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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科39巻2号

2004年02月発行

雑誌目次

視座

知価革命と医療

著者: 大井利夫

ページ範囲:P.129 - P.130

 総選挙も終わり,構造改革推進を唱える小泉内閣が政権を継続することになった.政府は既に,平成15年6月27日に「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」を閣議決定している.その中で「国民の安全の確保」を宣言し,「持続可能で効率的な制度を確立することなどにより国民の[安心]を構築することは,政府の責務である」と格調高く謳っている.この決定を受けて,厚生労働省も制度の確立に向けて積極的に取り組むことを表明しているが,具体的対策の立案は今後の検討に委ねられることになる.経済論議は別にして,医療者にとって関心の高いのは医療提供体制を含む医療制度のあり方であろう.目の離せないことも少なくないが,しかし実際には,医療制度は現実の医療の後追いであることが多いように思われる.国民がいかなる医療を求めているか.医療者はそれにどのように呼応しているかが先行し,それを見抜くことが大切だと思う.

 アルヴィン・トフラーは,農業革命,産業革命に続くコンピュータや通信技術の発展が「第3の波」を引き起こすことを予言した.知識と知恵の時代である.堺屋太一氏はこれを「知価革命(Knowledge Value Revolution)」と称し,現代は大量化・大型化・高速化の近代工業社会から,多様化・情報化・省資源化の,いわゆる「知価社会」に入っていると指摘している.わが国が,こうしたグローバルな「知価革命」に乗り遅れたことが,1990年以来の経済苦況の根本原因であるという.共感できる点が少なくない.

論述

Graf制動術の生体力学的研究―除圧モデルにおける制動効果

著者: 長谷川和宏 ,   高野光 ,   遠藤直人 ,   原利昭

ページ範囲:P.133 - P.140

 抄録:除圧術による不安定化モデルを作成し,除圧術後のGraf手術の制動効果について検討した.成豚より摘出した腰椎機能的脊柱単位(FSU)を計11個使用し,①intact(Int)群,②両側内側椎間関節切除術(MF)群,③左椎間関節全切除(TF)群,の3つの除圧段階に,それぞれ①インプラントなし,②Graf制動術(Graf),③pedicle screw固定術(PS)を連続的に行い,屈伸,側屈,回旋の6方向運動を負荷して,剛性およびneutral zone(NZ)を計測した.Graf制動術によって,剛性は顕著に向上し,MFであればintactのFSUに比べて2倍以上に達した.しかし,TFになると剛性は低下し,回旋ではintactのFSU以下にまで低下した.一方,NZは各除圧段階とも顕著に減少し,MFであれば,回旋以外の加重モードではPS固定術と同程度のNZを示した.しかし,TFになった場合,回旋モードではintactのFSUよりもNZは大きくなった.Graf制動術は内側椎間関節切除後には良好な制動力を発揮するが,一側でも椎間関節全切除となった場合は適応外である.

近赤外酸素代謝モニターを用いた腰背筋の評価

著者: 酒井義人 ,   松山幸弘 ,   後藤学 ,   吉原永武 ,   辻太一 ,   中村博司 ,   長谷川幸治 ,   石黒直樹

ページ範囲:P.141 - P.146

 抄録:腰痛自覚者における活動筋での酸素利用の時系列的な情報を得ることを目的として,近赤外酸素代謝モニターを用いて腰背筋におけるヘモグロビンの酸素化-脱酸素化状態の変化を測定した.対象は計50例の慢性腰痛あり,なし両群で,腰椎伸展中における酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb),脱酸素化ヘモグロビン(Doxy-Hb),総ヘモグロビン(Total-Hb),酸素化率(SdO2)の経時的変化を記録した.Oxy-Hbの相対変化量は有意に腰痛あり群で少なく,またOxy-Hb上昇のピークまでに要する時間は腰痛あり群で有意に長かった.Doxy-Hb変化量,SdO2変化量ともに両群間で有意差を認めなかった.腰痛自覚者において腰椎伸展中のOxy-Hbの上昇とそのピークまでの到達時間が緩徐であったことは,高強度の運動時にO2extractionの増加に対応する筋パフォーマンスが低下していることが予測された.

