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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科38巻4号

2003年04月発行

雑誌目次

特集 脊椎脊髄病学最近の進歩 2003(第31回日本脊椎脊髄病学会より)

序:脊椎脊髄病学最近の進歩―第31回日本脊椎脊髄病学会より

著者: 田島直也

ページ範囲:P.374 - P.375

 第31回日本脊椎脊髄病学会は2002(平成14)年6月6日と7日の2日間にわたり,宮崎で開催された.応募総数471題の中から厳正な査読・評価の結果,口演265題・展示117題,合計382題が採用された(採用率:約80%).改めて言うまでもないが脊椎機能の理解にバイオメカニクスは不可欠であり,脊椎手術そのものが現代医学と生体力学・工学的知識の集大成であるともいえる.そこで現在のバイオメカニクス研究の最先端を知るうえで,主題として「脊椎のバイオメカニクス」を取り上げたところ,予想を上回る数の演題が集まった.これらの中から「頚椎」,「腰椎」各々主題・主題関連・展示発表としてご発表いただいたが,各会場で医学・工学的見地から活発な討論が行われた.

 全体の印象として,1)研究手段として屍体実験や動物実験,有限要素法などのコンピュータシミュレーション,健常人ボランティアの計測など手法的バリエーションに富んでいたこと,2)病理所見と生体力学的所見を比較検討したものや手術の他椎間に及ぼす影響をみたものなど,より生体側の見地に立った詳細な研究が多かったこと,3)反対に,どのインストゥルメンテーションがより強固であるかといった研究が少なかったことなどが感じられた.主催者としては今後のバイオメカニクス研究の方向性においてある程度示唆的な役割が果たせたのではないかと安堵すると同時に,これからもさらに一般的な研究手段として発展する可能性を感じて意を強くした次第である.

頚髄症拡大術後の脊髄頭尾長の変化

著者: 横山徹 ,   岡田晶博 ,   油川修一 ,   富田卓 ,   竹内和成 ,   藤哲

ページ範囲:P.377 - P.382

 抄録:頚髄症に対する拡大術において術後成績に影響する因子のひとつに頚椎の矢状面alignmentが指摘されているが,いまだ意見が分かれている.われわれの頚椎非前弯型のなかには成績が不良な例があり,その術後MRIでは脊髄が頭尾側方向に緊張しているような所見が認められる.そこで今回,棘突起縦割法拡大術を施行した25例と前方固定11例の36例(頚椎症性脊髄症21例,例後縦靱帯骨化症15例)を対象に,頚部脊髄の頭尾長をMRIにて計測を試み,JOAスコア改善率との関係についてretrospectiveに検討した.頚髄長の術前後の差(術後-術前)(脊髄長差)は,拡大群が-21~3mm(平均±SD:-.0±3.4mm),前方群が-5~7mm(0.03±4.9mm)で,両群間に有意差はなかった.拡大術の頚髄長差2mm以上群(6例)の平均改善率は-53%で,拡大術2mm未満群および前方固定2mm以上群よりも有意に不良で,そのうち5例は直線型のOPLLであった.拡大術後に生じる脊髄長の増加は成績不良因子のひとつになりうると考えられた.

三角筋,上腕二頭筋の神経支配と頚髄症の責任高位からみた頚椎後方術後C5麻痺発生に対する検討

著者: 金子和生 ,   田口敏彦 ,   河合伸也

ページ範囲:P.383 - P.387

 抄録:頚椎後方手術における術後C5麻痺の発生メカニズムについて,三角筋および上腕二頭筋の神経根分布の違いから検討した.圧迫性頚髄症に対して後方手術を行った症例で,術中神経根刺激による複合筋活動電位(CMAPs)を測定し,その振幅比から神経根分布を検討した.頚髄症の責任高位は脊髄誘発電位を用い判定した.C4-5に責任高位を有する頚髄症では他の高位の頚髄症に比較し,三角筋,上腕二頭筋ともC5神経根有意に支配されている症例が多く,これはC4-5頚髄症によるC6髄節障害に関連する神経分布の再構築と推察した.一方,本研究以前に後方法が施行され,脊髄誘発電位により障害高位を判定し得た頚髄症56例中,4例に術後1段階以上の筋力低下を呈したC5麻痺を生じていた.これらの4例(CSM 2例,OPLL 2例)はいずれもC4-5に責任高位を有していた.

 C4-5頚髄症ではC6髄節障害が存在し,三角筋などの肩外転作動筋がC5有意の支配となっている可能性が高く,このような状態でC5根障害を生じた場合に,著明な臨床症状を呈するものと予測され,本仮説が頚椎術後C5麻痺の発症メカニズムのひとつではないかと推察した.

頚髄除圧術後の上肢麻痺に関する脊髄障害原因説

著者: 本間隆夫 ,   千葉義和 ,   長谷川和宏 ,   渡辺研二

ページ範囲:P.389 - P.395

 抄録:頚髄除圧術後の上肢の麻痺45例の発生率は7.5%であったが,前方固定,椎弓切除,拡大術間に発生の有意差はなく,72%が術後に発生し,80%は運動麻痺が主体で,40%は単一,60%は複数神経根領域に広がり,C5領域に多いがC8領域まで広く出現した。術後画像では20%にのみ脊髄圧迫所見があり,大半は無治療でも47%は完全回復した.麻痺の神経学的局在と手術範囲の一致性では神経根の可能性は最大77.8%,脊髄の可能性は最大97.8%であった.この麻痺を神経根障害とする諸説とデータとの不一致点およびそれらの理論的破綻点を指摘して原因論としての従来の神経根障害説を否定し,本麻痺は,術式とは関係なく,圧迫などの物理的損傷でもない,除圧後の脊髄に生じる一過性原因による限局性の脊髄障害であると結論する.原因として,圧迫による阻血脊髄の除圧による血流回復に伴って発生するフリーラジカルの組織障害を指摘する.

頚椎多椎間前方固定術後C5髄節神経根麻痺

著者: 池永稔 ,   四方實彦 ,   田中千晶 ,   竹本充

ページ範囲:P.397 - P.402

 抄録:1989年より1999年に行った頚椎前方固定術のうち4椎間固定以上の118例を対象とした.C5麻痺14例の内訳は女性4例,男性10例で,後縦靱帯骨化症8例,頚椎骨軟骨症6例である.いずれも高度の脊髄圧迫例で,MRIにて10例で髄内高輝度の変化を認めた.術前CT上,特にC4-5での後縦靱帯の脊柱管占拠率と脊柱管前後径をみると,それぞれ48.1%,5.6mmと著しい狭窄がみられた.全例が5カ月以内に筋力3以上に回復した.発症時筋力3以上の軽傷群9例は全例術前レベル以上に改善したが,2以下の重症群では5例中4例で術前筋力以下となる障害を残した.C4-5部での強い狭窄はC5麻痺を起こすひとつの要因と考えられる.また極度な脊髄の前方移動を抑えるため,後縦靱帯は正中で切開するにとどめている.これらの注意により,98年以降発生率は7%に減少した.

頚椎片開き式脊柱管拡大術後C5麻痺の検討―両側partial foraminotomyの予防効果について

著者: 駒形正志 ,   西山誠 ,   遠藤健司 ,   池上仁志 ,   田中惠 ,   今給黎篤弘

ページ範囲:P.403 - P.410

 抄録:1989年以降に行った頚椎片開き式脊柱管拡大術305例のうち13例(4.3%)に主として第5頚神経領域の運動麻痺(以下C5麻痺)を経験した.麻痺症例が術前から易損性を有していたか否かを知るため術前の臨床所見,筋電図所見,頚椎柱弯曲指数,上関節突起前方突出度等について非麻痺例と比較したが有意差はみられなかった.また麻痺例にはC5領域の痛みを10例(77%)に,知覚障害を8例(62%)に伴っており根障害を疑わせる所見であったが,痛みを伴わない例も3例あった.麻痺発生までの期間は手術当日から術後28日まで分散していたが,5日以降に発生した例では全て座位や上肢自動運動など上肢の重量負荷を契機としていた.運動麻痺は全例が1年以内に筋力5まで回復した.一方予防対策として1993年以降C5,C6神経根に対してopen sideとhinge sideにpartial foraminotomyを行っており麻痺の発生は有意に減少した.

RAにおける後頭-環軸椎関節病変の画像診断法と治療方針

著者: 清水敬親 ,   馬場秀幸 ,   笛木敬介 ,   登田尚史 ,   井野正剛 ,   田内徹

ページ範囲:P.413 - P.420

 抄録:関節リウマチ(以下,RA)の頚椎病変例において,従来あまり積極的な検索がなされてこなかった後頭-環椎(O-C1)関節病変を検知しうる画像診断手法をretrospectiveに検討し,頭蓋頚椎移行部への観血的治療方針を立てる場合の理論的根拠の一部を得ることを目的とした.過去に頚椎手術を行ったRA70例の術前画像を調査した結果,3D-CTやMRIの矢状断・前額断像がO-C1関節の病態把握に有用であり,VS例の約半数に何らかのO-C1関節病変が認められた.術前ハロー牽引中のVS整復過程を検討すると,環軸椎間で整復される例(46%)とO-C1で整復が生じる例(35%)が存在し,これもVS病変の主座を知る手がかりとなった.また,歯突起が斜台の腹側にすべり上がっていく非定型的なVSパターンも4例確認された.RAの頚椎病変(特に上位頚椎)においてはO-C1関節病変の存在頻度は決して低くなく,その検索は患者の愁訴の理解,術式決定に役立つものである.

RA上位頚椎病変に対するコンピュータ支援手術

著者: 星地亜都司 ,   中島勧 ,   竹下克志 ,   北川知明 ,   阿久根徹 ,   川口浩 ,   中村耕三

ページ範囲:P.421 - P.426

 抄録:関節リウマチによる上位頚椎病変に対して環軸椎間スクリューや椎弓根スクリューを用いた内固定手術を行うにあたり,コンピュータナビゲーションシステムを使用した.造影CTを使用することにより椎骨動脈の走行もモニターした.19症例の術後画像をCTにて評価した.スクリュー誤挿入による神経血管合併症はなく,高い精度でスクリュー挿入を行うことができた.矯正損失もなく,良好な固定性が得られた.本システムは,術前のプラン作成や手術の安全性向上に有用である.

RA頚椎手術後の長期予後―垂直亜脱臼の有無による比較検討

著者: 藤谷正紀 ,   小熊忠教 ,   長谷川匡一 ,   織田格 ,   三浪三千男 ,   松野誠夫

ページ範囲:P.427 - P.435

抄録:術後10年以上経過例,すなわち1979~1990年の12年間に手術を行った症例93例中66例(調査率71%)について,関節リウマチ(以下RA)頚椎手術後の予後を特に垂直性亜脱臼(以下VS)の有無に注目して検討した.対象症例は女性61例,男性5例であり,手術時年齢は25~74歳,平均54.6歳である.術後10年での生存率は環軸椎後方固定術で対処した非VS例29例が69%,軽症なVS例28例が50%,後頭骨頚椎後方固定術および頚椎前方・後方同時固定術で対処した比較的重症なVS例9例が56%で示すように,環軸椎後方固定術で対処した軽症のVS例であっても手術時すでにVSである例に対してVSそのものを整復しない従来のin situの固定術では予後は良好でなかった.しかし後頭骨頚椎後方固定術で対処した重症なVS例であっても予後が著しく不良ではなく,四肢麻痺や呼吸麻痺等の危険な状態を放置するよりは明らかにそれなりの治療価値がある.

RA上位頚椎病変の手術的治療と成績

著者: 石井祐信 ,   中村聡 ,   橋本功 ,   松原吉宏 ,   川原央 ,   渡辺長和 ,   清野仁 ,   山崎伸

ページ範囲:P.437 - P.443

 抄録:RA上位頚椎AASで固定術を行った130例(男性30例,女性100例)の手術適応,術式の選択,手術成績について検討した.C1-C2固定にはMagerl法が固定性,骨癒合,術後の外固定の面で優れるが,スクリュー刺入の難しさ,血管・神経損傷,後咽頭損傷,手術時間の延長,X線被曝などが問題となる.Brooks法は固定性に優れているが,骨粗鬆症を合併したRA例では整復の戻りが生じる可能性がある.非整復性AASは,大後頭孔拡大,C1後弓切除の後方除圧+O-C3固定が根幹的手術である.全般に除痛はよく得られるが,脊髄症状が進行すると既存の四肢関節傷害と相俟って機能障害の改善は一層不良となる.RA上位頚椎病変の多くが進行性であり,経時的なX線撮影と神経学的チェックが必要である.脊髄症と診断されれば,全身状態が良好で,機能障害の改善が見込めるうちに手術適応を考慮すべきである.

