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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科40巻9号

2005年09月発行

雑誌目次

視座

人は誰でも間違える

著者: 出沢明

ページ範囲:P.969 - P.970

 JR福知山線脱線事故やJALをはじめとする航空機に関する事故が連日報道されている.テレビ報道・新聞記事報道には,医療事故の報道がない日はまずないといって過言ではない.最近では手術患者取違え事故,古くはウログラフィンの脊髄腔造影で患者2人の死亡事故など枚挙にいとまがない.その中には運転手,整備士や術者に問題があったと報道されている場合が数少なくない.そして今年の4月よりISO(国際標準化機構)の規制が厳しくなり,医療器械の標準化が叫ばれている.マスメディアを通じた日常の報道とともに医療事故に関する国民の意識の高揚は著しいものがあり,今日ほど患者の安全と医療の質が要求される時代はない.刑事責任については,業務上過失傷害・致死罪が一般的に問われる.傷害の予見の可能性と結果の回避が求められる.術後死亡例のように刑事責任の決着を待たずに,行政の処分が下されることが新たに実施されるようになってきた.

 「To Err is Human(人は誰でも間違える)」は2000年にアメリカ医学研究院(IOM)から報告された米国の医療事故と防止の報告書(AHRQ Publication 2000)の中で記載され,患者参加の事故防止をリスクマネジメントプロセスの重要項目としている.1992年にユタで,1994年にニューヨーク州で,それぞれ15,000人,30,000人の診療録の調査がなされた.その結果,米国では1年間に44,000人から98,000人が医療事故かその関係で死亡しているという.この数は,747ジャンボジェット機が2日おきに墜落し乗客が全員死亡する数に等しいという.乱暴だが,仮に米国で発生する頻度を日本の医療機関にあてはめると,実に15,000人から34,000人が医療事故で死亡していることになる.これら一連の事故を振り返ると,個人の不注意や知識・技術不足で片付けられがちである.しかし,過密スケジュールの中で,人がエラーを犯した際に,安全な方向へ逃れるシステムを構築する必要がある.そして大きな事故を契機に,病院の医療提供の現場での仕組みや,その新しい手技自身が問題視される傾向にあり,迅速な対応が求められる.

特別シンポジウム どうする日本の医療

緒言 フリーアクセス

著者: 杉岡洋一

ページ範囲:P.972 - P.973

 日本医学会は,わが国の基礎医学・臨床医学に関する100に近い分科会を擁しております.4年に1度,各分科会を統合して,医学の進歩の現状確認と検証をし,将来の展望・方向づけを行う場を総会と称します.そこでは,各分科会の横の連携を密にすることを1つの目標としています.2年前の4月,福岡で,第26回日本医学会総会を開催いたしました.その総会は3万3154名という,日本医学会100年史上,最多の参加登録者を得て行われました.

 その総会では,日本の医療を取り巻く問題を大きなテーマの1つにも取り上げました.日本の医療は,WHO(世界保健機関)の評価によれば世界一です.その一方で,日本の医療費が31兆円を超え,その高騰が問題視されています.その医療費のうち介護と薬局調剤医療費,歯科診療費などを除く約26兆円が一般診療医療費,その40%の約10兆円が薬品や手術材料に使われます.これは企業の収入ですので,残りの16兆円が,主に医療の現場にもたらされ,そのほとんどが人件費に使われているというのが現状です.

社会的共通資本としての医療

著者: 宇沢弘文

ページ範囲:P.974 - P.974

 私はこれまで経済学の立場から医療を考えてきました.敗戦1カ月を過ぎた頃,私はまだ旧制一高に在学中でした.9月のある日,旧制一高を軍の施設として使おうと,占領軍の将校団が視察に来ました.当時の校長であった,戦前の日本のリベラリストを代表される哲学者,安部能成先生は,アメリカの将校たちを前にして「ここは,リベラルアーツを専門とするsacred place(聖なる場所)だ.占領というようなvulgar(世俗的)な目的には使わせない」と,毅然としておっしゃり,将校団は黙って帰っていきました.いまから60年近く前のことですが,そのときの光景は私の心に強く焼きついています.

 その一高時代に『ヒポクラテス全集』を読み,医師となる人間は,人格高潔で能力があり,一生を人類のために捧げる志をもつ若者でなければいけないとありました.それでは自分にはとても無理だと,数学の道へ進みました.戦後間もない,社会的にも経済的にも混乱した時代です.医学が人間の体を癒す学問とすれば,経済学は社会の病気を治す学問だと勝手に位置づけて,経済学の勉強を始めました.いまから50年ほど前になります.

日本の医療の危機

著者: 鈴木厚

ページ範囲:P.975 - P.975

 大変な不況といわれる昨今,政治・経済はもちろん医療事故などの影響もあり,医療の評判もよくありません.果たして医者と患者との信頼関係は回復できるのでしょうか.日本の医療を各国の医療状況と比較しながら考えてみたいと思います.

 日本の国民医療費は31兆円にのぼり,その内訳は本人負担が15%,保険が30%,事業主負担が22%です.地方と国は医療費全体の30%を負担していますが,政府はこの30%の部分を減らすことで,医療費を抑制しようとしています.厚生労働省は平成9年に「国民医療費は平成12年度に38兆円になり,22年度には68兆円になる」と予測値を発表しましたが,実際は平成12年度は30.4兆円にしかならず,その後は横ばい状態です.しかし,平成22年度には68兆円になるという予測値はいまだに訂正されておりません.また政府は,現在全体の3割を占める老人医療費が,将来は6割になると喧伝していますが,病気を持つ頻度の高い高齢者が増えるのですから当然のことです.

市場原理と医療・米国の失敗から学ぶ―日本の医療制度改革の動きとの関連で

著者: 李啓充

ページ範囲:P.976 - P.976

 現在の日本の医療制度改革の議論には,「市場原理・競争原理の導入」「官製市場の打破」というキーワードがしばしば出てきます.まるでそうすれば,患者の選択の幅が広がるような,あたかもよいことずくめのような印象を与えます.しかし,先進国の中で実際に医療を市場原理に委ねているのはアメリカだけです.私は,医療を市場原理に委ねるとどうなるのかについて,アメリカの実情を述べたいと思います.

 アメリカでは,民間の保険会社が販売する医療保険が主流です.しかし,市場原理の下では弱者が切り捨てられるので,たとえば,1965年まで高齢者の2人に1人が無保険者でした.そこでジョンソン大統領が,高齢者向けに「メディケア」,低所得者向けに「メディケイド」という公的医療保険制度をつくりました.公的医療保険は,連邦政府の国家総予算の16%にあたる巨額の税金を投入して運営されていますが,それでも4000万人以上が無保険者のままです.市場原理にまかせますと,どうしても落ちこぼれる人が出てしまい,それを救済するために巨額の税金を投入するのですが救済しきれません.

英国の医療改革から学ぶ

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.977 - P.977

 先進7カ国の国内総生産(GDP)に占める医療費の割合を見ると,日本は平均(9%)を下回って,イギリスと最下位を争っています.しかし,いまから3年以内に日本の最下位が確定するでしょう.現在イギリスは,医療費を1.5倍に拡大する改革に取り組んでいるからです.医療費抑制による弊害の大きさに気づいて,医療費拡大に転じたイギリスの経験を知ることは,日本が医療費を抑える政策を続ければ,どのような事態が起きてくるかを考える一助になります.

 1979年に政権についたサッチャー首相の依頼で医療改革の青写真を描いたのがグリフィス(Griffiths)という,スーパーマーケットチェーンの会長でした.彼は「内部市場」と呼ばれる競争原理を持ち込む方向を打ち出しました.この論議は,いまの日本における株式会社参入,混合診療導入の議論に似ています.

正念場の日本の医療

著者: 中島みち

ページ範囲:P.978 - P.979

 私は34年前の乳がん手術時に受けた特殊な放射線治療の後遺症で胸骨が折れ,肺まであと1ミリということで,先月緊急入院しました.すでに頚腕神経は焼け焦げ右手不自由,炭化した鎖骨も除去,今後は胸骨の壊死と,厳しい後遺症の続く放射線治療ですが,当時,最新治療として,しっかり説明を受け,私も生きるための夢を託した治療ですから,それなりに「納得」してきました.しかし,改善手術が成功した今,私が愕然としたのは,「見捨てられた病い」として,苦しんできた挙句にやっと,たまたまの出会いで実現した今回の手術は,なんと形成外科では,30年も前から確立された治療だったのです.私は,このようなたまたまの出会いによるのではなくて,日本全国バラツキなく,標準に達した治療が手に入るように,医療の精度管理,品質管理を徹底させ,各標榜科の壁を越えて,情報開示のシステムが整備されてほしいと考えます.

 私は常々,医療の主役は患者であってほしいと言っておりますが,患者こそが医療の結果のすべてを,たった1つの命,かけがえのない身に引き受けているのですから,当たり前のことではないでしょうか.そして,その患者の「納得」こそ医療のすべての根源だと考えます.なぜなら,ほとんどの医療に「絶対」はないからです.医学も「不確実性の科学」,ましてや医療となれば,科学を取り入れた実践の技術ともいうべきものです.また患者と医療者の間にも「絶対」はないのです.医療者の側も全く同じ医療を行うものでもないし,患者の側にも個体差があり,関係は相対的なものなのです.

論述

腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症における後方除圧術後のしびれ遺残率

著者: 西村行政

ページ範囲:P.981 - P.984

 腰椎椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症の100例ずつで,術後しびれ遺残率とそれに影響する因子を検討した.前者では,術前84%にしびれが存在し,術後1,3,6カ月,1年では32%,27%,26%,26%に残存した.しびれ遺残と手術時年齢が関連し,神経組織の回復力の問題が考えられた.後者では,術前89%にしびれが存在し,術後1,3,6カ月,1年では44%,40%,42%,45%に残存した.しびれ遺残と罹病期間や術前JOAスコア,術前筋力が関連し,神経組織の不可逆的変化の有無が影響していると思われた.

高齢者大腿骨頚部骨折手術の手術待機期間と術後成績および周術期合併症の検討

著者: 加藤義洋 ,   尾鷲和也 ,   尾山かおり ,   桃井義敬 ,   保坂雄大

ページ範囲:P.985 - P.988

 高齢者大腿骨頚部骨折の待機日数と術後合併症について検討した.対象は2001年1月から2004年2月までに手術した70歳以上の大腿骨頚部骨折患者215名で,手術は症例に応じて選択した.待機日数を受傷当日,翌日手術の準緊急群(111名),それ以降の待機群(104名)に分類した.両群間において性別,年齢,既往症について差はなかった.術後合併症,入院期間,術前後歩行能力について調査した.術後不穏・譫妄は準緊急群で増加したが,有意差は認めなかった.合併症発生頻度と術後歩行能力に差はなかったが,入院期間は準緊急群で有意に短かった.

後方侵入脊椎内視鏡視下手術の短期成績と問題点

著者: 生田光 ,   田中孝幸 ,   合志光平 ,   有馬準一 ,   中野壮一郎 ,   佐々木宏介 ,   楊昌樹 ,   深川真吾 ,   大賀正義

ページ範囲:P.989 - P.997

 後方侵入脊椎内視鏡視下手術(MED法)を施行した190例を対象に術後短期成績と問題点について検討した.腰椎椎間板ヘルニア89例,腰部脊柱管狭窄症92例,頚部神経根症・脊髄症9例であった.術後平均1.5年時のJOAスコアの平均改善率はそれぞれ82%,73%,79%であり,良好な成績が得られていた.術中・術後合併症を20例に認め導入初期例で多く発生したが,手技の向上および合併症対策により改善された.MED法は腰椎椎間板ヘルニアのみならず腰部脊柱管狭窄症や頚部神経根症・脊髄症にも応用可能な術式である.

Lecture

整形外科医が誤りやすい神経・筋疾患―しびれ・痛み・脱力の臨床(後編)

著者: 梶龍兒

ページ範囲:P.998 - P.1003

 しびれや脱力で来院する患者は極めて多い.その中でも頚椎症や末梢神経疾患など整形外科的な疾患のほかに内科的な診断と治療を要する種々の神経・筋疾患が存在する.これらの疾患のうち日常診療で最もよく遭遇するものに絞り,臨床的な診断法・検査法について詳説する.またそれら疾患の最新の治療法についても紹介する.整形外科的疾患についても電気生理学的な検査法で日常診療に役立つ神経伝導検査について紹介する.

