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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科41巻7号

2006年07月発行

雑誌目次

巻頭言

第21回日本整形外科学会基礎学術集会の開催にあたって

著者: 進藤裕幸

ページ範囲:P.734 - P.735

 来たる平成18年(2006)10月19日(木),20日(金)の両日,長崎市において第21回日本整形外科学会基礎学術集会を開催いたします.

 本学会は昭和47年に発足しました“整形外科・基礎を語る会”を母体にしており,その規模と内容は年々発展し充実を遂げてきました.昭和58年に社団法人日本整形外科学会の正規の主催事業として「日本整形外科学会基礎学術集会」として形式が整備され,今回で21回を迎えることになります.本学会では欧米先進国では類を見ない,整形外科医自身による,臨床に直結した運動器関連の基礎医学的研究テーマを自らが遂行することによって,幅広くかつ高いレベルでの研究成果が蓄積されてきました.現在では幾多の分野において世界をリードするに至っています.学会参加者も1500~1800名となり,将来を嘱望される若手整形外科医の活躍の場として極めて存在意義の高い学会となりつつあります.

誌上シンポジウム 運動器リハビリテーションの効果

緒言 フリーアクセス

著者: 星野雄一

ページ範囲:P.736 - P.737

 人類史上未曾有の速度で進行する高齢化社会を迎えつつあるわが国において,老人医療費は20年前の約3倍(12兆円),介護保険費は3年で2倍(6兆円)に急増している.医療費と介護費を合計すると,医療関係費用の実に47%が高齢者に振り向けられていることになる.経済諮問会議における伸び率抑制の政策誘導を待つまでもなく,高齢者の健康増進をはかり,医療費の軽減を目指すことが重点的政策となっているのはあまりにも当然といえる.

 このような財政事情の元,主に死亡を抑制することを目的とした「健康日本21」のみでなく,医療費の少ない自立した高齢者を目指す「健康フロンティア戦略」が自民党の政策として平成16年(2004)春にスタートした.この戦略の目標は,今後10年間で健康寿命を2年延伸するというものであり,心身ともに自立して生活できる期間を延ばそうとするものである.介助を要する期間は男性で6.3年間,女性で7.9年間という統計があり(図1),この期間を2年間短縮することにより,高齢者医療費を抑制できるであろうという目論見である.

変形性膝関節症に対する運動療法の効果

著者: 黒澤尚

ページ範囲:P.739 - P.747

 変形性膝関節症(膝OA)に対する運動療法の効果に関するこれまでの研究結果を,自験例を含めて概説し,さらにその効果の因子を考察した.この方法は既にエビデンスが出揃った方法であり,有効性,安全性,経済性,そして汎用性において従来の抗炎症剤,ヒアルロン製剤注射,様々な物理療法などに優る療法である.その点から,わが国における膝OAの治療体系は早急に本法を中心としたものに変更していかなければならないと考える.しかし,一方で,その効果の機序は不明であり,また膝OAの体液マーカーなどの客観的評価法は欠如しており,今後の本法のさらなる展開のためにはそれらに関する研究の深化が望まれる.

慢性腰痛症に対する運動療法の効果

著者: 白土修

ページ範囲:P.749 - P.755

 腰痛症は,生活習慣病の1つとしての理解が重要である.的確な治療を行うためには,正確な病態の把握が重要であるが,病理学的診断が困難な場合も多い.欧米の論文を中心に,慢性腰痛症に対する運動療法の効果には,高い科学的根拠があることが実証されている.本邦独自のRCT研究(LET study;Low-back pain Exercise Therapy Study)によっても,運動療法(体幹筋訓練とストレッチングの2種類)の効果が実証された.すなわち,慢性腰痛症に対する運動療法の効果は,消炎鎮痛剤(NSAID)のそれよりも優れていた.運動療法継続の重要性,運動プログラムによる治療効果の差異に関しては,科学的に実証されておらず,今後の課題である.