関節リウマチの頚椎手術例の生命予後と予後不良因子の検討

著者: 中津井美佳 ,   加藤義治 ,   和田啓義 ,   東儀洋 ,   伊藤達雄

ページ範囲:P.445 - P.450

 抄録:1991~2001年までに当科にて頚椎手術を施行したRA患者78例(男性20例,女性58例:追跡率88.6%)を,生存群と死亡群に分け,手術時年齢,RA発症時年齢,RA罹病期間,RA頚椎の病態,脊髄症の重症度の比較,死亡原因,性別,年代別,手術時のRA頚椎の病態および重症度,脊髄症の重症度別の死亡率を比較検討した.手術時平均年齢61.6歳,RA歴平均16.8年,RA発症平均年齢44.4歳,経過観察期間平均3.6年であった.追跡時,生存53例,死亡25例(術後平均生存期間2.5年)死亡時平均年齢66.5歳で,死因は感染症が最も多かった.生命予後不良因子は,男性,RA発症年齢が比較的高い例,短期間に頚髄病変が増悪する例,SASの重症例,RanawatⅢb群であり,予後には,頚髄障害の重症度の関与が高いと考えられる.手術による移動能力の獲得により生命予後が明らかに改善するため,手術の意義は高い.

腰椎椎間板変性と運動力学特性の関連

著者: 田中信弘 ,   ,   ,   藤原淳 ,   藤本吉範 ,   越智光夫

ページ範囲:P.453 - P.461

 抄録:本研究は,椎間板変性度の違いによる三次元的生体力学特性を比較検討することを目的とした.47新鮮遺体(死亡時年齢39~87歳,平均68歳)より採取した114椎間を対象とした.椎間板変性度は,MR画像とcryomicrotomeによる肉眼的形態を用い,Thompson分類に従いⅠ度からⅤ度に分類した.生体力学検査は,重錘を使用し純モーメントを上位椎体に加え,屈曲,伸展,左右回旋,左右側屈の各6方向のrotational angleおよびtranslationを求めた.T12-L1からL3-4椎間までの上位腰椎では,回旋,屈曲運動はⅣ度で増大し,Ⅴ度で減少し,側屈運動はⅢ度で増大していた.一方,L4-5,L5-S1の下位腰椎では,回旋,側屈運動はⅢ度で増大していた.腰椎運動力学特性は椎間板変性により影響され,特に回旋運動では椎間板変性による影響が大きく,Ⅲ度,Ⅳ度の椎間板変性は腰椎不安定性に大きく関与していることが示唆された.

腰椎不安定性を有する患者の臨床症状

著者: 笠井裕一 ,   森下浩一郎 ,   竹上謙次 ,   内田淳正

ページ範囲:P.463 - P.467

 抄録:腰椎不安定症の臨床所見として,いわゆるpainful catchやapprehensionが知られているが,これらはいずれも曖昧な症候である.そこで,われわれは,腰椎不安定性を有する患者が日常診療上でよく訴える症状に注目し,腰椎退行性疾患の手術例368例を対象として,腰椎単純X線上で不安定性(+)群88例と不安定性(-)群280例の2群に分け,両群間で比較検討を行った.その結果,1)朝に痛みが強い,2)立ち上がり時の疼痛の増悪,3)寝返り時の疼痛の増悪,4)天候の悪化による疼痛の増悪,の4つの症状が腰椎不安定性を有する患者に高頻度にみられる臨床症状であることがわかった.

腰椎不安定症の新しい分類と骨画像的不安定症に対する脊椎instrumentationの成績

著者: 佐野茂夫 ,   永井一郎 ,   石井桂輔 ,   石井博泰 ,   横尾冠三 ,   古宮慶太

ページ範囲:P.469 - P.477

 抄録:腰椎不安定症の定義と診断における混乱を解決するため新しい分類を作成した.腰椎の動的変化,神経圧迫の動的変化そして臨床症状という3つの側面から骨画像的不安定症,神経画像的不安定症,臨床的不安定症に分類した.さらにおのおのを不安定性が証明できる不安定症と,直接証明はできないが間接的に示唆される準不安定症とに分け,それぞれの定義と診断を作成し,これを独立に使用することで混乱を解決できた.本分類の骨画像的不安定症は,画像上,不安定性を証明できる病態である.これに対する脊椎instrumentationの成績を検討した.対象は78例(男性31例,女性47例)で,JOAスコアは平均11点→23点で改善率は66%と良好であった.成績は分離すべり症や椎間板ヘルニアでは改善率80%前後と良好で,術後不安定症やRAでは50%以下で不良であった.局所前弯の改善および%slipの改善はPLF単独群よりもPLIF併用群で有意に優れていた.

