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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科4巻2号

1969年02月発行

雑誌目次

視座

外国語の使用

著者: 岩原寅猪

ページ範囲:P.89 - P.89

 一部の例外はあろうが,われわれ日本人の,とくに医者の外国語の力は底がしれている.終戦後まだだいぶ早い時期のことであつた,やつとごく一部の人,それも公用を帯びた人だけが外国へ,それも主にアメリカへ行けた時分のことである.さる大学の名総長がアメリカへ行つて講演をしたそうである.もちろん,名調子の英語でである.ところがどうだろう,新聞記者とかが二世か三世かの日系アメリカ人をつかまえて,ただいまの話は,あれは日本語かと尋ねたそうで,その日系アメリカ人は答に窮したそうである.それは陰口であり,悪口であろう.がとにかく,われわれ日本人の外国語は件のごとくである.
 われわれはドイツ語で医学を教わつた.学部四年間に用いた教材書はほとんどすべてドイツの本であつた.いや応なしにドイツ語と親しまされた.しかし,それでも,わたくしなどはさつぱり駄目で,読むことは少々できても書くことも話すこともできない.あえて,ひと様もそうとはいわないが,五十歩百歩であつて,少なくとも自由自在という人はあつてもそれはむしろ稀れである.文章に間違い無く,発音に間違いなく,語調にまちがいなくというわけにはなかなかゆくまい.

論述

慢性関節リウマチの滑膜切除術の問題点

著者: 柏木大治 ,   広畑和志 ,   佐藤俊久

ページ範囲:P.90 - P.102

緒言
 慢性関節リウマチ(以下RA)に対する滑膜切除術の適用と効果については既に多くの報告が見られるが,今回はわれわれの症例にもとずき臨床的な立場から本法を論じてみたい.
 慢性関節リウマチの病変はおぼろげながら,現在,自己免疫系の全身性の変化によるものであるとされている時,滑膜切除術といつた単に局所的な外科的手段が治療上,どれほどの価値があるのか甚だ疑問視されるところではある.

術直後義肢装着法

著者: 武智秀夫 ,   明石謙

ページ範囲:P.103 - P.114

まえがき
 1963年,Copenhagenで第6回国際義肢講習会が開かれていたときに,その中の講義の1つにポーランドのWeissによる"Neurophysiology of the amputee"と題する講演が行なわれた.これは下肢切断者についてその断端の筋群の働きを筋電図によつて研究したものであるが,その終りにつけ加えられた短い一節の発表により世界各国からの参加者たちは一種の興奮におとしいれられたという.
 その後Weissの方法は米国,英国,スウェーデンなどで追試され,下肢切断者のリハビリテーションに革命的改革をきたすようになつた.

骨腫瘍の血清乳酸脱水素酵素について

著者: 入部兼一郎

ページ範囲:P.115 - P.122

緒言
 疾病を正確に診断し,またその経過を的確に把握することはその疾患を治療するにあたつて欠くべからざることである.診断,治療の一助となる臨床検査方法は医学の進歩とともに年々新しいものが生み出されており,血清酵素に関する研究もそのうちの一つである.
 乳酸脱水素酵素(Lactic Dehydrogenase,以下LDHと記す)が臨床にとりいれられたのは比較的近年のことで,本酵素が悪性腫瘍患者の血清中に増加する事実は1954年,HillおよびLevi8)によつて初めて報告された.彼らは51例の悪性腫瘍患者の血清LDH活性値を測定し,そのうちの49例96%に活性値の上昇を認め,良性腫瘍や結核ではすべて正常値であつたと報告した.

境界領域

ムコ多糖と骨疾患

著者: 長谷川栄一

ページ範囲:P.123 - P.135

 「君,このエビの甲羅を研究室へ持つて帰り,塩酸で煮てみたまえ.きつとグリココールがとれるよ」昼食の終つた教授は皿の上に残つたエビのカラを指して,傍らの医学生に命じた.教授が,自分の食いかすを実験材料に使え,などと今の学生にいったら,大衆団交で抗議されるかも知れないが,幸いにして時は1875年,学生はいわれるままに実験を行なつて,エビのカラから白色結晶を得た.しかしこれは教授の予想したアミノ酸のグリココールではなく,アミノ糖の1種が得られたのである.ムコ多糖の一成分であるグルコサミンはこのようにして発見されたものであり,その教授はドイツ生化学界の碩学,Hoppe-Seylerであつた.
 この挿話からもわかるように,動物の硬成分と糖質とは深い関係がある.われわれの骨はリン酸カルシウムを主成分とするが,その生成にはムコ多糖と称する特殊の多糖類が,重大な役割を演じているのである.以下ムコ多糖と骨疾患についてのべる前に,蛇足かもしれないが,ムコ多糖の基礎的,生化学的性質や定量法にもふれ,さらに骨形成におけるその意義についても簡単に解説したい.

手術手技

前腕骨近位端部骨折の手術的療法

著者: 平川寛

ページ範囲:P.137 - P.144

いとぐち
 前腕骨近位端骨折は,橈骨小頭あるいは頸部骨折と尺骨肘頭あるいは冠状突起骨折ならびに脱臼骨折の3つに大別することができる.前腕骨遠位端骨折に比べて頻度が少なく,また肘関節部の骨折として上腕骨遠位端骨折に比べても頻度は少ない.しかし,関節骨折という点で,肘関節あるいは近位橈尺関節の機能に対する影響が大きい骨折であることは,今さら論ずるまでもない.したがつて,骨折片の転位のないもので,噛合あるいは亀裂骨折は保存的に治療するわけであるが,解剖学的整復のために大半は手術的療法が必要となる.
 第17図は手術的療法が必要となる前腕骨近位端骨折を模式図で示したものであるが,手術にあたつては骨片の大小,複合骨折の有無・運動時における骨折線離開の有無・神経麻痺・脱臼の合併の有無,年齢などにより手技を考慮すべきである.以下に代表的な自験例を入れながら手術手技とその成績を述べる.

臨床経験

血友病性偽腫瘍の1手術治験例

著者: 小宮懐之 ,   小川英一 ,   井沢淑郎

ページ範囲:P.145 - P.150

 血友病における関節内出血,あるいは,筋肉その他軟部組織への出血に関する報告は多いが,骨内への出血によるいわゆる"血友病性偽腫瘍"の報告は比較的少ない.
 しかも,治療上,止血が困難なために予後は悪く,加えて,失血や感染の危険が大なるために,外科的処置は長い間禁忌とされてきた.

骨形成を伴える左腓腹筋海綿状血管腫の症例

著者: 阿久津寿一

ページ範囲:P.151 - P.154

緒言
 血管,筋肉および骨組織などは,同じく中胚葉性原基に由来し,しばしば筋肉組織内に,また血管組織内にも,異所的骨形成をきたすことがある.前者は,いわゆる化骨性筋炎と呼ばれるものであるが,私は左腓腹筋に限局して慢性に経過し,著明な骨形成をみた興味ある血管腫の手術例を経験したので報告する.

外傷性化骨性筋炎を併発せる人為的継発性右大腿骨頸部粉砕骨折

著者: 名倉公雄 ,   飯田勝

ページ範囲:P.155 - P.158

 最近われわれは,右大腿骨頸部骨折が,柔道整復師により脱臼と誤診されて,頻繁に整復操作を受け,そのために更に転子間部に粉砕骨折を起し,そのうえ化骨性筋炎をも併発したはなはだ稀な症例を経験したので,ここに報告する.

脛骨結節の裂離骨折—利き足の問題におよぶ

著者: 日比新 ,   大谷舜三 ,   藤原孝義 ,   井上明生 ,   大本晃生

ページ範囲:P.159 - P.161

 跳躍時の自家筋力による脛骨結節の裂離骨折は比較的まれなものである.われわれの調査しえた本邦での報告例は66例であるが,それらを調べてみて,跳躍の踏みきり時におこった場合は左側に本骨折が圧倒的に多いことに気づいた.これについて考察を加えるとともに,われわれの経験した2例を報告する.

カンファレンス

骨腫瘍—これはなんでしよう(18)

著者: 骨腫瘍症例検討会 ,   古屋光太郎

ページ範囲:P.162 - P.165

 右腸骨に破壊吸収像
 A:患者は23歳の男性で,昭和41年の12月上旬に,右下肢のつけ根に筋肉の突張るような疼痛を感じたことがあるが,特に治療せずに治つた.昭和42年3月初旬,朝起きたら,急に右下肢のつけ根がシビレてしまい,マッサージおよび湿布で軽減しました.3月中旬には右鼠径部より大腿前面にかけて神経痛様疼痛とシビレ感が毎日起るようになりました.4月初旬には微熱が続くようになり,右肩にも痛みを訴え,近医を受診しました.赤沈値の亢進が認められましたが,胸部レ線像に異常なく,神経痛の治療を受けました.4月下旬には,原因不明ですが咳が出るようになり,その際,右股関節にひびいて,激痛を感じるようになりました.
 5月10日,本学整形外科外来受診し,レ線写真は第1図のごとく,右腸骨が破壊吸収され,溶骨性の悪性骨腫瘍,例えば,Fibrosarcomaのごときものを疑い,エンドキサン100mg,ブレドニン10mg内服,イルガピリンの注射で疼痛が消失しました.5月中旬,当科に入院し,動脈撮影を行なつた後,試験切除術施行,肉腫の診断のもとに,マイトマイシンCの動脈内持続注入を行ないました.更に,7月10日より,深部照射を行ないましたが,8月末には,呼吸困難におちいり,死亡しております.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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