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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科4巻8号

1969年08月発行

雑誌目次

視座

人類月に立つ

著者: 片山良亮

ページ範囲:P.573 - P.573

 この視座を書くようにという知らせを受けとつた日は,あたかもアポロ11号のLMイーグルが月面に着陸し,またアームストロングとオルドリンの宇宙飛行士が,人類が初めて月面に降り立つた日でもあつた.ついては,この世紀の偉業を記念して私も何か雑感をのべてみたい.
 月の征服は全く現代科学の勝利であり,人類の勝利であるが,あの遠距離と長時間の月旅行が極めて正確に,少しのくるいもなく,なし遂げられたことは驚きのほかはない.昔から「天の運行は健なり」とか,「天行に健なり」といつて,太陽系の運行の正鵠なことを物事の正確なことの譬えにさえしていたほどであるから,これを数学的に計算するのは理論的にそれほど因難なことではないのかも知れない.しかし,それは理屈であつて,今までのような紙と鉛筆だけの計算では到底できるものではない.これはコンピューターの働きにほかならない.またこの成功には通信網の発達も大きな働きをしたと思う.たとえば,その1例として,アポロ11号内の長時間の宇宙旅行は勿論のこと,たとえ月面に降り立つたとしても地球との通信がなく孤独であつたならば,その寂しさには到底堪え得ないものがあったと思う.

論述

老人の骨折—特に大腿骨頸部骨折について

著者: 青池勇雄 ,   大田仁史 ,   三束雄一 ,   塩野正喜 ,   名倉公雄 ,   佐々木克 ,   邱松寿

ページ範囲:P.574 - P.581

はじめに
 老人の骨折は若年者,壮年者の骨折とは色々の点で異なつていて,その主な相違点は(1)老人の骨はOsteoporoseのために骨折しやすく,わずかの外力でも骨折することである.若年者では交通事故,スポーツ,労災などの大きな外力でないと骨折しないのに,老人は動作が緩慢で,防御反射が鈍化し,平衝機能が低下しがちのために,日常動作で骨折することの方が多くなり,高齢者になるとベッドから起き上るとか,便所から立ち上るなどの動作だけでも大腿骨頚部骨折を起こす.このようなもののうちには外傷機転の明らかでないものが含まれ,これは特発性大腿骨頚部骨折といわれ,老人に一番多い.
 若年壮年者では骨幹部骨折が多いのに反して,老人ではOsteoporoseが最も高度に現われる椎体,大腿骨頚部,上腕骨頚部,椀骨末端に頻発する.

シンポジウム 腰部椎間板症

あいさつ

著者: 岩原寅猪 ,   井上駿一 ,   桐田良人 ,   平林洌

ページ範囲:P.582 - P.582

 岩原(司会) それではシンポジウムの"腰部椎間板症"に入りたいと思います.その前に司会者としまして,一言前口上を述べさせていただきます.
 戦後ことにここ5年,10年来椎間板症,俗に言う椎間板ヘルニア,これの研究がわが国で非常に盛んでありまして,知見も追々豊かになつて来ており,われわれは十分国際的な水準にあると考えております.

腰椎椎間板症の病態とその治療

著者: 井上駿一 ,   土屋恵一

ページ範囲:P.583 - P.597

 先年,徳島における第28回臨床外科医学会総会において"腰痛症"に関するシンポジウムがとりあげられ,主として基礎的問題が論ぜられた.その際述べられた教室の研究成果は既に本誌第2巻第6号に纏められている1).そこで今回は,基礎的研究についてはその後教室において進展を見た病態的研究の2,3を述べるにとどめ,主として治療的事項に関し論を進めたい.

腰部椎間板ヘルニア症に対する神経学的高位診断と手術成績

著者: 桐田良人

ページ範囲:P.599 - P.609

はじめに
 腰痛または根性坐骨神経痛を訴えて整形外科の外来を訪れる患者の極めて多いことは日常よく経験するもので,私どもの外来で根性坐骨神経痛と診断した636例の予後を調べてみると,537例(79.8%)の大部分は外来における保存的療法により症状の緩解をみているが,外来治療で治らず入院加療を要した残り99例(20.2%)の中で,89例の大多数は腰部椎間板ヘルニアに由来したもので,ヘルニア摘出術により全治し,その他の10例は入院保存的加療平均24日間で,一応症状は緩解し退院している(第1表).
 このように根性坐骨神経痛と診断し,保存的療法を行なつても症状の緩解をみない大部分のものは,腰部椎間板ヘルニア症によるものであるといえるので,腰部椎間板症という広い概念の中でその主要な分野を占める腰部椎間板ヘルニア症に限定し,その診断と治療について述べることにした.

腰部椎間板症—症状と診断を中心として

著者: 平林洌

ページ範囲:P.610 - P.623

いとぐち
 教室における椎間板症の歴史は,岩原6)により「後部椎間軟骨結節の臨床的知見」の3手術例が報告された1937年に始まる.今でいう腰部椎間板ヘルニアである.
 1928年Schmorlにより椎間板のレ線学的および組織学的研究がその緒につき,1934年にはMixter & Barrが椎間板ヘルニアの臨床的意義を明らかにした.

討論

ページ範囲:P.624 - P.627

…病態・症状と診断・治療等をめぐって…
 岩原 先の演題報告では予想しましたようにお三方の話は,互いに交錯してしまいました.しかも聴衆の方が臨床外科医であられることをお考えですか,治療に話が集中して来たようであります.一応病態と症状,診断と治療,この順序で壇上のお三方に意見を交換していただきたいと思います.

境界領域 骨・関節の病理学序章・3

加齢に伴う骨・関節のextrinsicな変化

著者: 三友善夫

ページ範囲:P.628 - P.637

IX.老化のextrinsicな変化
 人体の加齢に伴う生理的変化を老化のintrinsicな変化とすれば,老年期に特異的ないしは好発的に認められる疾患が老化のextrinsicな変化に相当すると思われる.加齢に伴つて老化した人体の組織や臓器には血管系の老化と緊密な関連のある脳神経系の障害,腎臓病,心臓疾患,糖尿病および諸種の臓器に原発して骨にも転移を示す悪性腫瘍などのさまざまな病変が発生し,進行する.しかもそれらの病変は老化した個体にあつては同一個体に一疾患のみに限らず,重複合併して複数的に認められる機会が少なくない.老年者の骨・関節も他の臓器組織とともに密接な関連をもつて老衰変化を進行させるように,肝臓,腎臓,消化管,心臓動脈系などの生理的な老化の影響はもちろん,これらの諸種臓器のいわゆる老年病と呼ばれる諸病変によつても著しく左右されている.そこで老年期に見出されやすい疾患と骨・関節の関係について概略的に考えてみたい.
 骨・関節の加齢的な退行性変化の基礎疾患となる老年病は次のようなものである.

臨床経験

小児切断と幻想肢

著者: 大塚哲也 ,   大橋健迪 ,   東川裕 ,   山脇忠昭 ,   武田明久 ,   西村義昭 ,   上尾豊二 ,   川田尚二 ,   伊藤博康 ,   稲垣正治 ,   漆谷英礼 ,   斎木勝彦

ページ範囲:P.639 - P.643

はじめに
 一般に四肢切断者(離断者を含む)は,その断端部に既に失なわれた四肢が,いまだ残存しているような幻覚に囚われることが少なくなく,これが義肢装着や日常生活に与える影響も大である.
 この四肢切断者の幻想肢(以下幻肢と略す)は身体像とともに幻肢痛の形で現われる感覚の面をも具備しており,Body Imageの投影と見倣される.幻肢は中枢性のもので,これを援護するのが末梢性の諸因子であるというのが大塚の考え方である.また大塚は幻肢を第1表に示すように分類した.

上肢のEntrapment Neuropathyの経験

著者: 児島忠雄 ,   原瀬瑞夫 ,   家常敏弘

ページ範囲:P.644 - P.659

緒言
 神経が線維性あるいは骨線維性のトンネル(fibroosseous tunnel)を通過する時,また線維性あるいは筋肉性の帯状物によつて走行が変えられるところで機械的刺激をうけてneuropathyをおこすことは古くから知られている.すなわち正中神経の手関節部での遅発性正中神経麻痺あるいは手根管症候群,尺骨神経の肘関節部での遅発性尺骨神経麻痺はとくによく知られているところであり,また橈骨神経も肘関節部でカンクリオンなどにより麻痺をおこすことが知られている.Kopell,Thompsonはこれらの点をentrapment pointと呼び,この部でおこされるneuropathyをentrapment neuropathyと総称し,1959年上肢1),1960年下肢2)について報告し,1963年"Peripheral Entrapment Neuropathies3)"の著書をあらわした.
 Kopell, Thompsonは,entrapment neuropathyはいくつかの共通した症状を有するものとして次のものをあげている.

海外だより

Hospital for Sick Children(Toronto)の整形外科みたまま

著者: 香川弘太郎

ページ範囲:P.661 - P.665

はじめに
 柏木教授の御厚意により,昨年(1968)7月より2カ月間,Canada, Toronto市にあるHospital for Childrenの整形外科に滞在する機会を得たので,その見聞の一,二について報告する.

カンファレンス

骨腫瘍—これはなんでしよう(24)

著者: 骨腫瘍症例検討会 ,   安部光俊

ページ範囲:P.666 - P.669

 A:42歳の男,初診の約1ヵ月前に左手をついて,その時から手首が痛くなり,だんだん痛みが増してきました.昨年8月19日に三井厚生病院に入院して,レ線像から巨細胞腫じやないかということで切除した例です.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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