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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科39巻7号

2004年07月発行

雑誌目次

視座

整形外科医の知らないところで

著者: 浜西千秋

ページ範囲:P.903 - P.905

 柔道整復師を父,祖父,叔父,そして親戚に持つ整形外科医は現職教授にも各大学医局のスタッフにもたくさんおられる.かなりの柔道整復師が,その収入を自分の息子や親族を,医師に,なかんずく整形外科医にするべく投資してきた歴史がある.これは日陰の存在に甘んじてきた親たちが,息子だけは医療という日向に出してやりたいという切なる思いがあったからであろう.1998年には14校であった柔道整復養成学校が2004年4月に68校になるが,その理事・校長・教師たちはもとより,その国家試験を管轄する柔道整復研修試験財団や,昨年日本学術会議のメンバーとなった柔道整復接骨医学会の指導者には高名な整形外科医・教授たちが名前を連ねておられる.各地・各種の柔道整復師の研修会の常連講師として招かれる有名な整形外科医も多い.

 私はここ数年,柔道整復業界を医療と無関係な『医療類似行為者』とみなし,診断のない施療を行う接骨院の存在が国民の健康被害につながり,危険であると主張し,臨床整形外科医会(JCOA)とともに政治運動や行政運動や,マスコミへのキャンペーンによって,不正の温床となっている受領委任払いの特例を撤廃させることにより,業界の自然消滅を図る制度闘争を最重要課題としてきた.しかし,そうこうするうちに柔道整復学校の歯止めのない激増は,毎年4,000~6,000人もの有資格者を生み出すこととなり,業界はますます肥大化し,接骨・整骨院の過当競争がこれからさらに野放図に突き進むことにより,国民の健康は今以上に損なわれようとしている.

論述

悪性骨腫瘍関節外切除後の腫瘍用人工膝関節と腓腹筋弁による膝関節再建

著者: 小山内俊久 ,   土屋登嗣 ,   荻野利彦 ,   石川朗 ,   大類広

ページ範囲:P.907 - P.912

 抄録:膝周辺悪性骨腫瘍4例を膝蓋骨半割により関節外切除し,腫瘍用人工膝関節・膝蓋骨表面置換,腓腹筋弁により再建した.発生部位は大腿骨遠位部3例,けい骨近位部1例である.術後合併症は腓骨神経麻痺2例,けい骨神経麻痺1例,膝蓋腱断裂1例,下腿皮膚壊死1例であった.膝関節屈曲角度は70~105°,自動伸展不全は0~90°であった.術後患肢機能はMusculoskeletal Tumor Societyの評価法で50~86%であった.腓腹筋弁は膝関節外切除後の人工関節の被覆および膝伸展機構再建に有用であると思われた.

大腿骨頚部内側骨折に対するHansson pinを用いた観血的骨接合術の治療成績―Cannulated cancellous hip screwとの比較検討

著者: 森律明 ,   冨田文久 ,   羽場等 ,   田崎悌史 ,   白岩康孝 ,   多胡秀信

ページ範囲:P.913 - P.919

 抄録:31例32股の大腿骨頚部内側骨折に対して,Hansson pinを用いて骨接合術を行った15例16股(H群)とcannulated cancellous hip screwを用いて骨接合術を行った16例16股(C群)の骨癒合の有無および術後合併症を調査し,術後のX線学的評価〔Garden Alignment Index(GAI),頚部短縮量〕を両群間で比較検討した.結果,合併症として術後の大腿骨転子下骨折をH群の1股に,大腿骨頭壊死の発生をH群の1股,C群の2股に認めたが,その他の症例は全例で骨癒合が得られた.骨癒合を得た症例のGAIと頚部短縮量に関しては両群間に有意差を認めなかった.本研究により大腿骨頚部内側骨折に対するHansson pinはこれまで安定した治療成績が報告されているcannulated cancellous hip screwと同等の治療成績が得られ,さらにその大腿骨頭に対する低侵襲の点から,今後も本骨折に対して使用可能な内固定材料であると考えられた.

