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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科42巻4号

2007年04月発行

雑誌目次

誌上シンポジウム 関節軟骨とヒアルロン酸

緒言 フリーアクセス

著者: 守屋秀繁

ページ範囲:P.302 - P.302

 変形性膝関節症に対し,ヒアルロン酸の関節内注射が臨床応用されてから約20年が経過した.現在では保存的治療法に欠かせない薬剤として,確固たる地位を築いている.われわれ整形外科医が注射薬として使用している間に,ヒアルロン酸は化粧品,食品に使用されるようにもなってきており,世間的な知名度も上がってきた.化粧品としては,高い保水能力によりお肌がすべすべになるという説明はわかりやすいように思うが,関節軟骨に対する作用となると,20年も付き合ってきているが,一体どういった作用を有する物質なのであるかという点についてはなかなか一言で説明できるものではない.当初はそのすぐれた粘弾性により関節運動を潤滑にする作用があると考えられていたが,次第に抗炎症作用のあること,内因性のヒアルロン酸の合成を高めること,などが明らかにされてきた.最近では軟骨のアポトーシスを抑制する効果のあることなどもわかってきている.

 そこで今回はヒアルロン酸研究の現状を,本物質のもつ生物学的活性や特性に関して基礎的な研究に取り組む研究者に,各々の研究の成果を述べていただくこととした.そのため必然的に多面的な内容となり,まとまりのない感は否めないが,今回各研究者が示された結果はヒアルロン酸の多様な活性を示しており,読者のヒアルロン酸に対する理解を深めるものである.

ヒアルロン酸の抗酸化作用

著者: 橋本和喜 ,   福田寛二 ,   浜西千秋

ページ範囲:P.303 - P.306

 関節症は,整形外科領域において最も頻度の高い疾患の1つである.本疾患は関節軟骨を中心とした関節構成体における退行性および増殖性病変の混在を特徴とする慢性かつ進行性の疾患である.その原因として,生化学的あるいは生体力学的メカニズムが関与することが示唆されているが,その細胞レベルでの詳細は不明な点が多い.

 臨床の場において,関節症に対しヒアルロン酸の関節腔内注入療法が広く行われており,疼痛の軽減効果が示されている.この効果発現の機序の1つとしてヒアルロン酸の抗酸化作用があげられる.本稿では,活性酸素に対するヒアルロン酸の抗酸化作用について検討した.

軟骨細胞ヒアルロン酸阻害モデルにおける回復過程解析

著者: 西田佳弘 ,   石黒直樹

ページ範囲:P.307 - P.311

 ヒアルロン酸は単純な構造でありながら多種多様な生物学的活性を有し,変形性関節症においても外来性高分子ヒアルロン酸投与は以前より保存治療の中心的存在である.しかし関節軟骨細胞自身がヒアルロン酸をどのように産生し,また再生時に他分子発現といかに関係しながら正の方向に向かうかは明らかになっていない.ヒト軟骨細胞を用いて,ヒアルロン酸の阻害モデルを作成し,その回復過程におけるヒアルロン酸合成酵素,アグリカン,CD44の動きを解析することで,細胞周囲マトリックス形成にこれらの分子が重要な役割を果たしていることが明らかとなった.今後様々な環境下におかれている軟骨細胞に対して同様な評価をすることでマトリックス形成潜在能力を推測できる.

ヒト幹細胞を用いた3次元培養組織の軟骨分化における力学刺激とヒアルロン酸

著者: 中田研 ,   室井悠里 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.313 - P.318

 ヒト滑膜由来培養幹細胞を用いて,コラーゲンスキャフォールドとともに3次元培養組織を作製し,力学刺激を繰返し与えることで軟骨分化を示す.この軟骨分化の系にヒアルロン酸を培養液中に添加することで,軟骨分化マーカーであるⅡ型コラーゲン,アグリカン遺伝子発現が,より早期からみられることがわかった.このことは,ヒアルロン酸は,組織工学を用いた再生医療において,in vitroで培養組織の軟骨分化を促進することが示唆されたのみならず,in vivoでの未分化な幹細胞からの軟骨修復や,細胞移植を用いた軟骨修復において,また体内での力学刺激環境下において軟骨修復を促進する可能性も示すものであり,ヒアルロン酸の新たな有効性を検討するうえで意義深いと考える.

関節マーカーによるヒアルロン酸注入療法の有効性予測

著者: 山田治基 ,   金治有彦 ,   杉本春夫 ,   伊達秀樹 ,   市瀬彦聡 ,   前原一之 ,   早川和恵 ,   中川研二

ページ範囲:P.321 - P.326

 ヒアルロン酸(HA)の関節内注入療法は,本邦では約20年の臨床経験が蓄積されており,膝OAに対する代表的な保存療法の1つである.HA特有の副作用は少ないが,関節穿刺という侵襲を伴うので,どのような患者に有効性が高いかは臨床上,重要である.また本法による臨床効果の改善率が30%以下のnon responderは全体の34%ほど存在するので,無駄な医療行為を避けるためにも本法の有効性を予測することが必要である.注入前の関節液中マーカーと臨床症状改善の関係を検討したところ,注入前のHA結合型アグリカン濃度と1カ月後の膝スコアの改善度は正の相関を認めた.この結果は軟骨が残存し,その軟骨組織が活発に代謝している症例で本法の有効性が高いことを示している.血中マーカーであるcartilage oligomeric matrix protein(COMP)と臨床症状改善の間には有意な関係は認められず,HA注入療法の有効性予測には関節液マーカーが血清マーカーより有用であった.

急性関節炎モデルにおけるヒアルロン酸の線維化抑制効果

著者: 関矢一郎 ,   張勃 ,   宗田大

ページ範囲:P.327 - P.332

 カラギーナンを関節内投与することで炎症を起こし関節線維化を生じるか,さらにヒアルロン酸の投与により関節線維化を抑制できるか,その場合どのような機序によるものかを検討した.ラットの両膝にカラギーナンを関節内投与し,1週ごとに右膝にヒアルロン酸,左膝に生食を関節内投与し,4週まで免疫組織学的に評価した.またヒトおよびラットの滑膜細胞を用いてin vitroの解析も行った.カラギーナンを関節内投与すると膝蓋下脂肪体の線維化が進行した.ヒアルロン酸の投与は関節線維化を抑制し,マクロファージの遊走抑制,IL-6産生抑制,TGF-β産生抑制,α smooth muscle actin陽性細胞の抑制という多彩な作用が示された.臨床の場において関節線維化が危惧される際に,ヒアルロン酸の投与は予防法の1つになる可能性がある.

検査法

頚髄症患者における10秒テスト再テスト信頼性

著者: 海渡貴司 ,   細野昇 ,   坂浦博伸 ,   向井克容 ,   冨士武史 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.335 - P.338

 術後合併症なく経過した圧迫性頚髄症患者37名を対象に10秒テストの再テスト信頼性を検証した.術後6カ月と12カ月でJOAスコアに有意な変化はなく,神経症状は一定と仮定した.術後6カ月の10秒テストは右26.0±6.1,左25.7±5.9,術後1年で右25.9±5.8,左26.4±5.9であり,級内相関係数は0.74~0.84で,再テスト信頼性は高かった.健常者に比較すると多数回検査(慣れ),治療意欲などの理由により頚髄症患者における10秒テスト再現性は高いものと考えられた.

境界領域/知っておきたい

Sentinel Node Navigation Surgery

著者: 竹内裕也 ,   北川雄光 ,   北島政樹

ページ範囲:P.340 - P.343

はじめに

 近年,固形癌に対する外科治療において,リンパ節郭清の縮小・省略を目指した低侵襲・機能温存手術として,sentinel node navigation surgery(SNNS)が注目されている.Sentinel node(SN)とは,腫瘍原発巣から直接リンパ流を受けるリンパ節のことであり,最初のリンパ節微小転移が発生する場所と考えられている(SN理論)(図1).さらに,もしSN理論が正しければ,SNにリンパ節転移がなければその他のリンパ節転移は生じていないと判断することができ,SN以外のリンパ節郭清は不必要となる.

 SNNSとは,このSNの分布(SN mapping)とSN生検による転移の有無を指標として,リンパ節郭清を個別的に縮小ないし省略し,それに伴って切除範囲を最小限とすることを目的とした手法である.

 悪性黒色腫,乳癌で始められたSNNSは,今や消化器癌などにもその適応が拡大し,臨床応用が模索されている.すでに悪性黒色腫や乳癌では,SN理論の妥当性,臨床的有用性が実証され1,5),SN転移診断に基づく個別化縮小手術が実践されている.