椎間不安定性(後方開大)を示した腰椎椎間板ヘルニアに対するLove法の長期成績

著者: 依光悦朗 ,   千葉一裕 ,   西澤隆 ,   中村雅也 ,   丸岩博文 ,   松本守雄 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.479 - P.485

 抄録:L4/5の腰椎椎間板ヘルニアに対しLove法を施行した症例のうち,術前の側面前屈位X線にて5度以上の椎間後方開大を示した症例と後方開大を認めなかった症例の長期成績をretrospectiveに比較検討した.後方開大あり群となし群の長期成績には有意差はなく概ね良好であり,術前の後方開大の術後成績に及ぼす影響は軽微であると考えられた.X線学的には,後方開大あり群では,椎間板高の狭小化とともに,後方開大は減少する傾向にあった.しかし著しく椎間が狭小化した症例の腰痛スコアは悪かった.一方,術前の椎間板変性度は遺残性腰痛の発現に大きく影響を及ぼしていた.このことから腰椎椎間板ヘルニアに対する術式の選択には,後方開大所見よりも患者の社会的背景や椎間板変性度を重視すべきであると考えられた.

PLF単独およびPLIF併用の脊柱再建術が隣接椎間に与える生体力学的影響

著者: 須藤英毅 ,   鐙邦芳 ,   織田格 ,   放生憲博 ,   伊東学 ,   小谷善久 ,   三浪明男

ページ範囲:P.487 - P.491

 抄録:腰椎後側方固定(PLF)と後方進入椎体間固定(PLIF)併用による固定脊柱の剛性は極めて高く,脊椎配列の保持に優れるといわれる.一方,その高い剛性が,固定隣接椎間の早期変性を招く可能性が指摘されているが,現在までPLFとPLIFの隣接椎間への力学的影響を比較した報告はない.本研究の目的は,PLF単独およびPLIF併用の腰椎再建が隣接椎間に及ぼす影響を明らかにすることである.仔牛屍体の腰仙椎を使用し生体力学試験を行った.前後屈の純粋モーメントを負荷した(最大±6N).固定椎間数は1ないし2とし,上位隣接椎間板内圧と椎弓の歪み量を測定した.2椎間以上の固定の場合,隣接椎間への影響はPLF単独よりPLIF併用のほうが大きいことが示唆された.椎体間固定を行う場合,固定椎の剛性の高いPLFとPLIFの併用は隣接椎間に対する力学的影響を高め早期変性を招く危険性がある.

腰椎変性すべり症に対する後方除圧術の中長期成績と術後不安定性の検討―椎弓切除術と開窓術の比較

著者: 西澤隆 ,   千葉一裕 ,   中村雅也 ,   松本守雄 ,   丸岩博文 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.493 - P.499

 抄録:腰椎変性すべり症に対し施行した椎弓切除術(13例:男性3例,女性10例)と開窓術(16例:男性10例,女性6例)の中長期成績を検討し,術後に発生するすべりの進行について自然経過例と比較した.その結果,両術式の術後JOAスコアと改善率に有意差を認めなかった.しかし,再狭窄の発生率は椎弓切除群(7.7%)より開窓術群(18.8%)で高かったことから,上位椎弓正中部やlateral recessの除圧不足が懸念される症例では椎弓切除術による十分な除圧が望ましい.また,画像所見の検討では,両術式によるすべり率,すべり率変化,椎間高比への影響は自然経過例と比較して有意差を認めなかった.また,すべりの進行と椎間高比あるいは改善率に相関を認めなかった.つまり,腰椎変性すべり症に対する後方除圧術後にみられたすべりの進行は,手術による影響よりむしろ自然経過による影響が大きいものと考えられた.

