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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科42巻7号

2007年07月発行

雑誌目次

誌上シンポジウム 人工股関節手術における骨セメント使用時の工夫と問題点

特集によせて

著者: 高木理彰

ページ範囲:P.620 - P.622

 トライボ工学,生体材料学や生体運動学などの学際領域の進歩や様々な臨床経験の積み重ねを経て人工股関節インプラントは改良され,様々な機種が臨床の場で使用されている.今回は骨セメントにスポットを当て,人工股関節手術における骨セメント使用時の工夫と問題点について誌上シンポジウムを企画する機会をいただいた.

 ポリメタクリル酸メチル(polymethylmethacrylate:PMMA)を主成分とする骨セメントには長い歴史がある.骨セメントが世に出るきっかけとなったのは1901年,化学者Otto Röhmによってアクリル酸の重合に関する学位論文が出され,翌年,ガラスのように固い物質としてPMMAが“Plexiglas”という名前で世に知られるようになってからであった.しばらくして,1928年にRöhmとHaasがPMMAをプラスチック素材として用いる特許を取得している.また1936年にはKulzer社が粉体のPMMAと液体のメタクリル酸メチル(methylmethacrylate:MMA)モノマーを混合する際に過酸化ベンゾイル(benzoyl peroxide)を添加すると発熱しながら固くなることを見いだして特許を取得している9).生体への最初の応用は猿の頭蓋骨の骨孔閉鎖に用いられた1938年とされる8).硬化促進剤の工夫により常温での自己硬化を可能として,その手順を確立したのはDegussa-Kulzer社で,1943年にPMMA骨セメントの特許取得を取得している.このような一連の研究からPMMA骨セメントが誕生している.最初に関節置換のインプラントの固定に自己硬化性の樹脂を応用したのは1949年のデンマークのKaierとJansenとされ10),続いて1951年に米国のHouboushがインプラントの固定にセメント応用している6).1958年,股関節手術で人工骨頭置換用のインプラントをPMMA製の骨セメントで大腿骨に上手く固定しうることを示したのはCharnleyで,その成果を1960年に報告している3).以来,人工股関節インプラントの固定にも臨床応用されながら4),改良が重ねられ,今日に至るまで骨セメントは整形外科領域,とりわけ人工関節ではインプラントの固定,間隙充塡を目的に使用されている.

骨セメントを使いこなすための基礎知識

著者: 高木理彰 ,   川路博之 ,   小林真司 ,   高窪祐弥 ,   朴哲 ,   大楽勝之 ,   石井政次

ページ範囲:P.623 - P.630

 ポリメタクリル酸メチル(polymethylmethacrylate:PMMA)を主成分とする骨セメントは整形外科領域で広く使用され,半世紀にも及ぶ長い歴史を持つ.PMMA骨セメントのほかにガラスイオン共有結合性セメント,リン酸カルシウムとPMMAからなる生体活性ガラスセメント,リン酸カルシウムやポリプロピレン-フマル酸からなる吸収性セメントが開発されてきたが,今のところ人工股関節でインプラントや骨との境界面の過酷な生体力学負荷に長期にわたって十分耐えうることが示されているのはPMMA骨セメントのみである.

 人工股関節手術で骨セメントの果たす役割は大きく,インプラントの固定や骨インプラント間の充塡剤として用いられ,インプラントから伝達される応力を上手く周囲の骨に伝え,さらに適度な応力分布や応力の緩和によって,安定した関節機能の維持と人工関節周囲の骨のリモデリングに貢献する.適切な手術手技とインプラントの選択によって,セメント使用人工股関節の安定した長期成績を得ることが示されているが,セメント固定人工股関節手術に臨むにあたっては,骨セメント使用時の操作に習熟することと合わせて,骨セメントの物理化学的性状を理解することが大切である.ここではPMMAを主成分とする骨セメントの基礎について概説する.

