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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科40巻8号

2005年08月発行

雑誌目次

巻頭言

第20回日本整形外科学会基礎学術集会を開催するにあたって

著者: 内田淳正

ページ範囲:P.852 - P.853

 2005年10月20~21日の両日,第20回日本整形外科学会基礎学術集会を三重県・伊勢市で開催させていただきます.開催場所をどこにするかでは大いに迷いました.おりしも2004年の春,東北大学の国分正一教授は春の学術総会を神戸市で開催されました.この英断を下された国分先生の高い見識に敬意を表します.一方で,基礎学会をどうするか? 参会者に便利な大都市にするか,皆様には不便でも地方色豊かな学会にするか,最後の最後まで決めかねていました.最終的に田舎で整形外科の基礎研究漬けになることを選びました.伊勢市は新幹線や空港からは遠く離れた地域ですし,会場となる三重県営サンアリーナもまた市街地より離れていますので,参会者の皆様に足の不便をおかけすることを申し訳なく思っています.しかし,人はもとより動物,静物,さらには自然現象までの「勢い」が尊ばれた古の時代より栄えた伊勢ですので,本学会でも発表者や参加者が「勢い」を発揮し,激しい議論なることを望んでいます.

 学会のテーマを「情緒と理論」としました.2005年ともなると21世紀云々では色褪せていますし,臨床と基礎の架け橋もこれまで基礎学会のテーマとして使われていますので新鮮味に欠けます.研究が理論に裏付けられなければならないのは当然のことですが,論理性だけでは優れた研究成果は得られず,研究センス(情緒あるいは感性)が加わってはじめてレベルの高い研究が完成するはずです.事実,世界的に評価の高い研究は独創的なひらめき仮説の論理的な裏付けでしょう.そしてこのテーマには私自身の大いなる反省が込められています.自らの研究センスのなさで大魚を逃し続けた1人として,これからの若い研究者はもとより指導者の先生方にもお考えいただければとテーマとしました.情緒豊かな発表が聞けることを楽しみにしています.

誌上シンポジウム 整形外科におけるリスクマネジメント

緒言 フリーアクセス

著者: 菊地臣一

ページ範囲:P.854 - P.855

 この誌上シンポジウムは,第53回東日本整形災害外科学会(会長 山形大学医学部整形外科教授 荻野利彦先生)のシンポジウムを,荻野教授の許可を得て本誌に再現したものである.

 医療現場は,今,リスクマネジメントへの対応に追われている.近年は,医療システムや卒前・卒後教育の制度変更に対応するために,医療教育機関が負担しなくてはならない人的,時間的コストは膨大なものになってきている.これら制度改革への対応に,さらにリスクマネジメントの観点から医療機関としての対内・外対応が加わり,それらの業務の多くを若い医師が担っているのが医療教育機関の実情である.その結果,今や契約による何の保証もない若い医師が疲労困憊して職場を去りつつある.文字通り,リスクの少ない,そして経済的見返りの多い職場への退避である.今の苛酷な若手,中堅医師の職場環境をみると,私でも恐らく怯んでしまう.今後,地方の中小医療機関や診療所ではこの大きな改革の嵐に対応できるのであろうか.頑張ったら頑張っただけ苦労とリスクを背負い込む勤務医の現状は,医療教育機関の消滅へと繋がってゆく危惧さえする.そのくらい,このリスクマネジメントは,今,教育機能を有する病院に重い負担で伸し掛かっている.

整形外科医療におけるリスクマネジメント

著者: 篠崎哲也 ,   堤智史 ,   小林勉 ,   竹村達弥 ,   高岸憲二

ページ範囲:P.857 - P.865

 整形外科医療における日常業務では,できる限り業務のマニュアル化とクリティカルパスの導入を行い,業務の簡素化と統一性を図り事故発生の危険性を軽減するように努めることが重要である.また,インシデントレポートの提出はリスクマネジメントの管理体制を確立するための分析データとして必要不可であることを認識し,この制度の活性化と制度運用を適切に行う必要がある.そして,今後も生じてしまったインシデントの発生予防に努め,それがアクシデントにいたらないようにするシステムを早急に構築することが,リスクマネジメントにおける重要課題であると考える.

低侵襲内視鏡脊椎脊髄手術手技のリスクマネジメントプロセスの検討

著者: 出沢明

ページ範囲:P.867 - P.874

 内視鏡手術は,全体の構造や人間の記憶に蓄えられた一連の解剖学をはじめとした知識構造や形で識別すること(shape coding)や色,組織の硬さ,緊張の強さによって組織を識別して手術がなされている.そのために新たな経験が必要とされ,外科分野での低侵襲手術の普及によりリスクマネジメントの構築が急がれている.すなわち低侵襲脊椎脊髄外科手技の安全文化(安全を最優先事項とする組織文化;safety culture)を構築するための質の向上と術式の標準化の継続的な教育研修プログラムは不可欠である.

骨軟部腫瘍の診療におけるリスクマネジメント―東北骨軟部腫瘍研究会からの報告

著者: 岡田恭司 ,   小山内俊久 ,   西田淳 ,   堀田哲夫 ,   田地野崇宏 ,   柿崎寛 ,   守田哲郎

ページ範囲:P.875 - P.881

 骨軟部腫瘍の診療における安全対策について,東北骨軟部腫瘍研究会に所属の施設にアンケート調査を行った.化学療法,手術,生検組織の取り扱い等は概ねよく管理されていた.定められた手順を今後とも遵守することが医療事故予防のため重要と思われた.改善すべき点としては,化学療法剤のSafety Cabinet以外でのミキシングが目立ったことと,抗がん剤投与時の医師立会いと,手術部位のマーキングが場合によって行われていないことがあげられた.また1施設を除いて精神医学的な取り組みは行われておらず,早期の導入が望ましいと思われた.

骨関節疾患におけるリスクマネジメント

著者: 青田恵郎 ,   菊地臣一 ,   矢吹省司 ,   平岩幸一

ページ範囲:P.883 - P.891

 一般的に骨関節疾患は,そのほとんどが慢性の経過をとる疾患のため予後良好である.しかし,いったん重篤な合併症が併発した場合には,医師に要求される法的な責任は大きい.そのため自己決定権を重視したインフォームド・コンセントを徹底することが必要である.特に手術療法では,厳格な説明義務が求められ,個々の患者に対応した治療法の選択枝や選択した治療法の危険性,利害得失,および代替療法についての説明などは必須である.また,患者との信頼関係を築き,EBMに基づいた診療行為,および合併症発生時の早急な対応が不可欠である.

手の外科のリスクマネジメント

著者: 高原政利

ページ範囲:P.893 - P.899

 手の外科において,診断の遅れ(手根管症候群,尺骨神経麻痺,ばね指,舟状骨骨折,グロムス腫瘍,オカルトガングリオンなど),疼痛への対応不足,手術適応の問題,手術成績あるいは合併症などによって,患者に不満や不幸を招く危険(リスク)がある.X線像に惑わされずに症状・所見を重視した正しい診断,思いやりのある医療,ニーズにあった治療の選択,適切なゴールの設定,神経・血管に対する細心の注意,愛護的処置,必要最小限の良肢位固定,自動運動(肩・肘・前腕・手・手指)の励行,拘縮の予防,早期からの手の使用,および合併症の予防・早期発見・早期対応が重要である.

整形外科外傷治療におけるリスクマネジメント

著者: 土田芳彦

ページ範囲:P.901 - P.904

 リスクマネジメントとは医療事故を未然に防止するための組織的取り組みである.しかし,医療事故の対象は誰にでも避けられる基本的な誤りのみではなく,医療行為レベルの高さによって避けられるものも含まれる.日本における外傷医療はそのシステムが発達していないために,各施設間で医療行為レベルが甚だしく異なり,隠れた医療事故も多数発生している.治療戦略の稚拙さ,手術手技の稚拙さによる成績不良は避けられた医療事故である.外傷センター整備,専門医育成,peer review(同僚会議)の開催が外傷医療事故を防ぐリスクマネジメントである.

手術手技/私のくふう

片側経腋下進入腰椎椎体間固定術―腰背筋を温存した低侵襲アプローチの試み

著者: 川上守 ,   吉田宗人 ,   安藤宗治 ,   橋爪洋 ,   松本卓二 ,   中川幸洋 ,   南出晃人 ,   延與良夫 ,   岡田基宏 ,   宮本選 ,   中村正亨

ページ範囲:P.907 - P.915

 後方支持組織,特に傍脊柱筋,脊髄神経後枝内側枝を温存する目的で,片側の多裂筋,胸最長筋の間から進入する腰椎後方除圧,椎体間固定術を開発した.進入側にpedicle screw,対側に経椎弓椎間関節固定術,椎体間ケージを用いる手技で,片側経腋下進入腰椎椎体間固定術(UTaLIF)と命名した.本術式を施行した7例の平均改善率は64.8%で,腰痛,下肢痛のvisual analog scaleは2.2cm,1.0cmとそれぞれ改善し,比較的良好な短期成績であった.本術式は後方支持組織を温存した低侵襲脊椎固定手術の1つとなる可能性がある.

Lecture

整形外科医が誤りやすい神経・筋疾患―しびれ・痛み・脱力の臨床(前編)

著者: 梶龍兒

ページ範囲:P.916 - P.922

 しびれや脱力で来院する患者は極めて多い.その中でも頚椎症や末梢神経疾患など整形外科的な疾患のほかに内科的な診断と治療を要する種々の神経・筋疾患が存在する.これらの疾患のうち日常診療で最もよく遭遇するものに絞り,臨床的な診断法・検査法について詳説する.またそれら疾患の最新の治療法についても紹介する.整形外科的疾患についても電気生理学的な検査法で日常診療に役立つ神経伝導検査について紹介する.

統計学/整形外科医が知っておきたい

最終回 臨床決断―閾値モデルと決定樹

著者: 小柳貴裕

ページ範囲:P.924 - P.930

はじめに

 Evidenceに基づいた治療,ガイドラインに沿った治療といえば聞こえがいい.しかし,われわれはしばしば不確実な診断のもとでの選択肢の決定を迫られる.対象となる患者のそれぞれの社会的側面も治療選択を左右する重要な要因である.決断分析decision making analysisとは,検査や治療の害と益をその程度と確率から検討して患者に最も有益な結果をもたらす方針を決定するものである.

連載 医者も知りたい【医者のはなし】 15

シーボルトに捧げた一生―宇和島の人・二宮敬作

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.932 - P.935

■はじめに

 今回は,シーボルトの弟子で,シーボルトが国外追放になった後も,シーボルトの妻のお滝さんや,娘のオランダおいねの面倒をみた医者,二宮敬作である.シーボルト門弟の中で,二宮敬作は,いわばシーボルトが感謝すべき恩人であろう.長崎市寺町の「皓台寺」にあるシーボルトの娘,オランダおいねの墓の横に,二宮敬作の墓が並んである.私は,これを不思議に思って,敬作の伝記やシーボルト関係の本を読んで,今回の登場となった.

臨床経験

特発性脊髄空洞症―自験例10例と文献的考察

著者: 中村雅也 ,   千葉一裕 ,   石井賢 ,   小川祐人 ,   高石官成 ,   松本守雄 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.937 - P.943

 特発性脊髄空洞症10例の治療成績を空洞の形態別に比較検討した.空洞の形態は中心型6例,膨満型3例,偏在型1例で,初診時平均JOAスコアは各々15.3点,10.6点,15点で中心型と比べて膨満型が有意に低かった.膨満型の2例に空洞くも膜下腔短絡術を施行し,空洞の縮小と神経症状の進行を予防できた.中心型と偏在型の7例は初診時と最終調査時で空洞の形態・分布ともに変化なく,神経症状の悪化もみられなかった.残る1例は経過観察中に空洞は縮小したにもかかわらず,脊髄の萎縮は顕著で重篤化した神経症状の改善は得られなかった.特発性空洞症の治療方針は,中心型には保存療法を,膨満型には神経症状の悪化を予防するためにも手術療法を考慮するべきである.

症例報告

大腿骨外反骨切り術の適応拡大を目的として骨頭部骨棘切除術を追加した1例

著者: 津田晃佑 ,   大澤傑 ,   中川滋 ,   萩尾佳介 ,   格谷義徳 ,   西塔進

ページ範囲:P.945 - P.948

 骨頭部骨棘切除により外反骨切り術の適応とした症例について報告する.症例は51歳,女性で,右股部痛を主訴とし,可動域制限とX線上荷重部関節裂隙の消失を認めた.動態撮影,関節造影,CT-MPR像にて大腿骨頭部骨棘が寛骨臼下方骨棘と衝突し十分な内転位とならず,本来では外反骨切り術の適応外となる変形性股関節症に対し,骨棘切除を追加することで比較的良好な適合性が得られると判断し,大腿骨頭部骨棘切除後に外反骨切り術とキアリ骨盤骨切り術を行った.術後,疼痛の消失,可動域制限の改善,荷重部関節裂隙の開大を認め,術後2.4年の現在,経過良好である.本法は外反骨切り術の適応を拡大する一術式と考えられた.

高度の頚椎破壊性変化を来したSAPHO症候群の1例

著者: 加藤仁志 ,   五之治行雄 ,   青竹康雄 ,   中瀬順介 ,   三輪真嗣 ,   天谷信二郎

ページ範囲:P.949 - P.953

 SAPHO症候群は皮膚病変と骨関節病変により構成される症候群である.骨関節病変は前胸部が最も多く,脊椎にも約30%にみられるが,高度の骨破壊を来すことは稀である.症例は56歳,女性,頚椎に高度の骨破壊性病変を認めた.前胸部の症状がなく,皮膚病変も軽度であったため,初期診断に難渋したが,頚椎前方固定術を施行した際の病理組織検査と細菌培養検査により,本症候群に伴う脊椎炎と診断した.高度の脊椎破壊性変化を生じうる疾患として,本症候群を念頭に置く必要がある.

軽微な外傷を契機に発症した高齢者環軸関節回旋位固定の1例

著者: 廣瀨裕一郎 ,   千葉一裕 ,   石井賢 ,   小川祐人 ,   高石官成 ,   西澤隆 ,   中村雅也 ,   松本守雄 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.955 - P.959

 高齢者における環軸関節回旋位固定は稀であるが,今回われわれは,過去に報告のない,軽微な外傷を契機に発症した1例を経験したので報告する.症例は78歳,女性.浴室にて壁に頭部を打撲し,その後徐々に頚部痛,斜頚が進行し環軸関節回旋位固定に至った.CTにて,環椎の横靱帯付着部に剝離骨折と思われる骨片を認めた.C1後弓切除術およびC0~C3に至る頭蓋頚椎後方固定術を行い,良好な成績を得た.高齢者では,たとえ軽微な外傷であっても,斜頚が発生した場合には,環軸関節回旋位固定が発症しうることを念頭に置くべきである.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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