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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科38巻7号

2003年07月発行

雑誌目次

視座

コンプライアンスについて

著者: 山田治基

ページ範囲:P.865 - P.865

 コンプライアンス―申し出,要求などに従うこと,承諾,応諾.現在では,法令や各種規定などを遵守し,公正かつ公平な業務遂行を行うことを意味する.

 

 医師という職業は,高い技術を有する専門家という認識が一般的である.現実に,他の者には許されていない医療という行為を特権的に行うことが認められており,その専門性,独占性は法および社会観念により強固に守られてきた.つまり,他の領域からはきわめて犯しにくい,閉ざされた世界を形成してきた職種である.また職業柄,患者個人の秘密に触れることが多く,かつ行為の結果が生命に関わることのある職業であるため,高度の倫理観と義務意識を有するのは当然のこととされ,現場の細部において,いわゆる法に従うということを意識することは比較的少ない職種であった.もちろん現実の医療にはさまざまな規制が存在し,それに縛られているのであるが,それでも時として,同じような患者様を前にして,まったく正反対といえる治療法を選択しても許容される場合のあるほど,その裁量というものが認められている職業であった.

論述

外側型頚椎椎間板ヘルニアの診断と治療―椎間孔内型ヘルニアについて

著者: 濱﨑貴彦 ,   馬場逸志 ,   田中信 ,   住田忠幸 ,   真鍋英喜

ページ範囲:P.867 - P.874

 抄録:従来,頚椎椎間板ヘルニアは正中型,傍正中型,外側型に分類されてきたが,外側型のうち椎間孔内に髄核が存在する症例を経験したので,その画像所見,臨床症状,術中所見について検討した.対象は24例で全例神経根症を呈し,脱出高位はC6/7が最多(58.3%)であった.特徴的な臨床症状はなく,画像上MRI,脊髄腔造影後CT(以下CTM)で診断のつかない症例が約半数を占めたが,椎間板造影後CT(以下CTD)で92.9%に椎間孔内への造影剤の漏出を認め診断が得られた.術式は全例後方アプローチとし,髄核は神経根の腋窩部(62.5%)で後縦靱帯の浅深層間(70.8%)に多く存在した.椎間孔内型頚椎椎間板ヘルニアは診断に苦慮する症例が多いが,神経根ブロックにて疼痛の再現性が得られ,MRI,CTMで所見が明らかでない場合,椎間孔内でのヘルニアの存在を念頭に置きCTDにて髄核の局在を確定することが重要である.

先天性股関節脱臼における寛骨臼蓋前捻角と臼蓋角に関する検討

著者: 兼子秀人 ,   鈴木茂夫 ,   二見徹 ,   瀬戸洋一 ,   柏木直也 ,   添田恒光

ページ範囲:P.875 - P.879

 抄録:MRIを用い,先天性股関節脱臼(以下DDH)おける臼蓋形態とX線像上の臼蓋角との関係を調べた.1996年から98年に当センターで診断,治療した69例を対象とした.初診時と3歳時の単純X線像から臼蓋角を,MRI伸展位横断像で寛骨臼蓋の前捻角(臼蓋前捻角)と骨盤の前方回旋の程度(骨盤前方回旋角)を調べた.初診時臼蓋角,臼蓋前捻角,骨盤前方回旋角は非脱臼側に比べ脱臼側で有意に大きな値を示し,それぞれ正の相関関係を示した.DDHでは脱臼側の骨盤や臼蓋に横断面での変形があり,これらの形態が臼蓋角と相関を示した.したがって,このような形態変化がX線像上の臼蓋形成不全に関与していると考えられた.また,3歳時での臼蓋形成不全は初診時の臼蓋角が大きく,臼蓋前捻角が小さいものに遺残しやすい傾向にあった.

