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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科39巻4号

2004年04月発行

雑誌目次

特集 脊椎脊髄病学 最近の進歩 2004(第32回日本脊椎脊髄病学会より)

緒言 フリーアクセス

著者: 河合伸也

ページ範囲:P.402 - P.403

 本特集号は第32回日本脊椎脊髄病学会(2003年4月4-6日)にて発表された演題のうち,代表的な内容を取り上げることで,脊椎脊髄外科領域の最近の進歩を汲み取っていただきたいという趣旨で構成されています.
 本学会は日本脊椎外科研究会の名称で1972年に発足し,日本脊椎外科学会を経て,日本脊椎脊髄病学会に改称して現在に至っています.本学会は,脊椎脊髄の病態解明や治療法の確立に向けて名実ともにわが国の最先端の情報を議論する場であり,わが国における脊椎脊髄疾患の診療の動向を知ることができます.今や,わが国の脊椎脊髄外科の水準は世界のトップクラスにあります.これは脊椎脊髄領域においてご尽力いただきました先人の整形外科医のお陰です.先人によって築かれた優れた実績に感謝し,さらに一層発展させていく責務があります.

Spinal Instrumentation―可動性を有するinstrumentsをめざして

著者: 田島直也

ページ範囲:P.405 - P.411

 抄録:脊椎外科はspinal instrumentsの発展とともに大きな発展を遂げている.本稿ではspinal instrumentsの変遷とわれわれが研究開発を行っている可動性を有するinstrumentsについて報告する.
 Spinal instrumentsは,1960年代のHarringtonらのinstrument systemの出現により脚光を浴び,以来その目的は不安定性に対する固定,変形に対する矯正固定が主であった.しかしながら,脊椎固定後の長期成績を左右する因子として隣接椎間への影響などの問題が生じてきた.したがって,脊椎のある程度の可動性を温存することを目的として開発されたinstrumentsとして,人工椎間板や可動性を残した後方固定術などが報告されてきたが,臨床的に広く行われているとは言えない.われわれの教室でも可動性を有するinstrumentsについて検討を行ったのでその現況を紹介する.

胸椎・腰椎損傷の病態と治療―総合せき損センターのデータから

著者: 芝啓一郎 ,   植田尊善 ,   大田秀樹 ,   森英治 ,   加治浩三

ページ範囲:P.413 - P.421

 抄録:胸椎・腰椎の破裂骨折110例,脱臼骨折146例の急性期における術中所見からそれらの損傷病態を分析した.また,手術を施行した胸・腰椎損傷331例について麻痺の予後に与える因子について検討した.破裂骨折においては,麻痺の重症度と後方靱帯断裂との間に相関がみられ,破裂骨片(middle column損傷)と後方の不安定性(posterior column損傷)の両者が麻痺の重症度に関与していることが示唆された.脱臼骨折には構築学的損傷形態の高位別特徴があり,特にinstrumentation法を含めた手術的治療法の検討には,画像や受傷メカニズムによる分類に加えて,上中位胸椎部,下位胸椎部(T10,T11,T12),および腰椎部の3群の高位別分類が必要である.手術タイミングについては,比較的早期の手術(4週以内)が麻痺の改善に効果的である結果を得た.

腰痛の保存的治療;最新の話題―AKA(博田法)とMcKenzie法をめぐって

著者: 片田重彦

ページ範囲:P.423 - P.429

 抄録:腰痛の保存的治療の有効性はEBMで検証すべきである.現在,欧米では徒手医学やMcKenzie法の臨床試験がさかんに行われている.わが国では博田の創始したAKAが保存的治療に有効であることがわかってきた.AKAの手技,科学性,McKenzie法や徒手医学とのEBM上の比較などを検討した.その結果,AKAはほかの保存的治療と比較して格段に有効性のあることがわかった.

腰部神経根症の基礎と臨床―椎間板組織による疼痛発現を中心に

著者: 川上守 ,   橋爪洋 ,   松本卓二 ,   吉田宗人 ,   玉置哲也

ページ範囲:P.431 - P.438

 抄録:腰椎椎間板ヘルニアによる疼痛発現機序はいまだ十分解明されていない.われわれは神経因性疼痛の一症状である痛覚過敏を指標に腰椎椎間板ヘルニアモデルを作成し,その発現機序について検討してきた.髄核,線維輪をラット神経根上に留置すると一過性の痛覚過敏が出現し,この発現にはアラキドン酸代謝系や一酸化窒素が関与することを証明した.髄核組織そのものよりも髄核により生じた神経根周辺の炎症が痛覚過敏に関連すること,神経根に機械的圧迫が加わることで異なる痛覚過敏が発現することを示した.また,変性髄核ではより強い痛覚過敏が長時間発現することが判明した.これらの知見を紹介するとともに,臨床との関連性について述べた.われわれの作成した種々の椎間板ヘルニアのモデルは腰部神経根症の臨床的特徴を一部説明可能である.作成したモデルにおける痛覚過敏の発現機序を解明することは新しい治療戦略を確立するためにも極めて重要である.

頚椎症性脊髄症の自然経過―入院保存治療例についての検討

著者: 下村隆敏 ,   鷲見正敏

ページ範囲:P.439 - P.444

 抄録:頚椎症性脊髄症(CSM)の入院保存治療後における自然経過について調査し,その悪化因子について検討した.入院による頚椎持続牽引療法を施行したCSM 85例(男61例,女24例,平均58.0歳)の予後を調査した.追跡調査期間は平均35カ月であった.追跡調査時に退院時よりも日整会点数が低下している症例を「悪化例」とした.悪化例は24例であった.悪化例は脊髄症病型分類(服部)ではⅡ型,Ⅲ型に多く(32.1%,37.5%),脊髄横断面形態(MRI)では三角型に多くみられた(46.7%).入院時保存治療に効果を認めた症例では調査時に悪化例がかえって多くなっていた(45.9%).入院時日整会点数13点未満の症例は悪化例が52.6%を占めていた.日整会点数13点未満例に対しては手術治療を,13点以上例に対しては保存治療を優先し,病型分類・脊髄横断面形態・入院保存治療の効果の有無などを参考に手術治療の適応を決定する必要がある.

頚椎後縦靱帯骨化症における長期臨床経過

著者: 進藤重雄 ,   中井修 ,   水野広一 ,   大谷和之 ,   山浦伊裟吉

ページ範囲:P.445 - P.452

 抄録:頚椎後縦靱帯骨化症の臨床症状の経過と骨化の進展,形態変化との関係について分析し,予後判定や治療法の適否,選択について検討するのを目的に,5年以上観察可能であった42症例で調査を行った.神経症状の新たな出現は2例に,神経症状の増悪は8例に認めた.骨化進展は50%に生じたが,脊髄症発現,増悪とは関連性を認めなかった.長期の経過では,初診時の骨化の形態からは予後の予測は困難であった.OPLLの進展により,脊柱管狭窄および狭窄部での動的因子は複雑に変化するためである.また骨化進展の速度も急速なものから,緩徐なものまで多彩である.本症においては定期的検診が必要であり,骨化進展の有無とその程度について把握し,それに伴う脊髄症状の変化を評価し,保存的治療を続けるか,観血的治療をすべきか判断する必要がある.

透析性脊椎症頚椎病変における自然経過の検討

著者: 横山浩 ,   楊鴻生 ,   夫徳秀 ,   李一浩 ,   草野芳生 ,   谷口睦

ページ範囲:P.453 - P.459

 抄録:透析性脊椎症(HDS)頚椎病変についてX線学的な自然経過を観察し,病期および病態の検討を行った.HDSの病期を4期に,病型を3型に分類した.105例のstage 1以上の症例は78例(74%)に及びstage 2以上の症例でも45例(43%)と高頻度にHDSを認めた.病変部位は中下位頚椎に多かった.30例の経時的変化を観察した症例では,初回撮影時63%に何らかのX線所見を認め,経過観察時には73%と増加していた.手術的治療を行った20例の頚椎病変の検討では,破壊性変化よりも椎体亜脱臼による不安定性や脊柱管内靱帯肥厚の関与するものが多かった.本症の発症には透析期間よりも透析開始年齢と関連があった.透析性脊椎症頚椎病変はいったん発症すると改善することのない進行性あるいは固定性の疾患である.本症の治療方針を決めるうえで,透析性脊椎症の自然経過を知ることが重要である.

