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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科39巻5号

2004年05月発行

雑誌目次

シンポジウム 手指の関節外骨折

緒言 フリーアクセス

著者: 荻野利彦

ページ範囲:P.624 - P.625

 手指の骨折は比較的頻度の高い骨折であり,幅広い年齢に発生する.若年者ではスポーツ外傷,幼児や高齢者では転倒によることが多いが,機械の使用による労働災害などでも起こる.これらの骨折は部位により骨幹部骨折,関節周囲骨折,関節内骨折に分けられる.本誌上シンポジウムでは日常診療でしばしば治療する機会のある指節骨と中手骨の骨幹部骨折と関節周囲骨折を関節外骨折として取り上げた.
 手指の関節外骨折の診断に際しては,短縮変形,角状変形(屈曲・伸展変形と側方偏位),回旋変形を適切に評価する必要がある.実際の診断に際しては,側方偏位の有無は指伸展位で損傷指と隣接指あるいは反対側の指を比べる.また,回旋変形の判定では,指屈曲位で爪甲の並びを損傷指と隣接指で比較する.その際,通常では指屈曲位で爪甲は平行になるが,示指と小指では正常でもわずかな回旋や偏位があるので注意を要する.いったん,変形がないことを確かめても外固定中に変形が出現する場合もあり,特に保存療法では治療中継続した変形の観察が必要である.
 X線像の読影に際しては,正しい正面,側面像を撮影することが大切である.基節骨の基部より近位の骨折では指が重なるため正確な側面像の撮影は困難であり,これを補うための斜位像も必要である.また,X線所見のみでは骨折を見落とす可能性があるので,疼痛を訴える部位,圧痛のある部位などの臨床像を加えて総合的に診断することが大切である.

中手骨骨折に対するキルシュナー鋼線固定法

著者: 瀧川宗一郎

ページ範囲:P.627 - P.633

 抄録:著明な変形・短縮・粉砕例,整復不能例,整復位保持困難例,骨癒合に長期の外固定を要し,高度な関節拘縮が危惧される例などに対しては手術療法の適応がある.中手骨骨折に対するキルシュナー鋼線(以下K-wire)固定手術について述べる.中手骨頚部骨折において,掌側部骨皮質の破壊が強く,背側凸変形が強いものは徒手整復ができてもその整復位を保持することが一般に困難である.骨折の徒手整復後に,せっかく損傷のない中手指節関節(以下MP関節)そのものに侵襲を加えない,および骨折部周囲軟部組織に更なる侵襲を加えずに確実な整復位保持が得られる固定法として,中手骨基部から鈍端で,事前に適度な弯曲をつけたK-wireを打ち込む髄内釘固定法が有用と考えている.中手骨骨幹部骨折もよい適応である(斜骨折には短縮予防としてlocking techniqueを追加する).ただし回旋変形を残さないことが重要である.その実際について述べ,また他のK-wire固定法についても言及する.

指節骨と中手骨骨折に対するギプス療法

著者: 石黒隆

ページ範囲:P.635 - P.640

 抄録:手には多数の腱が関与しており,骨の周囲を腱が走行しているため骨折後に腱との癒着を生じやすい.骨折の治療に当たっては,①MP関節の側副靱帯の短縮による伸展位拘縮,②骨折部での腱との癒着による可動制限,③回旋変形そして④偽関節などの重篤な機能障害を残さないようにしなければならない.今回,われわれが行っている保存的治療を紹介し,診断および治療上の注意点などについて述べた.MP関節屈曲位での早期運動療法(ナックルキャスト)は基節骨や中手骨の骨折に対して適応がある.MP関節屈曲位で整復を保持し,積極的な指の屈伸運動を行わせることによって腱との癒着を防止し,骨癒合や関節可動域の早期獲得ができる方法である.

