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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科39巻1号

2004年01月発行

雑誌目次

巻頭言

第77回日本整形外科学会学術総会を主催するにあたって

著者: 国分正一

ページ範囲:P.2 - P.3

 第77回日本整形外科会学術総会を本年5月20日(木)~23日(日)の4日間にわたって,神戸市ポートアイランドで開催させていただきます.「何故,仙台でないの」とよく聞かれました.今年は,一昨年の日整会理事会「学術集会部会」が「学術集会のあり方」に関して提言した改革案の幾つかを実行に移す最初の年となります.その1つが,参加者の便宜を考慮した大都市での開催です.後に,「あの神戸の総会から変わった」と思い出していただけるようにと,鋭意準備を進めております.

 昨年9月,学術総会プログラム企画委員会が発足しました.現会長が委員長となり,理事長,副理事長,前・次期・次々期会長,専門医制度委員会担当理事,大学人・勤務医・開業医の理事3名,前理事1名の計11名で構成するものです.まずここ数年の学術総会運営の原則作りを行って,その上で企画全般を審議し,国際シンポジウムの4枠,シンポジウム・パネルディスカッションの26枠などを選定しました.会長の裁量が大きく制限されますが,それが本来の姿と考えて,むしろ積極的に提案し,改革を推進しています.

シンポジウム 外傷に対するプライマリケア―保存療法を中心に

緒言 フリーアクセス

著者: 堀内行雄

ページ範囲:P.4 - P.6

 整形外科医の扱う疾患は,極めて多彩で専門的にならざるを得ない側面を持っている.このため若い整形外科医は,部位別や疾患別の専門家を目指すものが少なくない.しかし,われわれ整形外科医は,診療の場でバラエティに富んだ運動器疾患を治療しなければならないので,整形外科の一般的知識を持つことは不可欠である.初期治療の段階で疾患や損傷が見逃されたり,不適切な手術を受けたために障害を残している症例を診ることもあり,心が痛む.このようなことのないように,プライマリケアに対する正しい知識を身に付けることは必要であり,特に外傷に対するプライマリケアのより良い知識を体得することが求められる.

 外傷により生じた疾患は,加わった外力などが異なるため,「結果が悪くなったのは強い外力が加わったためで,治療の仕方が問題なのではない」と済ましてしまうことがあるかもしれない.本当にそうなのだろうか.確かにそのようなことはあるが,多くはプライマリケアが適切であれば,治療期間も短縮できたし,結果も満足できるものであった可能性が残されている.多くの患者をより良く治すという点からも,特に第一線で活躍している整形外科医は外傷に対するプライマリケアの正しい知識を体得すべきである.

鎖骨遠位端骨折に対する鎖骨バンドと弾性包帯を使用した保存的治療法

著者: 西堀靖広 ,   佐藤伸一

ページ範囲:P.9 - P.13

 抄録:烏口鎖骨靱帯損傷を伴った鎖骨遠位端骨折Neer分類Type Ⅱ(以下Type Ⅱとする)の治療は,主に手術療法が行われている.その理由は,従来の保存的治療法では骨癒合を得ることが困難であったためである.われわれは,鎖骨遠位端骨折Type Ⅱ 15例に対し鎖骨バンドと弾性包帯を使用した保存的療法を行った.2例に軽度の外転制限を認めたが,疼痛,ADL制限,変形治癒を残した症例はなかった.われわれの方法は簡便で患者の負担も少ない有効な方法である.

上腕骨近位端骨折に対する保存的治療―下垂位での早期運動療法について

著者: 石黒隆 ,   橋爪信晴 ,   中山学

ページ範囲:P.15 - P.22

 抄録:骨折の治療は本来保存的治療を優先すべきである.最近は手術的治療が優先される傾向にあり,とくに上腕骨近位端骨折にその傾向が強い.われわれは1993年より本骨折に対し受傷後1週から積極的な下垂位での振り子運動を行うことにより,骨癒合や可動域の獲得に良好な結果を得ている.上腕骨骨頭に多少の遺残変形を残すが,偽関節や骨壊死はみられず,現在まで全例に骨癒合が得られている.