末期股関節症に対する筋解離術後のX線学的長期経過―自然経過例との比較検討

著者: 大谷卓也 ,   林靖人 ,   上野豊 ,   林大 ,   加藤努 ,   為貝秀明 ,   藤井克之

ページ範囲:P.921 - P.926

 抄録:末期変形性股関節症に対する筋解離術のX線学的な効果を検討するため,本法を施行した30関節と,末期股関節症の自然経過18関節の10年以上のX線経過を比較検討した.その結果,全症例を通じ,骨頭の亜脱臼傾向が強いものほど関節の骨増殖性変化が旺盛であるという有意な相関関係が認められた.筋解離群では自然経過群と比較して骨頭の側方亜脱臼が有意に抑制されており,また,骨増殖性変化は緩徐に進行する傾向を認めた.X線学的にみた筋解離術の効果は,骨頭の求心性を改善して亜脱臼傾向を抑制し,関節に緩徐で安定したリモデリングをもたらすことと考えた.

手術手技/私のくふう

上位胸椎疾患に対する前方除圧固定術―経胸鎖関節進入法を用いて

著者: 田村睦弘 ,   斉藤正史 ,   高倉基 ,   河野仁 ,   須田義朗 ,   塩田匡宣 ,   町田正文 ,   柴崎啓一

ページ範囲:P.927 - P.932

 抄録:上位胸椎部の胸髄症において経胸鎖関節進入による胸椎前方固定術を施行し良好な臨床成績を得た.疾患は胸椎カリエス3例,胸椎症性脊髄症1例であり,全例に両下肢の不全麻痺,知覚障害を認めた.手術は下位頚椎前方進入の皮切を延長し,鎖骨中枢端と胸骨柄の一部を一塊として摘出して病巣部の除圧操作を行い,摘出した鎖骨胸骨複合体を移植骨として使用し椎体間固定を行った.全例に骨癒合が得られ臨床症状も改善した.術後,本進入法による前胸部や鎖骨部の疼痛,右肩関節の可動域制限を認めていない.上位胸椎はその解剖学的構造から前方進入が困難な部位であり種々の進入法が検討されている.今回行った進入法は比較的小さい骨切除で良好な術野が得られ,展開時に切除した胸骨鎖骨複合体をそのまま移植骨として使用できるため有用であると考えられた.

器械

橈骨遠位端骨折に対する新開発掌側用ロッキングプレートによる治療

著者: 長田伝重 ,   藤田聡志 ,   益崎浩一郎 ,   岩本玲 ,   加藤仲幸 ,   矢野雄一郎 ,   玉井和哉 ,   早乙女紘一

ページ範囲:P.933 - P.938

 抄録:Colles型骨折に対応する新しい掌側プレートを開発し,臨床に使用したので短期成績を報告する.DRV locking plateはチタン製で,十分な強度がある.プレート遠位部はロッキング機構の穴が6個あり,2mm locking pin,2.7mm locking screw,2.7mm screwの3種類が使用できる.術後の外固定は不要である.対象症例は術後2カ月以上経過した10例,男性2例,女性8例,平均年齢55歳であった.結果:術後平均3.2カ月で斎藤評価は優8例,良2例であり,関節可動域は術後早期に回復していた.

関節鏡視下手術―最近の進歩

関節鏡を応用したガングリオン手術について

著者: 西川真史 ,   藤哲 ,   工藤悟 ,   小川太郎

ページ範囲:P.941 - P.946

 抄録:小関節鏡を応用して小侵襲手術でガングリオンの治療を試みているので,その成績を報告する.対象ガングリオンは手関節60例,足関節2例,第1 MTP関節1例,手背2例,手掌1例である.手関節ガングリオンの手術成績は全摘出術より良好な成績であった.手背,足関節および第1 MTP関節も良好な経過であった.手掌屈筋腱周囲のガングリオン例も経過が短いが経過良好で,さらに経過観察が必要である.この方法は関節由来ガングリオンだけでなく,腱鞘ガングリオンにも有用で,手術瘢痕が小さく,今後さらに発展する可能性がある.

国際学会印象記

「第67回ACR(米国リウマチ学会)」に参加して

著者: 増田公男

ページ範囲:P.948 - P.949

 2003年10月23日から28日まで,米国のフロリダ州オーランドにて開催された第67回ACR(American College of Rheumatology)につき,日本から参加した整形外科医の1人として,誌面をお借りして学会の模様を紹介いたします.
 ACRは「アメリカ」と名乗ってはいますが,実質上は現在のリウマチ学をリードする治療法,研究を発表・討論あるいは勉強するために様々な国から人々が集まってくる,リウマチ学の分野ではもっとも重要な学会の1つです.と今でこそいえますが,私自身2000年にスイスに留学し同学会のinternational memberになるまで,実は1度も参加したことがありませんでした.以来4度目となる今回は同じ整形外科医の妻と2歳の子供とともに,学会前日の10月22日,肌寒い日本から20時間近くかけて30度近い日が続くフロリダの太陽の下にやってきました.

連載 医療の国際化 開発国からの情報発信

海外医療ボランティア活動記(7)―ルワンダ(その3)

著者: 藤塚光慶 ,   藤塚万里子

ページ範囲:P.950 - P.952

(6号よりつづく)
ボランティアのフランス人が毒殺された
 ある日のUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の催す会合で「NGOのボランティアが殺された.すべてのNGOはブカブから退去せよ」と言い渡された.「フランス人が毒殺されたらしい」との噂だった.私からみると,フランス人や元植民地宗主国の人たちは黒人を見下すようなところがある.私たちはホテルのレストランでザイール人のクリスパンと一緒に夕食をとることがあったが,彼らは決して黒人と食事をともにしない.医師が出す薬も錠剤だけで,子供にも飲みやすい水薬,シロップなどは「黒人にはそのようなものがあることは知らせない」というやり方だ.救援に来ていてもどうしても白人が黒人をつかっているという態度が出てしまう.だから,多分,個人的な恨みから殺されたのだろう.MSF(国境なき医師団)のフランスチームも若い人が大勢来ていたが,地元民は彼らのことを「ただ,ブーブーと町中を行ったり来たり車を走らせているだけだ」と言っていた.日本はアフリカでは歴史的,政治的に中立なので大丈夫と思っていたが,ヨーロッパ系の元宗主国の人々にとってはかなり危険な緊迫した状況であったらしい.

整形外科と蘭學・9

各務木骨と整骨医

著者: 川嶌眞人

ページ範囲:P.954 - P.956

 星野木骨の実証的な研究成果は,先に述べたように小石元俊など関西を代表する医師たちからも大いに賞賛され,蘭学を通じて自然科学的な視野が育まれつつあった大阪の医師たちに衝撃的な刺激を与えた.蒲原宏氏によればその中で星野良悦の実証的な整骨術研究の思想は大坂の整骨医である各務文献(かがみぶんけん)に継承されたという.
 各務文献(1755-1819,図1,2)は,通称相二,字を子徴,号を帰一堂と称した.代々赤尾藩浅野藩の家臣であったが,主家の断絶後は大坂の横堀に住んだ.文献は宝暦5年(1755)大坂に生まれ,初め古医方を学び,産科,外科を修めた.産科においては八種の救産具を考案するなど,生来の凝り性と器用ぶりを発揮した.しかし文献は古医方にも産科にもの足らず,整骨術においても,今までもあまり研究されておらず,中国の空論を信じた人たちが経験だけに頼って施術している現状を考えた.この分野こそもっともやりがいのある分野と考え,骨関節機構の研究開発を行うことこそ自分の使命と考えた.

臨床経験

Halder humeral nailing systemを用いた上腕骨近位端骨折の治療経験

著者: 吉川智朗 ,   加藤純一郎 ,   竹原愼介 ,   園田潤

ページ範囲:P.957 - P.960

 抄録:大きな転位を伴う上腕骨近位端骨折は保存的治療に難渋するため,手術療法を行うことが多い.本骨折の骨接合術に関して留意すべき点は上腕骨頭への血流や腋窩神経を障害しないことなどであるが,Halder humeral nailing systemはこれらを満たすインプラントである.今回この新しいシステムを用い,本骨折5例を骨接合した.術後の日本整形外科学会(JOA)肩関節機能評価は平均79.4点,JOA肘関節機能評価は平均83点であった.仮骨の早期出現により,早期リハビリテーション開始が可能であった.髄内釘刺入部である肘関節への影響は少なかった.

長距離走者にみられた仙骨疲労骨折の3例

著者: 小林良充

ページ範囲:P.961 - P.965

 抄録:長距離走者に発生した仙骨疲労骨折3例を報告する.全例実業団の選手で,20歳男性と21歳女性は2カ月の運動制限でランニングを再開させた.他の21歳女性は無月経と骨塩量の低下がみられ,ランニング再開まで5カ月を要した.仙腸関節部痛を訴えた長距離走者の全例に仙骨疲労骨折を見出すことができたことから,長距離走者の仙腸関節部痛はまず仙骨疲労骨折を疑う必要がある.その診断にはMRIが有用であった.

Knotless suture anchorを用いた関節鏡視下Bankart修復術の手術成績

著者: 佐藤英樹 ,   石橋恭之 ,   津田英一 ,   三浦和知 ,   藤哲

ページ範囲:P.967 - P.972

 抄録:われわれは2000年1月から,Mitek knotless suture anchorを用いて,鏡視下Bankart修復術を行っている.今回の目的は,術後1年以上経過観察が可能であった29例について報告することである.外傷性反復性肩関節脱臼29例(男性24例,女性5例)に対し本法を施行した.平均年齢は23.6歳(13~47歳)であった.全例apprehension test陽性,relocation test陽性で,Arthro-MRIでBankart lesionを認めた.術後1年経過の時点で,再脱臼は2例であった.術後Roweスコアは平均92.6点であった.外転外旋制限は患健側差で4°であった.本法の利点は縫合が不要なこと,しっかりと固定ができること,関節包のadvancementが容易であるなど単純な方法であることである.

骨粗鬆症性椎体圧潰に対する椎体形成と後方脊柱再建の併用―手術適応と短期成績

著者: 織田格 ,   藤谷正紀 ,   小熊忠教 ,   長谷川匡一 ,   原田雅仁 ,   松野誠夫

ページ範囲:P.973 - P.978

 抄録:前方手術単独で対処困難と判断した骨粗鬆症性椎体圧潰10例に,椎体形成術と後側方固定術を併用した.固定は原則として上下2椎以内としたが,多椎圧潰例や脊椎固定術の既往例ではより長い固定を要した.圧潰椎体にリン酸カルシウム骨ペーストを用いて椎体形成を行った.全例で臨床成績は良好であり,画像上も脊柱安定性が獲得・保持された.手術侵襲は前後合併手術や後方短縮術に比し小さかった.本法は骨粗鬆症性椎体圧潰に対する手術治療の1つとして有用であるが,特に前方手術が困難な例に対し極めて有用である.

症例報告

筋強直性ジストロフィー,神経線維腫症1型およびNoonan症候群の合併例に発生した側弯症の治療経験

著者: 藤吉兼浩 ,   松本守雄 ,   中村雅也 ,   千葉一裕 ,   戸山芳昭 ,   小崎健次郎

ページ範囲:P.979 - P.982

 抄録:筋強直性ジストロフィーに神経線維腫症1型(neurofibromatosis 1,以下NF-1)およびNoonan症候群を合併し,側弯症を呈した極めて稀な1例を経験した.患者は15歳,女性で,2歳時にNF-1,6歳時に筋強直性ジストロフィーと診断されており,今回特徴的な顔貌などからNoonan症候群と診断された.12歳時に右凸35°の側弯を認め装具療法を開始したが,側弯が60°に進行したため,15歳時に当科にて後方矯正固定術を行った.術後側弯は18°に矯正され,その後も良好な矯正が維持されている.本例はNF-1およびNoonan症候群の両者の特徴を備えていたことから,1985年にAllansonらにより報告されたneurofibromatosis-Noonan syndromeに相当すると考えられ,さらに筋強直性ジストロフィーも合併した極めて稀な症候性側弯症例である.

潜在性二分脊椎に発生した成人発症型tethered cord syndromeの1例

著者: 角島元隆 ,   西本博文 ,   野々村秀彦 ,   神谷宣広 ,   細江英夫 ,   清水克時

ページ範囲:P.983 - P.986

 抄録:症例は54歳,女性,誘因なく両下肢麻痺を来した.腰仙部に軽度の膨隆と画像にて二分脊椎が認められた.右下肢の完全麻痺,膀胱直腸障害,前屈位で下肢放散痛の増強があり,潜在性二分脊椎に伴うspinal lipomaによる脊髄・馬尾係留症状であると診断した.Tethered cord syndromeに対して,係留解除を目的にlipomaの可及的摘出と馬尾の癒着剝離,脊髄終糸の切離を施行し,術後麻痺の改善が得られた.二分脊椎に合併した脊髄病変の診断と術後良好な結果を得たので,若干の文献的考察を加え報告する.

変形性膝関節症を合併した両膝樹枝状脂肪腫の1例

著者: 大井剛太 ,   菊地臣一 ,   矢吹省司 ,   長総義弘 ,   大歳憲一

ページ範囲:P.987 - P.990

 抄録:変形性膝関節症(以下,膝OA)を合併した両膝樹枝状脂肪腫の1例を経験したので報告する.症例は73歳の男性である.20年前より,誘因なく両膝の腫脹と軽度の痛みが出現し,15年前より,膝OAの診断で保存的に加療されていた.徐々に痛みが増強したため,人工膝関節全置換術を施行した.同時に滑膜切除を施行した.病理診断は樹枝状脂肪腫であった.本症は,長期罹患により,2次性のOAを惹起する可能性が指摘されている.本症は,臨床症状とMRI所見に特徴があり,早期に診断して切除することが望ましい.

70年来の麻痺性尖足に対し,subtotal talectomy(距骨体部切除術)による矯正を行った1例

著者: 岩田崇裕 ,   糸数万正 ,   福田雅 ,   中村正生 ,   伊藤芳毅 ,   清水克時

ページ範囲:P.991 - P.995

 抄録:70年来の脊髄性小児麻痺による単下肢麻痺による尖足変形に対して距骨体部切除術(subtotal talectomy)を施行し良好な結果を得たので報告する.距骨体部切除術は,関節固定を目的とせず,単に距骨体部を切除するという極めて容易な方法であり,内反尖足変形はこの手術による矯正力が大きく,多くの場合アキレス腱の延長は不要で再発はない.予後では,距腿関節を失いけい骨と踵骨がつくる関節は内外反の制御されたヒンジ運動となるが,距骨頭部を残すことにより,痙性,麻痺性を問わず疼痛のない安定した足関節を得ることができる.そして,この手術の長所は早期歩行が可能なことである.

第4頚椎に発生した好酸球性肉芽腫の1例

著者: 三浦智彦 ,   村田英之 ,   長野昭

ページ範囲:P.997 - P.1000

 抄録:好酸球性肉芽腫(eosinophilic granuloma)は幼・小児に発生することが多い比較的稀な疾患であり,発生部位では大腿骨,鎖骨,上腕骨,脊椎,骨盤などに好発する.今回われわれは成人の頚椎に発生した好酸球性肉芽腫の1例を経験した.症例は47歳,女性.慢性進行性の頚部痛を主訴に来院し,頚椎X線にて第4頚椎椎体に骨融解性の変化をみた.Open biopsyにより診断し,一期的に手術的加療を施行し良好な経過を得た.本腫瘍の成人発生は稀であり,臨床的特徴・治療法などに若干の文献的考察を加えて報告する.

足関節痛を主訴とし診断に難渋した腓骨骨幹部類骨骨腫の1例

著者: 惠美直敦 ,   大内聖士 ,   円山茂樹 ,   藤田直己 ,   興梠隆

ページ範囲:P.1001 - P.1004

 抄録:われわれは診断に難渋した腓骨骨幹部類骨骨腫の1例を経験した.症例は34歳,男性.主訴は右足関節痛.某整形外科医にて保存的治療を行っていたが,軽快しないため当科を紹介受診した.右足関節に異常所見はなかったが,骨シンチグラフィーで右腓骨骨幹部に異常集積を,また単純X線像上,同部の皮質骨の肥厚・膨隆とその中心部に骨透亮像を認めた.同部の切除術を施行し,右足関節痛は消失した.病理組織学的診断は類骨骨腫であった.術後約5年経過した現在,疼痛の再発は認めていない.本症例の診断には骨シンチグラフィーが有用であった.

サッカーで非接触性に発生した股関節脱臼骨折の2症例

著者: 角本士幸 ,   長谷川潤 ,   福島斉 ,   筋野隆 ,   黒島永嗣

ページ範囲:P.1005 - P.1008

 抄録:サッカープレー中,他人と接触することなく股関節脱臼骨折を生じた2症例を経験した.症例1:23歳,男性.ドリブル中に誤って空気の抜けかかったボールを踏みつけ足部はその場で静止して,右膝は完全伸展位となり,骨頭骨折を伴う右股関節脱臼となった.症例2:32歳,男性.足部が非常に滑りにくい状況で棒立ちの状態でいたところ,フェイントをかけた相手につられて右へ体重移動した瞬間,相手が左へ方向を変えたため,患者は右への体重移動を止めようと右足でふんばった.この時に臼蓋骨折を伴う右股関節脱臼を生じた.2例とも骨密度は正常範囲内で関節の弛緩性はなかった.類似報告との発生状況の共通点として,①足部ロック,②膝関節完全伸展,③股関節軽度屈曲,があげられ,これらの条件がそろうと容易に股関節脱臼骨折が発生しうると考えられた.

経皮的骨穿孔術が奏効した足舟状骨疲労骨折の1例

著者: 小川宗宏 ,   杉本和也 ,   岩井誠 ,   岡橋孝治郎 ,   大島学 ,   三馬正幸

ページ範囲:P.1009 - P.1011

 抄録:比較的稀な足舟状骨疲労骨折に対して,経皮的骨穿孔術が奏効した症例を経験した.症例は14歳,女性のバスケットボール部員で右足背部痛を主訴として来院した.発症から初診までの期間は約2カ月で,単純X線像では診断は困難であったが,病歴,圧痛点から舟状骨疲労骨折を疑い,CTで診断を確定した.約6週間の保存的治療によっても症状は改善しなかったため,経皮的骨穿孔術を施行し良好な結果が得られた.短期間の治療により早期にスポーツ復帰を望む若年スポーツ選手において,低侵襲である経皮的骨穿孔術は舟状骨疲労骨折においても有効な手段と思われた.患者の年齢や競技レベル,骨折型を十分考慮したうえで治療法を選択することが肝要である.

糖尿病患者における踵骨骨髄炎・踵部潰瘍に対し踵骨亜全摘術を施行した1例

著者: 李恒 ,   酒井宏哉 ,   金井宏幸 ,   佐々木哲也

ページ範囲:P.1013 - P.1016

 抄録:糖尿病患者における難治性踵骨骨髄炎に対して踵骨亜全摘術を施行し良好な成績を得ることができたので報告する.症例は64歳,男性で42歳時より糖尿病治療を受けていた.踵骨骨髄炎を発症したためデブリドマンが施行されたが,難治性で創も開放であった.その後,骨髄炎の増悪を認めたためハベカシン入りセメントビーズにて感染を鎮静化させた後に踵骨亜全摘術を施行した.術後3年経過した現在,患者はヒール付き装具を用いて歩行可能であり,感染の再燃もない.

著明な滑膜炎を合併したvalgus extension overload syndromeの1例

著者: 鶴田大作 ,   高原政利 ,   村成幸 ,   土田浩之 ,   小山内俊久 ,   荻野利彦

ページ範囲:P.1017 - P.1021

 抄録:Valgus extension overload syndromeでは,投球時の肘関節外反伸展により後方のインピンジメントが生じ,肘関節後内側に骨軟骨障害や遊離体形成がみられる.今回筆者らは,本症に合併して多数の骨軟骨片と著明な滑膜炎が存在した1例を経験した.症例は16歳,女性のソフトボール選手である.主訴は投球時の右肘関節痛であった.肘関節に腫脹がみられ,伸展-25°,屈曲125°,前腕回内70°,回外70°と制限がみられた.単純X線にて,5個の遊離体を認めた.超音波では滑車の後内側に剝離骨軟骨片を認めた.滑膜切除と剝離骨片切除を行った.病理組織では,滑膜内に多数の軟骨片や骨軟骨片が認められた.術後3カ月の時点で伸展-25°,屈曲130°,前腕回内90°,回外90°に改善,内野手レギュラーとして復帰している.本例では多数の関節内遊離体と著明な滑膜炎が合併し滑膜性軟骨腫症が強く疑われたが,本症に特徴的な軟骨のcloningがなかった.したがって滑膜性軟骨腫症は否定され,著明な滑膜炎を合併したvalgus extension overload syndromeと診断された.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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