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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科38巻6号

2003年06月発行

雑誌目次

視座

診療ガイドラインと整形外科疾患

著者: 里見和彦

ページ範囲:P.711 - P.712

 このところ,厚生労働省主導で各診療科とも診療ガイドライン作成が行われています.私も,日本整形外科学会と日本脊椎脊髄病学会の診療ガイドライン作成委員会の1委員として,腰椎椎間板ヘルニア,頚椎症性脊髄症,頚椎後縦靱帯骨化症に関与しています.

 整形外科の代表的疾患について,患者用,一般医師用,専門医向けのガイドライン作成することに異議はありません.しかし,上記病名の診断基準はありません.ほとんどの論文は,診断基準がないまま診断や治療を論じています.腰椎椎間板ヘルニアといえば,整形外科医には暗黙の診断基準があり,間違いがないとの前提に立っています.MRI所見だけで診断している開業医もいると思います.CTでOPLLがあれば,神経麻痺がなくても後縦靱帯骨化症として手術を勧めている医師もいると聞いています.整形外科的慢性疾患は,高血圧症,糖尿病,白内障などと比較するとガイドラインに向かない疾患群といえます.

シンポジウム 脊椎転移癌に対する治療法の選択

緒言 フリーアクセス

著者: 富田勝郎

ページ範囲:P.714 - P.715

 脊椎転移癌の治療は難しい.「癌転移である以上,当然,癌の末期状態と認識しなければならない」という厳然とした医学的事実を前にして考えれば考えるほど,治療に勇気がでなくなり絶望的になる.また脊椎転移癌の病像をとらえようとしても,個々まちまちで,画一的にはとらえがたい代物である.ましてや治療方針となれば,これに対面している医師や患者の思惑により大いに揺れ動くので,客観的な焦点が定まらず,難しい.

 脊椎転移癌は一方で「脊髄麻痺」という脅しを見せつける.人間の尊厳を傷つけるこのみじめな脊髄麻痺を避けようとして脊髄除圧術にのみ専念した時代もあった.それはそれでいいとしても,もともと脊髄麻痺そのもので命を失くすることもなければ,麻痺が改善しても一時的な気休めの場合が多く,生命に絡む根本的な問題が解決するわけではなかった.

転移性脊椎腫瘍の手術成績と問題―脊椎転移発見の現状と問題点

著者: 原田良昭 ,   玉田利徳 ,   杉原進介 ,   竹内一裕 ,   田中雅人 ,   尾崎敏文 ,   川井章 ,   中原進之介 ,   坂手行義 ,   井上一

ページ範囲:P.717 - P.721

 抄録:転移性脊椎腫瘍に対する脊椎全摘術9例の手術成績について検討した.また,転移性脊椎腫瘍が実際にどのような経緯で発見されているか76例について調査した.脊椎全摘術は早期に発見され病巣が限局した症例に対し局所根治を期待しうる.しかし,転移性脊椎腫瘍の76%は発見時既に脊椎多発性転移であった.原発癌治療後の定期検査で脊椎転移が発見されていたのは12%で,56%は原発癌の診断後であるが脊椎転移症状の出現後に発見されていた.骨シンチでの偽陰性が56例中15例にみられた.転移性脊椎腫瘍を早期に発見することで治療成績が改善する可能性がある.そのためには癌患者の定期検査を再検討する必要がある.また,早期段階で発見した場合の治療方針を確立するために,多数例のprospectiveな蓄積が必要である.定期検査および早期治療指針のガイドラインが重要と考える.

転移性脊椎腫瘍に対する前後合併アプローチによる脊椎全切除と前後合併脊柱再建術―QOL向上に果たす役割

著者: 種市洋 ,   金田清志 ,   武田直樹 ,   小谷義久 ,   須田浩太 ,   楫野知道

ページ範囲:P.723 - P.729

 抄録:転移性胸・腰椎腫瘍に対する前後合併アプローチによる脊椎全切除と前後合併脊柱再建術の治療成績を分析した.術後1年,2年および5年生存率は73%,58%,42%,疼痛改善率:97%,麻痺改善率:73%,ADL改善率:83%と良好であった.転移性脊椎腫瘍に対する手術治療の目的は麻痺の改善・予防と骨転移により破壊された脊柱の即時安定性獲得であるが,本法に課せられた特に重要な役割は可及的長期にわたる局所再発のコントロールである.この点において,本法の局所再発率はen bloc切除例:17%,piecemeal切除例:25%と従来の方法と比し良好で十分に目的を達成できたといえる.本法は長期予後が期待できる転移性脊椎腫瘍例のQOL向上とその維持に有効な治療法であった.

