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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科41巻5号

2006年05月発行

雑誌目次

視座

基礎研究が衰退する!

著者: 尾﨑敏文

ページ範囲:P.525 - P.526

 医療機関に支払われる診療報酬の2006年度改定において,全体で3.16%の「過去最大の引き下げ」となった.診療報酬引き下げにより,減収となる医療機関側のコスト抑制が行き過ぎる可能性がある.そういうことで,われわれ医師を含む医療従事者の労働条件はしばらくは改善されそうもない.

 実際,医療現場はまったく人が足りない.医師も,看護師も,医療秘書も足りない.私自身,少し若いころは「ゆとり否定派」で,一気に仕事に突っ走ってしまったような気がする.しかし,当時は医療に対する風当たりは今のように強くなく,古きよき時代であった.現在のような多大なリスクを負いながらの厳しい労働条件は,受け入れにくい若者が多いのではないか.何とかしなくては,医療全体のレベルが低下する危険性がある.まして,基礎研究にまで手を出そうと思う若手医師の数は限られてきている.

論述

急性膝蓋骨脱臼患者の全身性関節弛緩と膝蓋骨外方異常可動性について

著者: 井上元保 ,   野村栄貴

ページ範囲:P.527 - P.530

 急性膝蓋骨脱臼患者50人(以下脱臼群)と正常人50人の全身性関節弛緩と膝蓋骨外方異常可動性について調査した.全身性関節弛緩はCarter and Wilkinson変法で評価し,膝蓋骨外方異常可動性は,健側膝蓋骨で評価した.全身性関節弛緩は脱臼群の36%に陽性で,正常人の14%よりも2.6倍高率であった.一方,膝蓋骨外方異常可動性は脱臼群の58%に陽性で,正常人の6%よりも9.7倍高率であった.健側の膝蓋骨外方異常可動性は全身性関節弛緩よりも急性膝蓋骨脱臼と大きな関連性を持っていた.

整形外科/基礎

椎間関節の炎症は神経根障害を惹起するか?―ラット腰椎椎間関節炎モデルによる検討

著者: 立原久義 ,   菊地臣一 ,   紺野慎一 ,   関口美穂

ページ範囲:P.531 - P.537

 ラットの腰椎椎間関節炎モデルを作成して,椎間関節の炎症が神経根障害を惹起するという仮説の妥当性を検証した.椎間関節内にアジュバントを挿入して,組織学的検討と行動学的検討を行った.その結果,椎間関節軟骨の変性は,術後3日より認められた.硬膜外腔に浸潤した炎症性細胞数は,術後3日で有意に多かった.行動学的検討では,術後3,5,7日で下肢疼痛閾値の低下を認めた.以上の結果から,椎間関節に炎症が生じると,急性期には炎症反応が神経根に波及して神経根障害を惹起するという病態が存在しうる可能性が示唆された.

整形外科/知ってるつもり

サイクロップス

著者: 占部憲

ページ範囲:P.538 - P.539

 「サイクロップス(cyclops)」とは,ヘレネス神話やギリシャ神話に登場する,額にただ一つ目を持つ巨人につけられた名前です.「サイクロップス」という言葉は「丸い目」を意味します.

 なぜこの神話に出てくる一つ目の巨人が『臨床整形外科』に取り上げられたのでしょうか.

境界領域/知っておきたい

ペイン・イメージング

著者: 木村智政 ,   倉田二郎

ページ範囲:P.540 - P.542

■はじめに

 痛みという感覚と情動体験は,脳の関連領域の神経活動を変化させる結果,脳機能画像に影響を与える.疼痛に関連した脳機能画像変化は,約10年前からペイン・イメージングと総称されており,疼痛医学の基礎と臨床の両面から注目を集めるようになってきた2).痛み感覚は求心性の痛み伝達系を介して脳における関連領域でのブドウ糖代謝を変化させ,痛み関連領域の血流変化を生じる.この痛みによる血流変化と糖代謝変化,ヘモグロビン変化のいずれかを非侵襲的に可視化したのが,ペイン・イメージングである.

 脳機能変化を検出する代表的方法として,脳血流を反映する単光子放出断層撮影法(single photon emission computed tomography:SPECT),主に糖代謝ないしは脳血流変化を示す陽電子放出断層撮影法(positron emission tomography:PET),関連領域の還元型ヘモグロビン変化を示す機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging:fMRI)がある(図1).

最新基礎科学/知っておきたい

Wntシグナル伝達と骨形成

著者: 岸田昭世 ,   菊池章

ページ範囲:P.544 - P.549

■はじめに

 Wnt(ウイント)は,ショウジョウバエの体節形成を制御する遺伝子winglessと,マウスの乳癌関連遺伝子int-1との相同性に着目して命名された分泌性糖蛋白質ファミリーで,線虫やショウジョウバエから,両生類,哺乳類に至るまで生物種を越えて広く保存されている24).Wntが細胞膜受容体に結合して活性化する細胞内シグナル経路は,細胞の増殖や分化,初期発生時の体軸形成や体節形成,器官形成に必須である.近年,Wntシグナル伝達経路の構成因子の1つであるLRP5の遺伝子変異が骨粗鬆症を伴う偽神経膠腫(OPPG)の原因となることや,Wnt/β-カテニンのシグナルが軟骨細胞や骨細胞の分化を制御することなどが明らかにされ,整形外科的分野との関連が注目されている.

連載 日本の整形外科100年 4

日本整形外科学会の設立とその後の発展

著者: 蒲原宏

ページ範囲:P.550 - P.554

 本邦の大学,医学専門学校に整形外科学講座が設立され外科からの分離に努力し,治験例も増加してきたが,研究成果を発表する場が少なかった.主要な研究は日本外科学会の席上で講演するか,日本外科学会雑誌あるいは綜合雑誌に発表する状況が続いていた.

 すべて外科出身の整形外科の先駆者たちも日本外科学会の柵の中から出られず,田代義徳も明治42(1909)年に第10回日本外科学会会長を務めている.大正3(1914)年には宿題報告「関節結核」を住田正雄と田代義徳が行っている.

医者も知りたい【医者のはなし】 19

江戸初期の医師 向井元升(1606-77)―去来の父・益軒の師 その1 元升紹介と江戸初期医学について

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.556 - P.558

■はじめに

 向井元升は江戸初期において,長崎と京都で活躍した医師である.息子の向井去来は芭蕉の門人であり,父の元升より一般によく知られている.今回はこの向井元升のことと,彼が学んだ後世派の医学のことを書いてみたい.なお元升のことは福岡県医報にも書いているが,内容はかなり異なる.

装具

テニス肘に対する中指伸展制御付き手関節バンドの効果について

著者: 月村規子 ,   戸田佳孝

ページ範囲:P.561 - P.565

 近年のテニス肘は,コンピュータによるマウスやキーボード操作などの手指および手関節の伸展により,上腕骨外上顆にかかる負荷が大きくなることが原因の1つであると考えた.われわれは,中指および手関節の伸展を制御するバンド(新型バンド)を考案・作製し,その1週間の装着効果を従来のテニス肘バンドと比較した.その結果,従来型バンド(11例)よりも新型バンド(13例)で日常生活動作困難度(p=0.021)および視覚疼痛指数(p=0.005)が有意に改善した.以上の結果から,テニス肘では従来型バンドよりも新型バンドを使用することにより,1週間という短期間でテニス肘の痛みが軽減し,コンピュータを使用する作業に短期間で復帰できるのではないかと結論した.

臨床経験

自然経過に基づいた症状の軽微な脊髄腫瘍に対する治療法の選択

著者: 鎌田修博 ,   三上裕嗣 ,   市原大輔 ,   森山一郎 ,   千葉和宏 ,   木内準之助 ,   中村雅也

ページ範囲:P.567 - P.571

 症状が軽微な脊髄腫瘍25例について手術をせずに1~10年,平均5年7カ月自然経過を観察し,かつ1年以上の間隔でMRIを撮像した.結果,頚髄髄内腫瘍の4例中,血管芽細胞腫と上衣腫の2例が5年以後に症状が悪化して手術となった.これらの術後成績は不良であったので,頚髄髄内腫瘍は症状が軽微な早期に手術を勧めるべきである.硬膜内髄外腫瘍の神経鞘腫,神経線維腫では比較的短期間に腫瘍が増大して症状を発現していた.馬尾の神経鞘腫は症状の一時的な増悪を来しても自然に軽快することが多いので,経過観察でもよい.

大腿骨頚部骨折患者の骨粗鬆症治療

著者: 加谷光規 ,   高田潤一 ,   射場浩介 ,   名越智 ,   桑原弘樹 ,   織田崇 ,   津田肇 ,   山下敏彦 ,   小幡浩之 ,   宮野須一 ,   磯貝哲

ページ範囲:P.573 - P.576

 骨粗鬆症の治療目的は,骨脆弱性骨折の発症を予防することである.骨折の既往自体が新規骨折発生の危険因子であり,骨脆弱性骨折に罹患した患者の骨粗鬆症の治療を充実させることは,さらなる骨脆弱性骨折の発症の予防につながる.本研究では,北海道内で地域の外傷センターとして位置づけられている4施設における大腿骨頚部骨折患者222例の骨粗鬆症の治療内容について調査を行った.受傷後に骨粗鬆症治療が行われていた症例は222例中33例(14.8%)であった.また,受傷前より治療が行われていた22例のうち,受傷後に使用薬剤が変更された症例はわずか1例のみであった.

大腿骨転子部骨折に対するMIJネイルの短期治療成績

著者: 木浪陽 ,   高杉茂樹 ,   廣岡孝彦

ページ範囲:P.577 - P.583

 大腿骨転子部骨折に対して,ラグスクリュー回旋防止機構内蔵2本打ちshort femoral nailであるMade In Japan(MIJ)ネイルを用いて手術を行い,3カ月以上の経過観察が可能であった40例を対象とした.男性7例,女性33例で,平均年齢83.4歳,平均観察期間は4.6カ月であった.カットアウトなどの合併症なく,全例骨癒合を得た.MIJネイルの最大の特性は,骨頭にスクリュー2本を挿入した状態で遠位のラグスクリューの回旋を防止できることであり,短期成績は良好であった.

大腿骨頚部骨折に対するセメント使用,非使用人工骨頭置換術の前向き研究

著者: 西尾真 ,   安藤謙一 ,   金治有彦 ,   中川雅人 ,   田中徹 ,   前原一之 ,   伊達秀樹 ,   山田治基

ページ範囲:P.585 - P.589

 高齢者大腿骨頚部骨折に対してセメント使用および非使用の人工骨頭置換術を無作為に行いX線学的に検討した.その結果,セメント非使用の13例中2例で術後早期に2mm以上のステムの沈下が生じた.この2例のcortical index(CI)は0.4以下であったが,セメント使用例ではCI 0.4未満が4例存在するにもかかわらず,ステムの初期固定性は良好であった.以上の結果からCIが低値を示す例では,人工骨頭置換術施行の際にセメントを使用することが望ましいと考えられた.

糖尿病を合併した圧迫性頚髄症例に対する脊柱管拡大術の成績

著者: 磯見卓 ,   笹生豊 ,   浜辺正樹 ,   三浦竹彦 ,   糸重毅 ,   清水弘之 ,   青木治人 ,   別府諸兄

ページ範囲:P.591 - P.595

 糖尿病(以下DM)を合併症に持つ圧迫性脊髄症患者14例に対する脊柱管拡大術の治療成績について27例の非合併例と比較検討した.JOA改善率に両者間で有意差はなかったが,経過観察時のJOAスコア平均値はDM群で有意に低かった.DM群では下肢知覚障害の改善が悪く,特に下肢反射の低下,消失症例で劣っており,原因としてDM神経障害の合併が推察された.罹病期間,術前HbA1c値は臨床経過に影響していなかった.

腱板断裂に対するmini-open cuff repair法―自動挙上不能例に対する成績

著者: 宍戸裕章 ,   菊地臣一 ,   紺野慎一

ページ範囲:P.597 - P.601

 肩関節の自動挙上が不可能な腱板断裂の症例(10例10肩)に対してmini-open cuff repair法(mini-open法)を行った.これらの症例の術後2年の時点での治療成績を検討した.JOAスコアの機能項目では,広範囲断裂群は大断裂群と比較して評価点が有意に低かった.また,広範囲断裂群は大断裂群と比較して術後の屈曲と外転角度が有意に小さかった.Mini-open法は,大断裂に対して有効な治療手段と考えられる.しかし,広範囲断裂群では,術後の自動屈曲・外転角度の改善が大断裂群に比し不良で,機能項目の評価点が低く,治療成績は劣っていた.

Advance® Medial Pivot人工膝関節の運動解析

著者: 宮崎芳安 ,   中村卓司 ,   野崎博之 ,   高亀克典 ,   山本慶太郎 ,   勝呂徹

ページ範囲:P.603 - P.605

 Advance® Medial Pivot人工膝関節は,medial pivot運動および正常膝のkinematicsの再現を目指している.今回は,この人工関節における荷重時の運動解析を行った.対象は変形性関節症8例8膝とし,階段昇降動作を行わせ,イメージマッチング法による3次元画像解析システムを使用し計測した.回旋においては全例にmedial pivot patternを認め,本機種の特徴であるmedial pivot motionの再現という観点からは目的を果たしていると考えられた.

症例報告

股関節穿刺が有効であった一過性大腿骨頭萎縮症の1例

著者: 横田治 ,   糸数万正 ,   松本和 ,   福田雅 ,   伊藤芳毅 ,   長沢博正 ,   清水克時

ページ範囲:P.607 - P.611

 症例は51歳,女性.主訴は左股関節痛.初診時の理学所見,X線像,CT,MRIの結果,一過性大腿骨頭萎縮症と診断した.治療は股関節液貯留を認めたため関節穿刺と免荷歩行を行った.穿刺直後から疼痛は軽減し,発症3カ月後には症状が消失,5カ月後には画像所見も正常化した.本症例の臨床経過は諸家の報告と比較し短期間であり,穿刺後から症状が急速に改善していることから,関節内圧の上昇が病態の1つと推測された.関節穿刺は疼痛を速やかに軽減させ早期治癒が期待でき,また患者の満足度も高い有用な治療法の1つである.

大腿骨内側顆から外側顆へと移動した膝関節区域性移動性骨萎縮症の1例

著者: 佐藤光太朗 ,   三木治夫 ,   嶋村正

ページ範囲:P.613 - P.617

 一過性骨萎縮症は数カ月で治癒するself-limitedな疾患である.他関節に病変部位が移動するものは区域性移動性骨萎縮症と呼ばれる.今回われわれは膝関節の大腿骨内顆に発生し病変が外顆へ移動した区域性移動性骨萎縮症を経験した.症例は50歳,男性.階段を降下中に外傷なく右膝痛が出現した.単純X線像において大腿骨内顆に骨萎縮像,MRIにおいて大腿骨内顆にT1強調像で低輝度,T2強調像でやや高輝度の領域を認めた.下肢免荷装具と消炎鎮痛薬を処方して経過観察を行った.2カ月後,内顆の圧痛は消失したが外顆に圧痛を認めた.MRIでは内顆の輝度変化はほぼ消失していたが,外顆にT1強調像で低輝度,脂肪抑制像で高輝度の領域を認めた.8カ月後のMRIでは輝度変化は消失し,単純X線でも骨萎縮像は消失した.骨萎縮症は保存治療で治癒する疾患であるが,区域性移動性骨萎縮症へ移行することもあるため慎重な観察が必要である.

多形型横紋筋肉腫の1例―FDG-PETとdiffusion MRIを用いたリンパ節転移の画像診断

著者: 武田明 ,   菊地臣一 ,   陶山淳平 ,   鹿山悟 ,   田地野崇宏 ,   矢吹省司

ページ範囲:P.619 - P.622

 初診時リンパ節転移を伴う上腕部に生じた多形型横紋筋肉腫の1例を経験した.腋窩リンパ節腫脹に対する画像診断としてFDG-PETとdiffusion MRIを施行した.炎症性疾患との鑑別は困難であるが,両者ともに悪性を疑わせる所見を呈しており,リンパ節転移の診断に有用と思われた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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