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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科41巻9号

2006年09月発行

雑誌目次

視座

臨床研修制度のもたらしたもの

著者: 浜西千秋

ページ範囲:P.947 - P.948

 最近,ある企業主催の後期臨床研修合同セミナーなるものを経験した.日本整形外科学会(以下,日整会)に対して,今回は後期研修斡旋のため各専門科のコーナーを設けたので,学会でアピールするかどうかという打診があり,大阪では私が整形外科の紹介役を務めることになったのである.会場の雰囲気は異様の一言であった.関西を中心に全国から60~70の一般病院や大学病院までがブースを出し,主に来春4月から後期研修・入局予定の研修2期生が,目当てのブースを訪れる.一向に訪問者のない病院はたまりかねてパンフレットを入口で配布し,さらには一人ずつ熱っぽく問いかけて肩を抱いてブースに引率してゆく.研修内定者を得られない病院と,内定病院を決めかねている研修医の焦りが伝わってくる.どうしてこういう異常な世界が現出しているのか信じ難い思いであった.かっては医局に依存していたこれらの研修病院が,医局に代わって人材を得るために提示できる手段は,カリキュラムなどのきれいごとは抜きにして,給料と託児所完備くらいではないか.

 日整会の紹介は日本(以下略)胸部外科学会,病理学会の後で,脳神経外科学会,医学放射線学会の前であった.私の大声に誘われたかたくさんの方が立ち見でも聞いておられたが,半数は暇な病院の関係者のようであった.私の講演では,研修医の売り手市場がいつまで続くと思うのか,なぜ研修システムが確立し,しかもこの3年間で改善が著しい大学病院管理型研修をまず選ばないで,こんな会場をうろうろしているのか,今春入局した研修1期生と同じ選択行動をとると将来,供給過多でダンピングの対象になること,これから一層需要が増す技術修練の必要な科が勧められること,専門医資格以外に博士号も希望する35%の研修医のために大学では社会人大学院入学の門戸が広がりつつあることなどを主に述べた.整形外科に関してアピールした点は,今後患者さんの数と医師の需要がどうしようもなく増加する,将来開業しやすい,リハビリテーション医やリウマチ医への内科的特化が可能,手術は守備範囲が広く型通りの術式が少ない,手術全てにアイディアと工夫が求められる,技術修練は慌てる必要がないなどで,そのほかにも思いつく限りを述べた.しかしいずれにしてもアメリカのような,医師が症例から医療事故顛末まですべてを含めた分厚い履歴書(CV)を作成し,個別にアタックしなければ就職もできない不信の状況が作られつつあること,その間隙を縫うように,市場原理の利ざやかせぎで,こういった斡旋企業がすでに100社以上も名乗りを挙げている状況は医療破壊以外の何物でもないこと,などを再確認させられた思いである.これまで長年積み上げてきた,個々の医師の技術を担保し,リスクマネジメントを行い,僻地医療を維持してきた,極めて精緻な医局の役割を瓦解させた責任はどこにあるのか.一挙に市場原理の渦中に放り出された研修医と病院の焦りと疑念,あるいは怒りが燃え上がっているようなフェア会場であった.

検査法

骨粗鬆性椎体骨折に対する新しいX線撮影法(三態撮影)

著者: 浜田修 ,   宮野憲仁 ,   西田恭博

ページ範囲:P.949 - P.954

 骨粗鬆症性椎体骨折は,受傷時には予期できないほどの著しい椎体圧潰を来すことが少なくないことから,受傷時から椎体内に異常可動性を来しているのではないかと推測した.損傷椎体の動的情報を得る目的で仰臥位,側臥位,座位での側面X線撮影を行い,この撮影法を三態撮影と名付けた.新鮮椎体骨折20例に三態撮影を行った結果,椎体楔状角は仰臥位より側臥位,側臥位より座位で有意に大きくなっており,椎体異常可動性の存在を確認することができた.

動画記録15秒テスト―頚髄症定量評価の試み

著者: 細野昇 ,   坂浦博伸 ,   向井克容 ,   藤井隆太朗 ,   吉川秀樹 ,   海渡貴司 ,   冨士武史

ページ範囲:P.955 - P.961

 最大努力での手指握り開きを15秒間動画記録することによって頚髄症に伴う手指麻痺を定量的に評価した.対象は圧迫性頚髄症患者30名と健常対照群42名である.動画ファイルを5秒ずつに分割して無作為化のうえ,脊椎外科を専門とする整形外科医3人が回数を評価した.級内相関係数は0.989で,評価者間信頼性は極めて高かった.握り開きの合計回数はJOAスコアと有意に相関していた.健常者では回数は5秒ごとに有意に低下していった(疲労現象)が,頚髄症術前では最初の5秒と次の5秒の回数に有意差はなく,運動初期のすくみ(freezing)を示しているものと思われた.

Lecture

整形外科医が誤りやすい膠原病

著者: 廣畑俊成

ページ範囲:P.962 - P.969

 関節リウマチ(RA)の診断にあたっては,他の膠原病あるいは膠原病類縁疾患との鑑別が必要な場合が少なくない.その中でも頻度の比較的高いものが,全身性エリテマトーデス(SLE)・全身性硬化症(SSc)・多発筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)・混合性結合組織病(MCTD)およびリウマチ性多発筋痛症(PMR)である.RAと同様に,これらの疾患はいずれも単一の疾患マーカーを有しておらず,診断に際しては診断基準が用いられる.鑑別診断にあたっては,こうしたRAとまぎらわしい疾患の存在を常に念頭に置いておく必要がある.

連載 日本の整形外科100年 8

戦後のわが国の整形外科の発展(2)

著者: 小林晶

ページ範囲:P.970 - P.974

はじめに

 先月号に続いて,戦後のわが国の整形外科の発展について述べる.すでに記述した関節鏡と骨の電気的現象を除く,めぼしい事項を列記する.紙数の関係で項目が限定されることを,お許しいただきたい.

医者も知りたい【医者のはなし】 21

東京医学校ものがたり その1

著者: 木村専太郎

ページ範囲:P.976 - P.978

■まえがき

 明治のはじめ,東京大学医学部の前身である東京医学校があった.江戸時代の西洋医学所が,明治維新後にいろいろの変遷を経て,明治7年(1874)に東京医学校となった.明治9年(1876)には東京本郷に移り,医学校本館が建てられた.その建物は長く東京大学医学部のシンボルとして存在していたが,昭和40年(1965)に解体され,44年(1969)に,小石川養生所のあった理学部付属植物園(小石川植物園)に再建された.現在でも東京大学総合研究博物館小石川分館として活用されている.東大の赤門とともに東京医学校本館は,昭和45年(1970)に重要文化財に指定されている.今回は,その東京医学校の歴史に至る江戸時代の様子を書いてみたい.

 慶応3年(1867)10月に,第15代将軍徳川慶喜が大政奉還を行った.明治政府は江戸幕府直轄の従来の日本古来の伝統的医学を育ててきた(漢方)医学所,幕府の施療施設で「赤ひげ」で有名な小石川養生所,そして幕末に蘭学の流れを汲むお玉ヶ池種痘所に始まった西洋医学所を接収した.明治維新後に(漢方)医学所と小石川養生所は廃止された.

臨床経験

胸腰椎移行部破裂骨折に対するligamentotaxisを用いない後方固定術単独施行例の手術成績

著者: 丹野隆明 ,   安宅洋美 ,   品田良之 ,   飯田哲 ,   金泰成 ,   藤塚光慶

ページ範囲:P.981 - P.989

 Ligamentotaxisを行わず後方固定術を単独に施行した胸腰椎移行部破裂骨折21例を検討した.全例受傷後3~4週から脊柱管内骨片の縮小がみられた.不全麻痺16例中13例は術前に筋力の部分的回復を示し,最終観察時に全例Frankel 1 grade以上改善,うち10例は正常となった.受傷時後弯角26°のFrankel A 1例と偽関節1例を除き術後矯正損失は平均3.6°,最終観察時の局所平均後弯角は2.7°であった.遺残腰痛と局所後弯の間には関連はなかった.内固定材料の折損はなく,本法は簡便,安全,低侵襲の点からも推奨しうる術式と考えた.

変形性股関節症における疼痛発現部位の検討

著者: 中村順一 ,   老沼和弘 ,   鈴木千穂 ,   髙森尉之 ,   米田みのり ,   大井利夫

ページ範囲:P.991 - P.994

 臼蓋形成不全による末期変形性股関節症49例55関節(平均年齢63.8歳)を対象に,疼痛発現部位と診断遅延の関係を検討した.疼痛発現部位は鼠径部47例85%,殿部20例36%,大転子部8例15%,腰部6例11%,大腿前面9例16%,膝前面12例22%であった.51股93%は初診時に診断されたが,4例7%では平均14.5カ月と著しく診断が遅れた.初診時に診断された群の疼痛発現部位は鼠径部が有意に多く,診断が遅れた群では膝前面が有意に多かった.高齢者で膝痛を訴える場合には関連痛の可能性を考慮し,股関節疾患を鑑別する必要がある.

症例報告

腱板広範囲断裂に伴う肩関節血腫に対する鏡視下手術を施行した2例

著者: 伊崎輝昌 ,   荒牧保弘 ,   馬場尚樹 ,   塩田悦仁

ページ範囲:P.997 - P.1002

 肩関節血腫は血友病,神経障害性関節症,関節リウマチ,cuff tear arthropathy,軟骨石灰化症,腫瘍,色素性絨毛結節性滑膜炎が原因で生じることがある.このうち,腱板断裂に伴う肩関節血腫の報告は極めて少ない.われわれは保存療法に抵抗する腱板広範囲断裂に伴う肩関節血腫の2例に対し鏡視下手術を行った.出血源は滑膜および骨髄であり,2例とも鏡視下に止血が可能であった.2例とも高血圧症の治療を受けていた.血腫形成以降,不安定となっていた血圧は,術後に肩の疼痛が軽快するとともに安定した.疼痛や関節血腫の再燃はみられていない.

後方進入椎体間固定術後に偽関節となった高度腰椎すべり症に対しtrans-sacral interbody fusionを施行した1例

著者: 金子康仁 ,   松本守雄 ,   石井賢 ,   高石官成 ,   小川祐人 ,   中村雅也 ,   千葉一裕 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.1003 - P.1007

 症例は67歳,女性で,他院にて第4,第5腰椎すべり症に対し後方進入椎体間固定術(PLIF)を施行されたが,症状は改善しなかった.当院初診時にはPLIF後の偽関節を生じ,すべりの著明な進行がみられたため,trans-sacral interbody fusionを併用した後方固定術を施行した.その結果,良好な骨癒合と臨床症状の改善が得られた.本法はanterior supportが修復できない高度すべり症に対する有用な手術法と思われた.

手関節尺側部痛が遺残した掌側ロッキングプレート施行橈骨遠位端骨折の3例

著者: 森谷浩治 ,   斎藤英彦 ,   高橋勇二 ,   大井宏之

ページ範囲:P.1009 - P.1014

 術中鏡視下に三角線維軟骨複合体(TFCC)を確認したが手関節尺側部痛を残した掌側ロッキングプレート施行橈骨遠位端骨折の3例について報告する.症例1は80歳の女性で,Colles骨折であった.TFCCは橈骨尺骨切痕付着部の一部に表層断裂を認めた.症例2は52歳の男性で,Colles骨折であった.TFCCは橈側付着部中央で部分断裂していた.トランポリン現象消失は判別困難であった.症例3は67歳の女性で,Colles骨折であった.TFCCは橈側付着部中央で断裂していた.尺側部痛の原因として,尺骨小窩でのTFCC 剝脱を見逃している可能性が考えられる.

重度の膝側副靱帯損傷と膝前十字靱帯損傷に合併した膝蓋腱損傷の2例

著者: 大歳憲一 ,   菊地臣一 ,   紺野愼一 ,   長総義弘 ,   木村雅史

ページ範囲:P.1015 - P.1018

 膝側副靱帯損傷を伴った膝前十字靱帯(ACL)損傷に膝蓋腱損傷を合併した2例を経験した.膝蓋腱損傷は,術中に移植腱として膝蓋腱を採取した際に判明した.術前のMRIでは膝蓋腱の不連続性が認められていたが,術前評価の時点でこの変化は見逃されていた.両症例ともに術前に明らかな膝伸展不全徴候は認められなかったため,膝蓋腱の再建は行わず,術式を変更してACL再建術のみを行った.膝側副靱帯損傷を伴うACL損傷においては,膝蓋腱損傷が合併している可能性を念頭に置いて理学所見や画像所見の評価を行う必要がある.

病的骨折を伴う大腿骨頚部骨囊腫治療後の大腿骨頭壊死に対し大腿骨転子間弯曲内反骨切り術を行った1例

著者: 浦川浩 ,   中島浩敦 ,   紫藤洋二 ,   吉岡裕 ,   長谷川幸治

ページ範囲:P.1021 - P.1025

 病的骨折を伴う大腿骨頚部骨囊腫治療後の大腿骨頭壊死症に対し大腿骨転子間弯曲内反骨切り術を行った1例を経験したので報告する.症例は16歳の女性で,右大腿骨頚部骨囊腫に合併した,転位型大腿骨頚部病的骨折の診断であった.病巣掻爬,6.5mm cannulated screwと3.0mm Kirschner鋼線による骨接合,血管柄付き腸骨移植術を行った.骨癒合は得られたが,大腿骨頭壊死症(Type C-1,Stage 2)となり,大腿骨転子間弯曲内反骨切り術を行った.骨切り部は35°内反矯正し,つば付きCHSで固定した.術後3年6カ月の単純X線像では,関節裂隙は保たれており,関節症性変化は認めなかった.JOAスコアは88点と良好な関節機能を保っている.

同種骨impaction bone graftを用いて上腕骨人工骨頭再置換術を行った1例

著者: 塚本重治 ,   村成幸 ,   高木理彰 ,   佐々木淳也 ,   後藤康夫 ,   松田雅彦 ,   荻野利彦

ページ範囲:P.1027 - P.1031

 左上腕骨近位端骨折に対して人工骨頭置換術が施行され,術後8年でステム先端部での上腕骨骨折,ステムの弛みと骨溶解が認められた70歳女性の人工骨頭再置換術について報告した.本例では保存的治療で骨癒合を得た後,同種骨impaction bone graftを用いた人工骨頭再置換術を行った.術後1年3カ月で骨量の再獲得と合わせて良好な固定性が得られ,疼痛が軽減し,日常生活動作の改善が得られた.同種骨impaction bone graftは上腕骨の再建においても選択肢の1つになり得ると思われた.

乳児化膿性肩関節炎による肩関節消失の1例―34年後の上肢機能

著者: 矢部裕 ,   熊谷純 ,   小泉憲之 ,   川村正典

ページ範囲:P.1033 - P.1037

 乳児期に化膿性肩関節炎を発症し,その後34年を経過して肩関節の形態を失った症例の上肢の機能を分析した.症例は34歳の男性で,右に15cmの上腕の短縮,右肩に挙上90°の可動域制限がみられた.X線上肩甲上腕関節は消失し,MRI上肩関節は瘢痕組織により置換されていた.小児化膿性肩関節炎の機能的予後は良好であるとされているが,本症例では骨髄炎による上腕長の短縮と肩関節の消失による高度の機能障害が残った.しかし患肢は非利き手として,日常生活に支障のない程度の機能を有していた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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