大腿骨側:Triple taperedステム

著者: 飯田寛和

ページ範囲:P.633 - P.637

 Polished triple taperedステムのコンセプトは,骨セメントとの界面でのslip許容によるセメントへの圧縮応力への転換,近位内側大腿骨への荷重伝達の促進により安定した固定を期待するものである.Polished taper stemはセメント手技に対する許容度が高いと考えられるが,長期の良好な結果を得るには,大腿骨母床の準備,髄腔プラグの設置,セメント手技,ステム挿入手技に十分に熟達する必要があり,その工夫と問題点について概説した.

Double taperedステム

著者: 大塚博巳 ,   廣瀬士朗 ,   川島正幹 ,   森島達観

ページ範囲:P.639 - P.642

 セメント使用のステムにおいてdouble tapered形状とpolished surface表面処理とは表裏一体のものである.その概念は,1)セメント内でtaper-slipを許容した強固な連結,2)polishedによる磨耗粉発生の低減,密閉効果の増大,3)taper-slipによるセメント/骨境界における圧迫力の増大,4)collarlessであることで効果がより発揮などから,ステムの安定性を獲得するものである.しかし,セメントステムであるからセメント手技は第一義である.

Charnley式ソケットの手術手技

著者: 後藤英司 ,   寺西正

ページ範囲:P.643 - P.648

 セメント固定によるCharnley式ソケットの術後成績を向上させるため,これまでに様々な手術手技上の工夫が行われてきた.現在重要と考えるソケット固定の手術手技はジェット洗浄,臼蓋海綿骨からの止血などの臼蓋骨母床の処置に加え,過度の内方掘削を避けて外板を残し,軟骨下骨を温存し,多数の小アンカー孔,flanged socketの使用と寛骨臼によるflange部の完全被覆,セメントの高圧注入,骨囊腫の掻爬と同部位への海綿骨移植,臼不全股に対する臼蓋外側部への骨移植などである.これらの手技により長期成績が改善することを期待できる.

臼蓋側:界面バイオアクティブ骨セメント手技

著者: 藤田裕 ,   大西啓靖

ページ範囲:P.649 - P.658

 PMMA骨セメントは45年にわたり人工股関節置換術(THA)のGolden standardであり続けているが,唯一の欠点はbioinertness(生体不活性)に伴う長期経過後の臼蓋側の弛みである.当科では2003年3月以来,THAのさらなる耐久性の向上を目指して,大西らが開発した界面バイオアクティブ骨セメント手技(IBBC)を全例に用いてきた.本法はセメンティング直前に骨の表面にハイドロキシアパタイト(HA)顆粒を播種した後,通常のセメント固定を行う方法である.セメント・HAに伴う合併症は皆無で,短期成績は良好であった.手技的に最も重要な点は,他のセメント手技と共通するが,セメンティング直前に骨母床の完璧な止血を得ることである.本法で使用されているHA顆粒は焼結され結晶性が高く,ほとんど吸収されないため骨伝導性が長期間維持される.また,セメントレス法と異なり,抜去も容易であり脱臼,感染など再置換術にも対応できる.

Impaction bone grafting(大腿骨側)に思うこと

著者: 石井政次

ページ範囲:P.659 - P.664

 人工股関節置換術(THA)の再置換の際,骨の再獲得が問題となる.Impaction bone grafting(IBG)は,骨の再獲得を目的とする有用な手術法である.現在まで112関節にIBGを行ったが,極力ロングステムの使用を避け,またロングステムからレギュラーステムへの再置換も可能であった.しかし,菲薄化した大腿骨にbone chipを強く打ち込むため骨折やステム先端の菲薄化した部での骨折が危惧され,プレートの補強を考慮しておかなければならない.骨萎縮の強い症例にも対応でき,再置換術の1つの方法として考慮に入れてよい方法と考える.

