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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科41巻3号

2006年03月発行

雑誌目次

視座

医師不足? 偏在?

著者: 石黒直樹

ページ範囲:P.211 - P.212

 昨今,病院長と話す機会があると必ず,医師不足の話になる.しかも常に特定の診療科に限って不足している.都市部の病院よりも地方都市の基幹病院(市民病院クラス)にその傾向が強い.しかし,本当に医師は不足しているのであろうか? 少なくとも過去10年以上にわたり明らかに医師数は充足されているのが現実であろう.ともかく医学部数は増加し,1年間に医師資格を取得する者の数は減っていない.では昨今急速に問題化しつつある医師不足の本当の原因は何であろうか?

 私事で恐縮だが,名古屋大学整形外科に入局する若手医師もピークから比べると4割減っている.胸部,腹部外科では同様な傾向がより如実に示されている.整形外科医師を含めて外科系医師を志す者が減っているという実感を持っている.一方,内科では診療科ごとの浮き沈みがあるという.そこでは,どうも忙しい,夜間緊急が頻発する科目が敬遠され,比較的落ち着いている科目に入局が増えるという傾向がみられる.名古屋地区の大多数の公立病院では忙しく,たとえ人の2倍働いたとしても,さほど収入には反映されない.おそらく全国同じような状況であろう.肉体的疲労・危険性が伴うにもかかわらず,経済的には保障されていない.正に3K職場である.これでは忙しく,夜間の呼び出しが多い診療科に進もうとする若い研修医師が増えないのも当然であろう.皮肉なことに忙しい科ほど社会的なニーズが高いにもかかわらず,研修終了後の医師が選択しない傾向にある.今のコマネズミ状態は改善される気配をみせないのではないかと思う.

論述

脊髄髄内腫瘍の神経学的治療成績―良性髄内腫瘍を中心に

著者: 吉原永武 ,   松山幸弘 ,   酒井義人 ,   中村博司 ,   片山良仁 ,   佐藤公治 ,   見松健太郎

ページ範囲:P.213 - P.222

目的:脊髄髄内腫瘍の神経症状の推移を調査すること.対象:手術治療を行い詳細な神経学的所見を把握できた37例.方法:術前・術直後・最終観察時の3時点で,下肢機能,感覚機能,膀胱機能の改善・不変・悪化を調査した.結果:術直後には約80%に悪化が見られたが,そのうち約90%は最終観察時までに改善傾向であった.術前と最終観察時との比較では約65%で悪化していた.術前の機能がよい状態で手術を行ったほうが最終成績がよかった.結語:脊髄髄内腫瘍は神経症状が悪化することが多く,早い段階での手術が望ましいと考える.

整形外科/基礎

痛覚過敏に対するカルシトニンの抗侵害受容効果―卵巣摘出ラットの免疫組織化学的検討

著者: 高山文治 ,   菊地臣一 ,   紺野愼一 ,   関口美穂

ページ範囲:P.223 - P.230

 卵巣摘出ラットにおけるカルシトニンの抗侵害受容効果を免疫組織化学的に検討した.両側卵巣摘出後にカルシトニンまたは溶媒を反復投与した群(OVX-calcitonin群,OVX-vehicle群),卵巣摘出後にカルシトニン投与に加えセロトニン合成阻害薬(pcpa)を投与した群(OVX-calcitonin-pcpa群),偽手術後にカルシトニンまたは溶媒を投与した群(sham-calcitonin群,sham-vehicle群)の5群を設定した.モデル作成4週後より4週間の投薬を行った後にホルマリンテストを行い,第5腰髄のc-fosタンパク(c-Fos)陽性細胞数を比較した.カルシトニンは,OVX群とsham群の両群においてc-Fos産生を抑制した.Pcpaによりカルシトニンのc-Fos産生抑制効果は消失した.すなわち,カルシトニンは抗侵害受容効果を有し,その抗侵害受容効果にはセロトニン下行抑制系が関与している.

器械

ソケットポジショニングシステム(人工股関節置換術の臼蓋ソケットガイド)の使用経験

著者: 矢野悟 ,   山田昌弘 ,   箱木知也 ,   中島哲雄 ,   人羅俊明

ページ範囲:P.231 - P.242

 側臥位でのTHA(人工股関節置換術)は骨盤が傾きやすく,臼蓋ソケットのmalpositionの原因となることがある.対策は骨盤にマークを付け設置角度の基準としているが,傾斜が不明のまま固定され,マークの信頼性は低い.われわれは骨盤をX線撮影時と同じ傾きで涙痕間線と平行に臼蓋上部にマークを固定し,これを基準に臼蓋ソケットを設置する方法を開発した.13例のTHAに本法を用い,臼蓋ソケットを手術的定義で外方開角45°,前方開角20°(X線学的定義で,外方開角46.7°,前方開角13.9°)で設置した.術後の設置角度はX線学的定義(Lewinnek法)で平均外方開角は47.2±3.7°,平均前方開角は13.3±5.8°であった.

classic articles

1838年 世界初の後縦靱帯骨化症の報告論文

著者: 松永俊二 ,   瀬戸口啓夫 ,   小宮節郎

ページ範囲:P.244 - P.245

 後縦靱帯骨化症は,骨化した後縦靱帯により脊髄あるいは神経根の圧迫が惹起される厚生労働省の特定疾患であり,本邦では月本の発表1)以来,多くの報告がなされている.後縦靱帯骨化症の世界初の報告は,C. A. Keyが1838年にGuy Hospital Reportに『Paraplegia―depending on disease of the ligaments of the spine』2)として発表したものであるとされている.多くの後縦靱帯骨化症に関係した論文にはこのKeyの論文が引用されているが,それは世界初の報告としての引用に止まり,その内容について詳しく述べた論文はほとんどない.その理由は1838年という160年以上前の論文であり,論文の入手が困難であるためであろう.われわれはケンブリッジ大学に留学している教室員の協力で,このKeyの論文の原著を閲覧する機会を得たので,論文で紹介されている症例がわれわれが日常診療している後縦靱帯骨化症患者に照らし合わせ,どのような位置づけの症例であるのかを検証した.

 Keyはこの論文の中で後縦靱帯骨化症ではないかと推察される2症例を報告している.

PARAPLEGIA―Depending on Disease of the Ligaments of the Spine

著者:

ページ範囲:P.246 - P.253

 The causes of Paraplegia are frequently so obscure during life, and, after a careful examination of the dead, so often elude our search, that any additional facts tending to throw light on this affection deserve to be placed on record. The diagnosis also of these cases, it is well known to all who have seen much of this form of paralysis, is difficult and dubious;and the treatment recommended is oftener founded on empirical, than on rational or scientific principles. The record of the following cases may serve to call forth further examination of these spinal affections;and, by eliciting additional facts, will assist in distinguishing between the several diseases of the spinal cord and brain that give rise to paraplegia.

 Mr. Earle's and Mr. Stanley's Papers, in the Medico-Chirurgical Transactions―two very able expositions of the causes of paraplegia―do not include among them the peculiar spinal disorder that forms the subject of the following remarks. It was in the attempt to verify the correctness of the pathology of the latter surgeon, that I first observed the change in the ligaments of the spinal canal,which the following cases will explain.

―後縦靱帯骨化症―最初の報告から診療ガイドラインまで

著者: 米延策雄

ページ範囲:P.254 - P.254

 「後縦靱帯骨化症(OPLL)は,1838年にKeyが最初に報告をし,本邦では1960年の月本の剖検報告に始まる」.後縦靱帯骨化症の歴史が述べられるとき,このような形の記載をしばしば目にする.どのような疾患,あるいは病態が「後縦靱帯骨化症」の始まりされているのか,極めて興味深い.が,これほど古い文献を容易に手に入れることはできないので,冒頭のような記述を鵜呑みにする他なかった.幸い,松永俊二先生が原著論文を読み,その解説をされたので,積年の気がかりが消えた.いずれにせよ,Keyの報告を始まりととれば約170年が,月本の報告からは約50年が過ぎようとしている.その間に,OPLLはどこまで明らかにされ,またその治療はどのように行われるようになったか.

 本症の研究は,1975年に設けられた厚生省特定疾患研究事業による研究班〔班長:津山直一東京大学教授(当時)〕が研究の中心となって,整形外科医を中心とするものの,オールジャパンの研究体制の中で進められた.この体制は現在,厚生労働省特定疾患対策事業「脊柱靱帯骨化症に関する調査研究班」(班長:中村耕三東京大学教授)として引き継がれ,本症の原因解明,治療法開発が続けられている.30年に及ぶ研究の成果は膨大なものである.加えて,治療に関しては日本以外の国々からも報告が出されるようになり,蓄積された臨床経験も豊富となった.この状況から,調査研究班はこれまでに蓄積された知見を,系統的な文献レビューの手法で吟味し,現在までに何がどの程度明らかにされたか,そして今後の研究の方向性はいかにあるべきかを検討した.日本整形外科学会がいくつかの疾患について診療ガイドラインを策定することを決定したことと時を同じくしたので,日整会と協同して「頚椎後縦靱帯骨化症診療ガイドライン」を作成した.この紙数でOPLLの現状をまとめるのは難しいので,是非ご一読いただきたいと思う.

整形外科/知ってるつもり

痛点ストレッチ

著者: 宗田大

ページ範囲:P.256 - P.259

■痛点ストレッチとは

 「痛点ストレッチ」とは筆者がつけた造語であり,痛い部位をより痛い方向に圧迫することにより,骨関節系の疼痛を比較的短時間に軽減もしくは消失させる保存的治療法である.圧痛部位には組織の柔軟性の低下や血行不良の存在が推測され,疼痛閾値が低下している.痛点ストレッチにより惹起される痛みに対し,我慢できる範囲で強い圧迫力を用いることが治療法として効果的である(約5kg程度まで).一方,通常の筋肉ストレッチは筋組織を全体として直線的な方向(回旋方向へも伸ばすが)に張力を加える体操である.

最新基礎科学/知っておきたい

リウマチの破骨因子

著者: 鈴木隆二

ページ範囲:P.260 - P.263

■新たなリウマチの破骨細胞分化誘導系

 関節リウマチ(RA)の罹患者は日本国内で約80万人ともいわれ,これらの患者の機能障害をいかに軽減するかは医療福祉上・医療経済上重要な問題である.RAは四肢の関節破壊を主徴とするが,これに伴って加齢によるものよりはるかに高度な骨粗鬆症が生じ,これも患者の機能を大きく損ねる要因である.しかし高度な骨粗鬆の病態は解明されていない部分が多く,その予防・治療の方法はまったく確立されていないといっても過言ではない.

 RAでは関節腔内からも骨破壊が進行するのが特徴的である.関節滑膜組織内に破骨細胞様の形態をとる多核巨細胞が存在することは以前より知られており,これが関節内からの骨吸収に関与する可能性も示唆されていた.われわれはRA関節腔内に前駆破骨細胞が存在することを予測し,RA患者関節液中に大量のCD14陽性単球様細胞の存在と,これらがサイトカインの刺激により骨吸収能を持つ成熟破骨細胞に分化することを見出し,前駆破骨細胞であるCD14陽性単球様細胞は,健常人末梢血単球とは異なる表面抗原プロファイルを有しており,分化段階の異なる細胞であることが示唆された5)

連載 日本の整形外科100年 3

整形外科講座の開設

著者: 蒲原宏

ページ範囲:P.264 - P.266

 日本外科学会が明治32〔1899〕年に創立され,東大第1外科の佐藤三吉(1857~1943)が第1回総会を東京市神田区一ツ橋の帝国教育会講堂で開催した.幹事は田代義徳,近藤次繁,佐藤 久,準備委員に林 曄(1866~1944)がいた.

 林は明治28〔1895〕年ドイツのHeidelberg大学でO. Vulpius(1867~1936)に学んで帰り,東京築地で「外科矯正術」を標傍して開業していた.田代義徳(1864~1938),松岡道治(1871~1953)と同じくJ. K. Scriba(1848~1905)の弟子であり,わが国の骨関節疾患・変形治療の専門化に外科医としてすでに先端を走っていた.

整形外科と蘭學・17

リーフデ号と三浦按針

著者: 川嶌眞人

ページ範囲:P.268 - P.271

■はじめに

 今年は5月13~14日に日本最古の医学会である日本医史学会・第107回年次学術総会を中津市で主催することになっている.テーマは「蘭学の里・中津とパイオニア精神」とした.今年は中津にゆかりのある東京帝国大学初代整形外科教授である田代義徳先生の開講100周年にあたることから,日本医史学会理事長である蒲原宏先生に「日本の整形外科の歴史と田代家」というテーマで特別講演をお願いしてある.同じく中津にゆかりのある九州大学病理学教授であった田原淳先生の刺激伝導系発見100周年を記念して「蘭学の里・城下町中津と医学史」と題する市民公開講座を予定しており,鳥井裕美子教授(大分大)には前野良沢を,石田純郎教授(新見短大)には蘭学大名 奥平昌高を,ヴォルフガング・ミヒェル教授(九大)には中津の蘭方医・村上玄水と大江春塘を,島田達生教授(大分大)に田原淳を,樋口輝雄先生(日本歯科大学新潟歯学部)には日本の歯科免許第1号者,小幡英之助を担当していただき,蘭学者であり洋学者でもあった福澤諭吉を産み出した「中津の蘭学とパイオニア精神」について論じていただく予定である.

 このようなことから改めて蘭学の出発点であった大分県臼杵の郊外,黒島を訪れてみた.

臨床経験

総排泄腔外反症に対する腸骨後方骨切り術の長期成績

著者: 大野一幸 ,   樋口周久 ,   清水信幸 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.273 - P.276

 総排泄腔外反症は,膀胱腸粘膜が外反・露出する重度の胎生初期の発生異常である.恥骨結合の離開を伴い,小児外科,泌尿器科的処置の際に締結を必要とする.この総排泄腔外反3例,膀胱外反症1例に対して,腸骨後方骨切り術を行い,平均11.9年(5.5~19.1年)の経過を観察した.術前の恥骨結合間距離は,平均65mm(36~88mm)であったものが,術直後は,16mm(6~28),最終観察時18mm(2~34)と離開せず,維持されていた.著明な外旋歩行を呈したものもなく,尿禁制も得られていた.

症例報告

プロバイクレーサーに発症した前腕慢性型コンパートメント症候群の1例

著者: 辻井雅也 ,   平田仁 ,   瀬戸正史 ,   吉川和也 ,   永井康興 ,   森田勝也 ,   飯田竜 ,   内田淳正

ページ範囲:P.277 - P.279

 われわれは比較的稀な疾患である前腕の慢性型コンパートメント症候群の1症例を経験した.症例は29歳の男性で,国際A級ライセンスを持つプロバイクレーサーである.普段は無症状であるが運動時に右前腕の疼痛としびれを認めた.治療は浅層の屈筋筋区画の筋膜切開だけを施行し,術後8週で競技に復帰できており,経過は良好である.

非観血的に治療した肩関節後方脱臼骨折の1例

著者: 三宅敦 ,   菅沼淳 ,   小野宏之 ,   竹内克仁 ,   斉藤毅 ,   岡村保成

ページ範囲:P.281 - P.284

 肩関節後方脱臼骨折は診断,整復が困難で,観血的治療を要することが多い.今回われわれは非観血的に治療した1例を経験したので報告する.症例は47歳,男性,自転車乗用中に転倒し受傷した.即日単純X線,CTにより上腕骨解剖頚の骨折を伴う左肩関節後方脱臼骨折と診断し,受傷後4日目に全身麻酔下に徒手整復した.整復後骨折部は安定し,内固定を要さなかった.受傷後1年,後療法の中断でJOAスコアは80点にとどまるが,骨癒合は良好で骨頭壊死はない.術後合併症の危険性を減らすためにも早期診断と非観血的治療の重要性を強調したい.

妊婦一過性大腿骨頭萎縮症で骨頭下骨折を生じた1例

著者: 中瀬順介 ,   鳥畠康充 ,   天谷信二郎

ページ範囲:P.285 - P.288

 一過性大腿骨頭骨萎縮症(TOH)で骨頭下骨折を生じた1例を報告する.症例は33歳の女性.左股関節痛で妊娠35週に当科を初診した.TOHを疑ったが,妊娠中でありX線検査を施行せず経過観察とした.妊娠39週時に転倒し,当院に搬送された.X線像で左大腿骨骨頭下骨折および大腿骨頭の骨萎縮を認めた.受傷翌日に帝王切開術を施行した.さらに翌日,骨接合術を施行した.術後7カ月の現在,疼痛なく独歩可能である.X線像上骨癒合し,骨萎縮も改善している.TOHの疑いが強いときは,X線検査により診断を確定させ,骨折の危険性を考え安静入院も考慮すべきである.

上腕骨顆上部偽関節に低出力超音波治療器とアレンドロネートを併用した1例

著者: 本間龍介 ,   高原政利 ,   佐々木淳也 ,   長谷川浩士 ,   荻野利彦

ページ範囲:P.289 - P.293

 上腕骨顆上部の偽関節に対し,低出力超音波治療器とアレンドロネートを併用し骨癒合を得た1例を報告する.症例は78歳,女性である.上腕骨遠位端粉砕骨折を受傷し,観血的骨接合術を施行した.その後骨癒合が得られず,術後6カ月から低出力超音波治療器を開始した.骨粗鬆症による腰痛があり,術後7カ月からアレンドロネート内服を開始した.両者併用1.5カ月で偽関節部に仮骨が認められ,併用8カ月で骨癒合が得られた.低出力超音波治療器とアレンドロネートの併用が,骨粗鬆症のある偽関節に対して有効であったと考えられた.

再発を繰り返した巨大な仙骨部悪性末梢神経鞘腫瘍malignant peripheral nerve sheath tumorの1例

著者: 斉藤憲太 ,   松本守雄 ,   高石官成 ,   小川祐人 ,   中村雅也 ,   千葉一裕 ,   戸山芳昭 ,   向井万起男

ページ範囲:P.295 - P.299

 再発を繰り返した巨大な仙骨部悪性末梢神経鞘腫瘍malignant peripheral nerve sheath tumor(MPNST)の1例を経験した.症例は26歳,女性.画像所見上で第5腰椎から仙骨前面の後腹膜腔に脊柱管内から連続する巨大な腫瘤を認め,神経鞘腫を疑い摘出術を行ったが,その後2年間で2回の再発を繰り返した.最終手術時の病理所見では腫瘍細胞の柵状配列は明らかでなく,S-100 protein陽性細胞が多い一方,MIB-1陽性細胞が多く認められたことから,低悪性度のMPNSTと考えられた.巨大な神経鞘腫ではこのような経過をとる症例もあるため,再発腫瘍に対する手術では可及的全摘を目指し,ときとして神経根切断も躊躇ってはならず,さらにその後の厳重な経過観察を要すると考えられた.

成人の低リン血症性ビタミンD抵抗性くる病(X-linked hypophosphatemic rickets:XLH)に対する脚延長の1例

著者: 菅野伸樹 ,   菊地臣一 ,   紺野慎一

ページ範囲:P.301 - P.305

 低リン血症性ビタミンD抵抗性くる病(X-linked hypophosphatemic rickets:XLH)に対する脚延長は,日本ではいまだ報告されていない.今回われわれは,XLH未治療の成人女性に対し,脚延長術を施行したので報告する.症例は26歳の女性で主訴は低身長であった.延長法はOrthofix脚延長器を用いた,仮骨延長法(De Bastiani法)を適用した.延長距離は右大腿骨45mm,右けい骨24mm,左大腿骨40mm,左けい骨13mmであった.しかし,右けい骨で仮骨骨折,左大腿骨では25°の内反変形,左けい骨ではピン刺入部の感染症を合併した.長期的な経過観察と多くの症例を検討することにより,XLHに対する脚延長の治療法の改善が必要であると考えられた.

頚椎後側弯変形を伴う四肢麻痺を呈したneurofibromatosis type 1の1例

著者: 松本卓二 ,   川上守 ,   吉田宗人 ,   安藤宗治 ,   玉置哲也

ページ範囲:P.307 - P.312

 頚椎後側弯変形を伴ったneurofibromatosis type 1(NF-1)に対して後方除圧固定術を行った1症例を経験したので報告する.症例は35歳,男性.巧緻運動障害,四肢体幹のしびれ,歩行困難が出現し,当科を受診した.単純X線画像上では,C5頂椎の後側弯変形を認め,MR画像では頚椎C5-7での椎体前方の腫瘍性病変と後弯変形による脊髄の圧迫を認めた.手術は前方の腫瘍性病変がみられたため,後方からのC4-7椎弓形成術,Summit PCRを用いた後頭骨からT2までの脊椎固定術を選択した.術後,開口制限と嚥下困難が残存した.そのため,追加手術を施行した.手術は後頭骨プレートを抜去し,ロッドをC3上方で切離した.本症例は脊柱変形が著しく,前方後方法の適応であったと考えられたが,椎体前面の腫瘍性病変が存在したため後方法を選択した.現在,術後3年8カ月が経過しているが,開口障害は消失し,日常生活における障害もなく経過している.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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