整形外科/基礎

ラット椎間板ヘルニアモデルに対する各種NSAIDsの鎮痛効果―c-Fosによる検討

著者: 佐々木伸尚 ,   菊地臣一 ,   紺野愼一 ,   荒井至

ページ範囲:P.147 - P.154

 抄録:〔目的〕脊髄後角に発現するc-fosを痛覚受容の指標として用い,ラット椎間板ヘルニアモデルに対する各種NSAIDsの鎮痛効果を検討した.

 〔対象〕Wistar系雌ラット60匹を用いた.

 〔方法〕ラットを全身麻酔後,L4/5椎間板の髄核を脱出させた椎間板ヘルニアモデルを作成した.モデルにloxoprofen-Na,diclofenac-Na,indometacin,etodolacを経口投与した.対照として生理食塩水を用いた(各群n=5).術後2時間と24時間で灌流固定後,第5腰髄のc-Fos陽性細胞を染色した.c-Fos陽性細胞数を層別に計測し,分散分析を用いて検定を行った.

 〔結果〕手術2時間後:c-Fos陽性細胞数は,対照群とNSAIDsを投与した群の間に有意差を認めなかった.手術24時間後:loxoprofen-Naを投与した群でのみ,対照群と比較して有意にc-Fos陽性細胞の発現が抑制された(p<0.05).

 〔結語〕c-Fos陽性細胞数は,手術2時間後では薬剤による差はなかったが,24時間後では,薬剤による差が認められた.

手術手技/私のくふう

バリアブルスレッドスクリューにて骨接合を試みた有鉤骨鉤骨折の1例

著者: 渡辺淳 ,   高瀬勝己 ,   今給黎篤弘

ページ範囲:P.155 - P.159

 抄録:有鉤骨鉤骨折に対し背側より侵入し,Acutrak screw(米国Acumed社)にて観血的整復固定を施行した1例を経験した.症例は29歳,男性.ブレイクダンス中に転倒し,手関節背屈位で左手をつき受傷した.手背有鉤骨直上よりの侵入で,透視下にてmini-Acutrak screwを挿入した.手術実時間は20分であった.術後可動域制限,握力低下も認めず,Acutrak screwを用いることによって,十分な整復位と固定性を得ることが可能であった.

総説

整形外科領域の再生医療―骨・軟骨再生を中心に

著者: 安達伸生 ,   越智光夫 ,   岩佐潤二

ページ範囲:P.161 - P.167

 抄録:今日の高齢者社会やスポーツ人口の増加,あるいは交通外傷や労災事故により骨関節疾患,脊髄損傷などの運動器疾患を治療する機会は増加している.WHOは2000年から2010年をBone and Joint Decade(運動器の10年)として骨・関節疾患の対策を重点的に行うことを宣言した.骨・軟骨損傷や脊髄損傷などは現在の進んだ医療技術をもってしても治療に難渋する場合が多い.近年では種々の組織工学的技術を用いて,失われた組織や臓器を再生しようとする再生医療の研究が進んでおり,臨床応用へ向けた今後の進展が期待されている.本稿では骨・軟骨を中心に整形外科領域の再生医療の進歩に関し述べる.

特別寄稿

海外からみた日本の整形外科―あくせく働かずに,賢く働こう

著者: ジョン・H・ヒーリー

ページ範囲:P.169 - P.172

 野球のニューヨーク・ヤンキースは,好成績を収めているにもかかわらず,大リーグのトップであり続けるために新しい人材と技術を常に探し求めている.黒人選手や日本人選手を最初に採用したのはドジャースやジャイアンツなどであったが,ヤンキースも球団に必要な人材の枠を広げる重要性にすぐに気が付き,今では松井やクレメンスのような優秀な選手を獲得している.ヤンキースは,選手たちから最高のプレーを引き出す伝統とチームワークで有名だが,そこに世界的な視点を効果的に取り入れている.そのやり方がいかにうまく機能しているかは,ワールド・シリーズにおける優勝回数や殿堂入りした選手の数の多さを見ればわかる.

 医学の世界でも同様で,チームワークと伝統による業績を土台に,国際的視点と国内の専門知識との融合が図られている.こうしたアプローチにより,医学は進歩する.私は,学界や研究者機関などの知的共同体を交流させる1つの手段として,整形外科の国際化に取り組んでいる.日本の整形外科の皆さんもこの作業に非常に熱心で,私は感心している.外部の考えを取り入れてそれを独自の国内状況に応用しようという皆さんの意欲こそが,整形外科の国際社会が日本の整形外科のリーダーシップに期待を寄せる理由の1つである.この目標に向けて皆さんの努力をどのように傾けたらよいかが,この小論のテーマである.

