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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科41巻11号

2006年11月発行

雑誌目次

視座

Jaffe's Triangle―これからの骨・軟部腫瘍診断・治療のあり方への提言

著者: 松野丈夫

ページ範囲:P.1147 - P.1148

 本年7月に札幌において開催させていただいた第39回日本整形外科学会骨・軟部腫瘍学術集会では「Jaffe's triangle」を基調テーマとしました.「Jaffe's triangle」とは1958年にProf. Henry L. Jaffeが書いた教科書の冒頭に出てくる表現で,整形外科医―病理医―放射線診断医の3者が共同して骨腫瘍の診断・治療を行わなければならないという考え方です.昭和43年に第1回日本整形外科学会骨・軟部腫瘍学術集会(当時は骨腫瘍研究会)が開催されて以来40年近くが経ちます.この40年間の骨・軟部腫瘍の外科的治療における進歩は著しく,当時20~25%程度であった骨肉腫の5年生存率も今や80%を越えております.しかしわが国の特徴として当時から特に骨腫瘍診断・治療の分野では整形外科医がX線診断・病理診断・外科的治療のすべてをカバーして行ってきたことは事実であり,それはそれなりに歴史的に意義のあることであります.もちろん整形外科医が一定以上のX線診断および病理診断の知識を有することは必須ですが,骨・軟部腫瘍の分野における診断技術が格段の進歩を遂げている21世紀においては,病理医・放射線診断医との連携(形成する3角形)をより一層密接にし,おたがいのレベルアップを図るべきであると考えます.

 最近,骨・軟部腫瘍診断の分野においては単純X線像の読みやH & E染色標本の読みがないがしろにされているようです.単純X線写真を素通りしてすぐにCTやMRIの所見を語り出す研修医や,免疫組織染色などの特殊染色がなければ確定診断を付けることができない病理の先生が増えてきている印象があります.もう一度原点に戻って単純X線写真に対する診断技術を磨くべきであり,H & E染色標本を穴のあくくらい見て診断をつけるべきでしょう.

手術手技/私のくふう

胸椎脊柱管内占拠性病変に対する顕微鏡下片側進入法

著者: 笹井邦彦 ,   丸山東勲 ,   若林英 ,   飯田寛和 ,   斎藤貴徳 ,   大成浩征 ,   赤木繁夫

ページ範囲:P.1149 - P.1156

 われわれは,顕微鏡下片側椎弓切除を胸髄腫瘍やくも膜囊腫に対するアプローチとしてだけではなく,他の胸椎脊柱管内占拠性病変(椎間板ヘルニア,後縦靱帯骨化症,黄色靱帯骨化症,硬膜外膿瘍)にも適応を拡大し,24例に施行した.そのうち,脊髄腹側に発生した髄膜腫の1例に,術後一過性に麻痺の悪化を認めた以外は,明らかな神経合併症は認めなかった.髄内腫瘍の1例を除き,病変部は完全に切除され,再発を生じた症例もなかった.本法は胸椎部での低侵襲手術のひとつのオプションとして,今後さらに適応を広げ,普及するものと思われる.

国際学会印象記

第33回International Society for the Study of the Lumbar Spine(ISSLS)会議に参加して

著者: 川上守

ページ範囲:P.1158 - P.1159

 第33回International Society for the Study of the Lumbar Spine(ISSLS)が5月13日から17日にノルウェーのベルゲン(図1)で開催されました.ベルゲンは1070年にOlav Kyrreという王様が築いた町で・・・という風に書きだしますとただの「観光案内」になりますので,学会そのものについて報告します.

 今年度は日本人で3人目の会長として福島県立医科大学の菊地臣一先生が就任され,プログラム委員長として千葉大学の高橋和久先生が激務をこなされました.30カ国から424名の学会参加者があり,国別の参加人数は日本122名,米国94名,英国30名,スイス18名と続いています.口演90題,3分の口演発表をポスターの前でするSpecial Emphasis Poster Session 40題,一般ポスター298題が採用されていました.口演26題が日本人の発表で,Special Emphasis Poster Sessionでは日本人14名が発表しました.本学会に対して日本がどれだけ貢献しているかわかると思います.

連載 日本の整形外科100年 10

整形外科学における基礎医学の発展

著者: 廣谷速人

ページ範囲:P.1160 - P.1164

はじめに

 整形外科学を含めてすべての医学は,臨床の現場と基礎科学とが互いに支え合って進歩してきた.ことに整形外科学は,研究対象が中・外胚葉両組織にわたっているだけでなく,関連する学問分野が広範であるため,その基礎研究の領域は極めて広い.

 以下,整形外科基礎医学の主要テーマのいくつかについて,その過去,現在の発展を概観する.

医者も知りたい【医者のはなし】 22

東京医学校ものがたり その2

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1166 - P.1168

 明治のはじめ,東京大学医学部の前身である東京医学校があった.江戸時代の西洋医学所が,明治維新後の明治7年(1874)に東京医学校となった.明治9年(1876)には東京・本郷に移り,東京医学校本館が建てられた.その建物は長く東京大学医学部のシンボルとして存在していたが,昭和40年(1965)に解体され,44年(1969)に,小石川養生所のあった理学部付属植物園(小石川植物園)に再建された.現在でも東京大学総合研究博物館小石川分館として活用されている.東京医学校本館は昭和45年に,東大の赤門とともに重要文化財に指定されている.今回は,その東京医学校の歴史に至る江戸時代の様子を書いてみたい.

臨床経験

腰椎固定術後の上位隣接椎間変性と椎間関節角度の関係について

著者: 重松英樹 ,   植田百合人 ,   小泉宗久 ,   宮崎潔 ,   佐藤誠久 ,   松森裕昭 ,   大島卓也 ,   高倉義典

ページ範囲:P.1169 - P.1174

 インストゥルメンテーションを併用した後側方固定術の中で,術後固定上位の隣接椎間に変性を起こした症例と,起こさなかった症例について隣接椎間関節角度に着目し,比較検討した.対象は1990年1月から2001年12月までに手術を行った症例で術後1年以上経過観察できた17例である.7例に隣接椎間の変性を認め,その椎間関節角度は,変性群で大きくなる傾向を示したが,統計学的には有意差はみられなかった.しかしながら,今回の検討では症例数が少なく,さらなる検討が必要と考える.

当院における関節リウマチ患者へのインフリキシマブの使用経験―有害事象を中心に

著者: 小坂英子 ,   松下功 ,   杉山英二 ,   多喜博文 ,   蓑毅峰 ,   篠田晃一郎 ,   木村友厚

ページ範囲:P.1177 - P.1181

 当院において2003年9月から2005年10月までのインフリキシマブ発売早期に投与した関節リウマチ患者30症例に対して有害事象の発生率を調べた.7例(23.3%)に有害事象の発生があり,3例(10%)が有害事象のためインフリキシマブ投与中止となった.重要な有害事象として感染症と投与時反応がある.高齢,糖尿病合併,ステロイド使用例は感染症発症のリスクが高いと思われた.また,長期休薬後にインフリキシマブを再投与する場合,重篤なinfusion reactionが生じる可能性が高く注意が必要である.

腰椎形成不全性すべり症に対する椎弓根スクリュー法の治療成績

著者: 松本守雄 ,   千葉一裕 ,   辻崇 ,   石井賢 ,   高石官成 ,   中村雅也 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.1183 - P.1189

 目的:腰椎形成不全性すべり症に対する腰仙椎固定術の治療成績について報告する.対象および方法:対象は手術的治療を行ったMeyerdingⅡ度およびⅢ度のすべりを呈する14例(男2例,女12例,平均年齢20.7歳,追跡調査期間44.2カ月)であった.手術は全例に椎弓根スクリューを用い,椎体間固定術を行った.L4を固定範囲に含め2椎間固定を行った症例が8例(A群),L5-S1の1椎間で整復固定を行った症例が6例(B群)であった.検討項目は1)手術成績,2)X線所見,3)手術時間と術中・術後合併症とした.結果:1)JOAスコア改善率はA群77.4±9.8%,B群79.9±14.5%と両群間に有意差はなかった.2)骨癒合は全例で得られた.% slip矯正率はA群56.3%,B群70.4%であったが,有意差はなかった.腰仙椎の前弯度を示すdelta angleの矯正率はA群6.4%,B群39.7%で,B群で有意に良好であった(p<0.05).3)手術時間はA群427分,B群280分,出血量はA群731g,B群352gで,いずれもB群で有意に低値であった.合併症はスクリュー折損・back-out 2例,一過性下垂足1例,表層感染2例であった.考察および結語:形成不全性すべり症に対する椎弓根スクリューを用いた整復固定術ではB群ではA群と比較してより良好な整復が得られ,かつ手術時間,出血量が少なかった.本研究で対象としたMeyerding Ⅲ度までのすべりであれば,単椎間固定で対応可能と考えられた.

環椎外側塊スクリューを用いた環軸椎後方固定術

著者: 田中耕次郎 ,   池永稔 ,   田中千晶 ,   鹿江寛 ,   奥平修三 ,   冨永智大

ページ範囲:P.1191 - P.1195

 環椎外側塊スクリューと軸椎椎弓根スクリューを用いた環軸椎後方固定術(C1LM-C2PS)の報告は,近年散見されるようになってきたが本邦での報告は少数である.今回,本法を施行した5例を報告し,若干の考察を加えた.症例は環軸椎不安定性を認めた5例(男性4例,女性1例)である.手術時間は平均183分,術中出血量は平均644gであった.環椎歯突起間距離(ADI)は術前平均10.8mmが術後1.2mmと改善を認め,術後6カ月時のCTによる評価で5例全例に骨癒合が認められた.本法は環軸椎の強固な固定が期待でき,またMagerl法と比較してVA損傷の危険性が少ないなどの利点があり有効な固定法と思われる.

軟部に発生したchronic expanding hematomaの5例

著者: 吉岡裕 ,   中島浩敦 ,   紫藤洋二 ,   浦川浩

ページ範囲:P.1197 - P.1202

 軟部に発生したchronic expanding hematoma(以下CEH)の5例を報告する.経過は1カ月から30年,発生部位は下腿2例,上腕1例,殿部1例,大腿1例であり,外傷歴は3例に認められた.MRIでは内部はT1強調像で高信号,T2強調像で内部に散在する低信号域を認め,4例に低信号の被膜様構造が認められた.外傷歴があり,比較的長い経過で増大する腫瘍で,MRI上,上記のような所見がみられた場合,CEHも考慮するべきである.また,臨床上,軟部肉腫との鑑別が重要であり,確定診断には生検あるいは切除が必要と考えた.

症例報告

高齢者に認めたFreiberg病に対して骨軟骨移植術を施行した1例

著者: 辻井雅也 ,   平田仁 ,   瀬戸正史 ,   浅間信治 ,   吉川和也 ,   永井康興 ,   内田淳正

ページ範囲:P.1205 - P.1208

 Freiberg病は10歳代の女性認めることが多い第2中足骨頭の無腐性骨壊死であるが,われわれは77歳の高齢女性に発症した比較的稀な1例を経験した.初診時のX線像では異常所見を認めず,MRIがその診断に有用であった.また圧潰した骨頭に骨軟骨移植術を用いて治療し,短期ではあるが経過は良好である.

大きな髄外病変を伴った胸髄髄内腫瘍の1例

著者: 中山美数 ,   阿部栄二 ,   村井肇 ,   石澤暢浩 ,   小林孝 ,   阿部利樹 ,   若林育子 ,   白幡毅士

ページ範囲:P.1209 - P.1213

 髄外病変を伴った胸髄髄内腫瘍(capillary hemangioma)の稀な1例を経験した.主訴は腰・両下肢のしびれと痙性麻痺による歩行障害であった.MRIではTh8レベルにT1強調像で等信号,ガドリニウムで均一に増強される雪だるま状病変を認めた.またT2強調像では脊髄の腫大と広範な髄内高信号病変を認めた.ミエロおよびミエロCTでは同部位での完全ブロックと脊髄腫大像,右側偏位を認めた.手術所見では,硬膜切開すると白濁したくも膜内にかなり大きな多房性髄外腫瘍を認めたが,髄内との交通は明らかでなかった.髄外腫瘍全摘後,脊髄は急速に膨張し軟膜直下に暗赤色の腫瘍が認められた.後正中部で脊髄を縦割して,栄養動脈を凝固切離しながら剝離し,一塊として摘出した.術後病理診断では毛細血管性血管腫であった.髄内病変の診断は難しく,一見,髄外腫瘍の画像所見を示すので注意は必要である.MRIによる血管系髄内腫瘍の鑑別診断は可能と思われた.

高位脱臼股に発生した色素性絨毛結節性滑膜炎の1例

著者: 森口尚生 ,   高平尚伸 ,   宮部基 ,   東計 ,   峰原宏昌 ,   駒田朋秀 ,   大川孝 ,   糸満盛憲

ページ範囲:P.1215 - P.1219

 今回われわれは,股関節に発生した色素性絨毛結節性滑膜炎(以下PVS)の1例を経験したので報告する.症例は51歳の女性で,近医で左股関節高位脱臼と診断され当科へ入院した.入院時,左股関節の違和感,脚長差およびTrendelenburg徴候を認めた.手術は1989年に報告された祖父江式に従い,二期的人工股関節置換術を行った.術中,ブドウの房状の増生した滑膜がみられ,病理所見でPVSと診断した.今回われわれは股関節に発生したPVSに対し,滑膜切除術と祖父江式人工股関節置換術を行い良好な結果を得ている.

腰椎化膿性椎間関節炎の1例

著者: 村添與則 ,   伊藤康二 ,   西山誠 ,   三神貴 ,   稲畠勇仁 ,   山本謙吾

ページ範囲:P.1221 - P.1226

 稀である腰椎化膿性椎間関節炎を経験したので報告する.症例は56歳の女性で,主訴は腰下肢痛および発熱であった.MRIにて左L3/4椎間関節内およびその背側にT2高輝度の所見を認め,炎症反応の上昇がみられた.左L3/4椎間関節部の穿刺,洗浄ドレナージ施行し,培養にて黄色ブドウ球菌が検出された.感受性のある抗菌剤を投与し,保存的加療で臨床症状と炎症反応の改善を認めた.化膿性椎間関節炎は,本邦では自験例を含めて詳細のわかる報告は7例であった.本例では膿瘍の穿刺により起炎菌を同定でき,抗菌剤の投与が有効であった.

対麻痺を呈した胸椎血管腫に対し放射線療法を行った1例

著者: 都島幹人 ,   中島浩敦 ,   浦川浩 ,   吉岡裕 ,   紫藤洋二

ページ範囲:P.1227 - P.1231

 対麻痺を呈した胸椎血管腫に対し放射線療法を行い,良好な経過を示した1例を経験したので報告する.症例は76歳の女性で,主訴は歩行困難であった.乳癌(10年前)の既往があり転移性骨腫瘍が疑われて入院となった.痙性歩行と左腸腰筋の筋力低下および足クローヌスを認めた.L1以下に2/10の知覚鈍麻を認めた.MRIにてTh7にT1強調像で低信号,T2強調像で高信号の陰影および同部位の脊髄の圧迫を認め転移性骨腫瘍を疑ったが,生検にて血管腫と診断した.計30Gyの放射線照射を行い,両下肢筋力の改善,足クローヌスの消失を認め対麻痺は改善した.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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