中間位すべり度と前後への椎体動揺度が腰椎の臨床症状に与える影響の比較

著者: 赤浦潤也 ,   井口哲弘 ,   栗原章 ,   笠原孝一 ,   金村在哲 ,   山崎京子 ,   佐藤啓三

ページ範囲:P.501 - P.507

 抄録:腰下肢症状を呈する880例について中間位でのすべり度と前後への椎体動揺度が臨床症状に与える影響について調査した.方法は,単純X線側面像で中間位すべり度および前後への椎体動揺度を計測し,3mm以上と未満で4群に分類して,各群の臨床評価点数(JOAスコア)を比較した.結果は,中間位ですべりを有する群は有意に年齢が高く,すべりの発生には加齢的変化が影響していると考えられた.中間位すべりを有する群は動揺度の有無に関わらず有意に点数が低かった.また動揺度の有無での有意差はないが,中間位すべりを合併すると症状に影響していた.すなわち中間位でのすべりは前後への椎体動揺性よりもより強く臨床症状に影響を与えていた.以上の結果から,臨床症状に関与する腰椎の不安定性の指標としては,中間位でのすべりが前後への動揺性よりも重要であると証明された.

腰椎不安定症に対する可動性を温存した脊柱再建術―新しいSpine Dynamic Stabilization System(DYSS)の開発とその生体力学的特性

著者: 白土修 ,   放生憲博 ,   三浪明男 ,   但野茂

ページ範囲:P.509 - P.516

 抄録:本論文の目的は,筆者らが開発した動的脊椎安定化術の新しいsystemを紹介し,その生体力学的特性を評価することである.このsystemは,従来のGraf systemのscrew基部に改良を加え,ダクロン性人工靱帯とチタン製スプリングを同時に使用するものである.さらに,椎骨へのanchorとしてSG(Self-Grasping)hookを開発し,椎弓把持性に関する評価も施行した.実験には仔牛腰椎6体を使用し,材料試験機に設置後,圧縮(100N),前・後屈(5N-m),側屈(5N-m),回旋(10N-m)の5種類の荷重を負荷した.まず 1)健常群,2)除圧群(L4/5に内側椎間関節切除術)を評価後,3)Graf system,4)SG hook+Graf人工靱帯,5)screw+人工靱帯+スプリングの3種類の再建術を無作為に施行し,評価した.新しいsystemは,従来のGraf systemと比し,前屈では同程度の,後屈,側屈では優れた安定性を示した(p<.05).しかし,回旋での安定性は同等の値であった.SG hookの固定性は良好であった.隣接椎間の変位は,新systemで大きくなる傾向にあったが,統計学的有意差はなかった.今回開発したsystemは,従来のGraf systemと比し,より多方向への安定性を示した,しかし,回旋方向への安定性は不十分であり,systemの耐容性と併せて,さらなる改良が必要である.

仙骨全摘後再建法の生体力学的検討―新しい再建法の評価

著者: 村上英樹 ,   川原範夫 ,   坂本二郎 ,   吉田晃 ,   南部浩史 ,   上田康博 ,   尾田十八 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.517 - P.523

 抄録:仙骨全摘後の再建法として現在行われている再建法と,当科で新たに考案した再建法を生体力学的に比較検討した.MGRモデルでは第5腰椎椎弓根スクリューと腸骨スクリュー間の脊椎ロッドに生じる最大応力値がチタン合金の降伏応力をはるかに超えており,この部位でロッドが破損する危険性が高いことが示された.またTFRモデルでは,インスツルメント破損の危険性は低いものの,腸骨や第5腰椎の仙骨ロッド挿入部周囲における最大応力は,皮質骨の降伏応力を超えており,仙骨ロッドの緩む可能性があることがわかった.すなわち,現在施行されている仙骨全摘術後の再建法では,術直後から荷重負荷がかかると生体力学的にインスツルメントの破損や緩みの危険性が高いことが証明された.しかし,NRモデルでは,インスツルメントや隣接する骨に生じる応力は減少し,過度の応力集中は認められなかった.当科で考案した新しい再建法は,術後早期からの荷重にも耐えうる有用な再建法のひとつであることが証明された.

骨粗鬆症性脊椎におけるpedicle screw固定性強化を目的としたリン酸カルシウム骨ペーストの応用―基礎と臨床

著者: 武政龍一 ,   谷脇祥通 ,   山本博司 ,   谷俊一 ,   谷口愼一郎

ページ範囲:P.525 - P.534

 抄録:われわれはリン酸カルシウム骨ペースト(CPC)による脊椎screw固定の力学的補強に関する基礎研究を行い,臨床応用を開始した.