 手技を簡単に説明すると,身体を前屈してzero-position位(敬礼位)にもっていき,腕の力を抜きリラックスした状態で120°以上の可動域を獲得するように下垂位での振り子運動を行う.従来では保存的治療の適応はないとまで言われた転位のある3-part,4-part骨折でも,骨折面の接触が得られれば保存的治療が可能であり,Neerの報告とは逆に手術的治療の適応は少ないと考える.

橈骨遠位端骨折のプライマリケア―手関節背屈位ギプスの成績

著者: 高畑智嗣

ページ範囲:P.23 - P.29

 抄録:背屈型橈骨遠位端骨折58例を麻酔下に徒手整復し手関節背屈位ギプスを用いた保存的プライマリケアを施行した.このうち8例は再転位のために手術したので除外し,保存的に治癒した50例を検討した.性別は女性41例,男性9例.年齢は17~84歳(平均61歳)であった.骨折型はAO分類のA2が7例,A3が31例,C2が2例,C3が10例であった.Palmar tiltは初診時平均-19.7°が整復直後平均3.2°となり骨癒合後平均0.2°であった.骨癒合後に-10°未満は6例であり,palmar tiltの保持は良好であった.整復の4日以内にギプスに変更を加えた症例が11例あったが,母指球部の十分な除圧と高挙指示の徹底で発生が減少した.手根管症候群などの神経麻痺やRSDの発生はなかった.10週以上経過観察した42例の平均ROMは回内83°,回外86°,背屈80°,掌屈63°であり,斉藤のポイントシステムでexcellentが29例,goodが13例であった.

手舟状骨骨折の初期治療

著者: 池上博泰

ページ範囲:P.31 - P.35

 抄録:1997年から2001年までの5年間に治療を行った舟状骨骨折新鮮例72例について,その治療方法と成績を検討した.また,初期治療の問題点を検討するために,1987年から2001年までに手術を行った舟状骨偽関節,98例について,初期治療の方法について調査した.新鮮例72例中,保存療法が23例(うち5例は途中で手術となった),手術療法が54例(Herbert分類のtype A2が33例)であった.外固定期間は,保存療法では4~12週(平均9週),手術療法では1~8週(平均2.1週)であった.72例とも骨癒合は得られ,type A2,B1-3は,全例Cooney評価でgood以上であった.type B4の3例中1例がfairであった.偽関節98例中,受傷時医療機関を受診していたものは82例で,舟状骨骨折と診断されていた例はわずか3例であった.

 最近の内固定材料の進歩により,従来では保存療法の適応であったtype A2なども積極的に手術が行われ,外固定期間の短縮とともに良好な成績が得られている.しかし,問題は舟状骨骨折の存在が見逃され偽関節となっている例が多いことである.

手術によらない新鮮膝前十字靱帯損傷に対する治療法の予後

著者: 木村雅史 ,   小林保一 ,   朝雲浩人 ,   大歳憲一 ,   白倉賢二 ,   高岸憲二

ページ範囲:P.37 - P.41

 抄録:断裂前十字靱帯(ACL)には縫合,再建などの特別な処置を加えず,慎重に経過をみた場合の症例(放置群)と,装具を用い積極的に断裂靱帯を修復させる方法を行った群(保存的修復群)の予後調査を行い,以下の結果を得た.放置群のfunctional scoreは良好であったが,activity scoreは満足すべき結果ではなかった.KT-1000では28%が3mm未満であった.保存的修復群の治癒率は徒手不安定性テストからは69.4%,ストレス撮影の正常範囲内改善例は56.5%であった.なお再断裂率は18.6%であり,6年生存率は54.8%であった.以上により,新鮮ACL断裂を放置した例では日常生活には支障なく,スポーツではレクレーショナルなスポーツ活動ではほぼ満足すべき結果が得られている.保存的修復法例は治癒率が低く,再断裂率は高い.しかし,治癒した例の満足度は高いので,適応を厳密にすれば今後とも選択すべき治療法の1つである.

