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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科4巻9号

1969年09月発行

雑誌目次

視座

脊椎のうしろには脊髄がある

著者: 岩原寅猪

ページ範囲:P.671 - P.671

 ここ10年,20年の間に脊椎外科は長足の進歩をした.これは国内的にも国際的にもいえることであつて,わが国はその最高水準にあるといえる.
 なかでも脊椎症とくに頸部脊椎症,椎間板症ないし椎間板ヘルニア,脊柱側彎症などに関する知見と経験とは飛躍的に増し,10年あるいは20年前と比べると今昔の感さえある.

論述

先天性示指爪甲欠損症とその形成手術

著者: 礒良輔

ページ範囲:P.672 - P.677

はじめに
 Hypocratesが膿胸の項に"爪は彎曲する"と記載していること(Hypocratesの爪)よりみても,全身疾患と爪の変形は古来より注目され,これに関しては多くの研究がなされている.一方,エジプト皇女の木乃伊の爪が鍍金されていることから,爪の美容に対する人類の関心はさらに昔よりあつたものと推察されよう.
 しかし,これら爪の変形に対し積極的治療がなされなかつたのは,いままでの医学の形態に対する関心の浅さによるところが多く,今後,手の外科,形成外科などで,真剣に討議されるべき問題であろう.

Subcutaneous pedicle flapsによるfinger tipの再建術—いわゆるKutler法の適用拡大について

著者: 難波雄哉

ページ範囲:P.678 - P.683

 Finger tipは手指の機能のうちでも,物をさわる,おす,ねじる,つまむ,たたく等の巧緻作業にとつて重要な役割をもつ部位で,解剖学的にも厚いふつくらとした皮下組織と外力に対して抵抗力のある皮膚で構成され,これを後背側より爪でささえた形となつている.更にfinger tipの特筆すべき点は優れた知覚の感度で,特にこの部の立体覚は他部では比較し難い精度をもら,これにより物体の形状,硬軟などの性状を識別することも可能であり,手指が第二の目といわれるゆえんもここにある.
 ところが,finger tipは日常生活や労働の中で最もよく働く部分であるだけに外傷をうける機会も多く,finger tipの切断創は瘢痕治癒するか,植皮によつて閉鎖するかのいずれかであるが,たとえ小さなものであつても,この部の瘢痕や植皮痕は上述の理由で生理的,解剖的な機能低下を免れない.

骨腫瘍における穿刺細胞診について

著者: 北川敏夫 ,   清水親嗣 ,   林泰夫 ,   木村修 ,   本田五男

ページ範囲:P.684 - P.690

いとぐち
 細胞診は婦人科,内科,外科等いろいろな科で広く応用されているが,整形外科では病巣が主として骨という硬い組織内にあるので,従来細胞診はほとんどかえりみられなかつた.1955年Fritz Schajowicz1)はaspiration materialより塗抹標本を作製し,メチレンブラウ染色,マイグリユンワルド染色,ギムザ染色,ヘマトキシリンエオジン染色を行ない,エオジン好性肉芽腫,骨髄腫,転移癌等の診断に役立つと言い,また骨髄炎とEwing肉腫との鑑別,巨細胞胞腫と溶性骨性肉腫との鑑別に役立つと言つている.1965年二瓶2)は四肢悪性骨腫瘍における流血中の悪性腫瘍細胞検出の助けとして種々原発性骨悪性腫瘍の腫瘍塊の塗抹標本を作製し,ギムザ染色を行ない腫瘍細胞を形態学的に観察している.しかしながら一般には骨腫瘍における細胞診に関する研究はあまり盛んではない.骨腫瘍は病変が進むと大多数は骨外の軟部組織に病巣が波及するので,この部分の穿刺細胞診は可能である.また病期が初期で病巣が骨内に限局している時期においても骨皮質が稀薄化している場合が多いので,この様な場合には骨髄穿刺針で穿刺することが可能であり,穿刺により病的産物が得られ塗抹標本にてある程度診断が得られる.

手術手技

偽関節に対する圧迫骨接合術

著者: 棈松紀雄 ,   宮坂忠篤 ,   唐沢善徳

ページ範囲:P.691 - P.699

 骨折に対する手術的療法の普及は,骨折治療材料,特に金属の開発に負うところが大であることは言うまでもない.その反面,保存的療法の軽視,例えば幼年者に対しても無批判に手術が行なわれたり,また不適正な手術が行なわれがちである.骨癒合に関しては保存的療法が手術的療法にまさつていることは周知の事実であり,手術を行なう場合は手術の欠点を上まわる効果を期待しなければならない.われわれが遭遇する経過不良例の多くの原因は,大腿骨頸部骨折など特殊な例を除いて不適正な手術による固定力の不足および手術による感染があげられる.感染は論外として,固定力の不足によるものと思われる例のうち内副子固定例に経過不良例をみるものが多い.この原因として(1)過小な内副子の使用,(2)不適正なねじ釘の刺入(長さ,数,部位,方向),(3)両骨折端の不適合があげられる.しかしこのような条件が満たされているにもかかわらず不良経過をとる例がある.内副子により得られる固定力は,(1)内副子の強度,(2)ねじ釘に固定力,(3)骨の性状,例えば骨萎縮の有無,骨皮質の厚さなど,の3者により左右される.

カンファレンス

骨腫瘍—これはなんでしよう(25)

著者: 骨腫瘍症例検討会 ,   宇野秀夫

ページ範囲:P.700 - P.703

 A:患者は20歳の男,初診は1968年の12月2日.10月の中ごろから走ると左の下腿に痛みがあり,11月初旬に近医を受診,骨の融解があると言われ,横浜市大整形外科に紹介されてきました.

整骨放談

義肢の価格とパーツの開発

著者: 澤村誠志

ページ範囲:P.704 - P.705

 日本の義肢の発展には,義肢教育,研究,行政上の問題,義肢パーツの開発等が重要であることは,いく度も強調されてきた点である.しかし,これらの問題解決を著しく阻害している因子として従来より厚生省で規制されている義肢の低価格をあげねばならない.著者はかねがねこの点に疑問をいだいていたが,今回,東南アジアおよび欧米の義肢価格とサービスのあり方につき実情を観察する機会を得たので報告する,
 第1表に,著者が諸外国で直接義肢製作者より得た義肢価格を円に換算したものを示した.第1図は,日本の義肢価格を1とし,諸外国における義肢価格の比較を求めたものである.このうち,股義足はカナダ式,大腿義足は吸着式,下腿義足はPTBの価格を示したものである.これに対して義手の場合は,それぞれの部分品の差により著明な差をみとめ,一応能動式フック及び肘接手を用いた価格とした.

臨床経験

頸部椎間板造影後のレ線変化に関する遠隔成績

著者: 平林洌 ,   高橋淳 ,   有馬亨 ,   佐々木正 ,   浅井博一

ページ範囲:P.707 - P.716

いとぐち
 1957年Smith1)によつて頸部椎間板造影法が発表されて以来,現在までに幾多の業績がその臨床的意義を決定的なものとしてきた.
 われわれも1962年から頸部椎間板症の有力な補助診断法の一つとして本法を施行し,その有用性については数次にわたつて報告してきた2〜6)

Cerebrotendinous xanthomatosisと思われる1例

著者: 柴崎啓一

ページ範囲:P.717 - P.722

 現在までに全身疾患としての黄色腫症の報告は多くなされている.しかしながら,脳中枢神経症状を伴つた黄色腫症の報告は極めて少なく,本邦においては未だそれを見ない.
 最近われわれはいわゆるCerebrotendinous xanthomatosisと思われる悩中枢神経症状を伴う両側アキレスに発生した,黄色腫症の興味ある1例を経験したので,ここに報告する.

Planta pedis symptomについて

著者: 中川俊 ,   市堰英之 ,   福原達夫 ,   西村貞男 ,   荻野邦夫 ,   轟哲 ,   比企健男 ,   内川勝義

ページ範囲:P.723 - P.729

はじめに
 腰痛ならびに坐骨神経痛を主訴として来院する患者は非常に多く,当教室においても諸家の報告と同様に全外来患者数の22%を占めている.またその患者の訴える愁訴もその種類および部位において非常にまちまちである(第1表).更に患者に愁訴の部位について詳しく問診を試みるに,足部ことに足底部にも痛み,その他なんらかの訴えを有しているものが見られ,腰痛,坐骨神経痛の病態の複雑さを物語つているものと考える.Heikel1)(1965)は自己の経験より椎間板ヘルニアの新しい一所見としてPlanta peclis symptomの症例について報告しているが,われわれも腰痛研究の一端として各種腰痛疾患の愁訴の様相について詳細に検討したところ,Heikel1)の述べる本症候を有する腰痛疾患の存在することを経験した.
 椎間板ヘルニアは勿論,各種腰椎疾患において観血的治療は言うにはおよばす,保存的治療に際して病態の原因となつている高位を決定することは極めて重要であることは論をまたないところである.したがつて反射,知覚,筋などの異常を注意深く検索することが必要となるわけである.なお,これら知見に不安の残る症例に対しては,レントゲン撮影は勿論,各種のレントゲン機能撮影,E. M. G.および観血的治療を前提としてMyelographyが,その副作用および欠点が諸家により種々論議されながらも,惰性的,習慣的に行なわれているのが現状である.

特発性脊髄硬膜外出血の症例

著者: 宇沢充圭 ,   松井明

ページ範囲:P.730 - P.734

 特発性脊髄硬膜外出血は稀有な疾患で,欧米では1897年,Bainの報告以来,1969年Jacobson3)の報告まで,約50例を見るが,本邦においては文献上渉猟しえた限りその報告を見ない.われわれは,両下肢の麻痺をきたし,硬膜外腫瘍の疑いのもとに手術を行ない.特発性脊髄硬膜外出血と診断された1症例を経験したので報告する.

慢性骨髄炎に続発した扁平上皮癌の1例

著者: 松島千代雄 ,   間宮典久 ,   張洛善

ページ範囲:P.735 - P.738

 化膿性骨随炎が慢性の経過をとり,しかもかなり長年月にわたり瘻孔が残存すると,非常にまれではあるが,この瘻孔より悪性腫瘍の発生することがあるのは以前から知られている.最近われわれは慢性骨髄炎の瘻孔から発生したいわゆる瘻孔癌の症例を経験したので報告する.

装具・器械

Y螺子の使用経験

著者: 弓削大四郎

ページ範囲:P.739 - P.752

いとぐち
 なぜ大きい螺子を必要とするかという問題であるが,わが国で市販されている螺子は股関節手術においては,その強度,固定力で使用に耐えないうらみを以前から抱いていたため色々考案中であつたが,たまたま1964年Gardenの論文で大きい螺子を大腿骨頸部骨折に使つているのを知ると共に,著者が滞仏中にR. Judetが同じ骨折に対するJudet法(Technique de l'ostéosynthèse du col fémoral avec greffe pédiculée)にVenableの螺子を,Merle d'Aubignéの所では,股関節固定術に3本の彼自身の螺子を使用してるのを見ることができた.Venableの螺子とMerle d'Aubignéの螺子の,それぞれの特長をとつて作つたのがY式螺子(この名前に多少のためらいを感じるが)である.

紹介

映画化される進行性筋ジストロフィー症児

著者: 近藤文雄

ページ範囲:P.722 - P.722

 仙台市にある国立療養所西多賀病院には,進行性筋ジストロフィー症の子が130名,他の病気の子らとともに収容されている.その大部分は18歳以下で,病院内に設けられた学校(幼稚園,小学校,中学校,通信制高校)で,不治の病と斗いながら学習に励んでいる.本症に対する根治療法はないので,その生活は自然,リハビリテーションが中心となり,学習,機能訓練,装具をつけての歩行訓練,各種クラブ活動や作業が活発に行なわれている.
 従来本症の子は,病院や学校に入れてもらえなかつたので,家の片隅で人知れず孤独の生涯を終えるのが常であつた.ようやく,昭和40年になつて,国の指定した一部の国立療養所に本症を収容して,児童福祉法に基づく療育の給付がなされるようになり,ここに初めて彼らの人権が認められるようになつたといえる.現在,指定療育機関は全国で10ヵ所,収容患者数は約800人であるが,遂次増床する計画ができている.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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