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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科42巻5号

2007年05月発行

雑誌目次

誌上シンポジウム 肩こりの病態と治療

緒言 フリーアクセス

著者: 高岸憲二

ページ範囲:P.396 - P.396

 肩こりで悩む国民は多く,厚生労働省国民生活基礎調査(平成16年)によると,肩こりは女性が訴える症状の第1位であり,男性でも第2位である.しかし,肩こりに対する医療者の関心は必ずしも高くない.その原因のひとつとして肩こりは症状名であり,数多くの疾患に付随する症状と考えられてきたことが挙げられる.また,肩こりを症状として呈する原因疾患が整形外科領域のみならず,内科,外科,眼科,歯科などの多くの領域にまたがっていることも,肩こりの研究を行ううえで弊害になったのかもしれない.また,たかが肩こりであり,治療の対象にならないとする考えもあるかもしれない.しかし,厚生労働省の調査によると肩こりは女性の通院者率では第4位を占めている.この誌上シンポジウムでは,現在肩こりについて活発に研究されている先生方に様々な角度からみた『肩こりの病態と治療』について執筆を依頼した.

 病態として,中村宅雄氏と村上弦氏は僧帽筋を走行する静脈で動脈に伴走しない静脈の存在,静脈弁の欠損などの他に外椎骨静脈叢への流出経路の存在を上げ,理学療法への応用を述べている.高桑巧氏と熱田裕司氏は僧帽筋の組織循環を近赤外分光法を用いて検討し,肩こり症状を有する僧帽筋では筋の収縮に伴う血流の変化は健常時と差がないが,筋の有酸素能力が低下した状態が示唆されている.篠崎哲也氏らは1,347名の看護師に対するアンケートを行い,77%と多くの看護師が肩こりを自覚し,『肩こりあり』群が『なし』群に比べて日常のストレスを多く感じていた.肩こりの特徴は長期間にわたり毎日自覚していること,半数以上が痛みを伴っていることが判明した.肩こりを有する看護師のうち,約4割がストレッチなどの軽い運動を行うことで症状を軽快するとし,他の治療法に比べて多くの看護師が有用性を感じていた.矢吹省司氏は肩こりがある群と全く肩こりのない群を比較して,自覚的な労働の大変さ,脊柱所見の有無などに有意差があり,頚椎や肩の機能障害が基盤としてあり,それに伴ってそれらの支持組織である僧帽筋に負担がかかっている状態であり,仕事のストレスが関連していることや,青壮年者の肩こりと高齢者の肩こりを比較して,肩こりの病態や効果のある治療法が年齢層により異なる可能性を示唆している.井手淳二氏は肩こりに対して肩甲骨装具を用いた運動療法のみで治療し,91%に有効性を認め,成績不良群は自律神経失調症状,精神症状の関与を述べている.

僧帽筋血管支配の特徴

著者: 中村宅雄 ,   村上弦

ページ範囲:P.397 - P.401

 ヒトの僧帽筋は肩甲骨を安定させ,肩関節の運動や肩甲骨の運動に関与する重要な筋である.僧帽筋裏面を走行する静脈は,1)動脈に伴走しない静脈が存在し,2)静脈の合流点の数は動脈の分岐点の数の1.5倍に達し,3)さらに静脈弁が欠落している,という特徴がある.また上大静脈へ流れる経路とは別に側副路として外椎骨静脈叢へ流れる経路が存在することも特徴として挙げられる.下大静脈を通る静脈還流は,腹圧や胸腔内圧の影響を受けやすいため,静脈還流が滞った際には椎骨静脈叢が重要な役割を果たすと考えられる.僧帽筋の静脈の特徴的な形態は,椎骨静脈叢の流出路であると同時に側副路であるという体幹の静脈還流上の特殊な位置付けから説明できるものと考える.また,これらの特徴を踏まえたうえで,理学療法において肩こりに関与する僧帽筋への手技の見直しが必要であり,静脈還流を促す方向へのマッサージを行うことによって,肩こりの改善を図ることができるのではないかと考える.

肩こり患者の僧帽筋組織循環

著者: 高桑巧 ,   熱田裕司

ページ範囲:P.403 - P.408

 近赤外分光法(NIRS)を用いて僧帽筋の運動負荷に伴う組織酸素化率(SdO2)の変化を評価し,肩こりの検討を行った.肩こり症状を有する僧帽筋では筋の収縮に伴う血流の変化は健常時と差がないが,筋の有酸素能力が低下した状態であることが示唆され,肩こり症状の発症に僧帽筋の循環障害が関与する可能性を支持する結果であった.また,中枢性筋弛緩薬に対して有酸素能力の低下した筋で反応性が高いことが示唆された.

