icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科38巻2号

2003年02月発行

雑誌目次

視座

整形外科診療報酬改定

著者: 桧田仁

ページ範囲:P.123 - P.124

 学問的に評価の高い雑誌『臨床整形外科』の視座に,世俗の話題で恐縮ではあるが,整形外科と「政治」,「経済」,「今回の整形外科の診療報酬改定」と世の中とのかかわりについて述べてみたい.

 日本臨床整形外科医会が発表しているように,2002年の診療報酬改定の影響の実態は,2001年の4月~6月の累計と,2002年の同じ時期とを比較することから読みとることができる.1件あたりの点数は,2001年が1,500.62,2002年が1,363.24と,▲9.15%.1日あたりの点数は,同様に361.39に対し331.61と▲8.24%と結果が出ている.同様に,日本医師会の結果は,1件あたりの点数1,349.50に対し1,261.50と▲6.52%である.さらに,1日あたりの点数は,352.3に対し329.9と▲6.36%である.この結果の相違は,レセプトのサンプル数や,整形外科と標傍した臨床医のサンプル数の相違によるとも考えられる.また,厚生労働省発表の社会保険診療報酬支払基金審査分,国保連合会審査分の整形外科の医療費は,1件あたりの医療費が▲6.3%,1日あたりの医療費が▲6.4%と差異がある.この差異が,大学病院,公的病院や民間病院,診療所との差異のみで片付けられるのか,大きな議論を呼んでいるところである.

シンポジウム 膝複合靱帯損傷に対する保存療法および観血的治療の選択

緒言 フリーアクセス

著者: 守屋秀繁

ページ範囲:P.126 - P.127

 膝複合靱帯損傷は膝関節においてただ単にいくつかの靱帯が切れているだけではなく,もちろん半月板や軟骨も損傷していることもあるが,それよりも軟部損傷を合併しており,損傷靱帯にだけ目が行き,性急にメスを入れると,結果として拘縮膝となってしまうことがしばしばある.動きの悪い膝はグラグラの膝よりはるかにADL障害は強い.これは複合靱帯損傷膝の治療にあたって常に念頭に置いておかねばならない点である.

 そのような経験に基づき,現在では新鮮前十字靱帯単独損傷でも十分に可動域が回復してから再建術を行うようになっている.その結果前十字靱帯単独損傷に対する再建術の術後成績は,たとえどのような腱や靱帯を使用して再建しても,その術後成績はその術式に慣れた術者が慣れた術式を行えば,ほぼ一定の満足すべき結果を得ている.しかしながら,複合靱帯損傷では症例数も多くないことなどから治療法がまだ確立されているとは言い難い.

前十字靱帯に合併した内側側副靱帯損傷の治療

著者: 福林徹

ページ範囲:P.129 - P.134

 抄録:過去10年間の400例の前十字靱帯手術症例中で内側側副靱帯のⅡ度の損傷を合併した例は48例,Ⅲの損傷を合併した例は16例であった.予後調査の結果,内側側副靱帯Ⅱ度の合併例は前十字靱帯単独損傷例と同等の成績であり,内側側副靱帯損傷による影響は認められなかった.一方,内側側副靱帯Ⅲ度の合併例は前十字靱帯単独損傷例と比較してやや成績が落ちる傾向があった.内側側副靱帯Ⅲ度の症例において手術例と非手術例を比較すると,全体としては同等な成績であったが,手術例では慢性例の成績に動揺性が残存する傾向がみられた.手術の適応は慎重であるべきだが,もし内側側副靱帯の再建手術を行う場合は半腱様筋腱などを用いた再建法が望まれる.

Lateral Corner損傷に対する治療選択

著者: 史野根生 ,   堀部秀二 ,   濱田雅之 ,   中田研 ,   中村憲正 ,   鳥塚之嘉

ページ範囲:P.135 - P.137

 抄録:外側側副靱帯を含む後外側構成体(posterolateral complex=PLC,またはlateral corner)損傷に対する治療方針の選択,適応につき述べた.病態に応じた術式の選択が重要であるが,これらの再建法は,合併する前・後十字靱帯の再建術と同時に行う必要があり,この成否が安定した膝を再獲得するために極めて重要である.

後外側不安定性に対する𦙾骨骨切り術の成績

著者: 和田佑一 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.139 - P.142

 要旨:後外側不安定性は膝複合靱帯損傷に合併することが多く,従来様々な再建術が行われてきたがいまだ確立された術式はない.膝外側支持機構再建術の成績が一定しない理由としては,外側支持機構自体の複雑な構造と,再建術後の再建靱帯にかかるdistraction forceの存在の二点が考えられる.外側支持機構の陳旧損傷においては各構成体を識別することは困難であり,一般に瘢痕化した外側支持機構全体を近位(頭側)へ移行することによる再建が行われている.しかしながらわれわれは,外側支持機構の中には膝窩筋腱と腓骨の線維性結合が多くの場合存在し,外側支持機構を近位(頭側)へ移行する際の妨げとなることを解剖学的研究により実証した.これら解剖学的,力学的問題点を考慮し,われわれは膝複合靱帯損傷に合併した後外側不安定性に対しては,十字靱帯再建術に加え外側支持機構の遠位部への移行と𦙾骨高位骨切り術を行い良好な臨床成績を得ている.

膝複合靱帯損傷におけるACL損傷の位置づけと治療法

著者: 宗田大 ,   柳下和慶 ,   池田浩夫 ,   関矢一郎

ページ範囲:P.143 - P.149

 抄録:膝複合靱帯損傷をACL損傷の扱いに焦点を当てて,細分類法に基づいた治療方針,自験例の治療法の選択と成績を述べた.後方動揺が主体の陳旧例ではACL再建は3重折り薄筋腱などで1ルート再建術を行う.前方の明らかな不安定性があれば,半腱様筋腱による2ルート再建を第一選択としている.男性例では時に骨付き膝蓋腱や大腿直筋腱を用いる.主観的機能評価は内側外側の安定性の再獲得に依存していることが多い.一般に急性期の内側修復は勧められない.筆者らはつり上げ内側修復法と半腱様筋腱による再建法を用いている.一方,外側の損傷に対して筆者らは半腱様筋腱を用いた外側側副靱帯再建と後外側の腱固定術を組み合わせている.膝複合靱帯損傷におけるACL治療の考慮点としてはACL損傷がその複合靱帯膝の動揺性の主体かどうかを見極めることであり,安定性を確実に得やすい構造体としてACL再建を大切にすべきことである.

PCL損傷合併例に対する治療選択

著者: 吉矢晋一 ,   黒坂昌弘 ,   松井允三 ,   黒田良祐 ,   水野清典 ,   山口基

ページ範囲:P.151 - P.155

 抄録:後十字靱帯(PCL)靱帯損傷を合併する複合靱帯損傷膝に対するわれわれの治療経験について,新鮮損傷例を中心に検討した.新鮮例でのわれわれの従来の治療方針は,内側側副靱帯(MCL)損傷合併例に対しては保存的治療,外側支持機構(LC)損傷合併例にはLCへの一次修復術を行い,可動域が回復した時点で,残存する不安定性に対し必要に応じ靱帯再建術を行った.また,前十字靱帯損傷(ACL)合併例に対しては,付着部損傷には急性期の修復術を,そして実質部損傷例では,前述のMCL/PCL損傷例と同様の方針で治療を行った.その結果,PCL損傷による後方不安定性の存在は初期治療後の不安定性残存の要因となっていた.また,陳旧損傷例に対する二次的PCL再建術の成績は不良であった.2000年以降,複合靱帯損傷膝新鮮例の治療においては,PCL損傷には付着部損傷への一次修復術をより積極的に行う,実質部損傷での再建術の時期を亜急性期にする,という方針に変更した.

前および後十字靱帯複合損傷例に対する治療選択

著者: 安田和則 ,   青木喜満

ページ範囲:P.157 - P.163

 抄録:筆者らは前および後十字靱帯複合損傷例に対して新鮮期には計画的二期手術を,陳旧期には一期的同時複合再建を行ってきた.最近の10年間の症例数は新鮮損傷7例7膝,陳旧性損傷17例17膝である.新鮮損傷に対する治療成績では術後ROMにおける伸展制限は全例で認められず,屈曲制限は全例で15°以下であった.術後の膝前後不安定性の健患側差は1膝を除いて5mm以下であった.術後sagging徴候は5膝で(-),2膝で(±)であり,明らかな(+)はいなかった.術後IKDC評価は6例がほぼ正常,1膝がやや異常であり,明らかな異常はなかった.陳旧性損傷に対する治療成績では伸展制限を認めた症例はなく,また屈曲制限は全膝で10°以下であった.術後のsagging徴候は(+)3膝,(±)が5膝,(-)が7膝であった.術後膝前後不安定性の健患側差は5mm以下が10膝,5~7mmが3膝,8mm以上が2膝であった.術後IKDC評価はBが10例,Cが3例,Dが2例であった.複合靱帯再建術の成績はこの10年間で著しく改善した.われわれが開発した種々の屈筋腱ハイブリッド材料は,重度複合靱帯損傷の治療戦略に有用であった.しかしいまだ汎用化できる段階には至っておらず,安易な治療計画をたてるべきではない.

論述

特発性大腿骨頭壊死症に対するBipolar人工骨頭置換術の成績とその適応について

著者: 新倉隆宏 ,   三枝康宏 ,   西川哲夫 ,   黒坂昌弘

ページ範囲:P.165 - P.171

 抄録:特発性大腿骨頭壊死症に対してBipolar人工骨頭置換術を施行し,術後5年以上経過観察可能であった29例30関節を対象として,臨床成績に関与する因子について検討した.経過観察期間が10年以上の15関節の長期成績は最終経過観察時のJOAスコアが平均65.1点と満足すべきものではなかった.臨床成績に関与する因子としては,病期,臼底リーミング,outer headの上方移動,stemの沈下が挙げられた.最終経過観察時のJOAスコアが80点以上の成績良好例は12例13関節で,臼底リーミングを行った例は2関節のみであった.特発性大腿骨頭壊死症に対するBipolar人工骨頭置換術の適応は限定すべきと思われるが,臼底リーミングを要さない,stageⅢまでの例には適応が残されている可能性が示唆された.

二分脊椎児の運動麻痺レベルと歩行能力について

著者: 落合信靖 ,   亀ヶ谷真琴 ,   西須孝 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.173 - P.178

 抄録:残存運動最下髄節L3,L4レベルの麻痺を有する二分脊椎児(者)37例の歩行能力を分類し,歩行能力に影響を及ぼす因子について統計学的に検討した.検討項目は,1)body mass index(BMI),2)股関節脱臼の有無,3)関節拘縮:a)20°以上の屈曲拘縮を有する股関節,b)20°以上の屈曲拘縮を有する膝関節,c)何らかの手術を要する足関節,4)筋力(MMT):a)腸腰筋,b)大腿四頭筋,c)前けい骨筋,5)Cobb角20°以上の側弯症の有無,6)Shuntの手術回数,7)Arnord-Chiari奇形の有無,の以上7項目であり,歩行能力との関係につき検討した.その結果,膝関節・股関節の拘縮,Cobb角20°以上の側弯症で統計学的有意差を認め,歩行能力に大きく関与しているものと思われた.よって,二分脊椎児(者)の歩行能力を向上させるためには,手術的または装具により可能な限りこれら影響因子を改善し,かつ腸腰筋,大腿四頭筋の筋力を日頃強化することが重要と思われた.

頭蓋頚椎移行部疾患―自覚症状と神経学的所見の特徴

著者: 荒文博 ,   菊地臣一 ,   矢吹省司 ,   五十嵐環

ページ範囲:P.179 - P.185

 抄録:頭蓋頚椎移行部疾患(以下,頭頚疾患)は,症状が多彩なためにときに診断が困難であり,見逃される可能性がある.そこで,本疾患の診断の一助となる特徴を同定するため頭頚疾患の自覚症状と神経学的所見を後ろ向きに検討した.対象は,1987年から1998年にかけて手術を施行した神経症状を有する頭頚疾患の40例である.対照として,中下位頚髄症の36例を用いた.両群間で,初発症状,術前の主訴,延髄圧迫症状,椎骨動脈循環不全症状,脊髄症状,脊柱所見,および神経学的所見を調査し比較検討した.その結果,頭頚疾患に特徴的な症状は,出現頻度は低いが,延髄圧迫症状や椎骨動脈循環不全症状であった.さらに,神経学的所見として,scapulohumeral reflexの亢進,頚部を含む表在性知覚障害,そして僧帽筋の筋力低下が認められる場合に,頭頚疾患である可能性が高いと考えられた.

専門分野/この1年の進歩

日本足の外科学会─この1年の進歩

著者: 松井宣夫

ページ範囲:P.188 - P.191

 第27回日本足の外科学会学術集会が2002(平成14)年6月28・29日の両日,名古屋市国際会議場にて開催されました.梅雨時の非常に過ごしにくい時期の開催とはいえ約330名と多数の参加者を迎えることができ,また132題もの演題発表をいただきました.

 本学術集会に際して発表されましたシンポジウムや教育研修講演あるいは主題などを私なりに要約し,今日の足の外科領域における治療上の問題点や最近の話題について述べたいと存じます.

国際学会印象記

『第9回国際組織保存学会議・アジア太平洋外科組織保存学会合同会議』に参加して

著者: 糸満盛憲

ページ範囲:P.192 - P.193

 アジア太平洋外科組織保存学会(Asia-Pacific Association of Surgical Tissue Banking,APASTB)は1988年に設立され,1989年から年に1回,加盟国が持ち回りで学術集会を開催してきたが,1992年のフィリピンでの第4回を境に2年ごとに開催することになって今日に至っている.また第5回から欧米の組織バンクの会(米国組織保存学会:AATB,欧州組織保存学会:EATB)と合同で,国際組織保存会議(International Conference of Tissue Banking)として開催することになった.

 2002年の学会は,韓国・ソウルのオリンピック公園内にあるオリンピックパークホテルで開催された.「日本骨・関節・軟部組織移植研究会」も中村孝志教授(京都大学)が主催された昨年の会から「日本運動器移植・再生医学研究会」と改名され,組織移植にとどまらず運動器の再生医学・再生医療を取り込んだ会に発展したのと同様に,APASTBでも2年前のバリ島における第8回の会議から組織再生についての研究発表が出てくるようになり,今回は再生についての発表が増えてきた.会議の内容は,アジア諸国の組織移植の現状,倫理規定や組織の滅菌・包装・記録の保存など組織の取り扱いに関するバンクの実際的な討議,同種骨や血管・羊膜の移植後の経過,生物学的・力学的観点からの臨床的・基礎的研究に関する発表は当然であるが,培養皮膚細胞・骨細胞・骨芽細胞・軟骨細胞,stem cell,臍帯血を用いた組織再生およびその担体に関する研究発表が増加したことが特徴的であった.特に韓国では培養皮膚を取り扱うベンチャー企業からの発表があり,既に産業界と研究機関が一体となって研究開発が進んでいることが印象的であった.反面,わが国からの参加者は北里大学とはちや愛知骨バンクのみであったのは寂しい.

整形外科/知ってるつもり

EBM

著者: 田中優 ,   福原俊一

ページ範囲:P.194 - P.195

【EBMとは何か】

 Evidence-based Medicine(EBM)とは,入手可能な範囲で最も信頼できる根拠(evidence)にもとづき,さらに患者の価値観と医師の経験や力量を考慮に入れ個々の患者の診療の臨床的決断を行うことである.EBMは,近年飛躍的に進歩した情報技術と臨床疫学(Clinical Epidemiology)を基盤としている.

 大切なことは,臨床的決断はevidenceだけでは決まらないことである.evidenceと患者の価値観や現場の状況(preference & circumstance)と医療者の力量(expertise)を統合して臨床的決断を行う必要がある.医師の経験や技能を無視したり,患者の価値観を考慮しないのはEBMの誤解である.科学的な根拠とともにこれらとの統合が不可欠であり,同じevidenceを得た場合でも状況によって臨床決断は異なってくるのである.

追悼

伊藤鐡夫先生を偲んで

著者: 清水克時

ページ範囲:P.197 - P.197

 京都大学医学部整形外科名誉教授,伊藤鐡夫先生は平成14年(2002年)11月13日に89歳でご逝去されました.先生は山口県人で,昭和23年に34歳という若さで山口県立医学専門学校整形外科学講座を創設,その後,昭和32年には広島大学医学部整形外科学講座を創設され,昭和38年12月に母校の京都大学に第5代の整形外科学教授として迎えられました.爾来昭和52年4月にご退官されるまで,人生の大部分を整形外科学教授として過ごされました.私が若いときには,何と幸せなご経歴かと思いましたが,いざ自分が教授をしてみると,こんな大変な仕事を何と長いあいだお続けになったことかと,まことに頭の下がる思いです.

 2つの大学の整形外科学教室を開設された先生は,たくさんの整形外科医のルーツであるわけですが,私にとっても,整形外科を志すきっかけをいただいた,かけがえのない先生でした.京大医学部ボート部OBでクラブの部長をしておられた整形外科の赤星義彦助教授が昭和43年に岐阜大学教授としてご転出されました.当時,伊藤教授ご自身は硬式テニスの名手で,ボートのご経験はなかったのですが,空席となったボート部部長職を請われてお受けになりました.当時教養2回生のボート部員であった私は,伊藤鐡夫教授が部長にご就任されたときのことを今でも鮮明におぼえております.

連載 医療の国際化 開発国からの情報発信

海外医療ボランティア活動記(2)

著者: 藤塚光慶 ,   藤塚万里子

ページ範囲:P.198 - P.201

マスコミは白を黒という,存在も不在となる

 1991年当時は,ボランティアという言葉も概念も日本ではまだ一般には浸透していなかった.「ボランティアってどんなことを,どうやってやるの?」とよく聞かれた.「気軽に自分で出来ることを,必要とされる所でやること」と答えた.何でも良いからボランティアをやってみたいという人も多い.そういう人には「あなたは何が出来るか.他人の指示や助けなしで,出来れば専門的なことをやること」と話した.マスコミもボランティア活動を奨励しているようであったが,実は──.

 フィリピン,ピナツボ火山噴火の避難民キャンプで働いていたときのことだ.ある日,テレビ朝日の取材が来た.その日,私はテントシティの診療所で仕事をしていた.テレビチームは近くのバランガイ(部落)の診療所にいたベルギー人の医師イザベルにインタビューし,こちらでは,私が脱水の児に点滴をしているところを録画していった.

医者も知りたい【医者のはなし】 3

北里柴三郎(1852-1931)・その2 「ドイツから帰国後のはなし」

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.202 - P.205

※はじめに

 前回“その1”にも書いたが,北里柴三郎は,“Shibasaburo Kitasato”と横文字で書かれている.そして「きたさと」と発音されている.今から5年前に福岡市医師会看護学校の生徒に「北里村」出身の「北里さん」がいたので,「北里」は「キタサト」か「キタザト」か聞いてみた.答えは「キタザト」であった.九州大学の昭和40年卒業で,私の2年後輩にあたる元精神科教授の田代信維君が北里柴三郎のご子孫と話す機会があり,北里柴三郎は「キタザト・シバサブロウ」と発音するのが正しいと言われたことが,彼の書いたエッセイの中に記されていた.

 明治25(1892)年5月の末に北里柴三郎は帰国した.北里がまだドイツに滞在中,先輩の東京大学衛生学教授緒方正規の「脚気菌発見」の論文に,「細菌学の基本を無視した」と批判する文章を日本にいた緒方に連絡なしにドイツ語で書いた.次の年に,この文章が日本語に翻訳されて,「中外医事新報」に掲載された.後輩の北里に恥をかかされた緒方正規が周りの教授連中に不満を漏らしたため,内科教授の青山胤通らが北里柴三郎に対して怒っていた.

 その確執のために,北里柴三郎は帰国したときは,東大側からは暖かい歓迎は受けなかったという.

臨床経験

骨付き膝蓋腱による前十字靱帯再建術後の成績不良症例についての検討

著者: 小島博嗣 ,   山崎悟 ,   原田基 ,   玉置哲也

ページ範囲:P.207 - P.211

 抄録:骨付き膝蓋腱(BTB)を用いたACL再建術は,多くの症例で満足のいく結果が得られている.しかし,術後の膝前面痛ならびに膝伸展制限の発生も報告されている.今回われわれは術後1年以上経過観察可能であった70症例のうち術後成績不良症例8例について術後の膝前面痛ならびに膝伸展制限の発生率を調べた.さらにX線学的に骨孔設置位置,骨片とスクリューの相互関係を調べ術後成績不良症例との関連性を検討した.その結果,術後5/8例(62.5%)がLachman test(+)であった.膝前面痛の発生率は5/8例(62.5%)で,特に30歳以上の女性では3/3例(100%)であった.膝伸展制限の発生率は3/8例(37.5%)であった.X線像で不良症例はけい骨骨孔の設置位置が前外側よりであった.BTBを用いるACL再建術では,30歳以上の女性で膝前面痛の発生率が高いので注意が必要である.またけい骨骨孔の設置位置が前外側寄りにならないようにするのが大事であると考えられた.