頭部回旋運動時の上位頚椎キネマティクス―3D-MRIを用いたin vivo 3次元動態解析

著者: 石井崇大 ,   向井克容 ,   細野昇 ,   坂浦博伸 ,   菅本一臣 ,   吉川秀樹 ,   中島義和 ,   桝本潤 ,   佐藤嘉伸 ,   田村進一

ページ範囲:P.881 - P.887

 抄録:目的は頭部回旋時における上位頚椎の動態をin vivoで3次元解析することである.対象および方法は健常成人5名に対し,頭部を15°間隔で回旋した状態にて,3D-MRI撮影を行った.得られた3D-MR画像をわれわれが新たに開発した非侵襲的3次元動態解析システムを用いて計測し,上位頚椎のカップリングモーションについて検討した.結果は環椎に対する後頭骨および軸椎に対する環椎の側屈カップリングモーションは,ともに回旋と反対方向の側屈を示した.また同様に前後屈カップリングモーションは,ともに後屈を示した.

高度内反変形膝に対する人工関節置換術の術後成績と問題点

著者: 王寺享弘 ,   東野修 ,   宮城哲 ,   徳永真巳 ,   宏洲士郎 ,   吉本栄治 ,   松田秀策

ページ範囲:P.889 - P.896

 抄録:高度内反膝の病態は内側支持機構および後十字靱帯を含む後方支持機構の拘縮,けい骨の骨欠損,それに外側支持機構の弛緩である.またけい骨内側顆の破壊によるbone defect typeと,大きな骨欠損のないfixed varus typeに分けられる.これに対する人工関節置換術では,骨欠損に対する処置,アライメントの確保やsoft tissue balancing,術後の関節動揺性などの問題点が存在する.本研究では立位膝外側角(以下,FTA)195°以上の22膝の術後成績を検討した.術後追跡期間は平均5年4カ月であった.

 臨床成績はknee scoreが術前平均38.6点から76.6点へ,function scoreも術前平均39.1点から80.9点と改善した.しかしFTAは術前平均198.8°から調査時176.1°と矯正されていたが,180°以上の矯正不足が4膝みられた.またストレスX線による術後安定性の評価では,外反は3.8±2.1°であり,内反は6.9±3.4°と軽度の内反動揺性を認めた.Soft tissue balancingの目指すものは解剖学的な骨切除,屈曲伸展での内外側の等しいバランスであるが,高度内反膝では必ずしも容易ではなく,適度な緊張を持った内側支持機構の剝離と,適正なアライメントを得ることが重要である.

手術手技/私のくふう

マーゲル法におけるX線透視下の安全で的確なスクリュー刺入法について

著者: 佐藤栄

ページ範囲:P.897 - P.903

 抄録:マーゲル法施行例で骨形態とスクリュー方向を検討し,X線透視下の安全で的確なスクリュー刺入法を考案した.椎骨動脈損傷例の術後CT像から損傷は環椎でなく軸椎横突孔付近で好発すると考えた.41例の正面と側面の術後X線像でスクリュー通過点を計測し,術後CT像でスクリューが,軸椎横突孔から離れていたかで安全性を,環軸関節中央部を貫通したかで的確性を評価した.X線像計測とCT像評価を対比した結果,亜脱臼整復例では正面像で軸椎上関節面の内側1/4の点~外側1/3の点,同時に側面像で軸椎椎弓起始部上縁レベルの椎体の後方1/5の点~中点を通過すれば,100%の安全性と82%の的確性で刺入できた.整復不能例でも,正面像で軸椎上関節面内縁から43%未満の内側,または側面像で椎体後縁から49%未満の後方を通過すれば100%安全であった.軸椎横突孔の内側偏在と後方偏在の合併や高度亜脱臼の遺残はハイリスク例であった.