肩こりの病態―アンケート調査より

著者: 篠崎哲也 ,   大沢敏久 ,   堤智史 ,   小林勉 ,   高岸憲二

ページ範囲:P.409 - P.412

 県内の病院に勤務する1,347名の看護師を対象に肩こりに関するアンケート調査を行った.調査内容は,年齢・性別・日常に感じるストレスの程度・最近1週間での肩こりの有無・肩こりが生じる部位・1日のうちで肩こりが生じる時間帯・1週間で肩こりが生じた時期・肩こりに痛みを伴うか否か・その痛みの程度・肩こりの継続期間・運動により肩こりが変化するか否か・およびその運動の種類であった.「肩こりがある」と回答した看護師は1,014名であり,「ない」と回答した333名よりも多かった.肩こりを感じる部位としては,頚部から肩甲骨内側が多く,肩周辺は少なかった.日常のストレスは,肩こりあり群のほうがなし群に比べ有意に高かった.肩こりの特徴としては,長期間にわたり毎日自覚していること,半数以上の者が疼痛を伴っていることが判明した.また,肩こり群の約4割がストレッチなどの軽い運動を行うことで症状が軽快すると回答した.

肩こりの病態―対照群との比較を中心に

著者: 矢吹省司

ページ範囲:P.413 - P.417

 肩こりの病態や概念については,いまだ不明な点が多い.本論文では,1)「常に肩こりを有する群」と「全く肩こりのない群」を抽出して,比較検討した結果から明らかになった肩こりの病態や要因,2)一般住民へのアンケートの解析からみた年齢による肩こりの病態の相違について述べる.明らかになった点は,以下の通りである.

・肩こり群と対照群の間で,明らかな相違が認められたのは,「自覚的な労働の大変さ」,「脊柱所見の有無」,「肩関節他動運動による症状誘発の有無」,そして「僧帽筋の筋硬度」であった.

・「なで肩の有無」や「MRIでの椎間板変性の有無」には,2群間で有意な差は認められなかった.

・肩こりの病態は,頚椎や肩の機能障害が基盤としてあり,それに伴ってそれらの支持組織である僧帽筋に負担がかかっている状態であり,仕事のストレスが関連している.

・青壮年群の肩こりと高齢群の肩こりでは,肩こりの病態が異なる可能性や効果のある治療法が異なる可能性がある.

肩こりの治療

著者: 井手淳二 ,   牛島史雄 ,   水田博志

ページ範囲:P.419 - P.423

 肩こりは,本態性,症候性,心因性に大別することができる.本態性肩こりの引きがねとなる危険因子として不良姿勢,運動不足による筋力低下,過労,寒冷(冬期,夏期冷房),精神的緊張,加齢,素質などが指摘されている.このなかでも大きな役割を果たしているのが不良姿勢と運動不足による筋力低下である.肩こりの病態に応じた治療,すなわち,不良姿勢の矯正と運動療法・装具療法,原因疾患の治療,心理的精神的要因の軽減を行うことにより肩こりは抑えられる.肩甲骨装具を用いた運動療法は肩こりに有用であった.成績不良要因として,自律神経失調症状,精神症状が関与していると考えられた.また,成績不良例は精神的要素でQOLに障害をきたしていた.薬物療法などによる心理的精神的要因の軽減により,治療成績はさらに向上すると考えられた.

境界領域/知っておきたい

新しい運動基準と運動指針

著者: 田畑泉

ページ範囲:P.424 - P.426

■はじめに

 平成18年(2006)7月に厚生労働省から,健康づくりのための運動基準2006―身体活動・運動・体力―(以下,運動基準,http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/undou02/pdf/data.pdf)と,健康づくりのための運動指針2006(エクササイズガイド2006)(以下,運動指針,http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/undou01/pdf/data.pdf)が発表された.これは,1989年に策定された“健康づくりのための運動所要量”を17年ぶりに改定したものである.

 運動基準は,健康づくりのための運動・身体活動および体力に関する科学的エビデンスを記載しており,身体活動・運動指導にかかわる専門家のためのものである.一方,運動指針は,運動基準において,明らかになった生活習慣病の発症予防のために必要な身体活動・運動量および体力を,一般国民が自ら学習し,身体活動量,運動量,体力を高め,自ら生活習慣病の予防に取り組むために用意されたものである.

整形外科/知ってるつもり

新介護保険制度

著者: 藤野圭司

ページ範囲:P.428 - P.431

■介護予防制度

 平成18年(2006年)4月に新介護保険制度がスタートしました.今回の改定で大きく変わったのが介護予防制度の導入です.具体的には従来の要支援,要介護1~5という6段階の介護度を要支援1,要支援2,要介護1~5の7段階としたことです.従来の要介護1の認定者のうち,認知症がなく,主として運動器障害が原因で要介護となったものの多くは要支援となりました.そして要支援1,2については従来の介護給付ではなく新たに創設された予防給付制度より費用が支払われることになりました.さらに,現在要支援に認定されなくても放置すれば要支援となる恐れのあるものを特定高齢者と認定し,地域支援事業として介護予防事業を行うことになりました(図1).また要支援者のケアプランは従来の居宅介護支援事業所ではなく,これも新設された地域包括支援センターが行うことになりました(図2).

連載 小児の整形外科疾患をどう診るか?─実際にあった家族からの相談事例に答えて・1【新連載】

先天性内反足例

著者: 亀ヶ谷真琴

ページ範囲:P.432 - P.433

 今回「小児の整形外科疾患をどう診るか?」を連載することになりました.

 近年の少子高齢化に伴う需要と供給の関係から,整形外科領域における経験と知識の偏在は避けがたい状況にあります.5年前から,千葉県こども病院のホームページを通してメール相談を行っていますが,その内容は時勢を反映し,以前であれば整形外科医の誰もが経験した先天性股関節脱臼,先天性内反足,筋性斜頚と言った代表的疾患に関する問い合わせが上位を占めています.本企画では,研修医や若い先生方が日常診療で役立てられるよう,実際のメール相談内容,標準的な回答,その解説の三本立てで進めていきたいと思っております.

臨床研修医のための整形外科・5

肘関節疾患

著者: 林俊吉 ,   照屋徹 ,   高橋正明

ページ範囲:P.434 - P.440

 診察室に入る前に研修中の先生は,次の8つの疾患について勉強してください.今回は外傷性疾患として少し小児の骨折や肘内障について説明します.

確認したいオリジナル・5

Brodie膿瘍か,Brodie骨膿瘍か

著者: 鳥巣岳彦

ページ範囲:P.441 - P.441

 日整会誌に掲載されたBrodie膿瘍に関する最初の論文(1934年)は,松原順三先生の“所謂Brodie氏骨膿瘍ノ早期診断ニ就テ”であり,ドイツ語文献の論文名と同様,Knochenabszeβ骨膿瘍となっている.わが国の整形外科学教科書にも,神中正一:神中整形外科学(1940),三木威勇治:整形外科学入門初版(1951),片山良亮:小整形外科学総論(1960),天児民和:整形外科学(1960),いずれもBrodie骨膿瘍と記載されている.

 1832年のBrodieの原著は,10年以上にわたり時折起こる脛骨部の間欠的な腫脹と激痛に悩まされていた3症例の報告である.切断術が選択された1症例目の病理解剖結果は脛骨内の限局した膿の貯留であり,他の2症例は脛骨穿孔術で膿が確認されている.1845年のBrodieによるSt. George病院での“Abscess of the tibia”と題する臨床医への教育講演では,以下抜粋のように,軟部組織と同様に骨の中にも膿瘍が生じること,症状と経過が異なることが強調されている.臨床的着眼が素晴らしい.

医者も知りたい【医者のはなし】・24

種痘の祖・秋月藩医 緒方春朔(1748-1810)

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.442 - P.445

まえがき

 今回は福岡黒田藩の分藩秋月藩医,緒方春朔について述べる.彼は漢方医であったが,蘭学が江戸末期に栄えるようになった「キー・パーソン」の1人である.春朔は「人痘による種痘法」を,寛政2年(1790)に秋月藩内で行った.これは,寛政8年(1796)5月14日に英国人エドワード・ジェンナーが,牛痘の種痘を始める前の話である.

