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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科39巻3号

2004年03月発行

雑誌目次

視座

シンポジウムとパネルディスカッション

著者: 三笠元彦

ページ範囲:P.275 - P.276

 学会の抄録をみると必ずシンポジウム(以下シンポ)とパネルディスカッション(以下パネル)が組まれている.多くの学会でシンポが格上でパネルが格下の発表形式として扱い,内容を吟味して企画しているとは思えないし,また,座長も,シンポとパネルを区別して司会しているようにはみえない.各演者が連続して発表し,壇上の席に並んだ後,フロアーからの質問,意見を受けるとともに,演者間の意見を交換し,最後に座長がコメントする形を取っている.筆者もこの形式に疑問をもたなかったが,寺山和雄先生(信州大学名誉教授)が2002年に「整形外科」誌の「<私のひとこと>シンポジウムとパネルディスカッション」に「シンポのセッションであったが,各演者が特定の術式の経験を報告してディスカッションするものでシンポとは思えなかったので,パネルとして司会をすすめた」と書かれていたので,シンポとパネルで司会の方法も変えなければならないことを教えられた.

 そこで,シンポとパネルとは本来どのような発表形式であるのかを検討してみた.参考としたのは草間悟著『医学研究発表の方法』(南江堂,1986),『勉強・研究・発表の技法』(南江堂,1996),広辞苑,三省堂常用外来語辞典,『現代用語の基礎知識』である.それらを総合すると,シンポは1つのテーマを複数の演者が異なった分野から意見を述べ,司会者や聴衆と意見を交わす討論会であるのに対し,パネルは1つのテーマに対し対立意見をもつ演者がそれぞれの見解を座談会形式で述べて議論を交わし,聴衆も参加する討論会である.前者がギリシャの饗宴から発したのに対し,後者はパネル(陪審員)から発しているので,討論形式が微妙に違う.草間先生の言葉を借りると,パネルが鎧兜に身を固めた戦いの場であるのに対し,シンポは背広姿の自慢話・世間話などの情報交換の場である.

論述

骨軟部悪性腫瘍診断の遅れ―確定診断まで長期間を要した症例の検討

著者: 武田明 ,   菊地臣一 ,   田地野崇宏 ,   山田仁 ,   紺野慎一

ページ範囲:P.279 - P.284

 抄録:医療機関受診から3カ月以上を経過して初めて悪性腫瘍と診断された高悪性度骨軟部腫瘍症例について検討した.体幹発生例は炎症性疾患や変性疾患と誤診された症例が多く,四肢発生例では良性腫瘍と誤診された症例が多かった.四肢発生の軟部腫瘍では,浅在性の腫瘍であることが診断の遅れの原因の1つであった.早期診断のためには,四肢発生例では皮下に生じた腫瘍であっても悪性腫瘍の可能性が少なくないこと,一方,体幹発生例では非腫瘍性疾患と思われる症状を呈する症例のなかに悪性腫瘍が含まれている可能性があることを念頭に置いて診療することが重要である.また,組織試験切除の標本が不適切であった症例や,病理診断で良性と診断された症例も認められた.組織試験切除の正確な実施と病理医への十分な情報提供が早期診断には重要である.

血行再建を併用した患肢温存手術の治療成績

著者: 伊原公一郎 ,   重冨充則 ,   村松慶一 ,   後藤能成 ,   大井律子 ,   河合伸也 ,   土井一輝 ,   古谷彰

ページ範囲:P.285 - P.292

 抄録:悪性骨軟部腫瘍に対する患肢温存手術に際して主幹血管を合併切除し血行再建を行った症例の治療成績について検討した.症例は男性8例,女性5例,計13例,年齢は18~68歳であった.部位は下肢12例,上肢1例であった.血行再建の内訳は動静脈7例,動脈5例,静脈1例であり再建材料は自家静脈11例,人工血管2例であった.術後経過観察期間は平均43カ月であった.遅発性動脈閉塞にて大腿切断に至った1例を除く12例,92%で患肢温存が可能であった.また1例に局所再発を生じた他は良好な局所根治性が得られた.人工血管を使用した2例に感染を合併したが追加手術にて治癒した.初診時より転移を認めた5例を含む全症例の5年生存率は37.6%であり,転移のない8例では52.5%であった.Musculoskeletal Tumor Societyによる患肢機能評価の%ratingは平均82%であった.腫瘍による主幹血管浸潤は患肢温存手術が可能であり切断の必要はない.