転移性脊椎腫瘍に対する手術的治療とその成績―単発性病巣に対する椎体亜全摘術と脊椎全摘術の比較

著者: 阿部栄二 ,   石沢暢浩 ,   村井肇 ,   小林孝 ,   阿部利樹 ,   鈴木哲哉 ,   島田洋一

ページ範囲:P.731 - P.738

 抄録:転移性脊椎腫瘍の中でも比較的生命予後の長い単発性転移性脊椎腫瘍に対するen bloc脊椎全摘術(TES)の有用性を検証するため,従来行われてきた椎体亜全摘術と比較検討した.TES群11例と病状が似かよった椎体亜全摘群11例を選び,手術侵襲,局所再発率,生命予後,疼痛や麻痺の改善などについて検討した.その結果,TES群では手術時間,出血量,固定椎間数など,手術侵襲はやや大きいが,手術成績が安定しており,術中の出血のコントロール,除痛効果,麻痺の改善,局所再発率,術後生存期間などすべての点で椎体亜全摘群より優れていた.今後,C7を含む胸・腰推の単発性転移性脊椎腫瘍に対する手術としてTESを第一選択肢とすべきである.

脊椎転移癌に対する術式選択とその治療成績―術前予後判定点数による治療戦略

著者: 徳橋泰明 ,   松崎浩巳 ,   根本泰寛 ,   深野一郎 ,   龍順之助

ページ範囲:P.739 - P.745

 抄録:転移性脊椎腫瘍に対する予後予測と治療法選択に術前予後判定点数を利用してきた.そこで判定点数の信頼度と治療成績から治療戦略について検討した.対象は術後死亡164例と保存療法死亡群82例で,予想予後6カ月未満の総計8点以下と多椎転移例では,保存療法ないしpalliativeな術式(n=142)を,予想予後1年以上の12点以上単椎罹患例や予想予後6カ月以上の9-11点例の一部では,excisionalな術式(n=22)を原則としてきた.その結果,判定点数総計0-8点群,9-11点群,12-15点群における予想予後クライテリアと生存期間一致率は,いずれの群も高率で,全体では82.5%と術前予後判定点数は有用であった.また,疼痛改善は3群いずれも80%以上で得られたこと,麻痺発生・悪化防止と獲得最大歩行能力に関してはexcisionalな術式群が優れていたことから,治療に限界のある本症に対する予後に応じた治療法選択と治療効果という点では,われわれの治療法選択は妥当と考えられた.

脊椎転移癌のsurgical strategy

著者: 川原範夫 ,   富田勝郎 ,   小林忠美 ,   村上英樹 ,   赤丸智之 ,   上田康博 ,   羽藤泰三 ,   粟森世里奈

ページ範囲:P.747 - P.754

 抄録:1987年から1991年までに治療を開始した67例の予後をretrospectiveに調査し,1)原発巣の悪性度,2)重要臓器への転移,3)骨転移の3つの予後因子がどれだけ生命予後に影響を及ぼすかを検討した.その結果をもとにしてスコアリングシステムを作成し,その点数に見合った治療(surgical strategy)の提案を行った.1993年から1996年までに治療を開始した61例の患者をこのsurgical strategyに沿ってprospectiveに治療を行い,予後を調査した.この結果,手術を行った52例中43例(83%)に存命中の局所コントロールが得られた.局所再発は9例に認められたものの,その存命期間の平均80%の期間に局所コントロールが得られていた.脊椎転移癌においては患者,家族に対して十分なインフォームドコンセントを行い,最終治療方針を決定するのが原則である.このsurgical strategyはその治療を選択するうえでのおおまかなガイドラインになりえる.