 春朔の種痘から約40年前の宝暦2年(1552)に,医書「医宗金鑑」が中国から輸入された.その中には「人痘による種痘法」が記述されて,長崎に来た中国人の種痘医李仁山(りじんせん)が,その書に記述されている方法を用いて,長崎の医師たちに「種痘法」を教えた.その後長崎で「種痘」が一時行われた模様であったが,継続されなかった.詳しい様子は不明である.しかし長崎でこの種痘法を学んだ琉球の医師上江州倫完(うえすりんかん)(1732~1812)は,春朔が行ったより24年前の明和3年(1766)に,この「種痘」を沖縄で行い,その後沖繩では継続的に行われていたようである.

臨床経験

手指末節骨骨幹部骨折および偽関節に対する指尖部よりのHerbert mini bone screwの刺入

著者: 三浦一志 ,   長尾秋彦 ,   佐藤英樹 ,   久木田裕史

ページ範囲:P.447 - P.450

 末節骨骨折および偽関節に対してHerbert mini bone screwを用いて治療を行い良好な結果が得られたので報告する.症例は不安定性の強い末節骨骨幹部骨折2例,2指および末節骨偽関節1例,2指の3例,4指である.指ブロック下に指尖部に小切開を加え,C-wireを刺入して回旋を防止した後,骨折部を展開せずに透視下にHerbert mini bone screwを逆行性に刺入した.骨癒合は全指で得られた.末節骨骨折の遷延治癒発生率は約15~25%と比較的高い頻度であるとされている.骨折部が不安定な場合は,指尖部からのHerbert mini bone screwの刺入は治療法の選択肢の1つとなり得る.

脊椎腫瘍摘出術の術後感染の管理に有茎広背筋弁を用いた4例

著者: 多田薫 ,   池田和夫 ,   川原範夫 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.451 - P.455

 脊椎腫瘍摘出術の術後感染に対する予防,治療目的に,有茎広背筋弁を用いた再建術を行った.対象は当科で施行した脊椎腫瘍摘出術の166例中,有茎広背筋弁を用いた4例である.2例は術後感染のリスクが高いと考え,腫瘍摘出術と同時に,術後感染の予防目的に有茎広背筋弁を用いた.2例は術後感染例で,掻爬,洗浄などの方法では感染を沈静化できなかったため,治療目的に有茎広背筋弁を用いた.全例で術後感染の予防,治療を達成できたため,有茎広背筋弁を用いた再建術は脊椎腫瘍摘出術の術後感染に対して有効な方法であると考えた.

特発性側弯症に対するin situ contouring techniqueによる手術の成績

著者: 武井寛 ,   坂浦博伸 ,   細野昇 ,   吉田裕俊 ,   林雅弘 ,   橋本淳一 ,   杉田誠 ,   仲野春樹

ページ範囲:P.457 - P.463

 国内3施設においてin situ contouring techniqueを用いて行われた特発性側弯症に対する矯正手術の成績を調査した.対象は平均年齢16.1歳の15例で,カーブパターンはKing type Ⅰが3例,type Ⅱが3例,type Ⅲが6例,type Ⅴが3例であった.矯正率は上位胸椎,胸椎主弯曲,腰椎カーブでそれぞれ21.6%,54.2%ならびに52.7%であった.本法の施行に際しては,フックやスクリューの的確で調和的な設置ならびにロッドベンディング手技に習熟しておく必要がある.矯正後の左肩上がりや固定隣接椎間での局所後弯の発生にも注意が必要である.

症例報告

橈骨および脛骨の銃撃骨折の治療経験

著者: 木曽伸浩 ,   大作浩一 ,   山崎健 ,   水野俊行

ページ範囲:P.465 - P.469

 銃規制の厳しい本邦では比較的めずらしい銃撃骨折を経験したので報告する.患者は26歳の男性で,主訴は左前腕部・左下腿部の銃創であった.アフリカで受傷し,開放性粉砕骨折であり,初期治療後に当院搬送となった.左橈骨は短縮転位を残したままプレート固定を受けており,可動域制限・尺骨遠位の背側脱臼を呈していた.左脛骨は約6cmの骨欠損が残存していた.橈骨のプレートは温存し,尺骨遠位端脱臼には尺骨短縮術を施行した.脛骨は,血管柄付き遊離腓骨移植で再建を行った.受傷後3年になるが経過良好である.

抗凝固療法中の透析患者に発生した腸腰筋血腫の1例

著者: 小野雅典 ,   森戸伸吾 ,   坂本敬

ページ範囲:P.471 - P.475

 抗凝固療法中の透析患者が腸腰筋血腫を呈した症例を報告する.63歳の男性で,慢性腎不全で透析を行い,シャント部の人工血管に対し抗凝固剤を服用していた.激しい左大腿痛が出現し当科を受診した.左腸骨窩の腫瘤と左大腿神経麻痺を認め,CT像とMRIで腸腰筋血腫を認めた.血腫除去術を行い,その後に疼痛が軽減し筋力が回復した.原因には血小板機能の異常や抗凝固剤による出血傾向が考えられた.抗凝固療法中の透析患者で誘因なく大腿痛と大腿神経麻痺を呈する例では,腸腰筋血腫を考える必要がある.

小児骨形成不全症にみられた肘頭骨折

著者: 二井英二 ,   浦和真佐夫 ,   西村淑子 ,   西山正紀 ,   多喜祥子 ,   山田総平 ,   長倉剛 ,   内田淳正 ,   山崎征治

ページ範囲:P.477 - P.481

 小児における肘頭骨折は稀である.今回われわれは,骨形成不全症の小児に発生した肘頭骨端線損傷を経験したので報告した.症例は,2例3骨折,全例女児でSillence分類ではⅠA型であった.骨折型はすべてSalter-Harris Ⅱ型であり,1例は両側骨折であった.治療はすべて観血的(tension band wiring)に行ったが,骨癒合は良好で機能障害を残したものはなかった.骨形成不全症の小児が肘頭骨端線損傷を起こした場合,対側損傷の危険性が高いことから注意が必要である.

環指中手指節(MP)関節掌側脱臼の1例

著者: 鈴木崇根 ,   阿部圭宏 ,   國吉一樹 ,   松戸隆司 ,   山田俊之 ,   高橋仁

ページ範囲:P.483 - P.485

 環指中手指節(MP)関節掌側脱臼の1例を経験した.症例は60歳の女性である.歩行中に転倒受傷した.近医での徒手整復後5週で再脱臼し,当科を紹介されて受診した.6週で手術を施行した.関節内の瘢痕切除と伸筋腱固定を行い,術後3週で関節可動域訓練を開始した.術後4カ月の最終診察時の自動関節可動域は伸展-10°,屈曲65°であったが,単純X線像では関節症性変化と亜脱臼傾向を認めた.

神経内脂肪腫を伴う手根管症候群の1例

著者: 柿崎潤 ,   六角智之 ,   高橋勇次 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.487 - P.489

 症例は60歳の女性.特発性手根管症候群と診断し,直視下手根管開放術を施行した.術中,神経外膜下に脂肪腫様腫瘤を認めたため,部分摘出を追加施行した.術後の経過は良好で,病理診断は脂肪腫であった.術前,特発性手根管症候群と診断し,腫瘍の存在を全く予測できなかった.また,特発性なのか腫瘍による手根管症候群なのかを断定することは困難であった.特発性手根管症候群と思われるものにも,自験例のように神経内脂肪腫を伴うものもあり,注意が必要と考えられた.

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あとがき フリーアクセス

著者: 黒坂昌弘

ページ範囲:P.496 - P.496

 このたび,本誌の編集委員を務めさせていただくことになりました.17年間編集委員を務められた守屋秀繁先生の後任ということで,あまりに前任者が大きな存在であるため,その足跡を汚さないように,編集委員を務めなければと責任を感じております.本誌は,和文での学術雑誌としては,私が整形外科医となった時から,投稿を目標としてきた雑誌です.和文での論文としては,最もレベルの高い原著が投稿される雑誌ですので,今度は編集委員として,より学術的な価値を高められるよう,自分なりに努力してみたいと思います.

 この文章は,新年度を迎え,新しいスタッフがメンバーに加わる時期に書かせていただいています.新人を迎え教育することは,非常にエネルギーの要ることですが,毎年の喜びであり,若い世代の息吹を感じる新鮮なひと時であります.さて,医療従事者には,その模範を説く有名な教えがあります.医師の行いの模範としてヒポクラテスが古代に唱えた,“ヒポクラテスの誓”の中に,“自身の能力と判断に従って,患者に利すると思う治療法を選択し,害と知る治療法を決して選択しない”という一節があります.また看護師の行いの模範とされる,“ナイチンゲール誓詞”の中には,次のような一節があります.“われは心から医師を助け,わが手に託されたる人々の幸のために身を捧げん”.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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