統計学/整形外科医が知っておきたい

8.同等性(非劣性)の検証―帰無仮説採択の誤解

著者: 小柳貴裕

ページ範囲:P.905 - P.910

◆はじめに

 20世紀初頭より,有意差(優越性)検定が統計処理の主流であることは論を待たない.例えば2群の差の検定では帰無仮説は両群に差がない,すなわちゼロ仮説であり,それが棄却されて有意差を語れるものである.しかし,ノンゼロ仮説である対立仮説を棄却できるわけではない.それは援用する漸近分布;t分布はゼロ仮説のもとでの分布だからである.ノンゼロ仮説のもとではt値は歪んだ分布(非心t分布)となる6).実際,実験や調査は差があることを期待して行うのが普通であり,ゼロ仮説の棄却により証明される.しかし,新薬における従来薬に対する薬効の同等性や,合併症の少ない新手術法の従来法との成績の比較,より効果の期待できる新手術法と対照法との合併症発現の比較などにおいて,差がないことを積極的に期待する場合も決して少なくないように思われる.通常の有意差検定を行ってp>0.05が確認されても,「有意でなかった」より先の主張はできない4,7).海外の文献でも,結果で“not significantly different”が,結論では“similar”となっている例もみるが,見解の相違としても問題がある.またnを小さく設定して同等の結論を導くというのでは全くの矛盾である.F(t)検定の前の等分散の検定も実は異分散保留の検定である.このような矛盾を解決するために同等性の検証という問題が提起されたのである.同等性の検定は通常の有意差検定と併用しても帰無仮説の積が空集合であり多重性に抵触しない4).同等性を検証するためには同等限界Δというやや主観的な概念の導入が必要となる7)

専門分野/この1年の進歩

日本股関節学会―この1年の進歩

著者: 松野丈夫

ページ範囲:P.912 - P.915

 本学会は,第1~17回が研究会として,第18回からは学会として開催され,そして2002年9月に第29回学術集会が札幌で開催された.近年の本学会の発表演題の特徴としては,以前とくらべると人工股関節関連(臨床および基礎)のものが多くを占めるようになってきていることが挙げられる.その理由として,
 ・各種骨切り術の適応がある程度明確となり,安定した成績が得られるようになってきたことから骨切り術に関しての演題が若干減少傾向にあること,

 ・各種人工股関節の中期成績を出せる時期にきていること,

 ・再置換術の手術方法に議論すべき問題点が多いこと,

 ・基礎的には人工股関節の弛みの原因がいまだわかっていないこと,

などが挙げられる.これも時代の趨勢かと思われる.

 今回の学術集会ではそのような趨勢の中であえて人工股関節関連の演題をメインテーマとはせず,シンポジウムのテーマとして,「股関節外科治療の成績を左右する手技のポイント」,「股関節手術における術前・術後のリハビリテーション」,「股関節周囲悪性腫瘍に対する患肢温存手術」,「画像診断・病理診断に難渋した症例」の4つをテーマにした.その他の特別講演としては,寝たきり老人の問題を含めた高齢者の譫妄関連の講演,股関節手術のクリティカルパスの問題などをお願いした.これらの中からいくつかのテーマを取り上げてみることにする.

境界領域/知っておきたい

軟骨コラーゲン遺伝子の転写調節因子に関する研究

著者: 田仲和宏 ,   岩本幸英

ページ範囲:P.916 - P.918

【はじめに】

 軟骨組織はⅡ型を中心とするコラーゲン,アグリカンをはじめとするプロテオグリカンによって特徴づけられる豊富な細胞外マトリックスを有する.軟骨特異的なコラーゲン分子種として,Ⅱ型,Ⅸ型,XI型が知られており,成長軟骨の肥大細胞層には,Ⅹ型コラーゲンが存在している.ノックアウトマウスやヒトの骨系統疾患の遺伝子変異の解析から,これらのコラーゲン分子は,軟骨細胞外マトリックス構造の支持だけでなく,細胞の分化や増殖にも深く影響を与えていることが明らかになってきた.したがって,これら軟骨コラーゲンの発現制御は,時間的,空間的に厳密にコントロールされる必要があると考えられる.本稿では,軟骨コラーゲンの発現調節に関与する転写因子について,Ⅱ型およびXI型コラーゲン遺伝子に焦点をあて概説する.