転移性脊椎腫瘍に対する放射線治療の適応とその成績

著者: 高橋満 ,   片桐浩久 ,   浜名俊彰

ページ範囲:P.755 - P.761

 抄録:がん専門病院における放射線治療の結果に基づき,脊椎転移に対する非手術的治療の適応と成績を検討した.(1)圧迫骨折を生じた後に放射線治療を開始し,6カ月後に検診できた35例についてQOLを評価した.神経症状が軽微の場合には,放射線治療により,大部分の症例で治療開始後6カ月以上麻痺の進行を回避することができた.一方,重篤な麻痺症状を有した場合,有用肢にまで回復する可能性は40%にすぎなかった.(2)脊椎転移に対する局所治療の有効期間を知るために,乳癌152症例について検討した.脊椎転移出現後の50%生存期間は20カ月であった.一方,局所治療が有効であっても,半数の症例では6カ月以内に治療した箇所以外の脊椎病変によりADLが低下してしまうことが明らかになった.諸家の言う厳格な手術適応を満たした症例でも,7.5カ月のうちに半数例で治療を要する他椎体病変が出現,1年以上局所効果が持続するのは34%であった.(3)胸椎圧壊による急速な脊髄障害を回避するためには,X線正面像で側屈変形としてしか確認できない時期に切迫圧壊を診断して,早期に放射線治療を開始することが重要である.また,この側屈変形は,複数椎体におよぶ転移病巣を有する患者において,放射線治療の優先部位を決定する上でも有用な所見である.

ビスフォスフォネートによる骨転移の治療とその成績

著者: 松本俊夫

ページ範囲:P.763 - P.769

 抄録:骨転移の成立・進展機序の解明が進み,原発巣から遊離し血管内に進入した腫瘍の骨への遊走に関わるケモカイン,着床に関わる接着分子,生育・増殖に関わる成長因子等の役割に加え,骨吸収の亢進による骨破壊機序の解明が進んだ.その結果,骨吸収性転移のみならず,前立腺癌などによる骨形成性転移においても,著明な骨吸収の亢進により骨の破壊と転移病巣の拡大が進むことが明らかとなった.そして,強力に骨吸収を抑制するビスフォスフォネートにより,骨折などの骨関連合併症の発症が防止されることが大規模臨床試験などから示された.その結果,ビスフォスフォネートの骨転移治療への臨床応用が進み,骨転移に伴う強い痛みや骨折などの防止により,QOLの改善のみならず生命予後への効果も期待されつつある.

論述

骨軟部肉腫の転移様式

著者: 生越章 ,   堀田哲夫 ,   畠野宏史 ,   川島寛之 ,   遠藤直人 ,   守田哲郎 ,   今泉聡 ,   小林宏人

ページ範囲:P.773 - P.778

 抄録:骨軟部肉腫症例の術前ステージングやフォローアップの指針とすべく535例の転移様式を解析した.骨軟部肉腫の転移は肺が最多であるが,基本的にどの臓器にも転移は生じうることが判明した.粘液・円形細胞型脂肪肉腫は軟部,骨,肝などの肺外転移が多く,他の肉腫とは異なる転移様式を示した.その他の肺以外の転移として胞巣状軟部肉腫の骨・脳転移,骨ユーイング肉腫の骨転移などの頻度が高かった.肺外転移を起こした場合の予後は不良であった.

手術手技/私のくふう

Acutrak® bone screwを用いたリウマチ母指の指関節固定術

著者: 政田和洋 ,   安田匡孝 ,   竹内英二

ページ範囲:P.779 - P.782

 抄録:リウマチ母指の指節間(IP)関節,中手指節間(MCP)関節に対して,Acutrak® bone screwを用いて関節固定術を行い良好な成績を得ているので,手術法を紹介する.IP関節またはMCP関節を背側より露出し,cup and coneの形状になるように関節軟骨を切除する.軽度屈曲,やや回内位に保持してIP関節の場合には基節骨背側から,MCP関節の場合には第1中手骨背側からドリリングを行いAcutrak® bone screwを末梢方向に刺入して固定する.IP関節の場合,末節骨先端から刺入すると固定角度は0°にならざるを得ないが,基節骨の背側から刺入することにより,固定角度を調節することが可能となる.これまでに関節リウマチ患者14人15手(IP関節7手,MCP関節8手)に対して手術を行い全例に良好な骨癒合が得られているので報告する.

リウマチ手関節に対するSauvé-Kapandji変法―術後3年以上の成績

著者: 藤田悟 ,   政田和洋 ,   竹内英二 ,   安田匡孝 ,   橋本英雄

ページ範囲:P.783 - P.790

 抄録:リウマチ手関節に対して切除した尺骨を橈骨尺側のドリル穴に差し込む棚形成術(Sauvé-Kapandji変法)を行い,3年以上経過した33例40手について成績を報告した.対象は男性9例,女性24例であり,手術時年齢は41歳~76歳(平均59.5歳),術後追跡期間は平均46.0カ月であった.方法は術前後の疼痛,握力および可動域を評価した.X線評価は手根骨の破壊,尺側移動および掌側脱臼の指標として,それぞれcarpal height ratio(CHR),carpal translation index(CTI)およびpalmar carpal subluxation ratio(PCSR)を用いた.術後,全例で疼痛が減少し,前腕の回旋可動域の改善が得られた.CHRは術前平均0.45から最終調査時0.42(p<0.01)となり,手根骨の破壊は術後も進行したが,CTIとPCSRは術前後で統計学的有意差はなく,手根骨の尺側および掌側方向への偏位の有意な増加はみられなかった.術後3年の経過例では,臨床的にもX線学的にも良好な成績が得られた.

専門分野/この1年の進歩

日本リウマチ・関節外科学会―この1年の進歩

著者: 守屋秀繁

ページ範囲:P.791 - P.793

 第30回日本リウマチ・関節外科学会は,2002年9月27~28日の両日,千葉市幕張メッセ国際会議場で開催された.今回の特徴は第29回日本臨床バイオメカニクス学会(会長:玉木 保 日本工業大学,守屋秀繁)とcombined形式(参加費は共通)で行われたことである.臨床バイオメカニクス学会は28~29日開催され,28日は両学会に共通するテーマである人工関節を中心に討論が行われた.シンポジウムは,「人工関節後の肺塞栓症」「軟骨再生」「人工骨頭置換術後の長期成績」の3題が行われ,パネルディスカッションとして,「ヒアルロン酸に関する基礎研究」「変形性膝関節症に対する運動療法」の2題が行われた.また,「THAにおける関節表面材料の選択」,「重度変形性膝関節症に対する治療法の選択」,「TKAに際してのけい骨上端の広範囲欠損の処置」について,ベテランの先生方によるdebateが行われた.28日には日本リウマチ・関節外科学会と日本臨床バイオメカニクス学会合同の全員懇親会が行われ,日頃面識の少ない工学部の先生方とディスカッションする機会が得られた.

境界領域/知っておきたい

FGF receptor異常とachondroplasia,hypochondroplasia

著者: 勝又規行

ページ範囲:P.794 - P.796

【achondroplasiaとhypochondroplasiaの遺伝】

 Achondroplasiaとhypochondroplasiaは,四肢短縮型の低身長を来す常染色体優性遺伝性骨疾患であり,thanatophoric dysplasiaと同様に軟骨内骨化が選択的に障害される疾患である.臨床所見の類似性から,hypochondroplasiaはachondroplasiaの軽症型,thanatophoric dysplasiaはachondroplasiaの重症型と考えられていた.Achondroplasiaの大多数は孤発性であるが,家族性achondroplasiaの家系を用いた解析により,achondroplasiaの責任遺伝子は4番染色体短腕領域(4p16.3)にマッピングされた11).同様に,hypochondroplasiaの責任遺伝子もachondroplasiaと同じく4番染色体短腕領域(4p16.3)にマッピングされ,achondroplasiaとhypochondroplasiaは遺伝学的には均一であることが示された4).実際,まずachondroplasiaにおいて4p16.3領域に存在するfibroblast growth factor receptor 3(FGFR3)遺伝子の変異が明らかにされ8),次いでthanatophoric dysplasia,hypochondroplasiaでachondroplasiaと同じくFGFR3遺伝子の変異が明らかにされた1,2,7,10)

運動器の細胞/知っておきたい

脊髄上衣細胞(Spinal ependymal cell)

著者: 小川祐人

ページ範囲:P.798 - P.799

【はじめに】

 一度損傷を受けた脊髄は二度と再生しないと長い間信じられてきた.しかし,近年の神経科学の急速な進歩により,中枢神経系を構成する3種類の細胞(neuron,astrocyte,oligodendrocyte)に分化する能力(多分化能)と,多分化能を維持しつつ自己複製的に細胞分裂を行う能力(自己複製能)を持つ中枢神経系神経幹細胞が成体脊髄にも存在することが明らかとなった.神経幹細胞が成体脊髄のどの部分に存在するのかは未だ明確にされてはいないが,その一部分は脊髄上衣細胞であると考えられており,その存在が注目を集めている.本稿では,この脊髄上衣細胞の構造・機能について述べ,さらに最近の知見について概説する.

国際学会印象記

7th Meeting of Knee and Sports Medicine Section, APOA/3rd Meeting of Asia-Pacific Orthopaedic Society for Sports Medicine

著者: 北岡克彦

ページ範囲:P.800 - P.801

 7th Meeting of Knee and Sports Medicine Section, APOA/3rd Meeting of Asia-Pacific Orthopaedic Society for Sports Medicineは,シンガポールの整形外科50周年を記念して,25th Singapore Orthopaedic Association Meeting, 22nd ASEAN Orthopaedic Association Meetingと5th Combined Meeting of Spinal and Paediatric Sections, APOAの3学会と併せて,2002 Combined Orthopaedic Meetingとして2002年10月12日から16日まで,シンガポールにて開催された.

 学会会場であるRaffles City Convention Centreは世界最高層ホテルであるSwissotel the Stamford(以前はThe Westin Stamford)に併設された会議場で,近隣にはシンガポール・スリング(カクテル)で有名なLong BarのあるRaffles Hotelやマーライオンパーク,さらに今回の学会期間中にopening festivalが開催された,まるでドリアンを半分に切ったような形をしているコンサートホール,esplanade-theatres on the bay, Singaporeなどがあり,学会のロケーション(観光?)としては最高の場所である.

第17回北米脊椎外科学会

著者: 千葉一裕

ページ範囲:P.802 - P.803

 2002年10月29日から11月2日の5日間にわたって,Stanley Herring会長のもとカナダケベック州モントリオール市で開催された第17回北米脊椎外科学会(North American Spine Society:NASS)に出席しましたので,その概要と現在の北米での脊椎関連領域のトレンドにつき報告させていただきます.

 ここ2~3年,本学会への演題申し込みは急増しており,今回も780題もの応募があり,そのうち採用されたのは口演が108題,ポスター73題の計181題のみで,採用率は何と23%でした.本邦からは徳橋(日大),松永(鹿児島大),長谷川(新潟大),武政(高知医大)が口演で,加藤,波呂(東京医科歯科大),村上(広島大),横山(弘前大),小谷(北大),斉藤(東大)がポスター演題で発表をされておりました(敬称略).この厳しい採用率の中での採用は大変価値があるものと思います.その他にも留学中の先生の発表がいくつかあり,本邦からのNASSへの学問的貢献は少なくないものと実感いたしました.

連載 整形外科と蘭學・4

吉雄耕牛と解体新書

著者: 川嶌眞人

ページ範囲:P.804 - P.805

 「解体新書」誕生の背景に,中津藩主奥平昌鹿の母親のけいの骨折をたまたま江戸に滞在していた長崎の大通詞で蘭方医であった吉雄耕牛(幸左衛門)(1724~1800)が治療したことがきっかけとなり,吉雄耕牛と前野良沢との間に師弟関係が生まれたことは既に述べた.

 耕牛は平戸から長崎に来たオランダ通詞(通訳)吉雄家の五代目で,四代目吉雄藤三郎の長男であった.定次郎,幸左衛門,幸作,永章と称し,耕牛は号である.吉雄家は代々通詞を務めた家であるが耕牛の祖父は寿山といい,医業も営んでいた.寿山の妻は中津の出身であった.耕牛は寛延元年(1748)には25歳で大通詞(最上級訳官)となり,オランダ領事の江戸参府にも度々同行しており,通訳としても最高レベルの人材として活躍した.通訳のかたわら長崎出島の商館付医師,特にツュンベリーから教示を受け医学・医術を学んだ.パレ,ハイステル,プレンク,スメリなどの医書やウォイツ,ハルマ,ショメールなどの字典の収集に務めた.

