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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科41巻10号

2006年10月発行

雑誌目次

視座

日本型整形外科の未来

著者: 金谷文則

ページ範囲:P.1047 - P.1048

 スーパーローテート開始により,現時点で国内のほとんどの大学整形外科医局はダメージを受けている.特に顕著なのは地方大学であり,自学出身者は出身大学医局に残らず,整形外科を選んだとしても市中病院を研修先として選ぶことがほとんどである.この新臨床研修制度は,主に米国の3,4年生のカリキュラムを参考として作られた研修制度であり,以前,米国で行われていたロテーティング・インターンに類似したもののようである.しかし,有効性に疑問があり,現在米国では,3年前までの日本のように直接入局としているプログラムが多い(金谷文則.editorial「スーパーローテートと整形外科」,骨・関節・靱帯,16(11):1317-1320,2003).導入前のリサーチが十分であったか疑問が残る.導入後の実態を評価して,早急に改善してほしいと考えている.

 整形外科医からの不満点としては,当初から整形外科を独立した科として考慮しておらず,必修・必須にも含まれていないことである.米国でも日本と同様に運動器疾患は多いが,米国の整形外科医は主に手術療法を行うのに対し,日本の整形外科医のうち特に開業医は保存療法を主体に行っている(米国では保存療法をgeneral practitioner,family doctor,DO〔doctor of orthopathy〕,chiropractictorなどが行ってるが,州により異なる).あまり知られていないが,人口あたりの医師数は米国を1とした場合,日本は0.9倍とやや少ないが,整形外科医は2.0と2倍である.他に多い科としては脳神経外科(3.4),外科(1.5),少ない科は産婦人科(0.8),小児科(0.5),麻酔科(0.4)などである.これは日本の整形外科医数が多いことを示しているのではなく,日本型整形外科は運動器疾患における手術療法から保存療法までの全てを取り扱い,レベルの高い医療を行っているため,これだけの数の整形外科医がいてもまだ忙しいのが実態である.

論述

低い術前JOAスコア,高齢および長い罹病期間は頚椎拡大術の成績を悪くする

著者: 武井寛 ,   長谷川浩士 ,   太田吉雄 ,   林雅弘 ,   横田実 ,   尾鷲和也 ,   伊藤友一 ,   寒河江正明 ,   笹木勇人 ,   後藤文昭 ,   橋本淳一 ,   千葉克司 ,   古川孝志 ,   石川和彦 ,   杉田誠 ,   内海秀明 ,   荻野利彦

ページ範囲:P.1049 - P.1055

 頚部脊髄症に対し片開き式脊柱管拡大術を行った247例を対象として,年齢,罹病期間,術前重症度と術後成績との関連を調査した.年齢と術前JOAスコア,術後JOAスコア,ならびに改善率は有意に負の相関を示した.罹病期間と改善率は有意に負の相関を示した.術前JOAスコアと術後JOAスコアは強い正の相関を示した.年齢,罹病期間および術前JOAスコアから,術後JOAスコアを予測するのに役立つ回帰関数が得られた.術後の患者のQOLをより高くするためには,症状の悪化を看過せず,手術に踏み切ることが重要である.

正常人と腰部脊柱管狭窄症患者における足関節背屈筋力評価の検討

著者: 池田光正 ,   松村文典 ,   福田寛二 ,   浜西千秋

ページ範囲:P.1057 - P.1061

 腰部脊柱管狭窄症患者での足関節筋力の推移を詳細に捉えるために,筋力が数値化できるかを検討した.方法は徒手筋力測定(MMT)と等速運動機器で行った.健常人では男0.41±0.12Nm/kg,女0.36±0.08Nm/kgであり性別で有意差を認めた.脊柱管狭窄症患者は筋力をMMT5,4,3に分け,各間でのカットオフ値を検討した.MMT5/4は男0.25Nm/kg,女0.19Nm/kg,MMT4/3は男0.06Nm/kg,女0.08Nm/kgであった.MMTと等速運動機器の評価の間には,整合性を認めた.等速運動機器の評価を行うことで客観的,経時的に筋力回復を捉えられ,治療上の有益な情報となる.

手術手技/私のくふう

椎間孔経由腰椎後方椎体間固定術(TLIF)―その適応と手術手技の実際

著者: 吉田裕俊 ,   佐藤浩一 ,   江幡重人 ,   新井嘉容 ,   折井久弥

ページ範囲:P.1063 - P.1069

 本邦では,従来固定を要する腰椎疾患に対し腰椎前方固定術が一般的であった.しかし,椎弓根スクリューやインストゥルメンテーションの改良に伴い,神経組織の除圧と罹患椎間の固定を要する疾患に対し,腰椎後側方固定術や腰椎後方椎体間固定術を選択することが多くなってきている.一方,腰痛を主症状とする疾患に対しては,現在欧米を中心に椎間孔経由腰椎後方椎間固定術(TLIF)が施行されているが,左右いずれか一側から腰椎椎体間固定を達成できる術式であり,今後腰椎固定術のオプションになりうる可能性がある.そこで,本論文では自験例のTLIFの適応,手術手技,手術成績および腰椎固定術に対する文献的考察を行った.

Lecture

整形外科医が誤りやすい周術期管理と肺塞栓症

著者: 西垣和彦

ページ範囲:P.1071 - P.1081

はじめに

 急性肺動脈血栓塞栓症(acute pulmonary thromboembolism;APTE)は,体静脈系,特に下肢深部静脈で形成された血栓(深部静脈血栓症:deep vein thrombosis;DVT)が剝がれて血流に乗り肺動脈内にまで到達し,肺動脈を閉塞あるいは肺動脈血流を阻害することにより発症する疾患である.これまで,DVTは主に血管外科を中心に発展し,APTEは救急疾患として循環器・呼吸器内科を中心に発展してきたが,最近では連続した病態と考え両者を併せて「静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism;VTE)」と呼び,ひとつの疾患概念としての認識が広がっている.

 以前,APTEは,エコノミークラス症候群として脚光を浴びた.しかし,もともと何らかの静脈血栓形成を容易にさせる危険因子があることや,ファーストクラスや,他の長距離交通手段でも発症することから,近年,旅行者血栓症(traveller's thrombosis)と呼ぶことが提唱された.

 厚労省の人口動態統計によると,APTEによる単位人口当たりの死亡症例はこの50年間で約10倍に増加している10).さらに最近になり,旅行者血栓症として発症することはむしろ非常に稀であることが判明したため,注目点は病院内発症・院内死亡に対してどのように対応するかという点に移行した.

 APTEは,いったん発症するとその臨床経過が重篤になる症例が多く,適切な処置を怠ると不幸な転帰をとる可能性が高いことから,その発症予防対策,発症時の迅速な診断および治療が非常に重要である.このため2004年,わが国の9つの関連学会と肺塞栓症研究会は合同で,『肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン』を策定した5)

 本稿では,このガイドラインに基づき,整形外科領域での周術期管理に必要なVTEの診断および治療とその予防を概説する.

連載 日本の整形外科100年 9

技術革新で変貌を遂げた整形外科―整形外科領域における画像診断の技術革新

著者: 廣谷速人

ページ範囲:P.1082 - P.1086

はじめに

 整形外科学は,創生以来その時代,時代の科学技術を広く取り入れて進歩を遂げてきことは,歴史の教えるところである.わが国でも,100年の歴史の中で技術革新は各分野で間断なく続けられていて,その例は枚挙にいとまがない.そこでここではその代表例として,ドイツ整形外科会誕生(1902年)のきっかけとなり,わが国の整形外科発展に大きく影響を与えたX線に関連する技術革新を述べたい.

最新基礎科学/知っておきたい

Autocrine motility factor(AMF)と癌転移

著者: 渡辺秀臣 ,   柳川天志

ページ範囲:P.1088 - P.1090

■Autocrine motility factor(AMF)

 Autocrine motility factor(AMF)は,1986年にヒト黒色腫細胞の培養液中から,分泌細胞のchemotaxis運動を刺激する活性としてLiottaら3)により報告された.AMFはSDS-PAGE(SDSアクリルアミドゲル電気泳動)上で,55kDaの大きさが,還元状態では64kDaと大きくなるのが特徴である.1996年,われわれはマウスの転移性線維肉腫細胞の無蛋白培養株を用いて,その培養上清からAMFを精製してアミノ酸配列の一部を明らかにすることに成功し,1986年に遺伝子の解明されたneuroleukin(NLK)の28個のアミノ酸配列に一致することを明らかにした8).NLKはニューロンの生存を促進するneurotrophic factorとして働き,神経細胞の膜運動の1つであるterminal axonal sproutingを誘導する事実は運動因子活性と考えると興味深い.一方,1988年に細胞内の糖代謝の重要な酵素であるphosphohexose isomerase(PHI)がNLKと遺伝子配列上同一分子種であることが報告された.PHIは解糖系の中でglucose-6-phosphateをfructose-6-phosphateに変換するのを触媒する酵素で,glucose-6-phosphate isomerase(GPI)とも呼ばれる.われわれの分離,精製したAMFもPHI/GPI活性を有していた8)

臨床経験

骨巨細胞腫に対するフェノール焼灼と病巣掻爬術併用療法

著者: 中島久弥 ,   新井猛 ,   清水邦明 ,   別府諸兄 ,   高木正之 ,   風間暁男

ページ範囲:P.1093 - P.1098

 骨巨細胞腫は単純病巣掻爬術では再発の可能性が高く,また局所コントロールが難しく何らかの局所補助療法が必要となる.筆者らは徹底的な病巣掻爬後に再発防止の補助療法としてフェノール焼灼を施行し,骨移植または骨セメント充塡術を6例に行った.この方法は関節を温存でき,骨セメントを併用することで術後早期に荷重訓練も開始することができる有用な手術法と考えた.