運動器の細胞/知っておきたい

髄核細胞(nucleus pulposus cells)

著者: 酒井大輔 ,   持田讓治

ページ範囲:P.920 - P.922

【はじめに】

 およそ椎間板はその性質上,脊柱の椎体間に存在する軟骨であると言われるが,他の関節軟骨とは若干異なった特異的な構造を持つ人体最大の無血管組織である.従来,椎間板は不活性な組織と考えられてきた.ことに髄核は胎生期の脊索の遺残と考えられ,成長とともに消失する不要なものとの考えが定着していた.そのため,関節軟骨に比べ発生や分化・増殖制御機構の解析は遅れているが,近年の分子生物学の進歩により徐々に明らかにされつつある.

 本稿では椎間板を構成する細胞の生物学的特性について髄核細胞を中心に解説,その後に髄核細胞の椎間板変性の治療への応用について最近の研究結果を踏まえ解説する.

国際学会印象記

『APOA 5th Combined Meeting of Spinal and Pediatric Sections』に参加して

著者: 亀ヶ谷真琴 ,   星川健

ページ範囲:P.924 - P.926

 APOA(Asia Pacific Orthopaedic Association)5th Combined Meeting of Spinal and Pediatric Sectionsが,2002年10月14~16日の3日間,SingaporeのRaffles City Convention Centreにて開催されました.学会の名称がWPOAからAPOAに変更されてから初めてのcombined meetingで,名称の変更に伴い新たにBangladesh,India,Pakistanなどのアジア諸国が加わることになりました.これにより,アジア全体が1つになれる場ができたことは非常に喜ばしいことです.今回の印象記は,pediatric sectionを私(亀ヶ谷)が担当し,spinal sectionについては星川 健先生(東北大学)に担当していただくこととしました.

臨床経験

頚椎症性脊髄症に対する単椎間(2椎弓)の棘突起縦割式脊柱管拡大術の手術成績―単一責任高位のみの後方除圧術

著者: 奥山幸一郎 ,   安藤滋 ,   鵜木栄樹 ,   小西奈津雄 ,   石川慶紀 ,   相沢俊朗 ,   佐々木寛 ,   千葉光穂

ページ範囲:P.927 - P.931

 抄録:われわれは,1996年から頚椎症性脊髄症に対し適応を厳選して単一責任高位のみの棘突起縦割式脊柱管拡大術を行っている.症例は男性6例,女性4例で,手術時年齢は平均60歳,罹病期間は平均1.8年,術後経過観察期間は平均1.6年である.拡大椎間は,C3/4,4/5,5/6,C6/7がそれぞれ2,2,5,1例である.手術時間は平均1.8(1.2~2.5)時間,術中出血量は平均59(5~200)gであった.JOAスコアは術前11.0±2.1点が,術後14.8±1.6点と有意に改善し,平林らの改善率は65.8±23.1%であった.C2-7間での前弯角は,術前8.1±12.1°が術後14.6±14.3°に,前後屈可動域は,術前37.1±12.6°が,術後平均31.0±12.1°になり,ともに有意差を認めなかった.術後の責任高位での脊髄後方移動距離は,MR画像上で2.39±0.97mmであった.本術式は,頚椎症性脊髄症に対して頚椎の構築性に対する最小限の侵襲で良好な臨床症状の改善が認められた.

再手術を要した膝蓋骨不安定症の検討

著者: 佐々木和広 ,   石橋恭之 ,   津田英一 ,   佐藤英樹 ,   藤哲

ページ範囲:P.933 - P.939

 抄録:膝蓋骨不安定症の病態には多くの因子が関与するとされ,治療法も多岐にわたる.今回,膝蓋骨不安定症の成績不良例に対する再手術の治療成績を検討したので報告する.症例は過去6年間に手術を行った膝蓋骨不安定症症例52例74膝のうち,再手術を要した3例3膝と,他医で初回手術を受け,成績不良であった3例3膝の計6例6膝である.再手術の原因は再脱臼1例,亜脱臼1例,apprehension signの残存と膝前面痛4例であった.初回手術の内訳はElmslie-Trillat法3例,外側膝蓋支帯解離術(LRR)を併用しないFulkerson法1例,LRRと内側膝蓋支帯縫縮術を併用したもの1例,内側膝蓋支帯縫縮術1例であった.再手術方法は外側膝蓋支帯解離術を併用したFulkerson法を4例に行い,2例には内側支持機構再建術(Avikainen法)を行った.再手術後の経過は比較的良好であったが,治療成績不良因子として膝蓋骨高位,全身関節弛緩に伴う膝蓋骨過可動性,膝蓋大腿関節の関節症性変化が考えられた.

症例報告

腰椎分離すべり症にepidural lipomatosisを合併したCushing病の1例

著者: 飯島祐紀 ,   佐藤巌 ,   向井克容 ,   細野昇 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.941 - P.944

 抄録:腰椎分離すべり症にepidural lipomatosis(EL)を合併したCushing病の1例を経験した.症例は52歳,女性.主訴は両大腿~下腿後面の疼痛と間歇跛行.7年前よりCushing病を指摘されていた.単純X線上L5にgrade 3の分離すべりを認め,MRIではL4~S1のレベルで,硬膜外脂肪により硬膜管は背側より圧迫されていた.脊髄造影ではL5/S1レベルで不完全ブロックを認めた.L5-S1経仙椎的椎体間固定術および後側方固定術を施行し,間歇跛行は消失した.Cushing病(内因性Cushing症候群)にELが合併した報告例は少なく,さらに分離すべり症とELの合併については,自験例が2例目の報告となる.Cushing症候群の患者が神経症状を呈した場合,ELの発生の可能性も考慮する必要がある.

小児腰椎分離症の2例

著者: 井上薫 ,   鎌田修博 ,   千葉和宏 ,   西本和正 ,   神蔵宏臣 ,   木内準之助

ページ範囲:P.945 - P.949

 抄録:今回われわれは,過度なスポーツ歴のない小児腰椎分離症の2例を経験した.症例1は7歳,女性.第5腰椎に亀裂型の分離を認めたため,硬性コルセットを6カ月間着用させた.骨癒合は得られていないが,腰痛は消失し経過良好である.症例2は9歳,男性.第5腰椎に亀裂型の分離を認めたため,硬性コルセットを6カ月間着用させた.骨癒合は得られず強固な腰痛が残存したため,分離部固定術を施行した.腰痛は消失し経過良好である.腰椎分離症の発生原因としては,成長期における疲労骨折との意見が多い.しかし今回の2症例は明らかなスポーツ活動を行ってはおらず,発生原因としてスポーツなどの後天的な要因よりも,腰椎前弯の増強および腰椎椎体台形化などの先天的な要因が強いと考えられた.10歳未満で発症する症例は,発症頻度は少ないが先天的要因が強く,保存的治療に抵抗性であると思われた.

抗生剤含浸ハイドロキシアパタイトブロック充塡により鎮静化した慢性骨髄炎再燃例

著者: 佐々木智浩 ,   糸数万正 ,   高津敏郎 ,   伊藤芳毅 ,   福田雅 ,   清水克時

ページ範囲:P.951 - P.956

 抄録:慢性骨髄炎の治療にあたっては,病巣掻爬に加え抗生物質の局所濃度を上昇させることが必要となる.今回われわれは,65年来の慢性骨髄炎症例に対し,一期的に抗生剤含浸ハイドロキシアパタイトブロック(以下HAbと略す)を使用し良好な結果を得たので報告する.症例は,78歳男性.12歳時に他院で骨髄炎の診断にて手術加療.その後左大腿部痛残存するも放置.65歳頃より左大腿内側からの排膿を認め,自宅で瘻孔処置継続.左大腿部からの排膿が持続し,単純X線像にて慢性骨髄炎と診断され,78歳時当科に入院し,病巣掻爬・抗生剤含浸HAb充塡術を行った.術後2年の現在,感染は鎮静化している.今回われわれが行ったHAを基材とした徐放システムは,感染治癒に骨の強度を早期に補強しうる.この他の徐放システムとして封入法が試みられているが,われわれの含浸法はこれに比べ手技が容易である.抗生剤含浸HAb法は,難治例や慢性化例に早期に試みてよい方法と考えられる.