講座

専門医トレーニング講座―画像篇・63

著者: 中村雅也

ページ範囲:P.173 - P.175

症例:68歳,女性.

 主訴:右中指から小指のしびれ,歩行障害.

 現病歴:2年前から特に誘因なく右中指から小指のしびれが出現したため,近医で投薬と理学療法を受けていたが改善がみられず,半年前から歩行障害が出現したために当科を受診した.

 初診時現症:歩行は不安定で右足を引きずり,階段では手すりが必要であった.右上下肢の反射は亢進し,Hoffman反射陽性であった.右上腕三頭筋以下の筋力は低下し,右上肢尺側以下の知覚障害,右手指巧緻運動障害,頻尿を認めた.

整形外科/知ってるつもり

老化遺伝子

著者: 森望

ページ範囲:P.176 - P.179

 この数年,老化研究の分野では,動物の寿命の長短に影響する遺伝子の発見が相次いでいます.寿命の決定と老化の速度のメカニズムに関しては,まだ,直接的な関係があるかどうか,慎重な議論が必要ですが,大まかには,少なくともこれらを「老化遺伝子」の一部と解釈することができます.臨床医学の観点からすれば,ヒトの老化遺伝子に関心がありますが,生物の寿命決定や老化のしくみは進化的共通基盤があるはずなので,その意味で,遺伝学的操作の駆使できる老化のモデル生物からの老化・寿命関連遺伝子の知見は大いに参考になります.また,ヒトの百寿者(centenarian)や早老症(progeria)に関係する遺伝子にも大いに興味があります.ここでは,それらに関して最近の研究動向を概説しましょう.

最新基礎科学/知っておきたい

組織幹細胞

著者: 細金直文 ,   須田年生 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.180 - P.182

 幹細胞とは,自己複製能をもつ一方でより分化した細胞を作ることが可能な細胞であり,様々な組織や臓器に分布している.幹細胞にも様々なレベルのものが存在しており,全ての細胞に分化できる全能性幹細胞(totipotency),3胚葉の全ての系統に分化できるが胚外栄養膜細胞には分化できない胚性幹細胞(pluripotency, embryonic stem cell;ES cell),ある特定の組織において組織を構成する多くの細胞に分化できる組織幹細胞(multipotency, somatic stem cell)に大別できる.組織において分化・成熟した細胞は一定期間の寿命をもち,やがて死滅していく.これらの細胞を補給する必要がある時や,組織が障害され分化した機能細胞が減少した時などに未分化な幹細胞が新たに増殖,分化し,これらの細胞を補うことで組織の恒常性が維持されている.幹細胞は再生医療への応用の重要なツールになる可能性を秘めており,近年臨床応用も含め急速に注目を集めつつある.今回,幹細胞のうち再生医療の面から最も脚光を浴びている組織幹細胞について概説する.

連載 医者も知りたい【医者のはなし】 8

蘭医学事始・吉雄耕牛について

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.184 - P.187

 吉雄耕牛は長崎出島に出入りしたオランダ語の通詞(通訳)であり,一般にその名前はあまり知られていない.しかし,前野良沢と杉田玄白の解体新書のことは,一般によく知られている.この有名な解体新書の巻頭言を書いた人物が吉雄耕牛であると知ると,吉雄耕牛をぐっと身近に感じるから不思議である.解体新書は,この吉雄耕牛の存在なしには誕生しえなかったと書いても過言ではない.

 解体新書を著して蘭医学をポピュラーにした杉田玄白は「蘭学事始」を書いたので,その解体新書誕生の恩人の吉雄耕牛を書くにあたって,ちょっとひねって,題名を「蘭医学事始」としてみた.

医療の国際化 開発国からの情報発信

海外医療ボランティア活動記(5)―ルワンダ(その1)

著者: 藤塚光慶 ,   藤塚万里子

ページ範囲:P.188 - P.192

植民地政策が民族の対立を生んだ

 ルワンダはアフリカ中央部にある人口730万人程の小さな国(長野県の2倍くらいの大きさ)で,赤道直下にあるが,1,000メートル以上の高地なので気候も良く,コーヒーなどが栽培され,アフリカの中では人口密度の最も高い,比較的豊かな国であった.もともとは農耕民族のフツ族が住んでいて,15~17世紀にかけて長身の遊牧民族ツチ族が侵入してきた.

 19~20世紀にドイツ,ついで第一次世界大戦中からベルギーがルワンダを植民地とし,植民地政策として少数派ツチ族(9.4%)を優遇し,多数派のフツ族(90.1%)を支配させる構造をつくった.フツ族かツチ族かを記載した身分証を持たせ,厳しい身分差別をし,民族間の対立をあおった.宗主国であるドイツ,ベルギーに直接,反抗されないようにした巧妙な政策であった.これに反抗して,1959~1962年にフツ族が反乱を起こし,ツチ族が1万人以上殺害され,1962年,ルワンダが独立した.ツチ族はウガンダ,ブルンジなど,周辺諸国に流出し,ルワンダ愛国戦線(RPF)を結成した.1972年からブルンジでツチ族がフツ族を10万人以上虐殺した.1990年,RPFがルワンダの首都キガリに侵攻し,内戦状態となった.1993年8月に和平が成立したが,1994年4月にフツ族出身のハビャリマナ大統領の乗った飛行機が撃墜され,これに怒ったフツ族がツチ族を大虐殺した.その数100万人以上といわれた(この間の大虐殺の様や問題については曾野綾子著『部族虐殺』を参照されたい).

臨床経験

糖尿病足の治療と予後決定因子について

著者: 早稲田明生 ,   宇佐見則夫 ,   井口傑 ,   星野達 ,   平石英一 ,   宮永将毅 ,   水谷憲生 ,   吉野匠 ,   島村知里

ページ範囲:P.195 - P.200

 抄録:糖尿病足の手術症例58例85足の予後につき,その切断高位,術後生存期間,合併症について追跡調査を行い検討した.うち生死の確認が可能であった48例61足を対象とした.調査時点での生存者は26例で,22例は既に死亡していた.生存例の経過観察期間は平均3年10カ月,死亡例の術後生存期間は平均4年であった.最終手術または最終手術時の切断高位は,掻爬・皮膚移植が3足,足趾切断28足,足部切断4足,下腿切断21足で,大腿切断は5足であった.両側手術例は13例であった.切断高位と合併症との関係において,閉塞性動脈硬化症合併例では非合併例に比し,切断高位が高かった.また,虚血性心疾患や脳梗塞の合併例,透析例では術後生存期間が非合併例に比し短かった.切断後死亡率は,3年死亡率が下腿以上切断で57%,足部以下切断では33%であった.全身状態の不良な症例では特にその生活の質(以下QOL)をも考慮して切断高位を決定する必要がある.

Sprengel shoulderに対する肩甲骨骨切り術の手術成績

著者: 西須孝 ,   亀ヶ谷真琴 ,   落合信靖 ,   守屋秀繁 ,   森石丈二

ページ範囲:P.201 - P.206

 抄録:Sprengel変形に対するWilkinson法の手術成績についてretrospectiveに調査を行った.対象は,5例6肩,手術時年齢は平均6.6歳,術後経過観察期間は,平均4.8年である.術式はWilkinsonらの報告に従って肩甲骨の骨切り術を行った.調査項目は,手術時間,出血量,術前後における肩甲骨高位のX線学的評価,関節可動域等である.手術時間は平均2時間00分,術中出血量は平均108mlであった.肩甲骨高位は改善はみられたが,なお残存していた.関節可動域は側方挙上が術前平均95°,術後平均151°と全例で改善がみられた.Wilkinson法は,骨切りを伴うことから侵襲の大きい手術と考えられがちだが,簡便かつ安全な術式であり,特に機能回復に優れていた.しかし骨切りによる引き下げ幅に見合うだけの肩甲骨高位の改善はなく,さらなる改良の余地を残していた.

骨粗鬆症性椎体骨折の初期診断における単純CT撮影の有用性

著者: 渡辺慶 ,   山崎昭義 ,   保坂登 ,   米山建

ページ範囲:P.207 - P.212

 抄録:骨粗鬆症性椎体骨折の治療に際しては,骨折型を鑑別して適切な外固定を選択することが重要である.骨粗鬆症性椎体骨折61例を対象に,初期診断における単純CTの有用性を検討した.単純CT所見を椎体後壁の損傷の程度から①圧迫型,②境界型,③粉砕型として3群に分類した.X線計測として楔状率,後弯角,扁平率の推移について調査し,3群間で比較検討した.外固定は圧迫群には軟性装具,境界群および粉砕群は硬性装具を主に使用した.3群とも受傷時から調査時まで楔状率,後弯角,扁平率の経時的な進行を認めた.楔状率と後弯角の進行は境界群で大きく,扁平率の進行は粉砕群と境界群で大きかった.境界群は単純X線では圧迫群との鑑別が困難であるが,椎体後壁の微小骨折が存在している可能性が高く,粉砕骨折に準じて治療すべきである.単純CTは簡便に椎体後壁の微小骨折の判別がより正確にでき,ルチーン検査として有用である.

低リン血症性ビタミンD抵抗性くる病に対する創外固定を用いた矯正骨切り術

著者: 西山正紀 ,   長倉剛 ,   二井英二

ページ範囲:P.213 - P.217

 抄録:われわれは,著明なO脚変形を来した,低リン血症性ビタミンD抵抗性くる病の2例4肢を経験し,創外固定を用いた矯正骨切り術にて良好な経過を得ている.症例1は12歳,女性.12歳時にけい骨近位にて20°外反,30°外旋矯正し,また,14歳時に両大腿骨に対し,20°外反矯正手術を施行し,Orthofix創外固定器にて固定した.症例2は20歳,男性.20歳時に両下腿骨をけい骨近位にて右側25°外反,45°外旋,左側20°外反,45°外旋矯正し,イリザロフ創外固定器にて固定した.2症例とも経過は良好で,歩容は著明に改善した.本症における下肢変形は,多方向性であり変形角度も大きい.矯正骨切りとプレート固定は困難が予想される.創外固定器は,高度な変形矯正にも使用しやすく,微調整も可能で骨癒合にも有利と思われた.また,内科的コントロールの困難な症例は骨癒合にも不利で,慎重な配慮が必要である.

外側型腰椎椎間板ヘルニア7例の検討

著者: 神川康也 ,   中村伸一郎 ,   伊嶋正弘 ,   金民世 ,   木下知明 ,   三橋繁 ,   三橋稔

ページ範囲:P.219 - P.223

 抄録:外側型腰椎椎間板ヘルニアは画像診断の発達した現在もいまだ診断と治療に配慮の必要な疾患である.今回,われわれが経験した7例に検討を加え,診断に難渋した症例を呈示した.男性4例女性3例,年齢51~75歳,罹患高位はL3/4:2例,L4/5:3例,L5/S:2例,全例で当該椎間の上位の神経が障害されていた.L4/5の3例中2例にL4,L5の2根障害を認めた.下肢痛の程度は全例で強かった.術式はextra-foraminalと術前から診断された4例に対してWiltseの外側方アプローチを選択し,術後JOAスコアの平均は術前10.7点が26.5点に改善した.過去の報告でも外側型椎間板ヘルニアの頻度は,L4/5,L3/4の順に多く,L3,L4の根症状を呈する例が多い.L3とL4の神経所見は共通点が多く鑑別が困難なため,責任高位の決定に注意を要した.

症例報告

頚椎に発生した脊索腫再発例の治療経験

著者: 中村昭文 ,   小泉宗久 ,   植田百合人 ,   吉川隆章 ,   飯田仁 ,   高倉義典

ページ範囲:P.225 - P.228

 抄録:初回手術から長期間を経て中下位頚椎に再発した脊索腫の1例を経験した.症例は67歳の女性,主訴は項部痛および左肩から左上肢にかけての疼痛と筋力低下である.18年前に第4頚椎に発生した脊索腫に対して腫瘍摘出術と前方固定術を当科で施行した.今回撮影した単純X線,CT画像上,椎体の破壊像は広範囲で,辺縁に軽度の骨硬化像を伴っており,腫瘍は椎体左側で脊柱管内および前方外側に進展していた.MRI画像上,腫瘍はT1強調画像で低輝度,T2強調画像で高輝度を呈し,ガドリニウムで不均一に造影された.手術は後方からアプローチし左側のhemilaminectomy後腫瘍を摘出した.病理診断は脊索腫で,前回と同様の組織像を認めた.脊索腫は局所の再発傾向が強い悪性腫瘍であり,特に頚胸腰椎発生例では完全摘出が困難なため,仙尾椎に比べて再発率が高いと言われている.本症例は初回手術時en blocに摘出することができたため長期間無症状に経過したと考えられる.

肺塞栓症を生じた大腿脂肪肉腫の1例

著者: 森谷浩治 ,   井上善也 ,   斎藤英彦 ,   長野純二

ページ範囲:P.229 - P.233

 抄録:症例は61歳,女性.15年前より右大腿部に腫瘤があることに気づいていたが放置していた.誘因なく労作時呼吸困難が生じ,次第に安静時にも認めるようになり当院救急外来を受診した.胸部X線像で左上葉の透過性亢進,軽度の心拡大がみられ,心エコーで右室の著明な拡大を認めた.肺血流シンチで左肺の血流低下がみられ,静脈造影では右大腿静脈は描出されず右大腿静脈に生じた血栓による肺塞栓症と診断された.ウロキナーゼとヘパリン点滴静注が開始され呼吸困難は解消した.右大腿内側の軟部腫瘍が大腿静脈を圧排し,血栓が形成されたと考え腫瘍切除術を施行した.大腿動脈と大腿静脈は腫瘍と癒着し,圧排されていた.病理学的診断は脂肪肉腫であった.切除縁が一部辺縁切除であったため放射線療法を施行した.術後7年11カ月の現在再発転移はなく,下腿に軽度の浮腫を認めるが,膝関節可動域制限はなく無病生存中である.

脊椎カリエスに類似する画像所見を呈した甲状腺癌脊椎転移の1例

著者: 竹中聡 ,   細野昇 ,   坂浦博伸 ,   向井克容 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.235 - P.239

 抄録:症例は31歳の女性で,特に誘因なく強い背部痛が出現し両下肢麻痺を生じた.既往として14年前に甲状腺腫瘍切除術を施行され濾胞腺腫と診断されていた.ツベルクリン反応が強陽性で,MRIではT6~8椎体はT1強調画像で低~等輝度,T2強調画像で高輝度を呈し,造影画像で比較的均一な増強効果を認めた.病巣はT6/7,7/8椎間板にも浸潤し硬膜外腫瘤による脊髄の強い圧迫を認めた.さらにX線上椎間板腔の狭小化も認めたため,転移性脊椎腫瘍と脊椎カリエスの鑑別診断が困難であった.生検術の結果は濾胞状甲状腺癌の脊椎転移で,脊椎再建術を施行し独歩可能となった.一般に転移性脊椎腫瘍では椎間板は温存されるが,甲状腺癌のような発育の遅い腫瘍の転移巣では画像上椎間板腔への浸潤を認めることもあり得る.

大腿骨骨幹部骨折を来したpycnodysostosisの1例

著者: 原仁美 ,   黒石昌芳 ,   鍋島祐次 ,   藤井英夫 ,   尾崎昭洋 ,   中島哲雄

ページ範囲:P.241 - P.245

 抄録:症例は76歳,女性.2001年6月下旬に特に誘因なく左大腿部痛が出現し,前医を受診するもX線上異常はないといわれ歩行していた.7月10日に再び左大腿部痛が出現し,歩行困難となり当院を紹介され受診した.小学校1年生のときから15~16回の骨折の既往がある.両親はいとこ結婚である.同胞には異常を認めない.身体所見としては,小人症を呈し特徴的な鳥様顔貌を認め,指趾は短縮し爪は変形している.X線像上,泉門は開存し下顎角の消失を認め,手指末節骨は溶骨性骨欠損を呈する.血液学的所見には異常を認めない.本症例はpycnodysostosisに生じた左大腿骨骨幹部骨折であると診断し,7月17日に上腕骨ネイルを用いた閉鎖性髄内釘固定術を施行し,術後7週より超音波骨折治療を併用した.術後1年の現在,良好な骨癒合が得られている.

SAPHO症候群の1例

著者: 北本和督 ,   住田秀介 ,   佐藤啓二

ページ範囲:P.247 - P.251

 抄録:症例は23歳,女性.主訴は右前胸部痛.CT,MRI,骨シンチにて胸骨骨髄炎を疑ったが,その後,右胸骨にも骨病変が出現した.また,腹部と背部の体幹を中心に皮疹を認め膿疱性乾癬と診断し,2カ所の骨病巣部に対し切開生検術施行,病理組織では慢性骨髄炎の像であった.組織培養では胸骨部で陰性,腸骨部にてP.acnesが陽性であった.NSAIDSを中心とした治療で症状が消失した.皮疹と骨病変を伴う疾患は,1968年以降,様々な概念として報告されてきた.1987年Chamotらはこれらの概念を包括し,掌蹠膿疱や重度の座蒼を特徴とする無菌性骨髄炎をsynovitis,acne,pustulosis,hyperostosis,and osteitis syndrome(以下SAPHO症候群)と報告している.本例もその特徴的症状,臨床経過よりSAPHO症候群の概念にあてはまるものと考えた.