Subvastus approachによる最小侵襲人工膝関節全置換術の短期成績

著者: 西池修 ,   眞島任史 ,   山崎修司 ,   大浦久典 ,   遠藤昭 ,   三浪明男

ページ範囲:P.1101 - P.1109

 2004年10月から変形性膝関節症に対し,subvastus approachによる最小侵襲人工膝置換術MIS-TKAを施行し,1年以上経過観察した51例54膝を調査した.皮切長は平均7.8cm,平均手術時間は98分であった.手術時間にはlearning curveが認められた.術後機能評価およびX線評価ではおおむね満足な結果が得られた.MIS-TKAは術後の後療法と入院期間の短縮に有用であった.MIS-TKA施行にあたり,十分な視野が得られない場合は,皮切の長さに固執せず皮切を延長することが重要である.

腰・下肢痛に対する持続硬膜外ブロック

著者: 見目智紀 ,   相庭温臣 ,   付岡正

ページ範囲:P.1111 - P.1115

 腰下肢痛に対する硬膜外持続ブロック療法の満足度調査を行い,疼痛コントロールとしての同法の有効性と問題点について検討を行った.対象は67名で,アンケート回答者は45名であった.25名が満足,9名が不満と回答した.再施行希望者は16名と少なかった.本療法による症状の改善は67名中57名で得られ,うち53名は施行後3日以内に症状改善が認められ始めた.治療期間中に生じたトラブルはチューブの途中抜去が4例,頭痛,悪心が3例,下垂足が1例で,感染例はなかった.

可動型と固定型人工膝関節置換術後の可動域

著者: 浅野浩司

ページ範囲:P.1117 - P.1119

 人工膝関節置換術における可動型と固定型のインサートはどちらが優れているかは明らかにされていない.本研究の目的は術後の可動域とHSS(Hospital for special surgery)scoreを比較することである.32例に固定型を30例に可動型のインプラントを用いて前向き研究を行った.術中操作やリハビリテーションは同様に行った.術後1年の可動域は固定型で-0.9/125.3°,可動型で-1.8/123.4°であり,HSS scoreは90.1と88.0であり,両者には有意差は認められなかった.術後短期の可動域,HSS scoreは,可動型と固定型は同等の成績であった.

症例報告

骨融解像を認めた血液疾患の2例

著者: 仲摩憲次郎 ,   吉田健治 ,   山田圭 ,   山下寿 ,   星子久 ,   中村英智 ,   西田俊晴 ,   高山純一 ,   田中順子 ,   木村芳三 ,   増岡和宏 ,   長部誠志 ,   今村豊 ,   後藤琢也

ページ範囲:P.1121 - P.1126

 脊椎,骨盤の骨融解像を認めた血液疾患2例を経験したので報告する.症例1は75歳の女性.右骨盤の骨融解像を認め,CT,MRIで右腸骨に占拠性病変を認めた.血液検査で白血球増多,高蛋白血症を認め成人T細胞白血病と診断し化学療法を行ったがカリニ肺炎を合併し死亡した.症例2は58歳の女性.第2,4腰椎に圧迫骨折,左腸骨の骨融解像を認め精査を行い,原発不明の転移性骨腫瘍として加療中,骨盤の打ち抜き像が進行し尿中Bence-Jones蛋白陽性で多発性骨髄腫と確定診断した.骨占拠性病変の鑑別診断として血液疾患が重要である.

馬尾ヘルニアを伴った仙骨囊腫の1例

著者: 苅安佐和子 ,   高橋忍 ,   尾立征一 ,   猿橋康雄 ,   松末吉隆

ページ範囲:P.1127 - P.1132

 硬膜管終端近傍から仙骨囊腫内にくも膜・馬尾ヘルニアを生じていた1例を報告する.症例は44歳の女性で,症状は坐位にて増悪する会陰部~両大腿後面のしびれと排尿障害であった.MRIにてS2椎体レベルに囊腫像を認め,発症3カ月で手術を施行した.囊腫は左S3神経根膨大部を中心とした傍神経根囊腫であったが,囊腫近位部で硬膜管よりくも膜ヘルニアが囊腫内に形成され,同じS3馬尾が嵌頓していた.囊腫を部分切除・縫縮するとともに,嵌頓した馬尾はくも膜下腔に環納して硬膜を縫縮・パッチした.術後4カ月現在,MRIで再発を認めず,両大腿しびれは5割程度軽減し排尿障害は消失した.以前より存在した囊腫内に馬尾の嵌頓を併発したことが発症の一因となった可能性が推察された.

成人ダウン症に発症した脊髄症に対して後頭骨軸椎固定術を行った1例

著者: 武井寛 ,   橋本淳一 ,   杉田誠 ,   仲野春樹 ,   荻野利彦

ページ範囲:P.1133 - P.1137

 成人ダウン症候群患者に合併した環軸椎亜脱臼に後頭骨軸椎固定術を行った1例について報告する.転倒した際の擦過創で前医を受診した際,四肢痙性麻痺を認め脊髄症と診断された.C1/2の脊髄余裕空間(space available for spinal cord,SAC)は4.5mmと極度に狭小で,MRI上歯突起後方の脊髄は菲薄化していた.透視下に頚椎を牽引しながら軽度伸展位とし,後頭骨軸椎固定を行った.C1後弓は切除し,腸骨移植を行った.術後2年,階段歩行も可能となり,四肢の愁訴ならびに排尿困難感は消失した.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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