icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科40巻11号

2005年11月発行

雑誌目次

視座

新医師臨床研修制度に思う

著者: 津村弘

ページ範囲:P.1187 - P.1188

 新医師臨床研修制度が始まって,2年目に入り,来年は臨床研修を終了した医師が誕生する.その人材を確保するため,いわゆる後期臨床研修の勧誘が白熱してきている.

 鳴物入りで始まった新医師臨床研修制度は,蓋を開けてみると,研修医の大都会集中を生み出し,地域偏在を加速した.たくさんの研修医が集中した沖縄の病院もあることから,地域偏在は制度の問題ではなく,研修医を集めることができなかった病院の責任と指摘する意見もある.確かに魅力的な研修カリキュラムを提供できさえすれば,研修医を集めることはできるのであろう.しかし,大学病院ですら,わずかのスタッフで日常診療に追われている現状では,通常の病院で“充実した研修”を提供することは至難であることも事実である.

誌上シンポジウム 整形外科疾患における骨代謝マーカーの応用

緒言 フリーアクセス

著者: 遠藤直人

ページ範囲:P.1190 - P.1191

 この誌上シンポジウムは,第53回東日本整形外科学会(会長=荻野利彦山形大学教授)で行われたシンポジウムを誌上に掲載したものである.

 現在,運動器疾患の治療と予防に携わる整形外科医は高齢者の健康寿命の延伸,すなわち健康で自立した生活を維持・増進することに力を注いでいる.骨粗鬆症をはじめ,関節リウマチ,脊椎疾患,さらには骨・関節に発生した腫瘍などは疼痛,可動域制限などを来し,ひいてはADL,QOLを低下させ,自立性を喪失,障害する.このような疾患を診断,治療方針を決定,治療効果の評価するうえでX線,MRIなどの画像所見に加え,骨代謝マーカーが実用化されつつある.骨粗鬆症を例にとれば,かつては骨粗鬆症を診断するうえで血液・尿検査では“カルシウム,リン,アルカリフォスファターゼ値など,異常を示さない,むしろ正常範囲内であること”が重要であった.これは鑑別診断として有用ではあったが,骨粗鬆症そのものの病態,あるいは治療方針決定,薬剤の効果判定に応用できるものではなかった.

関節リウマチにおける骨代謝マーカー

著者: 桃原茂樹

ページ範囲:P.1193 - P.1198

 関節リウマチ(RA)における生化学的マーカーには,赤沈,CRP,リウマトイド因子やMMP-3,抗CCP抗体など様々なマーカーが臨床応用されている.骨代謝マーカーは骨粗鬆症などに使用されているが,RAでは骨破壊や特有の続発性骨粗鬆症の病態を呈することからRAでの骨代謝マーカーの測定意義は大きい.つまりRAでは,全身性および局所の骨量減少,続発性骨粗鬆症,骨折,局所の関節での骨びらんなど様々な骨の病態を呈するが,臨床症状や炎症性のパラメーター,画像のみでは定量や鋭敏さに欠ける.そこで,骨代謝マーカーが骨・関節の状態を知るうえで有用になってくる.

骨腫瘍における骨代謝マーカーの臨床的評価

著者: 小山内俊久 ,   土屋登嗣 ,   石川朗 ,   菅原正登 ,   荻野利彦

ページ範囲:P.1199 - P.1203

 転移性骨腫瘍と原発性骨腫瘍における骨代謝マーカーの臨床的評価について検討した.骨転移群70例と非骨転移群20例の比較では,骨転移群で骨吸収マーカーが有意に高値を示したが,スクリーニングとして用いるには問題があった.骨転移群に行ったビスフォスフォネート療法の効果判定には骨吸収マーカーが有用であった.予後の推測には骨吸収マーカーが有用と思われた.小児では骨代謝マーカーの値が年齢や性によって変動するため,小児骨肉腫の個々のデータを臨床的に評価することは困難であった.原発性骨腫瘍における骨代謝マーカーの臨床的評価は確立されていないが,今後の研究に期待がかかる.

骨形成タンパク質を応用した後側方固定術後の骨代謝動態について―骨代謝マーカーによる解析

著者: 重信恵一 ,   橋本友幸 ,   金山雅弘 ,   大羽文博

ページ範囲:P.1205 - P.1211

 腰椎変性すべり症に対して後側方固定術を施行した患者を対象に,術前後の骨代謝マーカーの変動を自家骨移植群と骨形成因子(OP-1)移植群の間で比較した.骨吸収マーカーの変動は両群間で差を認めなかったが,骨形成マーカーにおいてはⅠ型プロコラーゲンC末端プロペプチドはOP-1群のほうがより早期に高いピークを示していた.また,骨型アルカリフォスファターゼもOP-1群のほうがより早期にピークとなっていた.以上より腰椎後側方固定術においてOP-1群のほうが自家骨群よりも骨形成の速度が速い可能性が示唆された.

閉経後女性における骨代謝マーカーと血管石灰化

著者: 射場浩介 ,   高田潤一 ,   畠山尚子 ,   山下敏彦

ページ範囲:P.1213 - P.1216

 閉経後女性264例について血管石灰化の有無と骨密度値,骨代謝マーカー値との関係について検討した.骨密度の低下に伴い血管石灰化を有する患者の割合が増加する傾向を認めた.原発性骨粗鬆症患者130例中では73例(56.2%)に血管石灰化を認めた.さらに,血管石灰化のある患者は石灰化のない患者と比較して血清中の骨型アルカリフォスファターゼ(BAP)値が有意に高かった.このことはBAP値の上昇が骨粗鬆症患者における血管の石灰化過程を反映している可能性があり興味深い.

骨粗鬆症における骨代謝マーカーの適正使用

著者: 市村正一 ,   長谷川雅一 ,   宮本隆 ,   里見和彦 ,   朝妻孝仁

ページ範囲:P.1219 - P.1223

 ビスフォスフォネートの骨吸収抑制効果はアレンドロネートとリセドロネートがほぼ同等で,投与3カ月でほぼプラトーに達し,尿中NTXは約50%低下していた.エチドロネートはやや劣り,3カ月では約35%の低下で,プラトーに達するのは6カ月後であった.また最小有意変化を超える症例はアレンドロネートとリセドロネートでは3カ月で約80%,6カ月では約90%であったが,エチドロネートではそれぞれ50%,82%であった.骨代謝マーカーは早期の治療効果判定を可能にし,骨粗鬆症の診療においてもはや必須の検査項目といえる.

論述

頚椎椎弓形成術後の軸性疼痛―前向き研究

著者: 細野昇 ,   坂浦博伸 ,   向井克容 ,   藤井隆太朗 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.1225 - P.1230

 頚椎椎弓形成術後に生じる軸性疼痛の原因を解明するため前向きに検討を行った.われわれは以前より蝶番側の深層伸筋を딵離しない術式を採用しているが,この術式を経年的にC3-7形成からC3-6形成へ,さらに左딵離から右딵離へと変更した.軸性疼痛はC3-7群30%,C3-6群7.5%とC3-6群で有意に少なかった.C3-6群のうち左딵離群と右딵離群を比べると,術後早期に一過性の軸性疼痛が筋딵離(開放)側に出現したがごく軽いものであった.以上より,軸性疼痛の発生にはC7への手術侵襲が強く関与しており,深層伸筋딵離の関与は少ないものと考えられた.

境界領域/知っておきたい

Tumor dormancy therapy(がん休眠療法)の概念と実際

著者: 高橋豊

ページ範囲:P.1232 - P.1235

 癌治療の目標は教科書を紐解くまでもなく,癌の消滅(すなわち治癒)である.比較的進行度が低い固形癌に対する手術療法や,血液癌に対する化学療法はそれに成功してきた.しかし,遠隔転移を伴う固形癌では,手術と化学療法を駆使しても癌を消滅できない症例がほとんどである.その大きな理由は,固形癌の多くは,化学療法でそれを消滅させることが極めて困難なためである.