Impaction bone graft(IBG)併用セメントカップ臼蓋再建術

著者: 片山直行

ページ範囲:P.667 - P.672

 人工股関節全置換術(THA)の普及に伴い再置換術も増加傾向にある.再置換術にいたる理由としては,弛み,骨溶解,反復脱臼,人工骨頭の移動,感染などがある.なかでも巨大骨欠損を伴った例の再置換術は困難を極める.われわれはこのような症例に対し,臼蓋側,大腿骨側ともにimpaction bone graft法(IBG)を用いて対処してきた.また 関節リウマチ(RA) などによる臼底突出症に対する初回THAでもIBGによる臼蓋再建を行ってきた.ここではIBGを併用したセメントカップによる臼蓋再建術のうち1年以上経過した70関節について検討する.

セメントとセメントレスの適応と使い分け

著者: 平川和男 ,   高柳聡 ,   辻耕二 ,   巽一郎 ,   松田芳和 ,   名倉誠朗

ページ範囲:P.673 - P.682

 Charnley以来の人工股関節置換術はpolymethylmethacrylate(PMMA)によるセメント固定が主流であった.現在ではポリエチレン磨耗粉による骨溶解がインプラントの弛みに多大な影響を及ぼすとされているが,一時はcement diseaseといわれ,ポーラス加工,ファイバーメタル,trabecular metal,ハイドロキシアパタイトコーティングなど,セメントレス人工股関節の発展に寄与した.また,一体型のインプラントの場合,再置換時にすべて交換というジレンマもあったが,現在ではセメントレスインプラントがmodularとなっているため,摺動面のみの再置換が可能となっている.筆者らはこの利点を生かすために,骨母床のしっかりとしている条件下にて,90%の症例に臼蓋,大腿骨側ともにセメントレスインプラントを用いてきた.しかし,骨粗鬆症,廃用性骨萎縮症例,またstove pipe canalといわれるDorr type Cの大腿骨に対しては全例セメントステムを用いてきた.また,臼蓋側の再置換術の際にはimpaction graftを併用したreimforcement ringを用い,All PE(超高分子量ポリエチレン)をセメント固定して再建を行うことを基本としている.これらの適応について症例を紹介しながら述べる.

論述

放射線治療後に再発した脊椎転移に対する術中照射療法の成績

著者: 近藤泰児 ,   穂積高弘 ,   五嶋孝博 ,   星地亜都司 ,   中村耕三

ページ範囲:P.685 - P.692

 放射線根治線量治療後の転移性脊椎腫瘍再発に対して,後方手術(除圧と脊椎内固定)に加えて,開創したまま転移巣に放射線照射を行う方法(術中照射療法,以下IORT)を行ってきた.IORTは開創して脊髄を遮蔽して行うことにより皮膚障害や脊髄障害を防ぐことができる.今回66例76手術の成績と同時期に行われた放射線照射の既往のない転移性脊椎腫瘍94例96手術の成績とを比較検討したところ,麻痺の改善,局所制御とも後者には劣るものの,従来報告されている通常の後方手術の成績に比べて良好であった.

メッシュケージを用いた経椎間孔腰椎椎体間固定術(TLIF)における移植骨の椎間占拠率

著者: 三浦一人 ,   河路洋一 ,   松葉敦 ,   幸田久男

ページ範囲:P.693 - P.697

 経椎間孔腰椎椎体間固定術(TLIF)において片側からどの程度骨移植が可能かを検証した報告はない.今回メッシュケージを用いたTLIF症例と同時期に施行した後方経路腰椎椎体間固定術(PLIF)症例の術後CTで移植骨の椎間占拠率を測定し,臨床成績についても比較,検討した.TLIFとPLIFとの間で占拠率は変わらず,成績も差がなかった.TLIFでも十分な骨移植は可能であり,同等の臨床成績を獲得できる.合併症の回避と術式の特性からTLIFの最もよい適応は椎間板症,椎間孔狭窄症および再手術と考える.