スポーツ選手のアキレス腱断裂に対する保存療法

著者: 林光俊 ,   石井良章

ページ範囲:P.43 - P.47

 抄録:新鮮アキレス腱皮下断裂に対して保存療法を行った96例をスポーツレベル別に行った経時的観察を報告し,併せてリハビリテーションの実際を解説する.症例は96例97足で治療は6週間の膝下ギプス固定と4週間の短下肢装具を装着した.杏林大学式保存療法の特徴は,①受傷直後のギプス固定中より足趾や下肢の積極的な運動療法を行う,②装具期間中でも固定時以外は足関節の自動可動域訓練を行う,③装具除去後で足関節の可動域が背屈0度(中間位)可能になったらつかまってつま先立ち練習を開始する,④両足つま先立ちが可能となったら軽いジョギングを許可する.⑤患側片つま先立ちが可能になったら受傷原因のスポーツを許可することである.全例アキレス腱の癒合は得られ,特に全国レベルの選手はスポーツ復帰がレクレーションレベルより早かった.再断裂時の治療は再び同じ保存療法を用いて治癒した.アキレス腱断裂は俊敏な動作や跳躍を必要とするスポーツ選手を含めて保存療法で十分治療可能である.

論述

MRIによる腰椎術後硬膜外血腫の評価

著者: 原憲司 ,   中井修 ,   進藤重雄 ,   水野広一 ,   大谷和之 ,   高橋誠 ,   草野和生 ,   三宅論彦 ,   山浦伊裟吉

ページ範囲:P.49 - P.54

 抄録:腰椎術後に下肢痛やしびれなどが遺残したり,新たに発生することは稀ではない.これらが術後硬膜外血腫により引き起こされている可能性について検討するため,術後MRIを撮影した66症例で血腫の有無により術後症状に差があるか否か,後向き研究を行った.MRI上,血腫を認めた症例(以下,陽性群)は30例,血腫を認めない症例(以下,陰性群)は36例であった.これら2つの群の間で殿部痛の割合は陽性群40.0%,陰性群16.7%と有意差を認め(P=0.034),下肢痛の割合も陽性群40.0%,陰性群16.7%と有意差を認めた(P=0.034).腰痛,下肢しびれ,MRI撮影時および退院時における術前と比較した筋力低下の有無,および退院時のJOAスコアの改善率においては有意差を認めなかった.術後硬膜外血腫は強い痛みや筋力の低下を来して血腫除去術を必要とする以外に自然消失する血腫があり,殿部痛や下肢痛の遺残など術後早期の経過を不良にしていることが考えられる.

統計学/整形外科医が知っておきたい

10.生存分析―2群の比較を中心として

著者: 小柳貴裕

ページ範囲:P.56 - P.62

 すべての死をもってようやく生存期間の評価が始まるというのでは分析の計画が立たない.現在,整形外科領域でも繁用されているKaplan-Meier法をはじめとして,観察期間の異なる全部の症例を無駄にすることなく,生存している例や消息不明例すなわち打ち切り例(censored data)をも分析の対象に含めて分析する方法が生存分析である5)

運動器の細胞/知っておきたい

骨端成長軟骨板の細胞

著者: 神谷宣広

ページ範囲:P.64 - P.66

 骨端成長軟骨板は実に神秘的な部分である.なぜなら,胎生期に完成する人体の発生過程,特に骨,軟骨の発生過程を生後に観察できる特殊な部分だからである.最近,関心の集まっている骨,軟骨の再生医療の話題から,分子生物学的な最近の知見までを含め,骨端成長軟骨板の細胞について紹介したい.

最新基礎科学/知っておきたい

RANKL-RANK

著者: 田中栄

ページ範囲:P.68 - P.70

 骨形成を担う骨芽細胞と,骨吸収を担う破骨細胞の起源がかなり初期の段階で異なっている,すなわち骨芽細胞は未分化間葉系細胞から,破骨細胞は造血幹細胞から分化することが明らかになったのはそれほど古いことではない1,3).生体において骨形成・骨吸収がバランスよく調節されており,骨組織のホメオスタシス(恒常性)が保たれるという事実は,これらの起源を異にする細胞がお互いの分化・機能発現に強く影響を及ぼしあっている可能性を示唆する.しかしながら骨組織,そして骨の細胞(特に破骨細胞)に対する分子生物学的なアプローチはきわめて困難であり,細胞間相互作用に関与する分子の存在は,永らく仮説にとどまった.