 癌を完全に消滅できないならば,次の目標は生存期間の延長であることはいうまでもない.しかし,ここで医学界が誤解したのは,生存期間の延長は,癌を小さくすることからしか得られないということであった.確かに癌を完全に消滅できなくても,ほとんど切除できた場合(肉眼的治癒切除)や,化学療法でかなり縮小できた場合〔(肉眼的完全奏効(CR:complete response)〕は,延命につながっていることはいうまでもない.しかし,どの程度縮小すれば有意義な延命につながるかという根拠も検討されることなく,現在の化学療法ではわずか50%縮小を有効と判定してきた.そのためphaseⅡで成功したレジメがphaseⅢで逆転するという例は枚挙に遑がない.

インテリジェント義足(歩調追随性膝継手)

著者: 吉村理

ページ範囲:P.1236 - P.1238

■はじめに

 義足は下肢切断者の機能と形態を代償するもので,近年の進歩・開発はめざましく,下肢切断者の「楽に歩く,早く歩く,きれいに歩く,スポーツに使える」といった要望にもある程度満足していただける状況になってきている.

 義足の3要素は,
 ①切断端を痛みなく快適に収納し,歩行時に体重を支え,断端の力を効率よく義足に伝える役割のソケット,
 ②人間の関節にあたる継手,幹部,足部などの部品,
 ③ソケットと各種部品の最適な位置関係に組み立て,円滑な歩行をするためのアライメント,である.

 最近,義足の話題の1つにインテリジェント大腿義足(以下IP義足)がある.IP義足では大腿切断者は,歩行速度に応じて義足膝継手の振り出し速度をマイクロコンピュータにより制御し,ゆっくり歩きから早歩きまで歩行速度を自由に変えることが可能である.

臨床経験

仙骨嚢腫に対する画像診断の有用性の検討

著者: 池田光正 ,   松村文典 ,   福田寛二 ,   浜西千秋

ページ範囲:P.1239 - P.1241

 仙骨嚢腫の診断および治療に有効な術前検査を知るために術前画像検査と術中所見を比較検討した.嚢腫発見にはMRIが有効であるが,嚢腫の発生している神経根の特定には造影CTでのMPR(multi planer reconstruction)冠状断像が有効であった.

小児下肢回旋変形に対する経皮的下腿回旋骨切り術の経験

著者: 萬納寺誓人 ,   亀ヶ谷真琴 ,   西須孝 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.1243 - P.1250

 小児下肢回旋変形に対する下腿遠位での経皮的回旋骨切り術について報告する.症例は5例8肢(内旋歩行1例2肢,外旋歩行1例1肢,二分脊椎に伴う下肢内旋変形3例5肢)である.これらの症例に対してドリルを用いたcorticotomyとKワイヤー固定による下腿遠位での経皮的回旋骨切り術を行った.手術時年齢は9~14歳(平均11歳)であった.全症例で矯正に伴い立位姿勢,歩容の改善を認め,重篤な合併症はなかった.われわれが用いた経皮的回旋骨切り術は簡便であり手術創も小さく美容的観点からも優れた手術法と思われた.

神経障害性脊椎症に対する手術的治療

著者: 須田義朗 ,   塩田匡宣 ,   河野仁 ,   町田正文 ,   山岸正明 ,   斉藤正史

ページ範囲:P.1251 - P.1256

 神経障害性脊椎症は痛覚や固有知覚の欠如により,繰り返される外力によって脊椎に高度の不安定性と破壊が生じる疾患である.われわれは本疾患の6例に対して手術的治療を行った.手術においては,前方より病巣掻爬と自家骨移植を行い,後方より強固なinstrumentationによって固定を行うのが原則である.骨破壊が軽度であれば,後方椎体間固定術によっても対処できる.また,神経障害性脊椎症に感染を伴った2例を経験した.不安定性が強く,感染を伴っている症例には,脊椎創外固定が有用であった.

Pedicle screw fixationを併用したPLIF施行例における術後脊髄造影所見の検討

著者: 斎藤元 ,   森下益多朗 ,   神崎浩二 ,   小俣貴弘 ,   石田将也 ,   塩原恭介 ,   石原陽平

ページ範囲:P.1257 - P.1262

 腰椎変性疾患に対するPLIF(後方進入椎体間固定術)は除圧および脊柱支持性を再建できるが,神経組織への侵襲が危惧される.PLIF施行例のうち術前後脊髄造影を行った36例を用いて硬膜,神経根への影響を検討した.神経根像は,多彩な像を呈し癒着性変化と考えられる像も認めたが,臨床成績とは一致しなかった.硬膜管の広がりをCTM(脊髄造影および造影後CT)にて検討すると術後は有意に広がり,また馬尾の集束像などの硬膜内での癒着性変化を疑わせる所見も認められなかった.PS(pedicle screw)を併用したPLIFは,危惧された癒着もなく術後硬膜の広がりを得ることができた.

症例報告

Diastematomyeliaの1例

著者: 松本卓二 ,   川上守 ,   安藤宗治 ,   玉置哲也 ,   山田宏 ,   吉田宗人

ページ範囲:P.1263 - P.1268

 今回,われわれは極めて稀な先天性の形成異常の1つである脊髄正中離開症(diastematomyelia)の1例を経験したので報告する.単純X線像上胸腰椎移行部で右凸の側弯およびL4,5,およびS1で二分脊椎を認め,MRI,CTにてL2/3椎間板高位に骨性中隔を伴ったdiastematomyeliaを認めた.筋力低下と足変形を認めたため,早急に手術的加療を選択した.手術はL1,2,3の椎弓切除術および骨性中核切除術を脊髄モニタリング使用下に施行した.経過は良好であるが,今後の慎重な経過観察が必要であると考える.

上肢に発生したネコひっかき病の2例

著者: 金子哲也 ,   篠崎哲也 ,   佐藤潤香 ,   大澤敏久 ,   渡辺秀臣 ,   高岸憲二

ページ範囲:P.1269 - P.1272

 ネコひっかき病(CSD)は若年者に好発する感染性リンパ節炎として知られている.われわれは,上肢に生じたCSDを2例経験した.2症例とも特に誘因なく上肢に有痛性のリンパ節腫脹が生じた.ネコとの接触歴を1例に認めた.血中バルトネラ抗体価は2例とも上昇し,1例では病理組織検査も併用された.本疾患の確定診断には抗体価測定が有用であった.上肢のリンパ節腫脹を診た場合には,CSDも鑑別診断におくべきである.

和式トイレ使用による総腓骨神経麻痺の1例

著者: 佐藤多賀子 ,   星野雅洋 ,   古賀昭義 ,   原元彦 ,   龍順之助

ページ範囲:P.1273 - P.1276

 今回われわれは和式トイレ使用により生じた総腓骨神経麻痺を経験したので報告する.症例は21歳の女性で,和式トイレを使用した後より,左足関節の背屈が不可能となった.初診時,総腓骨神経支配筋の筋力低下を認め,下腿外側から足背にかけて軽度の知覚障害を認めた.電気生理学的検査では腓骨頭で複合筋活動電位の振幅の低下,伝導速度の低下を認めた.1カ月後の再検査では筋力,電気生理学的検査とも回復した.経過,発症機序,和式トイレ使用により起こりうる障害などを考察し,予防法と対策について検討した.

高校野球選手に発生した肩甲関節窩離断性骨軟骨炎の1例

著者: 桃井義敬 ,   村成幸 ,   後藤康夫 ,   荻野利彦

ページ範囲:P.1277 - P.1281

 症例は17歳,男性で,右肩投球時痛を主訴に来院した.肩甲関節窩離断性骨軟骨炎と診断した.野球への早期復帰を希望し手術を行った.関節鏡視では,関節窩中央に軟骨딵離を認め,吸収性ピンで軟骨片を固定した.再鏡視では軟骨片は固定されておらず,これを切除した.その後,投球時痛は消失し,野球に復帰した.本症例では外傷歴がなく,関節面に限局した病変であり,離断性骨軟骨炎と診断した.早期の競技復帰を望む症例に対しては,軟骨片切除は効果的な治療法である.しかし,将来的には変形性関節症の発生が危惧される.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら