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雑誌目次

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臨床整形外科41巻4号

2006年04月発行

雑誌目次

特集 脊椎脊髄病学 最近の進歩 2006(第34回日本脊椎脊髄病学会より)

緒言:脊椎脊髄病学 最近の進歩―第34回日本脊椎脊髄病学会学術集会より

著者: 国分正一

ページ範囲:P.326 - P.327

 日本脊椎脊髄病学会の第34回学術集会を昨年,平成17年(2005)6月10日(金),11日(土)の2日間にわたり,仙台市で開催いたしました.

 日本脊椎脊髄病学会の学術集会は日本脊椎外科研究会として創立された昭和49年(1974年)から30年余が過ぎ,その間,脊椎脊髄病の病態解明,診断・治療法開発の研究成果を発表し討論する場,また出席者が新知識を学ぶ場として機能し,今日の脊椎脊髄病学の隆盛をもたらしたといって過言でありません.しかし,親学会とも言うべき日本整形外科学会は,私が会長を務めた一昨年の神戸での学術総会で劇的な運営改革を断行しました.そこで日本脊椎脊髄病学会も立ち止まっている訳にはいきません.同様の改革に踏み切ったのでした.

頚椎症性脊髄症における脊柱管内圧の検討

著者: 竹林庸雄 ,   金谷邦人 ,   井本憲志 ,   鍋田裕樹 ,   関根将利 ,   川口哲 ,   山下敏彦

ページ範囲:P.329 - P.332

 頚椎症性脊髄症患者10例で術中に脊柱管内圧値を測定し,臨床症状との相関を検討した.MR画像での最狭窄椎間の脊柱管内圧は,その隣接した上下の椎弓下の脊柱管内圧よりも有意に高値を示した.一方,脊柱管内圧は頚椎症性脊髄症の重症度を示すJOAスコアや10秒テストとは相関していなかった.頚椎症性脊髄症の発症機序には,動的影響を受けやすい椎間高位での脊髄圧迫が重要であるが,静的圧迫因子の程度と脊髄障害が必ずしも一致しないことが示唆された.

頚椎椎間板ヘルニアによる頚髄症保存療法例の自然経過

著者: 松本守雄 ,   千葉一裕 ,   石井賢 ,   小川祐人 ,   高石官成 ,   中村雅也 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.333 - P.340

 本研究の目的は頚髄症を呈した頚椎椎間板ヘルニア(CDH)非手術例の神経症状とMRI所見の推移を調査し,本症に対する保存療法の適応を明らかにすることである.対象は2年以上保存的に経過を観察したCDHによる頚髄症23例(男13例,女10例,平均年齢50歳,平均調査期間3.6年)である.全例,初診時JOAスコアが10点以上の軽-中等症例であった.当初,保存療法を行ったが,症状の悪化により手術に至った10例を比較対照(S群)とした.検討項目は 1)JOAスコア 2)MRI所見におけるヘルニア形態とした.ヘルニア形態は矢状断像ではヘルニアが椎間高位に存在するfocal typeと,椎間から頭尾側に広がるdiffuse typeに,横断像ではmedian typeとparamedian typeに分類した.JOAスコアは初診時平均13.4±1.5,3カ月後15.2±1.0,調査時16.0±1.0であった.ヘルニアの縮小例(A群)は14例,非縮小例(B群)は9例であった.JOAスコアは初診時A群13.7±1.5,B群14.0±1.6,調査時16.3±1.6,15.7±1.2であり,獲得点数は2.8および1.7で,前者で高い傾向にあった.矢状断像におけるヘルニア形態はA群diffuse type 9例(64%),focal type 5例(36%),B群同3例(33%),6例(67%)であり,横断像ではA群median type 10例(71%),paramedian type 4例(29%),B群同6例(67%),3例(33%)であった.保存的に治療したA+B群と手術が行われたS群との比較では,MRI矢状断像でA+B群はdiffuse type 12例(52%),focal type 11例(48%),S群では同3例(30%),7例(70%)であった.一方,横断像ではA+B群でmedian type 16例(70%),paramedian type 7例(30%),S群では同5例(50%),5例(50%)であった.有意差はないもののA+B群でdiffuse type,median typeが多い傾向であった.MRI矢状断像でdiffuse type,横断像でmedian typeを示す椎間板ヘルニアによる頚髄症軽症例の予後は比較的良好であるので,保存療法を行う価値がある.

