイシンのような細胞毒性があり非透過性の薬剤を併用して抗癌剤を高濃度に細胞内移入させる癌化学療法を,electrochemotherapy3)(電撃化学療法)と呼ぶ.本章では,用いられる荷電の特徴を紹介しブレオマイシンを併用した電撃化学療法の理論的背景について紹介する.

連載 医者も知りたい【医者のはなし】 7

オランダ商館医 ポンペの話

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1526 - P.1529

ポンペ(Pompe),who?

 江戸時代末期の日本に西洋医学を導入した最大の功労者はと問えば,シーボルトの名前を挙げる人が多いと思う.しかし安政4年(1857)から文久2年(1862)までの5年間,長崎の地において,日本各地から派遣された医者たちに,医学の教育に必要な数学や化学の知識,さらに解剖学・病理学・薬理学などの基礎教育から,内科や外科などの臨床教育まで指導して帰国したオランダ医師ポンペのことはあまり知られていない.このポンペの物語は,司馬遼太郎の『胡蝶の夢』に詳しい.

臨床経験

梨状筋症候群を呈した骨外性骨肉腫の1例

著者: 竹本治将 ,   石崎嘉孝 ,   李泰新 ,   伊東勝也 ,   永野龍生 ,   北田力 ,   玉井正光 ,   森下亨

ページ範囲:P.1531 - P.1534

 抄録:放射線照射を施行後,梨状筋症候群を引き起こした骨外性骨肉腫の1例を経験したので報告する.症例は49歳,女性.既往歴として,16年前に子宮頚癌の診断で,子宮と卵巣の全摘出術および,放射線照射を50Gyの用量で受けていた.3カ月前から左下肢痛を自覚し,増強したため当科を初診した.初診時左坐骨神経障害を認め,X線,CT検査にて,左梨状筋部に造骨性腫瘍を認めた.腫瘍摘出術を施行し,病理組織診断は骨外性骨肉腫であった.当症例は,放射線照射後,比較的長期の潜伏期間を経て,坐骨神経障害として発症した骨外性骨肉腫と考えられる.その発生部位が,梨状筋前方軟部組織から坐骨神経にかけて発生していたため,梨状筋症候群を呈したものと考えられ極めて稀な症例である.

症例報告

舟状骨偽関節に対する有茎血管柄付き骨移植術の経験

著者: 三浦一志 ,   藤哲 ,   西川真史 ,   工藤悟 ,   大塚博徳

ページ範囲:P.1535 - P.1539

 抄録:難治性舟状骨偽関節の2例にZaidembergの方法に準じた橈骨背側からの有茎血管柄付き骨移植術を行い,良好な結果が得られたので報告する.症例1は17歳,男性.左手を強打し受傷し,前医にて骨接合術を施行されるも偽関節となった.初回手術後8カ月にて血管柄付き骨移植術を施行した.術後12カ月にて骨癒合は良好で,手関節掌背屈可動域は45°と制限が残るが,握力は健側比45%から71%に改善した.症例2は34歳,男性.8年前に転倒し受傷した.骨接合および骨移植術を行うも骨癒合が得られず,術後6カ月にて血管柄付き骨移植術を施行した.術後15カ月にて骨癒合は良好で,握力は健側比33%から84%に,手関節掌背屈可動域は60°から105°へ改善した.舟状骨偽関節のなかで,既に手術が行われている場合や,近位骨片に虚血性壊死がある場合,偽関節形成後の経過の長い場合には血管柄付き骨移植術がよい適応であると思われる.

骨病変にて発症した急性リンパ性白血病の1例

著者: 大前博路 ,   萩山吉孝 ,   嶋村正俊 ,   河田典久 ,   中増正寿 ,   中川豪 ,   世良哲

ページ範囲:P.1541 - P.1544

 抄録:骨髄炎との鑑別診断が困難であった,骨病変にて発症した急性リンパ性白血病の1例を経験した.症例は12歳,女性で転倒後に左膝の疼痛,腫脹,発熱を生じた.X線像では左大腿骨,けい腓骨に著明な骨萎縮および大腿骨顆部に骨膜反応を示した.膝関節内血腫があり透視下に大腿骨遠位骨端線部での動揺性を認めた.MRIでは大腿骨,けい腓骨骨髄内全域に及ぶ広範囲な病変を認めた.初診2日後に急激な汎血球減少を来し,骨髄穿刺にて急性リンパ性白血病と診断された.画像上,骨髄炎と白血病の骨病変との鑑別は困難であり,血液疾患を疑った場合は骨髄穿刺を早期に行うことが重要と思われた.

軟骨無形成症に伴う広範脊柱管狭窄症に対する頚髄除圧術の1例

著者: 熊谷康佑 ,   髙橋忍 ,   勝浦章知 ,   猿橋康雄 ,   松末吉隆

ページ範囲:P.1545 - P.1550

 抄録:軟骨無形成症に広範脊柱管狭窄症が伴うことは知られているが,成人期における頚髄除圧術の報告は稀である.患者は軟骨無形成症の50歳女性で進行性の四肢の知覚障害,脱力,両上肢痛,後頭部痛および間欠跛行を有し,頚髄症JOAスコアは10.5点であった.画像所見では全脊椎レベルに脊柱管前後径の狭小化を認め,環椎では11mm,軸椎から第7頚椎まではいずれも10mmであった.症状は頚髄症と腰部脊柱管狭窄症が混在していたが,頚髄症の症状増悪傾向を重視し環椎後弓切除術とC3~C7脊柱管拡大術を施行した.手術後,後頭部痛の消失と神経症状の軽減を認め,術後4カ月でJOAスコアは13.5点に改善した.また,下肢症状もしびれの軽減,歩行距離の増大と改善を認めたため,腰椎については経過観察中である.

人工透析患者の人工骨頭置換術後に発生した難治性MRSA感染症の1例

著者: 石田航 ,   八十田貴久 ,   勝村哲 ,   白井利明 ,   上石貴之 ,   藤井淳平 ,   三ツ木直人

ページ範囲:P.1551 - P.1555

 抄録:症例は51歳,女性で糖尿病性腎症のため人工透析を施行中であった.1999年に転倒し右大腿骨頚部内側骨折を受傷し,他院で人工骨頭置換術を施行された.術後10日後に排膿がありMRSAが検出された.洗浄・デブリドマンにより,いったん感染は鎮静化したが,再燃したため当科に紹介となり,人工骨頭抜去術を施行した.感染徴候は消失したと思われた8週後にTHAを施行したが感染は再発し,最終的にresection arthroplastyを行い,バンコマイシン投与で鎮静化した.人工透析患者における人工関節感染後の再置換術は極めて慎重に選択する必要がある.

環椎低形成に特発性環軸椎亜脱臼を伴った頚髄症の2例

著者: 高安浩樹 ,   武者芳朗

ページ範囲:P.1557 - P.1561

 抄録:環椎低形成に特発性環軸椎亜脱臼を伴い頚髄症を来した2例を経験した.症例1は,50歳の女性で,両手足のしびれ感,歩行障害を主訴に来院.神経学的には,腱反射は四肢で亢進し手指巧緻運動障害とけい性歩行を呈していた.JOAスコアは13点であった.症例2は,75歳の男性で,両下肢の脱力を主訴に来院.手指の巧緻運動障害を認め,歩行は不能で排尿困難がみられ,JOAスコアは6点であった.2例とも単純X線側面像およびCT像で環椎後弓は脊柱管内にくい込み,環椎椎孔前後径が狭く,低形成と診断された.MRIで著しい狭窄を認め,T2強調で髄内高輝度変化がみられた.特発性環軸椎亜脱臼を伴う頚髄症のため,C1椎弓切除にC0-2-3後方固定を要した.

軟部肉腫との鑑別を要した遺残ガーゼによる異物肉芽腫の2例

著者: 菅原正登 ,   小山内俊久 ,   佐竹寛史 ,   荻野利彦 ,   大類広

ページ範囲:P.1563 - P.1566

 抄録:遺残ガーゼによる異物肉芽腫(以下,gossypiboma)の2例について画像所見を中心に報告する.症例1は37歳の女性である.19歳時に腰椎椎間板ヘルニアの手術の既往がある.1999年10月,腰痛のためMRIを行い,左腰部傍脊柱筋内に腫瘤が認められた.2000年3月,切開生検時にガーゼ片を認め,gossypibomaと診断し腫瘤を摘出した.症例2は64歳の女性である.36歳時に右横隔膜穿孔の手術の既往がある.2000年7月,健康診断にて右背部腫瘤を指摘された.2001年11月,切開生検を行い,病理組織検査で異物肉芽腫と診断され腫瘤摘出術を施行した.術後標本で遺残ガーゼを確認した.2例に共通するMRI所見は①境界明瞭な卵円形の腫瘤である,②T2強調像で不均一な内部構造を示す,③中心部がGd-DTPAで造影されないことであった.これらは,壊死を伴う悪性腫瘍にもみられる所見であり,gossypibomaが疑われた場合でも,生検による病理学的診断が必要である.

高度後側弯を呈した神経線維腫症の1例

著者: 本郷道生 ,   島田洋一 ,   阿部栄二 ,   宮腰尚久 ,   鈴木哲哉 ,   井樋栄二

ページ範囲:P.1567 - P.1571

 抄録:神経線維腫症に伴う高度後側弯に対し二期的前後合併手術を行った症例を報告する.症例は1歳時に神経線維腫症と診断された14歳男児で,単純X線上T4-10で後弯120度,側弯56度と高度の胸椎後側弯が認められた.手術はまずT4-8の前方解離術を行い,2週間の頭蓋直達牽引後に,インストゥルメントを用いたT1-L1後方固定術,および前方遊離腓骨移植術を行った.後弯は65度,側弯32度まで矯正され,神経麻痺,血管損傷など合併症はなかった.術後4年10カ月の現在,後弯は75度で,良好な骨癒合と矯正が得られている.神経線維腫症に伴う高度な脊柱変形に対する矯正固定術では,脊髄麻痺や大血管損傷などの重大な合併症が報告されている.われわれは確実な前方解離と直達牽引による整復,高さの低いインストゥルメントの選択により,合併症を防ぎ良好な整復・骨癒合を得ることができた.

母指形成不全(type Ⅲ-B)に対し血管柄付き足趾PIP関節移植により再建を行った1例

著者: 三浦一志 ,   藤哲 ,   工藤悟 ,   西川真史

ページ範囲:P.1573 - P.1577

 抄録:母指形成不全に対し足趾関節移植により機能再建を行った1例を経験したので報告する.患者は5歳,女児.右母指形成不全.X線所見で中手骨基部からCM関節基部にかけて欠損したBlauth分類Type Ⅲ-Bの母指形成不全であった.右第2趾PIP関節をドナーとして関節移植による機能再建を行った.ドナー側は右腓骨骨幹部からの遊離骨移植にて再建した.関節移植後8カ月で対立再建のためHüber-Littler法による短母指外転筋の移行および固有示指伸筋腱,中指浅指屈筋腱の移行を追加した.関節移植後39カ月の時点で,移植関節は完全に生着しPIP関節の骨端線も開存しており,移植関節部は骨長で約13%の成長がみられたが,ドナー側では移植骨は吸収され短縮変形を生じた.文化的背景などから指数の減少が好まれない場合には,母指形成不全に対して足趾関節移植による母指機能再建術はよい適応となる.

胸髄内へ進展,発育したと考えられた神経鞘腫の1例

著者: 重松英樹 ,   高伸夫 ,   米田岳史 ,   中井敏幸 ,   久貝充生

ページ範囲:P.1579 - P.1583

 抄録:脊髄内に発生する神経鞘腫の報告は少ない.今回われわれは胸髄軟膜と根糸の境界部に発生し脊髄軟膜下に発育したと考えられた神経鞘腫を経験したので報告する.症例は49歳,女性.患者は2002年2月末より背部痛が出現し,4月頃より両下肢のしびれ感,右下肢の脱力による歩行障害のため,同年7月12日当科を受診した.MRI,CTM,ミエログラムにて第1胸椎下縁から第2胸椎椎体レベルの硬膜内髄外病変が疑われ,CTMでは髄表病変の可能性も示唆されたため,同年8月7日,顕微鏡下摘出術を行った.病変は尾側に後根糸を含んでいたが,脊髄との境界面は不明瞭で病変より頭側の根糸は確認できなかった.摘出標本は神経鞘腫であった.本症例は脊髄軟膜と後根糸の境界部のSchwann細胞から発生し軟膜下に進展,発育したものと考えられた.また術前検査において,腫瘍と脊髄との局在関係の評価でCTMが有用であった.

EMS機器使用にて長内転筋部に筋ヘルニアが生じた1例

著者: 藤井唯誌 ,   高井哲郎 ,   賀代篤二 ,   岩見豊仁 ,   高倉義典

ページ範囲:P.1585 - P.1588

 抄録:筋膜の脆弱部分より筋実質が突出した筋ヘルニアは,多くは非外傷性で,特に前けい骨筋に生じるとされ,大腿部の報告は極端に少ない.今回,63歳,男性の大腿長内転筋に発生した筋ヘルニアを経験した.術中,筋膜の欠損部より正常筋肉が一部はみ出し膨隆しているのが観察された.ポリプロピレン製Mesh plugを筋膜欠損部にあて,周囲を縫合することにより筋膜を補強した.術後経過は良好であるが,ポリプロピレン製メッシュによる緩やかな皮膚の隆起が残存した.本症例は高齢者で,特に原因と確定できる筋肉の過剰な負荷や直達外力は明らかにはできなかった.しかし,EMS機器を同部に使用していたため,その発症原因として,過度の電気刺激による筋肉の過度の収縮が生じ,比較的脆弱な長内転筋の筋膜を損傷したのではないかと考えた.

妊娠後骨粗鬆症による胸腰椎多発性圧迫骨折の1例

著者: 白石龍哉 ,   橋本二美男 ,   長田茂樹 ,   中村琢哉 ,   横山光輝 ,   岡本春平 ,   白山暁

ページ範囲:P.1589 - P.1592

 抄録:妊娠後骨粗鬆症により,胸腰椎に多発性の圧迫骨折を生じた1例を経験した.症例は25歳の女性で,出産後2カ月半で急激な腰痛とともに体動困難となった.各種精査を行い,Th11~L1,L3~5の圧迫骨折と診断した.外固定により症状の軽快を認め,かつ椎体の変形を予防し得た.妊娠後骨粗鬆症は,授乳によるCaの喪失,低エストロゲン血症などにより発症し,産褥6カ月間で腰椎骨量は平均6.5%減少すると報告されている.治療は,授乳の中止による骨量減少の防止,外固定による椎体の圧潰の予防が第一であり,授乳中止後6~12カ月で失われた骨量のほとんどが回復する.産褥婦の腰背部痛は本症を考慮する必要がある.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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