半月縫合術後に発生したガングリオンの1例

著者: 名倉一成 ,   国分毅 ,   八木正義 ,   柴原克紀 ,   岩崎安伸 ,   吉矢晋一 ,   黒坂昌弘

ページ範囲:P.253 - P.256

 抄録:鏡視下半月縫合術後に発生したガングリオンの1例を経験したので報告する.症例は25歳,女性で事務員である.1994年,スキーにて左膝を受傷し,他医で保存的加療を受けていた.1996年,前十字靱帯(ACL)損傷,内・外半月損傷および後外側靱帯損傷と診断され,当院にてACL再建術,外側半月部分切除および内側半月縫合術を受けた.術後経過は良好であったが,術後4年頃より左膝関節内側部に腫瘤を触知するようになり,2002年当院を受診した.MRIで内側半月に接する多房性の腫瘤を認め手術を行った.関節鏡視では内側半月の縫合部は治癒しておらず部分切除を行い,腫瘤の摘出も行った.半月縫合後のガングリオンの成因は,縫合糸を介した滑膜細胞の関節外への浸潤との報告があるが,本症例では組織学的に縫合糸周囲には滑膜細胞は認めず,むしろ半月の変性を基盤として発生したのではないかと推測された.

小指デュピュイトラン拘縮の再発に対し,広範囲皮膚腱膜切除,全層植皮を行った1例

著者: 亀山真 ,   手塚正樹 ,   井上清 ,   稲見州治 ,   鈴木信正

ページ範囲:P.257 - P.260

 抄録:小指Dupuytren拘縮の再発例に対し,広範囲皮膚腱膜切除,全層植皮を行った1例を報告する.症例は67歳,男性,1999年5月,右小指Dupuytren拘縮により腱膜切除を受けたが,翌年9月頃より再発を認めていた.手術創には,ケロイドや,近位指皮線を交差する線状瘢痕がありPIP関節は25°の屈曲変形を認めた.触診では皮下に手掌尺側から小指固有指部尺側へ走行する索状硬結を認めた.小指固有指部の皮膚をケロイド,線状瘢痕,索状硬結を含めて広範切除し,鼡径部から全層植皮を行いtie overで固定した.術後2週でtie overを除去後,可動域訓練を行った.術後1年7カ月で病巣の再発はなく,指関節の総伸展不足角度は5°,総屈曲角度は230°であった.広範囲皮膚腱膜切除,全層植皮は再発例の多い欧米で積極的に行われているが,本邦での報告はほとんどない.再発例で皮膚状態が悪く,病巣の皮膚浸潤が想定される例に対し,本法は有用な治療であった。

軽微な外傷を契機に急性発症した膝関節限局型色素性絨毛結節性滑膜炎の1例

著者: 永井宏和 ,   堀克弘 ,   吉川玄逸 ,   尾木祐子 ,   松末吉隆

ページ範囲:P.261 - P.264

 抄録:症例は22歳,男性.右膝を軽く捻った後に,疼痛と高度の可動域制限を来し当科を受診した.右膝関節内側に示指頭大の腫瘤を認め,関節穿刺では黄色の関節液を得た.MRIでは右大腿骨内顆内側にT1,T2強調像で低信号の腫瘤を疑わせる信号域を認めた.関節鏡で,関節包に茎を持つ赤褐色の腫瘤を認めた.これを関節鏡視下に一塊として切除し周辺の滑膜を切除した.病理所見でPVNSと診断した.可動域制限の発生機序は,限局型PVNSがなんらかのきっかけで可動性を有すようになり,それが関節内で嵌頓し,疼痛のためあるいは機械的に制限を来すという機序と,PVNSの茎部が捻転して腫瘍が壊死に至り,関節炎が起こり制限を来す機序が考えられた.治療は限局型の場合は腫瘤摘出でよく予後は良好である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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