頚髄症における術中脊髄誘発電位の障害高位診断とMRI画像T2高輝度高位との相関性

著者: 加藤剛 ,   芝啓一郎 ,   植田尊善 ,   大田秀樹 ,   森英治 ,   加治浩三 ,   弓削至 ,   河野修

ページ範囲:P.341 - P.347

 当センターでは,頚髄症に対する頚椎椎弓形成術の脊髄徐圧後に,簡便な方法にて術中脊髄(電気)刺激-脊髄誘発電位〔Sp(E)-SCEP〕による電気生理学的伝導障害部位診断を行っている.200症例を対象に,その結果と術前MRI画像所見とを比較し,それらの相関性および臨床的有用性について検討した.MRI画像上T2高信号域1椎間例では電気的障害高位診断と高い相関性が得られた.また,Sp(E)-SCEPで伝導障害を呈する症例は臨床的に予後不良傾向にあり,今後予後予測などに応用可能と考えられた.

C3-4頚椎症性脊髄症モデルにおける索路障害の進展様式について

著者: 金子和生 ,   豊田耕一郎 ,   加藤圭彦 ,   小島崇紀 ,   今城靖明 ,   田口敏彦

ページ範囲:P.349 - P.353

 圧迫性頚髄症における索路症状の進展様式,臨床所見との対比を詳細に知るために,術中脊髄誘発電位でC3-4単椎間障害と診断された頚椎症性脊髄症(CSM)20例を対象として検討した.脊髄誘発電位の異常所見の有無と索路障害の広がりを対比させ,横断型(すべての脊髄誘発電位で異常を呈するもの),後外側型(正中神経刺激と経頭蓋電気刺激で異常を呈するもの),上肢知覚型(正中神経刺激でのみ異常を呈するもの)に分類した.CSMの索路障害は急激な悪化例を除けば,上肢の後索,皮質脊髄路,体幹・下肢の後索の順に索路障害が生じるものと結論した.

圧迫性脊髄症における下肢運動機能評価―simple walking testの改良と足10秒テスト

著者: 石田健司 ,   榎勇人 ,   谷俊一 ,   谷口慎一郎 ,   牛田享宏 ,   池本竜則

ページ範囲:P.355 - P.359

 Singhらは,圧迫性脊髄症の痙性麻痺の下肢運動機能評価法として,simple walking test(SWT)を紹介した.しかしこのSWTは,歩行不能例を評価できないことや,快適速度の定義があいまいで,患者が理解しにくいことが問題点である.今回われわれはmodified simple walking testとして,所要時間や歩数を逆数にすることにより歩行不能例の評価も行えるようにした.さらにSWTよりもさらに簡便な下肢痙性麻痺の評価法として,foot tapping test(FTT)の有用性についても検討した.FTTはmodified simple walking testと高い相関を示し,modified simple walking testよりもさらに簡便な下肢痙性麻痺評価法になりえると思われた.

胸腔鏡を使用した胸椎脊髄症に対する脊髄前方除圧術

著者: 平泉裕 ,   古森哲 ,   竹田崇朗 ,   神與市 ,   宮岡英世

ページ範囲:P.361 - P.366

 胸椎脊髄症に対する脊髄前方除圧に胸腔鏡を応用した.対象は18例(男性7例,女性11例,平均57.3歳)で術前診断は椎間板ヘルニア8例,骨粗鬆症による遅発性脊髄症8例,後縦靱帯骨化症3例,術後観察期間は平均45.4カ月であった.平均手術時間5.1時間,平均出血量672gで,JOAスコア改善率は平均46.1%であった.合併症は硬膜損傷1例,一過性肋間神経痛1例,表層皮膚感染1例があった.胸腔鏡手術は新しい技術で手技的に高度な反面,胸壁や横隔膜切開が不要で術後の創部痛や呼吸抑制が少ない利点があった.

上位胸椎に対する前方進入法

著者: 細江英夫 ,   清水克時 ,   鈴木直樹 ,   宮本敬 ,   金森康夫

ページ範囲:P.367 - P.373

 上位胸椎は,肋骨,胸骨,肩甲骨に囲まれ,心臓,肺,大血管が近接しているため,外科的進入が最も困難な部位である.37例の上位胸椎手術症例を検討した結果,胸骨縦割法は第1~3胸椎の後縦靱帯骨化症に,開胸法は,砂時計腫や第3胸椎以下に及ぶ病変に対して行われていた.再構築CT矢状断像は,上位胸椎進入法決定に必要な局所解剖(胸骨の位置,脊椎のアライメントなど)を把握するのに有用である.

脊髄症を呈した胸椎椎間板ヘルニアの手術療法―後方アプローチによる顕微鏡下椎間板摘出術

著者: 齋藤貴徳 ,   市岡直也 ,   小川浩司 ,   松矢浩暉 ,   足立崇 ,   笹井邦彦 ,   飯田寛和

ページ範囲:P.375 - P.382

 目的:われわれは手術用顕微鏡を用いて胸椎の脊髄症を来した正中型あるいは傍正中型椎間板ヘルニアを後方アプローチにて摘出してきた.対象:対象は当科で後方アプローチにて椎間板を摘出した胸椎椎間板ヘルニア13例である.手術適応は脊髄症を呈したものとした.男性7名,女性6名で,年齢は33~70歳,平均49.2歳であった.結果:術中操作によると思われる麻痺の出現は1例もなく,術中出血量は平均108g,平均手術時間は2時間32分であった.後療法は術翌日から座位とし3日目より歩行練習を開始した.平均入院期間は17日であった.JOAスコアは6.1点から8.3点となり,平林の改善率は57.1%であった.

胸椎後縦靱帯骨化症に対する後弯軽減(dekyphosis)を加えた脊髄全周除圧術

著者: 川原範夫 ,   富田勝郎 ,   村上英樹 ,   羽藤泰三 ,   出村論 ,   関野陽一 ,   那須渉 ,   藤巻芳寧

ページ範囲:P.383 - P.388

 後縦靱帯骨化症(OPLL)が大きく脊髄を圧迫し,脊髄が脊柱管後壁または黄色靱帯骨化との間に挟まれている症例に対して脊髄全周除圧術を行った.まず後方から椎弓切除し,切除すべきOPLLに一致した左右のgutterを椎体に掘り込んでおく.さらに後方インストゥルメンテーションを加え若干の胸椎後弯の軽減を加えた(dekyphosis stabilization).約3~4週後に前方進入にて,gutterを目安にして手術顕微鏡下にOPLLを切除し,椎体間固定を行った.合計10例に行い,平均経過観察は59.2カ月であった.JOAスコアは術前3.5点,最終経過観察時8.6点であった.全例に骨癒合が得られた.脊髄全周除圧術により,安全・正確で完全なOPLLの除圧操作ができた.

胸椎後縦靱帯骨化症に対する後方除圧の適応と限界―MRI矢状断像による除圧範囲の骨化巣後弯角の有用性

著者: 徳橋泰明 ,   松崎浩巳 ,   星野雅洋 ,   石川博人 ,   龍順之助

ページ範囲:P.389 - P.396

 後方除圧を施行した胸椎後縦靱帯骨化症23例の術中超音波診断所見(echo free spaceの有無)から後方除圧の適応と限界について検討した.MRI矢状断像の除圧範囲の脊椎後弯角,除圧範囲の骨化巣後弯角,後方最大突出部骨化形態,CTによる後方最大突出部骨化の脊柱管内占拠率のうち,除圧範囲の骨化巣後弯角と後方最大突出部骨化の脊柱管内占拠率がecho free spaceの有無(除圧の成否)を反映していた.特に前者は後方除圧の適応と限界の目安として有用で,23°前後に後方除圧適否の臨界点があると考えられた.

脊髄砂時計腫118例の検討

著者: 小澤浩司 ,   国分正一 ,   田中靖久 ,   佐藤哲朗 ,   笠間史夫 ,   石井祐信

ページ範囲:P.397 - P.403

 砂時計腫はその特徴的な形態のために通常の硬膜内髄外,硬膜外腫瘍とは臨床像,組織診断,手術法が異なったものとなる.本研究では砂時計腫の特徴について検討した.1988年から2002年までに手術した脊髄腫瘍674例中,砂時計腫は118例(18%)であった.Eden分類ではtype 3が53%で最も多かった.神経鞘腫と神経線維腫を合わせたものが80%を占めた.神経鞘腫でC2神経根からの発生が19%にみられ,1根あたりの発生数で際立っていた.84%で片側椎弓切除が行われ,片側椎間関節切除の組み合わせにより腫瘍が摘出された.

脊髄腫瘍手術における術中脊髄機能モニタリングの検討

著者: 安藤宗治 ,   延與良夫 ,   岡田基宏 ,   野村和教 ,   中川幸洋 ,   南出晃人 ,   橋爪洋 ,   川上守 ,   吉田宗人 ,   筒井俊二 ,   山田宏 ,   岩﨑博 ,   玉置哲也

ページ範囲:P.405 - P.413

 脊髄腫瘍92例を対象に術中脊髄機能モニタリングの有用性と問題点を検討した.髄内腫瘍の手術では感覚路と運動路の両方を監視するmultimodality monitoringが有用であった.また,脊髄砂時計腫の手術では大脳刺激・筋誘発電位〔Br(E)-MsEP〕用いた場合,神経根の障害を検知できない危険性があり,モニタリング方法の検討が必要である.さらに,脊髄障害が高度であると誘発電位が記録できなくなるため,手術を安全に行うには誘発電位が導出できる段階で手術を施行することも考慮すべきである.

脊髄髄内腫瘍の手術成績―最近10年間の自験例の検討

著者: 中村雅也 ,   千葉一裕 ,   池上健 ,   岩波明生 ,   石井賢 ,   小川祐人 ,   高石官成 ,   松本守雄 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.415 - P.422

 過去10年間の髄内腫瘍のうち頻度が高かった上衣腫33例,星細胞腫23例,血管芽細胞腫12例の手術成績を後ろ向きに検討した.上衣腫は約90%で全摘可能で生命予後は良好であったが,機能的予後は術前麻痺が高度な症例や胸髄発生例は不良であった.低悪性度星細胞腫で全摘可能であった6例は全例生存していたが,高悪性度では術式にかかわらず12例中9例が2年以内に死亡していた.血管芽細胞腫は92%で全摘が可能で機能的予後も良好であったが,腹側に流入動脈が存在する場合やvon Hipple-Lindau病を有する場合は注意を要する.

術中電気診断法に基づいた単椎間頚椎前方除圧固定術の中期成績―椎弓形成術との比較検討

著者: 牛田享宏 ,   谷俊一 ,   谷口慎一郎

ページ範囲:P.423 - P.430

 頚椎症性脊髄症113例に対して,前方圧迫が主要因の場合や,高齢である場合,脊柱管が中間位もしくは後弯を呈している場合には前方除圧固定術(n=70)を,後方からの圧迫が主要因の場合や,壮年期症例,脊柱管狭窄を伴う場合,前弯例に対しては椎弓形成術(n=43)を施行した.前方除圧固定術を行った患者のうち60症例では伝導ブロック所見から脊髄伝導障害は単椎間であると判断し,単椎間手術を行った.手術成績では単椎間前方除圧固定術を施行した群では椎弓形成術と同等以上の成績を得ることができた.

C6棘突起の形態からみた椎弓形成術後の頚椎のアライメントと安定性

著者: 村本明生 ,   井上英則 ,   大澤良充

ページ範囲:P.433 - P.438

 頚椎症性脊髄症(CSM)に対するC3-C7椎弓形成術前後での頚椎の配列と安定性の変化をC6棘突起の形態に基づいて分類した2群間で比較検討した.C6棘突起の尖端が二股に分岐したものをbifid型(Bi),分岐していないものをnon-bifid型(NB)とした.NBでは,頚椎前傾は術後に大きくなる傾向があり,前屈時のC7のtiltingが術後有意に増大し,頚椎前弯の喪失はBiに対し有意に大きかった.またC6/7前屈角はBiでは有意に低下したのに対し,NBでは有意に増大した.このようにNBでは好ましくない術後変化がより著明に生じるため,頚椎椎弓形成術の際には特にNBの頚椎ではC7棘突起を温存するのが望ましい.

頚椎症性脊髄症に対する除圧術が交感神経に及ぼす影響について

著者: 南部浩史 ,   森川精二 ,   小峰伸彦 ,   杉山有

ページ範囲:P.439 - P.444

 脊髄症状以外に交感神経症状を呈した頚椎症性脊髄症7例に対して除圧術を施行したところ,全例に交感神経症状の消失・改善,筋交感神経活動の有意な低下を認め,7例中6例に高血圧の改善を認めた.このことから頚椎症性脊髄症において頚椎・頚髄内の中枢自律神経線維網(CAN)の上行・下行路が障害された場合に交感神経抑制機能が低下し,様々な交感神経亢進症状を引き起こす可能性があると考えた.また除圧によってCANの機能が改善し,交感神経症状が脊髄症状とともに改善すると推測した.

透析に伴う頚椎病変(頚髄症)に対する手術成績について

著者: 和田英路 ,   石井崇大 ,   石井正悦 ,   河井秀夫 ,   佐藤宗彦 ,   井上隆

ページ範囲:P.445 - P.451

 透析に伴う頚椎病変により頚髄症を来した慢性透析患者16名に対して,頚椎椎弓形成術15例,頚椎前方後方固定術1例を行った.JOAスコア,握力,10秒テストで評価した,手術成績は満足できるものであった.しかし,周術期合併症を5例(31%)に認め,うち1例は死亡した.生命予後については,経過観察期間中に9例(56%)が死亡し,頚椎術後の平均生存期間は3年11カ月であった.術後のDSA変化進行のために再手術を要した症例は1例(6%)であった.透析に伴う頚椎病変による頚髄症に対しては,初回手術としてインストゥルメンテーションを行わなくても,椎弓形成術のみで十分な意義があるものと考えた.

アテトーゼ型脳性麻痺における頚髄症の手術的治療―椎弓形成術の適応と限界

著者: 尾崎琢磨 ,   井口哲弘 ,   良原久浩 ,   高田正三

ページ範囲:P.453 - P.459

 過去の10年間にアテトーゼ型脳性麻痺(ACP)患者の頚髄症に施行した椎弓形成術16例を対象とした.手術成績はJOAスコア17(-2)点法で評価した.頚椎前弯度,可動域,C2/3~C6/7の不安定性,前屈位での環椎歯突起間距離(ADI)をX線学的に計測した.JOAスコアは約2点改善していたが,手指運動,下肢知覚,膀胱機能では有意な改善はなかった.頚椎前弯度と可動域は術後減少したが,C2/3~C6/7高位での不安定椎間数は術後1/8に減少した.C1/2での不安定性を術前に認めた4例すべてで,術後の前屈位ADIが増加した.本法はACP患者に対しても良好な制動効果を認めるが,術前にC1/2の明らかな不安定性を認める症例では適応にならない.

アテトーゼ型脳性麻痺に合併する頚髄症に対する椎弓根スクリューを用いた頚椎後方再建術の長期成績

著者: 白澤建蔵 ,   今澤良精 ,   芝啓一郎 ,   佐伯満 ,   河野洋一 ,   松尾圭介

ページ範囲:P.461 - P.466

 アテトーゼ型脳性麻痺に合併する頚髄症では,アテトーゼ運動に起因する高度の不安定性により術後後弯変形や固定隣接椎間での問題が起こり,治療成績が不良または長期に安定しないため,その手術法に一定の見解が得られていない.不安定性の除去を目的とした頚椎椎弓根スクリューによる頚椎後方再建術を行った29例の長期成績を調査し,その有用性を検討した.平均7.1年の追跡調査における治療成績は優15例,良6例,可8例,不可0例であった.経過観察期間中に治療成績の低下したものや再手術を行ったものはなかった.本法はハローベストなどの外固定を必要とせず変形の固定保持が可能で,長期にわたり良好な治療成績が維持できる有用な術式であると考えられる.

非骨傷性頚損に対する急性期除圧術の効果―多施設前向き無作為共同研究の結果

著者: 植田尊善 ,   河野修

ページ範囲:P.467 - P.472

 全国11病院において,非骨傷性の頚髄損傷(頚損)に対する除圧術の麻痺改善効果について,無作為前向き研究を行った.対象は受傷後14日以内に共同研究病院に入院できた非骨傷性頚損例で,年齢は30~75歳,麻痺は入院時Frankel BあるいはC,MRIにて損傷部の脊髄圧迫率20%以上とした.受傷日が奇数日であれば手術的治療,偶数日であれば保存的治療が行われた.麻痺評価方法として,改良Frankel分類(総合せき損センター式)とASIA運動スコアを用い,経時的に受傷後1年まで追跡した.登録された総数は203例あったが,除外項目を厳密に適応すると,手術治療群が17例,保存治療群が17例で,脊髄圧迫率が20%以下で除外された圧迫軽度群が20例,その他除外群が149例であった.手術群17例では受傷後平均9.5日で除圧手術が行われた(後方除圧16例,前方除圧1例).受傷後の経時的麻痺観察の結果では,手術群,保存群,圧迫軽度群,いずれにおいても麻痺の回復に有意な差を認めなかった.

慢性腰下肢痛症例に対する塩酸nicardipineくも膜下腔投与による中枢性感作治療の試み

著者: 村上孝徳 ,   山下敏彦 ,   石合純夫

ページ範囲:P.473 - P.480

 慢性腰下肢痛の原因の1つとして脊髄後角における中枢感作の存在が考えられる.慢性腰下肢痛を訴える20症例に対して塩酸nicardipineくも膜下投与を行い,その鎮痛効果を検討した.VASによる疼痛自己評価では投与前9.3から最終経過観察時4.4と改善がみられていた.髄液中硝酸イオン濃度も同様に投与前26.4uM/Lから4週後15.4uM/Lと低下がみられた.Nicardipineによる鎮痛機序はNMDA-NO産生系の抑制にあるのではないかと考えられ,慢性疼痛において中枢感作が治療対象となりえる可能性がある.

頚椎症性筋萎縮症の病態について―顕微鏡下除圧術の経験からの考察

著者: 住田忠幸 ,   宮内晃 ,   真鍋英喜 ,   渋谷早俊

ページ範囲:P.481 - P.487

 頚椎症性筋萎縮症(CSA)の病態は前角または前根の障害とされているが,その定義は明確でない.私たちは顕微鏡下に展開される神経根囊部の病態に興味をもって片開き式椎弓形成術を行ってきたが,CSAの病態として神経根の圧迫が高率に存在することを経験してきた.今回,明らかな索路症状や根性疼痛を伴わないCSA 15例を対象にその所見を分析し,CSAの病態を考察した.圧迫の主因は上関節突起であり,その先端による前根の選択的圧迫を3例に認めた.これは見落としやすい病態と考えられ,術中は根囊部の詳細な観察と神経根に対する的確な除圧が必要である.

腰部脊柱管狭窄症に対する新しい低侵襲内視鏡下除圧術―病態に合わせて考案した3つの手術法

著者: 三上靖夫 ,   柳澤和芳 ,   長谷斉 ,   八田陽一郎 ,   大久保直規 ,   大澤透 ,   竹下博志 ,   久保俊一

ページ範囲:P.489 - P.497

 腰部脊柱管狭窄症に対する3つの新しい内視鏡下低侵襲除圧術の術式と短期成績を報告した.1.神経根型症状の外側型狭窄に対し,反対側から除圧する片側進入対側除圧術15例,2.混合型症状の中心型狭窄に対し,両側からそれぞれの対側を除圧する両側進入対側除圧術17例,3.馬尾型症状の強い中心型狭窄やすべりを伴う狭窄に対し,脊柱管の真上から除圧する棘突起間進入除圧術21例であった.短期成績は良好で,従来の片側進入両側除圧術では困難であった進入側の椎間関節の温存が可能なこれらの方法は,有用な低侵襲術式と考えた.

骨粗鬆症性脊椎椎体骨折における予後不良因子の検討

著者: 辻尾唯雄 ,   中村博亮 ,   星野雅俊 ,   寺井秀富 ,   高岡邦夫

ページ範囲:P.499 - P.506

 高齢者の骨粗鬆症性椎体骨折後の骨癒合例と偽関節例における受傷機転,骨折高位,画像所見の相違について検討を行った.骨粗鬆症に伴う新鮮椎体骨折例で,44例50椎体を対象とした.性別の内訳は男性12例,女性32例で,受傷時年齢は,平均73.3歳であった.検討項目は,受傷原因,骨折高位,MRIのT1,T2強調矢状断像での輝度変化について行った.偽関節へ移行するものは,外傷機転が明らかでない症例,胸腰椎移行部レベルの骨折例,椎体の後壁損傷例,T1,T2強調矢状断像で広範囲に低輝度変化を示す例が多かった.

医療HAZOPを用いた脊椎脊髄外科領域の初期研修者に対する医療安全教育

著者: 大川淳

ページ範囲:P.507 - P.515

 脊椎外科領域の医療事故防止には最終実行者の安全感覚を醸成することが重要である.その安全教育技法の開発を目的に,工業分野において使われているハゾップ演習(Hazard And Operability Studies,HAZOP)を研修医および脊椎外科医を対象に試行した.一定のガイドワードにそって作業工程に内在する危険因子を網羅的に想定し,その原因や対策を練る.脊椎内視鏡下ヘルニア摘出術などの脊椎外科手術について,安全管理に関するグループワークやイメージトレーニングとして有用な方法論と考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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