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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科40巻10号

2005年10月発行

雑誌目次

視座

関節外科の今後は?

著者: 吉矢晋一

ページ範囲:P.1079 - P.1080

 関節外科領域においても,他の分野と同様,近年の基礎・臨床医学の進歩は,再生や遺伝子治療などのbiologyと,コンピュータやロボット,センサー技術などのbiomechanicsの2つの領域に大別されます.

 そのなかで,まず再生医療においては,関節軟骨欠損に対して現在,培養細胞や人工材料を用いた再生医療の手法による治療が試みられています.一方,このような時間と費用のかかる治療が本当に必要とされるのは,どのような対象に対してか,換言すると,どこまでの範囲のものが放置可能であったり,ドリリングなどのより簡便な方法で対応できるか,という点を議論する必要があると思います.靱帯や半月板などは,生体内での移植組織の治癒過程に時間を要するため,再生医療の分野に期待がかかります.しかし,生体内での負荷に耐えられるような強い組織のin vitroでの再生は困難で,実用化にはいまだ距離があると感じています.

誌上シンポジウム 関節鏡を用いた腱板断裂の治療

緒言 フリーアクセス

著者: 高岸憲二

ページ範囲:P.1082 - P.1082

 肩腱板は肩甲下筋,棘上筋,棘下筋および小円筋の腱性成分から構成され,上腕骨頭を前方・上方・後方から包み込むように存在している.腱板断裂は代表的肩関節疾患の1つであり,長期にわたり肩関節の疼痛と機能障害が持続する.最も損傷を受けやすい腱は棘上筋腱である.棘上筋腱は生体内で2つの骨(肩峰と上腕骨)に挟まれた唯一の腱であることから,肩関節外転時に肩峰,烏口肩峰靱帯によって圧迫,摩擦を受けやすい.棘上筋腱の上腕骨付着部はcritical zoneと言われ,血行が乏しい.以上より年齢とともに腱の変性が起こり,断裂の危険性は増加する.腱板断裂は不全断裂(滑液包側,関節包側および腱内断裂)と完全断裂に分けられる.完全断裂は断裂の形態で,水平断裂,垂直断裂,混合断裂などに分類され,断裂の大きさで,1cm以内が小断裂,1~3cmを中断裂,3~5cmを大断裂,2腱以上および5cm以上を広範囲断裂と分類されている.自覚症状としては,肩関節の疼痛,脱力および機能障害を訴える.

 一般に腱板完全断裂では断裂部位の自然治癒はないと考えられているが,保存療法で症状が改善する患者も多い.安静,NSAIDsなどの薬物療法,理学療法,薬物療法,局麻剤と水溶性ステロイドの混合液やヒアルロン酸ナトリウム溶液を用いた注射療法などの保存的療法が行われ,それらの方法で症状が改善しない症例では手術療法が行われる.

鏡視下腱板修復術と直視下腱板修復術の比較

著者: 井手淳二

ページ範囲:P.1083 - P.1087

 鏡視下腱板修復術50例のJOAスコア,UCLAスコアを直視下手術50例のそれと比較検討した.術後経過観察期間は平均49カ月(25~83カ月)であった.両群間で,性別,年齢,断裂の大きさ,外傷歴,罹病期間,術前スコアに有意差はなかった.術後JOAスコア,UCLAスコアは両群とも有意に改善し有意差は認めなかった.大・広範囲断裂の成績は小・中断裂のそれより劣っていたが,術式による差はなかった.鏡視下腱板修復術の成績は直視下腱板修復術と同等であった.

不全断裂に対する鏡視下手術

著者: 能瀬宏行 ,   中川照彦 ,   平塚建太郎 ,   多嶋佳孝 ,   杉原隆之

ページ範囲:P.1089 - P.1093

 腱板不全断裂(partial rotator cuff tear:PRCT)に対する手術治療は,現在においても様々である.今回われわれは,鏡視下腱板修復術手術(arthroscopic rotator cuff repair:ARCR)を行った10例について短期術後成績をまとめた.JOAスコアは術前平均66.7点から術後平均95.9点と有意な改善を認め,PRCTに対するARCRは有用であると考えられた.また,50%を超える深い不全断裂では,鏡視下手術においても腱板修復を行ったほうがよいと考えられた.

重層固定法による腱板完全断裂に対する鏡視下手術と術後成績

著者: 菅谷啓之 ,   前田和彦 ,   加藤敦夫 ,   岡本幸大 ,   森石丈二

ページ範囲:P.1095 - P.1101

 重層固定法による鏡視下腱板修復術を施行し術後2年以上経過観察した腱板完全断裂63肩(男40,女23)を対象とし,JOAスコアによる臨床成績とMRIによる術後腱板修復状態を検討した.JOAスコアは術後平均94.8点と有意に改善したが,術前大断裂および広範囲断裂では小・中断裂と比べると改善は劣っていた.また,MRIによる術後腱板修復状態は概ね良好であったが,再断裂像を17.5%に認めた.術前断裂サイズが大きいものに術後腱板修復状態が不良なものがみられ,また術後腱板修復状態が不良なものの多くはJOAスコアによる臨床成績も劣っていた.

関節鏡視下腱板修復術後のスポーツ復帰

著者: 瀧内敏朗

ページ範囲:P.1103 - P.1107

 スポーツ愛好者の肩腱板断裂に対して行った関節鏡視下腱板修復術(ARCR)の術後スポーツ復帰状況について調査した.傷害以前からスポーツを行っており,術後1年以上の経過観察が可能であった61例66肩を調査したところ,60例(98%)が傷害前の種目への復帰を果たしており,復帰の程度は完全復帰が58例(95%),不完全復帰が2例(3%),復帰不可が1例(2%)と良好な結果が得られていた.本法は低侵襲に的確な治療を行うことが可能であり,復帰を望むスポーツ愛好者に対して大変有用な方法と思われた.

修復できない広範囲腱板断裂に対する鏡視下手術(デブリドマン)

著者: 緑川孝二 ,   本荘憲昭

ページ範囲:P.1109 - P.1113

 腱板完全断裂に対する外科的治療は,腱板修復が第一選択である.しかし,実際に腱板修復術を試みても,修復が不可能のことも経験する.また,高齢者で痛みは強いものの挙上可能な症例をよく経験する.このような症例は痛みをとることが患者の満足につながり,必ずしも腱板修復の必要はないと考え,鏡視下デブリドマンを行っている.適応を選択すれば,よい結果を得ることができる.

論述

脊髄腫瘍患者における手術前後の性格心理状態

著者: 酒井義人 ,   松山幸弘 ,   吉原永武 ,   中村博司 ,   中島正二郎 ,   石黒直樹

ページ範囲:P.1115 - P.1119

 脊髄腫瘍(A群)25例および脊髄腫瘍以外(B群)55例に対し,術前後のMaudsley性格テスト(MPI)および術後満足度調査を行い,性格心理状態の推移を検討した.改善率は有意にA群で低かったにもかかわらず,満足度はA群で有意に高かった.術前MPI陽性例は有意にA群で多かったものの,術後MPIが正常化したものはA群で多く,術後陽性化したものはB群で多くみられた.脊髄腫瘍患者では術前の精神的加重が大きく,術後改善率は低くとも術後の精神的不安定からの解放により,高い術後満足感が得られるものと考えられる.

馬尾弛緩の臨床的検討―第3報;手術成績の検討

著者: 大歳憲一 ,   菊地臣一 ,   紺野愼一 ,   荒井至

ページ範囲:P.1121 - P.1124

 われわれは,腰部脊柱管狭窄症例を対象として,馬尾弛緩を合併している症例と合併していない症例で手術成績に差があるかどうかを,JOAスコアの改善率を用いて検討した.その結果,馬尾弛緩の存在やその形態は,腰部脊柱管狭窄に対する手術成績に有意な影響を及ぼしてはいなかった.馬尾弛緩は,腰部脊柱管狭窄により生じた単なる馬尾の形態学的変化であり,腰部脊柱管狭窄の臨床症状の重症度や手術成績の指標になるとはいえない.

腰椎不安定性とMRIにおける椎間板変性度の関連

著者: 笠原孝一 ,   井口哲弘 ,   金村在哲 ,   佐藤啓三 ,   土井田稔

ページ範囲:P.1125 - P.1131

 L4/5椎間における単純X線像による矢状面での腰椎不安定性(椎間可動角,前後動揺度,中間位すべり度)とMRIを用いた椎間板変性度を,腰・下肢痛を訴えて受診した447例の患者で調査し,両者の関連について検討した.その結果,不安定性を認めた約1/3の患者では,腰椎不安定性と椎間板変性の間には明らかな関連があり,変性が進行するにつれて可動角,動揺度,すべり度の順に異常が出現しており,中間位での前方すべりは椎間板変性の最終段階に近いと考えられた.今後は各不安定性因子の経時的な進行調査が必要である.さらに,変性初期の可動角の異常には,椎間板は正常でhypermobile segmentを呈するものと,初期の椎間板変性を伴うものが混在していると思われた.また,残りの2/3の症例では不安定性を伴わずに椎間板変性が進行しており,今後,不安定性を認めた群との背景因子などについての検討が必要と思われた.

連載 医者も知りたい【医者のはなし】 16

日本赤十字創始者・佐野常民(1822-1902) その1

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1132 - P.1136

■はじめに

 今から約20年前,佐賀市の北,大和にある九州ウインブルドンの天然芝のテニスコートで試合をしたことがある.そのときJR博多駅から佐賀に行き,そこで日本赤十字社の創始者「佐野常民生家」の看板を見た.その後,佐賀県川副町にある常民の生家を訪ねた.福岡県南部の柳川は北原白秋の故郷である.その柳川の西には,有明海に注ぐ筑後川があり,その川の対岸は佐賀県川副町がある.当時,川副町公民館の一部が佐野常民記念館になっていて,日曜日には休館というノンビリした記念館であった.20年前のことである.

 その後,明治の巨人 佐野常民(図1)にしては地味なこの記念館を幾度か訪れた.そのうちに,新しい記念館を建てる運動が町をあげて展開され始めた.私も,訪れるたびに募金し,また募金活動の一部であった「博愛せんべい」も度々購入し,新しい記念館建設に少しは貢献している.

 以前にこのシリーズで,吉野ヶ里をめぐる4人の偉大な医師(38巻5号)を書いたときに,佐野常民を短く紹介したことがある.しかし,この度,立派な記念館の紹介の意味もあって,佐野常民のことを書いてみた.

臨床経験

両側性ペルテス病の発症要因

著者: 西山正紀 ,   山田総平 ,   浦和真佐夫 ,   辻井雅也 ,   湯浅公貴 ,   二井英二

ページ範囲:P.1137 - P.1141

 両側性ペルテス病にどのような臨床的特徴があるか,特に発症にかかわる要因について検討を加えた.三重県立草の実リハビリテーションセンターで経験したペルテス病81例のうち,典型的な両側例は5例10関節であり,発生率は6.2%であった.初期治療別に両側性の発生をみると,無治療の6例中3例,通院にて片側型装具で治療の13例中発症が2例であり,初期治療を入院にて免荷型外転装具を中心に,確実なcontainment療法を施行した62例に両側例は皆無であった.両側の十分なcontainment療法と安静は,反対側の発症を予防している可能性が示唆された.

反復性膝蓋骨脱臼に対する内側膝蓋大腿靱帯再建術後長期経過した5例の検討

著者: 井上元保 ,   野村栄貴

ページ範囲:P.1143 - P.1148

 対象は反復性膝蓋骨脱臼に対し内側膝蓋大腿靱帯(以下MPFL)再建術を施行後の長期経過を調査できた5例5膝で,手術時平均年齢は30.8歳,術後調査期間は平均11.8年であった.術後成績の評価では,Kujala scoreが術前平均66.2点から術後94.4点に改善し,Crosby and Insall法ではexellent 3膝,good 2膝であった.単純X線像では,全例膝蓋大腿関節の適合性は良好で,変形性変化の進行も見られなかった.今回の結果は本術式の長期にわたる有効性と安全性を示すものと考える.

1ルート法前十字靱帯再建術における𦙾骨側骨孔方向の検討

著者: 市場厚志 ,   小田幸作 ,   岸本郁男

ページ範囲:P.1149 - P.1154

 Trans-tibial techniqueを用いた1ルート法前十字靱帯(ACL)再建術において,𦙾骨側の骨孔方向が再建靱帯に与える影響について検討した.手術は,全例骨付き膝蓋腱を吸収性interference screwで固定した.X線にて𦙾骨骨孔の方向(正面像),位置(側面像)を,MRIにて,大腿骨骨孔の顆間窩での位置,後十字靱帯(PCL)とのインピンジメントの有無の検討を行った.再建靱帯の評価をMRIにて行い(MRI点数),骨孔位置との関連を調べた.結果では,𦙾骨骨孔の冠状面での方向は,61~65°においてMRI点数は良好であった.側面での𦙾骨骨孔が前方である症例は,大腿骨の骨孔が顆間窩の高い位置に作製されており,このような症例では,PCLとのインピンジメントを生じて,MRI点数も低くなる傾向を示した.

