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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科40巻2号

2005年02月発行

雑誌目次

視座

スポーツ選手の手術

著者: 岡義範

ページ範囲:P.113 - P.115

 昨年夏のアテネオリンピックで,日本人選手が例になく多くのメダルを獲得したことは興奮と感動の記憶としてなお真新しい.金メダルを中心にどうしてかくも大量のメダルを獲得し,急に立派な成績を残し得たのか,部外者の私には理解できないものがある.

 能力のある選手がたまたま多く存在したためかもしれないが,それだけで世界の頂点を極めることができるはずはない.水泳の水着,マラソンの靴にみられるように,経済大国・技術立国である現在の日本の高度のテクノロジーを利用した,種々の競技器具やトレーニング法の開発などの科学力で,個々の選手の才能を100%以上引き出すような,科学技術による支援が大きく影響していることは十分考えられる.しかし,それだけでかくも立派な成績が残せるはずはない.個々の競技の技術の向上と精神面の強化が最も大事であり,幼小児期からの選手の育成と技術指導,精神面のイメージトレーニングなどが,従来からの「がむしゃらな練習」「気合い」中心の育成法に取って代わってきたことが大きな要因であろうと思われる.私の所属する大学の柔道部は,周知のごとく世界に冠たる選手を多く輩出しているが,その指導者と話す機会が多々ある.大学に入学してきた選手自体が既に高校までに立派な成績を得てきた選手を獲得していることもあり,彼らに「気合い入れ」を行う指導はとっくの昔から行っておらず,個々の選手の自主的な練習法を尊重し,個々に応じた技術指導・精神面強化に重点を置いているということを聞かされた.もっともなことと感嘆したのは既にかなり前のことである.

誌上シンポジウム 前腕回旋障害の病態と治療

緒言 フリーアクセス

著者: 別府諸兄

ページ範囲:P.116 - P.118

 「前腕回旋障害の病態と治療」は,2004年の第47回日本手の外科学会(大阪医科大学阿部教授会長)でパネルディスカッションとして取り上げられた.この企画は以前からあたためていたものであるが,遠位橈尺関節ならびに骨間膜の病態が解明してきた現在,大変時期を得た,また興味のある内容である.

 前腕の回旋機能は人間が複雑な上肢機能を獲得するために,2本の前腕骨を連結する骨間膜が発達し,支持性と可動性という2つの機能を両立させたものである.この可動性,つまり前腕回旋の機能障害を来すことは,結果的に日常生活に支障を来すことになる.この手関節から前腕にかけての基礎的研究の流れについて考えてみると,1972年にDobyns & Linsheidにより手関節の靱帯損傷が慢性化した手根不安定症(carpal instability)という概念が報告された.手根骨の解剖,バイオメカニクス,治療法の研究が行われ,その解明がなされてきた.日本では米国ほどの高度な手関節外傷が少ないためか,手根不安定症の臨床応用は思ったほどは多くはない.さらに,1981年にはPalmerが手関節尺側にあるtriangular fibrocartilage complex(TFCC:三角線維軟骨複合体)について報告した.手根不安定症の問題が解明されるにつれ,次に手関節尺側部痛について,つまり遠位橈尺関節の不安定症が研究の中心になった.さらに1985~1986年にWhipple,Roth,Poehlingらが現在の実用性の高い手関節鏡システムを確立し,また1985年に本邦の奥津が関節外鏡視下手根管開放術を報告し,手関節周辺に新しい分野を開拓した.その結果,遠位橈尺関節の解剖,TFCCのバイオメカニクスの研究,治療法の開発が進歩した.このように,1980~1990年代には生体力学的な分析の導入,画像診断の進歩(MRI,3-D CT等),鏡視下手術の導入により手関節の周辺の研究が進歩した.この遠位橈尺関節のバイオメカニクスの進歩により,前腕の骨間膜が遠位橈尺関節に与える影響の重要性が問題になってきた.特に,遠位橈尺関節脱臼と骨間膜損傷を伴う橈骨頭骨折を合併した外傷であるEssex-Loprestiは近位・遠位橈尺関節と骨間膜の損傷を同時に受けた破壊的な結果として諸家により報告された.この外傷は初期の治療法の選択が重要であり,骨間膜の持っている前腕での臨床的な役割を明らかにした.当教室の藤田による1995年の前腕骨間膜の解剖学的研究にて,前腕の2本の骨を連結する骨間膜は一様な膜ではなく,橈骨近位から尺骨遠位へと斜走する腱様部と,その遠位および近位にひろがる膜様部から構成されている(図1).また,その機能は前腕筋群の起始として合理的な力の伝達を行うことや,橈骨・尺骨間の安定化および長軸方向の荷重の伝達を担っていることを報告した.さらに,当教室の小泉が前腕回内外運動に伴う,骨間膜の曲げ歪みの検討を行った.腱様部の緊張の変化は常に一定ではなく,部位および肢位により変化し,遠位1/4部では中間位から回外20°まで,中央部では回内10°から中間位で,近位1/4部は回外50°で最も曲げ歪みが低値を示した(図2).その結果,前腕の各肢位により,骨間膜の歪み変化が起こり,これが拘縮とどのような関係にあるかなどが判明してきた.以上より,前腕骨間膜損傷が疑われた場合の固定肢位は中問位から回外20°までがよいと考えたが,まだ意見の分かれるところである.また,この骨間膜はACL損傷の再建と同じで,一度損傷されるとその1次修復は不可能とされている.現在は,その再建術の術式としてBergerらは下腿の骨間膜を応用して,Ostermanらは膝蓋腱を応用して,ともに骨・靱帯・骨を用いた再建法を報告している.本邦では再建の適応となるEssex-Lopresti骨折の頻度が少なく,まだ再建した報告はない.

