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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科42巻2号

2007年02月発行

雑誌目次

視座

「格差医療」を生まない,生ませない国家政策と国民の意志を

著者: 竹嶋康弘

ページ範囲:P.99 - P.100

 医療は医学の応用とも言われます.したがって,国民が良質で安全な医療を受け得るためには,言うまでもなく,先端医学の発展とともに限りない医術の進歩が不可欠であります.そしてその秀れた医学,医術の成果をすべての国民が等しく享受できるためにその有効性や安全性が確認された先端医学・医術をわが国が世界に誇る「国民皆保険制度」の中に逐次組み込んでいくことが必要であります.しかしながら,ご承知のように,昨年からの前小泉政権下の財政主導の医療制度関連改革,健保法一部改革は専ら公的給付の削減をのみ図ろうとしたものであり,国民の生命や安心・安全な生活の確保を企図したものではありません.公的給付を抑えるかわりに,保険免責制の導入や,患者負担,個人および世帯負担を増やすことで,厚生労働省が試算した,高齢化や医療技術の進歩に伴う医療費の自然増に対応しようとするものです.私達医療人は,当然ながら国民の中に医療への受療格差を生むものとしてこれに強く反対しています.

 政府は経済財政の構造改革こそが日本経済に活力を与え,グローバリゼーションによる国際競争力を高めるとしてこれを推し進めてきました.そしてその結果,このことが,国内において企業間格差,個人の所得格差,地域格差など,かつてない社会の格差を広げ,しかもそれが固定化しつつあることが問題です.

論述

上殿皮神経の解剖学的研究―採骨時神経損傷の予防

著者: 茂呂貴知 ,   菊地臣一 ,   紺野慎一 ,   青木良仁

ページ範囲:P.101 - P.104

 解剖実習用の遺体標本を用いて上殿皮神経の走行を肉眼的に観察し,後方腸骨移植骨採取における安全域を調査した.上後腸骨棘から上殿皮神経最内側枝が腸骨稜を乗り越える位置までの距離は平均4.02cm,最小値3.0cmであった.また,上殿皮神経最内側枝は靱帯組織下を走行している症例が多く,その場合,靱帯表層上を通過する神経よりも内側を通過する.しかし,両者間の差は約5mmにすぎず,両者の最小値はいずれも3.0cmであった.以上の結果から,上殿皮神経を損傷せずに採骨するための安全域は,上後腸骨棘から腸骨稜に沿う3cm以内である.

イホスファミド脳症に対するメチレンブルーの治療的・予防的効果―骨軟部肉腫に対する化学療法での検討

著者: 田地野崇宏 ,   菊地臣一 ,   紺野慎一 ,   山田仁 ,   武田明

ページ範囲:P.107 - P.114

 骨軟部肉腫の40例に行われたイホスファミド併用化学療法120コースを対象に,イホスファミド脳症の頻度,重症度,および危険因子を調査した.また,メチレンブルーの脳症治療・予防効果についても検討した.脳症は,16例(40%),28コース(23.3%)に生じた.症状は,「傾眠」,「錯乱」,「気分変動―興奮」が多かった.重度の脳症はイホスファミドが9g/m2以上投与された時に生じた.シスプラチンの投与歴が脳症の有意な危険因子であった.メチレンブルーの治療効果は明らかではなかったが,予防効果が示された.

Myelopathy handの病態―動画記録15秒テストを用いた観察

著者: 細野昇 ,   坂浦博伸 ,   向井克容 ,   藤井隆太朗 ,   吉川秀樹 ,   海渡貴司 ,   冨士武史

ページ範囲:P.115 - P.122

 頚髄症患者と健常者を対象に最大努力での手指握り開き運動を15秒間動画記録して比較観察した.手指握り開きに伴って極端に手関節が背掌屈するtrick motionは健常群(4.8%)に比して頚髄症(11.7%)で有意に多かったが,手指をより完全に伸展させようとする意識が強い場合に生じる随意運動であると推察された.指のばらつき(uncoordinated finger motion)も健常群(7.1%)に比して頚髄症(15.6%)で有意に多く,多くは尺側遅れのパターンであった.指のばらつきは頚髄症に伴う麻痺の形態を示しているものと推察されたが,脊髄圧迫高位で説明することはできなかった.

最新基礎科学/知っておきたい

コンドロイチナーゼABC(C-ABC)―椎間板ヘルニア,脊髄損傷治療への応用

著者: 池上健 ,   田中昭臣 ,   中村雅也 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.124 - P.128

■はじめに

 コンドロイチナーゼABC(C-ABC)は,グラム陰性桿菌の一種であるProteus vulgarisから分離・精製された酵素29)であり,コンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカンを分解する活性を有している.グリコサミノグリカンは,コアプロテインに共有結合してプロテオグリカンの形をとり,コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)などと呼ばれる.ある種のCSPGのコアプロテインは,ヒアルロナンに結合して巨大な会合体を形成し,その著しく高度な親水性のために分子中に多くの水分子を保持する.その性質が椎間板内髄核の圧縮的衝撃力の吸収作用の基となっている.C-ABCは髄核のグリコサミノグリカンを分解することによってその高い保水力を減弱させうることから,椎間板ヘルニアにおいて椎間板内圧を低下させる目的で臨床応用が期待されている.また,CSPGは神経軸索の伸展阻害効果があり,損傷後の脊髄に強く発現している.C-ABCはそのCSPGを分解することにより,損傷脊髄において軸索再生を促進する目的で脊髄損傷治療への応用が期待されている.

整形外科/知ってるつもり

運動器不安定症

著者: 戸山芳昭

ページ範囲:P.130 - P.132

■未曾有の高齢化現象

 2006年現在,わが国の65歳以上の高齢者は実に2,640万人となり,これは全国民の20%,5人に1人の割合である.この高齢者比率はアメリカ,カナダ,そしてフランス,ドイツ,最後にイタリアを抜いて遂に世界一となった.さらに10年後には何と3,300万人,実に4人に1人が高齢者になると推定されている.また,75歳以上の超高齢者の割合も10%を超えている.その反面,15歳以下の小児の比率は13%と完全な少子化時代に入っており,当然,生産年齢人口の激減が予想されている.このように年齢分布でみる限りわが国は超スピードで高齢化現象が進んでおり,その対策が急務である.

 その実態は医療費にも顕著に現れており,老人医療費が12兆円,そして介護給付が6兆円を超え,医療関連費の50%弱が高齢者医療に費やされているのが現状である.2000年4月からスタートした介護保険制度も,当初の総対象者数は218万人で,介護の軽い要支援と要介護1が84万人であった.その総給付費は3兆6千億円であったが,2006年3月時には総対象者数が456万人に,そして要支援などの軽度要介護者は224万人と急増し,その結果,総給付費は6兆5,000億円まで膨れ上がり,医療財政が大きく圧迫されている状況となった.このため,急遽2006年4月から介護保険制度は見直され,軽度の要介護者は介護給付から離されて予防給付として対応することになった.

連載 確認したいオリジナル・2

忘れられたEichhoffテスト

著者: 鳥巣岳彦

ページ範囲:P.133 - P.133

 Eichhoffテストは狭窄性腱鞘炎に特異的な診察手技である。多くの教科書には「患者に,母指を手掌内に入れるように他の指でしっかりと握りしめさせる。そして,手関節を強く尺屈させると橈骨楔状突起部に疼痛が生じる。これをFinkelsteinテストと呼ぶ」と記載されている。“これは記載間違いでありFinkelsteinの報告ではない”と本誌の誌上シンポジウム(2006)でも再び指摘された。

 Finkelsteinの報告より3年前のEichhoffの原著(1927)を抜粋する。その原著には「さらに,手関節を尺屈させた状態を維持したままで母指を伸展させると痛みは瞬時に消失する」とも記載されており,この診察手技もEichhoffテストに含める必要がある。

臨床研修医のための整形外科・2

肩関節疾患

著者: 高橋正明

ページ範囲:P.134 - P.141

 肩関節疾患に関しては,診察室に入る前に研修中の先生は6つの疾患について勉強してください.

 その前に解剖について最低限覚えてほしい内容を書きます.

国際学会印象記

First Musculoskeletal Infection Section Meeting, Asia Pacific Orthopaedic Association(APOA)に参加して

著者: 福田章二

ページ範囲:P.142 - P.143

 2006年8月25日より27日までの3日間,インドで開催された1st Musculoskeletal infection Section Meeting, Asia Pacific Orthopaedic Association(APOA)に参加する機会がありました.開催地としてのめずらしさだけでなく,感染症の宝庫と呼ばれるインド国内の骨軟部感染症治療,成績について非常に進歩している現状を知りましたのでお伝えしたいと思います.

 今回の学会はインドの首都ニューデリーから東南へ約600kmにあるカジュラホ(Khajuraho)という村で開催されました.周囲数百キロに大きな町もなく,現在は辺鄙な村にすぎませんが,9~13世紀に北インドを支配したチャンデラ王朝の首都として栄えた所です.最盛期には85の寺院がありましたがイスラム教徒などによる廃仏毀釈により,現存するのは20余りの寺院です.寺院の外壁に彫られた官能美あふれるミトゥナ像(男女交合像)の彫刻が世界的に有名で,寺院群は世界遺産に指定されています.そのため,田舎にもかかわらず,比較的設備の整ったホテルが多くあり,欧州各国や韓国,台湾などの外国人観光客が多いようです.それでも交通の便は至極悪く,ニューデリーからはガンジス川の沐浴で有名なベナレスを経由する1日1便の小さな飛行機しか飛んでいません.あいにく渡航前,インド最大の都市ムンバイで約200名が犠牲となる同時多発列車爆破テロがあり,3割ほどしか席が埋まらない飛行機に乗り,無事に帰国できるか不安とともにインドへの旅路となりました.

臨床経験

骨傷のない頚髄損傷の予後調査

著者: 井ノ口崇 ,   吉川一郎 ,   中間季雄 ,   星野雄一

ページ範囲:P.145 - P.148

 骨傷を伴わない頚髄損傷の予後調査を行い,狭窄因子が予後に及ぼす影響を調べた.骨傷のない頚髄損傷17症例を対象とし,手術治療の有無,MRI上狭窄の有無,神経症状などについて評価した.全17例中,手術例7例を含めた15例が退院時には狭窄がなく,そのうち11例(73%)において神経症状の改善が得られていた.また,狭窄があり,かつ保存的治療のみを受けていた2例では麻痺症状が悪化していた.当院では,狭窄のある患者には受傷後2週頃に積極的に除圧手術を行っており,試みてよい治療法である.

小皮切手根管開放術の治療成績

著者: 森澤妥 ,   児玉隆夫 ,   藤田貴也 ,   加藤匡裕 ,   長島正樹

ページ範囲:P.149 - P.153

 目的:特発性手根管症候群に対する小皮切開放術の成績を報告する.対象・方法:対象35例38手,性別男性8例,女性27例,年齢平均61歳であった.術前浜田分類でGrade Ⅰ 7手,Ⅱ 28手,Ⅲ 3手であった.検討項目では成績を浜田基準で,自覚症状をVASで評価した.結果:Grade Ⅰ ではGood 4手,Fair 3手,Grade Ⅱ ではGood 25手,Fair 3手,Grade Ⅲ ではGood 2手,Fair 1手でありPoorの症例はなかった.合併症はなかった.考察:本術式は手技が容易で安全,確実であり,直視下に神経の除圧を確認することが可能など有用と考えられた.

鏡視下肩峰下除圧術後における腱板断裂の経時的な変化―第2報 MRIによる前向き検討

著者: 宍戸裕章 ,   菊地臣一 ,   紺野慎一

ページ範囲:P.155 - P.159

 腱板完全断裂に対する鏡視下肩峰下除圧術(ASD)の術後における腱板長軸方向と短軸方向における断裂の大きさの経時的変化と症状との関連を検討した.術前,術後6カ月,および術後2年にMRIを撮像した.さらに,MRI撮像時における治療成績を調査した.ASD術後2年において,腱板の長軸方向で7肩(27%),短軸方向で6肩(23%)に断裂の拡大が認められた.断裂拡大による疼痛や可動域の悪化は認められなかった.しかし,腱板短軸方向の断裂が拡大している症例では,JOAスコアの機能項目は低下していた.

症例報告

強皮症における脛骨顆部Insufficiency fractureの1例

著者: 阿部智行 ,   小竹森一浩 ,   寺田信樹 ,   小宮浩一郎 ,   加藤慎一

ページ範囲:P.161 - P.165

 強皮症における𦙾骨顆部insufficiency fractureの1例を報告する.症例:68歳の女性.既往で強皮症のためステロイドが投与されていた.誘因なく右膝関節痛を生じ,初診時単純X線写真で𦙾骨顆部陥没骨折を認めた.強皮症による難治性の皮膚潰瘍があったため,保存的治療としたが,関節破壊が進行したため,人工膝関節置換術を施行した.術後10カ月現在で疼痛はなく,経過良好であった.結語:ステロイド性骨壊死がみられた𦙾骨顆部にinsufficiency fractureを生じ,診断と治療に難渋した強皮症の1例を経験した.

乾燥イカ菓子の多量摂取が原因と考えられたサルモネラ化膿性脊椎炎の1例

著者: 石神修大 ,   吉田宗人 ,   川上守 ,   橋爪洋 ,   中川幸洋 ,   木岡雅彦

ページ範囲:P.167 - P.170

 今回われわれはSalmonella agonaが原因と考えられた化膿性脊椎炎の1例を経験したので報告する.患者は13歳の女児,2004年1月頃から時々腰痛を自覚していた.2004年4月に階段を登っている際に激しい腰痛が出現し,立位保持が困難になったために当院に救急搬送された.化膿性脊椎炎の診断で入院し,椎体生検を施行しSalmonlla agonaが検出された.抗生剤の投与および安静臥床治療で症状は軽快した.本症例では乾燥イカ菓子を多量摂取していた習慣があり感染経路として考えられた.

骨棘により臨床症状を呈した高齢者タナ障害の1例

著者: 後藤昌子 ,   熊谷純

ページ範囲:P.171 - P.175

 変形性膝関節症による骨棘が膝蓋内側滑膜ヒダ(タナ)に衝突(インピンジメント)し,障害を呈した症例を経験したので報告する.症例は66歳の女性.右膝痛を主訴に受診した.右膝蓋骨内側に索状物を触れ,同部に圧痛があった.痛みで端坐位で内旋位での膝伸展ができなかった.単純X線像で大腿骨内外側顆に骨棘があり,MR像で内側顆に丸く張り出した骨棘に接するタナを認め,鏡視で屈曲時にタナが骨棘に衝突(インピンジメント)し緊張することが確認できた.鏡視下にタナを中央部で切離し,症状は軽快した.

内視鏡下に切除した腰椎椎間関節囊腫の経験

著者: 三浦一人 ,   河路洋一 ,   幸田久男 ,   佐野敦樹

ページ範囲:P.177 - P.181

 脊柱管内囊腫性病変のうち椎間関節近傍に発生する囊腫はこれまで様々な呼称での報告がある.今回椎間関節造影で交通が確認でき,再現痛のあった3例を腰椎椎間関節囊腫と診断して内視鏡下に切除した.全例神経根症状を呈し,術後に軽減,もしくは消失した.術後平均16カ月の現在,不安定性の進行や症状の再発を認めない.

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あとがき フリーアクセス

著者: 荻野利彦

ページ範囲:P.188 - P.188

 昨年末は北朝鮮の核保有,拉致問題などをめぐって6カ国協議が行われましたが具体的な議論はほとんど進まなかったようです.国内では,ノロウイルスによる感染が全国的に猛威をふるっています.松坂選手のボストンレッドソックスへの移籍,ガンバ大阪の宮本選手のザルツブルグのチームへの移籍などプロスポーツ選手の国外流出が盛んに報告されています.少し寂しい気もしますが,大活躍を期待しています.

 話は変わりますが,論文が雑誌に掲載されるまでにはいくつかの過程を経る必要があります.その中で査読とそれに対する著者とのやり取りは論文の質を高めるために必要な作業です.論文を査読させていただいて気になることがあります.それは,長い文で記述されており,その文の始めと終わりで主語が変わることです.文章を書くことが上手な人はとかく長い文を書きがちです.国語が苦手な人でも,他の人が読んで内容がよく理解できる文章を書くことはそれほど難しくないように思います.論文を書き上げた後で投稿規定に沿って論文が書かれているか,主語と目的語が明確であるかなどを著者が読み直して投稿するだけで,査読で指摘される項目は随分減るのではないかと思います.いったん掲載されてしまうと論文は一人歩きします.したがって,査読は論文が一人歩きする前の大事な作業です.査読とそれに対する著者とのやり取りにより著者が苦労して育てた論文に磨きがかかります.本誌には読者の声,本誌へご意見・ご要望のための綴じ込みハガキが入っています.あまり多くは利用されていないようですが,このことで著者と査読者は読者の批判を一緒に受けることになります.最近流行の外部評価に相当するのでしょうか.著者が育てた論文が旨く一人歩きできるよう支援しようと思っております.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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