背側転位型橈骨遠位端骨折に対する掌側ロッキングプレート固定の治療成績

著者: 森谷浩治 ,   斎藤英彦 ,   高橋勇二 ,   大井宏之

ページ範囲:P.1155 - P.1158

 Condylar stabilizing法を施行した背側転位型橈骨遠位端骨折31例31骨折を対象にX線形態計測,自動関節可動域,握力の推移について調査した.尺側傾斜,掌側傾斜,尺骨変異の整復位損失は,0.2°,0.7°,0.8mmであった.術後12週までに手関節背屈は健側比87%,掌屈81%,回外91%,回内95%,握力79%に回復した.手関節尺側部痛を7例に認めた.TFCC損傷が原因と考え,手関節鏡でDRUJ不安定性を生じさせるようなTFCC損傷の有無を確認している.

小児大腿骨頚部骨折の治療経験

著者: 井本憲志 ,   高田潤一 ,   大寺浩造 ,   大木豪介 ,   佐々木浩一 ,   名越智 ,   桑原弘樹 ,   山下敏彦

ページ範囲:P.1159 - P.1162

 小児の大腿骨頚部骨折は,比較的稀な骨折である.今回,当教室の関連施設で治療された10症例10股について,骨折型,治療方法および治療成績について調査した.男児5例,女児5例で平均年齢は9.5歳であった.骨折型はDelbet-Colonna分類でⅠ型が1股,Ⅱ型が2股,Ⅲ型が5股,Ⅳ型が1股,転子下骨折が1股であった.即日手術を施行した症例が4股,牽引を施行した症例が6股であったが,最終的に7股が観血的内固定による手術療法となった.合併症は1股に大腿骨頭壊死を,1股に高度の頚部変形を認めた.

症例報告

Milroy病の母子例

著者: 二井英二 ,   西山正紀 ,   辻井雅也 ,   小俣真 ,   二谷武 ,   内田淳正 ,   山崎征治

ページ範囲:P.1163 - P.1167

 Milroy病(先天性遺伝性リンパ浮腫)は,生下時より下肢にリンパ浮腫のみられる極めて稀な遺伝性疾患である.今回われわれは,生後1カ月の女児で両側下腿から足部にかけて著明なリンパ性浮腫を認め,母親にも同様の症状がみられたMilroy病と思われる母子例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告した.Milroy病の原因遺伝子は,リンパ管内皮に発現しているvascular endotherial growth factor receptor 3(VEGFR3)であることが判明しており,母子ともにVEGFR3において異常所見が認められた.予後は比較的良好とされているが,悪性化例の報告も散見されることから,臨床症状の注意深い経過観察が重要であると思われた.

腰椎椎間板ヘルニアを合併したfar-out syndromeの1例

著者: 石堂康弘 ,   武富栄二 ,   砂原伸彦 ,   濱田裕美 ,   永田政仁 ,   小宮節郎

ページ範囲:P.1169 - P.1172

 Far-out syndromeとは,椎間孔出口よりさらに外側で,L5神経根が障害される病態で稀な疾患である.今回われわれは,他椎間の椎間板ヘルニアを合併したfar-out syndromeの1例を経験した.far-out syndromeの診断は,選択的神経根造影と神経根造影後のCTによって確認できた.また3D-CTによって,L5横突起と仙骨の間の異常関節に2次的に骨棘が形成されているのが確認できた.移行椎を伴う神経根障害の診断においては,far-out syndromeにも留意が必要である.

下肢固定後に肺塞栓症を生じた外来患者の1例―外来での説明と予防

著者: 西谷江平 ,   百名克文 ,   麻田義之 ,   玉置康之 ,   栗山新一

ページ範囲:P.1173 - P.1176

 症例は56歳,女性である.既往歴に高脂血症があった.左膝内障の診断の下に,救急外来で左大腿~足部までシーネ固定を受けた.36時間後の外来受診時にシーネを除去された.歩行を開始した直後に肺塞栓症を発症した.直ちに治療を開始し救命しえた.深部静脈血栓症(DVT),肺塞栓症(PE)に対する予防法は,入院患者に対しては確立されつつあるが,外来患者の下肢不動化に対しては,いまだ確立された予防法は存在しない.下肢ギプス固定はDVT,PEの強い危険因子であるが,外来患者においては薬物的予防法の実践は困難であり,理学的予防法のうちでも限られたものを使用することになる.この症例を経験した後,当院ではギプスやシーネ固定時に患者に渡していたギプス障害のパンフレットにDVTの項目を追加し,患者への啓蒙に努めている.早期発見・治療のためには医療従事者が,下肢不働化がDVTのリスクファクターになりえることを理解することが必要である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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