整形外科/知ってるつもり

生物学的製剤のリウマチ患者への適応

著者: 天野宏一 ,   竹内勤

ページ範囲:P.344 - P.347

関節リウマチの治療:最近の考え方

 関節リウマチ(RA)は,従来考えられていたような慢性の進行性疾患でなく,薬物療法によってコントロールし進行を抑えることができる疾患である.したがって治療の基本姿勢として,診断後できるだけ早期に適切な薬物療法,すなわち抗リウマチ薬(DMARD)による治療を開始し,「骨破壊・関節変形の進行抑制」をめざさなければならない.臨床的には,当面は関節痛や関節の腫れをなくし,炎症反応が正常(血清CRP陰性または赤沈正常)となる「寛解」を目指す.したがって,RAの診断後に非ステロイド抗炎症薬(NSAID)を長く使い続ける,従来のピラミッド式治療の考え方は誤りであり,2002年にアメリカリウマチ学会が出したガイドライン(図1)でも,診断後早期にDMARDを使用すると明記されている1).さらに,メトトレキサート(MTX)を少なくとも2番目のDMARDとして使用する.すなわち1つのDMARDが無効なら次にMTXを考慮する.

 しかしMTXを使用しても寛解になるのは半分以下であり,臨床的に改善したと思われる症例でも,骨破壊の進行は完全には阻止できない.このようなMTXの効果不十分例に対し,生物学的製剤は臨床的に寛解に導くだけでなく,骨破壊の進行をほぼ完全に阻止し,小さな骨びらんを修復さえする画期的な作用を有する(図2).今後,MTX無効例のみならず,早期RAの初期治療に生物学的製剤を使用し,骨破壊を最小限にとどめる治療が期待される.

座談会

整形外科女性医師の就業支援

著者: 富田勝郎 ,   奥山訓子 ,   池渕香瑞美 ,   増田理亜子

ページ範囲:P.349 - P.356

 総医師数26万人中で女性医師は約16%を占め,また医師国家試験合格者ではここ数年女性が3割を越え,女性医師の増加傾向が示された(2004年発表の厚生労働省調査).

 しかし,医師として充実を迎える時期と,妊娠・出産・子育てなど女性のライフサイクルの変化とが重なり,第一線を退く女性医師も少なくない.

 そのような中,昨年の日本整形外科学会では整形外科女性医師の働き方をテーマとしたパネルディスカッションが企画され,熱心に議論されたのは記憶に新しい.

 そこで本座談会では,整形外科の女性医師が働くうえでの環境づくりや家庭と仕事とのの両立など様々な課題を探っていただいた.

連載 確認したいオリジナル・4

Scarpa三角(femoral triangle 大腿三角)の境界は?(その2)

著者: 鳥巣岳彦

ページ範囲:P.357 - P.357

 Antonio Scarpa(1752~1832)は偉大なイタリアの解剖学者兼外科医である.鼡径部のヘルニアに関する著書(1811年)“Memoriae anatomico-chirurgicae”にScarpa三角の記載があると聞き,天児民和先生の論文の挿図を拝借した(図3).Scarpaはこの部分のくぼみを自ら“Scarpa三角”と命名している.

 幸い,Gray's Anatomyの1858年の初版本でScarpa三角の記載が確認できた.この時点では,“Scarpa三角とは鼡径靱帯と縫工筋と長内転筋で囲まれた三角形状のくぼみである”との大まかな表現となっている.femoral triangleという用語は見当たらない.

臨床研修医のための整形外科・4

膝関節疾患

著者: 照屋徹 ,   高橋正明

ページ範囲:P.358 - P.364

 通常の外来診療において比較的よく遭遇する疾患について取り上げています.したがって,本稿では救急室で取り扱う外傷性疾患は割愛しておりますのでご了承ください.これから整形外科を志す研修医向けの診断を進める大まかな指標であり,あくまでも代表的な疾患のみを取り扱っていることを念頭に置いてください.

臨床経験

関節リウマチにおける上位頚椎病変に対する後頭骨頚椎間固定術の治療成績

著者: 小圷知明 ,   石井祐信 ,   中條淳子 ,   両角直樹 ,   星川健 ,   小川真司

ページ範囲:P.365 - P.369

 関節リウマチにおける上位頚椎病変に対して後頭骨頚椎間固定術を行った44例(手術時平均年齢65歳)の治療成績を調査した.術後累積生存率は術後5年で79.8%,死亡時平均年齢は71歳であった.術後全例に痛み・脊髄症の改善を認めた.骨癒合率は91%で,偽関節例の1例で脊髄症が増悪し再手術を要した.術後中下位頚椎病変の発生による再手術率は12.5%で,特に後弯位固定例の治療成績が不良だった.本法施行例の生命予後・機能予後は良好で,脊髄症や保存的治療に抵抗性の後頭部痛に対しては積極的に手術を行ってよい.

踵骨アキレス腱付着部裂離骨折の治療経験

著者: 中山政憲 ,   川島秀一 ,   野尻賢哉 ,   細金直文 ,   八木満 ,   山本さゆり ,   關美世香 ,   野村栄貴 ,   木原未知也 ,   堀内行雄

ページ範囲:P.371 - P.374

 アキレス腱付着部踵骨裂離骨折の7例を経験した.年齢は46~83歳(平均61.5歳),男性4例,女性3例であった.受傷原因は転倒4例,転落2例,交通事故1例であった.うち5例を手術的に,2例を保存的に加療した.手術例では3例に術後再転位が,1例に皮膚潰瘍・壊死がみられたがいずれも保存的に経過良好であった.疼痛の残存はなかった.これに対し保存例では2例ともに骨癒合はみられたが疼痛が残存した.術後の再転位ならびに皮膚壊死予防のため正確で確実な整復・固定が必要と考える.

環軸椎不安定症に対するmesh plate併用後方固定術の経験

著者: 石神修大 ,   川上守 ,   安藤宗治 ,   橋爪洋 ,   南出晃人 ,   吉田宗人

ページ範囲:P.377 - P.381

 環軸椎不安定症に対する後方固定術として,mesh plateを併用したMagerl法を施行した3症例を経験した.対象は男性3例であり,不安定症の原因は歯突起骨折後の偽関節が2例,歯突起骨折に対しての前方螺子固定術後の歯突起の転位が1例であった.後方固定術としてMagerl法に併用して,腸骨から採取した自家骨をmesh plateを用いて後方から圧着した.全例で術後頚部痛は消失し,良好な骨癒合が認められた.Mesh plateを併用した骨移植術は,環軸椎固定術の後方骨移植術のひとつとして有用である.

症例報告

化膿性脊椎炎に合併した感染性大動脈瘤の1例

著者: 高原啓嗣 ,   山中一浩 ,   森山徳秀 ,   橘俊哉 ,   岡田文明 ,   草野芳生 ,   糸原仁 ,   吉矢晋一

ページ範囲:P.383 - P.386

 われわれはメシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染性の化膿性脊椎炎に感染性大動脈瘤を合併した1例を経験したので報告する.症例は58歳の男性で,主訴は腰下肢痛と発熱であった.入院時にはCRP 49.5mg/dl,白血球16,700μl と高値を示した.MRIにてL5/S1化膿性脊椎炎を認め,L3/4高位に径30mmの感染性大動脈瘤を合併していた.針生検術でMRSAを検出しバンコマイシンの点滴をするが効果なく,腰仙椎前方固定術施行後リネゾリドの点滴により炎症反応は陰性化した.今回われわれが経験したのは化膿性脊椎炎からの直接もしくは間接波及による感染性大動脈瘤と考えられ,化膿性脊椎炎の郭清と椎体間固定術が有効であった.

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あとがき フリーアクセス

著者: 高岸憲二

ページ範囲:P.394 - P.394

 東京では観測史上最も遅い初雪が降ったというニュースがラジオから流れていましたが,今年は暖冬で浅間山など前橋から見える山々ももう既に黒い地肌が見えています.また,桜の開花予報によると桜の開花も例年に比べて早いようです.

 最近,東京地方裁判所の判決ではうつ病で8年前に亡くなった小児科勤務医が働きすぎによる労災と認定されました.一緒に勤務していた小児科医が2人退職し,多くの責任がこの医師にのしかかってきたうえに,月8回の当直があったようです.現在でしたら立ち去り型サボタージュという選択もあったのかもしれません.新聞で紹介された開業医が,「30歳代のときは当直で起こされなかったら不完全燃焼であったが,40歳代になり,当直をして体力の限界を感じ,40歳代後半で開業の道を選んだ」と話していました.現在,大学病院や市中病院に勤務する医師への身体的および精神的負担は大変大きなものになりつつあります.この負担を緩和もしくは解決する1つの方法として女性医師の就業支援があります.医師全体のうち,女性医師は約16%を占めています.本号の座談会では整形外科の女性医師が働くうえでの環境づくりや家庭と仕事との両立などの課題を,女性医師の方々に本音で話し合っていただきました.医師不足の現在,女性医師の現場復帰が望まれていますので,大変タイムリーな企画です.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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