指基節骨骨折に対するギプス治療(Burkhalter法)

著者: 高畑智嗣

ページ範囲:P.641 - P.645

 抄録:指基節骨骨折に対するBurkhalter法は,MP関節を屈曲位に保持したままPIPおよびDIP関節を隣接指とともに自動運動させる保存療法である.Burkhalter法で治療した指基節骨骨折11例11指を検討した.年齢は13~76歳(平均51歳)であった.骨折指は示指3例,中指4例,環指1例,小指3例であった.後半の6例は手のみのギプスを用いた.ギプス固定期間は21~30日(平均26日)であった.全例で骨癒合が得られ,回旋変形はなかった.ギプス除去後0~15週(平均8週)の調査時の関節可動域は,TAM(total active motion):100~270°(平均206°),PIP自動屈曲:70~105°(平均90°),PIP自動伸展:0~-35°(平均-18°)であった.若年者は成績良好であったが,高齢者や裂創合併例で成績が劣る傾向があった.指基節骨骨折の大部分はBurkhalter法による保存療法で良好に治癒する.選択肢の1つとすべき治療法である.

マイクロプレートシステムを用いた中手骨・指節骨骨折の治療経験

著者: 廣岡孝彦 ,   橋詰博行 ,   高杉茂樹 ,   森下嗣威 ,   守屋有二 ,   加藤久佳 ,   木浪陽

ページ範囲:P.647 - P.652

 抄録:筆者らは,中手骨や指節骨骨折に対しては,マイクロプレートシステムを用いて骨折部を強固に内固定し,術後早期より可動域訓練を行うことで術後の指拘縮の予防に努めている.今回,同システムを用いて観血的整復内固定術を施行した中手骨,指節骨の非開放性関節外骨折24例27指の術後成績を検討した.21例23指に良好な成績が得られたが,3例4指に術後指拘縮を認めた.これらは軟部組織の損傷が高度な基節骨骨折であった.拘縮を起こす因子には骨折型や粉砕の程度と軟部組織の損傷の程度があげられている.骨折に対しては解剖学的整復と強固な内固定,骨欠損部には骨移植を追加することで対処可能であるが,軟部組織の挫滅の高度な症例が今後の課題である.指節骨骨折は高エネルギー外力で生じることが多く,特に基節骨骨折は屈筋腱の癒着を高率に引き起こすことを念頭に置いて治療に当たるべきである.

創外固定による治療を中心に

著者: 成田俊介 ,   西川真史 ,   藤哲

ページ範囲:P.653 - P.657

 抄録:手指骨の粉砕を伴う開放骨折などは創外固定法が良い適応になる.われわれは現在,注射針キャップを用いた創外固定法やレジン創外固定法に若干の工夫を加えて治療を行っている.また仮骨形成型偽関節や関節固定には骨延長器を用いて骨移植を行わずに治療を行っている.術後のピンサイトケアでは手指の消毒を患者自身に毎日行わせることなどを指導し,ピン刺入部の感染を予防している.注射針キャップを用いた創外固定法やレジン創外固定法はピン刺入部が自由にデザインできるが多少の熟練を要する.治療の成功のためには手術方法のみならず,術後のピンサイトケアなども重要である.

