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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科42巻1号

2007年01月発行

雑誌目次

巻頭言

第80回日本整形外科学会学術総会を開催するにあたって

著者: 中村孝志

ページ範囲:P.2 - P.3

 今年の5月24日より27日までの4日間,神戸市の国際会議場を中心に第80回日本整形外科学会学術総会を開催させていただきます.京都国際会議場を中心に京都で開催させていただくことを願っていたのですか,残念ながら,学会の規模が大きくなり,京都国際会議場では手狭で,十分な会場を確保するのは難しい状況となってきました.この点から今回は新空港が近くに開港して,交通の便が飛躍的に改善した神戸を会場に選ばせていただきました.昨年には展示会場が1.5倍に拡張され,7,000名以上が参加しても十分な広さが確保できます.本誌が先生方のお手元に届く時には演題の採用も決まり,ほぼプログラムも完成していることと思います.

 さて,近代の整形外科学がわが国で開講されて100年が経過しています.現在,学会員は22,000人を越え,内科,外科に次ぐ会員を有する専門学会となっています.このような学会の役割は2つあると考えます.1つは専門医としての整形外科医の研鑽する場であり,2つめは医療の最前線の場での研究を発表していただく場です.

誌上シンポジウム 変形性膝関節症―最近の進歩

緒言 フリーアクセス

著者: 守屋秀繁

ページ範囲:P.6 - P.6

 高齢社会の真っただ中,どちらを向いても年寄りばかりです.年寄りに起こる変形性膝関節症と脊柱管狭窄症は増加の一途をたどっており,今や整形外科のメイン・テーマのひとつになっています.本誌上シンポジウムでは変形性膝関節症に対する最近の進歩について論じてもらいましたが,結論的にはどの論文もいまだ研究途上であることがわかりました.

 疫学的には以前から言われているように多因子であることが述べられているだけであり,残念ながら目新しい点は見当たらず,今後のもうひとつ変わった視点からの検討が期待されます.

変形性膝関節症の疫学

著者: 大森豪 ,   古賀良生

ページ範囲:P.7 - P.14

 変形性膝関節症(膝OA)は,common diseaseであり,本症の発症と進行には多くの因子が関わっている.膝OAの発症と進行のメカニズムやそれに関わる危険因子,さらに疾患自体の自然経過を明らかにする目的での疫学的研究は極めて重要であり,これまでに欧州や米国,そして日本でも様々な疫学調査が行われてきた.これらの研究から,膝OAに影響する因子として,年齢,性別,人種,体重,膝外傷・手術の既往,下肢筋力,膝内反アライメントおよびスラスト運動,骨粗鬆症,性ホルモン,職業・日常活動性・生活習慣,喫煙,ビタミンなどの微量栄養素,代謝性疾患,遺伝子など多くの内容が挙げられている.しかし,これらの因子のうち影響のメカニズムを含めて明らかになっているものは少なく,今後多方面からのさらなる研究が必要と考えられる.

変形性関節症の発症原因

著者: 福井尚志

ページ範囲:P.17 - P.22

 変形性関節症(OA)は運動器領域の代表的なcommon diseaseであるため疾患の進行のメカニズムについては多くの研究がなされ,様々な知見が得られている.しかしOAの狭義の発症のメカニズムについては研究が困難なこともあり,まだ不明な点が多く残されている.本稿では疫学的研究によりOA発症の危険性を増すことが知られている年齢,肥満,性について疾患発症とどのように関連するのか現在までに知られていることを述べ,さらに最近新たな知見が相次いで報告されているOAの遺伝的要因についても触れる.

変形性膝関節症における血清中の関節マーカーの有用性―血清cartilage oligomeric matrix protein(COMP)値とヒアルロン酸(HA)値について

著者: 伊達秀樹 ,   山田治基 ,   金治有彦 ,   田島香里 ,   市瀬彦聡 ,   中川研二 ,   早川和恵 ,   前原一之

ページ範囲:P.23 - P.28

 関節マーカーは軟骨や滑膜などの関節構成体の代謝に関連する因子を関節液,血液,尿などの体液中で測定することにより関節構成体の合成や破壊の動態を知るものである.近年,血清中で測定可能なマーカーであるcartilage oligomeric matrix protein(COMP)やヒアルロン酸(HA)などの有用性が報告されている.われわれの検討では変形性膝関節症患者では血清COMPはX線病期に応じて変動を示し,HAは臨床症状に一致した変動を示した.マーカーは現時点では,変形性膝関節症診断の補助的手段とみなされているが,複数のマーカーを組み合わせることによって,進行の予知,より正確な病態判断も可能と考えられる.合併する脊椎椎間関節症などの影響も考慮する必要があるが,血清マーカー測定は関節穿刺を必要とせず,侵襲の少ない変形性膝関節症における病態評価法として期待されている.

