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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科39巻9号

2004年09月発行

雑誌目次

視座

神経障害とその予後

著者: 谷俊一

ページ範囲:P.1143 - P.1144

 末梢神経のエントラップメントニューロパチーや脊椎脊髄疾患など,圧迫性神経障害は整形外科が担う重要な分野である.このような神経障害による麻痺に対しては神経除圧手術が行われるが,一般に,麻痺が重症であるほど,また麻痺の期間が長いほどその回復は悪い.このことは経験的に,あるいは多数例の臨床成績を検定した結果の一般論であって例外も多く,目の前の個々の症例がどれほど重症なら,あるいはどれほど罹病期間が長ければ麻痺の回復が悪いのかは判断できない.
 末梢神経や神経根,馬尾,脊髄白質はいずれも軸索と髄鞘(有髄線維)からなる神経線維であり,インパルスの伝播によって中枢から末梢あるいは末梢から中枢に情報を伝えるという役割を担っている.運動麻痺や感覚麻痺の原因のほとんどは,圧迫によってインパルス伝播が途中で遮断され中枢や末梢に到達できないことによる.この場合,神経線維の障害パターンは予後の悪い軸索変性と予後の良い伝導ブロックに二分され,両者はインパルスが障害部を越えて伝播されない点では共通で臨床上鑑別できないが電気生理学的には鑑別できる.したがって,麻痺の予後は軸索変性に陥っている線維の割合を電気生理学的に評価することにより診断できる.

論述

脊椎・脊髄疾患に対するリエゾン精神医学的アプローチ(第3報)―腰仙椎部退行性疾患に対する手術成績に関与する精神医学的問題の検討

著者: 佐藤勝彦 ,   菊地臣一 ,   大谷晃司 ,   増子博文 ,   丹羽真一

ページ範囲:P.1145 - P.1150

 抄録:腰仙椎部退行性疾患により手術が施行された47例を対象とし,術前から合併している精神医学的問題が治療成績に与える影響について検討した.調査時に治療成績不良と判定された症例は47例中6例(13%)であった.一方,術前からすでに精神医学的問題を合併していると診断された症例は47例中3例であった.その3例の治療成績は,1例(33%)が優で,残りの2例(67%)が不可であった.手術前の精神医学的診断は,優と判定された1例がうつ病,不可と判定された2例がともに身体表現性障害であった.不可と判定された2例は術後になっても術前と同様の症状を訴えていた.したがって,手術成績不良と判定された6例のうちの2例(33%)は,術前からの精神医学的問題が関与して治療成績が不良となったと考えられる.腰仙椎部退行性疾患に対する手術療法の治療成績不良例を減少させる対策として,術前における心理的評価を行う必要がある.

頚椎症性脊髄症に対する椎弓形成術の脊髄除圧効果についての検討

著者: 三原久範 ,   近藤総一 ,   蜂谷将史 ,   青田洋一 ,   竹口英文 ,   山田勝久

ページ範囲:P.1151 - P.1156

 抄録:頚椎症性脊髄症に対して頚椎椎弓形成術を受けた104例について,術前後の各高位における脊髄横断面積や前方くも膜下腔の変化を調査し,神経症状改善との関連を検討した.術前の脊髄横断面積が著しく小さい症例の症状改善は不良であったが,術後の脊髄面積や拡大率は臨床成績と相関しなかった.一方,脊髄前方のくも膜下腔が術後も増大しない症例の成績は劣っており,脊髄前方の血流や髄液流の改善が脊髄機能回復にとって重要と推察された.本術式においては,頚椎や頚髄のアライメントのほか,それらの相互位置関係の変化に注意する必要がある.

連続講座 整形外科領域の再生医療②

骨髄間葉系幹細胞を使った骨再生医療

著者: 大串始

ページ範囲:P.1157 - P.1164

 抄録:少量の患者の骨髄から間葉系幹細胞と呼ばれる幹細胞を増殖させ,さらにこの幹細胞を骨芽細胞にまで分化誘導して骨基質を産生させる.すなわち,生体外で培養による骨形成(再生培養骨)技術を開発した.これらの再生培養骨は人工関節や人工骨上で構築させることが可能で,すでに30数例の種々疾患患者に移植されている.本稿では,この技術や骨性能評価を解説するとともに,臨床応用に向けた安全性の確保,さらに実用化にも触れ,この分野における現状と展望を概説する.

座談会

整形外科領域のクリティカルパス

著者: 石名田洋一 ,   佛淵孝夫 ,   野村一俊 ,   勝尾信一 ,   宮原寿明

ページ範囲:P.1167 - P.1177

クリティカルパスとは何か

石名田 本日はお忙しい中,お集まりいただきありがとうございます.
 最近,医療現場に「クリティカルパス」(以下,パス)が医療施設に導入されつつありますが,まだその途上段階といえます.
 パスの普及率は,平成14年度の厚生労働省国立病院部の(第一報)によれば,全ての国立病院55のうち54病院で,同じく国立療養所94のうち62施設で,パスを使用しているという数字が出ています.
 本日は,パスをいち早く現場に導入し活用されている先生方にお集まりいただき,パスによって医療現場がどのように変わってきたか,お話いただきたいと存じます.
 最初に,退院目標の設定などパスを作成するうえで重要となる「アウトカム」という言葉を定義しておきましょう.例えば,大腿部頚部骨折で,受傷前の機能回復をもってアウトカムとするのか,または一段階下がったあたりをアウトカムとするのか,このような判断はどうされますか.

国際学会印象記

「第31回Cervical Spine Research Society」に参加して

著者: 松永俊二

ページ範囲:P.1178 - P.1179

 第31回Cervical Spine Research Society(CSRS)のannual meetingが2003年の12月11日から13日にArizona州Scottsdaleで開催されました.私も参加したので学会の印象記としてご報告します.皆様既にご存知とは存じますが,この学会は頚椎疾患の基礎と臨床研究の発展を目的として設立された伝統のある学会であります.CSRSはおそらく頚椎関係の学会としては国際的に最も権威のある学会であり発表の一部は雑誌Spineの特集号として毎年掲載されております.またCSRSの関連学会としてEurope sectionも,毎年6月にヨーロッパで開催されております.Europe sectionは少し親睦目的のところもあって,それはそれなりに楽しめる学会でありますが,アメリカのCSRSはかなり採用基準が厳しい学会という印象です.実際本年度も口演発表の採用率は30%くらいということでした.しかし,口演発表57題中日本からの演題は13題であり,日本も徐々に主流派になりつつあります.今回の学会では慶應義塾大学の戸山芳昭先生,東京医科歯科大学の四宮謙一先生,高知大学の谷俊一先生,大阪南医療センターの米延策雄先生,北海道大学の鐙邦芳先生といった高名な先生方も出席なさっており,懇親会などで親しくお声をかけていただき感激しました.
 この学会の特徴として優秀演題の受賞が多く設定されております.臨床研究賞,基礎研究賞,レジデント賞のそれぞれについて1等賞(2,000ドル),2等賞(1,000ドル),3等賞(500ドル)が与えられます.本年度は臨床研究で慶應義塾大学の千葉一裕先生がコンピュータを利用した頚椎後縦靱帯骨化症の骨化進展の観察で1等賞を受賞されました.この研究は日本で行われた多施設研究の成果であり,今後の研究形態のあるべき姿を教えられた感じがしました.幸いにも臨床研究では私の関節リウマチの上位頚椎病変に対する後頭頚椎固定術の長期成績の報告も2等賞に選んでいただきました.またわれわれの教室の瀬戸口啓夫君が基礎研究でBMP inhibitorを導入した神経先駆細胞移植による脊髄損傷の治療で3等賞を受賞しました.受賞目的で発表するわけではありませんが,受賞すると確かに学会参加費用の足しになり助かります.口演発表以外にも80題のポスター展示があり,ここでも日本からの演題がたくさんありました.ただしポスターは展示のみで発表の時間が設けていないため討論ができず残念でした.

臨床経験

術後早期に破損を来したリン酸カルシウム骨セメントを用いた経皮的椎体形成術の2例

著者: 藤林俊介 ,   坂本武志 ,   根尾昌志 ,   中村孝志

ページ範囲:P.1181 - P.1187

 抄録:胸腰椎移行部に発生した骨粗鬆症性圧迫骨折後の偽関節に対しリン酸カルシウム骨セメント(CPC)を用いた経皮的椎体形成術を行い,術後早期に破損を来した2例を経験したので報告する.1例目は2度に分けてセメントを注入したことによるセメントの強度低下,および大きな欠損部に注入したことなどが原因となり,セメントが破損し椎体前方に脱転した.2例目は後壁損傷の著しい症例で椎体の圧壊とセメントの破損により著しい脊柱管狭窄を来した.不安定性が著しい胸腰椎移行部の脊椎圧迫骨折に対する経皮的なCPCの単独使用は避けるべきである.

大腿筋膜張筋皮弁による体幹・四肢帯再建の経験

著者: 伊原公一郎 ,   坂本相哲 ,   重冨充則 ,   村松慶一 ,   大井律子 ,   松永経光 ,   吉田佑一郎 ,   河合伸也

ページ範囲:P.1189 - P.1195

 抄録:大腿筋膜張筋皮弁(TFL)にて体幹・四肢帯を再建した15例の治療成績について検討した.疾患は悪性腫瘍12例,感染症3例で手術時年齢は平均55歳,術後経過観察期間は平均43カ月であった.再建部位は腹壁4例,胸壁・殿部各3例,肩・鼡径部各2例,骨盤底1例で,腹壁2例では両側TFLを使用した.有茎島状皮弁9例,遊離皮弁8例で1例を除いて皮弁付であり,その大きさは長径が平均23cm(15~30cm),短径10cm(6~15cm)であった.術後血行障害はなく皮弁は全例生着したが,2例に先端部の辺縁壊死を認めた.腹壁再建1例にヘルニアを合併したが,その他は体幹の支持性に問題はなかった.また,肩再建2例もほぼ正常な機能を回復した.皮弁採取部は10例では直接閉鎖したが,5例では遊離植皮を行った.このようにTFLは大きな皮弁が採取でき強靱な筋膜構造を有することから,悪性腫瘍の切除後など各種の再建外科に有用であり,選択肢の1つに加えられるべきである.

Surfix lock plate system®を用いたHTO術後早期荷重の効果

著者: 川村秀哉 ,   山口智太郎 ,   坂本央 ,   寺戸一成 ,   冨重治 ,   利光哲也

ページ範囲:P.1197 - P.1201

 抄録:[目的]高位けい骨骨切り術(HTO)において従来の内固定材料を用いての術後早期荷重では矯正角度を減じ,疼痛の再燃や長期予後不良の結果がもたらされる.Surfix lock plate system®では特殊なねじ付きプラグで螺子をプレートに固定し,その強固な内固定力で術後早期荷重を可能にした.国内で使用可能となった昨年10月以来の症例を検証した.
[対象と方法]HTOの一方法であるinterlocking wedge osteotomyを行い,術後半年以上を経過した14症例14膝(手術時年齢平均66歳.関節症10膝,膝骨壊死4膝)について,それ以前のblade stapleを用いた症例と比較検討した.
[結果]術後簡易膝固定装具を装着させ,数日後から1/3部分荷重,CPM可動訓練を開始し,徐々に荷重量を増やした.治療成績は良好で,以前の症例より平均在院日数は大幅に短縮でき,職場復帰や家事への復帰も短縮できた.

症例報告

第5腰椎に発生した巨大骨内神経鞘腫の1例

著者: 松浦龍 ,   三村雅也 ,   村田淳 ,   関川敏彦 ,   池之上純男 ,   上原敏敬

ページ範囲:P.1203 - P.1208

 抄録:脊髄腫瘍において神経鞘腫は頻度が高い.しかし椎体内発生報告例は少なく発生頻度は稀とされる.われわれは第5腰椎内に発生した巨大な神経鞘腫に対し手術を施行し,腫瘍摘出およびinstrumentationを用いない椎体再建を行い良好な結果を得た.

骨系統疾患に合併した環指MP関節ロッキングの1例

著者: 村上賢一 ,   阿部圭宏 ,   廣田延大 ,   國吉一樹 ,   南昌平 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.1209 - P.1213

 抄録:骨系統疾患に合併した右環指MP関節ロッキングの1例を経験したので報告する.症例は,28歳,男性,主訴は右環指MP関節伸展障害である.物を握った際,環指MP関節のロッキングが出現,徒手整復にて解除されるも,その後もロッキングを数回繰り返したため,手術治療を行った.中手骨頭の骨棘と副靱帯を切除し,ロッキングは解除された.術後,若干のMP関節拘縮を認めるが,ロッキングの再発はない.われわれの渉猟し得た218例のMP関節ロッキング中,環指は16例と稀で,また骨系統疾患合併例は自験例が最初である.

大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折後に発症した急速破壊型股関節症の1例

著者: 新美塁 ,   長谷川正裕 ,   福田亜紀 ,   須藤啓広 ,   内田淳正

ページ範囲:P.1215 - P.1219

 抄録:われわれは単純X線像では異常を認めない発症早期にMRIで大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折を認め,保存的に加療したが急速に股関節の破壊が進み,発症12カ月後にTHAを行った症例を経験した.患者は誘因なく発症した右股関節の違和感のため発症2週後に当院を受診した.発症3週後のMRIのT2強調像で大腿骨頭軟骨下に関節面と平行な低信号強度帯がみられ大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折と診断した.以後,急速に股関節の破壊が進み手術したが,摘出標本の組織所見でも急速な骨破壊像を認めた.

スポーツにより発症した𦙾骨内果疲労骨折偽関節の1例

著者: 村田浩一 ,   中川泰彰 ,   鈴木隆 ,   村田聡 ,   中村孝志

ページ範囲:P.1221 - P.1225

 抄録:𦙾骨内果疲労骨折偽関節の1例を経験したので報告する.症例はサッカー歴4年の16歳,男性.高校のサッカー部員であり,右足関節内側部痛を主訴とした.近医にて𦙾骨内果骨折を指摘され,明らかな外傷歴がなかったため,𦙾骨内果疲労骨折と診断された.しかし積極的な治療を拒否し,通常通りサッカーを続けた.6カ月後疼痛改善を認めず,当科を紹介受診した.遠位骨片の転位が増大しており,𦙾骨内果疲労骨折偽関節と診断し,観血的骨接合術を施行した.意図にそぐわず,術後6週にて全荷重歩行を行っていた.その後,骨癒合の遷延を認めるようになったが疼痛が消失したため,術後7カ月より運動を開始し,9カ月後には完全復帰した.術後1年6カ月の現在,受傷前と同程度の運動が可能である.
 本症例の特徴として,水平な骨折線があげられる.これまでに報告されている症例とは異なった足関節の不安定性によるものと推察された.

末期Kienböck病に合併した伸筋腱皮下断裂の2例

著者: 熊倉剛 ,   高瀬勝己 ,   松岡宏昭 ,   小山尊士 ,   山本謙吾 ,   今給黎篤弘

ページ範囲:P.1227 - P.1232

 抄録:Kienböck病に続発した伸筋腱皮下断裂の2例を経験した.症例1は環指伸筋腱断裂を合併したLichtman分類stageⅣでGraner変法および腱移行術を施行した.症例2は環指伸筋腱断裂を合併したLichtman分類stageⅣで月状骨の背側骨片を切除後,腱移行術を施行した.術後両者ともに環指の伸展は可能であり良好な成績が得られた.末期Kienböck病に合併した手指伸筋腱皮下断裂は比較的稀であり,本症の原因として圧潰した月状骨骨片の背側転位および遠位橈尺関節の関節症性変化によるものと考えられた.

大腿骨広範骨欠損に対して同種移植骨を用いた人工股関節再置換術の1例

著者: 松浦佑介 ,   原田義忠 ,   白井周史 ,   岸田俊二 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.1233 - P.1236

 抄録:広範骨欠損を伴う人工股関節の再置換術は,治療に難渋することが多い.今回われわれは大腿骨近位部広範骨欠損を伴う人工股関節再置換術症例を経験したので報告する.症例は70歳,女性である.右変形性股関節症に対して2回の人工股関節置換術を施行している.大腿骨広範骨欠損を伴う人工関節ルースニングを認めたためmassive bone allograftを用いたセメントレスの人工股関節再々置換術を施行した.短期間ながら良好な成績であり,今後の経過観察が必要であると思われる.諸家の報告では,同種移植骨を用いた再置換術において生存率,臨床成績ともに良好な成績を収めている.本症例においても短期間ではあるが股関節機能の改善が認められた.

腰椎生検後に腰動脈偽性動脈瘤を生じた1例

著者: 加藤雅敬 ,   鎌田修博 ,   一色ほのか ,   三上裕嗣 ,   千葉和宏 ,   木内準之助 ,   大平貴之

ページ範囲:P.1237 - P.1241

 抄録:症例は52歳,男性.化膿性脊椎炎の診断のため透視下に椎体針生検術を行ったところ,術後4日目にショック状態を呈し,右腹部膨隆が出現した.腹部CTでは後腹膜血腫を,血管造影では右第4腰動脈偽性動脈瘤を認めたため,塞栓術を行った.しかし,側副血行路による血腫の増大を認めたため,再度塞栓術を行い,血腫は縮小した.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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