 力学試験;実験的骨粗鬆犬9頭および非骨粗鬆犬5頭に横突起基部から椎体にscrewを刺入し,CPC補強の有無にてscrewの引抜き強度と剛性値を比較した.その結果,引抜き強度および剛性とも1,2,4週時すべてにおいて補強群が非補強群と比べ有意に高い値を示した.CPCでscrewを補強したものは,骨粗鬆犬であっても,非骨粗鬆犬における通常screwと同等以上の力学強度が得られていた.

 臨床応用;重度骨粗鬆症患者6例における使用経験を検討した.椎体圧潰の5例には,椎体内CPC注入に加え,ほとんどが頭尾側1椎のみのCPC補強pedicle screwによる後方固定術にて,術前平均34°の後弯角が術後17°に改善し,術後平均8カ月時まで19°を維持していた.変性側弯症の後側方固定術に使用した1例も,使用した6本中5本のscrew周囲にはclear zoneを認めず,移植骨の骨癒合が得られ経過良好であった

発育期における腰椎分離症のすべり発生の主因は椎体成長軟骨板損傷である

著者: 西良浩一 ,   加藤真介 ,   酒巻忠範 ,   井上めぐみ ,   小松原慎司 ,   佐野壽昭 ,   安井夏生

ページ範囲:P.535 - P.540

 抄録:発育期腰椎分離症がすべり症に進展するメカニズムを明らかとするために,幼若ラット脊椎すべりモデルを考案し,そのX線像および組織所見からすべり発生メカニズムを考察する.実験動物は4週齢雌ラットを用いた.脊椎後方不安定手術を行い,術後1,2,3週目の単純X線像から%slipを計測し,すべりの評価とした.術後1週ですべりは生じており,%slipで7.2%のすべりを生じていた.この結果を受け,すべりが生じ始める術後1週の時点で腰椎を摘出し,HE染色にて椎間板と成長軟骨板の形態を評価した.髄核の形態は保たれており,線維輪の走行変化もなかった.すなわち,発育期の椎体すべりでは,椎間板は正常に保たれている状態で椎体がすべっていることがわかった.一方,尾側椎体の椎体成長軟骨板は後方で解離しており,幼若期の椎体すべりには,成長軟骨板損傷が関与していることが示唆された.

側弯変形を伴った不安定腰部脊柱管狭窄症に対する脊椎インストゥルメンテーション手術―固定範囲決定の指標は何か?

著者: 種市洋 ,   須田浩太 ,   楫野知道 ,   久木田裕史 ,   海老原響 ,   金田清志

ページ範囲:P.541 - P.548

 抄録:側弯変形を伴った不安定腰部脊柱管狭窄症(以下,変性側弯症)に対して後方進入腰椎椎体間固定術(以下,PLIF)を施行し術後2年以上経過観察可能であった18例を対象に臨床成績を分析し,本症に対する脊柱再建術における固定範囲決定の指標を検討した.固定範囲がL3以上に及んだlong fusion群は,L4以下の固定にとどめたshort fusion群に比し,腰椎前弯形成の点で有利であった.その他は両群ともに良好な治療成績であった.合併症はlong fusion群で固定隣接椎の問題が多く発生した.固定範囲決定の指標としては,回旋不安定性の小さなSimmons分類のTypeⅠ症例は矢状面でのすべり椎間固定のみ,一方,回旋不安定性や前弯減少傾向の強いSimmons Type Ⅱ症例に対しては,すべての回旋不安定椎間あるいは後弯椎間を含む固定が妥当であると考えられた.固定術式では十分な椎間板リリースによる変形矯正が可能なPLIFが前弯形成の面から有利である.

脊椎手術後肺塞栓症の早期診断と治療指針

著者: 井上剛 ,   小森博達 ,   大川淳 ,   波呂浩孝 ,   四宮謙一

ページ範囲:P.549 - P.554

 脊椎手術後に発生する肺血栓塞栓症を疑う際の診断・治療指針を作成し,2年間の臨床実施の結果からその実用性を検討した.対象は1999年10月~2001年10月の間に当院で脊椎手術を受けた217例(うち伏臥位186例)である.血液ガス分析と肺血流シンチグラムを用いた早期診断基準・治療指針をまとめた.診断基準に沿った低酸素血症を呈した症例と,肺血流シンチグラムで血流欠損が確認された症例の割合を調べた.全症例中,診断基準に必要な検査がすべて行われていたものは165例で,肺塞栓症の診断指針に沿った低酸素血症を呈したものが21例であった.このうち肺血流シンチグラムにより血流欠損像が確認されたのは5例であった.すべて伏臥位手術例であり,伏臥位例中の3.5%を占めていた.手術前後の動脈血液ガス分析は,肺血流シンチグラムを組み合わせることにより肺塞栓症の早期発見に有用である.