視座

脊椎内視鏡手術の光と影

著者: 吉田宗人

ページ範囲:P.621 - P.622

 1997年,当時盛んに行われていた脊椎内視鏡手術の勉強を目的の1つとして米国に留学した.訪ねた先の1つであるWisconsin大学ではZdeblick教授がlaparoscopeを用いて腰椎前方固定術を積極的に行っていた.black discに対する腰椎固定術が多く,従来法に比べて低侵襲で成績も良いとのことであった.Baylor医科大学ではEsses教授に胸腔鏡手術(VATS)の胸椎椎間板ヘルニア手術を見学させてもらった.すでにこれらの知識は持ち合わせていたが,なるほど一般外科医に内視鏡展開をやってもらい,脊椎がでてから脊椎手術のみ行うのであれば,器具の扱いにさえ慣れればできるなとの印象を持った.しかし,日本では一般外科医と一緒に手術をやれる医療報酬制度がなく,こうした手術を行うには外科医の厚意に頼るほかはない.脊椎外科医だけで行える内視鏡手術はないものかと考えていたところ,Tennessee大学のSmith助教授がMicroendoscopic discectomy法という,後方進入で内視鏡視下に椎間板ヘルニアを摘出する方法をやっていることを知り,Memphisに見学に出かけた.彼がL5-S1の椎間板ヘルニア手術をやっているのを見学できた.そのころ彼は,まだこの手術を初めて50例程度の頃であった.わずか16mm径の外套管で腔を確保して,その中に内視鏡と操作器具を入れ,内視鏡視下にいわゆるラブ法を行うものである.それまで漠然と椎弓管隙から内視鏡を挿入するアプローチは考えていたが,腔をいかに確保するか考えが及ばなかった.彼の方法を一目みて,この方法はむしろ細かな手術に長けたわれわれ日本人向けの方法である,これはいけると直感した.これを使えば,単にヘルニア摘出のみならず,脊柱管狭窄症や頚椎にも応用できるに違いないと閃いた.米国で行われた内視鏡の講習会にも参加した.
 帰国してから,暫くしてこの器械を借りてまず生豚を使って行ってみた.手術見学の経験と講習会での器械操作を思い出しながら,6箇所ほどの訓練を行った.次に剖検死体を用いて同様の訓練を行った.これでいけると確信して第1例の症例を行ったのが1998年8月であった.L4-5の大きな中心性ヘルニアであったが,アプローチに苦労したものの幸い一塊として摘出できた.その後,現在までに500余症例を経験してきたが,この間learning curveは決してやさしくはなかった.もうこれで十分な技術が身に付いたと慢心するたびに硬膜損傷や思わぬpitfall & trickに悩まされた.しかし,それをここまで続けてこられたのは患者さんの手術後の順調な経過と満足した言葉だった.この方法は手術後の創部痛は確かに従来法より軽く,早期離床,早期社会復帰を可能にした.この手術をやり始めてから2年して腰部脊柱管狭窄症へ応用した.片側進入で両側の除圧ができ,特に対側の視野の確保が良いことがわかった.従来法に比べてはるかに低侵襲な手術が可能である.最近では頚椎に適応を拡げている.

論述

圧迫性頚髄症に対する4椎弓形成術の試み

著者: 細野昇 ,   坂浦博伸 ,   向井克容 ,   石井崇大 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.659 - P.665

 抄録:現在まで圧迫性頚髄症に対する椎弓形成術の至適除圧範囲に関する検討はなされていない.今回われわれは,本症に対してprospectiveにC3~6の形成術を行い(4椎弓群,n=22),それまでのC3~7の5椎弓群(n=37)と比較検討した.日整会スコアの改善・合併症に差はなかった.また術後MRIでは両群とも脊髄に対して十分なくも膜下腔が確保されていた.術後頚椎可動域は4椎弓群では術前の88%と術前と有意差のない範囲に保たれていた.C3~6形成術はより低侵襲の術式として従来のC3~7形成術に代わりうる可能性が示唆された.

TransFix system®を用いた膝屈筋腱による膝前十字靱帯再建術―早期荷重による臨床的・社会的利害得失

著者: 長総義弘 ,   菊地臣一 ,   近内泰伸 ,   沼崎広法

ページ範囲:P.667 - P.672

 抄録:膝屈筋腱を移植腱とし,TransFix system®によって固定する前十字靱帯(ACL)再建術では,固定間距離が短く,優れた初期固定力を有している.今回,本術式を用いた術後リハビリテーションを従来法(全荷重4週)と早期全荷重とで比較し,その利害得失について検討した.症例はACL再建術を受けた連続する41例(男20・女21,平均27歳)で,後療法によって前向きに2群に分類した(従来群21膝・早期群20膝).その結果,臨床的には,術後の膝安定性や筋力の回復,膝関節水症の有無では両群間に有意な差はみられなかった.一方,社会的には,早期群では術後入院期間が平均11日と約5日短縮し,社会復帰までの期間も平均28日と約2週短縮していた.また,入院費用も有意に減少した.本術式による早期荷重プログラムは,安全かつ早期に社会復帰を可能とし,社会的損失を減少させることが可能である.

検査法

再現性のある握力測定法の検討―連続測定における経時的変化,および握り幅や測定姿勢による差異について

著者: 渡邉忠良 ,   尾鷲和也 ,   山田哲史 ,   尾山かおり ,   桃井義敬

ページ範囲:P.673 - P.679

 抄録:再現性のある握力測定法の検討のため,Smedley式握力計を用い,成人男女各20名の握力測定を行った.調査項目は,筋疲労を調査する9回連続測定,測定間に1分休憩を入れた測定,握り幅の変化による測定,姿勢の変化による測定とした.連続測定では有意な経時的握力低下を認め,1分休憩を入れた場合は,有意な低下が消失した.基準握り幅と,その+10%,-10%の幅での測定値には統計的な有意差はないものの,基準握り幅で最高値を示した.姿勢に関して臥位は立位,坐位より有意に低下していた.再現性のある握力値を得るには同一条件での測定が重要である.