 このような文脈の中で,receptor activator of NF-kappa ligand(RANKL)およびその受容体RANKのクローニングとその骨代謝への関与の解明は,20世紀後半の骨代謝研究領域において最も重要な発見の1つであったといっても過言ではない5).骨芽細胞によって産生されるRANKLが破骨細胞の分化・活性化を制御するという発見は,1981年にRodan & Martinによって提唱された,「骨芽細胞が破骨細胞の分化・活性を調節する」という仮説を分子の言葉で詳らかにしたといえる4).また活性化したTリンパ球がRANKLを発現するという事実は,関節リウマチをはじめとする免疫疾患と骨代謝異常との関係を理解するうえでの重要な橋渡しになった.なによりその同定からわずか5年の間に発表された1,300以上にものぼるRANKL-RANK関連の論文数が,その重要性を雄弁に物語っている.

整形外科/知ってるつもり

無呼吸テスト

著者: 西部伸一 ,   武田純三

ページ範囲:P.72 - P.74

■脳死と植物状態
 脳死は「脳幹を含む全脳機能の不可逆的な機能喪失の状態」と定義される.深部反射,腹壁反射,足底反射などの脊髄反射は残っていてもかまわない.いわゆる「植物状態」は脳幹の一部が生きており,人工呼吸器をつけなくとも自力で呼吸ができるという点で脳死とは異なる.

連載 整形外科と蘭學・7

華岡青洲と整骨術

著者: 川嶌眞人

ページ範囲:P.76 - P.77

 明治4年(1871),中津の片端町に中津医学校が創設され,その取立方すなわち校長に大江雲沢(1822~1899)が就任した.鷹匠町にある大江家を調査したところ,「解体新書」をはじめとして約1,000点の史料が発見され,中でも江戸末期に医のリスクマネジメントを記載した「医は不仁の術,務めて仁をなさんと欲す(医療は必ずしも仁術のみとは言えない.だからこそ常に患者のために努力して仁術を尽くすべき)」の雲沢の書とそれを詳述した書物には現在でも心を打たれるものを感じる(図1).「医は不仁の術」は近年,臨床薬理学会,胸部外科学会,インターベンション学会などでもテーマに取り上げられており,古今を問わず,医師が直面している大きな課題であることに変わりはない.

 大江家の史料の中から華岡青洲(1760~1835)の画像や手術書(青洲所診画帳)が発見されたことから,和歌山県の県立博物館や那賀町平山の華岡塾跡地まで行き,門人帳を調べたところ,天保12年(1841)の春,雲沢は大坂分塾(合水堂)に入門していたことが判明した.

臨床経験

四肢長管骨骨幹部転移性骨腫瘍に対するアドリアマイシン混入セメントを併用した髄内釘による治療

著者: 鈴木喜貴 ,   杉浦英志 ,   山田健志 ,   高橋満

ページ範囲:P.79 - P.83

 抄録:四肢長管骨転移性骨腫瘍に対しアドリアマイシン混入セメント(以下ADMセメント)を併用し髄内釘固定を行った8例を検討した.原発巣は乳癌4例,肺癌,食道癌,卵巣癌,多発性骨髄腫が各1例である.手術時の出血量は平均494ml,輸血量は平均3.25U(MAP)であった.4例が術後1年以内に死亡した.ADLは術前に比し低下した症例はなく,特に術前寝たきり症例において大幅な改善が得られ,終末期まで高いADLが維持できた.またADMセメントを併用することにより局所病変の進行が抑えられ,固定力も増強させることができた.転移性骨腫瘍に対する手術では局所根治性よりも低侵襲で高いQOLの獲得が目標であるが,予想される予後に応じて手術法を決定しなければならない.ADMセメントを併用した髄内釘固定は四肢長管骨骨幹部転移性骨腫瘍に対する外科的治療の一方法として有用である.