変形性股関節症に対するセメントレス人工股関節術後のCRP値

著者: 新井規之 ,   中村茂 ,   松田健太 ,   脇本信博 ,   松下隆

ページ範囲:P.293 - P.296

 抄録:変形性股関節症に対するセメントレスTHA術後3週までのCRP値解釈の判断基準を作ることを目的に,術後2週および3週時点でのCRP値の平均値および標準偏差を調査した.対象は変形性股関節症に対してセメントレスTHAを行い,感染のなかった110股,平均年齢は62歳(33~80歳)であった.THA術後CRP値(mg/dl)の平均値および標準偏差(SD)は1日目で6.13±2.65,3日目で12.81±4.64,7日目で2.73±2.15,14日目で0.58±0.80,21日目で0.21±0.24であり,術後3日目が最も高く,その後7日目までに急激に低下し,以降は徐々に低下した.平均+2SDを正常の上限と考えると,術後14日では2.18mg/dl,術後21日では0.69mg/dlを超えるものを高値と考えるのが妥当と考える.

前十字靱帯再建術後のスポーツ活動時における怖さの検討

著者: 浅野浩司 ,   仁賀定雄 ,   張禎浩 ,   原憲司 ,   能瀬宏行 ,   星野明穂 ,   長束裕

ページ範囲:P.297 - P.301

 抄録:ACL再建術後のスポーツ活動時に膝崩れを起こしそうな怖さについて検討を行った.対象は膝屈筋腱の多重折りを用いて行ったACL再建術後1年以上経過観察を行った180例である.男性97例,女性83例であり,平均観察期間は28.6カ月であった.スポーツ活動時に膝崩れを起こしそうな怖さがあるかの自覚症状と臨床所見との関係を検討した.スポーツ復帰は術後平均9.3カ月であり,復帰直後には66.1%の症例で怖さを自覚していた.復帰直後にスポーツ活動中の怖さを訴えた症例と訴えなかった症例ではKT-1000患健差,膝伸展筋力健側比,術前期間,復帰時期,術前のgiving wayの回数いずれにも統計学上の有意差は認められなかった.怖さを訴える症例は経過とともに減少し,術後平均28.6カ月の最終評価時には25.0%であった.KT-1000患健差2.5mm以上,pivot shift test陽性などの,安定性が十分ではない症例で怖さが残存する傾向が高かった.

腰痛:患者が手および指で示す疼痛領域の比較

著者: 菅野晴夫 ,   村上栄一

ページ範囲:P.303 - P.307

 抄録:腰痛の領域を患者に手および指で示させ,それぞれの領域(同定域)を比較した.腰痛患者のうち次の3条件を満たした45例を対象とした.1.立位前後屈または側屈で腰痛が誘発される.2.腰痛の領域が1カ所である.3.下肢痛がない.疼痛領域の同定は,腰痛を誘発し,患者に手および示指で疼痛領域を示させ,さらにその再現性を確認した後に,領域の輪郭を患者の皮膚に記入するという手順で行った.手と指による同定域について,面積を比較し,同定域の位置にズレがあるか否か,どちらがより正確に自覚する疼痛領域を示しているかを調べた.対象のうち,再現性をもって疼痛領域を示した40例を検討した.指による同定域の面積(1~147cm2,平均42cm2)が手による同定域(14~300cm2,平均63cm2)に比べて有意に小さかった.手と指による同定域の位置にズレのある例は40例中17例(42.5%)であった.検討した40例のうち,手と指による同定域が異なった34例中31例(91.2%)で,指による同定域がより正確に自覚する疼痛領域を示していた.腰痛の領域を正確に同定するには,患者に指で示させる必要があると考えられる.

整形外科/基礎

抗生剤含有リン酸カルシウム骨ペーストの強度と徐放効果

著者: 鈴木昌彦 ,   付岡正 ,   常泉吉一 ,   金泰成 ,   山中一 ,   中村裕義 ,   北田光一 ,   梅田智広 ,   竹内啓泰 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.309 - P.314

 抄録:術後感染は,整形外科治療の成績を低下させる原因であり,特に人工関節手術に及ぼす影響は大きい.本研究の目的は抗生剤を混入したリン酸骨カルシウムペーストの力学試験とin vitroにおける徐放試験を行い,骨欠損に対する充填剤と抗生剤の担体となりうるかを試験することである.抗生剤はバンコマイシン,テイコプラニン,ゲンタシン,アミカシン,フロモキセフを使用した.リン酸骨カルシウムペーストは軟度により2群に分類された.低い軟度で2.5%と5%の抗生剤を含むペーストは作成後5日目で50MPa以上の良好な力学強度を示した.ペーストからの抗生剤の徐放率と徐放量は,添加した抗生剤の量,種類,ペーストの軟度に依存した.バンコマイシン,テイコプラニン,ゲンタシン,アミカシンは良好な徐放を示したが,フロモキセフはほとんど徐放しなかった.このシステムは,ペーストの軟度と抗生剤の種類と量を変えることで様々な手術に応用可能である.

調査報告

腰痛特異的QOL尺度:Roland-Morris Disability Questionnaireの性・年齢階層別基準値の測定

著者: 髙橋奈津子 ,   菊地臣一 ,   福原俊一 ,   鈴鴨よしみ ,   紺野愼一 ,   森田智視 ,   岩本幸英 ,   中村孝志

ページ範囲:P.315 - P.320

 抄録:〔目的〕腰痛特異的QOL尺度の性・年齢別基準値を,国民を代表とするサンプルより推定する.〔対象〕腰痛の有無に関わらず,日本国民から無作為抽出された成人集団約4,500人を対象者とした.〔方法〕質問紙留め置き調査法による,横断的観察研究を2002年に実施した.調査項目は,腰痛有無(L2・L3から殿部にかけた痛み,かつ,24時間以上続く痛み),腰痛特異的QOL尺度であるRoland-Morris Disability Questionnaire(RDQ),性・年齢等の個人属性を調査した.〔結果〕腰痛有訴者のRDQ基準値は,男性3.67,女性4.22,全体3.97であった.また,回答者全体のRDQ基準値は,男性1.54,女性1.75,全体1.65であった.〔結語〕腰痛有訴者の腰痛特異的QOL基準値は,調査対象となる結果と比較することにより,腰痛症状による日常生活へのインパクトを相対的に示すことができる.

座談会

日本の整形外科を考える(第76回日本整形外科学会特別企画より)

著者: 山内裕雄 ,   国分正一 ,   角南義文 ,   本田忠 ,   山本博司

ページ範囲:P.322 - P.327

整形外科医の適正数

山内 日本の整形外科医は全医師数の約8%近くになります.一方,アメリカでは数年前にこのままでは5%近くになるというので,新レジデント数を制限することとなり,韓国も同じことを始めたようです.これには整形外科医の守備範囲が大きく関係します.アメリカの整形外科医は手術に偏っているため,数が増えると競合が激しくなるために,この問題は切実ですが,日本は必ずしもそうでありません.
山本 現在の数が適正かは難しい問題です.最近,学生の整形外科医の希望数が減る傾向にあるとの意見を受け,現在日整会で調査しています.専門医試験の受験者数も3年ほど前からやや減少傾向です.近いうちに動向を報告します.
国分 私は3年ほど前に,人口補正をして日本と各国の整形外科医専門医数を比較したところ,日本に比してアメリカ58%,カナダ41%,英国41%,韓国70%,香港54%で,どの国も日本より少なく,さらに減らし始めています.ことに英国ではGP(general practitioner)が存在し,整形外科医の多くは手術ばかりです.このGPの役割を,日本では多くの整形外科開業医が果たしています.日本にはアメリカの約2倍の専門医がいますが,多いという感覚はありません.役割が分業化していますが,今後もそれを進めざるを得ないのではないでしょうか.

整形外科/知ってるつもり

Tension band wiringのK-wireの位置・方向

著者: 中村光伸

ページ範囲:P.328 - P.330

■はじめに

 軟鋼線を用いた骨接合術は,1887年のListerにはじまり,1966年にPauwels3)が膝蓋骨の特殊性に注目し,その骨折に対してzuggurtungsosteosynthese,現在のtension band wiring法の原法を報告している.これを1971年に柏木ら1)が機能的骨接合術として日本に紹介している.その後AO groupにより,K-wireを加えた“modified tension band wiring”が発表され,優れた治療成績とともに,膝蓋骨以外にも広く利用され現在に至っている.今回のテーマは,この「K-wireの正しい位置と方向は?」とのことである.専門医なら誰でも知っていることであり,また教科書を読めば書いてあることではあるが,実践での考え方を交えて,もう一度,整理してみようと思う.

臨床経験

腓骨採取後の骨補填材料としてのβ-tricalcium phosphate(β-TCP)の使用経験

著者: 新井英介 ,   中島浩敦 ,   筑紫聡 ,   紫藤洋二 ,   西田佳弘 ,   山田芳久 ,   杉浦英志 ,   片桐浩久

ページ範囲:P.331 - P.335

 抄録:四肢骨腫瘍手術の際,腓骨を再建材料として用いることがよくある.腓骨は骨幹部がなくても障害はないとされるが,経過観察の際の画像検査で,腓骨採取側の足関節やけい骨に負荷がかかっていることを示唆する所見をみることがある.したがって,腓骨の再建が必要であるとの考えから,われわれは,腓骨の再生を期待し,腓骨欠損部に骨補填材料としてβ-tricalcium phosphate(オスフェリオン)を使用してきた.対象は,骨腫瘍に対し腓骨移植を行った症例14例で,経時的X線変化について検討した.平均経過観察期間は16カ月で,14例中12例で,平均43日でオスフェリオンを架橋する仮骨形成が認められ,12例中11例で,平均9.3カ月で骨梁の再開が認められた.特に小児例は全例早期に腓骨再生が得られた.血管柄付き腓骨採取例では,腓骨の再生はみられなかった.腓骨再生により,腓骨欠損後の下腿・足関節の障害を防ぐ可能性がある.

症例報告

非定型抗酸菌(Mycobacterium avium complex)による橈骨骨髄炎の1例

著者: 西原寛玄 ,   渡辺康司 ,   棚瀬嘉宏 ,   織辺隆

ページ範囲:P.337 - P.340

 抄録:非定型抗酸菌による右橈骨骨髄炎の1例を経験したので報告する.症例は65歳,男性,職業は植木職人であった.主訴は左前腕部痛,腫脹で,特に誘因なく左前腕部痛が出現し腫張,肘関節運動時痛に気付いたため当科を初診した.初診時,左前腕近位部に腫脹,熱感,圧痛を認め,血液学的検査で軽度の炎症反応がみられた.単純X線像では橈骨粗面レベルにおいて空洞状骨吸収像,MRIではT1強調像で橈骨骨髄近位部に低信号域,T2強調像で等~高信号域の混在がみられた.観血的生検では橈骨髄内に膿の貯留があり,培養の結果非定型抗酸菌(Mycobacterium aviumcomplex)と同定された.4剤併用化学療法を施行するも手術創部より瘻孔形成,膿排出がみられたので,再手術時に掻爬とともに自家腸骨移植を行った.その後,リファンピシン,クラリスロマイシン,サイクロセリンの投与にて症状軽快し経過良好である.

長管骨に生じた掌蹠膿疱症性骨関節炎の1例

著者: 阿部智行 ,   白石建 ,   吉田宏 ,   松村崇史 ,   谷戸祥之

ページ範囲:P.341 - P.344

 抄録:われわれは長管骨に広範囲の骨病変を認めた掌蹠膿疱症性骨関節炎の1例を経験したので報告する.症例は,56歳の男性.主訴は前胸部および両下腿部の疼痛.1997年始めより誘因なく前胸部痛がみられた.掌蹠膿疱症の既往から前医にて掌蹠膿疱症性骨関節炎と診断され,NSAIDsの投与と扁桃摘出が行われたが症状の軽減がみられず,2001年6月当科に紹介となった.単純X線写真で,両側の胸鎖関節部に骨過形成像,右大腿骨とけい骨に骨膜の肥厚像がみられ,血液検査でCRP8.6mg/dlであった.メトトレキサート,ミノマイシン®とコルヒチンの併用で,前胸部痛と下腿部痛が軽減し,CRP3.7mg/dlと低下したが,CRPの陰性化と症状の消失には至らなかった.本症例のように,CRPが比較的高値で長管骨に広範囲の病変を特徴とする掌蹠膿疱症性骨関節炎は,特に難治性になると推察された.

長期追跡した慢性再発性多巣性骨髄炎(CRMO)の1例

著者: 小山内俊久 ,   浅野多聞 ,   土屋登嗣 ,   石川朗

ページ範囲:P.345 - P.350

 抄録:慢性再発性多巣性骨髄炎(chronic recurrent multifocal osteomyelitis,以下CRMO)の1例を70カ月間の画像所見を中心に報告する.症例は左膝痛を主訴とする初診時14歳の女児である.初診時の単純X線像では,左けい骨近位骨幹端の線維性骨皮質欠損の他に異常はなかった.症状は一時消失したが初診から23カ月時に再発し,単純X線像で左けい骨近位骨幹端に溶骨像と硬化像を認めた.骨シンチグラフィーでは左けい骨近位部の他,左けい骨遠位部,仙椎に異常集積を認めた.左けい骨から生検を施行したが起因菌は検出されずCRMOと診断した.非ステロイド性消炎鎮痛剤により症状は消失したが,39カ月時にはけい骨近位部は著明な硬化性骨肥厚を呈するに至った.60カ月時に骨髄炎が再発したが,70カ月時には軽快した.診断確定に最も重要なのはCRMOという疾患概念を認識しているか否かである.CRMOは長い経過をたどり,小児では局所的予後が必ずしも良好とは限らないので注意を要する.

