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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科4巻1号

1969年01月発行

雑誌目次

巻頭言

1969年をおもう

著者: 佐藤孝三

ページ範囲:P.1 - P.1

 本号で年があらたまつたことになつているが,この文を実際に書いているのは1968年11月末である.今年は学問の府といわれた大学が大きく揺れて,各地にいわゆる学園紛争がおこり,それが未だに終結にいたらず,とくに派手な騒ぎを見せている東大や日大の紛争がこれからどうなつてゆくのか,目下余断を許さない時点である.
 学生問題は世界を通じての問題であるが,大学の在り方への反省は,各国各大学によつてそれぞれ内容が違つて然るべきであろう.それが今は共通して急速に革命的イデオロギー的闘争に進展しつつあるようにみえる.大学への暴力の介入や政治の介入はまことに困つたものである.これに対抗する力を本質的にもつていない大学は,目前の事態に眩惑されて,右往左往している観がないでもない.大学が本来の学問の府としての姿をとり戻すまでには,まだまだ時間を要するであろう.

視座

北海道を旅して

著者: 片山良亮

ページ範囲:P.2 - P.2

 私はこの夏,河邨教授の御案内をいただいて,Dr. Howorth夫妻と一緒に約1週間にわたり北海道の旅を楽しませて頂きました.Dr. Howorthは甚だしく長身にして細く,この奥に目ありというような顔で細い目をしておられますし,河邨教授は御存知の通り牛も恥じらうばかりの目をしておられ,私がお2人の顔をみ,お話を聞いておりますのが誠に面白うございました.その上,永田と申される鳥類学の有名な先生が釧路から加わり,これまたなんとも言えない野趣味の溢れた方で,更に話が盛りあがり,日米合同弥次喜多道中の観がありました.
 私はこの旅行中に気付いたこと,思いついたことなど数々ありますが,ある病院を訪れまして,私ども一行は医局の先生に大変な御歓待を頂きました.ところで,その病院へ入るには3つの道がある由で,あいにく私どもの到着が1時間も遅れたものでありますから,先生方が3人でそれぞれ3本の道を見張つておられた由で,私は大変に恐縮いたしますとともに,若い頃の医局生活を思い出しまして,誠に感慨深いものがありました.ことに自分の先生に「テメェー」とくつてかかり,経営に参加させろと主張するかと思えばゴーゴーに興じるという現代青年かたぎの時代に,私のこの感慨はひとしおであつたわけであります.

論述

ペルテス病の早期のX線像

著者: 荒井三千雄 ,   田中哲夫

ページ範囲:P.3 - P.11

 はじめて跛行や疼痛を現わすときをペルテス病の発病とみなせば,本症に特徴的な骨頭核の変化が明瞭となるのは発病後,数週ないし3ヵ月,またはそれ以後とされている.したがつて本症のごく早期においては実際上,X線学的な診断は不可能といえる.また,この時期においては非特異性滑膜炎の病像とまつたく区別できぬことも多くの人の指摘する通りで,さらにはFerguson & Howorth11),Kemp & Boldero19),Jacobs17)らもすでに表明しているように,ペルテス病がこの滑膜炎に続発するのではないかとの考えが生じてくる.もし,両疾患の間に病因上のつながりがあるとすれば,ペルテス病の本態の考究上や,また発症の予防,早期治療などの対策上もいくつかの重要な問題が提議されなければならない,今回はペルテス病の早期X線像を中心に述べてみたい.

頸椎・頸髄損傷の手術—急性期の適応を中心として

著者: 渡辺良彦

ページ範囲:P.12 - P.22

はじめに
 1916年にPhiladelphiaで出版されたRobertsおよびKellyの著書"Treatise on Fractures"には,脊椎損傷の手術適応について,15項目が列挙されているが,主な点を引用して見ると,
 1)ショックその他全身状態の悪い時や,脊髄完全横断損傷の明らかな時は禁忌.
 2)脊髄不全麻痺で,血腫や骨片による圧迫が考えられる時は手術適応.
 3)明らかな完全横断麻痺でも,症状が時に変化し軽快して,初期症状がconcussionや硬膜外血腫によると思われる場合,例えば2週間後に改善が現われるような場合にはdelayed operationの適応.
 4)レ線的に転位骨片による圧迫が認められて不全麻痺の時は,即時手術の適応であるが,完全麻痺で,レ線的にも転位の甚だしいものでは手術は無用である 等々.
 ここでは脊柱全般について述べられてあり,手術とは椎弓切除術(硬膜切開および閉鎖を含む)のことであるが,頸椎,頸髄損傷に限つても妥当であり,半世紀後の現在でも特に附言すべきことはなさそうである.

外傷による母指内転拘縮の治療

著者: 田島達也 ,   内山淳 ,   笹尾満

ページ範囲:P.23 - P.32

はじめに
 手部や前腕の開放性または非開放性損傷後,往々みられる後遺障害で,手の著しい機能障害を招くものに,2〜5指M. P.関節の伸展拘縮と母指の内転拘縮がある.これらはともに新鮮損傷時に注意すれば予防できることが多い.しかし,一旦,拘縮が発生すると,その治療はかなり面倒である。ここではそれらのうち母指内転拘縮について,自験例を中心として検討を加えてみたい.
 なお母指内転拘縮は外傷を原因とするもののほかに,先天性のものや非外傷性の正中神経麻痺によるものなどもある.しかしこれらは外傷性のものとは病態を異にし,一緒に論ずることは困難である.そのうえ母指内転拘縮のうち外傷を原因とするものの頻度が他の原因によるものよりはるかに高く,実際的意義も大きいので,これに限定して検討してみたい.

手指における新鮮開放創処置の検討

著者: 南条文昭

ページ範囲:P.33 - P.42

 手指はきわめて合目的な器官であり,繊細かつ複雑な構造を持つ反面,日常きわめて外傷を受けやすい部位でもある.したがつて一見些細と思われる外傷によつても,手指の受ける機能的損失の意外に大きな場合もあり,手指のもつ構造的・機能的特殊性を十分に把握した上で,初期治療の段階からこれを確実に処置しておかないと,後刻,いかように努力しても,その損失に報いることができない.およそいかなる創においても,初期治療の段階で一次的に治癒せしめることができれば理想的ではあるが,損傷機転が複雑な場合も多く,かつ障害を受ける組織が多様に亘つたり,その程度も多岐に亘ることと,創部汚染が必発することから,創自体,一時的治癒を図れる条件にないし,ましてや救急処置の場という限界では,損傷された手指を適確に処置することは容易なことではなく,結局は汚染創対策に追われ,支持組織や被覆面の簡単な補繕だけで,損失機能の再建は後刻の二次的手段にゆだねなければならぬことが多い.この辺の事情に創処置にまつわる幾多の問題点が提起される所以があろうかと考えられる.

境界領域

前立腺癌,とくに骨転移の問題

著者: 落合京一郎 ,   竹内弘幸

ページ範囲:P.43 - P.51

まえがき
 外国にくらべるとまだ少ないが,その発生頻度が徐々に増加の傾向を示しているものに前立腺癌がある.たとえば,米国などにおける前立腺癌による死亡率は人口10万人につき13人以上を示しており,これに対し本邦での死亡率は1950-1951年度調査では0.38人のものが1958-1959年度の調査では1.39人と約4倍近く増加している(瀬木,1963).
 この前立腺癌は病理学的にもまた臨床的にも極めて特異な性状をもつている.前立腺癌が代表的なホルモン反応性癌(hormone-responsive cancer)であることはいうまでもないが,これが特有な骨転移を高率に発生することなどをも指摘することができる.本文では,この前立腺癌における骨転移の問題を,われわれのところでの経験例をも参考にして,記述することにする.

