icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科40巻12号

2005年12月発行

雑誌目次

視座

災害派遣チーム(DMAT)の確立と「避けられる死」の減少をめざして

著者: 金子和夫

ページ範囲:P.1291 - P.1292

 先日,関東地方に震度5強の地震が発生し電車の運行が止まり,東京のとある駅で3時間余り釘付けとなりました.その間,駅の放送では詳細な情報が伝えられず,被災状況もわからずいらいらして復旧を待つのみでありました.電車運行の復旧に7時間を要した線もあったと聞き,エレベーター停止などとともに大きな問題となりました.

 震度5でこのような状況であることを考えますと,震度6や7の大地震が生じたときは自分の生命さえ危ぶまれ,実際に十分な救護活動ができる保証はないと痛感いたしました.

論述

60歳代女性で発症する変形性膝関節症の身体的特徴について

著者: 月村規子 ,   戸田佳孝

ページ範囲:P.1293 - P.1298

 体重に対する下肢筋肉量の割合(下肢筋率)の低下は女性の変形性膝関節症(膝OA)の病因の1つである.本研究では下肢筋率を年齢層別に計測し,膝OA予防のための減量や下肢筋力強化運動がどの年齢層で重要かを検討した.20歳から79歳までの健常女性341例(コントロール群)と発症から3年以内の初期女性膝OA患者256例(膝OA群)の下肢筋率を8極型生体電気抵抗計を用いて計測した.下肢筋率は40歳代,50歳代,60歳代,70歳代に分類し,両群間で比較した.結果として下肢筋率は膝OA群とコントロール群の間で40歳代,50歳代,70歳代では有意差はみられなかったが,60歳代では膝OA群で有意な低値が観察された(p=0.012).下肢筋肉量は加齢とともに低下するが,体重は閉経(日本人平均閉経年齢は50歳)の後,徐々に増加する.このため,特に60歳代では減量や下肢筋力強化に努めることが膝OAの1つの病態として,その身体的特徴を明らかにした.

腰椎変性疾患に対するmonoportal PLIFの手術成績

著者: 吉田裕俊 ,   佐藤浩一 ,   北原建彰 ,   江幡重人 ,   新井嘉容 ,   重光勇男

ページ範囲:P.1299 - P.1305

 当科で施行した単椎間monoportal PLIFの手術成績を調査した.%slipは術前22.9±7.6%が術後1年で13.7±7.5%,disc angleは術前4.5±7.5°が術後1年で7.2±4.7°に改善した.手術時間は214±25分,術中出血量は143±96mlであり,麻痺悪化1例と偽関節の1例に再手術を施行した.JOAスコアは術前14.5±4.9点が術後1年で25.5±3.0点に改善し,改善率は76%であった.術後1年の時点で45例中33例にcage前方の移植骨の連続性が認められ骨癒合と判定した.Cageの沈下は2例,4.4%に認められた.片側より椎体間固定を行うmonoportal PLIFは硬膜外血管,神経組織に対し低侵襲であり,従来のPLIFに比べ遜色ない成績が得られた.

高エネルギー頭部外傷における頚椎ルーチンCTの有用性―頚椎CTによって骨傷が判明した,いわゆる頚椎occult fractureの14例

著者: 田島康介 ,   河野克己 ,   佐々木孝 ,   山中一良 ,   野本聡 ,   菊地謙太郎 ,   武井照江 ,   宮本裕也

ページ範囲:P.1307 - P.1312

 われわれは,高エネルギー外傷で当センターを受診した頭部外傷患者全例に頚椎CTをルーチンで施行し,頚椎単純X線写真上骨傷を判定しえなかった103例中13例(12.6%)に頚椎CT上骨傷を認めた.現在までに経験した,いわゆる「頚椎occult fracture」の14例について検討した.今回の結果から,頚椎単純X線写真上骨傷を認めなくとも,実際は頚椎に骨傷を伴っているケースが高い割合で潜在していることが示唆された.高エネルギー外傷において頭部に外傷を認める場合は,頭部CTに加え頚椎CTをルーチンに施行することは有用であると思われた.

最新基礎科学/知っておきたい

DC-STAMP

著者: 八木満 ,   宮本健史 ,   須田年生 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.1314 - P.1316

 骨量は骨形成を担う骨芽細胞と骨吸収を担う破骨細胞の繊細な協調により維持されている.何らかの原因で両者のバランスに狂いが生じたとき,骨粗鬆症,大理石様骨病などの骨量異常を生じる.これらの病態は破骨細胞の異常な活性化または機能障害であり,病的骨折のほか,骨髄炎,関節リウマチなどの炎症性疾患でも破骨細胞の活性化による骨,関節破壊を認めることから,破骨細胞の生物学的理解は骨代謝疾患を理解するうえで重要である.

 破骨細胞は造血幹細胞に由来し,単球/マクロファージと共通の前駆細胞に分化した後,骨芽細胞からのサイトカインM-CSF(マクロファージコロニー刺激因子)の刺激によりRANK(receptor activator of NFκB)受容体を発現し,続くRANKLの刺激により単核の破骨細胞に分化する.単核の破骨細胞が細胞融合を起こすことで,時に100核以上の巨大な多核の成熟破骨細胞が形成されることが知られている1,7)(図).

連載 医者も知りたい【医者のはなし】 17

日本赤十字創始者 佐野常民(1822-1902) その2

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1318 - P.1321

■はじめに

 前回(40巻10号)は佐野常民の前半の生涯を述べた.慶応3年(1867),常民が45歳のときパリ万博に佐賀藩代表として派遣され,国際赤十字社が組織されていることを知った.さらに明治5年(1872)にはウイーン万博に派遣される日本代表の副総裁となり,渡欧した.さらに彼は欧州で国際赤十字社の見聞を深めて帰国した.明治10年(1877)に,「西南の役」が勃発し,常民は博愛社を結成して,両軍の負傷者を救護活動した.これが10年後に,日本赤十字社の結成へと発展していった.そして彼は初代日本赤十字社社長に就任し,さらに彼は明治政府で縦横な活躍をしていった.

 今回は,常民がパリ万博に佐賀藩の代表として参加し,戊辰の役の知らせを受けて,急遽帰国するところまでを述べる.

整形外科と蘭學・16

楢林鎮山とパレ

著者: 川嶌眞人

ページ範囲:P.1322 - P.1324

■はじめに

 中津医学校校長・大江雲澤の医療にも多くの影響を与えた華岡青洲の外科学は,弟子たちの手によって全国的に知られるようになった.青洲は自ら著作することは少なかったといわれ,伝えられている多くの著作は弟子たちの手によるものといわれている.華岡流の整骨法で有名なものが肩関節の脱臼整復法である.患者の腋窩に天秤棒を通してかつぎ上げ,術者が腕を引っ張りながら脱臼を整復するというものであり,この図はいろいろな形で今日に至るまで伝わっている(図1,2).この整復法の原図といえるものを書いたのが「近代外科の父」とも称されているアンブロアズ・パレ(1510~1590)である.

 この脱臼整復法は,前野良沢の師でもあった吉雄耕牛が書いた1790年の免許皆伝書や,杉田玄白の師,西元哲が1735年に書いた「金瘡跌撲療治の書」や,伊良子光顕が1767年に出版した「外科訓蒙図彙」という書にも登場しているので,江戸時代の整復法としてはよほど知られていたものであろう.

 このパレ由来の脱臼整復法を最も早く紹介した書が宝永3年(1706)に出版された「紅夷外科宗伝」であり(図3,4),平戸の観光資料館でみた見事な彩色図には大いに感動した記憶がある.本稿ではこの書の執筆者である長崎のオランダ通詞で外科医であった楢林鎮山について述べてみたい.

臨床経験

足根骨癒合症の観血的治療

著者: 高野玲子 ,   斎藤英彦 ,   岡田充弘 ,   長野純二 ,   小林良充

ページ範囲:P.1325 - P.1329

 癒合部切除による関節形成術で自・他覚的に症状改善をみた距・踵骨癒合症2例,踵・舟状骨癒合症の1例について報告した.距・踵骨癒合症に対する癒合部切除術は従来行われてきた3関節固定術に比べて低侵襲で,除痛に加え関節機能の獲得が見込める,より望ましい術式である.術前にCT像で癒合部の範囲を評価したうえで選択すべきである.踵・舟状骨癒合症の1例は癒合部切除術の結果できた空隙に外側果上皮弁による血管茎付き脂肪弁を充填した.本方法は血腫貯留と分離部の再癒合を効果的に予防でき,有用な方法であると考えている.

腰椎椎間板ヘルニアに対するmicroendoscopic discectomyの手術成績と合併症について

著者: 小峰伸彦 ,   新屋陽一

ページ範囲:P.1331 - P.1333

 2002年7月から2004年9月までにMED法を行った40例を対象に,手術時間,JOAスコア,術後鎮痛剤使用の有無,在院日数,合併症・再発の有無を調査検討した.手術時間は平均97.0分を要したが,JOAスコアの改善率は93.7%と良好であり,術後鎮痛剤使用率は22.5%と少なく,在院日数も5.4日と短かった.合併症は初期に硬膜損傷とヘルニアの早期再発を,後期に多量出血を認めた.MED法は低侵襲で良好な手術成績を上げることができるが,技術レベルに応じた合併症の存在に注意すべきである.

急性期腰痛患者に対する安静・運動療法を基礎とした入院治療

著者: 木下厳太郎 ,   白木孝人 ,   米湊裕 ,   糸原仁

ページ範囲:P.1335 - P.1341

 急性腰痛患者に対する安静・運動療法を基礎としたクリニカルパスの有用性を検討した.2003年1月~2004年4月までに入院した19~97(平均63)歳の男49例,女79例(計128例)を対象とした.診断は,新鮮圧迫骨折59例,腰椎椎間板ヘルニア26例,腰部脊柱管狭窄症12例,陳旧性圧迫骨折8例,変形性腰椎症6例,腰部打撲傷6例,急性腰痛症11例であった.治療方法,入院期間,転帰を調査した.全体の平均入院期間は38.9日で,83%が軽快し自宅退院した.疾患別に平均入院期間は異なっており,脊椎圧迫骨折患者では転院率が高かった.全体では薬物療法が72%に行われていたが,その多くは屯用の坐剤か外用薬であった.外固定が32%,物理療法が11%,ブロック注射が5%,手術が2%に行われた.腰椎椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症において補助療法の使用頻度が高かった.クリニカルパスを疾患別ごとに修正し,圧迫骨折患者の介護保険制度下支援への移行を考慮する必要がある.

外傷性・術後皮膚潰瘍に対し有効であったbasic fibroblast growth factor(bFGF),prostaglandin E1(PGE1)製剤併用療法の小経験

著者: 杉田秀幸 ,   鱒渕秀男 ,   横井隆明 ,   山田恵 ,   正木創平 ,   龍順之助

ページ範囲:P.1343 - P.1346

 外傷性・術後皮膚潰瘍に対し,bFGF,PGE1製剤併用療法が有用であったので報告する.対象は外傷が4例,術後潰瘍が2例,計6例で,bFGF製剤を創面に散布後PGE1製剤を十分に塗布し,創面が湿潤状態を保つように被覆した.本療法開始後,外傷が平均8.3日,術後潰瘍が平均41日で良好な肉芽形成,上皮化が得られた.bFGF製剤は強力な血管新生作用,肉芽形成促進作用を持ち,PGE1製剤は血管拡張作用,血小板凝集作用を持つ.本療法は,外傷性・術後皮膚潰瘍の治癒期間を短縮する可能性があると考えられた.

ビスフォスフォネートによる骨吸収マーカーの変動―アレンドロネートとリセドロネートの比較

著者: 高田潤一 ,   射場浩介 ,   中島門太 ,   金谷邦人 ,   前野康次郎 ,   山下敏彦

ページ範囲:P.1347 - P.1350

 アレンドロネートまたはリセドロネートの投与後の骨吸収マーカー(尿NTX)の変動について検討した.投与1カ月後と6カ月後の尿NTX低下率は,アレンドロネートが大きい傾向にあったものの両群間に有意差は認めなかった.骨折高リスク症例(NTX初期値:54.3以上)では,1カ月後ではアレンドロネートの低下率が有意に大きかったが,6カ月後には両群間に有意差は認められなかった.また,最小有意変化(35%以上の低下)を示した症例の割合では両群に有意差は認められなかったことから,両者の有効性に差はないことが推察された.

症例報告

高齢者に発生した外傷性胸骨骨折に対して手術的治療を施した1例

著者: 相良学爾 ,   大和俊信

ページ範囲:P.1351 - P.1354

 症例は84歳,女性.坂道で転倒して受傷した.遠位骨片が近位骨片前方に乗り上げた胸骨体部横骨折と第4胸椎骨折を認めた.亀背も強く上半身を起こすとさらに骨折部は転位した.胸骨骨折部の不安定性と疼痛に対し,reconstruction plateによる骨接合術および,骨移植術を施行した.術後疼痛は軽快し,2日目でベッド上ギャッジアップが可能となり,7カ月目で骨癒合を認めた.渉猟しえた限り外傷性胸骨骨折の80歳以上の手術報告例はなく,手術による固定は高齢者における早期ADL改善に非常に有効であった.

化膿性胸鎖関節炎の2例

著者: 三輪真嗣 ,   天谷信二郎 ,   五之治行雄 ,   岡山忠樹 ,   高戸慶 ,   青竹康雄

ページ範囲:P.1355 - P.1359

 CTガイド下穿刺が有用であった化膿性胸鎖関節炎の2例を経験した.胸鎖関節に炎症所見を認め,CTで胸鎖関節の破壊,MRIで胸鎖関節の信号変化を認めた.化膿性胸鎖関節炎と診断し,CTガイド下で穿刺し,ドレナージ,抗生剤投与によりCRPは沈静化した.培養では黄色ブドウ球菌,表皮ブドウ球菌が検出された.化膿性胸鎖関節炎で溶骨像や骨髄炎を認める場合,外科的治療の適応となるが,本例では保存的治療で良好な結果が得られた.CTガイドの利点として,正確な位置へのドレーン留置,気胸などの合併症予防が挙げられる.

クラシックバレエ練習生に生じた弾発母趾の1例

著者: 池野敬 ,   池田和夫 ,   橋本典之 ,   舩木清人 ,   伊藤貴明 ,   原隆 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.1361 - P.1364

 手指の弾発現象を伴う腱놼炎は日常診療でしばしば経験するが,足趾に生じる例は稀である.クラシックバレエ練習生に生じた長母趾屈筋腱腱놼炎に対し腱놼切開術を行い,バレエに復帰できた1例を経験した.症例は12歳の女児で両側の母趾が屈曲位から伸展する際に大きな音を伴った弾発現象を認めた.腱놼の遠位で長母趾屈筋腱の肥厚を認め,両側の腱놼切開術を施行した.術後,弾発現象は消失し,術後4週からクラシックバレエを再開できた.

悪性変化を示した巨大粉瘤の1例

著者: 楫野良知 ,   毛利良彦 ,   吉田弘範 ,   鳥畠康充 ,   増田信二

ページ範囲:P.1365 - P.1369

 46歳,男性.10年前より殿部に無症候性の腫瘤を自覚していた.ここ数年で増大傾向を認めた.13×15cmの弾性軟から一部硬の巨大な腫瘤が存在し,MRIでは嚢腫壁から隆起する充実性の病変を認めた.拡大切除術を行い,病理学的検索で嚢腫壁から連続的に発生する高分化型扁平上皮癌を認めた.局所放射線療法を追加したが,患者は2カ月後に肺多発転移による呼吸不全のため死亡した.長期にわたり存在し,短期間に増大傾向を示す粉瘤には悪性変化の可能性があり,慎重な病理学的検索が必要である.

自家骨移植による再建を行った第1中手骨軟骨肉腫の1例

著者: 新美塁 ,   楠崎克之 ,   小畑秀司 ,   松峯昭彦 ,   内田淳正

ページ範囲:P.1371 - P.1375

 76歳の男性の左第1中手骨に発生した軟骨肉腫に対して腫瘍広範切除術後に腸骨からの自家骨移植を用いた患肢再建を行った.摘出腫瘍はgrade 2の軟骨肉腫であったが,手術後22カ月経過し局所再発や遠隔転移なく良好に経過している.再建した母指の機能も良好である.手足発生の軟骨肉腫は稀であるが,生命予後は良好であることが多い.広範切除や患肢機能の再建が困難なことから切断術が選択されることが多いが,第1中手骨の場合は母指機能の重要性を考えるとできるだけ患肢温存療法を行ったほうがよいと考える.

大腿に発生した皮下アミロイド腫瘤の1例

著者: 平川雅士 ,   高下光弘 ,   平博文 ,   宮崎正志 ,   津村弘

ページ範囲:P.1377 - P.1380

 アミロイド沈着による腫瘤形成は,ほとんどの場合,何かしらの基礎疾患を有する.今回,われわれは何ら基礎疾患を有さず右大腿にアミロイド腫瘤を生じた1症例を経験したので報告する.66歳,男性.右大腿外側から背側にかけて,8×18cmの表面平滑で可動性の乏しい腫瘤を触知した.病理組織検査では滑液包炎の所見と滑膜上皮に限局したアミロイドの沈着を認めた.組織全体がアミロイド沈着で占められるamyloidomaと異なり,大腿後面の皮下滑液包炎にアミロイドが沈着し腫瘤状に増大したものと考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら