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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科41巻8号

2006年08月発行

雑誌目次

視座

医療分野における標準化の推進を

著者: 中村孝志

ページ範囲:P.849 - P.850

 パロマ湯沸かし器の事故の報道を聞くと器具の安全性の大切さを痛感します.これにはメーカーの責任が問題となっていますが,医療器具においては安全性を強調してもし過ぎることはありません.

 診断器機や手術器具,またはインプラントや新しい治療法の安全性と治療効果を判断することは,医療を進めるうえで不可欠なことです.臨床に使用されるまでには,多くのステップが必要です.実験室レベルからの開発,製品として製造,前臨床および臨床における安全性と効果の確認,そして認可を得て臨床の場で使用されることになります.さらに市販後の調査を必要とするものもあります.

誌上シンポジウム 腰部脊柱管狭窄症―最近の進歩

緒言 フリーアクセス

著者: 清水克時

ページ範囲:P.852 - P.852

 今回,「腰部脊柱管狭窄症」を誌上シンポジウムのテーマにとりあげたのには2つ理由があります.1つは整形外科を受診する腰部脊柱管狭窄症の患者さんが増えたことです.単に高齢者の数が増えただけではありません.この疾患がライフスタイルを制約し,人間の尊厳にかかわる問題として重要性が認識されるようになった,いいかえれば患者さんの意識が高くなったという面もあります.もう1つは,血流改善剤であるプロスタグランジンE1(PGE1)がこの疾患に有効であると認められるようになり,保存的治療に大きな武器が加わったことです.腰部脊柱管狭窄症の治療には,保存的治療と手術があります.まず保存的治療を行って効果が不十分な場合には手術を検討します.手術は保存的治療に比べ成功率が高く,効果も劇的ですが,稀に合併症が起こることがあります.一方でこの疾患では痛みとしびれが問題になるだけで,この疾患自体では命の危険はありません.また手術の時期に手遅れはなく,高齢でも手術は可能です.したがって治療法を決めるのは患者さん自身の人生に対する考え方です.保存的治療があまり効果がない場合,腰痛や下肢痛を我慢しながら制限された生活を送るのか,または自由に出かけたり旅行をしたりといった屋外の活動性を,手術によって獲得するのか,患者さん自身の選択が必要です.保存的治療で効果のない場合には早目に手術医に紹介し,手術に関する情報を患者さんに提示して理解を助けることが必要です.プライマリ・ケア医と整形外科専門医の病診連携を円滑にするため,腰部脊柱管狭窄症の診断サポートツールが考案されました.診断サポートツールの目的は,プライマリ・ケア医がこの疾患を効率的にスクリーニングし,早期診断を可能にすることです.このため,プライマリ・ケアの現場で簡便に入手できる病歴と診察所見のみで点数化を図っています.診断サポートツールで疑いありと判定された患者さんには,整形外科専門医による鑑別診断が必要です.そのため,このツールが普及すると腰部脊柱管狭窄症について,プライマリ・ケア医との病診連携がさらに進むと予想されます.

 この誌上シンポジウムが病診連携の主役となる整形外科の若手医師,一般整形外科医に役立つことを願っています.

腰部脊柱管狭窄症の診断―疫学,診察,画像所見

著者: 中村正生

ページ範囲:P.853 - P.857

 腰痛を訴える患者の中には,姿勢因子に左右される間欠跛行を自覚する症例も多く,腰部脊柱管狭窄症の潜在を考えるべきである.本症に対しては国際分類が作られている.立位や後屈位での腰下肢痛の増悪,前屈位での軽快の有無や,膀胱直腸障害,陰部症状などを,丁寧な問診で確認することが重要である.単純X線像では,全体のアライメント,すべりなどを中心に観察する.MRIの矢状断像,横断像から椎間板変性や黄色靱帯の肥厚などに伴う硬膜管の狭小化が確認できる.脊髄造影では動態撮影が可能であり,完全ブロックが確認される症例には手術的治療を積極的に考慮する.CTミエログラフィでは,狭窄部の骨性因子の様子が明らかとなる.神経根造影・ブロックにより責任高位の確認が行える.鑑別診断を要する疾患には,閉塞性動脈硬化症や脊髄性間欠跛行がある.前者には間欠跛行と姿勢因子との関連はみられず,後者ではBabinski徴候陽性,膝蓋腱反射(PTR)・アキレス腱反射(ATR)亢進などが鑑別点となる.

腰部脊柱管狭窄の診断サポートツール

著者: 紺野愼一 ,   林野泰明 ,   福原俊一 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.859 - P.864

 日本脊椎脊髄病学会は,診断サポートツール作成のため実行委員会を組織し,プロジェクト研究を行い,腰部脊柱管狭窄の診断サポートツールが完成した.一般医と専門医とが共通の概念で連絡し合えることで,患者のQOLの向上と社会経済的損失を減少させることが期待される.腰部脊柱管狭窄の診断サポートツールの報告は,国内外を含めていまだに存在しない.今後,プライマリケア医を中心とした大規模なvalidation studyを行うことにより,本サポートツールの信頼性をさらに検討していく必要がある.

腰部脊柱管狭窄と血管疾患

著者: 鳥畠康充

ページ範囲:P.865 - P.870

 最近の本邦における疫学調査から,腰部脊柱管狭窄(LCS)による間欠跛行患者は,慢性動脈閉塞症(PAD)の約7倍程度と推測される.両者を鑑別するポイントは,姿勢因子,下肢知覚障害部位,立位負荷試験,下肢動脈の脈拍異常,ABPI(ankle brachial pressure index)である.しかしながら,画像診断で両者の所見を認め,特徴的症状が混在する合併型間欠跛行患者が,1割以上存在する.その治療法に定まったものはないが,当科では,まずそれぞれの疾患が手術適応であるかを見極め,保存的治療は,両者に有効な血流改善剤や神経ブロックを行っている.本邦では,間欠跛行患者の初診を整形外科医が担当する場合が多い.われわれは,今後,激増が予想される血管性間欠跛行に対しても,診断技術を備える必要がある.

腰部脊柱管狭窄症の保存的治療

著者: 裏辻雅章

ページ範囲:P.871 - P.876

 腰部脊柱管狭窄症(LSS)は,高齢化社会の訪れに伴って日常診療でよく遭遇する疾患となってきた.LSSの大部分の症例においては症状の進行が緩除であり,保存的治療がまず選択される.保存的治療には薬物療法,ブロック療法,理学療法などがある.なかでもブロック療法は最も頻用される治療である.各種ブロックはそれぞれ特徴があり,病態に応じて単独または組み合わせて用いられる.腰臀部痛には椎間関節ブロック,下肢痛には硬膜外ブロックや神経根ブロック,下肢のしびれ,間欠跛行には硬膜外ブロックや腰部交感神経節ブロックなどがよく用いられる.最近では腰部交感神経節ブロック,PGE1製剤の点滴なども行われている.保存的治療に抵抗するのは馬尾型,混合型の症例が多い.これらのうち肛門周囲の異常知覚,尿失禁を呈する症例では神経因性膀胱の確率が高く,手術を急ぐほうがよい.また徒手筋力テストで3以下を呈する症例も手術を考慮したほうがよい.

腰部脊柱管狭窄症に対するプロスタグランジンE1誘導体製剤リマプロストの臨床効果

著者: 松山幸弘 ,   吉原永武 ,   酒井義人 ,   中村博司 ,   片山良仁 ,   石黒直樹

ページ範囲:P.877 - P.882

 腰部脊柱管狭窄症に対する治療体系として,保存的治療は必須で第一に行わなくてはならない.保存療法としては理学療法,コルセット固定などの装具療法,神経根ブロック療法,消炎鎮痛剤と併用での神経循環改善剤の投与があげられる.保存療法のなかでも,ファーストステップでのプロスタグランジンE1(PGE1)誘導体製剤であるリマプロストの腰部脊柱管狭窄症に対する効果を,SF-36を用いて確認した.また腰痛,下肢痛へ与える効果も,患者本人が記載するVASスケール,フェイススケールを用いて患者側からみた主観評価を行った.結果は,投与群67例において非投与群26例と比較して有意にJOAスコア,腰痛,下肢痛のVAS,SF-36の体の痛み,活力,社会生活機能の3項目において良い改善が得られた.これはPGE1の血管拡張作用,血小板凝集抑制作用,赤血球変形能亢進作用などに基づく強力な循環改善作用が効果を示した結果と考える.

腰部脊柱管狭窄症の手術戦略―広範椎弓切除術を中心として

著者: 井口哲弘 ,   笠原孝一 ,   金村在哲 ,   三浦寿一 ,   鷲見正敏 ,   栗原章 ,   尾崎琢磨

ページ範囲:P.883 - P.887

 腰部脊柱管狭窄症の手術治療における基本戦略は,患者の求めている状態と考えられるリスクおよび将来予測に対する合意点を探ることである.そのためには術前の十分な病態把握と,それに基づいた十分な患者説明が重要である.一般的に不安定性に注意して手術を行えば,除圧単独手術の成績は最低術後5~6年までは良好である.また,除圧単独手術での術後早期悪化の原因は除圧不足であり,特に中枢側と外側の除圧に関して注意が必要である.そのほかに成績悪化と関連した因子として多椎弓切除,除圧範囲の10°以上の椎間可動角とW型椎間関節などの不安定性要因が指摘できる.固定術の適応については,3mm以上の前後動揺度と10°以上の椎間可動角がともにあると注意が必要で,さらに変性すべり症では後方開大の有無が固定術の選択に加わる.固定に際しては最終的な脊柱アライメントの予測が重要で,L1軸仙椎間距離や立位時のoff balanceのチェックが必要である.

論述

肩腱板断裂術後にみられた反射性交感神経性ジストロフィー様症状の検討

著者: 塚本重治 ,   村成幸 ,   後藤康夫 ,   桃井義敬 ,   鶴田大作 ,   松田雅彦 ,   荻野利彦

ページ範囲:P.889 - P.893

 腱板断裂術後67例72肩を対象に,同側手指の腫脹,疼痛,拘縮といったRSD様症状の合併頻度,経過,術後成績を調査した.13肩にRSD様症状がみられた.RSD様症状あり群となし群を比較すると,あり群では術後の肩屈曲・外旋可動域がなし群に比べ有意に小さかった.しかし,手術時間,断裂面積に有意差はなく,術後成績も差がなかった.このことから,RSD様症状の合併する例で肩の可動域制限が出現する可能性が考えられ,腱板修復術後に同症状がみられた場合には早期に治療を開始し,肩の可動域訓練に注意する必要がある.

Lecture

整形外科医が誤りやすい関節水症

著者: 宗田大

ページ範囲:P.894 - P.903

 関節の腫脹は日常診療でよく経験する1つの関節所見である.腫脹の原因が関節内の液体の貯留の場合,関節水症と診断する.関節水症の原因は炎症性,非炎症性,感染性の3つに大別する.関節液の白血球数,蛋白量,培養での感染の有無が鑑別の基本である.全身所見としての他関節所見,発熱,発疹などにも注意する.必要に応じて血液検査(白血球数;RA,抗核抗体,尿酸値)を行う.また関節内や周囲の骨軟部腫瘍のために関節水症が発症する例も稀でない.感染症が疑われる場合,その起因菌としてグラム陽性・陰性菌だけでなく嫌気性菌,結核菌,真菌も忘れてはならない.

連載 日本の整形外科100年 7

戦後のわが国の整形外科の発展(1)―独創的業績について

著者: 小林晶

ページ範囲:P.906 - P.910

はじめに

 戦後,わが国の整形外科学は大きな発展を遂げた.独創的な業績もみられるようになった.中でも関節鏡の世界的普及と,骨における圧電気現象,電気的仮骨形成の発見は,特筆すべきものである.ここでは,これらの業績について改めて回顧したい.

整形外科と蘭學・18

大江雲澤と薬湯

著者: 川嶌眞人

ページ範囲:P.912 - P.913

■大江風呂の由来

 「医は仁ならざるの術,務めて仁をなさんと欲す」という臨床現場における医のリスクマネジメントを既に江戸時代に唱えて,自ら主催した医塾で全国から参集してきた医学生に医術を教えてきた中津医学校初代校長の大江雲澤(1822~1899)は,華岡青洲の大阪分塾の出身であり,蘭方外科医であった.しかし,華岡青洲の医術も蘭方外科のみならず漢方との折衷派であったように,雲澤の医術も折衷派であったことを示す証拠が最近発見された.大分県立博物館に収蔵された大江雲澤の薬籠の中から多量の漢方薬が発見されたことと,漢方主体の薬湯療法を行っていた証拠の看板が発見されたことである(図1).

 筆者が少年時代からよく祖母に連れられて入浴していた,薬草の匂いただよう風呂屋が中津市内豊後町にあった.その風呂屋の名前は「大江風呂」と呼ばれていた.なぜ「大江」とよばれていたのかその頃は考えてもいなかった.しかし最近,「大江風呂」の看板が発見され,看板に大江家の薬草園で作られた薬草を利用した薬湯であり,大分県が正式に許可したことが記載されていた.大江家の現当主にも伺ったところ,確かに大江家の薬草がその風呂屋に供給されていたことが確認された.2004年7月に開館した中津市立大江医家史料館(図2)にはその看板が寄贈され,筆者たちも「マンダラゲの会」というボランティア団体を結成して,裏庭に約30種類の薬草を植栽してきた.

臨床経験

強直性脊椎骨増殖症に合併した椎体骨折の治療経験

著者: 當天賢子 ,   田中信弘 ,   佐々木浩文 ,   中西一義 ,   西田幸司 ,   亀井直輔 ,   濱崎貴彦 ,   山田清貴 ,   越智光夫 ,   藤本吉範

ページ範囲:P.915 - P.919

 強直性脊椎骨増殖症(以下ASH)は1950年にForestierによって提唱されたが,ASHに合併した椎体骨折の報告は少ない.われわれはASHに伴う胸腰椎移行部椎体骨折の6例を経験したので報告する.手術時年齢は48歳から83歳(平均72歳),骨折高位はT11,L1骨折が各2例,T10,T12骨折が各1例ずつであった.4例に遅発性膀胱直腸障害や両下肢不全麻痺が生じた.3例に後方固定術を行った.残り3例に経椎弓根的に椎体形成術を施行したが,2例は効果なく前方固定術を追加した.本症の骨折は骨折部にストレスがかかり保存治療に抵抗性で,強固な固定術を要することが多かった.

症例報告

膝鏡視下デブリドマン術後に致死的肺塞栓を来した抗リン脂質抗体症候群の1例

著者: 前山彰 ,   佐伯和彦 ,   内藤正俊

ページ範囲:P.921 - P.923

 肺動脈塞栓症(以下PE)は整形外科領域術後の致死性の高い合併症の1つである.また深部静脈血栓(以下DVT),肺動脈塞栓の予防のための研究が進み,ガイドラインが2004年に作成された.しかし手術を行う以上,完全にPE/DVTの発症を予防することは不可能であり,患者側へのインフォームドコンセントは無論重要であるが,発症した場合の早期診断と治療に対する意識も必要とされている.また,抗リン脂質抗体症候群はPE/DVTの最高リスクとされている.今回の症例では手術時まで無症候であったため同疾患を把握することができず,術後に肺動脈塞栓症を来した1例を経験したので報告する.

塩酸サルポグレラート(アンプラーグ®)が有効であった頚椎椎間板ヘルニアの2例

著者: 田島康介 ,   浦部忠久 ,   吉川寿一 ,   樋野忠司 ,   三戸一晃

ページ範囲:P.925 - P.928

 症例は長期に非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)等を服用していたが治療効果の得られなかった,頚椎椎間板ヘルニアと診断された41歳と47歳のいずれも女性であった.セロトニン受容体拮抗薬である塩酸サルポグレラートを投与したところ急速に症状が改善した.近年,難治性の疼痛性疾患に対するセロトニン受容体拮抗薬に関する報告が散見されるようになった.一方で,椎間板ヘルニアにおいては髄核の脱出は神経根の炎症を誘発し,疼痛誘発物質であるセロトニンが神経痛を引き起こすとされている.従来の投薬で効果の得られない頚椎椎間板ヘルニアに対して,本剤の投与は考慮に値するものと思われた.

Segmental spinal dysgenesisの1例

著者: 保坂聖一 ,   千葉一裕 ,   松本守雄 ,   中村雅也 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.933 - P.936

 Segmental spinal dysgenesis(分節性脊椎形成異常症)は主に胸椎,腰椎に発生する脊椎無形成症もしくは形成不全症である.今回われわれは本症の1例を経験したので報告する.症例は3歳の男児.歩行障害,排尿障害を主訴に当院を受診した.画像にてL3椎体の前方低形成を認め,L4椎体は欠損し,リング状の椎弓のみが遺残していた.著明な局所後弯変形による脊髄の圧迫を認めたため,一期的に腰椎前後方合併除圧固定術を施行し,良好な結果を得た.本症例では脊髄空洞症と脂肪腫による脊髄係留の合併があるため,今後も注意深い経過観察が必要である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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