疼痛の原因組織からみた変形性膝関節症の手術療法選択

著者: 佐粧孝久

ページ範囲:P.29 - P.34

 変形性膝関節症の手術療法を選択する際に,どの組織が疼痛の原因となっているかを考慮し分類することにより,適切な治療法が選択できることを提案した.疼痛の原因となりえるのは半月板,軟骨デブリス,関節包など軟部組織および軟骨下骨である.特に軟骨下骨は進行例において疼痛の発現に関与しており,疼痛の原因自体ともなっていることを示した.したがって軟骨下骨に明らかな変化が出現しているような症例では手術時に軟骨下骨を切除することになる人工膝関節置換術が適切な治療法であるといえる.また,軟骨下骨の変化が少ない例ではそれぞれの組織に対応した手術法を選択することも念頭に置くべきと考えた.さらに,軟骨下骨に生じる病理学的変化はMRIで捉えることが可能であり,変形性膝関節症の重症度の指標となっていることを示した.この指標に基づく治療法選択も将来的には可能となることも併せて示した.

変形性膝関節症:高位脛骨骨切り術の進歩―Opening Wedge法による高位脛骨骨切り術

著者: 齋藤知行 ,   篠原健太郎 ,   竹内良平

ページ範囲:P.35 - P.38

 高位脛骨骨切り術(HTO)は,変形性膝関節症の外科的治療の基盤をなす術式である.しかし,良好な術後成績を得るには経験と手術技量が求められ,長期で複雑な後療法が必要となる.医療の効率化と在院日数の短縮が求められる現在,これらは克服すべき課題である.これらの問題を克服するには,術式の単純化と骨切り部の強固な固定が必要となる.最近,locking screwを用いる内固定材(TomoFix)が開発され,opening wedge法によるHTOが再び着目されるようになった.TomoFixと術中矯正位の保持と開大部の骨癒合の促進を目的に楔状ハイドロキシアパタイトを用いたopening wedgeの術式を行った.術後の下肢長不等や膝伸展機構への影響,矯正角度の限界,脛骨後傾の増強などの問題はあるが,術中操作と適応の厳格化により解決でき,本術式は手術侵襲が少なく,後療法の簡素化と加速化を可能とし,有用な手術術式である.

変形性膝関節症:人工膝関節置換術のコツ

著者: 龍順之助 ,   西郷嘉一郎

ページ範囲:P.39 - P.45

 人工膝関節置換術(total knee arthroplasty,TKA)は人工関節の材質の向上,関節のデザインの進歩,手術器具の改良,手術手技の向上により,近年,長期的に安定した良好な術後成績が得られるようになった.変形性膝関節症において理学療法,装具療法,薬物療法などで対処しきれない膝関節の内反変形や,X線上にて関節面の骨欠損,骨破壊,関節裂隙の消失した場合など,65歳以上の高齢者であればTKAの適応となる.TKAに際し,適応と禁忌を十分に理解し,術前適応の有無を検討し,全身の合併症のチェックを行い,安全に手術を行うことが最も重要である.TKAの手術に際し,TKAの術式について十分な知識を持つ必要があり,個々の患者の膝関節の状態に合わせ,適切な機種の選択を行う.手術手技のポイントとして,正確な大腿骨,脛骨の骨切り,適正な靱帯バランスの獲得,正しい下肢アライメントの獲得が重要である.また,術者は術後長期の経過観察を行う必要がある.

国際学会印象記

Spine Across the Sea 2006に参加して

著者: 持田讓治

ページ範囲:P.46 - P.47

 Spine Across the Sea 2006は今夏7月23日から27日の5日間(scientific programは24日からの4日間),常夏のHawaii,Maui島のThe Ritz-Carlton, Kapaluaで開催された.この会は日本脊椎脊髄病学会と米国North American Spine Society(NASS)の合同会議として3年ごとに開催されている.今回のOverall Chairは日本側は河合伸也山口大学名誉教授が,また米国側はCharles L. Branch先生が務められた.登録参加者は320人前後と多数であった.

