icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科41巻6号

2006年06月発行

雑誌目次

視座

医療事故と合併症の区別

著者: 浜田良機

ページ範囲:P.633 - P.635

 医療行為に伴って発症した予期せぬ出来事は,その原因や内容にかかわらず,「医療事故」という言葉で表現されることが多い.閉鎖性大腿骨骨幹部骨折の術後感染例について,訴訟で意見を求められたことがあった.医師は治療内容に過失はなく,その後の対応も適切で,本症の術後感染は合併症であると主張して係争となった症例であった.患者にとっては,順調に治癒するとの期待を裏切られた結果として,その憤懣を訴訟という形で医師や病院にぶつけたものである.そこでは,過失の有無を争うため医療事故という言葉が使用されている.この症例は,病院には過失がないということで,病院の全面勝訴となったが,4年間にわたる係争の結果である.もし,この症例での術後の出来事が合併症であると明確に説明されていれば,患者がいかに苦情を申し立てたとしても,このように無駄な時間と労力を浪費する必要はなかったと考えられる.

 このように医学的立場からみて明らかに合併症と考えられる出来事が訴訟に至るには,いくつかの要因が考えられる.その1つは,国民の医療への不信感をあおるような一部マスコミによる医療事故報道や,完全に払拭されたとはいえない一部の医療サイドの隠蔽体質や,明らかな過失があるにもかかわらず合併症として言い逃れするような対応などが考えられる.それに加えて,患者からの苦情に対して,そのかかわりの煩わしさから,要求に安易に妥協する医療側の態度が,患者となる国民のごく一部ではあっても,医療に対する苦情がお金になると考える輩の出現を助長していることが第二の要因である.第三の要因としては,医療現場では医療行為に伴って発症した予期せぬ出来事に対して「合併症」,「偶発症」,「医療事故」,「医療過誤」など様々な言葉が使用されているが,これらの言葉の意味を明確に区別して使用している医療関係者が少ないことと,一般の国民にその区分についての情報が発信されていないことが考えられる.その結果,あきらかに「合併症」とされるべき出来事でも「医療事故」として扱われる傾向が顕著となっている.もしそれらの言葉の意味の明確な区別について,医療関係者,マスコミも含めた国民,さらには弁護士,裁判官の間に統一した見解が存在すれば,不必要な医療に関するトラブルの防止や裁判にいたる件数の減少,さらには裁判の長期化を避けることができると考えている.

論述

胸郭出口症候群の検討―頻度,症候,治療成績について

著者: 菅原正登 ,   尾鷲和也 ,   尾山かおり ,   桃井義敬 ,   加藤義洋

ページ範囲:P.637 - P.644

 過去5年間における胸郭出口症候群(以下TOS)の頻度,症候,治療効果などについて調査した.原則として,Morleyテスト陽性,頚椎MRI陰性所見,腕神経叢ブロックで症状が一時的に消失した患者をTOSと診断した.該当期間に頚肩腕痛・しびれ・脱力を訴えた患者は797例で,このうち238例29.9%がTOSであった.各治療の有効率は,NSAIDsやエチゾラムなどの薬物療法71%,ブロック療法約60%,第1肋骨切除術93%であった.TOSは高頻度の疾患であり,本症を念頭において診療に当たるべきである.

高齢者(75歳以上)重症頚髄症の術後評価―患者立脚型アウトカム評価の有用性

著者: 沼沢拓也 ,   横山徹 ,   油川修一 ,   小野睦 ,   藤哲

ページ範囲:P.645 - P.651

 75歳以上の高齢者重症頚髄症の術後評価を患者立脚型アウトカムを中心に検討した.対象は1994~2003年までに手術を行ったJOAスコア10点以下の19例で,これらに対しJOAスコア,患者・家族の満足度,生活自立度,さらにSF-36®によるQOL評価を行った.JOAスコアの改善率は21.5%と低く,満足度とは相関していなかった.満足度は生活自立するほど高く,またSF-36®の精神健康面の評価と強く相関していた.以上より高齢者重症頚髄症の術後評価には生活自立度や健康関連QOL評価が重要である.

整形外科/知ってるつもり

時計遺伝子

著者: 岡村均 ,   増淵悟

ページ範囲:P.652 - P.655

■はじめに

 生命活動の中で周期的な現象を生体リズム(biological rhythm;生物リズム)と呼ぶが,このうち約24時間周期で繰り返すリズムをサーカディアンリズム(circadian rhythm:概日リズム;circa=約とdies=日というラテン語からの造語)という.最近,このリズムが,一群の時計遺伝子により生み出されることが明らかとなった.この時計遺伝子は全身の数十兆もの身体の細胞すべてに存在する.この全身の細胞レベルのリズムを統括するのが視床下部の視交叉上核であり,ここからのリズム信号は,睡眠覚醒,ホルモン分泌や細胞分裂まで,実に多くの身体機能のリズムを司る.最近,この脳からの時の信号を伝えるメッセンジャーとして副腎皮質ホルモンが注目を集めている.

連載 日本の整形外科100年 5

肢体不自由児施設の歴史的発展

著者: 坂口亮

ページ範囲:P.656 - P.658

はじめに

 肢体不自由児施設とは肢体不自由児に対し療育を行う施設である.療育とは高木憲次が提唱愛用した用語で,簡潔で内容の深い言葉であるが,既にそれ以前も,また以後今日でもなお立場によってその解釈や定義に多少の違いがあり論議が尽きない.ここではそれを避けて,治療と育成(教育というより広範)ということにする.すると,この施設はhome and hospitalとなり,病院を兼ねた児童福祉施設ということができる.私は半生をこのような施設(整肢療護園)で過ごしてきた.視野が限られているのを憚らず,表題の問題についてまとめたいと思う.

臨床経験

深部静脈血栓症の予防処置後に発症した術後肺梗塞の検討

著者: 植松義直 ,   及川久之 ,   佐藤賢治 ,   桑原正彦 ,   山本亨 ,   村中秀行 ,   入内島崇紀 ,   谷口眞 ,   浅井亨 ,   山崎亮一 ,   塚本剛志

ページ範囲:P.661 - P.667

 当院では,術後肺塞栓症の発生を抑えるため,2004年度版肺梗塞予防ガイドラインを参考に,深部静脈血栓症の予防を中心に管理している.そこで今回は,術後深部静脈血栓症の予防処置後に発症した術後肺梗塞発生例9例を対象とし検討した.ガイドラインによる予防対策は一様の効果があり,変性疾患に対しては特に有効であるが,外傷例についてはガイドラインを利用しても予防困難な症例が存在した.術後深部静脈血栓症,術後肺梗塞に対しては,特に第1病日の対応が大切で,第3病日までは慎重に管理する必要があった.術前リスクファクターとしては,複数回手術歴が重要であった.外傷例では直達牽引例は術前深部静脈血栓症の発生に十分注意する必要があった.

腰椎椎間板ヘルニアに対する持続硬膜外ブロックの経験

著者: 田中宏幸 ,   野口学 ,   松田正樹 ,   小林歩

ページ範囲:P.669 - P.673

 入院のうえ保存的加療を行った腰椎椎間板ヘルニア患者44例を,選択的神経根ブロック施行後に腰部持続硬膜外ブロックを行った21例(Epi群)と,選択的神経根ブロック後に理学療法を行った23例(非Epi群)に分け,腰部持続硬膜外ブロックの有用性を比較検討した.入院後4カ月でEpi群は81%,非Epi群は60%が手術を回避できた.特に非Epi群では1カ月以内の手術例が多く,急性期疼痛管理が重要と考えられた.持続硬膜外ブロックは,疼痛管理にすぐれ,急性期疼痛に対して有効な治療法の1つと考えられた.

膝前十字靱帯再建術における採取腱の再生―術後超早期のMRIによる経時的前向き検討

著者: 大井剛太 ,   菊地臣一 ,   矢吹省司 ,   長総義弘 ,   大歳憲一

ページ範囲:P.675 - P.681

 MRIで術後早期の膝屈筋腱の再生過程を前向きに検討した.前十字靱帯再建術を受ける連続する20膝を対象とした.MRIを術後12週以内に5回撮り,関節面高位とその5cm近位の2カ所で,再生腱の出現率,出現週数と信号強度の変化を調査した.結果,早い症例では2週以内に再生腱が認められ,6週では80%以上の症例に認められた.6週までに認められない症例では,その後も認められなかった.また,腱再生は関節面高位より5cm近位で先行していた.本研究より,膝屈筋腱の旺盛な再生能が確認され,再生するかどうかは術後6週以内に決定されると考えられた.

症例報告

有鉤骨に発生した孤立性骨囊腫の2例

著者: 吉澤貴弘 ,   山田賢治 ,   関谷繁樹 ,   中村明訓

ページ範囲:P.683 - P.688

 稀な有鉤骨に発生した孤立性骨囊腫を2例経験したので報告する.症例は17歳の女性と37歳の女性で,それぞれ打撲を契機とした左手関節痛,誘因なく出現した右手関節痛で受診し,単純X線検査で骨透亮像を指摘され,有鉤骨の骨囊腫が判明した.骨囊腫は,17歳の症例ではMRIのT1強調像で低信号,T2強調像で高信号に描出され典型的所見であったが,37歳の症例ではT1,T2強調像ともに高信号に描出され,非典型的であった.2例ともに病的骨折の危険性が高いと考え,インフォームドコンセントを得て病巣掻爬術および人工骨移植術を行った.

環軸椎固定術後の第3頚椎前方亜脱臼を伴う軸椎下後弯変形に対する前方矯正固定術の1例

著者: 小川寛恭 ,   杉山誠一 ,   金森康夫 ,   鈴木直樹 ,   細江英夫 ,   清水克時

ページ範囲:P.689 - P.693

 関節リウマチの治療中の67歳の女性が,環軸椎固定術後10年で軸椎下後弯変形および第3頚椎前方亜脱臼を来した.C3/4レベルでの著明な脊髄圧迫による四肢麻痺を認めた.環軸椎固定術とC5-6椎体間の自然癒合によりC3/4にストレスが集中し,C3前方亜脱臼が生じたと考えられた.軸椎下後弯変形とC3前方亜脱臼に対し前方矯正固定術を行い,神経症状の改善を得ることができた.また,ハローベストでC3/4のわずかな可動性を確認することができ,術式決定の際に有用であった.

前方掻爬,後方インストゥルメンテーション固定を行った腰仙椎カリエスの1例

著者: 田村睦弘 ,   町田正文 ,   塩田匡宣 ,   山岸正明

ページ範囲:P.695 - P.699

 腰仙椎の結核性脊椎炎に対して前方掻爬術,後方インストゥルメンテーション手術を行い良好な成績を得た.症例は67歳の女性で腰下肢痛,下肢不全麻痺,排尿障害を認めた.L3椎体から仙骨にかけての病巣と仙骨前面の巨大膿瘍を認めた.手術は病巣掻爬(前方)と二期的に後方固定術を施行した.本症例は腰仙椎の広範囲にわたる病巣のため,病巣掻爬後の前方骨移植が不能であった.前方支持が得られず後方のみでの脊柱の支持を余儀なくされたが,インストゥルメンテーションによる強固な固定が得られ,極めて有用であった.

椎体scallopingを呈した腰椎椎間板ヘルニアの1例

著者: 岡田英次朗 ,   浦部忠久 ,   関口治 ,   藤田順之 ,   松本守雄 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.701 - P.704

 腰椎椎間板ヘルニアに椎体scallopingを伴った症例を経験した.症例は66歳の女性で,1カ月前からの左下肢の疼痛としびれを主訴に来院した.CTおよびMRIにてL5椎体後方および左椎弓にscallopingを認めた.術中所見にて硬い軟骨性の腫隆が椎体の後方左椎弓の直下に存在し,L5神経根を後尾側に圧迫していた.病理診断は変性した椎間板であった.患者は術後より疼痛は軽減した.椎間板ヘルニアは椎体にscallopingを来たす原因としては稀であるものの,腰椎にscallopingを来している症例では神経鞘腫との鑑別が必要である.

Neurocutaneous melanosisに脊髄腫瘍を合併した1例

著者: 中山政憲 ,   千葉一裕 ,   石井賢 ,   小川祐人 ,   高石官成 ,   中村雅也 ,   松本守雄 ,   向井万起男 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.707 - P.712

 今回われわれは,neurocutaneous melanosisに脊髄腫瘍を合併した極めて稀な1例を経験した.症例は4歳,男児.出生時より全身に黒色母斑ならびに頻回の痙攣発作を認め,本症と診断された.歩行障害と左手巧緻運動障害が増悪したため当科を紹介され受診した.MRI,脊髄造影にて頚髄から胸髄にわたる巨大な腫瘍を認め,手術を施行,腫瘍を全摘し得た.組織所見はchondrolipomatous hamartomaであった.術後6年の現在経過良好であるが,再発による死亡例の報告もあり,今後も厳重な経過観察が必要である.

橈骨遠位端骨折に対する背側プレート固定術後の長母指屈筋腱損傷の1例

著者: 小林由香 ,   池田全良 ,   齋藤育雄 ,   岡義範

ページ範囲:P.715 - P.718

 われわれは橈骨遠位端骨折に対する背側プレート固定術後に発生した長母指屈筋腱損傷の1例を経験したので報告する.症例は,背側プレート固定術後6カ月に母指の屈曲障害が出現し,われわれは橈骨遠位端掌側縁からのスクリューの突出による長母指屈筋腱の損傷であると診断した.手術は,プレートを抜去し,長掌筋腱を用いた腱移植術を行った.解剖学的に,橈骨遠位掌側面の手関節縁は,骨膜が露出した屈筋腱の滑走層(gliding floor)である.したがってこの部位での内固定材の使用は,骨皮質への突出が最小限になるように気をつけるべきである.

Headless tapered variable pitch compression screw(Acutrak® screw)を使用し足関節固定術を施行した1例

著者: 牧野孝洋 ,   大野一幸 ,   樋口周久 ,   清水信幸 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.721 - P.725

 Headless tapered variable pitch compression screw(Acutrak® screw)を使用した足関節固定術の1例を経験したので報告した.術後2年の観察期間で,疼痛が消失し,「正座できない」以外のADL制限もなく良好な成績が得られた.通常のスクリューの場合,関節固定部にネジ山がかからないように注意する必要があるが,本スクリューは全長にネジ山を持ち,骨片間に十分な圧迫固定力をかけることができる.Headlessのため骨内へ埋め込みが可能で,けい骨内側など軟部組織の少ない部位でも刺激が生じることがないなどの利点がある.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら