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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科41巻2号

2006年02月発行

雑誌目次

視座

整形外科の臨床配属実習

著者: 山本哲司

ページ範囲:P.97 - P.98

 2005年6月に新しい勤務地に転勤になり,赴任したその日から5年次の学生の臨床配属実習(ポリクリ)が待っていた.いまではポリクリという言葉を使う大学はだんだん少なくなり,BST(bed side teaching)とかBSL(bed side learning)という言葉を使う大学が多くなっているとのことであるが,香川ではポリクリという言葉が生きている.学生にとってこのポリクリは医学部の学生としての一大イベントであるから,何とか魅力的なものにしたいと考えた.思い起こせば自分が学生の頃はあまり授業に出なかったが,たとえ出席した授業であってもその記憶はあまりない.しかしながらこのポリクリのいくつかの光景だけはなぜか鮮明に記憶しているものがある.はじめて医学生が患者さんと接する診療の幕開けのようなものであるから,やはり自分を含めて印象深いものがあるのであろう.

 自分が受けたポリクリを思い出してみると,それぞれの臨床科によって様々なパターンがあった.ある外科系の科では,ポリクリ学生は当時の研修医の1日のスケジュールと全く同じ行動をとり,朝早くから深夜の手術まで付き合わされて,その合間合間に小講義があった.ある内科系の科では,学生が教授の前に起立させられて難しい質問をされ,答えられないと否応なしに叱責罵倒された.また厳しく出席をチェックする診療科もあったし,全く学生が放置される科もあった.2週間の間全く出席しなくても単位がもらえる科があり,その科の卒業試験で不合格になるものはいなかった.どんなポリクリがいいのか考えてみたが,やはり最近の研修医や学生の気質を考えてみると,びしびし怒鳴ったり叱責するのはまずい.彼らは怒られることに慣れていない.また長時間の拘束も時代の流れに合わない.労働基準法を楯に研修医に5時に帰りなさいと奨励する時代である.かといって放置しっぱなしでは,昔は一部の学生は喜んだが,今や必ず真面目な学生からちゃんと教育せよとクレームがつくことは間違いない.

誌上シンポジウム de Quervain病の治療

緒言 フリーアクセス

著者: 児島忠雄

ページ範囲:P.100 - P.101

 de Quervain病は日常の外来診療で比較的多くみられる疾患である.その病態,治療法について,最近,いくつかの進歩がみられている.ばね指と同様に,いまだに適切な診断,治療が普及していない疾患でもある.本誌が誌上シンポジウムとして,本疾患をとりあげたことは時宜にかなったものといえよう.

 de Quervainはノーベル賞を受賞したKocher教授の指導のもとで,母指基部の撓骨遠位端部の疼痛を訴える疾患を“Ueber eine Form von chronischer Tendovaginitis”と題し,1895年に報告した.その後,1911年,さらに1912年に症状,病理組織学的所見,治療法について総説的に述べた.de Quervainの論文はドイツ語で書かれていたため,英米系の人々には読まれる機会が少なかったのであろう.1997年,Illgenらは整形外科の歴史を紹介するため,de Quervainの論文を翻訳して,報告した.その始めのabstractの中で,Dr. Kocherが初めて記載し,最初の外科的治療を行ったのであるから,“de Quervain's tenosynovitis”の語はmisnomerであると記載した.しかしながら,de Quervainは論文の中でKocher教授から機会を与えられて,1894年,第1例の手術を行ったと述べ,そして,自身が勤務するLa Chaux-de-Fondsで1895年,第2例目の手術を行い,保存的治療を行った3例とともに報告した.論文のなかで,病態,手術方法について,Kocher教授から文通で賛意を得,Kocher教授がこの疾患をfibröse,stenosierende Tendovaginitisと名付けたと記載している.このような経由からみて,de Quervain病の名称がmisnomerであるとするのは正しくないであろう.なお,de Quervainの生い立ち,研究歴,業績に関しては,Ahujaらが詳細に記載しているので興味のある方のご一読をお薦めしたい.

de Quervain病の診断―徒手診断法の有用性

著者: 麻生邦一

ページ範囲:P.103 - P.108

 de Quervain病の診断は決して困難ではない.これまでいろいろな徒手診断法が開発され,臨床応用されてきているが,原著と異なった,誤まった手技が用いられ,混乱している.原法に則った正しい手技を紹介し,そのテストの有用性を調査した.自験例85手を対象として,診断テストとして代表的なEichhoffテスト,Finkelsteinテスト,野末テスト,麻生テストを挙げ,それらの陽性率,誘発された疼痛の強さの比較,隔壁との関連,予後との関連について調べた.Eichhoffテスト,麻生テストは,陽性率100%,野末テストは73%,Finkelsteinテストは44%であった.テストにより誘発された疼痛の強さをランクづけすると,1位がEichhoffテスト,2位が麻生テスト,3位が野末テスト,4位がFinkelsteinテストとなり,Eichhoffテストが最も鋭敏であった.テストにより,隔壁の有無を知ることは困難であった.予後を示唆する明確なテストはなかったが,短母指伸筋腱(EPB)腱鞘炎を反映する麻生テストで,疼痛度が1位になるくらい強い症例に予後が悪い傾向にあった.

de Quervain病における超音波検査を中心とした画像診断

著者: 清水弘之 ,   別府諸兄 ,   中島浩志

ページ範囲:P.109 - P.114

 われわれはde Quervain病の超音波画像で隔壁の有無と腱周囲の低エコー像の程度を調べ,治療方針の判断材料に利用している.対象は初診時または経過中に超音波検査を行った95例100手(保存例66手,手術例34手)である.短軸像を中心に隔壁の有無と短母指伸筋腱と長母指外転筋腱周囲の低エコー像により腱鞘の肥厚の程度を評価した.隔壁と腱周囲の低エコー像を有する例では手術例や注射回数も多く,寛解期間は長くなる傾向にあった.隔壁のない低エコー像を有する例では保存有効例が多く,隔壁や低エコー像のない例では手術例がなく,早期に寛解が得られていた.超音波検査で隔壁の有無と腱鞘の肥厚の程度は評価可能であつた.隔壁と低エコー像の有無で症例を4つのtypeに分類でき,これらは治療効果に反映していた.本症の治療方針の判断材料に超音波画像は利用できると考えている.

de Quervain病における保存的治療

著者: 堀内行雄

ページ範囲:P.115 - P.121

 de Quervain(ドケルバン)病は,診断がつきやすく手術も比較的容易なことから,完治させるために手術が行われてきた.手術は本症を短期間に確実に治癒させるために重要なものであるが,いまだに術後の遺残症状に悩む症例が散見される.最近では本疾患にトリアムシノロンを用いた腱鞘内注射を行うことで,手術が激減している.今回,2001年9月から2年6カ月間に当院外来で本症と診断し,ケナコルト-A 5mgと1%キシロカイン0.5mlの腱鞘内注射後1年間以上経過した97例100手に対し注射の有効性と有効期間を検討した.注射は全例有効であったが,有効期間は1年以上43%,6カ月以上1年未満24%,3カ月以上6カ月未満28%,3カ月未満5%であった.半数以上が1年以内に再発したが,再発した例のほとんどが再度注射を希望した.注射する際のコツは,伸筋腱第1区画に隔壁があるものとして主にEPB(短母指伸筋)腱腱鞘内に注入することを心がけることである.

APL・EPB両腱に対する腱鞘切開術

著者: 吉田健治 ,   平井良昌 ,   坂井健介 ,   八木雅春 ,   山田康人 ,   原秀

ページ範囲:P.123 - P.129

 de Quervain病に対し従来行われているAPL・EPB両腱を開放する腱鞘切開術の予後調査を行い,さらにcadaverを用い伸筋腱第1区画の解剖学的所見について検討を加えた.対象はde Quervain病の診断で手術を行った45例47手である.男性12例,女性33例,年齢は平均46.7歳(17~80歳)であった.手術は原則として局麻下に行い,腱鞘は第1区画の背側に近い部位で切開した.手術成績は麻生の評価法を用いると優:40手(85.1%),良:7手(14.9%),可および不可はなかった.腱の亜脱臼が2手にみられ,一過性の神経症状が6手にみられた.隔壁は34手(72.3%)にみられた.Cadaver 72体144手の観察ではEPBの欠損は1.4%であった.隔壁は89例(61.8%)にみられた.本法は解剖学的に変異の多い第1区画のAPL・EPBを展開して確実に開放することが目的であり,腱鞘滑膜炎に対しては滑膜切除術を行う.de Quervain病に対しAPL・EPB両腱を開放する従来法は,注意すべきポイントを遵守すれば良好な成績が得られる.

論述

腰痛性間欠跛行に伴う体幹前傾化に対する重錘負荷の影響

著者: 高橋一朗 ,   菊地臣一 ,   佐藤勝彦 ,   岩渕真澄

ページ範囲:P.131 - P.138

 高齢者には,歩行や立位で腰痛とともに体幹前傾化が発生し間欠跛行を呈する病態(腰痛性間欠跛行:ICLBP)が存在する.その病態解明のため,重錘負荷時の姿勢変化と体幹筋活動について検討した.その結果,健常者と比較して,体幹傾斜角度には顕著な前傾化が,角速度には有意な変動が認められた.一方,傍脊柱筋の平均筋電量には大きな活動(過活動現象)が,平均パワー周波数には周波数成分の徐波化(筋疲労現象)が認められた.すなわち,ICLBPに対する重錘負荷は傍脊柱筋の過活動と筋疲労を惹起して体幹前傾化を促進する.

大腿骨頚部内側骨折に対する早期骨接合術の有用性の検討

著者: 柏木聡 ,   森谷光夫 ,   坂本日出雄 ,   木村和正 ,   大谷茂毅 ,   柳田明伸 ,   岡村浩史 ,   中村俊之

ページ範囲:P.139 - P.141

 大腿骨頚部内側骨折に対する骨接合術を緊急手術として行うことが,入院日数の短縮,歩行レベルの維持,痴呆の予防,術後合併症の予防に有用かどうかを検討した.対象は1998年以降に手術を施行し追跡可能であった44例(緊急手術群19例,待機手術群25例).2群を統計学的解析すると,入院日数の短縮,歩行レベルの維持については有意差を認め,痴呆の防止,合併症の予防についても比較的良好な結果を得ることができた.術前のリスク評価やスタッフの配置などの問題はあるが,緊急手術は患者の予後を良好にする可能性がある.

整形外科/基礎

動脈硬化が脊椎や腰背筋群へ及ぼす影響―遺伝性高コレステロール血症ウサギを用いた実験的研究

著者: 竹谷内克彰 ,   菊地臣一 ,   紺野慎一

ページ範囲:P.143 - P.149

 本研究の目的は,腰動脈に動脈硬化を発症した実験動物を用いて,動脈硬化が腰椎背筋群の血流量低下や変性,および椎間板の変性に及ぼす影響を実験的に明らかにすることである.遺伝性高コレステロール血症ウサギを用い,腰椎部MRI像による多裂筋変性の評価,多裂筋血流量の計測,腰椎椎間板変性の組織学的評価を行い,対照ウサギと比較検討した.その結果,腰動脈の動脈硬化は,腰椎背筋群の変性や腰椎椎間板の変性に有意な影響を及ぼさないが,筋血流量を低下させる傾向があることが明らかになった.

連載 日本の整形外科100年 2

外科学会における整形外科学

著者: 廣谷速人

ページ範囲:P.150 - P.152

はじめに

 日本整形外科学会の創立(大正15年〔1926〕年)までの間,日本外科学会(明治32〔1899〕年創立)は,整形外科関係の研究発表や討議を全国的レベルで行う唯一の場であった.それらの中には今日なお注目すべき業績が少なくない.それら先人の努力のあとを主な課題について顧みたい(表).

臨床経験

N. N. C. rodを使ったGrafバンドによる後方経路腰椎椎体間固定術(PLIF)隣接椎間制動術―2年以上経過例の検討

著者: 神谷光広 ,   森将恒 ,   大野秀一郎 ,   佐藤啓二 ,   長谷川貴雄

ページ範囲:P.153 - P.157

 目的:PLIFの隣接椎間に狭窄があり,除圧術にGraf制動術を併用した成績を検討する.対象および方法:術後2年以上経過した15例を対象とした.PLIF椎間は変性すべり症12例.Graf椎間の可動域,すべりおよび椎間板高を術前と最終経過観察時にX線像にて測定した.結果:Graf椎間の術後可動域は,術前可動域が10°以上であったものほど減少した.Grafバンドの逸脱を生じた2例の可動域は不変であった.2例で可動域が消失した.結語:Graf椎間は可動域が減少し,局所後弯が低下する制動効果が得られた.

手指に発生した血管平滑筋腫の3例

著者: 吉岡裕 ,   中島浩敦 ,   紫藤洋二 ,   浦川浩

ページ範囲:P.159 - P.162

 稀な手指発生の血管平滑筋腫の3例を報告する.3例ともにほぼ同様に,MRIにて,皮下にT1強調像で低信号,T2強調像で高信号と筋と等信号の混在する腫瘍を認め,T1強調像とT2強調像ともに,低信号の被膜様構造を認めた.MRI所見と病理組織学的所見の対比では,T2強調像で高信号の部分は,血管腔に一致し,T2強調像で等信号の部分は平滑筋線維の増生に,低信号の部分は膠原線維性の被膜に一致していた.MRIにて,結節性腫瘍が皮膚あるいは皮下に存在し,T2強調像で高信号と等信号が混在し,辺縁にT2強調像で低信号を呈するものでは,血管平滑筋腫も考慮すべきと考える.

下肢人工関節置換術後における深部静脈血栓症の予防効果に関する足底部と下腿部間欠的空気圧迫装置の比較

著者: 施徳全 ,   須藤啓広 ,   長谷川正裕 ,   法貴葉子 ,   近藤哲士 ,   榊原紀彦 ,   佐藤昌良 ,   山田理顕 ,   塩川靖夫 ,   内田淳正

ページ範囲:P.163 - P.168

 下肢人工関節置換術後の深部静脈血栓症(DVT)に対するフットポンプとカーフポンプの予防効果を比較した.近位型DVTの発生頻度はフットポンプ使用例とカーフポンプ使用例の間で有意差はみられなかったが,遠位型DVTの発生頻度はカーフポンプ使用例でフットポンプ使用例より有意に低かった.遠位型DVTのうち,下腿本幹静脈血栓症単独発生例に関して有意差はみられなかったが,三頭筋静脈血栓症単独発生例に関してはカーフポンプ使用例がフットポンプ使用例より有意に低かった.すなわち,術後三頭筋静脈血栓症(ヒラメ筋静脈血栓症)の予防にはカーフポンプがフットポンプより有用であった.

指趾内軟骨腫に用いたβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)のX線像の経時的変化

著者: 加藤仲幸 ,   長田伝重 ,   藤田聡志 ,   亀井秀造 ,   高井盛光 ,   玉井和哉 ,   早乙女紘一

ページ範囲:P.169 - P.173

 指趾発生の内軟骨腫に対し,β-TCP(β-リン酸三カルシウム)を使用しその経時的変化をX線像で検討した.症例は6例6指趾,発生部位は基節骨3例,中節骨2例,中手骨1例であった.手術は病巣掻爬後β-TCPを顆粒状に粉砕し十分に充塡した.これら症例のX線像におけるβ-TCPの辺縁が不明瞭化する時期,骨梁の出現時期,β-TCPが吸収された時期について検討した.結果は,それぞれ平均4週,2.5カ月,6カ月であった.β-TCPは全例で比較的早期に新生骨に置換された.内軟骨腫の治療にβ-TCPを併用することは有用であると思われた.

Duchenne型筋ジストロフィーに伴う脊柱変形に対するインストゥルメンテーション手術

著者: 高相晶士 ,   井上雅俊 ,   守屋秀繁 ,   高橋和久 ,   山崎正志 ,   礒辺啓二郎 ,   中田好則 ,   南昌平 ,   小谷俊明 ,   糸満盛憲

ページ範囲:P.175 - P.181

 筆者らはDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)に伴う脊柱変形に対し,脊柱変形および骨盤傾斜の大きさに関わりなく,胸椎から骨盤を固定せずにL5までの後方矯正固定術を18症例に行い検討を行った.側弯は術前平均75°が術後平均24°,後弯は62°が32°となり,脊柱変形の矯正は良好であった.術後,全例において,骨盤傾斜の十分な改善と,座位バランスの改善を認め,腰痛を認めた症例も痛みは消失した.DMDの生命的予後は決して良好ではないが,この手術方法によってADLとQOLの向上を得ることが可能であった.

脊椎骨肉腫の“en bloc”切除標本から得た新知見―病理から手術へのフィードバック

著者: 村上英樹 ,   富田勝郎 ,   川原範夫 ,   土屋弘行 ,   山口岳彦

ページ範囲:P.183 - P.189

 3例の脊椎骨肉腫(脊髄を含めて切除した再手術例,脊髄を含めて切除した初回手術例,術前化学療法が奏効した初回手術例)を一塊として全摘出する機会を得た.その大割切除標本を病理学的に詳細に検討した結果,臨床的に有益ないくつかの知見を得ることができた.まず,硬膜は腫瘍浸潤に対する強いバリアとなっていたが,硬膜という強いバリアでも,腫瘍の脊柱管内への浸潤が長期にわたると,バリアは徐々に破壊されてくることが明らかとなった.さらに,骨肉腫では腫瘍と硬膜の間に偽被膜は存在せず,腫瘍は硬膜と癒着していた.よって実際の手術の際には,腫瘍を硬膜から慎重に剝離しなければ硬膜表面に腫瘍が残存することが懸念される.ただし,術前化学療法が奏効していた症例では,腫瘍の表面に反応性偽被膜が形成されており,手術での剝離は容易であった.また,初回手術後の瘢痕組織はバリアとはなっておらず,瘢痕内に腫瘍が浸潤していた.よって再手術の際には,できる限り瘢痕も含めた切除が必要であるといえる.脊髄に関しては,1カ月も完全麻痺が続いた場合には,病理学的に脊髄はすでに壊死に陥っており,回復の見込みは全くないことが証明された.

症例報告

足関節脱臼骨折手術中に肺塞栓症を発生するも救命しえた1例

著者: 入内島崇紀 ,   植松義直 ,   及川久之 ,   佐藤賢治 ,   角野隆信 ,   桑原正彦 ,   浅井亨

ページ範囲:P.191 - P.195

 44歳,男性.階段から転落して受傷し,左足関節脱臼骨折の診断で受傷後18日に観血的整復固定術を施行した.術中,タニケットを解除したところ解除2分後より最高血圧が50mmHgまで低下した.肺血栓塞栓症を疑い心肺蘇生を行い,ヘパリン5,000単位,TPA 520万単位を静注するなど,血栓溶解療法により救命し得た.現在,麻痺,脳高次機能障害を認めていない.足関節脱臼骨折の手術は肺血栓塞栓症予防ガイドラインによると中リスク群であるが,肥満,長期臥床などのリスクがある場合には下肢静脈エコーによる深部静脈血栓症の評価および,術前からの抗凝固療法や下肢静脈フィルターの設置等を検討する必要がある.

骨原発平滑筋肉腫の1例

著者: 木下厳太郎 ,   八十嶋仁 ,   白木孝人 ,   米湊裕 ,   流田智史

ページ範囲:P.197 - P.201

 稀な骨原発平滑筋肉腫の1例を報告した.症例は74歳の女性.下腿の疼痛を主訴に来院した.血液検査では腫瘍マーカーを含めて異常所見を認めなかった.単純X線像では,比較的境界明瞭な骨透亮像を認めた.骨シンチグラムでは,ドーナツ状の異常集積像を認め,MRIにてT1で低輝度,T2で高輝度,ガドリニウムで増強される所見が,ほぼ骨内に限局してみられた.病理組織診断では紡錘形細胞肉腫の形態を示し,免疫染色でsmooth muscle actinが陽性になったことから,平滑筋肉腫と診断した.広範囲切除術および腫瘍用人工関節での再建術を行った.膝関節伸展機構は,腓腹筋の前方移行部に膝蓋腱を縫着し再建した.術後1年の現在,無病生存中であり,機能的にも満足している.骨原発平滑筋肉腫は,軟部原発や子宮・腸管からの転移性肉腫との鑑別が必要であるが,稀に存在するので,その存在を念頭に置く必要がある.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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