下顎骨縦割経咽頭アプローチにより摘出した軸椎悪性腫瘍の2例

著者: 松本守雄 ,   千葉一裕 ,   西澤隆 ,   中村雅也 ,   丸岩博文 ,   矢部啓夫 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.957 - P.961

 抄録:下顎骨縦割経咽頭アプローチにより肉眼的全摘を行い得た軸椎原発性悪性腫瘍の2例を経験した.症例1は63歳男性で診断は脊索腫,症例2は27歳男性で間葉系軟骨肉腫であった.後方アプローチによる後頭骨頚椎固定を行った後,症例1では2期的,症例2では1期的に下顎骨縦割アプローチにより腫瘍を全摘した.症例2では斜台からC3までの前方固定術も行った.症例1は術後6カ月で他の理由により死亡,症例2は術後8カ月の段階で再発はなく経過良好であった.本アプローチは良好な視野が得られることから,軸椎原発性悪性腫瘍の全摘に有用な方法である.

Wagner revision stemによる大腿骨転子部偽関節の治療経験

著者: 田中雅博 ,   山本剛史 ,   小野田幸男 ,   井上和久 ,   松崎交作

ページ範囲:P.963 - P.966

 抄録:今回,われわれはAce社製captured hip screw内固定後に偽関節となり,再転倒しプレート下端で骨折を来した症例に対してWagner revision stemを用いた再手術を経験した.症例は86歳女性,81歳時,右大腿骨転子部骨折に対してcaptured hip screwによる内固定を施行した.1本杖歩行が可能であったが,自宅台所で転倒し,右股関節部に疼痛が出現し,歩行困難なため来院した.単純X線写真でプレートの脱転,プレート下端に骨折を認めた.再整復は困難であり,通常のステムでは対処できないと判断し,Wagner revision stemによる人工骨頭挿入術を施行した.術後5カ月を経過した現在,1本杖歩行可能であり,単純X線写真ではステムの沈下,弛みを認めず,術後経過は良好である.

カフェイン併用化学療法が奏功した明細胞肉腫の2例

著者: 藤巻芳寧 ,   土屋弘行 ,   朝田尚宏 ,   寺崎禎 ,   山本憲男 ,   金澤芳光 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.967 - P.970

 抄録:明細胞肉腫は足部に好発する稀な悪性軟部腫瘍で,再発や転移を来しやすいため予後不良である.また,緩徐に増大するため良性腫瘍と間違われやすく,不適切な切除を受けることが多い.今回われわれはカフェイン併用化学療法が著効した明細胞肉腫の再発および転移の2例を経験した.症例1は13歳の女性で,局所再発例である.術前化学療法に放射線療法を併用し,腫瘍は画像上消失した.広範切除および術後化学療法を行い,術後5年で無病生存中である.症例2は47歳の男性で,局所再発に対して広範切除術を受けたが,多発性の肺転移を生じたため,術後化学療法を目的に当科へ紹介となった.化学療法後肺転移巣は画像上いったんすべて消失した.化学療法後に出現した転移巣を切除後3年で無病生存中である.カフェイン併用化学療法は再発,転移例に対しても有効であり,初回治療時から化学療法を施行することが明細胞肉腫の治療成績の向上につながると考えられた.

