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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科40巻4号

2005年04月発行

雑誌目次

特集 脊椎脊髄病学 最近の進歩 2005(第33回日本脊椎脊髄病学会より)

序:脊椎脊髄病学 最近の進歩―第33回日本脊椎脊髄病学会より

著者: 伊藤達雄

ページ範囲:P.350 - P.351

 第33回の日本脊椎脊髄病学会(以下JSRS)は2004年6月8~10日に東京で開催され,第1日目の学会教育研修委員会主催の第2回脊椎脊髄病講習会より始まり,第2,3日に各種講演,シンポジウム,パネルディスカッション,一般演題(口演,ポスター),企業の展示などが開催されました.約1,600名の参加者があり,それぞれの会場にて活発な討議が行われました.この場を借りて,プログラム委員,さらに各セクションの座長・演者・参加者の皆様に感謝いたします.

 今回はJSRSにて新しく「脊椎脊髄外科指導医(2004年3月時点で925名認定)」,日本整形外科学会専門医のうちで「脊椎認定医(2,742名登録)」の制度が発足し,脊椎脊髄外科医の確立,育成,そして関連領域とのあり方が問われているため,「Spine Surgery Now and Then」をテーマとすることに決めました.河合伸也前会長(山口大学)にこのテーマで格調高い,示唆に富む基調講演をしていただきました.右図は第33回学会のシンボルマークです.

原著論文

腰部脊柱管狭窄症に関する70歳以上の住民意識調査

著者: 笠井裕一 ,   森下浩一郎 ,   近藤哲士 ,   川喜田英司 ,   内田淳正

ページ範囲:P.353 - P.357

 われわれは,一般市民における腰部脊柱管狭窄症の認識度を知る目的で,70歳以上の住民に対して本症に関する意識調査を行った.対象者は,三重県の津と熊野,東京の3地区において,アンケートの回答が得られた70歳以上の一般市民561人であった.対象者の年齢は平均74.1歳(70~84),男性269人,女性292人で,地区別人数は津が267人,熊野が138人,東京が156人であった.そのアンケート調査の結果,腰部脊柱管狭窄症という言葉を聞いたことがあると回答した人は561人中34人(6.1%)であり,腰部脊柱管狭窄症の知名度は低く,一般市民に対する啓蒙が必要であると思われた.また,70歳以上の大多数は,外出が困難になれば診療を受け,100m以上の連続歩行ができなくなると手術を考慮することがわかった.

高齢者における腰部脊柱管狭窄の術後QOL

著者: 紺野愼一 ,   菊地臣一 ,   大谷晃司

ページ範囲:P.359 - P.363

 本研究の目的は,患者立脚アウトカムの指標であるRoland-Morris機能障害質問表(以下RDQ)を用いて,患者の立場からみた70歳以上の腰部脊柱管狭窄の術後QOLを明らかにすることである.腰部脊柱管狭窄と診断し,当科で手術を行い,術後3カ月以上経過した症例50例を検討の対象とした.以下の項目を検討し,70歳未満群と70歳以上群とで対比した.1)症状の有無とその程度,2)歩行可能時間,3)JOAスコア,4)手術に対する満足度,5)腰痛関連QOL,6)精神医学的問題の有無である.70歳以上群では,腰痛と下肢のしびれの程度が,70歳未満群に比べ有意に高く,JOAスコアは,70歳以上群のほうが70歳未満群よりも有意に低かった(p<0.05).腰痛関連QOLは,RDQの偏差得点で比較すると両群間で差はなかった.すなわち,両群とも術後の腰痛関連QOLは,全国の腰痛有訴者のRDQ基準値まで回復する.精神医学的問題を有する症例では,両群とも手術に対する満足度と腰痛関連QOLが明らかに低かった.精神医学的問題を有する症例は,年齢に関わらず手術に対する満足度と腰痛関連QOLが明らかに低いので,手術は可能な限り回避する必要がある.

顕微鏡視下腰椎椎間板ヘルニア摘出術とLove法によるヘルニア摘出術の手術成績―同一術者による前向き研究

著者: 片山良仁 ,   松山幸弘 ,   吉原永武 ,   酒井義人 ,   中村博司 ,   中島正二郎 ,   石黒直樹

ページ範囲:P.365 - P.369

 腰椎椎間板ヘルニアに対し,Love法とキャスパー法の手術成績を同一術者による前向き研究で比較検討した.両手術方法において,術後使用した鎮痛剤,術前後のJOAスコア,術後の下肢痛のVASに有意差はなかった.手術時間,出血量,入院日数,術後の腰痛のVASにおいて統計上有意差がみられたが,いずれも大きな差ではなく,臨床的に違いはないものと考えられた.腰椎椎間板ヘルニアに対するヘルニア摘出術に関しては術者が習熟していれば,Love法でもキャスパー法でもどちらでも良いと考えられた.

腰椎椎間板ヘルニアに対するMEDの適応と臨床成績

著者: 吉田宗人 ,   中川幸洋 ,   麻埴生和博 ,   川上守 ,   安藤宗治 ,   橋爪洋 ,   南出晃人

ページ範囲:P.371 - P.377

 1998年9月から2003年12月までに腰椎椎間板ヘルニアに対して後方進入内視鏡視下手術(MED)を施行した402症例を対象として,手術成績,その適応と問題点を検討した.男性262例,女性140例,平均年齢37.9±14.9歳であった.疾患の内訳は腰椎椎間板ヘルニア386例,椎体後方終板障害16例であった.腰椎椎間板ヘルニアは手術時平均年齢38.5±14.6歳,術前平均JOAスコア13.4±5.1が術後26.3±3.1,最終調査時27.6±2.2,平均手術時間70.9分,出血量35.7mlであった.椎体後方終板障害は平均年齢21.6±13.9歳,JOAスコア16.9±3.6が術後27.1±2.3,最終調査時28.2±1.6,手術時間95.3分,出血量67.5ml,周術期の合併症は合計16例4.0%に認められた.内訳は硬膜損傷6例,部位の誤認3例,術後血腫による悪化4例,化膿性脊椎炎1例,一過性の筋力低下2例であった.再手術が12例に行われ,ヘルニア再発9例,術後血腫2例,除圧不足1例であった.腰椎椎間板ヘルニアに対する後方進入脊椎内視鏡視下手術の適応は椎間板高位にあるヘルニアのみならずmigrateしたヘルニア,中心性ヘルニア,椎体後方終板障害に加えて最外側ヘルニアにも従来法にはない利点があり,手術手技に熟練すれば安全で良好な成績が期待できる.

脊髄髄内腫瘍の自然経過と手術タイミング

著者: 小澤浩司 ,   佐藤哲朗 ,   松本不二夫 ,   田中靖久 ,   国分正一 ,   中川智刀 ,   笠間史夫

ページ範囲:P.379 - P.386

 1年以上経過を観察した脊髄髄内腫瘍12例をMRI所見により6型に分類し,腫瘍の増大と症状の推移を検討した.Lipoma型,hemangioblastoma型,cavernous hemangioma型は経過観察中に腫瘍の増大がみられなかった.しかし,cavernous hemangioma型で,増大しなくても腫瘍内出血のため麻痺が悪化したものがあった.Ependymoma型は平均経過観察期間2.7年で平均1.13倍,glioma型は2年で1.09倍に増大した.Astrocytoma型は経過観察期間1年で腫瘍の体積が1.52倍になり,症状が悪化した.Lipoma型,hemangioblastoma型,cavernous hemangioma型の髄内腫瘍は,数年の経過観察では腫瘍の増大がみられず症状が改善するものがあり,必ずしも早急な手術を要しないと考えられた.

自然経過の観点からみた関節リウマチ―上位頚椎病変に対する手術の影響

著者: 松永俊二 ,   林協司 ,   米和徳 ,   小宮節郎 ,   武富栄二 ,   砂原伸彦

ページ範囲:P.387 - P.392

 上位頚椎病変により脊髄症状を呈した関節リウマチ患者に対する後頭頚椎固定術が患者の自然経過に及ぼす影響を検討した.対象は後頭頚椎固定術46例と非手術例25例の計71例であり,ムチランス型の症例が手術例で11例,非手術例で8例あった.術後のX線変化としてムチランス型の症例では術後の軸椎下脱臼の出現が明らかに多く,手術による脊髄症状の改善についても非ムチランス型に比べ有意に不良であった.患者の生命予後は非ムチランス型の症例では手術を行うことにより明らかに改善していたが,ムチランス型の症例の生命予後を改善させるまでの効果はなかった.この手術は非ムチランス型の症例については自然経過に良い影響を与えたといえるが,ムチランス型の症例については限界があった.

コンピュータを活用した頚椎後縦靱帯骨化巣計測法の計測者内および計測者間信頼性の検証

著者: 加藤義治 ,   都築暢之 ,   永田見生 ,   戸山芳昭 ,   岩﨑幹季 ,   米延策雄

ページ範囲:P.395 - P.400

 われわれはコンピュータ画像処理技術を活用し,手作業の一部を自動化した計測システム「後縦靱帯骨化症(OPLL)骨化巣画像計測ソフトウェア」を開発し,実際の計測における計測者間ならびに計測者内での信頼性に関する検証を行った.その結果,計測者間での長軸方向の長さの相関係数は0.927,95%信頼区間0.883~0.955,腹背方向の幅の相関係数は0.964,95%信頼区間は0.946~0.976であり,同一計測者内の信頼性でも,長軸方向の長さは0.943~0.985,腹背方向の幅は0.957~0.991と極めて高い一致性の相関を認めた.以上より,本法は高い精度を持つ有用な頚椎OPLL骨化巣計測法であることが示された.

コンピュータを活用した骨化巣計測法を用いた後縦靱帯骨化症の術後骨化進展に関する多施設共同研究

著者: 千葉一裕 ,   山本逸雄 ,   平林尚 ,   岩崎幹季 ,   後藤博史 ,   米延策雄 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.403 - P.412

 後縦靱帯骨化症による進行性の脊髄症状に対し,手術が施行された後も骨化が進展し神経症状が再燃することがあるため,術後の骨化進展を正確に評価することは重要である.しかし,骨化進展と術後成績との相関を厳密に調査した研究は少ない.その理由として骨化進展の判定基準や骨化巣の大きさを正確に計測する方法がないことが挙げられる.今回,われわれが開発したコンピュータを活用した骨化巣計測法を用いて本症術後の骨化進展出現率を調査した.対象は,全国13施設で後縦靱帯骨化症に対して後方除圧術を受け,術後2年以上の経過観察が可能であった患者のうち,術直後,1年後,2年後の頚椎単純側面X線が入手可能な131名である.独立した判定委員会にて各時点のX線計測ならびに骨化進展の判定を行った.術直後のX線に比し,1)長軸,前後方向のいずれかで2.0mm以上の骨化進展が1カ所でもあった場合,2)長軸,前後方向のいずれかで2.0mm以上の骨化巣が新たに出現した場合,3)分節あるいは混合型の骨化巣が進展により連続化した場合,骨化進展ありと判断した.骨化進展出現率は術後1年で38.9%,術後2年で56.5%であった.若い年齢層ほど術後1年時に有意に高い骨化進展出現率を示した.また,混合型は分節型と比べ術後2年時に有意に高い骨化進展出現率を示した.本研究は信頼性が確認された新しい骨化巣計測法を用いて術後骨化進展出現率を調査した初めての全国規模多施設共同研究である.今回の調査で得られた骨化進展出現率は従来の報告とも矛盾せず,今後,骨化進展と術後成績の相関を検討する際の基礎的データとなり得る.