開眼片脚起立時間からみた運動器不安定症

著者: 北潔 ,   新村秀幸 ,   浅井剛 ,   前川匡 ,   角南義文

ページ範囲:P.757 - P.763

 新しい疾患概念である運動器不安定症が登録され,診療の場で疾患名として用いることが可能となった.運動器不安定症の運動機能評価として開眼片脚起立時間とtimed up & goの2つが挙げられている.今回は疫学調査で比較的多く用いられ,新体力テスト(文部科学省)の高齢者に対する評価項目でもある開眼片脚起立時間に焦点を絞り文献的考察を加える.また,ダイナミックフラミンゴ療法(1分間片足立ち運動)の臨床成績として,日本臨床整形外科医会で行った転倒骨折予防効果の成績と自験例の開眼片脚起立時間の推移について報告する.

転倒予防への取り組み

著者: 武藤芳照 ,   小松泰喜 ,   朴眩泰 ,   柏口新二 ,   岡田知佐子 ,   室生祥

ページ範囲:P.765 - P.771

 転倒に伴う骨折,特に大腿骨頚部骨折の発生を予防し,寝たきりや要介護状態を予防することは,今や国家的な事業に拡大してきた.それは整形外科医をはじめとする医師にとどまらず,理学療法士,作業療法士,看護師,運動指導士などの連携,協力によって初めて功を奏する.転倒は,加齢,運動不足,身体的・精神的疾患,薬剤の服用などが複合した結果として発生する.そうした理解を基盤に,運動・生活指導の介入を行う必要がある.運動プログラムの内容は,バランス訓練を含む総合的運動が有効であり,個々の高齢者の心身の特性に即した無理なく楽しく継続できる工夫と配慮が必要である.とりわけ,運動指導中および運動後の障害,事故予防に努めなければならない.こうした転倒予防の目指すものは,1人ひとりの高齢者が健やかで実りある心豊かな生活を送ることができるように働きかけることである.

運動器障害に対する物理療法の現況―過去・現在・未来

著者: 川村次郎 ,   林義孝 ,   北川大介 ,   寺倉誠二

ページ範囲:P.773 - P.778

 物理療法は皮膚表面を介して熱,電気,光,音,力などの物理的刺激を加え,慢性疾患の治療や症状の緩和を図ろうとする治療法である.取り扱いやすい,安全性が高い,患者のコンプライアンスがよいという特徴があり,整形外科の外来においては,主として鎮痛を目的に現在もよく使用されている.しかし十分な科学的根拠に基づいて実施されているとは言い難く,その治療効果の判定についても科学的な批判に耐える評価法が求められているのが現実である.一方,最近のバイオメカニクス研究や分子生物学の進歩によって物理療法の作用機序は次第に明らかにされ,平行して新しい刺激装置の開発と臨床応用が進行している.最近開発される多くの物理的刺激法に共通する特徴は,その刺激強度が従来よりはるかに微弱でありながら,確かな生物学的な効果を示すことであり,臨床的にも確かで安全な新しい物理療法が生まれつつある.従来の物理療法と新しい物理療法を視野に入れると,これからの選択肢は,①微弱刺激による鎮痛作用,②微弱刺激による組織修復作用,③温泉療法や従来型物理療法による心理的作用の3つの方向性が考えられ,進歩を加速するためには職種や領域を越えた集学的な取り組みが必要であろう.

論述

大腿骨頚部骨折クリニカルパスの改訂

著者: 小久保吉恭 ,   山崎隆志 ,   星亨 ,   佐藤茂 ,   小野和泉 ,   田中信子 ,   田中良典

ページ範囲:P.779 - P.787

 退院時の臨床アウトカム別に適応を決める大腿骨頚部骨折治療のクリニカルパスを作成した.クリニカルパスの構成は入院から手術後2日目までのユニットと,手術後3日目から退院までのユニットを組み合わせる方式とした.術後ユニットは,退院時のアウトカム別に作成した.適応基準には,受傷前の日常生活動作の評価方法であるBarthel Index(B. I.)を採用した.B. I. 85点以上は,入院期間の制約のない亜急性期病床で後療法を行い,自宅退院を目標とした.B. I. 85点未満は術後3週での転院を目標にした.

連載 日本の整形外科100年 6

戦時中のわが国の整形外科

著者: 小林晶

ページ範囲:P.788 - P.791

はじめに

 第二次世界大戦中のわが国の整形外科はどのような状況であったのか,改めてここで振り返ってみたい.戦争は満州事変〔昭和6年(1931)9月18日勃発〕から継続していたとの歴史観があるが,ここでは昭和12年(1937)7月7日,いわゆる日支事変(日中戦争)が始まって,昭和20年(1945)8月15日の敗戦までの間に限定して述べる.

医者も知りたい【医者のはなし】 20

江戸初期の医師 向井元升(1609-77)―去来の父・益軒の師 その2 江戸初期西洋医学と向井元升そして去来の話

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.792 - P.795

■はじめに

 向井元升は江戸初期において,長崎と京都で活躍した医師である.前回(本誌41巻5号)は元升の京都で活躍した話と,彼が学んだ後世派の医学の成り立ちのことを書いた.今回は向井元升が後世派医師になったあと,長崎で学んだ西洋医学について述べる.

臨床経験

ドミノを用いた脊椎再手術の経験

著者: 田村睦弘 ,   町田正文 ,   福田健太郎 ,   塩田匡宣 ,   斉藤正史 ,   山岸正明

ページ範囲:P.797 - P.801

 ドミノを用いた脊椎後方再固定術は極めて有用であるので,手術手技を紹介する.ドミノを用いて脊椎再固定術を行ったのは合計11例で,原疾患は変形性脊椎症6例,特発性側弯症4例,原発性脊椎腫瘍1例であった.再手術に至った原因としてはインストゥルメントの破損が3例,隣接部障害が8例であった.再手術では初回手術のロッドを取り除くことなく固定の延長が可能であった.再手術時には固定を追加する部位と初回手術部位の一部を展開するだけでよく,手術時間や出血量も少なくできるため非常に有用であると考える.

症例報告

骨髄異形成症候群に胸椎部脊髄腫瘍を生じた1例

著者: 割田敏朗 ,   飯塚伯 ,   堤智史 ,   中島飛志 ,   中川由美 ,   高岸憲二

ページ範囲:P.803 - P.807

 46歳,女性.腰痛,両下肢しびれ感を主訴に受診した近医で,胸髄部腫瘍と著しい汎血球減少を指摘された.両下肢痛と歩行障害が進行し,骨髄異形成症候群の治療も含め,当院へ紹介された.両下肢麻痺が進行し,さらに尿閉が出現したため,輸血で血球数を増加させ,腫瘍摘出術に踏み切った.術後はHLA適合血小板輸血とG-CSF投与を行った.神経症状はほぼ回復した.骨髄異形成症候群は外科的治療の大きな障壁となりうる.手術時には血液内科医との連携が必要で,今回は術後合併症を認めず,麻痺のほぼ完全回復が得られた.

頭蓋頚椎移行部の重複形態異常に合併した脊髄空洞症の1例

著者: 森本忠嗣 ,   中尾俊憲 ,   矢吹省司 ,   鶴田敏幸 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.809 - P.813

 環椎後頭骨癒合,環軸関節亜脱臼,およびChiari奇形に合併した脊髄空洞症の1例を経験した.症例は16歳,女性で,主訴は右上肢痛であった.X線像で環椎後頭骨癒合と環軸関節亜脱臼を認めた.MRIではChiari奇形と脊髄空洞を認めた.手術は,大孔減圧術と後方固定術を行った.術中エコーで大槽の拡大と小脳扁桃の拍動が確認できた.術中エコーは減圧効果の判定ができるモニターとして有用であった.術後2年の時点で,右上肢痛とX線像での環軸椎間不安定性は認められない.MRIで空洞の著明な縮小が確認できた.

椎骨動脈損傷により気道閉塞を来した1例

著者: 本間龍介 ,   林雅弘 ,   豊島定美 ,   後藤文昭 ,   佐藤哲也 ,   井上林 ,   土屋篤嗣 ,   平山朋幸

ページ範囲:P.815 - P.819

 頚椎・頚髄損傷に伴う椎骨動脈損傷により気道閉塞を来したという報告はない.症例は高所から転落受傷した74歳の男性である.両上肢のみに痛覚と筋力の低下を認めた.受傷後約5時間に前頚部の腫脹を認め,呼吸困難となり気管支鏡視下経鼻挿管を施行した.単純X線で後咽頭腔幅の拡大,CTで軸椎の右横突孔に至る骨折を認めた.MRアンギオグラフィでは右椎骨動脈の閉塞を認めた.横突孔骨折により椎骨動脈が損傷され,そこからの出血による気道閉塞と考えられた.椎骨動脈損傷による気道閉塞に対し,気管支鏡視下経鼻挿管を施行し救命し得た.

結核性強直股関節に対して人工股関節置換術(THA)を行った1例

著者: 富友宏ステファン ,   鈴木聡 ,   佐竹剛 ,   原田有樹 ,   奥村秀雄

ページ範囲:P.821 - P.824

 われわれは結核性強直股関節に対する人工股関節置換術(THA)を経験した.症例は63歳の女性で,5歳時に左結核性股関節炎に罹患した.左股関節痛は持続していたが,50歳頃からは疼痛が消失したため放置していた.62歳時に両膝関節痛,腰痛が出現してきたため当科を初診した.初診時には左股関節の強直,両変形性膝関節症を認めた.荷重脚を得るためにまず右人工膝関節置換術を施行し,1年後に左THAを施行した.腰痛,両膝関節痛が軽減しADLの改善を認めた.THAは結核性強直股関節に対する有用な治療の選択肢の1つである.

環指デグロービング損傷に対して上腕外側皮弁を用いて血行再建を行った1例

著者: 飯田竜 ,   辻井雅也 ,   森田哲正 ,   藤澤幸三 ,   平田仁 ,   内田淳正

ページ範囲:P.825 - P.828

 症例は12歳の男児である.自転車で走行中に転倒し,左環指の2度のデグロービング損傷を認めた.近医にて処置されたが,指全体がうっ血状となり受傷後3日目に当科を紹介された.指尖部のみを残して剝脱した皮膚を切除し,上腕外側皮弁と筋膜皮弁を用いて欠損部を被覆し血行再建を行った.再建指は機能的にも整容的にも満足が得られ,上腕外側皮弁は指の高度な複合組織損傷に対する治療の選択肢の1つになりうると考えた.

肺塞栓症で発症したPaget-Schroetter症候群(原発性鎖骨下静脈血栓症)の1例

著者: 江尻荘一 ,   菊地臣一 ,   紺野愼一 ,   斎藤純平 ,   井上恵一

ページ範囲:P.829 - P.833

 Paget-Schroetter症候群は,静脈還流障害による上肢症状を主とした鎖骨下静脈の血栓症であるが,整形外科領域での報告は少ない.われわれは,上肢症状を欠き肺塞栓症で発症した稀な1例を経験した.症例は16歳の男性である.誘因なく血痰と胸痛が出現し,肺塞栓症と診断された.静脈造影とMR-アンギオグラフィで,右鎖骨下静脈の血栓と上肢外転外旋位での静脈圧迫を認めた.治療は,抗凝固療法と右第1肋骨切除術を行った.術後2年8カ月の時点では,症状の再発は認められない.本症の治療には,第1肋骨切除術が有効と考えられた.

膝蓋下脂肪体骨化症の1例

著者: 島村好信 ,   井上博士 ,   東原信七郎 ,   小西池泰三

ページ範囲:P.835 - P.838

 膝蓋下脂肪体骨化症は比較的稀な疾患であり,成因もいまだに明らかではない.症例は47歳の女性で,1カ月前からの右膝痛と違和感を主訴に来院した.X線像にて右膝蓋骨下に骨化像を認め,MRIにて内部に石灰化を推察させる低信号領域を示す腫瘤を認めた.鏡視にて他に関節内の異常がないことを確認し,観血的に摘出した.易剝離性で膝蓋骨,膝蓋腱との連続性は認めなかった.病理組織では層板状構造をもつ骨梁が認められた.本症の成因にはいくつかの仮説があるが,今回の症例では脂肪体のmetaplasiaにより骨化したものと推察された.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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