感染性脊椎炎に対するリン酸カルシウムセメントの応用―抗菌剤の徐放性キャリアとしての使用例

著者: 金山雅弘 ,   橋本友幸 ,   重信恵一 ,   大羽文博 ,   石田隆司 ,   山根繁

ページ範囲:P.971 - P.975

 抄録:非定型抗酸菌性脊椎炎に対し,抗結核剤の徐放性キャリアとしてリン酸カルシウムペースト(以下CPC)を使用した症例について報告する.症例は81歳女性で,腰痛と右下肢痛のため歩行困難となり,右大腿神経麻痺を呈していた.MRIにてL2/3椎間腔の狭小化と椎体の骨破壊像,硬膜外膿瘍を認め,針生検にてMycobacterium Kansassiiが検出された.前方および後側方固定術を一期的に施行した.前方固定にはINH 450mgを混合したCPCをチタンメッシュ内に充塡して使用し,後側方固定ではインストゥルメンテーションを併用した.術後,硬性コルセットを6カ月間装着し,INH・RFP・EBの抗結核剤3剤の内服投与を9カ月間行った.術後1年6カ月の経過観察時,骨癒合は得られ,感染の再燃も認めなかった.抗結核剤の徐放性キャリアとしてのCPCと前方支柱としてのチタンメッシュの併用は有用な方法として期待される.

大腿部遠位に発生した腱鞘巨細胞腫(tenosynovial giant cell tumor)diffuse-typeの1例

著者: 鎌田尊人 ,   鬼頭正士 ,   高橋和久 ,   梅田透 ,   腰塚周平 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.977 - P.981

 抄録:腱鞘巨細胞腫(tenosynovial giant cell tumor)のdiffuse-type(以下TGCT-Dと略す)は比較的稀であり,悪性軟部腫瘍との鑑別も困難である.今回,大腿部遠位に発生した巨大なTGCT-Dに広範切除術を施行した1例を経験した.術前の触診で腫瘤は約15×7cm大で表面平滑,弾性硬で可動性はなかった.MRI像ではT1でiso intensity,T2ではまだらにhigh intensityな部分が存在し,ガドリニウムにて造影される巨大な腫瘤であり,臨床的には悪性腫瘍を疑った.しかし,術後の病理所見では,破骨細胞型多核巨細胞や泡沫細胞の集族像を認め,核分裂像は少なく,TGCT-Dと診断した.臨床的にTGCT-Dは悪性軟部腫瘍との鑑別は困難であるが,組織学的に鑑別可能であるため,切除術前に切開生検により診断を確定することが重要である.

脊髄髄内神経鞘腫の2症例

著者: 白井周史 ,   村上正純 ,   山崎正志 ,   大河昭彦 ,   新籾正明 ,   橋本光宏 ,   政木豊 ,   鎌田尊人 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.983 - P.987

 抄録:比較的稀な脊髄髄内神経鞘腫の2症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.症例1は54歳男性,主訴は歩行障害・排尿障害である.T1強調MRI Gd-DTPA造影像にてT3-4レベルの髄内に境界明瞭に造影された腫瘤を認め手術を施行した.病理組織所見は神経鞘腫であった.症例2は51歳男性,主訴は左前腕部の異常知覚である.MRI像ではC4レベルの髄内に腫瘤を認め手術を施行,神経鞘腫であった.当院においてMRI導入後に手術を施行,病理診断の確定した髄内腫瘍症例63例中,神経鞘腫は本報告の2例のみである.われわれが文献的に渉猟し得た脊髄髄内神経鞘腫報告例は37例であり,罹病期間は41.4カ月と比較的緩徐な経過を呈するものが多かった.脊髄髄内神経鞘腫の発生起源については種々の見解があるが,本症例の術中所見は後根のroot entry zoneに存在するSchwann細胞由来説を示唆するものであった.

経カテーテル動脈塞栓術後殿筋壊死・直腸粘膜壊死・下肢神経障害を起こした骨盤骨折の1例

著者: 鈴木卓 ,   河合孝誠 ,   安瀬正紀 ,   杉山貢

ページ範囲:P.989 - P.992

 抄録:出血性ショックを伴った骨盤骨折に対して両側内腸骨動脈の経カテーテル動脈塞栓術(以下TAE)を施行後,TAEが関与したと思われる合併症を来した症例を経験した.症例は23歳男性で,バイク事故により骨盤骨折と右下肢の開放性骨折を受傷した.治療経過中右下肢の感染を併発し切断術を施行した.さらに両側殿筋壊死,直腸壊死,左下肢神経障害が発症し,8カ月にわたる入院治療後車椅子での生活となった.TAEは骨盤骨折に有用な治療手段であるが,合併症の発現についても注意が必要である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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