半拘束型人工肘関節置換術に対する両側開窓式進入法の有用性について

著者: 木村浩明 ,   清水和也 ,   山田茂 ,   西尾健 ,   廣島芳城 ,   島田博文 ,   石川正洋

ページ範囲:P.213 - P.218

 抄録:人工肘関節置換術(TEA)における進入法には様々な方法があるが,膝関節のように定まった方法はいまだ確立していない現状と思われる.われわれも種々の進入法を試みてきたが,1998年Pierceらが報告した,two windows methodによる上腕三頭筋付着部を温存しつつ広い視野を得る進入法(以下両側開窓式進入法)が,半拘束型人工肘関節を用いたTEAにおいて安全かつ正確な手術を行い得る優れた方法であると考え,1999年以降追試してきた.症例数はいまだ5症例6肘であるが,その有用性を確認することができたので,考察を加え報告する.

症例報告

治療に難渋した側弯症術後深部感染の2例

著者: 尾鷲和也 ,   鈴木聡 ,   佐本敏秋

ページ範囲:P.219 - P.224

 抄録:側弯症手術後深部感染の2例を経験した.症例1は11歳,二分脊椎患者のTh5~骨盤までの後方手術例で,持続洗浄,掻爬を繰り返したものの鎮静化せず,インストゥルメントが露出したまま開放療法で創閉鎖を得たが,炎症反応が持続した.術後1年時に腸骨スクリューの弛みが生じ,結局1年8カ月でインストゥルメントを抜去し,主弯曲部の骨癒合と炎症の鎮静化をみた.症例2は4歳の先天性ミオパチー例で前後合併手術を行ったが,6カ月時に後方手術創に皮下膿瘍が生じ,インストゥルメントの部分抜去と掻爬を繰り返したが治癒せず,結局10カ月時に後方インストゥルメントの全抜去を行い,骨癒合と炎症の鎮静化をみた.側弯症術後深部感染が掻爬や持続洗浄等を行っても鎮静化しない場合はインストゥルメントの抜去もやむを得ないが,全身あるいは局所の症状が強くなければ早期に抜去せず,骨癒合がある程度期待できる時期まで待つべきである.

仙腸関節脱臼骨折に対するCTガイド下スクリュー固定の1例

著者: 筑紫聡 ,   中島浩敦 ,   紫藤洋二 ,   和佐潤志 ,   片桐浩久

ページ範囲:P.225 - P.228

 抄録:われわれは19歳女性,vertical shear typeの骨盤骨折を経験した.左仙腸関節脱臼骨折に対し,CTガイド下にcannulated screwによる仙腸関節固定を施行し,短期間ではあるが良好な経過を得た.Lateral compressionやvertical shear typeで後方不安定性を呈する症例は前方部分の固定のみでは十分な固定性が得られずに頑固な疼痛が残存することが多く,後方部分の内固定が必要である.観血的整復を必要としない症例に対してはCTガイド下でのiliosacral screwは術中に整復状態を正確に把握でき,神経や血管の損傷を回避し確実に仙骨椎体内にスクリューを刺入することが可能であり,低侵襲で安全に行える有用な方法である.

傍骨性脂肪腫により発症した後骨間神経麻痺の1例

著者: 杉田秀幸 ,   栗原友介 ,   元島清香 ,   長岡正宏 ,   岩橋正樹 ,   立川裕一郎 ,   中島伸也 ,   松崎浩巳 ,   大幸俊三 ,   龍順之助

ページ範囲:P.229 - P.232

 抄録:脂肪腫により神経麻痺が発生することは稀であり,さらに,後骨間神経麻痺が発生することは極めて少ない.前腕のFrohse arcade部分から発生した脂肪腫が後骨間神経麻痺を生ずることは報告されているが,通常,この疾患は診断に至るまでに時間がかかり,腫瘤は大きくなると手術が困難となる.原因不明の後骨間神経麻痺が発生した場合,本症を考慮し超音波,CT像やMR像などの検査を行い,腫瘤があれば慎重に切除すべき疾患である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら