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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科39巻6号

2004年06月発行

雑誌目次

視座

日医会長選に想う

著者: 角南義文

ページ範囲:P.771 - P.772

 4期8年間に及ぶ職を全うされた日本医師会(以下,日医)・坪井栄孝会長の後任として,4月1日,植松治雄氏が第16代会長として選出された.16万日医会員の会長としての期待は大きい.
 この度の選挙には4氏が立候補を表明され,各々精力的に選挙運動をなさったと思う.しかしながら,昨年夏から秋,秋から年末にかけては,2年ごとの診療報酬改定の交渉のための重要な時期である.国民の健康のため,日医会員の医業経営安定のために大変重い時期である.このような時に日医として会長選のためにエネルギーと時間を費やしてもよいのだろうかという批判が識者の間にあったという.2回続けて診療報酬がマイナス改定であるのに,また次期診療報酬の具体的な提示がない時期から,会長立候補への基本姿勢を会員に不明瞭なまま,選挙運動に熱中してもよいものだろうか,という批判が日医会員の中にあってもおかしくない.

論述

変形性股関節症に対する筋解離術の長期成績―初期・進行期例と末期例の比較検討

著者: 大谷卓也 ,   林靖人 ,   斉藤充 ,   加藤章嘉 ,   上野豊 ,   藤井克之

ページ範囲:P.775 - P.780

 抄録:変形性股関節症に対する筋解離術後平均20年の成績を,手術時病期が初期・進行期の23関節と末期の54関節で比較検討した.術後早期の除痛効果と調査時の股関節機能には両群に明らかな差を認めなかった.THAへの移行を終点とした生存率は末期群でより高い傾向を認め,X線成績では,末期群の多くの症例で関節リモデリングによる適合性の改善を認めた.変形性股関節症に対する筋解離術は,疼痛軽減とTHA回避を目的にいずれの病期にも適応しうるが,その長期経過におけるTHA回避率とX線成績は末期症例でよりよい成績が期待できる.

腰椎変性疾患患者におけるSF-36を用いたQOLの評価

著者: 田村睦弘 ,   松本守雄 ,   中村雅也 ,   千葉一裕 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.781 - P.784

 抄録:SF-36を使用して腰椎変性疾患患者のQOLを定量的に評価し,JOAスコアとの関連について検討した.対象は腰椎疾患患者72例で,疾患は腰椎椎間板ヘルニア31例,腰部脊柱管狭窄症41例であった.以上の症例につき腰椎変性疾患患者のSF-36スコアと国民標準値との比較,SF-36スコアとJOAスコアとの相関関係について検討した.腰椎変性疾患患者のSF-36スコアはすべてのサブスケールで国民標準値を下回っていた.身体機能や精神機能の障害による役割制限の項目はJOAスコアと相関せず,かつ国民標準値を大きく下回っており,この項目でのQOLの低下はJOAスコアには反映されないことが示された.

頚椎片開き式脊柱管拡大術の手術成績―術後成績を左右する因子

著者: 黒石昌芳 ,   鷲見正敏

ページ範囲:P.785 - P.790

 抄録:頚髄症に対する頚椎片開き式脊柱管拡大術(以下,LP)の術後成績と,成績を左右する因子について調査した.対象は当院でLPを施行し,術後1年以上を経過して直接検診が可能であった213例である.各症例について術前,調査時の日整会点数を調査し,成績に影響を与える因子について検討した.日整会点数は術前9.2点が調査時13.4点に改善し,改善率は54.8%であった.成績に影響を与える術前因子は,年齢・術前下肢運動機能・頚椎前方固定術術後症例であった.術後因子は頚椎後弯変形の有無であった.日整会点数の各項日別改善率では下肢運動機能の改善率が低かったため,軽症例であっても下肢運動機能障害があれば手術治療を考慮すべきである.そして,頚椎前方固定術術後における脊髄症の再悪化を防止し,LPによる再手術施行を避けるべきである.また,術後の頚椎後弯変形を予防するために後方要素の温存や再建について留意するべきである.

関節鏡視下手術―最近の進歩

広範囲鏡視による手関節痛の病態把握―橈骨-手根関節に対する掌背側鏡視+手根中央関節,遠位橈尺関節に対する背側鏡視

著者: 安部幸雄 ,   津江和成 ,   勝部浩介 ,   長井英 ,   三好智之 ,   土井一輝 ,   服部泰典 ,   池田慶裕

ページ範囲:P.791 - P.796

 抄録:手関節鏡は1980年代後半よりめざましい進歩をとげ,現在では手関節痛の診断,治療においてgold standardな手技とまでいわれるようになった.従来そのアプローチは背側からの橈骨手根関節の鏡視が主体であったが,われわれは掌側鏡視,手根中央関節および遠位橈尺関節への背側鏡視を行い,広く手関節内を鏡視し手関節痛の病態把握に努めてきた.これにより,特に慢性手関節痛を主体として様々な病態が把握できた.注意すべき点は症状と関連しない鏡視上の異常所見,いわゆる偽陽性所見であり,繊細かつ詳細な理学所見の採取と鏡視所見との対比の重要性を強調した.

運動器の細胞/知っておきたい

骨膜の細胞

著者: 山崎正志

ページ範囲:P.798 - P.800

■はじめに

 骨膜は骨から周囲組織への単なる移行組織ではなく,骨の発生,成長,再生に重要な役割を果たしている.また,近年,組織工学,再生工学の観点から臨床的にも注目されている組織である.本稿では,骨膜を構成している細胞の機能について,最近の分子生物学的解析から得た知見をもとに論述したい.

整形外科/知ってるつもり

スポーツ選手の腰椎分離症の手術

著者: 野澤聡 ,   清水克時

ページ範囲:P.802 - P.804

 保存的治療が奏効しないスポーツ選手の腰椎分離症の場合,手術的治療が考慮されるが,その術式については様々な方法が報告されている.本稿では,スポーツ選手の腰椎分離症の分離部修復術に関する知見に的を絞り,詳しい疫学・発症機序・保存療法については割愛した.現在のところ報告されている術後成績を参考に,適応やその他のエビデンスを中心に述べる.

連載 医療の国際化 開発国からの情報発信

海外医療ボランティア活動記(6)―ルワンダ(その2)

著者: 藤塚光慶 ,   藤塚万里子

ページ範囲:P.806 - P.809

 私たちはルワンダとの国境にあるザイール(現コンゴ共和国)のブカブという町から約20km南のパンジーキャンプ(最大人口1万3000人)で,ルワンダからの難民の医療救援活動を1994年8月から12月まで行った.12月からはカタナキャンプで1年間活動を続けた(詳細はルワンダその4で記す).
 この5カ月間にパンジーキャンプでは医師,看護師,ロジスティシャン,コーディネーター,薬剤師など18人の日本人ボランティアが交代でローカルスタッフを使って診療,麻疹ワクチンを日本から運んでの予防接種,食などの配給などを行った.

医者も知りたい【医者のはなし】 9

シーボルト事件―第1回 シーボルトについて

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.810 - P.814

■はじめに
 シーボルトは19世紀の前半(1823年)に長崎にオランダ商館医として来日したドイツの医師である.江戸時代に来日したオランダ商館医は約100人近くいたが,シーボルトの来日と滞在は,別格であった.最初来日したときは,5年間いる予定であったが,いわゆる「シーボルト事件」を起こしたので,幕府の取調べのために,1年余予定より長く滞在し,1829年12月に帰国した.誰でもシーボルトの名前は知っているが,第1回はシーボルトについて述べたあとに,第2回に余り知られていない「シーボルト事件」について語ってみよう.

臨床経験

仙腸関節結核7例の治療経験

著者: 前田ゆき ,   井澤一隆 ,   鍋島隆治 ,   米延策雄

ページ範囲:P.815 - P.820

 抄録:仙腸関節結核は骨関節結核全体の中でも比較的稀な病態で,腰仙部痛診断での鑑別対象として考慮されないことが多く,診断が遅れることも少なくない.今回われわれは7例8関節の仙腸関節結核を経験し,その臨床の問題点と術後長期成績について検討した.発症から診断確定までに6カ月以上経過した症例が5症例あった.腰痛,殿部痛,下肢痛を有する患者では仙腸関節疾患を念頭におき,仙腸関節の診察をルーチンとして加えるべきである.画像診断では,単純および造影CT/MRIが有用であった.今回7関節に関節固定術を行ったが,結核の再発は認められず長期成績も安定していた.

妊娠・産褥期の仙腸関節部痛―MRIによる評価

著者: 小林良充

ページ範囲:P.821 - P.826

 抄録:1997年1月から2002年12月の6年間において妊娠中および産褥期に腰痛・骨盤部痛を訴えて当科へ受診した症例は55例で,仙腸関節部痛が19例を占め,そのうち10例に対し骨盤部MRIを施行した.仙腸関節刺激テスト陽性の仙腸関節部痛例8例中6例に仙骨疲労骨折を疑った.
 妊娠,産褥期の仙腸関節部痛例は高率に仙腸関節周辺の異常,特に仙骨疲労骨折を認め,MRIはその診断に極めて有用である.

転移性脊椎腫瘍に対するPalliative Surgeryの治療成績

著者: 笹川武史 ,   横川明男 ,   永嶋恵子 ,   尾島朋宏 ,   山門浩太郎

ページ範囲:P.827 - P.830

 抄録:転移性脊椎腫瘍に対するpalliative surgeryの術後成績を検討した.対象は1995年以降麻痺を来した35例39手術で,転移部位は頚椎6例,胸椎19例,腰椎14例であった.疼痛は全例改善し,麻痺は51%,移動能力は54%で改善した.術前Frankel B,C例や胸椎,腰椎転移例では高い改善が得られた.出血対策として術前の塞栓療法,低血圧麻酔,神経除圧に先立つinstrumentationの設置が有効であった.Palliative surgeryは疼痛,麻痺,移動能力の改善の観点から有効な方法であった.

進行期肘離断性骨軟骨炎に対する生体吸収性ピンを用いた骨軟骨片固定術

著者: 北圭介 ,   堀部秀二 ,   政田和洋 ,   安田匡孝 ,   中村憲正

ページ範囲:P.831 - P.835

 抄録:病巣が分離あるいは遊離した肘離断性骨軟骨炎例に対し,当科ではできるだけ骨軟骨片を温存するという方針のもと,母床側の十分な掻爬と欠損部への海綿骨移植を行い,骨軟骨片を吸収性のピンで固定する骨軟骨片固定術を行っている.今回その短期成績および問題点について検討した.症例は7例で全例男性,手術時平均年齢は15歳,術後経過観察期間は12カ月,スポーツは全例野球であった.7例全例で骨癒合が得られ1例を除き野球に復帰した.可動域では1例を除き改善を認め,疼痛では1例で軽い投球後痛を認めたが他の例では全く認めなかった.今回われわれは骨軟骨片の固定力を向上させるため径1.5mm,長さ15mmの細く短いPLLAピンを特別に作成し複数本で固定した.骨軟骨片と母床との癒合は全例で得られた.本術式は,摘出術や自家骨軟骨移植術の前に行うべき治療法と考える.

踵骨関節内骨折に対する観血的治療法の検討

著者: 中島一馬 ,   佐野圭二 ,   伊藤康二 ,   勝田真史 ,   今給黎篤弘 ,   市丸勝二 ,   永井秀三

ページ範囲:P.837 - P.843

 抄録:われわれは踵骨関節内骨折に対する観血的治療法の治療成績と適応を検討した.術式はWesthues変法に準じ経皮的に関節面の整復後,距骨下関節面に約3cmの小切開を加え,骨欠損部に対して人工骨を充填し,主にK-wireにて固定する小切開法と外側拡大L字型皮切で展開し主にプレート固定する観血的整復固定法である.術後臨床評価はgood以上が84%と良好な成績であった.また,術後後距踵関節面のstep offと臨床評価との相関性を認めた.小切開法施行例は全例excellentであり,高齢者,内反,関節面の陥凹の強くない症例に対しては,本法による低侵襲手術に努めるべきである.

症例報告

化膿性腸腰筋炎の2例

著者: 堀芳郎 ,   三枝康宏 ,   冨岡正雄 ,   寺島康浩 ,   香山幸造 ,   阿部修治 ,   中川夏子 ,   木村浩

ページ範囲:P.845 - P.849

 抄録:近年比較的稀な疾患となってきている化膿性腸腰筋炎の2例を経験した.これらの症例ではこの疾患に特徴的な腸腰筋肢位は呈しておらず,診断にはCT・MRIなどの画像所見が有用であった.症例1は発熱を,症例2は発熱に加え鼡径部痛を主訴としていた.2症例ともいわゆる腸腰筋肢位は呈していなかった.血液検査では炎症反応の亢進を認めた.画像所見では症例1ではCTにて腸腰筋の腫大と筋内部の膿瘍形成を,症例2ではCTとMRIにて腸腰筋の腫大を認め,化膿性腸腰筋炎と診断した.症例1は観血的治療を,症例2は保存的治療を行い良好な結果を得た.

骨粗鬆症性胸腰椎椎体骨折後の不安定性に起因した遅発性脊髄障害の2例

著者: 安宅洋美 ,   丹野隆明 ,   根本哲治 ,   中田好則

ページ範囲:P.851 - P.856

 抄録:骨粗鬆症性胸腰椎椎体骨折偽関節後の不安定性に起因した遅発性神経障害の2例を経験した.
 症例1は79歳,男性,遅発性脊髄障害を伴うL1椎体偽関節で,前後屈異常可動性があり,MRIで同部に脊髄の腫脹が認められた.保存治療を施行し,1年11カ月後に骨癒合と脊柱の安定化が確認され,脊髄の腫脹も消退し,神経症状にも改善がみられた.症例2は82歳,女性,T12椎体骨折後偽関節で,保存的治療を7カ月施行したが,遅発性脊髄障害が進行した.画像上骨片による脊髄圧迫は軽度であったが,骨折部の不安定性を認めたため,除圧せずにT7-L3後方固定術を行った.術後1年7カ月の現在,骨折部は癒合し,神経症状およびADLは著しく改善している.以上より,本症の病態には動的因子が主因となっていることがあり,除圧をしない後方固定術単独,保存治療によっても神経学的改善が得られる可能性が示唆され,今後選択すべき治療の1つと考えられた.

脊柱側弯症で発見され3歳で手術を行ったChiari Ⅰ型奇形の1例

著者: 篠崎義雄 ,   鎌田修博 ,   田中公一朗 ,   西本和正 ,   千葉和宏 ,   木内準之助

ページ範囲:P.857 - P.860

 抄録:われわれは脊柱側弯を呈し,MRI上脊髄空洞症を伴うChiari Ⅰ型奇形を認め手術を行った小児の1例を経験した.症例は3歳,女児.保健所の3歳時検診で側弯を指摘され,2000年10月,当院を受診した.頚部違和感があり,単純X線上Th8-L3右凸,Cobb角21°の側弯を認めた.2001年2月にはCobb角27°と側弯は進行し,腹壁反射が右側で消失していたためMRIを施行,両側小脳扁桃の下垂とC4-Th11の脊髄空洞症を認めた.同年5月に大後頭孔減圧,C1椎弓切除術を施行し,以後外来で側弯装具を着用し経過を見ている.現在側弯はCobb角13°と改善,MRI上も脊髄空洞の若干の縮小を認め,経過は良好である.われわれは側弯を伴った小児脊髄空洞症に対する手術について,Cobb角40°未満を可逆的な時期と判断し,この時期に脊髄空洞症に対する手術を行うべきと考えている.

THAのステム下骨折後MRSA骨髄炎を併発して治療に難渋した1例

著者: 永野昭仁 ,   堀裕彦 ,   小倉広康 ,   武内章彦 ,   金森康夫 ,   葛西千秋

ページ範囲:P.861 - P.863

 抄録:人工股関節ステム下骨折術後遅発性MRSA骨髄炎を来した87歳の女性に対し,治療に難渋したものの最終的に大腿骨全置換術を行い,患肢温存が可能であったので報告する.病巣郭清を複数回にわたり行ったため,bone stockが極端に不足した状況を余儀なくされ,早期離床のためには股関節離断も考慮されたが,患肢温存に対する強い希望があり,大腿骨全置換術という術式を選択した.幸い,術後経過は良好で,患者の満足度も高い.人工関節術後感染は感染の鎮静化に苦慮するばかりでなく,関節機能温存も同時に考慮しなければならないため,治療に難渋する.その治療法は人工関節の再置換術が一般的であるが,自験例のように骨髄炎の鎮静化が遷延する症例には大腿骨全置換術という相対的治療適応が存在すると考えられた.しかし,感染の再燃を念頭においた長期間の経過観察は極めて重要である.

皮膚サルコイドーシスを合併した髄内浮腫を伴う頚髄症の1例

著者: 世沢薫 ,   森田正次 ,   宮本敬 ,   川口敦司 ,   児玉博隆 ,   細江英夫 ,   飯沼宣樹 ,   清水克時

ページ範囲:P.865 - P.869

 抄録:症例は64歳,女性.巧緻運動障害,歩行障害を主訴に来院.左眼内側発赤部皮膚生検によりサルコイドーシスと確定診断されていた.MRI,CTMにてC 3-5での硬膜管の著明な圧排,同部の脊髄内信号変化を認めた.脊髄サルコイドーシスを疑いステロイド投与するも効果なく頚椎椎弓形成術を施行し症状の軽快を認めた.本症例は,皮膚サルコイドーシスに髄内浮腫を伴う頚髄症を併発した興味深い症例であると思われ報告した.

両側アキレス腱同時皮下断裂1例の治療経験

著者: 松吉雄大 ,   森本茂

ページ範囲:P.871 - P.874

 抄録:両側のアキレス腱が同時に断裂することは稀であり,本邦での報告も22例を数えるにすぎない.今回われわれは全力疾走中,ほぼ同時に両側のアキレス腱を断裂した症例を治療する機会を得たので報告する.症例は65歳の男性,刃物を持って向かってきた不審者から全力で走って逃げていた際に受傷した.両アキレス腱部に陥凹を認め,Thompson兆候は陽性であった.両側同時断裂と診断し,本症例に対し早期の社会復帰を目的に手術療法を選択した.手術は内側縦切開で進入し,2号ファイバーワイヤー(Arthrex社製)を用いてPennington法にて腱縫合を行った.この縫合糸は従来のポリエステル糸の約2倍の強度と耐磨耗性を持つとされ,術後の早期運動療法に有用と考えた.術後3週で下腿ギプスを除去,足関節の可動域訓練を開始し,4週で平行棒内での歩行訓練を行った.5週でTステッキ歩行が可能となり良好な経過を得た.

烏口突起骨折を合併した鎖骨重複骨折の1例

著者: 三笠貴彦 ,   小川清久 ,   今林英明 ,   池上博泰 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.875 - P.878

 抄録:烏口突起骨折と鎖骨近位および遠位端の重複骨折が合併した1例を経験した.症例は28歳,男性,スノーボードで転倒し左肩部の自発痛が出現した.X線像では鎖骨に近位端と遠位端の重複骨折と,烏口突起骨折を認めた.鎖骨近位端と烏口突起骨折を観血的に整復固定し,障害を遺残せず治癒した.受傷機転は,肩関節外側からの外力により鎖骨外側端骨折が生じ,烏口鎖骨靱帯を介して烏口突起骨折をきたしたと考えられた.近位端骨折は,上方の第3骨片の存在から鎖骨の過剰な挙上運動とこれを抑制する肋鎖靱帯により引き起こされたと推測した.

水頭症を合併した頚髄神経鞘腫の1例

著者: 鈴木太郎 ,   村田英之 ,   高橋正哲 ,   山梨晃裕 ,   長野昭

ページ範囲:P.879 - P.882

 抄録:頚髄腫瘍が水頭症の原因であった症例を経験した.症例は81歳,男性.頚部痛で発症し,MRIでC2-3高位に腫瘍性病変を認めた.初診後2週頃より歩行障害,尿失禁,痴呆症状が出現し,急速に進行した.頭部CTにて脳室拡大を認めたため,脊髄腫瘍に合併した水頭症と診断し,腫瘍摘出術を行った.腫瘍の病理学的所見は神経鞘腫であった.術中採取した髄液の蛋白量は286mg/dlであった.術後早期より水頭症の症状は改善し,術後3週の頭部CTでは術前に比べ脳室の縮小がみられた.脊髄腫瘍に合併して水頭症が発症することは脳神経外科や神経内科領域ではよく知られているが,整形外科における認識度は低い.脊髄腫瘍の経過観察中に,本症に特有の痴呆症状や歩行障害が出現した場合,早急に水頭症の検索を行う必要がある.また,水頭症を合併する脊髄腫瘍は,胸腰椎移行部以下での発生が多数を占め,頚髄神経鞘腫の報告は本例を含め6例のみである.

幼児化膿性椎間板炎の1例

著者: 朝日盛也 ,   西山誠 ,   高瀬勝己 ,   田中恵 ,   駒形正志 ,   今給黎篤弘

ページ範囲:P.883 - P.887

 抄録:症例は2歳5カ月,女児.主訴は腰痛で立位・歩行困難.入院時の検査はWBC 10,100/μl,CRP 0.9mg/dl,ESR 62mm/hr,単純X線でL4/5椎間腔の狭小化を認め,MRI T2像で椎間板は,高・低輝度の混合像を呈し椎体終板に一部高輝度を認めた.保存的治療にて症状は軽快し,現在脊柱の変形もなく,MRIにて椎体の輝度変化は正常化傾向を示し経過は良好である.小児化膿性椎間板炎は,症状が多彩で特徴的な検査所見に乏しく早期診断が困難な場合も多い.小児の腰痛・歩行障害を診察する際には,本疾患を念頭におく必要があると考えられた.

Struthers' arcadeにおける尺骨神経麻痺の症例

著者: 平野圭司 ,   伊藤恵康 ,   鵜飼康二 ,   奥山訓子 ,   綾部敬生 ,   岡田弘之 ,   内倉長造 ,   里見和彦

ページ範囲:P.889 - P.892

 抄録:Struthers' arcadeによる尺骨神経麻痺の症例を経験した.症例は28歳,女性.初診時右尺骨神経支配領域に2/10の知覚鈍麻と筋力低下を認め,右上腕内側中央1/3の部位にTinel様徴候を認めた.単純X線像上異常はなく,筋電図で異常を認めた.Struthers' arcadeでの神経障害と考え手術を施行した.術後2点識別覚,筋萎縮は改善した.高位不明の尺骨神経麻痺にはStruthers' arcadeでの障害も念頭におき,同部位での近位,遠位で神経伝導速度を比較する必要があると思われた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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