統計学/整形外科医が知っておきたい

11.ロジスティック回帰分析―疫学的見地から

著者: 小柳貴裕

ページ範囲:P.680 - P.685

 ロジスティック回帰分析は,共分散分析や層別解析などと同様,交絡因子を調整しようとしたものである.この分析は,判別の結果を解析の主目的とするのではなく,結果(endpoint)の発症にどの要因がどれだけ関与するかを検討する目的で主に疫学分野で使用されてきた.本分析は説明変数が多変量正規分布する必要がある判別分析と違い,説明変数の分布に関して何の制約もなく,質的変数,量的変数の違いも問わない4,7,11,13).ただし観察終了時点以前のうち切り例は使えない.説明変数に当たる要因の相対危険度の検討が主目的であり,予後因子a(+)の患者がa(-)の患者の何倍死亡しやすいかなどを相対危険度(RR)(オッズ比;ORで代用するのが慣例)であらわす.

境界領域/知っておきたい

FES(functional electrical stimulation)

著者: 島田洋一

ページ範囲:P.686 - P.688

■はじめに

 脊髄損傷による四肢麻痺,対麻痺,脳卒中片麻痺では,機能向上の手段として,社会生活に適応するためのリハビリテーションや車椅子,杖,装具などの補助具がある.これらにより,ある程度の活動性は得られるが,十分とはいえない.しかし,このような上位運動ニューロン障害では,脳,脊髄などが障害されても,末梢の神経の興奮は維持されており,電気刺激を与えることで,四肢の筋に活動を起こし,目的とした動作を再現できる.そこで,より健常に近い機能を再建するため,麻痺した四肢を電気刺激で動かし,コンピュータ制御によって目的とした機能を再建する機能的電気刺激(functional electrical stimulation, FES)が用いられる.FESは刺激電極,刺激装置,コンピュータ,センサーのめざましい進歩により再建できる機能も増え,より実用的となった.これまでのところ,脊髄損傷に対して,上肢では飲食,書字,整容,トランスファーが,下肢では起立・着席,起立維持が実用的であり,歩行は症例により差がある.脳卒中では,歩行再建,上肢の押さえ手機能が再建できる.

国際学会印象記

「第2回世界脊椎学会(World Spine Ⅱ)」に参加して

著者: 細江英夫

ページ範囲:P.690 - P.691

 2003年8月10日~13日,米国シカゴ(イリノイ州)のハイアットリージェンシーホテルにおいてEdward C Benzel会長(脳神経外科医)のもと,第2回世界脊椎学会(World Spine Ⅱ)が開催された.World Spineは,第1回が2000年にMario Brock会長(脳神経外科医)のもとベルリンで初めて開催された新しい学会である.Richard G Fessler,Hansen A Yuan両氏がプログラム責任者で,愛知医科大学脳神経外科の中川教授らが日本からの協力者であり,どちらかというと脳神経外科医主導の学会である.Fessler氏(シカゴ)は翌月東京で開催された日本脊椎・脊髄神経手術手技学会(STSS学会,都立神経病院・高橋 宏会長)に招待され,MAST(minimum access spinal technologies)や内視鏡を使用した経口進入法など低侵襲手術の講演を行った.今回,50カ国以上の整形外科医,脳神経外科医,リハビリテーション医,理学療法士,看護師,研究者など1,300名を超す参加者があった.整形外科ではおなじみのNASS,CSRS,SRS学会以外に脳神経外科の学会,リハビリテーション,物理療法の学会など多くの学会がこの会の開催に関係していた.
 8月10日は,10種類のPremeeting courseとオープニング・レセプションが行われた.8月11日~13日は,午前中はシンポジウムやBreakout sessions(講演中心),午後は一般演題(5会場,240題)が行われ,午前午後それぞれに30分のコーヒーブレイクがあり,ポスター(215題)を閲覧するようプログラムされていた.口演は4演題で1つのセッションをなし,最後に合同討議を行った.展示,ポスター,昼食会場となった地下3階はかなりの広さであった.