MRIで診断がつかなかった大腿骨頚部不顕性骨折の1例

著者: 桃井義敬 ,   尾鷲和也 ,   渡邉忠良 ,   尾山かおり ,   山田哲史

ページ範囲:P.351 - P.355

 抄録:症例は78歳,女性.右股関節痛および歩行困難を主訴に来院.大腿骨頚部骨折を疑い,単純X線撮影を行ったが骨折を指摘できなかったため,MRIを施行した.しかしながら同検査にても不顕性骨折は指摘できず,歩行訓練を開始した.訓練開始数日後,いったんは歩行器歩行が可能となったが,入院26日目,股関節痛が残り,SLRも不可能となったため再度X線撮影を行ったところ,大腿骨頚部内側骨折を認めた.その後,本患者は人工骨頭挿入術を受け,現在は独歩可能である.最近ではMRIの普及により,不顕性骨折の診断がより確実に下されるようになった.しかし原因が明らかでなく症状が続く場合,初期MRIの結果を過信せず,患者の訴えを聞き,経過を十分に観察し,時には再検査を行いながら原因を明らかにすることが大切であると考える.

有痛性尺骨茎状突起骨核融合不全の1例

著者: 住浦誠治 ,   宮本龍彦 ,   山本学 ,   二武皇夫 ,   岩永隆太 ,   山本久司

ページ範囲:P.357 - P.360

 抄録:有痛性尺骨茎状突起骨核融合不全(Painful unfused separate ossification center of the ulnar styloid)の1例を経験した.28歳,男性で,約1年前より明らかな外傷歴なく,左手関節尺側に疼痛が出現し,徐々に増強し,仕事に支障をきたすようになった.初診時,左手関節尺骨茎状突起部に圧痛を認め,手関節背屈で手関節尺側に疼痛を訴えたが,可動域制限はなかった.単純X線像で尺骨茎状突起基部の偽関節様像を認めた.骨片は丸く辺縁は滑らかであった.透視下にリドカインによる尺骨茎状突起基部の間隙への浸潤麻酔試験で疼痛は消失した.骨移植のうえ,tension band wiringを施行し,術後3カ月で骨癒合を獲得した.左手関節痛は完全に消失し,原職に復帰した.Unfused separate ossification center of the ulnar styloidは稀な状態であるが,手関節の疼痛や機能障害の原因になりうる.

棘突起離開を伴った外傷性軸椎すべり症の1例

著者: 森本忠嗣 ,   菊地臣一 ,   矢吹省司 ,   仲田幸世 ,   古月顕宗

ページ範囲:P.361 - P.365

 抄録:屈曲伸延損傷により軸椎椎弓から棘突起にかけての水平骨折を伴った稀な外傷性軸椎すべり症の1例を経験したので報告する.症例は50歳の男性である.階段から転落して,後頭部を強打した.強い頚部痛を訴えたが,神経学的異常所見は認められなかった.X線像で軸椎椎体の前方転位と軸椎の椎弓から棘突起にかけての水平骨折を,3次元CT像では左C2/3椎間関節脱臼を認めた.以上の所見から,外傷性軸椎すべり症(Levine分類のtype Ⅲ)と診断した.容易に整復可能であったが,外固定での整復位保持が困難なため,C2/3後方固定術を施行した.術後1年の時点で,疼痛や神経学的脱落所見は認められない.画像上,脊柱アライメントも良好である.

腫瘍切除後非血管柄付き遊離腓骨移植を用いて再建した橈骨遠位端骨巨細胞腫の2例

著者: 中島浩敦 ,   西田佳弘 ,   山田芳久 ,   杉浦英志 ,   浅野昌育 ,   柘植哲 ,   石川忠也

ページ範囲:P.367 - P.371

 抄録:橈骨遠位端骨巨細胞腫切除後に,非血管柄付き遊離腓骨近位端を用いて手関節形成を行った2例を経験した.症例1は16歳,Campanacci分類Grade 2であった.骨癒合は6カ月で得られた.術後5年で,単純X線像上再発はなく,関節症変化を認めるが,疼痛はなく,手関節の可動域は,背屈55°,掌屈50°,握力は健側の77%で,Ennekingの患肢機能評価は96%である.症例2は52歳,Campanacci分類Grade 3であった.術後,骨接合部で骨折を起こしたが,ギプスと装具で骨癒合が得られた.骨シンチグラフィー上,移植骨への集積がみられた.術後1年4カ月で,手関節の可動域は,掌屈・背屈とも15°で,握力は健側の55%で,Ennekingの機能評価は73%である.腫瘍を一塊に切除し,遊離腓骨で再建することで,腫瘍の良好な局所コントロールと手関節機能の獲得が可能であった.橈骨遠位端の腫瘍摘出後に広範な骨欠損が生じた場合の再建方法として,簡便で有用な選択肢となりうる.

椎間板ヘルニアと同一高位に生じた馬尾神経鞘腫の1例

著者: 高澤誠 ,   村上正純 ,   高橋和久 ,   大河昭彦 ,   黒川雅弘 ,   男澤朝行 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.373 - P.377

 抄録:同一高位に椎間板ヘルニアを合併した馬尾腫瘍の1例を経験し報告した.症例は41歳,男性で主訴は腰痛,両下肢筋力低下である.MRIにてL4/5の椎間板ヘルニアとL4椎体高位の硬膜内にT1強調画像にて椎間板と等信号強度,T2強調画像にて高信号強度,Gdにて不均一に造影される不定形な腫瘤像を認めた.腫瘤の鑑別疾患として硬膜内脱出ヘルニアあるいは馬尾腫瘍が疑われた.手術は後方除圧術と腫瘤摘出術を施行した.腫瘤は馬尾腫瘍であり,病理所見は神経鞘腫であったが,術中所見として全周性のくも膜炎,腫瘍被膜の著明な肥厚,馬尾の癒着を認めた.本例は,下肢痛を伴わない両下肢筋力低下および術中所見から馬尾腫瘍が主病態と考えられたが,急性腰痛での発症には,椎間板ヘルニアが影響したものと推察された.

環椎後弓欠損の1例―新たな臨床分類の提案

著者: 伊崎輝昌

ページ範囲:P.379 - P.383

 抄録:環椎後弓欠損は稀な先天異常である.その形態は後弓の一部が欠損する例から全く形成がないものまで様々である.本論文では環椎後弓欠損症例の画像所見を示し,本病態の文献的考察を行う.20歳の女性が環椎後弓の異常を指摘され紹介された.単純X線,CTでは環椎後結節部を除き環椎後弓は欠損していた.MRIでは環椎,軸椎レベルの脊髄に信号異常を認めなかった.主訴は頭重感,頚部痛,右上肢の重だるさであったが,神経学的異常は認めなかった.緊張型頭痛の診断で仕事時の姿勢,睡眠不足などの改善を指導するとともに,筋を弛緩させるための体操を行わせた.薬物療法として筋弛緩剤の投与も行い症状は軽快した.解剖学的検討や手術例の所見では,後弓の骨欠損部には軟骨組織はなく密な結合組織となっている.このことは,本病態が骨化過程の異常ではなく,それ以前に生じる軟骨化の異常,または間葉系の分化異常によって生じる可能性を示唆している.

両側𦙾骨顆部に発生したinsufficiency fractureの1例

著者: 安藤圭 ,   井上喜久男 ,   甲山篤 ,   高田研 ,   和佐潤志

ページ範囲:P.385 - P.388

 抄録:症例は66歳,女性である.2002年11月に両膝関節痛が出現し,当院を受診した.既往に関節リウマチがありステロイドを投与されていた.単純X線で,左𦙾骨内側顆部に帯状の骨硬化像,右膝MRIで,帯状の骨折線を認めたため,骨粗鬆症を基盤として発生したinsufficiency fractureと診断した.両側に外側楔状足底板を使用した𦙾骨顆部の可及的免荷を行ったところ,1カ月で疼痛は軽減した.本疾患は,脆弱化した骨に,外傷などの誘因なく起こるものである.自験例は,片側発生後に,反対側に負荷が増強したために発生したと思われる.リウマチ患者で関節痛が増悪した場合,本疾患を念頭に置くことが重要である.また本疾患は両側に発生することがあり,注意深い経過観察が必要である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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