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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科38巻5号

2003年05月発行

雑誌目次

視座

情報化時代における医療のかたち

著者: 内尾祐司

ページ範囲:P.587 - P.588

 1960年代から出現したコンピュータは人間の計算処理,記憶能力をはるかに超え,それに携わる知的労働者の時間を飛躍的に短縮させた.また,元来米国で軍事的システムとして構想されたインターネットはコンピュータの発達と共に政府機関・大学研究組織間の情報網を拡大させ,1989年にはTim Berners-Leeが発明したWorld Wide Webによって民間企業を含めたネットワークを全世界に構築するに至った.そして今,家庭ではコンピュータ端末のキーをはじくだけでネットワーク内に蓄積された情報は簡単に取り出せる時代になった.情報の時間的・空間的障害がなくなった情報化時代の今,組織はどのような形をとっていくのであろうか.

 組織の世紀といわれる20世紀には階層的・官僚的組織こそが最強,最善の組織としてみなされてきた.
P. F. ドラッガーによれば,「産業革命は人間を単純な機械的作業から情報収集,分析,利用などの知的作業へシフトさせた.しかし,個々の人間の情報処理能力には限界があるために,組織の階層化,分業化,専門化を進めることが必要であり,そのためには官僚型の組織こそが効率性・利便性・生産性にすぐれた組織として認識されてきた」という.しかし,20世紀末には効率性だけでは対処しきれない価格破壊や,組織の利益を追求するあまり生じた政官業の癒着・談合,薬害,不正経理などの社会問題はこれまでの組織そのもののあり方の問題や矛盾を露呈し,今,別の組織のあり方が模索されようとしている.企業は従来の階層的・官僚的組織とは異なった組織,例えば顧客を中心とした逆ピラミッド型,あるいはネットワークを用いたフラット型の組織変革を行うことで企業としての生き残りをかけようとしている.

シンポジウム 外傷に伴う呼吸器合併症の予防と治療

緒言 フリーアクセス

著者: 川井真

ページ範囲:P.590 - P.592

 外傷に伴う呼吸器合併症の予防と治療は,整形外科医にとっては苦手なテーマであり,できれば一生関わらずにいられればと願っていると思われる.しかし近年では対象患者の高齢化により基礎疾患および合併症を併発することは,日常診療では一般的になってきている.また若年者の高エネルギー外傷による重症外傷患者を治療する機会も多くなってきているのが実状である.主たる損傷を治療する医師(主治医)は,患者に対して,今後起こりうる合併症の危険を十分に説明し,予防する義務がある.このため整形外科医であっても外傷に伴う呼吸器合併症の予防と治療に努めなければならない.

 まず外傷に伴う呼吸器合併損傷には,急性期には緊張性気胸・フレイルチェスト・肺挫傷・血気胸・横隔膜ヘルニア・気管/気管支損傷が上げられる.受傷後1時間以内にこれらの疾患を診断し治療しなければpreventable death(予防可能な死)になる.このため大腿骨骨折で搬送されてきても全身の診察が重要となる.

大腿骨近位部骨折術後の深部静脈血栓症の発生と治療

著者: 塩田直史 ,   佐藤徹 ,   松尾真嗣 ,   梶谷充 ,   坂田賢一郎 ,   井上一

ページ範囲:P.593 - P.599

 抄録:大腿骨近位部骨折53例について深部静脈血栓症(DVT)の発生と手術方法・手術までの期間,血栓マーカーであるD-dimerとの関係を検討し,浮遊型DVT発生7例に血栓溶解療法を行い評価した.症候性肺塞栓症(PE)は認めなかったが,静脈造影からは17例(32.1%)にDVTが認められた.また,CHSよりBHPに有意にDVT発生が多く,近位型が多い.大腿骨頚部内側への手術操作が近位型DVT発生の原因となり,また受傷48時間未満での手術がDVT発生を有意に抑制する.術後7日目のD-dimer測定で,cut off値を10μg/mlに設定することでDVTの発生を予測できる.浮遊型DVTへの血栓溶解療法は有効であった.DVT・PEはそれぞれ別の疾患ではなく密接に関連しており,また突発的な発生で致死的であることから,受傷時より予防・検索・治療のすべてを包括的に進めていくことがDVT・PEの対策として重要である.

髄内釘手術と肺脂肪塞栓

著者: 新藤正輝 ,   田中啓司 ,   相馬一亥 ,   西巻博 ,   糸満盛憲

ページ範囲:P.601 - P.606

 抄録:[目的および方法]骨折やリーミング操作が肺に及ぼす影響について,気管支肺胞洗浄液の分析および肺血流シンチにおける陰影欠損の評価を用いて検討した.また,これらの結果を脂肪塞栓症候群発症群と比較検討するとともに,発症後の髄内固定の是非および時期についても検討した.[結果]多くの例において,骨折や髄内釘手術により潜在的肺脂肪塞栓が生じていたが,いずれも臨床症状を呈するほどのものではなかった.また,リーミングの有無による明らかな差も認められなかった.肺脂肪塞栓量については,脂肪塞栓症候群発症例と非発症例で差は認められなかった.発症後早期の髄内固定は,厳重な呼吸管理下においては安全に行え,術後の呼吸機能の悪化もみられなかった.[結論]骨折,髄内釘手術後に発症するARDSは,肺毛細血管への脂肪塞栓に端を発していることは間違いないが,脂肪塞栓量とは必ずしも相関がみられず,他の因子の関与が示唆された.

骨折患者に発症した肺血栓塞栓症

著者: 加藤宏 ,   長谷川栄寿 ,   辺見弘 ,   木下藤英 ,   星野瑞 ,   倉本憲明 ,   川井真 ,   大泉旭 ,   原義明 ,   山本保博

ページ範囲:P.607 - P.612

 抄録:骨折治療中に発症した肺血栓塞栓症(PTE)4例を提示した.症例1(58歳,女性,下腿骨骨折)は受傷8日(術後6日)に突然のショックから死亡に至り,剖検で診断された.症例2(60歳,男性,胸椎骨折),症例3(36歳,男性,骨盤骨折),症例4(52歳,男性,下腿骨骨折)は,各々受傷19日(術後15日),14日(創外固定中),5日(牽引中)に突然呼吸困難と低酸素血症が出現した.いずれも胸部X線や心電図には異常を示さなかったが,引き続き実施したヘリカル造影CTで肺動脈内血栓を認め,直ちに抗血栓療法を開始して症状改善が得られた.PTEは骨折患者の年齢や時期を問わず生じる重篤な合併症のため,積極的な初期検索と早期治療が求められるが,今回ヘリカル造影CTにはスクリーニング検査としての高い有用性が示唆された.また,症例4はPTE発症後に内固定を実施したが,手術侵襲に伴う再発防止には一時留置型下大静脈フィルターの併用が安全かつ有効であると思われた.

外傷に伴う脂肪塞栓症候群の治療経験

著者: 下林幹夫 ,   稲田有史

ページ範囲:P.613 - P.617

 抄録:骨折を伴う高度な外傷の呼吸器合併症として脂肪塞栓症候群・肺血栓塞栓症が挙げられ,治療および診断に困難を極める.今回われわれは1992年から2002年までの10年間に当救命センターで経験した外傷に伴う脂肪塞栓症候群・肺血栓塞栓症の7症例を再検討し,特に急性期発症例での問題点を考察した.脂肪塞栓症候群を診断するうえで急激に発症する例ではどうしても肺血栓塞栓症を否定する必要があり,また治療が異なることからその鑑別には急を要する.われわれの施設では,まず非侵襲的な検査により右心負荷の状態を把握し,急を要さない全身状態であればherical-CT・肺血流シンチを行う.しかし,予断を許さない全身状態であれば経皮的心肺補助装置を装着して肺動脈造影を行うようにしている.整形外科医は患者の呼吸器合併症が発症した際の戦略を普段から立てておくことが必要であると思われた.

大腿骨近位部骨折における肺血栓塞栓症の危険因子とその予防

著者: 阿部靖之 ,   岡嶋啓一郎 ,   中野哲雄

ページ範囲:P.619 - P.625

 抄録:大腿骨近位部骨折は肺血栓塞栓症(PTE),深部静脈血栓症(DVT)のリスクが非常に高い.499症例の検討では,症候性PTEは12例,2.4%発症しており,4例が死亡していた.統計学的検討では片麻痺,心疾患,人工骨頭置換術がPTEのハイリスクであった.下肢静脈造影検査でDVTが認められなかった21症例の平均D-dimer 11.4μg/ml,DVT,PTE症例9例の平均D-dimer 41.4μg/mlで,統計学的にも有意差があり,スクリーニングとして,D-dimerが有用と思われた.D-dimerが高値の場合,肺動脈造影CT,下肢静脈造影CTを撮影し,早期診断を行っている.ほぼ全例に対して,弾性ストッキングなどの機械的予防法を行いながら,さらにハイリスクな症例には,抗凝固療法を組み合わせている.また,軽症のPTEの早期発見のために,低酸素血症のモニタリングも必要である.

重症外傷に伴う呼吸器合併症の予防と治療

著者: 原義明 ,   川井真 ,   森田良平 ,   長谷川栄寿 ,   野崎正太郎 ,   加藤宏 ,   大泉旭 ,   益子邦洋 ,   山本保博

ページ範囲:P.627 - P.633

 抄録:四肢骨盤骨折を伴う多発外傷症例に対する早期固定術は,呼吸器合併症の発生を予防できるかどうかを検討した.当施設に搬送された多発外傷患者(ISS≧20)について,四肢骨盤の固定手術時期を受傷から72時間を境界とし早期固定群と晩期固定群に分け,各症例について呼吸器管理日数,酸素化係数,ICU期間,SIRS期間,死亡率などを記録した.対象症例は118例,平均年齢37.4(16~81)歳,男女比77:41,平均ISS 28.6(13~56)であった.頭部・胸部外傷合併例で早期固定群のほうが晩期固定群より有意差はないものの酸素化係数,ICU期間,SIRS期間,呼吸器管理期間において優れた結果であった.腹部外傷合併例では固定時期による差は認められなかった.呼吸器合併症全体の発生頻度は早期固定群が45%であるのに対し,晩期固定群が71%であった.予後は早期固定群で74%に対し,晩期固定群で67%と有意差はなかった.死亡率に関しては,有意差はないもののやや早期固定群が優れていた.

論述

腰椎椎間板ヘルニアに対する前方固定術後の再手術例の検討

著者: 石原裕和 ,   金森昌彦 ,   川口善治 ,   長田龍介 ,   大森一生 ,   木村友厚 ,   辻陽雄 ,   松井寿夫

ページ範囲:P.635 - P.641

 抄録:腰椎椎間板ヘルニアに対し前方固定術を施行した90例を対象とし,術後臨床成績と再手術の原因を調査した.治療成績はJOAスコアで,術前平均7.6点から術後1年13.6点,最終調査時12.9点と安定した長期成績を示していた.術後再手術症例は17例(19%)に認めた.L5/Sで総腸骨動静脈が側方に位置する症例において移植骨の脊柱管内打ち込み,椎間レベルより転位したヘルニアにおいてヘルニアの取り残しがそれぞれ1例発生し,術後後方手術を追加した.このような症例に対する前方固定術(腹膜外アプローチ)の適応については,十分な注意が必要である.採骨に伴う外側大腿皮神経障害1例に対し神経剝離術を施行した.有症性偽関節,遷延癒合が2例存在した.隣接椎間障害が術後1年から14年にわたって12例(13%)に発生し,術後再手術の大きな原因となっていた.1例に再前方固定術,11例に後方除圧術を施行した.

境界領域/知っておきたい

Runx2/Cbfa1とOsterix:2つの転写因子の骨格形成過程における役割

著者: 古市達哉 ,   小守壽文

ページ範囲:P.644 - P.646

【はじめに】

 骨芽細胞の分化を支配する転写因子は長らく不明であったが,骨を欠損するノックアウトマウスの誕生により2つの転写因子が名乗りを上げた.ラントドメイン遺伝子ファミリーに属するRunx2(runt-related gene 2)/Cbfa1(core binding factorα1)とSp/XKLFファミリーに属するOsterixである.これらの遺伝子のノックアウトマウスでは骨芽細胞分化が著明に阻害されており,Runx2とOsterixは骨芽細胞分化に必須の転写因子であることが示された.Runx2欠損マウスでは軟骨細胞,破骨細胞の分化・成熟も阻害されており,Runx2の骨格形成における役割は多岐に及ぶ.Osterix欠損マウスでは軟骨細胞,破骨細胞への影響は認められず,骨格形成におけるOsterixの役割は骨芽細胞に限定される.

運動器の細胞/知っておきたい

骨格筋細胞(筋線維)

著者: 寺田信樹 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.648 - P.649

【はじめに】

 骨格筋は発生・再生過程の研究が比較的早期から行われてきた組織であるが,最近10年間でさらに飛躍的な進歩をとげており,特に筋衛星細胞の由来・分化に関しては過去のコンセンサスを覆す発見がなされている.本稿ではこのような最近の研究成果をふまえ,筋構造,筋分化制御因子,筋衛星細胞などについて述べてみたい.

国際学会印象記

『第24回ASBMR(米国骨代謝学会)』に参加して

著者: 川口浩

ページ範囲:P.650 - P.651

 昨年9月20日から24日まで,米国のテキサス州サンアントニオで開催された第24回ASBMR(米国骨代謝学会)に参加しました.本学会についてはご存知の方も多いと思いますが,骨の関係の学会では基礎と臨床の両領域をカバーした世界最大規模の学会です.私自身がこの学会のmembership committeeの一員であるため少々学会の宣伝をさせていただきます.基本的には米国の国内学会ですが,総会員数約3,600人のうち,カナダ,メキシコを除くinternational memberが1,200人を越えており,内容的にはほとんど国際学会と言えます.毎年,2,000演題前後が発表され,高得点を取った約1割が口演,残りはポスター発表となります.一昨年は例の多発テロ事件で参加キャンセルが相次ぎ,参加者が3,000人程度に落ち込みましたが,本年の参加者は3,500人程度であったということです.

連載 医者も知りたい【医者のはなし】 4

佐賀吉野ヶ里遺跡を取巻く江戸の名医たち―日本医学の近代化に関わった五人の医師

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.652 - P.655

※はじめに

 佐賀県神埼にある吉野ヶ里を中心にして東西南北に,江戸後期と明治初期に活躍した4人の医師の故郷がある.伊東玄朴(1800-1871),高松凌雲(1836-1916),相良知安(1836-1906),と佐野常民(1822-1902)である.また吉野ヶ里から東に少し離れた秋月藩(現在の福岡県甘木市内)の藩医緒方春朔(1748-1810)も有名である.彼は牛痘以前の人痘の種痘を広めた医師である.

 今回は総論として,5人の医師の簡単な紹介と,和蘭医学(略して蘭医学)が江戸後期に栄える原動力となった牛痘種痘の普及のこと,それ以前の背景などを述べてみたい.

医療の国際化 開発国からの情報発信

世界を繋ぐ草の根の国際協力―(3)ウガンダでのこと

著者: 小原安喜子

ページ範囲:P.656 - P.658

 1993年12月,ウガンダ共和国西ナイル地区を訪れた.北はスーダン,西はコンゴに接する地域で,西ナイルウイルスの名を思い起す地名である.

 訪問のきっかけは韓国の医大の先生からのお便りだった.前年のクリスマス・カードに国立療養所を辞し,生活の軸足を国際ヴォランティアに移したと書いたことへの思いがけない反応で,その先生方の国際協力フィールドがウガンダにあり,女性ワーカーが助産婦として常駐しているので,協力の意志があれば,という内容である.私が韓国のハンセン病医療に関わり始めたのは1969年だった.以来,韓国の医療界の方々と続いた交流からの呼びかけである.一度フィールドをお訪ね致しますとお応えした.その帰途ケニヤに足を延ばそう,ふとそう思う.というのは,韓国のフィールドに仲間入りした1972年から7年程一緒だった医師夫妻が,帰米して子供達の教育を終え,60歳代に入る頃からケニヤのフィールドに行かれたと聞いていたからである.

臨床経験

セメントレス人工股関節臼蓋コンポーネントと寛骨臼底との骨間隙のX線経過―骨間隙(骨欠損部)のremodeling(骨量回復)について

著者: 吉野正昭

ページ範囲:P.661 - P.665

 抄録:セメントレス人工股関節置換術および再置換術3症例で生じた臼蓋コンポーネントと寛骨臼底との骨間隙をX線学的に経過観察した.全例女性で手術時年齢は平均48歳で,術後経過期間は平均7年6カ月であった.PCA寛骨臼アウターシェルが2関節,タロンカップが1関節で,手術方法は,セメントレスで骨移植せず,それぞれのpress-fit固定手技を行ったが,打ち込み不良で結果的に骨間隙を生じた.全例で術後数カ月以内にX線学的に骨間隙の骨量回復が認められ,1例で全域に,2例で部分的なbone ingrowthが推測された.これらは視点を変えれば臼蓋骨欠損のAAOS分類でType Ⅱに相当し,骨欠損部に骨移植せずにセメントレスで臼蓋コンポーネントを設置した場合と近似したものとみなすことができる.したがってコンポーネントを確実にpress-fit固定することができれば臼底に骨欠損部を残しても骨量は回復し骨性固定が得られる可能性が示唆された.

症例報告

Os intermetatarseumを伴った両外反母趾の1例

著者: 井上敦夫 ,   野口昌彦 ,   日下義章 ,   久保俊一

ページ範囲:P.667 - P.670

 抄録:Os intermetatarseumは第1中足骨と第2中足骨の骨間基部に存在する比較的稀な足部の副骨である.今回,os intermetatarseumに起因すると考えられる外反母趾に対し摘出術を施行した1例を経験し報告した.術前には不可能であった第1中足骨の他動的外反は可能となり,術前に存在した靴を使用する際の足部の違和感(靴の履きにくさ)は消失した.

人工関節置換術後にspontaneous fractureを来した2例

著者: 染谷幸男 ,   田中泰弘

ページ範囲:P.671 - P.674

 抄録:人工関節置換術施行後にspontaneous fractureを来した症例を2例経験した.症例1は80歳,女性.両側変形性膝関節症にて,左TKAを施行した.3カ月後,誘因なく左股関節痛を自覚した.MRIにて,左大腿骨頚部骨折と診断され,骨接合術を施行した.症例2は60歳,女性.左大腿骨頚部内側骨折にて骨接合術後,大腿骨頭壊死となり,人工骨頭置換術を施行した.4年1カ月後,誘因なく左膝関節痛が出現した.MRIにて,左けい骨近位骨折を認めた.人工関節置換術施行後,患者に骨粗鬆症などによる骨の脆弱性が存在したとき,除痛や可動域獲得により活動性の増加や下肢の三次元的なアライメントの変化,関節軟骨や半月板の喪失により関節のクッション機能の低下などが起こり,これらが誘因となり,spontaneous fractureの発生につながると推測された.

頚髄硬膜内髄外に発生した気管支囊胞の1例

著者: 大和雄 ,   村田英之 ,   大谷勝典 ,   市川哲也 ,   長野昭

ページ範囲:P.675 - P.678

 抄録:頚髄硬膜内髄外に発生した気管支囊胞の1例を経験した.症例は74歳女性で左肩関節痛,右半身温痛覚低下,歩行障害を主訴に来院した.左半身に筋力低下,深部知覚障害,深部腱反射亢進,右半身に温痛覚低下を認めるBrown-Séquard型の麻痺を呈していた.MRIではC3からC4椎体レベルにT1強調像,T2強調像でともに高信号を呈する頚髄硬膜内髄外の腫瘍性病変が認められた.手術は頚椎片開き式椎弓形成術により進入したところ,腫瘍は囊胞で,これを顕微鏡下に摘出した.病理組織学的所見で囊胞壁は多列の線毛上皮を有し,壁内に平滑筋,軟骨を認めたため,神経腸管囊腫の範疇に含まれる気管支囊胞の典型例と診断した.本症の術前診断にはMRIが有用であった.また本例では術後化学性髄膜炎を併発しており術中摘出時には囊胞内容物を漏出させないよう注意が必要である.

全人工股関節置換術を施行した先天性第Ⅶ因子欠乏症の1例

著者: 高橋完靖 ,   西川哲夫 ,   三枝康宏 ,   藤代高明 ,   今堀正也 ,   黒坂昌弘

ページ範囲:P.679 - P.681

 抄録:血友病類縁疾患である先天性第Ⅶ因子欠乏症は,常染色体劣性遺伝型式の稀な疾患であり手術報告例は極めて少ない.特に2000年より本邦で利用可能となった第Ⅶ因子製剤を使用した報告は過去にない.今回われわれは,68歳女性の先天性第Ⅶ因子欠乏症に合併した変形性股関節症に対して全人工股関節置換術(以下THA)を施行した.手術に先立ち,第Ⅶ因子製剤によるチャレンジテストの結果を元に,術後3日間にわたり,補充療法を行った.その結果,術後3日間は,第Ⅶ因子活性は20%以上,PT%は70%以上を維持することができた.先天性第Ⅶ因子欠乏症に対し第Ⅶ因子を補充することで侵襲の大きいTHA後の出血のコントロールは良好に行い得たと考える.

ウールリッヒ型先天性筋ジストロフィーに伴う高度脊柱後側弯例の術後管理に非侵襲的陽圧換気(NIPPV)を行った1例

著者: 渡辺忠良 ,   尾鷲和也 ,   豊島定美 ,   石川有之 ,   浦山安広 ,   鳴瀬卓爾 ,   林雅弘 ,   加藤修一

ページ範囲:P.683 - P.687

 抄録:症例はウールリッヒ(Ullrich)型先天性筋ジストロフィーの9歳男児.1歳時より側弯を指摘され,3歳時より装具療法を行っていたが,側弯が高度となったため当院へ紹介となった.術前側弯107°(Th6-11,左凸),後弯92°(Th6-12)で,さらに%肺活量36%と高度拘束性肺障害も呈していた.全身麻酔下に前後合併矯正固定術を施行し,手術後14時間で抜管を行った.しかしPaCO2 71mmHgと高値を示したためNIPPVを行い,術後4日で酸素投与なしでPaO2 66mmHg,PaCO2 45mmHgと改善しNIPPVを中止とした.NIPPVは整形外科においては使用する機会は稀であるが,本症例のように筋ジストロフィーに伴う肺機能障害患者の術後呼吸管理のひとつとして有効であり,今後も同様症例に対し応用できる方法である.

人工股関節置換術を行った骨Paget病の1例

著者: 轉法輪光 ,   大野一幸 ,   濱田健一郎 ,   木下裕光 ,   篠田経博

ページ範囲:P.689 - P.692

 抄録:症例は84歳女性,主訴は左股部痛.単純X線像上左大腿骨に骨皮質の肥厚,骨梁の粗造化を認め,血中アルカリフォスファターゼ(ALP)は高値を示し,骨Paget病と診断した.カルシトニン・エチドロネートの投与により,ALPは正常化し,骨シンチグラフィーの取り込みも減少し病勢は低下したが,左股部痛は持続した.左股関節ブロックにより症状の改善を得たため,骨Paget病による変形性股関節症と診断し,セメント使用にてZimmer社製Centralign®を用い左人工股関節置換術(THA)を行った.大腿骨髄腔の骨は硬化していた.術後12カ月の現在,痛みなく杖歩行が可能であり,異所性骨化,インプラントの弛みなどはみられない.骨Paget病に対しTHAを行う際には術中出血の軽減や術後の弛み防止のため病勢コントロールが重要であり,骨硬化のため術中操作や使用する人工関節の選択に苦慮する場合があり,注意を要する.

痛風結節に起因した手根管症候群の1例

著者: 山田賢治 ,   関谷繁樹 ,   佐野浩志 ,   前田義博 ,   中村明訓 ,   都築暢之

ページ範囲:P.693 - P.696

 抄録:痛風結節に起因した手根管症候群の稀な1例を経験した.症例は38歳の男性で,18年前頃より手足の関節痛を自覚し,7,8年前より両側アキレス腱部の腫瘤・疼痛発作が出現したため痛風の診断で近医にて内服治療を受けていた.しかし,症状は次第に増悪し,アキレス腱部の結節,同部の疼痛の増強と左手のしびれ感を主訴に当院を紹介され受診した.左手母指球筋は著明に萎縮し,正中神経領域の知覚鈍麻が認められた.血液検査所見にて尿酸値は9.4mg/dlと高値を示した.手根管開放術を施行し,術中所見にて正中神経は横手根靱帯中央部で圧迫され菲薄化し近位部に偽性神経腫を形成していた.痛風結節は掌側手関節包に沈着していた.病理組織所見にて,周囲に多数の異物巨細胞を伴う尿酸結晶の沈着が認められた.痛風結節の増大とともに正中神経は圧排され手根管症候群へと進展したものと考えられた.

大腿骨遠位部bizarre parosteal osteochondromatous proliferationの1例

著者: 佐竹寛史 ,   小山内俊久 ,   菅原正登 ,   荻野利彦

ページ範囲:P.697 - P.700

 抄録:Bizarre parosteal osteochondromatous proliferation(BPOP)は1983年Noraらによって提唱された,主に手や足の骨表面に発生する骨軟骨性の増殖性病変である.われわれは,大腿骨遠位後面に発生したBPOPの1例を経験したので報告する.症例は41歳,女性.2001年1月頃より右膝痛を自覚し,6月に当科を初診した.単純X線像では大腿骨遠位部の後面に不整な石灰化を有する腫瘤像を認めた.CTでは大腿骨と腫瘤とに骨梁構造の連続性を認めなかった.MRIではT1強調像で低信号,T2強調像では不均一に高信号領域を認めた.病理組織検査によりBPOPと診断し,腫瘍切除を行った.術後12カ月現在再発は認めていない.BPOPは局所再発も報告されており,再発予防として手術時期の配慮や,手術手技上の工夫も必要と考える.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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