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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科42巻12号

2007年12月発行

雑誌目次

視座

成長期のスポーツ外傷・障害予防への積極的関与

著者: 立入克敏

ページ範囲:P.1167 - P.1169

 スポーツ外傷・障害のために,われわれ整形外科医の診療を求める子どもたちが後を絶たない.多くの先達が,その治療や予防のために,研究・教育・臨床に多大の尽力を払ってきたのに,である.われわれ整形外科医は今,先輩の方々が残してくれた実績に加えて,現在得られる多くの知見を基に,成長期のスポーツ外傷・障害の予防に積極的に取り組まなければならない.

 今や,整形外科関係の学会・研究会は数多く開催され,そこでは基礎的な研究から得られた新たな知見,新たな治療法,臨床成績等々,素晴らしい成果が明らかになっている.それらのスポーツ外傷・障害の治療や予防に関する価値ある学術的成果が,一般国民,特に子どもたちやスポーツ現場になかなか届かないのが現状であろう.

論述

術中側臥位での前額面骨盤側方傾斜に及ぼす因子

著者: 小関弘展 ,   古市格 ,   廣田康宏 ,   村田雅和 ,   宮路剛史 ,   古川晃郁 ,   野崎修

ページ範囲:P.1171 - P.1175

 側臥位での骨盤前額面傾斜に影響する因子について検討した.骨盤支持器で側臥位に固定した股関節手術例12例〔人工股関節置換術(THA)9例,人工骨頭置換術3例〕を対象とした.術直前に麻酔下に手術台を含む骨盤正面像を撮影し,両涙痕下端,坐骨下端,仙腸関節下端を結ぶ線の,手術台からの垂線に対する骨盤の前額面傾斜を計測し,対側の大転子張り出し度(大転子と腸骨外縁を結ぶ線の骨盤中心軸となす角),腰椎側弯度,身長,体重,BMI,胸囲,腹位,殿位との相関の有無を検討した.骨盤の前額面傾斜は,平均+0.63±0.9°(-4.0~+6.0°)であった.大転子張り出し度との相関を認め(p=0.006,R=0.74),大転子が腸骨より張り出しているほど,骨盤は頭側へ傾く傾向が認められた.側臥位での骨盤手術やTHAなどの股関節手術においては,前額面側方傾斜が必ずしも一定ではないこと,術前骨盤正面X線像での腸骨に対する大転子の張り出し度が術中の骨盤側方傾斜に影響することを念頭に置いて行うべきである.

整形外科philosophy

ライフワークとしての変形性関節症の研究―特に膝関節症の治療(後編)

著者: 腰野富久

ページ範囲:P.1177 - P.1191

■留学中の出来事■

 1.クリーブランド市

 聖ロカ病院で整形外科のレジデントに従事していた1966年のことである.車(ビュイック・スペシャル)を買って週末は近郊へよくドライブに出掛けたのであるが,ある日高速道路でスピードを出しすぎた.後にパトカーがついて来るのに気がつかなかった.停車を指示され,車を下りて外に出ると警官にくどくどお説教された.交通法規のことを長々と述べていたのであるが,私は気が動転していて,話していることのほとんどが聞き取れなかった.罰金を取られるのではないかと気が気でならなかった.しかし最後に「貴方はアメリカの交通法規に不慣れのようだから今回は罰金は科さない」と言ってくれた(心の中で,しめたと思った).私はすかさず「その最後に言ったことはよくわかった」と答えた.警官はきょとんとした顔をしていた.実際には「最後に言われたことだけしかわからなかった」のであった.要するに金は払わなくてよいのだ.このことを病院の同僚に話すと,どうも笑い話の種になったらしく,いろいろな人に「お前は幸せな人だ,自分に都合のよいことだけがよくわかり,都合の悪いことはわからないとシャットアウトできる」と笑われた.このことはクリーブランドの連中が,次に行くニューヨークの連中にも話したらしく,ニューヨークでも話題にされた.しかしニューヨークにいた頃には,すでにアメリカにも慣れて,英語も全く自由になっていた.

連載 臨床研修医のための整形外科・12

上肢の外傷―救急室編

著者: 林俊吉 ,   高橋正明 ,   照屋徹

ページ範囲:P.1194 - P.1199

 今回は肘関節(42巻5号)や肩関節疾患(42巻2号)の診察室編では扱わなかった,前腕から鎖骨までの骨折や脱臼など救急室で診療する機会の多い外傷について採り上げました.以前,肘関節編で採り上げた内容も一部再掲しています.

確認したいオリジナル・11【最終回】

Pellegrini-Stieda diseaseについて

著者: 鳥巣岳彦

ページ範囲:P.1200 - P.1200

 Pellegrini(1905)とStieda(1908)の報告に基づくPellegrini-Stieda diseaseは,外傷直後には認められなかった膝関節内側側副靱帯の主に起始部を中心とした石灰化や骨化が,外傷後2~3週を経て生じる疾患であると認識されている.Stiedaは原著の中(824頁)で「自分の症例報告と同じ疾患はKöhlerが既に単行本の中で症例報告している」と認めている.そのKöhlerのX線図譜(1905)が九大医学部図書館に保存されていた.

小児の整形外科疾患をどう診るか?─実際にあった家族からの相談事例に答えて・8

先天性下肢奇形(脚長差)

著者: 亀ヶ谷真琴

ページ範囲:P.1202 - P.1203

相談例〔先天性下肢奇形(脚長差)〕

 初めまして.私は1歳5カ月の男の子の母親です.息子は生まれつき右足の指が二本欠損し,足のひらも少し外を向いています.検査をしていくうちに左足の長さに比べて右足の長さが短く,現在は3.5cm超の差があるそうです.指の本数を増やすことは無理だと言われていてそのこともショックですが,それよりも足の長さの違いにより,今後の生活において歩行が困難になっていくということのほうが心配です.現在,近くの県立病院にかかっています.診断としては成長段階に応じて対処していくということになっています.息子は,ようやくよちよち歩きを始めたため,とりあえず装具を作るということになりました.将来的には,外から足の長さを調節する(ひっぱる?!)方法でやってみて,足のひらの傾きはおそらく手術,しかも何回かしないといけないでしょうと言われています.他の医療機関でも診ていただきたいのですが,専門的な医療機関を探すのに苦労しています.お忙しい中,大変ご迷惑なことと存じますが,息子の症状についていい情報がありましたら,ぜひアドバイスを宜しくお願いいたします.

臨床経験

腰椎後方内視鏡手術にみられる術後硬膜外血腫と術後閉鎖式ドレーンの設置不良との関連について

著者: 遠藤徹 ,   吉田宗人 ,   川上守 ,   安藤宗治 ,   南出晃人 ,   中川幸洋 ,   麻殖生和博 ,   延與良夫 ,   岡田基宏 ,   中尾慎一

ページ範囲:P.1205 - P.1210

 目的:腰椎後方内視鏡下除圧術(MED法)の術後ドレーン設置位置を調査し,術後硬膜外血腫との関連を検討した.対象と方法:2004年以降の3年間に当科で行ったMED法による腰椎手術症例308例を調査し,ドレーン設置位置を同時期の従来法例170例と比較した.また術後硬膜外血腫による症状悪化とドレーンとの関連を検討した.結果:MED法ではドレーン設置不良例が従来法と比較して有意に多く,硬膜外血腫による症状悪化はドレーン設置不良例に有意に多く認めた.結語:ドレーン設置不良はMED法特有の問題であり,血腫による症状悪化を増加させる危険性がある.

頚椎症性脊髄症における体幹屈曲筋の評価

著者: 稲見聡 ,   平林宏之 ,   水町隆雄

ページ範囲:P.1211 - P.1213

 頚髄症と体幹筋機能について,以下の研究を行った.対象は頚髄症患者47人(CSM群)と,変形性膝関節症患者34人(OA群).検者が足部を保持した仰臥位から,上体を30°起こした姿勢を持続できた時間を測定した.CSM群では,JOAスコアの各点数と,持続時間との相関性を調べた.持続時間は有意にCSM群が短かった.またCSM群では持続時間と,JOAスコア合計点および下肢運動機能点において正の相関を認めた.頚髄症患者は変形性膝関節症患者に比較し,体幹屈曲筋の持久力が低下していると考える.

小児期受傷の成人上腕骨外顆偽関節に対する骨接合術

著者: 三宅潤一 ,   正富隆 ,   高樋康一郎 ,   冨士武史

ページ範囲:P.1215 - P.1219

 長期経過した成人上腕骨外顆偽関節に対して骨接合術を行った5例を評価し,その功罪につき検討した.受傷時年齢は平均7歳で,手術時年齢は平均44.6歳.術前の症状は尺骨神経症状のみが2例,尺骨神経症状と疼痛が2例,疼痛のみが1例であった.術前可動域は伸展平均-15°,屈曲平均132°で,Tohらによる上腕骨外顆偽関節のX線像分類でgroup 1が1例,group 2が4例であった.最大屈伸側面X線像にて外顆骨片の動きを計測し偽関節部での動きとしたところ平均27°であったが,この角度を骨接合術後に生じる可動域制限と予想した.手術は後方からアプローチし,まず尺骨神経を剝離し,皮下前方移行する.次にK-wireで骨片を仮固定し,屈曲を犠牲にしない可動域を確認後,腸骨移植を併用して螺子もしくはプレートを用いて固定した.術後は平均5.5週の外固定を行った.Group 1の1例は骨癒合が得られなかったが,group 2の4例は骨癒合を得た.疼痛を認めた症例は全例骨癒合により症状は消失し,尺骨神経症状も全例で改善した.骨癒合を得た4例とも可動域の減少を認め,総可動域は術前に比べて平均20°の減少を認めた.ただし,術後実際に生じた可動域制限は,術前X線像により予測した可動域制限より平均7°少なく,疼痛を有する上腕骨外顆偽関節group 2は骨接合術の適応と考えられる.

症例報告

APL腱が主因と考えられたde Quervain病の3例

著者: 丸山真博 ,   高原政利 ,   菊地憲明 ,   伊藤和生 ,   渡邉忠良 ,   荻野利彦

ページ範囲:P.1221 - P.1225

 de Quervain病は第1背側伸筋腱腱鞘区画の狭窄炎であり,本態は短母指伸筋腱(EPB腱)の腱鞘炎である.トリアムシノロン注射に抵抗し,手術中にEPB腱の異常を認めず,長母指外転筋(APL)腱に主病変を認めた3例を経験した.症例の年齢は,19歳,57歳,および70歳であった.1例には隔壁を認めたが,他の2例には隔壁を認めなかった.APL腱は2~3本あり,局所的肥厚,圧痕,あるいは停止異常などの変化を認めた.APL腱に主病変があるde Quervain病も存在するので注意を要する.

骨性終板による圧迫と反対側の神経根症状を呈した1例

著者: 峯牧子 ,   吉田宗人 ,   中川幸洋 ,   大宝英矢 ,   麻殖生和博 ,   南出晃人

ページ範囲:P.1227 - P.1230

 骨性終板による圧迫と反対側の神経根症状を呈した1例を経験したので報告する.症例は79歳の男性で,主訴は右下肢痛である.画像では左前方に骨性終板の突出を認めた.圧迫側進入による内視鏡下両側除圧術を施行し,両側神経根は安全に十分な除圧が得られた.右側神経根は反対からの圧迫を受け上関節突起に押しつけられていた.圧迫側と反対側の症状を認める症例を後方内視鏡下に手術を行う場合は,まず圧迫側進入で前方の圧迫を除圧した後,反対側の神経根の除圧を行うのが安全で確実な方法であると考えられた.

両側アキレス腱骨化症の1例

著者: 津田晃佑 ,   平林伸治 ,   白隆光 ,   冨澤英明

ページ範囲:P.1231 - P.1235

 両側アキレス腱骨化症の1例について報告する.症例は55歳の男性で,両側先天性内反足の手術加療歴があった.歩行困難を主訴とし,両側下腿後面に骨性隆起を触知した.超音波検査および単純X線像にて両側アキレス腱実質内に骨化像を認めた.MRIではT1強調画像で高信号,T2強調画像でやや高信号を呈した.現在は保存加療にて経過観察中であるが,腱断裂や骨化部骨折の発生に注意を要する.

アミトリプチリンが有効であった両肩後面・両臀部・両大腿後面における診断不能の慢性痛の1例

著者: 戸田克広

ページ範囲:P.1237 - P.1240

 線維筋痛症(FM)に類似しているがFMの診断基準を満たさない診断不能の慢性痛にアミトリプチリンを投与すると疼痛が消失し,治療中止後1年1カ月が経過しても疼痛は消失したままであった.アミトリプチリンは頭痛を除く神経因性疼痛に最も有効な薬物と考えられている.しかも,日本で使用できる薬物の中でFMに有効である証拠の最も強い薬物でもある.FMに類似の疼痛を訴える患者が通常の治療に反応しない場合には,FMと同じ治療が選択肢となり得る.FMの治療に精通していれば,診断不能の慢性痛も治療可能である.

尺骨遠位部に発生した類骨骨腫の1例

著者: 成田亜矢 ,   伊藤和生 ,   井上林 ,   小山内俊久 ,   土屋登嗣 ,   高原政利 ,   荻野利彦

ページ範囲:P.1241 - P.1245

 非典型的な症状で発症した尺骨遠位部の類骨骨腫の1例を報告する.われわれが経験した類骨骨腫は,自発痛・夜間痛に乏しく,持続する腫脹・圧痛および前腕の回外制限が特徴的であった.nidusを含んだ骨組織を一塊として切除し,人工骨の移植を行った.術後5カ月で前腕の腫脹・圧痛,および可動域制限は消失した.

犬との過度の接触が原因と考えられたPasteurella haemolyticaによる頚椎化膿性脊椎炎の1例

著者: 町野正明 ,   湯川泰紹 ,   伊藤圭吾 ,   堀江裕美子 ,   飛田哲朗 ,   加藤文彦

ページ範囲:P.1247 - P.1250

 今回われわれはPasteurella haemolyticaが原因と考えられた頚椎化膿性脊椎炎の1例を経験したので報告する.患者は52歳の男性で,頚部痛と右上肢痛を主訴に受診し,単純X線とMRIから化膿性脊椎炎が疑われ入院となった.椎間板針生検を施行し,Pasteurella haemolyticaが検出された.抗生剤の投与および安静臥床治療で症状は軽快した.本症例ではペットである犬との過度の接触が感染経路として考えられた.

軽微な外傷で生じた踵骨骨棘の裂離骨折を合併したアキレス腱断裂の1例

著者: 名越豊 ,   青木裕一

ページ範囲:P.1251 - P.1253

 踵骨裂離骨折を合併したアキレス腱断裂は,稀とされている.われわれは,軽微な外傷で生じたアキレス腱断裂に踵骨骨棘裂離骨折を合併した症例を経験したので報告する.本症例は,約1mの段差から降りた際に疼痛と歩行困難を認め,X線写真でアキレス腱断裂部に小骨片が認められた.手術所見では,小骨片を付着させた浅層部が短縮し,深層部で横断裂が認められた.術後6カ月において可動域制限,再断裂・骨折は認められていない.一時的に浅層部を介した牽引力が踵骨骨棘に働いたため裂離骨折を生じ,同時に深層部に収縮力が働いたため横断裂が起こったと考えられる.

書評

運動器の痛み診療ハンドブック―山下敏彦●編集 フリーアクセス

著者: 米延策雄

ページ範囲:P.1201 - P.1201

 「人の痛みがわかる」.何気なく聞き流せば,もっともな慣用句である.しかし,アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』風に解説すれば,「医療従事者や政治家がしばしば口にする枕詞のひとつ.後ろに医療,教育あるいは政治などの言葉が続く.深い意味を持たない.マスコミ関係者は否定形を先の言葉に付け,罵りの意味を持たせる」とはならないか.感覚は生理学・解剖学の領域にあるが,知覚は精神・心理の領域にあり,したがって,「痛み」は極めて個人的であり,当然ながらわかり難い.それでも情緒の関係の中で,痛みの訴えを聞けば,それを傾聴し同情することで痛みをみる.しかし,医学の知識を持つわれわれは,痛みの訴えを解剖学,生理学の切り口からアプローチする.そして,ときにこのレベルで終わる.だが痛みを訴える患者は,検査を求めているのではなく,痛みに苦しんでいることをわかって欲しいのであり,ヘルニア摘出を求めているのではなく,手術をしてでも苦痛をなくして欲しいのである.

 本書の編者はシュバイツァー博士の言葉“「痛み」は,人間にとって「死」そのものよりも恐ろしい重圧である”を引いて,痛みの治療の重要さを強調している.運動器疾患の症候の多くは「痛み」である.しかし,機能の評価に重きを置いて,計れない「痛み」をしばしば軽んじていることはないだろうか.『運動器の痛み診療ハンドブック』〔山下敏彦(編)南江堂〕は整形外科における痛みの診療,そして研究の重要さを深く認識した医師が設立した「整形外科痛みを語る会」のメンバーが中心となって執筆されたものである.

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あとがき フリーアクセス

著者: 菊地臣一

ページ範囲:P.1260 - P.1260

 旧暦9月13日,十三夜の月をみて「月みれば千々に物こそ悲しけれ我が身ひとつの秋にはあらねど」(大江千里)が,我が身のこととして感じられるほど“老い”を感じる年齢になってしまいました.教授就任以来約20年が経過し,その間,雑誌の論文査読,あるいは本や雑誌の企画・編集で多くの経験を積み重ねました.その結果,“文は人なり”を実感しています.

 査読,書評,そして批評には“他人の文章を借りて自分を語る”という一面があります.私自身は,和文の査読には,international quality journalのそれとは異なり,教育という側面もあるべきであることを意識しています.それは,critical reviewとは自ずと異なります.このような査読の立場が妥当かどうかはともかく,私にはそう考えるに至った原体験があります.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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