脊椎手術後の深部静脈血栓症(DVT)の検討

著者: 小林俊之 ,   南和文 ,   中嶋隆夫 ,   伊藤博元 ,   玉井健介 ,   宮本雅史

ページ範囲:P.557 - P.562

 抄録:2000年4月から2002年4月までに,脊椎手術後に下肢静脈造影を行った42例を対象としてDVTの発生率と発生高位および年齢,性別,肥満度,手術時間,出血量,Dダイマー値との関連を検討した.Dダイマー値は術翌日と術後7日に測定した.静脈造影の結果,12例(28.6%)がDVT陽性であった.しかし,全例無症候性であった.発生高位は近位型3例(7.1%),遠位型9例(21.4%)であった.DVT陽性群と陰性群の比較では,年齢,性別,肥満度,手術時間,出血量に有意差はみられなかった.Dダイマー値は術後1日で,有意な差は認めなかったが,術後7日でDVT陽性群12.7±2.63μg/ml,DVT陰性群4.8±0.54μg/mlとDVT陽性群で有意に高値であった(p<0.01).特にDVT陽性群のなかでも,末梢型よりも中枢型で有意に高値であった.Dダイマー値は脊椎手術後のDVT発症の重要な指標となりうる.

脊椎インストゥルメンテーション手術後創感染早期診断に白血球分画が有用である

著者: 髙橋淳 ,   江原宗平 ,   中村功 ,   平林洋樹 ,   北原淳 ,   上村幹男 ,   加藤博之

ページ範囲:P.565 - P.570

 抄録:白血球分画が術後創感染早期発見に有用であるかを検討した.脊椎インストゥルメンテーション手術後2週以内に創感染を起こした群(以下INF群)6例と,INF群と年齢,性別,術式をマッチさせた群(以下CTRL群)24例を対象にした.術前,術後の白血球数(以下WBC),白血球分画を測定した.WBC,好中球%,好中球数はINF群では4日目までCTRL群と同様な推移を示した後,術後7日目より再上昇した.リンパ球%・リンパ球数は,両群とも術後1日目には10%・1,000/μl以下に下がる.術後4日目からCTRL群は徐々に正常化し3週で術前と同レベルに戻るがINF群では術後11日目まで10%・1,000/μl以下を持続した.感染例で術後4日目の早期にリンパ球%とリンパ球数が有意に低下していた.これは,免疫抑制状態を示し,易感染性を呈し,術後感染を誘発する.この,リンパ球低下の時期を早期に診断できれば,術後創感染をインストゥルメントの抜去をすることなしに早期に治療できると考える.

化膿性脊椎炎78例の検討

著者: 橋爪洋 ,   玉置哲也 ,   川上守 ,   安藤宗治 ,   山田宏 ,   河合将紀 ,   岩崎博 ,   吉田宗人

ページ範囲:P.571 - P.576

 抄録:当科で経験した化膿性脊椎炎78例について検討した.1973年4月~1987年12月までを前半期,1988年1月から2002年4月までを後半期として比較すると,後半期の化膿性脊椎炎の臨床像として,患者の高齢化,いわゆるcompromised hostの増加,急性症状を呈さない症例の増加,起因菌(特に弱毒菌)の多様化が特徴的であった.手術適応は前半期:1)脊髄症状の合併,2)X線像で骨破壊が進行しアライメント不良を生じたもの,3)明らかな膿瘍が存在するもの,の3つであったが,後半期は6~8週の保存療法に抵抗する症例にも積極的に手術を行った.この手術適応の拡大により,化膿性脊椎炎全体の平均治療期間は有意には短縮されなかった.しかし,病巣の掻爬と骨移植が的確に行われれば,化学療法の期間短縮が可能であり,腰椎罹患例においては腰痛の遺残を予防できる可能性があることが示された.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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