In vivo 3-D脊椎運動解析―頚椎の回旋運動

著者: 石井崇大 ,   向井克容 ,   細野昇 ,   坂浦博伸 ,   藤井隆太郎 ,   中島義和 ,   田村進一 ,   和田英路 ,   菅本一臣 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.415 - P.423

 われわれは,3-D MRIを用いた新しい非侵襲的3次元動態解析システムを独自に開発し,in vivoでの頭部回旋時における頚椎のカップリングモーションを捉えることに成功した.対象および方法は,健常成人に対し,頭部を15°間隔で回旋した状態にて,3-D MRI撮影を行った.各椎骨の動きの追跡は中間位の画像と回旋位で撮影した画像とで,ボリュームレジストレーションを使って3次元的にマッチングすることにより行った.結果は上位頚椎の回旋は,回旋と反対方向の側屈を伴っていた.一方,中下位頚椎の回旋は,すべての椎間で回旋と同じ側への側屈を伴っていた.また上位と中位頚椎の回旋は,後屈を,下位頚椎の回旋は,前屈を伴っていた.このような頚椎の複雑なカップリングモーションを,3次元動態のアニメーションを作成することにより,容易に理解することができた.

Virtual realityを応用した脊椎外科手術の3次元シミュレーション

著者: 小谷俊明 ,   南昌平 ,   高橋和久 ,   山崎正志 ,   赤澤努 ,   梁川範幸

ページ範囲:P.425 - P.429

 近年,工業,デザイン領域においてvirtual realityを応用して3次元立体データを処理できるforce feedback systemが用いられている.力覚を感じつつコンピュータ上で自由に3次元物体のモデリングを行うことができるforce feedback systemを使用して,複雑な形態を持つ先天性側弯症3例に3次元手術シミュレーションを試みた.CTで脊椎を撮影し,force feedback systemに取り込み,バーチャルツールをエアトームのように用い,3次元的骨切りを行った.本法は視覚のみならず,触覚を用いて脊椎の3次元構造を理解することができ,骨切りの高位や範囲などを繰り返し修正しながら検討することが可能であり非常に有用であった.今後,脊椎手術のトレーニング,教育のツールとしても応用が期待される.

腰椎インストゥルメンテーション手術後のMRSAによる手術部位感染に対する抗菌治療―インプラント抜去回避のために

著者: 種市洋 ,   久木田裕史 ,   須田浩太 ,   楫野知道 ,   松村昭 ,   森平泰 ,   金田清志

ページ範囲:P.431 - P.440

 腰椎インストゥルメンテーション手術後のMRSA(MRCNSを含む)による手術部位感染(SSI)に対する化学療法の治療成績を分析し,インプラント抜去を回避しうる治療法を検討した.1998~2000年の274手術例では,第1・2世代セフェムによる予防的抗菌薬投与(AMP)が数日間行われた.この群のSSI発生率は4.0%で起因菌は全例MRSA,2.2%は感染鎮静化のためにインプラント抜去を余儀なくされた.2001~2003年の289手術例では,MRSAにもある程度の抗菌力を有するアンピシリン合剤によるAMPを行った.その結果,SSI発生率は2.8%に減じたものの,完全阻止はできなかった.起因菌はすべてMRSAであった.一方,SSI治療に関しては,起因菌ターゲットの絞り込み,バイオフィルム対策,早期診断,適切な抗菌治療を行うことにより,インプラント抜去率を0.7%にまで減じせしめた.

腰椎インストゥルメンテーション手術における術後感染予防―予防的抗菌薬投与と術後創傷処置を中心に

著者: 出口正男 ,   加藤大三 ,   中根健 ,   林真利 ,   金物壽久

ページ範囲:P.441 - P.447

 当院整形外科病棟では2000年に脊椎手術を含むMRSA術後感染のアウトブレイクを経験した.それを契機に院内感染制御チームと共同して整形外科病棟感染防止規定を制定し実践してきた.その実践により整形外科病棟では全ての手術において術後MRSA感染が激減した.また予防的抗菌薬の使用についても規定を設け,種々のインプラントを用いる腰椎インストゥルメンテーション手術においても手術当日のみの投与に限定した.術直前投与に続いて,長時間手術あるいは多出血手術では術中投与も考慮した.術後創傷処置においては消毒液による創部の消毒を廃止し,未滅菌のフィルムドレッシング材のみで創部を保護するように簡略化を図った.2000年10月よりこの規定を実践し,158例の腰椎インストゥルメンテーション手術を行ってきたが,術後深部感染は1例も生じることはなく,感染制御が実行できていた.

脊椎外科におけるインシデント・アクシデント

著者: 山崎隆志

ページ範囲:P.449 - P.456

 脊椎外科に関する132件のインシデントレポートから死亡,麻痺悪化,早期再手術例を手術のアクシデント(22件),誤診を診断のアクシデント(10件),障害が発生し治療が必要となった検査や投薬を処置のアクシデント(5件)と定義し,その原因を検討した.手術アクシデントでは不可抗力は4件で,7件は標準レベル以上の問題で,11件でエラーがあった.診断アクシデントでエラーがあったものは9件,処置アクシデントではエラーは3件にあった.アクシデント37件のうちエラーが存在したものが23件と多数を占めた.これらのエラーの原因は医師の基本的知識の不足,不注意,怠慢などであり,困難な状況で発生したものではなかった.安全な医療のためには,インシデントレポートを用いて,アクシデントばかりでなく,そこにいたらないインシデントを記録し,純粋な医学的問題ばかりでなくヒューマンファクターや病院のシステムを改善する必要がある.

REVIEWs

患者の立場から見た70歳以上の腰部脊柱管狭窄のQOL

著者: 国分正一 ,   中井定明

ページ範囲:P.459 - P.463

 現在,わが国では世界に類を見ない高齢化が進行中ですが,高齢者が生きる上には移動能力を確保することが最重要です.腰部脊柱管狭窄症は,ありふれた疾患であるにもかかわらず,国民一般における知名度の低い疾患です.笠井裕一先生には本疾患の知名度の調査結果をご報告いただきました.和田簡一郎先生には患者の家族から見た手術の評価をご報告いただきました.柳橋 寧先生には,除圧単独手術と固定手術の成績を分析して報告していただきました.徳橋泰明先生には変性すべり症や不安定性を有する脊椎症性脊柱管狭窄症例に脊椎固定手術の適応があることをご報告いただきました.紺野愼一先生には,70歳以上と70歳未満の術後の評価をRoland-Morris機能障害質問表を用いて,分析・ご報告いただきました.ここに述べられたご意見を元に高齢者の移動能力の問題点が浮きぼりにされれば幸いです.

頚椎laminoplasty術後の軸性疼痛

著者: 米延策雄 ,   星野雄一

ページ範囲:P.465 - P.468

 頚椎椎弓形成術後に生じる軸性疼痛予防策として,C2棘突起に付着する頚半棘筋を딵離しないこと,そのためにはC3は椎弓切除としても良いこと,C7棘突起に付着する僧帽筋および小菱形筋を딵離しないこと,C3から6の4椎弓形成術でも頚髄症は再発しないこと,いわゆる白石法は有用であるが慣れも必要なこと,などが報告された.また,術前から存在する軸性疼痛は術後も残存しやすく,必ずしも手術に起因するものばかりではないことも指摘された.

 手術侵襲の低減が軸性疼痛の予防に有用である可能性が示され,今後多くの施設での実施および検討が期待される.

Debate A:上位頚椎

著者: 伊藤達雄 ,   浅野聡

ページ範囲:P.469 - P.477

 これまでのシンポジウムは各シンポジストが自験例のデータを提示しながら自論を強調しており,症例選択なども微妙に異なり,その結果,討論が噛みあわない部分が少なからずあった.特に国際的なdiscussionになると言葉の壁もあり十分な意見交換ができず,消化不良の感が否めない.今回,比較的分野の限られた上位頚椎に絞って,この分野の経験が豊かであるエキスパートに参加をお願いした.しかも座長が提示した症例のみに対する意見を問うこととした.本来は世界の第1人者であるAlan Crockard(University College London)の参加の快諾を得ていたのであるが,直前になり英国の公的に重要な立場である人物の海外出張に関する制限が厳しくなり,急遽不参加となってしまったことは誠に残念であり,Crockard自身からも会員に対して遺憾の意を示すメッセージが寄せられた.

 さてシンポジウムはdebate形式とし,座長の伊藤がこれまで治療に頭を悩ました3例について各シンポジストに病歴,画像などの情報をinternetで送信しておいた.会員にも主要なデータを学会抄録誌(P221-224)に記載した.すなわち全員がデータを共有したうえで,一同に会して病態,治療方針,具体的な術式とその時期,術後管理などを共同座長の浅野とともにdiscussionするものである.いわばinternational clinical conferenceである.シンポジストは直前に約1時間の事前打合せを行い,あとは“出たとこ勝負”である.また各シンポジストには参考症例があれば示すように依頼しておいた.

 この誌上シンポジウムでは会場にて使用したスライド写真と実際の討論を2名の座長でまとめた.

脊椎手術のクリニカルパス―頚椎laminoplasty

著者: 田口敏彦 ,   山下敏彦

ページ範囲:P.479 - P.481

 クリニカルパスは,医療の質の向上と標準化,業務改善効果,インフォームドコンセントや患者の早期社会復帰に貢献しており,その重要性はますます増加してきている.本稿では,第33回日本脊椎脊髄病学会のパネルディスカッション『脊椎手術のクリニカルパス―頚椎laminoplasty』で発表された5題の演題について,その要約と総括を行い,今後の展望について述べる.

脊椎脊髄疾患の自然経過―各種頚椎疾患

著者: 戸山芳昭 ,   佐藤哲朗

ページ範囲:P.483 - P.487

 医学・医療において各疾患群の自然経過を知ることは極めて重要であり,その経過は手術適応や至適手術時期,術後評価などに大きな示唆を与えてくれる.今回,パネルディスカッションとして企画された頚椎・頚髄疾患(髄内腫瘍,リウマチ性上位頚椎病変,頚椎症性脊髄症,後縦靱帯骨化症)の自然経過に関する発表がなされ,その要旨と今後の方向性について概説した.今後の課題として,各種運動器疾患の自然経過に関する大規模な全国調査研究が望まれる.

脊椎instrumentation手術の合併症―予防と対策

著者: 鈴木信正 ,   佐野茂夫

ページ範囲:P.489 - P.494

 脊椎instrumentation手術は数多くの利点を持つが,手技には習熟を要し,かつ手術侵襲は大きくなる.未熟な手技や,高齢者や他科疾患を持つ患者への無理な適応で行われれば術後合併症が発生する.パネルディスカッション「脊椎instrumentation手術の合併症―予防と対策」では,6人の演者から,合併症全般について1題,術後感染対策2題,固定術後隣接椎間障害について3題の発表がなされた.いずれもこの分野で経験の豊富な施設と術者からの発表であり,多くの有意義なディスカッションが行われた.

骨粗鬆症性椎体圧潰後の遅発性麻痺に対する脊椎短縮術

著者: 田中靖久 ,   清水克時

ページ範囲:P.497 - P.501

 骨粗鬆症に起因する椎体圧潰後の遅発性麻痺例では,局所に強い後弯が形成される.後弯化で,歩行時に腰痛が生じ,脊髄・馬尾が椎体の後方突出で圧迫され,大きな屈曲応力が作用して新たな骨折が生じる.後方脊椎短縮術が前方法に優れる点は,圧潰椎体の高さの復元を目指すものではないために後弯変形の矯正が容易なことにある.脊椎短縮術は,新規骨折の発生や後弯矯正の損失といった克服すべき課題が残されているものの,一般的に腰痛,神経学的障害そして歩行障害の改善が良好である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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