連載 整形外科と蘭學・8

星野木骨と整骨医

著者: 川嶌眞人

ページ範囲:P.692 - P.693

 宝暦4年(1754),京都六角獄舎の前で山脇東洋たちが解剖を行って以来,全国的に解剖が行われるようになったが,文政2年(1819)に中津の村上玄水が解剖を行った時に至っても,仏教会や漢方医の反対や世論の抵抗が強く,なかなか容易には解剖ができる雰囲気ではなかった.これは日本人が死体に魂が宿っているという古くからの信仰心を持っているところから始まっており,今日に至っても臓器移植が普及しない,大きな要因の1つである.
 このため整骨医の中には闇で解剖を行おうとする者も現れたりしたが,遺骨に特に執着心を持つ日本の文化的環境から人骨の実物標本を所有することは到底許される状況になかった.

臨床経験

Dall進入路における大転子部合併症について

著者: 加藤充孝 ,   野口耕司 ,   杉谷繁樹 ,   高津敏郎 ,   石川裕志 ,   中川偉文 ,   河田好泰

ページ範囲:P.695 - P.699

 抄録:当院では主にDallの進入路にて人工股関節全置換術(THA)を施行してきたが,術中,術後に大転子骨折,切離骨片の転位等の合併症を経験し,その発生頻度,発生時期等を調査した.Dallの進入路にてTHAを施行されX線像で評価可能であった105例118関節を対象とした.大転子骨折は11関節に認められ,変形性股関節症(OA)群では6.1%,関節リウマチ(RA)群では15%の発生率であった.切離骨片の転位は15関節に認められ,OA群中16%,RA群中5%の発生率であった.大転子骨折は2関節では術中に,9関節では術後2週間以内に発生していた.大転子骨折に対し5関節に整復固定術を施行し骨癒合を認めた.保存的に加療した6関節のうち,4関節は偽関節となった.切離骨片転位例では骨癒合を9関節に,偽関節を6関節に認めた.また術後股関節脱臼を大転子合併症なし群では1例に,大転子合併症あり群では3例に認めた.大転子骨折はRAに,切離骨片の転位はOAに多い傾向を認めた.また大転子合併症は脱臼の危険因子になると思われた.

胸腰椎圧迫骨折と診断された後,遅発性に転位が生じ,対麻痺を来した強直性脊椎骨増殖症の2例

著者: 木村敦 ,   中間季雄 ,   刈谷裕成 ,   星野雄一 ,   税田和夫

ページ範囲:P.701 - P.704

 抄録:転倒などの比較的軽微な外傷により,胸腰椎に不安定型の骨折を生じた強直性脊椎骨増殖症の2例を経験した.いずれの症例も初診時にはほとんど転位がなく,圧迫骨折の診断を受けていたが,2~3週後に転位が生じて対麻痺を来した.ともに緊急手術により後方除圧・固定を行ったが,麻痺が残存してADLの低下につながった.強直性脊椎骨増殖症に合併した胸腰椎の骨折では,初診時に不安定性の有無を慎重に判断する必要があり,不安定型の骨折に対しては,厳重な経過観察と手術を含めた治療法の検討を要する.

鏡視下肩峰下除圧術後における腱板断裂の経時的な変化―MRIによる検討

著者: 宍戸裕章 ,   菊地臣一 ,   紺野慎一

ページ範囲:P.705 - P.710

 抄録:腱板完全断裂に対する鏡視下肩峰下除圧術(ASD)術後の腱板断裂の大きさの経時的変化と症状との関連を検討した.術前,術後6カ月,および術後2年でMRIを撮像した.さらに,MRI撮像時における日整会肩関節疾患治療成績判定基準(JOAスコア)とvisual analog pain scale(VAS)を調査した.術後6カ月から術後2年で,断裂の拡大が認められた症例は7肩,32%であった.JOAスコアとVASには断裂不変群と断裂拡大群との間に有意差は認められなかった.ASD術後2年においては,断裂拡大に伴う治療成績の悪化は認められなかった.

65℃熱処理自家罹患骨を用いた骨軟部悪性腫瘍の治療成績

著者: 穴澤卯圭 ,   矢部啓夫 ,   森岡秀夫 ,   南雲剛史 ,   鈴木禎寿 ,   三浦圭子

ページ範囲:P.743 - P.749

 抄録:骨軟部悪性腫瘍の切除後に行った熱処理自家骨移植の治療成績を検討した.対象は1994年から2001年まで治療した18例で,疾患は原発性骨悪性腫瘍13例,転移性骨腫瘍3例,骨合併切除を行った悪性軟部腫瘍が2例だった.部位は上腕骨3例,大腿骨7例,けい骨6例,骨盤2例で,移植法は節状骨移植5例,骨軟骨移植2例,欠損部補填5例,人工物との組み合わせが6例だった.骨癒合は15例(83%)に認め,残りの3例中2例は術後感染による移植骨の抜去,1例は死亡例で骨癒合が確認できなかった.術後合併症は感染を骨盤2例,けい骨近位2例,計4例(22%)に,骨折を大腿骨1例に認めた.骨癒合期間はX線所見上3~66カ月で認めた.骨癒合まで2年以上を要した2例は,セメントレス人工膝関節との組み合わせ例だった.熱処理自家骨移植を行ううえで,移植骨の固定性が重要で,軟部の合併切除が大きい骨盤,けい骨移植例については感染を十分考慮する必要がある.

症例報告

Nail-patella syndromeの一家系

著者: 村木真 ,   小保方浩一 ,   田島正稔 ,   鍋島清隆 ,   米野万人 ,   森本亮 ,   二井英二

ページ範囲:P.711 - P.714

 抄録:Nail-patella syndrome(NPS)は爪の欠損や低形成,膝蓋骨の形成不全,肘関節の変形,iliac hornを4大徴候とし,ABO血液型に連鎖する常染色体優性遺伝をとる疾患であり腎障害を高率に合併する.今回,われわれはNPSの一家系を経験したので報告する.症例は26歳,女性で右上腕骨骨折のため当科に入院した.両手母指の匙状爪,膝蓋骨の低形成と脱臼,肘関節変形,iliac hornを認め,4大徴候を認めたためNPSと診断した.そこで家族の同意を得て本家系の調査を行った.調査は8例中6例を直接診察し,2例は聞き取りにより行った.4大徴候として8例中7例に爪の異常が認められた.X線撮影は4例に施行でき,そのうち3例に膝蓋骨の形成不全,4例で肘関節の変形,3例にiliac hornがみられた.調査した8例の血液型はすべてA型であった.腎障害については父親が40歳頃より腎不全を生じ,現在透析を受けている.

片側下肢痛にて発症した悪性リンパ腫再発(intravascular lymphomatosis)の1例

著者: 相野谷武士 ,   立花新太郎 ,   弘田裕

ページ範囲:P.715 - P.717

 抄録:片側下肢痛にて発症し,慢性の経過を経て悪性リンパ腫(intravascular lymphomatosis:IVL)の診断に至った1症例を経験した.症例は74歳,女性.1993年に他院で咽頭部の悪性リンパ腫と診断され,放射線治療を受けた.その後1999年まで外来通院し,再発を疑う所見はなかった.1997年3月より左下肢痛出現.同年12月より原因不明の左下肢麻痺が出現し,2000年1月,当院に紹介入院となった.精査するも明らかな原因病巣みつからず,3月上旬転院.その後右下肢麻痺に続いて両上肢麻痺も出現し,3月28日再入院.MRIの異常および髄液検査にて上記診断に至った.IVLは多彩な病態を示すため,原因不明の脊髄・神経根症状においては本症を考慮する必要があると考えられた.

結核性肩関節炎の2例

著者: 中道憲明 ,   小川清久 ,   池上博泰 ,   穴沢卯圭

ページ範囲:P.719 - P.723

 抄録:2例の結核性肩関節炎を経験した.2例とも軽微な肩関節痛,強い可動域制限を主訴としており,肩関節周囲炎として治療されていた.発症から1年8カ月で膿瘍を形成し確定診断にいたった.いずれも抗結核剤投与,病巣掻爬灌流術を行い感染を消退せしめた.単純X線写真の経時的変化を提示し読影上の注意点を報告する.

ダウン症候群幼児に対する肋骨移植を用いた後頭頚椎固定術

著者: 岩﨑幹季 ,   宮内晃 ,   奥田真也 ,   三木健司 ,   川端秀彦

ページ範囲:P.725 - P.731

 抄録:小児において腸骨からの移植骨採取は骨採取量に限界がある.幼児ダウン症候群患児に対する後頭頚椎固定術では十分量の腸骨移植を得ることが困難で,かつ骨癒合不全や術後合併症などの危険性が高いとの報告が多い.脊髄症状を伴ったダウン症候群の上位頚椎病変2例に対して,自家肋骨移植を用いて後頭骨軸椎間固定術を施行し良好な骨癒合を得られたので報告するとともに,ダウン症候群における上位頚椎病変の病態に関して考察する.