手術手技

膝関節硬着に対する滑動装置再建手術(山田)

著者: 山田憲吾 ,   新野徳

ページ範囲:P.53 - P.64

緒言
 近時,産業ならびに交通災害の激増に伴い,四肢の重度外傷もますます増加の傾向を辿りつつある.秀れた化学療法剤の出現や整形外科治療学の進歩した今日においても,複雑かつ重度の損傷に続発する関節硬着の発生が少なくない.
 われわれは,昭和31年以来,膝関節硬着に対してポリエチレン袋を挿入する滑動装置再建手術を実施しており,これに関する基礎的研究,手術術式ならびに成績に関しては既に日本整形外科学会席上および「整形外科の進歩」第7集「関節成形術」,その他の整形外科関係誌上において数多くの発表がなされてきた.その後,症例を重ねて現在まで本術式の実施症例が73例に達している.これらの症例の中,昭和43年7月末現在で術後1年以上を経過したものが64例ある.ただし,1例は術後4年9ヵ月で胃癌で死亡したので術後の成績からは除外した.これらの術前のリハビリテーションについて統計的観察を行ない,併せてわれわれの膝関節硬着に対する滑動装置再建手術(山田)の術式ならびに遠隔成績について述べたいと思う.

装具・器械

Balanceapparat,Aufbauapparatによる大腿義足のアラインメント決定について

著者: 武智秀夫 ,   明石謙

ページ範囲:P.65 - P.72

まえがき
 概念的に考えたとき,大腿義足は,
 1)ソケットのパターン
 2)膝,足接手,下腿などの部品の機能
 3)これらの部品の力学的組立て,すなわらアラインメント
 の三者にわけて考えることができる.
 いま,いくらソケットに進歩した最近の考え方をとりいれた義足であつても,部品がよくなく,アラインメントが正しく作られねば,その義足の機能はわるい.

カンファレンス

骨腫瘍—これはなんでしよう(17)

著者: 骨腫瘍症例検討会 ,   古屋光太郎

ページ範囲:P.73 - P.77

臨床経過
 A:この症例は昭和43年6月に教室から発表された骨盤腫瘍の症例です.
 患者は31歳の家庭の主婦で,主訴は右殿部腫瘤と腰痛です.発症は昭和42年7月,右の殿部に鶏卵大の腫瘤があり,その部に軽度の疼痛がありました.某医で薬剤による治療を受け,一時痛みがなくなつたのですが,2ヵ月後に再発し,しかも初め鶏卵大だつたものが急速に増大して小児頭大となり,昭和42年12月当科にまいりました.これがその時の写真です(第1図).

臨床経験

骨髄炎による偽関節に対する手術経験

著者: 佐藤舜也 ,   志賀正之 ,   石原昂

ページ範囲:P.78 - P.83

 急性骨髄炎の治療に化学療法が用いられるようになつて以来,これによる死亡率は激減した1)2).しかし骨髄炎に合併する病的骨折や,広汎な腐骨形成をみた場合の偽関節は逆に増加しているともいわれる3).一つには中途半端な化学療法が腐骨形成や病的骨折を助長しているともいえるであろう.
 骨髄炎後の偽関節形成は運動制限や成長障害,支持性の不良となつて日常生活に多くの不便を生ずる.これに対しては骨移植接合術が好んで用いられるが個々の症例によつて行なわれる手術方法もいろいろである.

膝関節内側側副靱帯損傷における筋電図—特に疼痛反射について

著者: 宮之原啓

ページ範囲:P.84 - P.87

いとぐち
 膝関節内側側副靱帯損傷は一般的な外傷であるが,私の渉猟しえた範囲ではEMG学的研究はStener(1961)の報告をみるのみである.彼は内側側副靱帯不全断裂30例のEMG学的研究を行ない,疼痛に対して反射的に大腿内側屈筋群が収縮することを証明し,これら屈筋は皆,屈筋としての働きの他に膝関節の外反動搖を防止するために自動的に靱帯を援護する働きがあると述べた.
 私も内側側副靱帯損傷例についてStener法によるEMG学的検索を行ない,いささかの所見を得たので報告する.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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