 「Biomaterial in spinal reconstruction」,「Cervical laminoplasty」,「Post-surgical neurologic dysfunction」,「Spine injuries in sports」の4つのシンポジウムが1日に1つずつ組まれ,日米のシンポジストによる忌憚のない議論が繰り広げられた.10年前には米国では極めて少数例であった頚椎のlaminoplastyの適応が大分増加した一方,pedicle screwやlateral mass screwの普及による後方instrumentationを多用した固定術がなお多数であり,頚髄症に対する手術適応の日米の差がなお明らかであった.この中でJohn Heller先生が症例検討の形で会場の参加者を巻き込んだ議論を展開し,日米の手術適応の違いを丁寧に解説していたことが大変に印象深かった.「Spine injuries in sports」ではスポーツ選手における腰痛が議論されたが,discogenic painや仙腸関節部痛に対する解釈に大きな隔たりがあり,椎間固定術を含めた腰仙部への手術適応に異論を持たれた日本の先生方が多数であったと感じている.

連載 臨床研修医のための整形外科・1【新連載】

頚椎疾患

著者: 高橋正明

ページ範囲:P.48 - P.54

◆連載にあたって

 一般病院では,整形外科医が登場する機会が数多くあります.

 1.外来診察室では:高齢化社会になり,高齢者の骨折(脊椎圧迫骨折・大腿骨頚部骨折・橈骨遠位端骨折・上腕骨頚部骨折など),骨粗鬆症,変形性脊椎症,腰部脊柱管狭窄症,変形性関節症で苦しむ患者数が増加しています.

 2.救急外来では:救急車で運ばれてくる外傷患者の9割以上が整形外科医の出番です.脳外科医や外科医が担当する頭部・胸腹部外傷がある場合でも,それ以外に整形外科が扱う外傷(四肢の骨折など)を伴っていることがほとんどです.

 3.病棟業務では:手術件数が増えると必然的に病棟業務が増加します.

 4.手術室では:高齢化社会になり大腿骨頚部骨折の手術件数が年々増加しています.

 さて,これから整形外科を学ぼうとする研修医に最低限マスターしてもらいたいこと,すなわち重大な見逃しをなくし,要領よく仕事をこなしてもらうために必要な知識をこの連載で整理していきたいと考えます.

確認したいオリジナル・1【新連載】

Codman体操とは重錘を負荷しての体操のことか?

著者: 鳥巣岳彦

ページ範囲:P.55 - P.55

 全国の病院や診療所でリハビリテーションに携わっている医師や理学療法士が増加した.そして若い整形外科医は自分が手術したあるいは治療中の患者を,診断名と“宜しく”との簡単な処方箋で,丸投げ(依頼)することが多くなったような気がする.問い詰めると“リハビリテーションは向こうが専門ですから”と開き直る.言語道断である.

 “Codman体操を宜しく”との指示では,重錘を負荷しての体操を連想する.多くの教科書に図入りで説明があるから誤って理解するのは当然である.しかし,Codmanの著書の202頁には,図入りで次のような説明がある.

整形外科と蘭學・19

福澤諭吉と蘭学

著者: 川嶌眞人

ページ範囲:P.56 - P.60

■諭吉と解体新書

 福澤諭吉(1985~1901)が郷里中津の先輩である前野良沢たちの労苦に報いるために,杉田玄白らの「蘭学事始」を明治23年(1980)に再版したことはこの欄でかつて述べたことがある.諭吉は自ら序文を書き,辞書もなかった時代に,「ターヘル・アナトミア」を翻訳した良沢たちのパイオニア精神に感涙して咽び泣いたと述べている.諭吉が中津藩に頼まれて創設した「蘭学塾」は,良沢たちがその87年前に翻訳に苦労した中津藩中屋敷と同じ敷地内である.築地の聖路加国際病院前にある中津藩中屋敷の碑文がその場所である.中津藩は良沢によって蘭学を創始し,諭吉によって蘭学に終止符を打ち,英学に向かって大きな舵をきったという不思議な運命に恵まれた(図1).

臨床経験

ネジ型ケージと棘突起プレートによる後方進入腰椎椎体間固定術―X線学的検討

著者: 河村光廣 ,   細野昇 ,   大和田哲雄 ,   金子徳寿 ,   青野博之 ,   行方雅人 ,   冨士武史

ページ範囲:P.63 - P.67

 Lumbar alligator plate(LA)は棘突起を挟んで固定する金属である.後方進入腰椎椎体間固定術84例を対象にLAで固定した群(n=41)と椎弓根スクリューを使用したPS群(n=43)に分けて術後1年の成績(骨癒合率,前弯,ケージ沈下)を比較した.両群全例で骨癒合を得,前弯維持に有意差はなかった.3mm以上ケージが沈下した症例数はLA群(26.8%)がPS群(2.3%)に比べ有意に多かったものの,沈下量に有意差はなかった.LAは椎弓根スクリューに比べ生体力学的固定力は劣るとされており今回の検討でも沈下症例は多かったが,誤刺入のリスクもなくより簡便で,骨癒合率も高く,今後の応用が期待される.

症例報告

術中肺血栓塞栓症を来した大腿骨頚部骨折の1例

著者: 古矢丈雄 ,   常泉吉一 ,   池田修 ,   丸田哲郎 ,   見目智紀 ,   池川直志 ,   大井利夫 ,   大津敏 ,   遠井亨

ページ範囲:P.69 - P.74

 80歳の女性で,大腿骨頚部骨折術中に肺血栓塞栓症を来した1例を報告する.発症早期より本症を疑い,迅速な治療を施行したことで救命することができた.術中動脈圧モニターは急変の早期発見に有用であった.本症例における肺血栓塞栓症発症リスク因子として,服用していた抗血小板薬の術前休薬および手術までの待機期間が挙げられる.静脈血栓塞栓症の兆候がなくとも抗血小板薬・抗凝固薬内服症例,中でも下肢外傷により術前安静臥床を要する症例では術前から予防策を講じる必要があると考えた.

腰椎除圧術後に発生した椎間関節囊腫により神経根症状を呈した1例

著者: 大島誠吾 ,   佐々木正修 ,   中村精吾 ,   村尾保 ,   河越宏之

ページ範囲:P.77 - P.81

 腰椎手術後に発生した椎間関節囊腫による神経根症状に対し保存的治療が有効であった症例を経験した.症例は53歳の男性.腰部脊柱管狭窄症に対し顕微鏡下のL4/5後方除圧を施行後5カ月で左下肢痛が再燃した.MRI,椎間関節造影でL4/5左側に椎間関節囊腫を認め,透視下で穿刺を行い症状は速やかに改善した.腰椎手術後に発生する椎間関節囊腫は,稀ではあるが術後疼痛再発の一因として念頭に入れておくべきである.保存的治療が有効な症例もあり,まずは保存的治療を試みてもよいと思われる.また,透視下での穿刺も有用な方法と考えた.

無症候性膝窩動脈閉塞が関連したと思われる人工膝関節置換術後の難治性反復性関節血症:1例報告

著者: 大井剛太 ,   菊地臣一 ,   矢吹省司 ,   沼崎広法 ,   大歳憲一 ,   若松大樹

ページ範囲:P.83 - P.88

 無症候性膝窩動脈閉塞が関連したと思われる人工膝関節置換術後の反復性関節血症を経験した.症例は,69歳の女性である.出血傾向や膝窩動脈の閉塞を示唆する症状はなく,末梢動脈の拍動も正常であった.変形性膝関節症の診断で人工膝関節置換術を施行した.術後1週より関節血症を繰り返した.滑膜切除を複数回施行したが,その後も再発を繰り返した.動脈造影を行ったところ,膝窩動脈の閉塞と発達した側副血行路が認められた.膝窩動脈の開通後6カ月の時点で,関節血症の再発は認められない.

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あとがき フリーアクセス

著者: 守屋秀繁

ページ範囲:P.96 - P.96

 随分と長い間,本誌の編集委員を務めさせていただきました.私は,かつて編集委員をお務めだった佐藤孝三先生から1991年に編集委員をするようにと仰せつかり,始めさせていただきました.足掛け17年お世話になりました.なりたての頃は編集会議を楽しい所でやり,その後のお楽しみもありましたが,徐々に世の中が世知辛くなり,規制,規制で編集会議も何となく世知辛いものになってきてしまいました.

 査読をするに際して,投稿論文の中には私にとって不得手な分野もたくさんありました.そのような時は教室員にお願いして教えてもらいました.教室員から「勉強になりました」,と言ってもらったこともありましたが,本当は迷惑だったのだろうにと感謝しながら,反省しています.お陰様で私は大変勉強をさせていただきました.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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