拘縮の存在部位による前腕骨最適矯正骨切り術

著者: 青木光広

ページ範囲:P.119 - P.124

 われわれは前腕回旋に伴う橈尺骨間拘縮部位に着目し,前腕回旋障害を骨切りで矯正する際の最適部位を見出すために新鮮遺体実験を行った.橈骨または尺骨骨幹部の骨切りで以下の点が明らかになった.橈尺関節の弛みのため橈尺骨は接近し骨間膜は弛緩した.近位橈尺関節固定条件で橈骨近位部および遠位部で骨切りを行った場合,橈骨の回旋が可能であった.しかし,橈骨骨切り部は転位し,変形した.近位橈尺関節固定条件で尺骨骨切りを行った場合,橈骨は回旋せず,前腕は回旋しなかった.遠位橈尺関節固定条件で橈骨骨切りを行った場合,橈骨は回旋せず前腕は回旋しなかった.遠位橈尺関節固定条件で尺骨骨切りを行った場合,骨切り部に転位・変形が少なく,尺骨骨切り遠位部が回旋しつつ前腕の回旋が可能であった.近位・遠位橈尺関節固定条件では,橈骨は近位で尺骨は遠位で,両前腕骨の骨切りを行うと,骨切り部位に角状変形が生じ,骨切り部位は転位せず前腕は回旋した.

前腕回旋障害の病態と治療

著者: 藤田正樹 ,   別府諸兄 ,   青木治人

ページ範囲:P.125 - P.132

 前腕は橈骨,尺骨とそれらを連結する軟部組織よりなる構成体で,骨性要素(骨性アライメント異常や関節不適合),軟部組織性要素(TFCC,骨間膜腱様部,輪状靱帯などの機能不全),もしくはそれらの複合原因にて回旋障害が発症する.当科では骨軸→遠位橈尺関節→近位橈尺関節→骨間膜腱様部の順に回旋障害に対する機能評価を行い,各種病態に則した手術方法を選択している.第一選択手術を施行しても回旋障害が残存する場合には,治療方針にのっとり各症例に適した追加手術を適時施行することとしている.骨および関節要素をすべて是正したにもかかわらず前腕可動域制限が残存する場合には,骨間膜腱様部切離術の適応となる.腱様部切離術に際しては,術後前腕不安定症を招かぬよう拘縮の主因部に最小限の切離を加えた後,他動的回旋運動にて可及的腱様部延長術を施行し,腱様部切離を最小限とするよう工夫している.

前腕骨変形と回旋障害の病態―実験的・臨床的研究

著者: 石突正文

ページ範囲:P.133 - P.138

 骨靱帯標本を用いて前腕骨に掌屈あるいは背屈方向に変形を実験的に作成し,変形の強さと方向により前腕の回旋障害がどの程度起きるかを分析した.次いで臨床例で前腕骨に変形が残った症例の回旋障害の程度を検討した.実験結果と臨床例は比較的よく相関した.すなわち,10°程度の変形ではほとんど回旋障害は起こらず,20°以上の変形では回旋障害が起きる可能性がある.また,掌屈変形でも背屈変形でも回外制限より回内制限が起きやすい傾向があった.この実験結果を参考にすれば,ある程度の前腕回旋障害が予測でき,転位がある前腕骨折の治療法を決定する際に有益と考えられる.

前腕骨間膜と遠位橈尺関節に起因する回旋障害の治療戦略

著者: 中村俊康

ページ範囲:P.139 - P.145

 前腕回内外運動は遠位および近位橈尺関節間の複合運動で,輪状靱帯,骨間膜,三角線維軟骨複合体などの支持組織,関節の適合性,橈骨と尺骨の骨性形態,回旋軸といった静的因子と回内,回外筋群や回内外運動の方向といった動的因子が複雑に関与する.このため,回内外拘縮は関節構成軟部組織の拘縮に加え,骨折変形治癒などに伴う骨性アライメント不良や関節面の不適合などが合併して発症することが多い.治療はまず骨性因子,関節因子の修復を行い,最終的に軟部組織切離を行う.切離の手順は遠位橈尺関節関節包,骨間膜膜様部の順で,最後に重要な橈尺骨支持機構である三角線維軟骨複合体および骨間膜腱様部を切離すると安全に回内外拘縮を治療できる.

外傷に伴う前腕回旋障害の病態と治療

著者: 吉田竹志 ,   田野確郎 ,   堀木充 ,   多田浩一 ,   村瀬剛

ページ範囲:P.147 - P.154

 外傷性に前腕の回旋制限を来す疾患として,肘関節周辺の異所性骨化(特に小児の橈骨頚部骨折を観血的に治療した場合に生ずる近位橈尺関節の異所性骨化),前腕骨骨折後の変形治癒,陳旧性遠位橈尺関節脱臼で尺骨茎状突起が変形治癒した例,遠位橈尺関節の変形性関節症などがある.特に前腕骨の変形治癒に起因する例の頻度が高い.コンピュータシミュレーションでの検討によると,回旋制限の原因として,変形治癒がもたらす近位橈尺関節,遠位橈尺関節,骨間膜などへのストレスの増大が考えられた.治療は骨性に解剖学的な位置に矯正骨切りすることにより良好に改善する.大切なポイントは骨性要素の改善であり,これを改善せず軟部組織のみの解離を行うことは,異常な不安定性を惹起する可能性があり危険であると考えられる.

前腕回旋障害の原因と治療戦略

著者: 白井久也

ページ範囲:P.155 - P.162

 前腕回旋障害の原因部位は,近位橈尺関節,橈・尺骨骨幹部,骨間膜,遠位橈尺関節の4つに分けられる.しかし,障害部位以外に2次的な拘縮を合併していることもあり,拘縮の解離は,1部位のみならず骨間膜,近位,遠位橈尺関節の解離を順次行わないと回旋域が改善しないことがある.角状変形による回旋障害には矯正骨切り術を適応するが,この場合も軟部組織の解離術を必要とする場合がある.骨幹部の変形が軽度またはない場合は,軟部組織の解離術もしくは治療効果の確実な回旋骨切り術を適応するが,回旋骨切り部位は回旋方向と反対の可動域が減少しにくい尺骨近位部で行うのがよい.保存療法や後療法ではColello-Abraham型装具を用いると効果的である.

前腕の回旋拘縮に対する改良型動的副子

著者: 渡邊政男 ,   土井一輝 ,   服部泰典

ページ範囲:P.163 - P.167

 これまでに前腕の回旋拘縮に対する有効なスプリントの報告は少ない.これに対しわれわれは,1997年からCollelo-Abrahamの考案したダイナミックスプリントの持つ力学的問題点を改善したスプリントを作成して使用してきた.1999年からはさらに改良を加えて橈尺骨癒合症6例,前腕骨骨折9例,骨折後変形治癒2例,尺骨突き上げ症候群,前腕再接着およびフォルクマン拘縮の各1例に装着を行った.装着後の総可動域は自動で61°,他動で59°改善し,良好な結果が得られた.症例ごとにより適切な回旋軸の設定が可能となっている本スプリントは矯正力のロスが少なく,外傷後の軟部組織の短縮等に起因する回旋拘縮に対しては特に有用性が高かった.

外傷性前腕回旋制限に対する動的回内外スプリントの使用

著者: 三ツ口秀幸 ,   渡邉健太郎 ,   佐久間雅之 ,   矢島弘毅

ページ範囲:P.169 - P.175

 前腕は上肢の他の関節と異なり長い回旋軸を持つ.本稿で紹介する装具は,この前腕の特徴を考慮してColello-Abrahamにより考案された前腕回旋制限に対して効果的な装具である.筆者らは,この装具に改良を加え,主に外傷後の前腕回旋制限に対して使用している.本装具の適応は術後または固定除去後に可動域の改善がみられず,日常生活に支障がある場合とし,過去5年間に15例に使用した.内訳は男性11例,女性4例で,術後の拘縮が13例,保存療法後の拘縮が2例であった.全症例の平均可動域は63~139°と著明に改善した.本装具は早期に使用開始した症例により改善する傾向を認めたが,使用開始の時期は骨・関節の術後の安定性を考慮に入れ判断する必要がある.改良型Colello-Abraham装具の紹介とともに治療成績について述べた.

論述

馬尾弛緩の臨床的検討―第2報;無症状例における馬尾弛緩の出現頻度

著者: 大歳憲一 ,   菊地臣一 ,   紺野慎一 ,   荒井至

ページ範囲:P.177 - P.182

 今回われわれは,無症状例における馬尾弛緩の発生頻度を,MRIを用いて調査した.対象は当科にて腰椎MRIを撮像した患者のうち,調査時明らかな下肢症状を有しない50例とした.馬尾弛緩は50例中18例36.0%に認められ,また,馬尾弛緩を有する症例に脊柱管狭小化を有する頻度が有意に高かった.馬尾弛緩それ自体が臨床症状発現に強く関与しているという報告が散見されるが,本研究の結果から,馬尾弛緩は脊柱管の狭小化により生じた単なる馬尾の形態学的変化にすぎず,症状発現への関与は小さいと考えられた.

整形外科/知ってるつもり

自己疼痛管理法(PCA)

著者: 花岡一雄 ,   小川真 ,   林田眞和

ページ範囲:P.184 - P.186

■PCA(patient controlled analgesia)の基本概念2,3)
 患者が急性痛である術後痛や慢性痛である癌性疼痛などの疼痛によって苦しめられているとき,従来はその旨を医師や看護師に報告し,それから適切な処方を受け,鎮痛効果がもたらされていた.しかしながらその状況では,鎮痛が得られるまでに相当な時間がかかるだけでなく,疼痛程度が高くなると鎮痛効果を得ることが難しくなり,患者はさらに不安感に襲われることになる.これは疼痛をすべての人々が共有することができないために,医療スタッフから事前に疼痛患者の鎮痛処置を施すことが,非常に難しいことによる.当然のことながら,痛みは患者自身のみが知る感覚である.自己疼痛管理法(patient controlled analgesia,PCA)は,それらの問題点を解決すべき方法として考えられた概念である(図1).すなわち,患者が痛みを感じはじめたときに,あるいは,強い痛みを感じたときに患者が自ら鎮痛薬を投与して,鎮痛効果を得る方法である.投与方法としては,静脈内投与,筋肉内投与,皮下投与,硬膜外投与など患者ごとに最適な投与方法を駆使して,予め設定されている鎮痛薬の投与量を,コンピュータ制御機器やディスポーザブルPCAポンプなどを用いて投与する.これにより,患者の満足感が得られ,精神的にも安定するためにより鎮痛効果が得られる.また,過剰投与にならないように投与装置にはロックアウトタイム機構も装着されており,安全性も高い.

最新基礎科学/知っておきたい

FGF-23

著者: 福本誠二

ページ範囲:P.188 - P.191

 くる病/骨軟化症(rickets/osteomalacia)は,骨石灰化障害を特徴とする代謝性骨疾患である.このうち小児期に発症し,成長障害や骨変形を主徴とするものを,特にくる病と呼んでいる.一方,骨軟化症では,骨痛や筋力低下が問題となることが多い.くる病/骨軟化症の原因としては,多くのものが知られている(表1).中でも,2つの遺伝性疾患,X染色体優性低リン血症性くる病/骨軟化症(X-linked hypophosphatemic rickets/osteomalacia:XLH)と,常染色体優性低リン血症性くる病/骨軟化症(autosomal dominant hypophosphatemic rickets/osteomalacia:ADHR),および腫瘍随伴症候群の1つである腫瘍性くる病/骨軟化症(tumor-induced rickets/osteomalacia:TIO)は,いずれも腎近位尿細管リン再吸収障害による低リン血症を特徴とする疾患である.また通常低リン血症は,1,25-水酸化ビタミンD[1,25(OH)2D]産生を促進し,血中1,25(OH)2D濃度を上昇させる.しかし,これらの3疾患では血中1,25(OH)2D濃度は正常低値~低値にとどまり,尿細管リン再吸収とともにビタミンD代謝にも異常が存在するものと考えられている.TIOは,主に中胚葉系良性腫瘍に合併する腫瘍随症候群の1つであり,原因腫瘍の摘除により,低リン血症をはじめとする病態は完治する.したがってTIOは,原因腫瘍が産生する液性因子によって惹起されるものと考えられる.XLHやADHR,TIOの病態の類似性は,これらの疾患に共通の発症機構が存在することを示唆しているが,3疾患の発症機序は不明であった.

 FGF(fibroblast growth factor)-23は,FGFファミリー最後のメンバーとして同定された液性因子である.FGF-23はまず,FGF-15に対するホモロジーにより,マウスでクローニングされた9).ほぼ同時にFGF-23は,ポジショナルクローニングによりADHRの原因遺伝子としても同定された7).実際にADHR患者には,FGF-23遺伝子の複数のミスセンス変異が報告されている.さらにFGF-23はTIO惹起腫瘍に高発現し,マウスにin vivoで低リン血症,リン利尿などをもたらす因子としても同定された2)

臨床経験

局所骨とチタン製椎体間ケージ,pedicle screwを併用した後方進入腰椎椎体間固定術(PLIF)のX線学的検討

著者: 奥山幸一郎 ,   木戸忠人 ,   鵜木栄樹 ,   小西奈津雄 ,   伊藤博紀 ,   冨岡立 ,   千葉光穂

ページ範囲:P.193 - P.198

 切除した椎弓部の局所骨とチタン製椎体間ケージを用いた後方進入腰椎椎体間固定術(PLIF)の骨癒合とX線学的所見の検討を行った.症例は男性9例,女性12例で,手術時年齢は平均62歳,固定椎間数は28椎間であった.術後経過観察は平均2年(1.0~3.5)であった.全体の骨癒合率は89.3%(25/28椎間)であった.Pedicle screwのlooseningは6.5%に認めたが,チタン製椎体間ケージのbackoutを示す症例はなかった.%Slipでは術前17.7±7.5%であったものが,術後3.7±6.1%と有意に改善していた.Slip angleも術前5.9±5.6°であったものが,術後-2.9±4.3°と有意に改善していた(p<0.01).Non-unionやcorrection lossを認めた症例はなかった.

症例報告

手に発生した未熟神経外胚葉性腫瘍の1例

著者: 本間龍介 ,   小山内俊久 ,   土屋登嗣 ,   荻野利彦 ,   高窪祐弥 ,   山川光徳

ページ範囲:P.201 - P.204

 手に発生した未熟神経外胚葉性腫瘍(PNET)の極めて稀な1例を報告する.症例は18歳の男性で,主訴は右手小指球部の腫瘤である.腫瘤は2年の経過で直径7cmになっていた.生検による病理組織検査で小円形細胞の増殖とロゼット様配列を認めた.免疫染色でCD99が陽性であり,PNETと診断した.術前化学・放射線療法により腫瘍は著明に縮小し,小指指列切断術を施行した.術後10カ月において局所再発,遠隔転移を認めない.手に発生したPNETを補助療法と指列切断で治療し良好な結果を得た.

両上肢荷重でのいわゆる手押し車筋力トレーニングが誘因となった尺骨骨幹部疲労骨折に対して低出力超音波療法が奏効した1例

著者: 鈴木哲平 ,   八木正義 ,   岩崎安伸 ,   藤田健司 ,   丸野英人

ページ範囲:P.205 - P.208

 両上肢荷重でのいわゆる手押し車筋力トレーニングを繰り返し行うことによって発症したと考えられる尺骨骨幹部疲労骨折に対して,低出力超音波パルス療法が奏効した1例を報告する.症例は17歳,女性,バレーボール選手.毎朝30分間,2人1組で行う両上肢荷重でのいわゆる手押し車筋力トレーニングを開始してから約5カ月後に左前腕尺骨骨幹部に疼痛が出現していたが,そのまま練習を続けていた.疼痛が出現してから1カ月後,レシーブの際に左前腕にバレーボールが当たった後から同部位の疼痛がさらに増強したため近医を受診した.尺骨骨幹部骨折の診断で4週間の外固定を受け,その後スポーツを中止して経過をみていたが疼痛が持続したため,近医受診から4カ月後に当院を受診した.初診時から4カ月経過しても骨癒合が得られておらず,病歴,理学所見,画像所見などを総合的に判断して尺骨骨幹部疲労骨折の遷延治癒と診断した.これに対して低出力超音波パルス療法を行い,約2カ月で骨癒合を得た.尺骨骨幹部の疲労骨折は比較的稀であるが,本症例は手押し車筋力トレーニングによる過大な軸圧が繰り返し尺骨にかかったため発症したものと思われた.

長母趾屈筋腱皮下断裂の1例

著者: 桧田毅 ,   水野芳隆 ,   小林孝明

ページ範囲:P.209 - P.212

 今回,われわれは極めて稀な長母趾屈筋腱皮下断裂の症例を経験した.患者は59歳の男性,バイクツーリングから帰宅した後より右足部の違和感が出現し,右第1足趾が自動屈曲不能となった.足部に疼痛・腫脹などの異常所見は認められなかった.単純X線写真では三角骨が認められた.臨床症状より長母趾屈筋腱皮下断裂と診断し,手術を施行した.皮膚切開は足関節内側の弓状切開で行った.距骨後方には三角骨が存在し,同部位にて長母趾屈筋腱は断裂していた.断端は退縮し,端々縫合は困難であり,同側の足底筋腱を採取し腱移植し,エチボンド糸で補強した.長母趾屈筋腱は同部位では,走行が変化することや血行があまり豊富でないために断裂が生じることがある.今回の症例では,患者がバイク愛好家のため第1足趾を頻回に使用しており,これに加えて三角骨が腱に慢性的な刺激を加わえ続けたことが腱断裂の原因と考えられた.

大腿遠位に発生したdiffuse-type giant cell tumor(extra-articular form)の2例

著者: 浦川浩 ,   中島浩敦 ,   紫藤洋二 ,   新井英介

ページ範囲:P.215 - P.219

 われわれは大腿遠位に発生したdiffuse-type giant cell tumor(extra-articular form)の2例を報告する.画像上,悪性腫瘍が示唆されたため,両例とも術前に生検を行った.生検組織所見は,単核細胞の増殖と破骨細胞様多核巨細胞,泡沫様細胞を認めたが,多形性や核異型はなかった.免疫組織化学染色でCD68が陽性であった.2例とも術前の生検により確定診断が可能であり,治療方針の決定に有用であった.1例は広範切除,もう1例は辺縁切除を行った.それぞれ術後2年と1年1カ月の時点で再発は認めていない.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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