健常者における頚椎MRIの検討

著者: 豊田耕一郎 ,   田口敏彦 ,   金子和生 ,   加藤圭彦 ,   東栄治 ,   河合伸也 ,   山内秀一

ページ範囲:P.461 - P.466

 抄録:健常例117例の頚椎MRIを撮像し,椎間板輝度低下,椎間板狭小,椎間板後方突出,椎間孔狭小,黄色靱帯肥厚,突出の年代別,性別,椎間別に検討し,硬膜脊髄圧迫の頻度を検討した.椎間板輝度低下は93%に認めた.椎間板狭小は52%に認め,男性は50歳代以上,女性は20歳代より有意に狭小化し,C4/5,5/6は他椎間より有意に狭小していた.椎間板後方突出は32%に認め,40歳代より増加し,C5/6,6/7に有意に多かった.黄色靱帯の肥厚,突出は22%で50歳代以降で増加し,C5/6,6/7に有意に多い.硬膜管,脊髄圧迫は42%,脊髄圧迫は10%に認められたが,髄内高信号変化例はなかった.50歳代以上での頻度は椎間板狭小83%,椎間板膨隆54%,椎間孔狭小24%,黄色靱帯肥厚46%,硬膜・脊髄圧迫76%,脊髄圧迫24%であり,これらを念頭に置いてMRI診断を行う必要がある.

Flexion stressが頚椎部脊髄症の病態に及ぼす影響

著者: 馬場久敏 ,   内田研造 ,   小林茂 ,   小久保安朗 ,   彌山峰史 ,   藤本理代 ,   佐藤竜一郎 ,   中嶋秀明 ,   角山倫子

ページ範囲:P.467 - P.474

 抄録:頚椎部脊髄症の病態にflexion stressが及ぼす影響を調べるため,過去10年間における手術例で後弯を伴った症例を検討した.対象は頚椎症性脊髄症257例中23例(9%),頚椎OPLL 85例中9例(11%),neuropathic spine 3例の合計35例であった.神経症状の多変量解析では構築学的事項に関連して,脊髄後弯角が10°以上のもの,15°以上の限局性角状頚椎変形は運動麻痺優位の脊髄症に有意に関与した.脊髄後弯はsegmental myelopathyの発現に大きく影響し,かつ術後成績,特に弛緩性運動麻痺の改善に影響した.脊髄後弯とflexion stressは術後の脊髄expansion rateの低下を来した.頚椎柱のmechanical flexionは,脊髄のlongitudinal stressを高めて脊髄機能障害を起こす閾値を低下させ,病変のanterior impingementの影響力を高める.

下垂指(drop finger)を来す頚部神経根症

著者: 田中靖久 ,   国分正一 ,   小澤浩司 ,   松本不二夫 ,   相澤俊峰 ,   星川健

ページ範囲:P.475 - P.480

 抄録:下垂指(drop finger)を来す頚部神経根症の特徴的な症候,障害神経根の高位,そして手術に踏み切った際の成績が不明である.後方から椎間孔拡大術が行われた全12例をretrospectiveに検討して次の結論が得られた.①肩甲間部あるいは肩甲骨部の痛みで発症し,その後に下垂指が生じる.②初診時に,上肢あるいは手指の痛み・しびれを欠く例が稀でない.③全例で上腕三頭筋と手内在筋に筋力低下がみられ,その程度は手内在筋で強い.④障害神経根は,ほとんどがC8神経根であり,C7神経根は少ない.⑤手術による下垂指の改善の程度は,良好例と不良例が相半ばする.⑥神経根症による下垂指は,より良好な成績を得るために,保存療法を介さず,迅速に手術に踏み切ってよい.

頚椎症に対する後方除圧+後側方固定術(桐田-宮崎法)の10年以上の長期成績

著者: 広藤栄一 ,   西松秀和 ,   吉田憲治 ,   金馬敬明 ,   池田光正 ,   伊藤岳之 ,   森本佳秀

ページ範囲:P.481 - P.487

 抄録:今までに報告のない頚椎症に対する後方除圧+後側方固定術(桐田-宮崎法)の10年以上の長期術後成績を調査可能であった28例について臨床的,X線的に検討した.臨床症状は,術後24例(86%)が改善され長期的にも安定していた.しかし,一過性だが術後C5,C6神経根障害が2例(7%)にみられた.X線的には術後後弯変形が16例(57%)にみられ,術後悪化の2例はともに後弯変形を呈していた.不安定性は1例のみだが症状は改善していた.骨癒合は終診時でも7例(25%)しかみられなかった.可動性は減少しつづけ終診時71%減少していた.以上より本法は長期にわたり良好な術後成績を得ることが可能で,骨癒合は期待されないが可動域の減少により不安定性がなく良好な術式と思われた.しかし,術後の一過性のC5,C6神経根障害や,術後後弯変形が57%にみられたことより,さらに術式の工夫が必要と思われた.

コンピュータナビゲーションシステムを用いた頚椎インストゥルメンテーション再手術

著者: 星地亜都司 ,   中島勧 ,   竹下克志 ,   阿久根徹 ,   川口浩 ,   筑田博隆 ,   河村直洋 ,   中村耕三

ページ範囲:P.489 - P.495

 抄録:頚椎固定再手術例に対して環軸椎間スクリューや椎弓根スクリューを用いるに当たり,コンピュータナビゲーションシステムを使用した.造影CTを使用することにより椎骨動脈の走行もモニターした.9症例の術後画像をCTにて評価した.スクリュー誤挿入による神経血管合併症はなく,逸脱例もなかったが,計47本のスクリューのうち椎弓根スクリュー9本で骨皮質穿破が観察された.特にリファレンスアークをスクリュー挿入当該椎骨に設置できない椎弓切除例で穿破の頻度が高かった.1例で経過中ロッド破損が生じたが全例において矯正損失なく良好な固定性が得られた.本システムは,他によい固定法がない場合,難易度の高いスクリュー挿入による頚椎固定再手術を行うに際し必須と考えるが,リファレンスアークを設置できない症例に対する使用法にまだ問題が残る.

骨髄間葉系幹細胞移植による椎間板変性抑制―基礎的研究

著者: 酒井大輔 ,   持田讓治 ,   山本至宏 ,   野村武 ,   西村和博 ,   中井知子 ,   安藤潔 ,   堀田知光

ページ範囲:P.497 - P.503

 抄録:腰痛の原因となる椎間板変性の治療として骨髄間葉系幹細胞移植療法の有効性を検討した.家兎椎間板変性モデルを用い,自家骨髄より分離した間葉系幹細胞にアデノウイルスベクターを用いてLacZ遺伝子を組み込んだのちに変性椎間板内へ移植した.その結果,間葉系幹細胞移植群では非移植群に比べ椎間板高や含水量,そして組織・形態学的検討により有意に変性が抑制された.また移植細胞は椎間板腔内で良好な生着を示し,間葉系幹細胞移植群においてプロテオグリカン合成の回復が免疫染色と遺伝子レベルでも確認された.以上より,骨髄間葉系幹細胞移植療法は変性椎間板治療に対する有効な治療法になりうることが示唆された.

若年期に生じた腰痛の自然経過

著者: 麻殖生和博 ,   岩崎一夫 ,   左海伸夫 ,   角谷昭一 ,   吉田宗人

ページ範囲:P.505 - P.512

 抄録:われわれは10年以上前に腰痛を訴え,MRIで椎間板障害を認めた10代の若年者222例のうち,今回再度MRIを撮影できた33症例,165椎間板を対象として前回と比較,検討した.MRIにて椎間板変性,椎間板ヘルニア,終板障害,椎間板腔狭小化を,臨床症状に対してはJOAスコアなどを検討した.椎間板変性は29症例,62椎間板に認められ,変性は進行していることが多かったが,椎間板ヘルニアは29症例,46椎間板であり,経時的に進行したのは3椎間板のみであった.終板障害は8例,17椎間に,椎間板腔狭小化は9椎間に認められた.JOAスコアは平均26.3±1.99と良好であり,腰痛の自覚症状は前回に比べて改善22例,不変8例,悪化3例であった.若年期に変性を認めた椎間板変性は進行するものの臨床症状は進行していないことが明らかとなった.しかし,さらに今後も注意深く調査していく必要があると考えられる.

急性腰痛を主訴に受診した外来患者の臨床診断と経過

著者: 柳橋寧 ,   佐藤栄修 ,   百町貴彦 ,   吉本尚 ,   鱧永浩 ,   増田武志

ページ範囲:P.513 - P.518

 抄録:急性腰・下肢痛を主訴に,発症後1カ月以内に当科を受診した1,033患者の臨床診断とその経過を調査し,当科における急性腰痛患者の特徴,傾向,診断,治療上の問題点につき検討した.20歳から50歳代の労働年齢層の患者が全体の70%以上を占めていた.対象患者の90%以上は,発症後2週間以内に当科を受診しており,発症に関わる誘因が存在した症例は538例(52.1%)で,労作時の発症が多かった.90%以上の症例が,数回の対症療法にて初診後2週間程度の治療期間で症状改善が得られ,入院加療を要したのは60例(5.8%),手術治療を行ったのは29例(2.8%)と少なかった.急性腰痛を来す疾患は多岐にわたるが,MRIなど補助診断を有効に利用しながら病態を的確に見極め,早期に治療を開始すれば,多くが短期間の治療で良好な経過をたどると考えられた.

急性腰痛の臨床症状と画像所見の検討

著者: 武者芳朗 ,   小林俊行 ,   若江幸三良 ,   水谷一裕 ,   高橋寛 ,   岡島行一

ページ範囲:P.519 - P.525

 抄録:1日以内で急激に発症した腰痛,殿部痛で,下肢の疼痛,神経症状を伴わない非特異的急性腰痛130例,男性77例,女性53例,平均年齢42.4歳を対象とし,発症様式から動作によるぎっくり腰,疲労などの誘因あり,なしの3群に分け,臨床所見と画像所見からその特徴を検討した.発症様式による差は認められなかった.急性腰痛の既往を有する割合が高く,疼痛は当初激烈であるが早期に緩解していた.X線所見では不安定性の頻度は低く,MRIでは軽度から中等度の椎間板変性を高率に認め,突出度はわずかであった.20歳代で非腰痛群と比較しても結果は同様であったことから,早期の段階での椎間板障害の存在が考えられ,椎間板のある程度の強度低下や機能障害に基づき,機械的刺激や疲労の蓄積で反復性に急性発作を生じるものと思われた.椎間板ヘルニア例に持続期間が長く,椎間板の器質的変化が進行すると疼痛は遷延化することが示された.

いわゆる「ぎっくり腰」における椎間板の関与

著者: 兵藤弘訓 ,   佐藤哲朗 ,   佐々木祐肇

ページ範囲:P.527 - P.533

 抄録:いわゆる「ぎっくり腰」における椎間板の関与を検討するために,MR像で推定した責任椎間板内に局所麻酔剤を注入し,除痛効果がみられたものを椎間板性「ぎっくり腰」として,その特徴と発症機序を検討した.いわゆる「ぎっくり腰」の55例中,椎間板性と診断されたのは40例(73%)であった.平均年齢が37歳で,日常の何気ない動作で発症した症例が18例(45%)であった.両側性の腰痛が19例(48%)であり,傍脊柱筋に圧痛のない例が29例(73%)であった.単純X線像では,椎間板の変性は軽度なものが多かった.椎間板造影像では後方線維輪までの放射状断裂が全例にみられたが,硬膜外腔への流出像は6例(15%)にのみみられた.T2強調MR像での椎間板の変性度(Gibson分類)は,gradeⅢが30例(75%)であった.造影MR像では,椎間板後縁に明らかな造影領域が19例(48%)にみられた.椎間板性「ぎっくり腰」の発症機序は,放射状断裂を呈する中等度の変性椎間板において,椎間板後方線維輪の肉芽組織に置換された無症候性断裂部位に再断裂が生じることで,多くが発症していると思われる.

腰椎不安定性に関するX線学的因子と年齢分布―加齢による不安定形態の変遷

著者: 井口哲弘 ,   笠原孝一 ,   金村在哲 ,   赤浦潤也 ,   佐藤啓三 ,   伊藤研二郎 ,   栗原章

ページ範囲:P.535 - P.541

 抄録:腰椎の矢状面不安定性に関する3つのX線学的因子(3mm以上の中間位すべり度と前後動揺度,10°以上の椎間可動角)の年齢分布について調査した.方法は測定に影響する種々の因子を除いた外来患者880例を5歳ごとの15群に分け,各因子を有する割合を年代別に調べた.結果は椎間可動角と前後動揺度は30歳以下の若年者と46歳以降の中高年者に多い2相性のピークを示した.しかも椎間可動角の異常は若年者に多く,反対に前後動揺度は46歳以降で多く認められた.中間位すべりは46歳以降で加齢とともに次第に増大していた.以上の結果から46歳~50歳にかけての年代は椎間不安定性に関する発症危険年代と考えられた.また中間位すべりは年齢とともに増大しており,不安定性の最終段階で非可逆性変化と思われた.結論として矢状面不安定性因子は年齢と密接な関連があり,今後の年齢別調査の進展により各因子間の相互関係がより明確になると考えられた.

炎症性サイトカイン,血管新生促進因子,各種酵素の椎間板ヘルニア自然退縮機序における相互作用

著者: 加藤剛 ,   波呂浩孝 ,   小森博達 ,   四宮謙一

ページ範囲:P.543 - P.548

 抄録:椎間板ヘルニアの自然退縮機序を解明するため,その機序に必須とされている炎症性サイトカイン,血管新生促進因子,および各種タンパク分解酵素について,活性型マクロファージと椎間板組織による共培養モデルを用い,経時的発現パターンと各因子の相互作用について検討した.椎間板組織と活性型マクロファージの接触により,炎症性サイトカインであるTNF-αの強発現がまず認められ,次いで血管新生促進因子であるVEGFやマトリックス分解酵素であるu-PA,plasmin,MMPsの発現が認められた.また,u-PAの発現がTNF-αやVEGFによって促進されることも明らかとなった.これらより椎間板ヘルニア自然退縮機序のカスケードを想定した.TNF-αが炎症のイニシエーターとして働き,血管新生と各種酵素の発現を行うと考えられ,酵素間では,セリンプロテアーゼがMMPsの活性化に作用していることが示唆された.

腰椎伸展運動療法による急性腰椎椎間板へルニアの治療

著者: 鈴木信治 ,   坪内俊二 ,   稲田充 ,   大塚聖視 ,   夏目英雄

ページ範囲:P.549 - P.555

 抄録:発症後30日以内の急性腰椎椎間板ヘルニア患者の臥位伸展運動群(1群)105人と持続伸展運動群(2群)35人に,外来でMcKenzieの腰椎伸展運動療法を行った.対照として,それ以前に入院で従来の治療法を行った急性腰痛患者44人を用い,30日以内の治療期間で成績を分析した.指床間距離については入院群は外来1群とは差はなく,2群とは有意に改善していた.SLR角度は,外来群と比べ入院群の改善が著明であった.腰痛・下肢痛の改善は,「全く消失したもの」に「時にあるもの」を加えた比率は,1群68.5%,2群85.7%,入院群59.1%で,伸展による外来治療は良好であった.MRIを多数回撮像した1群33人のヘルニア腫瘤の変化は,消失と著明に縮小したもの24.2%,何らかの縮小を示したもの30.3%で,変性と突出が高度なものに多かった.X線計測値はtotal lumbar angleとposterior projectionが,症状改善と大きく関連していた.追跡調査した42人では自覚症状と他覚所見を加えたJOAスコアは,治療直後12.1点が追跡調査時13.5点と改善していた.

腰部脊柱管狭窄症に対する装具療法の効果と限界

著者: 平林茂 ,   都築暢之 ,   斎木都夫 ,   平野努武

ページ範囲:P.557 - P.562

 抄録:腰部脊柱管狭窄症に対する装具療法の効果と限界について,42例(男性16例,女性26例,年齢:34~87歳,装着期間:3カ月~2年4カ月,平均6カ月)のretrospective studyを行った.使用した装具は,flexion brace(以下FB)と軟性装具(以下D)であり,うち65歳以上の高齢者は18例(FB10例,D8例),65歳未満の若年者は24例(FB14例,D10例)であった.腰痛と下肢症状の程度は,重度2,軽度1,なし0に分類し,歩行能力は間欠跛行出現までの距離または時間を指標として同じく3段階に分類した.総体として見ると,装具療法により腰痛と(p<0.0001)下肢症状(p<0.001)は有意に改善したが,歩行能力では有意な改善は得られなかった.これは,今回使用したflexion braceと軟性装具は,間欠跛行の症状を改善するほどには腰椎を制動できないためと推測された.

後方進入脊椎内視鏡視下手術の適応と臨床成績―315例の検討

著者: 吉田宗人 ,   麻埴生和博 ,   角谷英樹 ,   河合将紀 ,   山田宏 ,   中川幸洋

ページ範囲:P.563 - P.569

 抄録:後方進入内視鏡視下手術(MED法)を施行した315症例を対象として,術後追跡調査期間は平均2.5年で手術成績,安全性を評価し,その適応と問題点を検討した.男性211例,女性104例,平均年齢39.3±16.4歳であった.疾患の内訳は腰椎椎間板ヘルニア246例,椎体後方終板障害15例,腰部脊柱管狭窄症44例,腰椎囊腫病変2例,頚椎神経根症8例であった.手術成績(JOAスコア)は腰椎疾患の平均が術前13.5から術後27.1,頚椎神経根症が術前9.1から術後17.8と良好に改善した.合併症は12例(3.8%)で硬膜損傷3例,部位の誤認3例,術後血腫による悪化3例,化膿性脊椎炎1例,一過性の筋力低下2例であった.再手術が7例(1.5%)に行われた.MED法は腰椎椎間板ヘルニアのみならず,後方除圧手術として適応可能であり,手術手技に熟練すれば安全で良好な成績が期待できる.

内視鏡を用いた脊柱側弯症の前方矯正固定術

著者: 江原宗平 ,   高橋淳 ,   中村功 ,   平林洋樹 ,   北原淳 ,   楢崎勝巳

ページ範囲:P.571 - P.576

 抄録:アウトリガーを応用し,内視鏡下に,脊柱変形前方矯正固定術を行うシステムの研究開発を1994年から開始した(体外矯正・体内固定術:external correction and internal fixation system:ECIF System).まず豚屍体胸椎の手術を行い,続いて胸腔鏡視下に生体豚の手術を繰り返し,システムの開発改良を行ったうえで,1999年より臨床応用を開始した.本法を用いた場合,初期平均側弯矯正率は80%以上と強力であり,腋窩線上の少数の15~20mmのポートのみで手術が行え,術後疼痛の軽減,術後回復が速いなどの利点がある.特発性側弯症のインストゥルメンテーションを用いた前方矯正固定術を,胸腔鏡視下に高い矯正率で行える.

脊椎疾患における性格心理的影響

著者: 酒井義人 ,   松山幸弘 ,   後藤学 ,   吉原永武 ,   辻太一 ,   中村博司 ,   石黒直樹

ページ範囲:P.577 - P.582

 抄録:2000年以降当科に手術目的で入院した一連の脊椎疾患患者72例を対象に,術前モーズレイ性格テストおよびSF-36を行った.手術時診断名は脊髄腫瘍20例,脊椎腫瘍7例,脊柱変形8例,頚髄症7例,腰部脊柱管狭窄症6例,脊椎外傷4例,キアリ奇形4例,胸椎靱帯骨化症4例,脊椎カリエス2例,脊髄ヘルニア2例,その他8例である.脊椎疾患では性格的に内向性,虚偽傾向がみられ,脊髄腫瘍病変の患者でテスト陽性例が多い傾向が認められた.SF-36の結果はテスト陽性例では全体にスコアは正常例と比べ低値であり,特に精神面の項目であるSF,MHで有意差を認めた.術後改善率は内向型性格では59.2%,神経症型が25.0%,転嫁順応型が71.8%,精神不安定型が-25.0%であり,テスト陽性例38.9%,正常例71.4%と有意に陽性例で劣っていた.モーズレイ性格テストは術前の患者性格心理的評価として有用と考えられた.

若年者における心因性腰痛の検討

著者: 田口敏彦 ,   河合伸也 ,   金子和生 ,   豊田耕一郎 ,   加藤圭彦

ページ範囲:P.583 - P.587

 抄録:小児・思春期の心因性荷重による腰痛について,その臨床的特徴と診断法について検討した.対象は男性4例,女性8例,年齢は8~19歳(平均15.8歳)であった.追跡期間は2年から10年3カ月(平均4年8カ月)であり,治療成績は概ね良好であった.本症に対しては,病態を適確に診断し,不要な手術を避けることが大切である.また本症のスクリーニングにはWaddelら14)の報告したnon-organic signが有用である.Non-organic signがあり,画像所見や,理学所見で整合性のない症例については,疼痛が主体の場合にはサイオペントン疼痛試験,運動麻痺が主体の場合には経頭蓋磁気刺激法による誘発筋電位を検査することが,本症の診断には極めて有用である.

脊椎患者における術前スクリーニングとしてのモーズレイ性格テストの有用性

著者: 笠井裕一 ,   竹上謙次 ,   内田淳正

ページ範囲:P.589 - P.593

 抄録:脊椎疾患の症例にモーズレイ性格テスト(MPI)を行い,問題症例を術前にスクリーニングできるかどうか検討した.対象は脊椎疾患の手術症例303例で,全例で術前にMPIを施行し,本テストの判定基準に準じて評価した.また,われわれは問題症例をUnsatisfied,Indecisive,Doctor shopper,Distrustfulの4つに分類し,経過観察期間中に対象患者が問題症例になったか否かを調査した.そして,MPI正常者数,MPI異常者数,問題症例数を求め,問題症例をスクリーニングするためのMPIの感度と特異度を算出した.その結果,303例のうちで,MPI正常277例(91.4%),MPI異常26例(8.6%)であり,問題症例は24例(7.9%)にみられた.MPIの感度と特異度は,それぞれ84.6%,99.3%であり,MPIは問題症例をスクリーニングする際に有用であることが示された.

脊椎手術後の肺塞栓症と深部静脈血栓症の検討

著者: 長谷川雅一 ,   児玉隆夫 ,   中川智之 ,   宝亀登 ,   市村正一 ,   里見和彦

ページ範囲:P.595 - P.601

 抄録:脊椎手術後の合併症としての肺塞栓症(以下PE),臨床的深部静脈血栓症(以下DVT)につき検討した.対象は前方固定術6例,開窓術20例,PLIF10例の計36例で前方固定術以外は腹臥位で行った.PEの診断は肺血流シンチグラムで行い,術前と比べ術後1~2週で新たな欠損像を示すものとし,DVTは疼痛,腫脹,圧痛,Homans徴候のある例とした.脊椎手術におけるPE,臨床的DVTの発生頻度と血液ガス,凝固線溶系マーカー(TAT,D-dimer)の有用性につき検討した.PE,臨床的DVTはそれぞれ2例(5.6%)に認めたが,両者の同時発生はなかった.PEは無症候性であったが,PaO2は術後1週で約20%低下し,D-dimer値は2週時に高値を示した.脊椎手術におけるPE,DVTの発生頻度は必ずしも低くはなく,これらの合併症を常に念頭に置き治療にあたる必要がある.脊椎手術後のPE,DVTのスクリーニングとして,血液ガス分析,D-dimer測定は低コスト,低侵襲で有用であった.

経皮的レーザー椎間板減圧法成績不良例の実態調査―近畿地区12大学病院における多施設調査より

著者: 小坂理也 ,   阿部宗昭 ,   米澤卓実

ページ範囲:P.603 - P.610

 抄録:近畿地区12大学付属病院にアンケート調査を行い,経皮的レーザー椎間板減圧法(PLDD)術後成績不良例の実態調査を行った.適応や診断の誤りが成績不良の主な原因と考えられたのは74例中44例(59.5%)であった.PLDDに特有の合併症として終板損傷,椎体骨壊死が35例にみられた.PLDDの実施にあたっては手技の習熟,適切な照射条件の設定とともに,術前病態の正確な把握,適応の遵守,合併症予防のための工夫,成績不良例に対する適切な対応が必要である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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