医療の国際化 開発国からの情報発信

海外医療ボランティア活動記(3)―クルド その1

著者: 藤塚光慶 ,   藤塚万里子

ページ範囲:P.806 - P.808

 クアラルンプール(マレーシア),ドバイ(アラブ首長国連邦)を経由してイスタンブール(トルコ)へ到着したのは1993年12月の半ば,成田を出発して20時間後であった.いつものように,最も安い運賃の便を使うので,乗り継ぎが多く時間がかかるのは仕方ない.今回はトルコの東の町,ディアルバクルを経てイラクへ入国するので,そのまま国内線のターミナルまでタクシーで行った.わずか5~6分の距離に5万TL(トルコリラ)といわれびっくりしたが,400円程度であった(1ドルが1万4288TL,100円が1万2400TL).サンドイッチも3万リラで,50万リラ札を出して釣を勘定するのも大変だった(以前,イタリアに行った時に,やはりインフレで何かを買うにも何十万単位であったが,最近はユーロでわかりやすくなった).空港のセキュリティーチェックは厳重で,小外科器械のセットも開けさせられ,ジャックダニエルの蓋も開けて匂いを嗅ぎ,本当にウイスキーであると確認して通してくれた.

 シリア,イラク,イランに接する国境の街「ディアルバクル」に着いたのは午前9時,丸1日がかりでようやく到着したこの街にはクルド人が多く住み,特有なダボダボのズボンの上から腰に布を巻き付け,男はみんな鼻の下にも顎にも髭を蓄えている.街にはほとんど緑が見られず,建物,道路すべての景色が灰色でまた埃っぽい.

 今回は,整形外科医である私と,われわれのNGOグループAVNのA氏の二人旅である.目的はイラク北部の難民キャンプで暮らしているクルド人を支援するためである.

臨床経験

人工膝関節全置換術における出血対策―術中トラネキサム酸使用の効果

著者: 田中啓之 ,   野村興一 ,   石井崇大 ,   金澤元宣 ,   小野秀文 ,   朴智 ,   倉都滋之

ページ範囲:P.809 - P.812

 抄録:人工膝関節全置換術(以下TKA)において,術中・術後出血は不可避であり,その対策については,さまざまな方法が報告されてきた.今回われわれはTKA施行時の出血量を減少させる目的で,トラネキサム酸を術中(駆血帯解除15分前から解除までの間)に投与し,出血量を抑制できるかどうかについて検討した.対象は,TKA初回手術41症例で,トラネキサム酸術中投与群21例,非投与群20例の2群に分類した.総出血量(術中および術後出血の合計)は,投与群平均479ml(56ml~828ml),非投与群平均1159ml(455ml~2080ml)と,2群間において有意差を認め,投与群ではほぼ全例で輸血を回避することが可能であった.トラネキサム酸の術中投与は,特別な器具や手技を必要としない簡便な方法であり,コストも安く,TKAにおける出血対策として非常に有用な方法であると考えられた.

脊髄腫瘍非手術例の経過

著者: 鎌田修博 ,   木内準之助 ,   丸岩博文 ,   中村雅也 ,   松本守雄 ,   千葉一裕 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.813 - P.817

 抄録:初診から1年以上手術をせずに経過観察し,MRIを撮像できた脊髄腫瘍24例の臨床経過を検討した.神経学的所見は7例にみられた.腫瘍は多発性が7例と多く,組織診断は神経鞘腫が16例と多かった.画像の経時的変化は4例にみられ,神経鞘腫の2例は増大していた.症状の経時的変化は不変17例,改善3例,一時悪化後改善2例,悪化2例であった.改善例は腫瘍が痛みの原因ではなかった.一時悪化後改善例は,神経鞘腫の増大に伴い症状が一時悪化したと思われた.悪化例は神経症状を伴う髄内腫瘍で,相対的脊柱管狭窄状態から経時的な悪化を生じた.神経症状を伴う髄内腫瘍以外は,症状の急激な悪化はみられなかった.症状の軽微な脊髄腫瘍では,組織型がある程度判断でき,中でも神経鞘腫や神経線維腫と診断できる例においては,注意深い経過観察のもと手術時期は慎重に判断してもよいと思われる.

症例報告

急速破壊を呈した𦙾骨内顆骨壊死の1例

著者: 大山直樹 ,   石川一郎 ,   金谷邦人 ,   大野富雄 ,   松村忠紀

ページ範囲:P.819 - P.822

 抄録:𦙾骨内顆骨壊死は大腿骨内顆骨壊死に比べて稀な疾患である.今回われわれは急速に骨破壊を呈した𦙾骨内顆骨壊死の1例を経験したので報告する.症例は73歳,女性で外来通院中,歩行困難になり,単純X線上𦙾骨内顆骨壊死と判断し,関節鏡を施行した結果,内側𦙾骨高原は陥凹を,外側𦙾骨高原は軟骨欠損を認めたため,人工膝関節置換術(以下,TKA)を施行した.術後3年10カ月の現在,右膝の可動域制限は認めるものの日整会変形性膝関節症治療成績判定基準(以下,JOAスコア)では80点で,杖なしの歩行も可能であり,経過良好である.

膝蓋腱を使用した前十字靱帯再建術後7年で生じた膝蓋腱断裂の1例

著者: 大塚和史 ,   笠井隆一 ,   新林弘至 ,   西村直己 ,   西口滋 ,   岩城公一 ,   西田晴彦 ,   斉藤聡彦 ,   秋吉美貴 ,   吹上謙一

ページ範囲:P.823 - P.826

 抄録:膝蓋腱を使用した前十字靱帯(ACL)再建術後7年以上経って生じた膝蓋腱断裂の1例を経験した.症例は41歳女性,バイク事故で左膝ACL損傷を受傷し,他院にて中1/3膝蓋腱を使用したMarshall法によるACL再建術を施行された.再建術後経過は良好だったが,7年9カ月後バレーボールの試合中に膝蓋腱断裂を受傷した.術中膝蓋腱断裂部近辺は脆弱で変性しており,デブリドマンの後一次的に縫合した.術後経過は良好で現在日常生活上特に支障はない.Marshall/MacIntosh法やBTB法のように膝蓋腱を使用したACL再建術の術後合併症の一つに膝蓋腱断裂がある.この合併症の多くは1年以内に外傷に伴って生じる急性期断裂であるが,再建術後数年経って生じる陳旧期断裂も報告されている.本症例は41歳で加齢による靱帯の変性に加え移植片採取後の阻血性変性も関与している可能性がある.

緩徐に麻痺が上行した頚髄損傷の1例

著者: 杉田誠 ,   寒河江正明 ,   佐藤政悦 ,   桑添裕光 ,   鳥居伸行 ,   井上林 ,   加藤義洋 ,   武井寛

ページ範囲:P.827 - P.831

 抄録:骨傷の明らかでない頚髄損傷で,受傷後数日から麻痺レベルが緩徐に上行した症例を経験した.症例は57歳,男性.5mの高さから転落し受傷.C6の不全麻痺,C7以下の完全麻痺を呈していた.骨傷はみられず,MRIでは脊髄に多椎間圧迫を認め,C5/6を中心にT2高信号領域を認めた.受傷後2日より麻痺レベルが上行しはじめ,受傷後11日目には自発呼吸が消失した.受傷後16日に頚部脊柱管拡大術を行い,自発呼吸の改善がみられた.本症例は多椎間圧迫による脊髄易損性に加え,受傷翌日より2日間著明な低血圧を起こしており,そのため脊髄血行障害が生じ麻痺が上行した可能性があると考えられた.

第2頚椎に発生した骨原発性悪性リンパ腫の1例

著者: 渡邉航太 ,   細谷俊彦 ,   小粥博樹 ,   佐々木敏江 ,   三笠貴彦 ,   松本守雄

ページ範囲:P.833 - P.837

 抄録:骨原発性悪性リンパ腫はnon-Hodgkinリンパ腫の2.6%,原発性骨悪性腫瘍の5%以下で極めて稀な疾患であるが,その内,頚椎原発は2%以下である.症例は52歳,男性.急速に増悪する強い頚部痛を主訴に来院した.精査の結果,第2頚椎病的骨折の診断で生検術と後方固定術を施行した.術中迅速診断はmalignant fibrous histiocytomaであったため,腫瘍は第2頚椎の椎弓,棘突起を含め後方部のみを一塊として摘出し,C0~C6の範囲で後方固定術を施行した.しかし,術後病理組織診断は悪性リンパ腫であった.そのため化学療法,放射線療法を施行し,現在は完全寛解状態である.当疾患は極めて稀で,しかも画像上で特異的な所見はなく,病理組織学的にも診断困難な場合が多い.しかし,早期に治療を行えば比較的予後は良好なため,診療の際は当疾患も念頭において診断,治療にあたる必要があると考えられた.

肺転移病巣の自然消退をみた胞巣状軟部肉腫の1例

著者: 塩見巌 ,   大塚隆信 ,   米澤正人 ,   神山文明 ,   柴田芳宏 ,   多田豊曠 ,   松井宣夫

ページ範囲:P.839 - P.841

 抄録:症例は,14歳,男性.主訴は左大腿部腫瘤.腫瘤の増大により近医受診したところ,左大腿部腫瘍を指摘され,当科受診した.外来にて針生検術を施行した結果,胞巣状軟部肉腫と診断され,当科入院となった.入院後,術前治療として,三者併用療法を行い,その後,腫瘍広汎切除術を施行した.術後,全身化学療法を施行し,以後は外来にて経過観察とした.胸部CTの推移をみると,術後,転移病巣が認められるようになり,以後,転移巣は増加増大傾向を示したが,その後,減少縮小傾向に転じて,その傾向のまま現在まで至っている.胞巣状軟部肉腫の肺転移病巣の自然消退例は,われわれの渉猟し得た限りでは,本例が2例目であると思われる.その原因については未だ不明であり,一般的に他の悪性腫瘍の肺転移例においても,その自然消退後に再増悪が起こることがあることより,本例においても今後の慎重な経過観察が必要であると思われる.

MRI STIR法にて経過観察を行った脊髄梗塞の1例

著者: 小谷俊明 ,   茂手木博之 ,   中島秀之 ,   大塚隆弘 ,   板橋孝

ページ範囲:P.843 - P.848

 抄録:脊髄病変の診断,経過観察にMRI STIR法を応用し,その有用性を認めた1例を経験したので報告する.症例は46歳,男性.誘因なく四肢脱力が出現,MRI T2強調矢状断像で脊髄内に高信号領域が見られ脊髄梗塞と診断した.その後経時的にMRIを撮像したが,Gd-DTPA造影効果はみられなかった.STIR法画像ではT2強調画像に比べて髄内病変がより明瞭に観察され,その変化は神経症状の改善とともに縮小した.

 従来,脊髄梗塞の診断,経過観察には発症後早期に造影効果がみられることから造影MRIが有用であると報告されている.しかし,障害が軽度で造影効果の確認が困難な症例においても,STIR法画像では早期から髄内病変部が明瞭に描出されており,経過観察にも有用であった.脊髄梗塞を疑う症例ではT2強調画像のみならずSTIR法画像も撮像すべきである.

保存的に治癒しえたMRSA腰部硬膜外膿瘍の1例

著者: 宮城仁 ,   小野豊 ,   小林康正 ,   粟飯原孝人 ,   白井周史

ページ範囲:P.849 - P.854

 抄録:保存的に治癒しえたMRSA腰部硬膜外膿瘍の1症例を経験したので報告する.症例は44歳の女性で腰痛と左下肢痛を主訴に来院した.MRI上,L5/S1レベルで左後下方に突出したヘルニア像を認めた.疼痛が強く硬膜外チューブによる持続注入を施行したところ,4日後に発熱,頭痛を生じた.発症後3日のMRIでL3上縁よりL5下縁レベルの前方硬膜外腔に膿瘍像を認め,カテーテル先端の培養よりMRSAが検出された.抗生剤の投与を開始し,3週後には症状および炎症所見の改善がみられ,6週後のMRIにて膿瘍像は消失した.発症後2年10カ月の現在,再発の所見は認められず,ヘルニアによる腰,下肢痛も消失している.過去の報告では,腰部硬膜外膿瘍に対し神経症状がなくとも予防的に手術療法を選択している症例が多くみられるが,われわれは神経症状がなくMRIにて早期診断され,起因菌が同定されればMRSAによる腰部硬膜外膿瘍においても保存療法の適応と考えた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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