海外医療事情

米国におけるKyphoplastyの現状―Cleveland Clinicの症例を中心として

著者: 戸川大輔 ,   ,   ,  

ページ範囲:P.1004 - P.1013

 近年,骨粗鬆症性圧迫骨折,ならびに骨融解性病的骨折に対する経皮的椎体形成術が広く行われてきている.Kyphoplastyは圧壊した椎体内にバルーンを挿入し,加圧することで椎体高を再獲得し,局所の後弯と脊柱の矢状断アライメントを改善すると同時に,骨セメントを無圧下で充填するための空洞を形成する.このことにより,セメント漏洩などの合併症の頻度を著しく減らすことのできる優れた術式である.良好な疼痛緩和,椎体高の回復,低頻度の合併症が報告されているが,疼痛改善機序,隣接椎体への影響,最適な椎体内充填マテリアルの問題などは今後の課題である.筆者が留学中のクリーブランドクリニックでは,1999年より500症例1,000以上のkyphoplastyを経験し,良好な臨床成績と高い患者の満足度を得ている.

連載 医療の国際化 開発国からの情報発信

海外医療ボランティア活動記(9)―ルワンダ(その5)

著者: 藤塚光慶 ,   藤塚万里子

ページ範囲:P.1014 - P.1018

 前回(本誌40巻第1号)は,1994年12月にザイール(現コンゴ共和国)のブカブで活動した記録であったが,今回はその続編である.

整形外科と蘭學・15

澤野忠庵と南蛮医術

著者: 川嶌眞人

ページ範囲:P.1020 - P.1021

■澤野忠庵

 日本においてオランダ人が来る前の医術は主としてスペイン,ポルトガルの医術であり,南蛮医術と呼ばれる.先に述べた栗崎流の開祖,栗崎道喜はその代表的存在であったが,ポルトガル人で日本に帰化した澤野忠庵も南蛮医術を伝えた人として知られている.

 忠庵は本名をクリストヴァーノ・フェレイラといい,1580年にポルトガルの北部,トレス・ヴェトラスに生まれた.

臨床経験

MRSA脊椎炎の治療経験

著者: 渡辺航太 ,   松本守雄 ,   石井賢 ,   小川祐人 ,   高石官成 ,   中村雅也 ,   千葉一裕 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.1023 - P.1028

 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)脊椎炎患者の臨床経過を調査し,その治療方針を検討した.対象はMRSA脊椎炎11例(血行性感染6例,術後感染5例)である.血行性感染例は全例がcompromised hostであった.保存療法抵抗性で麻痺を併発した4例に対し前方固定術を施行し,感染の沈静化が得られたが,3例で麻痺が残存した.保存療法で沈静化したのは1例のみであり,残りの1例は保存療法中に合併症で死亡した.術後感染例全例で脊椎インプラントを使用していた.感染早期にインプラントを抜去した2例は6カ月以内に沈静化したが,抜去が遅れた2例で感染が遷延化した.インプラントを抜去しなかった1例は敗血症で死亡した.血行性感染例では,保存療法で十分な治療効果が得られない場合,compromised hostでも早期に手術療法を行うべきである.術後感染例では可及的早期のインプラント抜去が必要である.

腰椎変性すべり症に対する前方固定術後の再手術例の検討

著者: 金森昌彦 ,   石原裕和 ,   川口善治 ,   信清正典 ,   安田剛敏 ,   阿部由美子

ページ範囲:P.1029 - P.1036

 腰椎変性すべり症に対し前方固定術を施行した33例を対象とし,術後臨床成績と再手術の原因を調査した.治療成績はJOAスコア(日常生活動作を除いた15点満点)で,術前平均7.2点から術後1年で12.4点と改善した.10年以上の最終調査時では10.8点であり,術後経過は概ね良好であるものの,長期的にはやや低下する傾向が認められた.術後再手術症例を5例(15.2%)に認めた.隣接椎間障害3例,隣接椎間板ヘルニアの遺残1例,有症性偽関節1例が再手術となった.隣接椎間障害は術後1年9カ月から12年で再手術を受けており,全例に後方除圧術を追加施行し,症状は改善した.

症例報告

甲状腺癌脊椎転移巣への131I内照射後に発症した放射線性脊髄症の1例

著者: 竹内孝之郎 ,   川原範夫 ,   村上英樹 ,   八幡徹太郎 ,   横山邦彦 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.1039 - P.1045

 症例は62歳,女性.当初,甲状腺癌の第10胸椎転移に対し,131I内照射療法が施行された.その3年後に誘因なくBrown-Sequard症候群が出現した.T10/11椎間高位の黄色靱帯骨化症が麻痺の原因と考え,除圧術を施行した.術後症状は若干改善したが,術後10日目頃より麻痺が進行し,術後35日目で両下肢完全麻痺となった.画像所見,術中所見,経過より本症例を131I内照射療法後に生じた放射線性脊髄症と診断した.現在までに131I内照射療法後に放射線性脊髄症を生じた報告はないが,このような合併症が生じる可能性があることを認識する必要がある.

両側の弾発現象を呈した肩甲骨下部弾性線維腫の2例

著者: 美舩泰 ,   本田久樹 ,   池田正則 ,   振角和利 ,   杉本格 ,   坪田次郎

ページ範囲:P.1047 - P.1052

 両側の弾発現象を呈した肩甲骨下部弾性線維腫を2例経験した.症例は49歳と48歳の男性でともに両側肩甲骨の深層に手拳大の腫瘤を認めた.腫瘤は共通して弾性硬,境界明瞭で,肩甲胸郭運動に関連して肩関節水平屈曲位で肩甲骨の弾発を呈した.2例とも両側の腫瘤摘出術を行い,背部痛および肩甲骨の弾発は消失した.病理にて弾性線維腫と診断された.本症は肩甲骨下部に好発し,肩甲骨の弾発を呈する場合がある.治療は無痛性腫瘤のみであれば経過観察でよいとされるが,背部痛や肩甲骨の弾発を認めれば腫瘤摘出術の適応となる.

Léri-Weill dyschondrosteosisの2症例

著者: 辻井雅也 ,   西山正紀 ,   二井英二 ,   川口篤 ,   加藤秀一 ,   平田仁 ,   内田淳正

ページ範囲:P.1053 - P.1057

 Léri-Weill dyschondrosteosis(LWD)は両側性のMadelung変形と中間肢節の短縮を特徴とする比較的稀な骨系統疾患である.今回,男女1人ずつのLWDを経験した.19歳の男性と34歳の女性である.近年,LWDにおけるMadelung変形などの四肢骨病変にエストロゲンが関与する可能性が報告されている.本症例においてもMadelung変形の程度は女性例で強く,それに伴う手関節痛は思春期に初発していた.

Transforaminal lumbar interbody fusionによる整復固定術を施行した形成不全性第5腰椎すべり症の1例

著者: 小川寛恭 ,   杉山誠一 ,   金森康夫 ,   鈴木直樹 ,   細江英夫 ,   清水克時

ページ範囲:P.1059 - P.1062

 形成不全性脊椎すべり症は第5腰椎の椎弓や上位仙椎の形成不全により腰仙関節前方亜脱臼を来す稀な疾患であるが,術中神経損傷や術後偽関節などのため術式は確立されていない.今回,形成不全性第5腰椎すべり症に対しtransforaminal interbody fusionを応用した椎体間固定術を施行し,slip angle 35°→25°,%slip 29%→5%と改善した.本法は椎体間操作時の神経損傷の可能性が低い点と両側L5神経根を除圧できる点から,形成不全性脊椎すべり症に対して有効な手術法と思われる.

発熱,高度貧血,肝機能障害などの全身症状を呈した通常型悪性線維性組織球腫の1例

著者: 石井猛 ,   舘崎愼一郎 ,   米本司 ,   岩田慎太郎 ,   竹内慶雄

ページ範囲:P.1065 - P.1069

 発熱などの全身症状を呈した29歳の男性で,右大腿の悪性線維性組織球腫(MFH)の1例を報告する.発熱,白血球増加,輸血を要する高度貧血,肝機能障害などの症状で内科的精査後に当院を紹介された.大腿部に20cm大の腫瘤を認め,針生検で,軟部肉腫と診断,股関節離断術を施行した.術後通常型のMFHと最終診断した.術後早期から全身症状は改善した.術前血中G-CSF,IL-6が高値であったが,術後は正常値となり,これらのサイトカイン産生腫瘍と判断した.現在,手術後8年であるが,無病生存中である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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