神経症状を呈した脊柱管内囊腫性病変(juxta-facet cyst)の7例

著者: 中村茂子 ,   宮内晃 ,   奥田真也 ,   岩崎幹季 ,   山本利美雄

ページ範囲:P.85 - P.92

 抄録:椎間関節周囲に生じる囊腫性病変は,滑膜囊腫とガングリオン囊腫に大別されてきたが,最近ではこれらは一括してjuxta-facet cyst(JFC)として扱われている.神経症状を呈したJFC 7例の臨床症状,画像所見,病理所見について検討した.JFCの発生高位はC1/2,C7/T,L3/4,L5/Sが各々1例,L4/5は3例であった.JFCは椎間関節近傍に局在することから,腰椎例のうち4例は神経根症状を,C7/Tの症例はBrown-Sequard型の麻痺を呈した.腰椎変性すべり3例,腰椎変性側弯1例,環軸椎亜脱臼が1例存在し,全例椎間関節のOA変化が認められた.MRIでは,T1強調像で低から等信号,T2強調像で高信号を示し,ガドリニウムで囊腫の辺縁が造影された.C1/2の症例に対してはMagerl法による固定術とMcgraw法による腸骨骨移植のみを行い,それ以外は囊腫摘出術を行った.Lining cellは2例に認められた.JFCの臨床的特徴と発生機序について文献的考察を加え報告する.

症例報告

脊椎骨幹端異形成症の1例

著者: 伊藤貴明 ,   西村一志 ,   榊原方枝

ページ範囲:P.93 - P.96

 抄録:扁平椎,下肢中心の骨幹端異形成を伴った稀なspondylometaphyseal dysplasia(以下SMDと略)の1例を経験したので報告する.症例は,5歳8カ月の女児.主訴はO脚,低身長.家族歴,出生歴に問題はなく,11カ月にて処女歩行開始.発達の遅延はみられなかった.躯幹短縮型の小人症で,顔貌は正常,角膜混濁はなく,知能,視力,聴力も正常,歩行は家鴨様であった.X線上,扁平椎,長管骨骨幹端異形成の他,Kozlowski型SMDに特徴的な所見がみられていた.本疾患に特異的な治療法はなく,予後は良好で,変形が強い場合には矯正骨切り術が必要となるが,O脚は改善傾向にあり,現在は経過観察中である.SMDの類似疾患は多数存在し,表現型も多彩であり,今後,その診断や分類について明確にしていく必要がある.

筋肉転移で発見された胃癌の1例

著者: 里中東彦 ,   浦和真佐夫 ,   森本剛司 ,   浅間信治 ,   樋口裕晃 ,   湯浅公貴 ,   内田淳正

ページ範囲:P.97 - P.100

 抄録:びまん性に広がった筋肉転移を初発とした胃癌の1例を経験したので報告する.症例は51歳,男性.主訴は右大腿前内側部腫脹および疼痛である.当科初診時,右大腿前内側部に発赤を伴う腫脹,硬結を認め,血液検査所見では軽度の炎症反応を認めた.これらの所見より化膿性筋膜炎を疑い手術を行った.術中に排膿はなく,大腿筋膜は固く肥厚し,筋間の結合織および縫工筋は瘢痕化していた.生検組織の細菌培養は陰性で,初回の病理組織診断は結節性筋膜炎であった.広域スペクトルの抗生物質を術後1週間投与するも局所所見は全く改善せず,病理組織の再検討を行った.その結果,筋膜内中心に印環細胞型腫瘍細胞が認められた.原発巣検索目的で行った上部消化管内視鏡で進行胃癌が発見され,その筋肉転移と診断した.本症例では筋膜内中心に印環細胞型腫瘍細胞がびまん性に増殖したため,軟部組織炎症と紛らわしい臨床像を呈したものと考えられる.臨床像および画像所見が炎症性疾患を思わせるにもかかわらず,感染症が否定的な場合には,癌の筋肉転移も考慮する必要がある.

12歳男児の肩関節骨軟骨腫症の1例

著者: 加藤裕幸 ,   小川清久 ,   池上博泰 ,   井口理 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.101 - P.104

 抄録:文献上最年少の12歳男児の肩関節に発生した骨軟骨腫症を経験した.1999年11月,後方宙返り後より右肩の運動時の疼痛が出現し,同年12月に当科を受診した.単純X線で肩関節裂隙内,および腋窩部に複数の石灰化陰影を認め,MRIで上腕骨骨頭内側に周囲骨と信号強度の異なる領域と高度の滑膜炎を認めた.関節鏡視下で遊離体を摘出し,組織学的検査により二次性骨軟骨腫症と診断した.原疾患は,離断性骨軟骨炎の可能性が高いと考えられた.術後2年では,疼痛はなく,理学所見上も異常はなかったが,MRIでは軟骨下骨の軽度の不整と軟骨表面の陥凹が残存していた.

外傷性橈骨遠位骨端線早期閉鎖に対して仮骨延長術を行った2例

著者: 古賀龍二 ,   加藤直樹 ,   根本孝一 ,   有野浩司 ,   中道憲明 ,   田中優砂光 ,   土原豊一 ,   冨士川恭輔

ページ範囲:P.105 - P.108

 抄録:症例1は14歳,女子.1996年に左橈骨遠位端骨折を受傷し保存療法を受けた.1998年から左手関節痛が出現し増強したため,1999年7月当科を受診した.外傷性橈骨遠位骨端線早期閉鎖と診断し,2000年3月に橈骨仮骨延長術(12mm)を行った.術後2年の現在,X線写真上で手関節の適合性は良好であり手関節痛は消失している.症例2は16歳,男性.1994年に左橈骨遠位端骨折を受傷し保存療法を受けた.1997年から左手関節痛と前腕変形を認めたため,1999年4月当科を受診した.外傷性橈骨遠位骨端線早期閉鎖と診断し,2000年7月に橈骨仮骨延長術(15mm)を行った.術後1年6カ月の現在,X線写真上で手関節の適合性は良好であり手関節痛は消失している.今回,仮骨延長術にて橈尺骨長差が矯正され,しかも遠位橈尺関節の適合性が得られた.小児外傷例における橈骨骨端線早期閉鎖に対する仮骨延長術は有効である.

片開き式頚部脊柱管拡大術に使用したハイドロキシアパタイトスペーサーの骨癒合に対する検討

著者: 立原久義 ,   鈴木幹夫 ,   横村伸夫

ページ範囲:P.109 - P.114

 抄録:片開き式頚部脊柱管拡大術に使用したハイドロキシアパタイトスペーサー(以下HAスペーサー)の骨癒合の程度と,骨癒合に影響を与える因子について検討した.対象は術後6カ月以上経過した男性10例,女性6例であり,平均年齢は64.9歳,術後経過観察期間は平均12カ月である.HAスペーサーは75椎弓のうち43椎弓に使用した.各椎弓における骨癒合の判定にはCTを用いた.また,椎弓ごとでの骨癒合に影響を与える因子を検討した.さらに症例ごとでも骨癒合の程度により2群に分類し比較検討した.調査時,各椎弓において骨癒合は39.5%(17椎弓)に認められた.また,HAスペーサーの拡大幅が大きいほど骨癒合が多く,さらに下位椎弓に設置されたものに骨癒合が多かった.症例による骨癒合の程度の差で,JOAスコアや術後の項肩部痛に違いを認めなかったが,術後経過日数の長い症例に骨癒合が多かった.

有鉤骨骨内ガングリオンの1例

著者: 松岡宏昭 ,   永井秀三 ,   山本謙吾 ,   高瀬勝己 ,   堀田隆人 ,   今給黎篤弘

ページ範囲:P.115 - P.119

 抄録:症例は16歳,男性.剣道歴11年.剣道中,左手背部尺側部痛が出現し,疼痛が持続するためX線像にて有鉤骨異常陰影が指摘され精査加療目的にて入院となる.単純X線像では,有鉤骨は膨化し隔壁を有して辺縁硬化を伴う骨透亮像を呈し,CTにて有鉤骨背側の骨皮質は菲薄化し,内部には隔壁を有しているのを認めた.MRIにてT1強調像で低信号,T2強調像で高信号,造影にて周囲に造影効果を認めた.手術所見では有鉤骨背側皮質は菲薄化・膨隆し,開窓すると黄色ゼリー状の内容液が流失した.内部は隔壁構造を呈しており,十分に掻爬後,腸骨海綿骨を移植した.周囲組織との交通は認めなかった.手根骨発生の骨内ガングリオンの大部分は近位列,特に月状骨,舟状骨が占めている.骨内ガングリオンの成因としては諸説があるが,本症例では11年の剣道歴があり,竹刀を振る際の前腕回内,手関節背屈,尺屈の動作による機械的ストレスによる有鉤骨骨内の血行障害が一因と考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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