幼児期に𦙾骨内反変形を呈した限局性線維軟骨異形成の1例

著者: 水野諭 ,   大野和則 ,   佐々木勲 ,   松本修

ページ範囲:P.733 - P.736

 抄録:われわれは𦙾骨近位部に発生した限局性線維軟骨異形成の1例を経験した.症例は1歳男児で,右下腿内反変形を主訴に来院した.単純X線像は𦙾骨近位内側に周囲硬化像を伴った骨皮質欠損像を示し,同部位で𦙾骨の内反変形を認めた.特徴的なX線所見より本疾患と診断し,保存療法を行った.内反変形は経時的に徐々に矯正され,4歳時には脚長差は軽度残存するものの内反変形はほぼ消失した

頚椎と腰椎に同時に脊椎炎を発症したSAPHO症候群の1例

著者: 夏目英雄 ,   坪内俊二 ,   稲田充 ,   大塚聖視 ,   鈴木信冶

ページ範囲:P.737 - P.741

 抄録:SAPHO症候群とは骨関節病変と皮膚病変により構成される症候群で,脊椎病変の発生頻度は約30%程度とされる.症例は53歳,女性で,頚椎・腰椎に同時に脊椎炎を認めた.さらに掌蹠膿疱症の合併と骨シンチグラムにて胸肋鎖骨部の病変が発見された.皮膚病変を伴わない例,頻度の低い骨病変など典型的所見を伴わない例では化膿性骨髄炎や悪性腫瘍との鑑別が必要で,病理組織検査や局所細菌培養を行う必要がある.脊椎炎を生じる疾患として本症候群の可能性も念頭に置く必要があると思われる.

SLAC wristに対してfour-corner fusionを施行した2例

著者: 井上林 ,   荻野利彦 ,   佐藤政悦 ,   後藤康夫 ,   鳥居伸行 ,   古川孝志

ページ範囲:P.751 - P.755

 抄録:Scapholunate advanced collapse(以下SLAC)wristに対して舟状骨切除とfour-corner fusionを施行した報告は少ない.今回,われわれは2例のSLAC wristに対して本術式を施行した.症例は51歳の男性と70歳の男性である.それぞれ右手関節痛および左手関節痛を主訴に当科を受診し,Krakauerの分類で2期および3期のSLAC wristと診断した.2例とも舟状骨切除とfour-corner fusionを併用した術式を施行し,痛みは消失して本人は満足している.舟状骨切除とfour-corner fusionを組み合わせた術式は,2期および3期のSLAC wristに対して選択し得る方法と考えられる.

剣道選手に発生した左小指中手指節(MP)関節の離断性骨軟骨炎の1例

著者: 岩田勝栄 ,   谷口泰徳 ,   石元優々 ,   北野岳史 ,   吉田宗人

ページ範囲:P.757 - P.760

 抄録:症例は14歳,男性,2年間剣道のスポーツ活動を行っていた.主訴は左小指の疼痛と屈曲制限であった.2002年6月,外傷なく,左小指中手指節(MP)関節の疼痛と屈曲制限が出現し,2002年12月3日,症状の改善がないため,当科を受診した.左小指MP関節には軽度の腫脹,圧痛があり,関節可動域は伸展0°,屈曲30°で,運動時痛が認められた.単純X線像は,基節骨基部に軟骨下骨の硬化像と陥凹を示し,断層写真では遊離した軟骨下骨が関節内にみられた.離断性骨軟骨炎と診断し,2002年12月19日に遊離体摘出術を行った.術後5カ月の関節可動域は自動で伸展0°,屈曲50°,他動で伸展60°,屈曲85°で,疼痛は認めなかった.手指における離断性骨軟骨炎は稀で,われわれの渉猟し得た範囲では,手指MP関節の基節骨側に発生した報告はなかった.本症の発生機序は,竹刀を振るという動作により,外力が左小指MP関節に反復性に働いたためと考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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