最新基礎科学/知っておきたい

腰椎椎間板ヘルニア関連遺伝子―CILP

著者: 関庄二 ,   川口善治 ,   木村友厚

ページ範囲:P.698 - P.703

■はじめに

 腰椎椎間板ヘルニアおよび椎間板変性をはじめとした重度の椎間板障害に対し,再生医療を目的とした様々な分子生物学的アプローチ4),バイオマテリアル10)を用いた動物実験が行われてきている.臨床的には変性すべり症などの重度の椎間板障害に対し,脊椎固定術が行われているが,隣接椎間障害,可動性の喪失,高額な医療費など問題点も多い.

 腰椎椎間板ヘルニアは,椎間板変性を背景に発症し,腰痛,下肢痛を引き起こす疾患である.本症は生涯罹患率80%といわれる腰痛の,大きな原因のひとつでもある1).その好発年齢は20~40歳代の青壮年期であり,男女比は2~3:1で,社会的にも労働生産性の低下などの問題を引き起こす.椎間板疾患の危険因子としてこれまで重労働,振動の曝露,喫煙,スポーツなどの後天的要因,環境因子が強調されてきた.しかしながら,近年の疫学的研究で,腰椎椎間板変性および椎間板ヘルニアには遺伝性が存在することが示唆されている.Matsuiら9)は若年性の腰椎椎間板ヘルニア患者家系とヘルニア患者のいない一般集団家系を比較し,患者群では,椎間板ヘルニアの家族内での罹患率が5.6倍であったと報告している.また,双生児研究においては,Sambrookら14)は172人の一卵性双生児と154人の二卵性双生児の腰椎MRIを撮像し,椎間板間隙,シグナル変化,椎間板膨隆,前方の骨棘の4項目について比較検討し,それらの遺伝率は74%であることを証明した.以上のような事実から,腰椎椎間板ヘルニア(椎間板疾患)は遺伝性素因が強く関与した疾患であることは疑いない.

 これまで,腰椎椎間板ヘルニアの原因遺伝子として,COL9A22),COL9A312)〔α2,3(Ⅸ)コラーゲン〕,MMP318)(マトリックスメタロプロテアーゼ3),VDR6)(ビタミンDレセプター),AGC15)(アグリカン)などの遺伝子との相関が報告されている.このように,椎間板変性が複数の遺伝子と関わっているという事実は,本疾患がいわゆる多因子要因によって発症する可能性を示唆する.

連載 整形外科と蘭學・20

大江春塘と中津バスタード辞書

著者: 川嶌眞人

ページ範囲:P.704 - P.706

■はじめに

 去る4月のはじめ,筆者が昨年会長を務めた日本医史学会が大阪で開催されたのを機に大阪歴史博物館を訪れた.ちょうど日本医学会が大阪で開催されていたという事情もあってか「大阪の医学史」というテーマで特別展に特設コーナーが開設されていた.内容は江戸時代の大坂を代表する医塾,合水堂と適々斎塾(通称適塾)の紹介であったが,豊前中津から大阪に出てきて,それぞれの塾で研鑽に励んだ2名の中津藩士の史料を中心に構成されていた.1人は福澤諭吉で,安政2(1855)年に緒方洪庵の「適塾」に入門,やがて塾頭となり,江戸に移って慶応義塾を創設,近代日本の建設に大きな役割を果たした.もう1人は華岡青洲の弟,良平(鹿城)が創立した紀州華岡医塾春林軒の大坂分塾「合水堂」に天保12(1841)年に入門した大江雲澤で,中津に帰って明治4(1871)年に奥平旧藩主の援助で創設された中津医学校の初代校長となり,地域で生きる医師を養成,伝染病の予防や奨学金を出すなど地域医療の人材育成と近代化に貢献し,市民の健康回復の場として豊後町に「大江風呂」という薬湯を創設,1991年の19号台風で煙突が倒れるまで運営されていた.薬湯の歴史を生かそうと「マンダラゲの会」が市民ボランティアによって結成され,毎年春と秋に薬草の植栽と収穫が行われ,中津蘭学の勉強会と史跡巡りも行われている.

 今年の例会で九州大学のヴォルフガング・ミヒェル教授は,この大江家と祖先を同じくする中津市京町の大江春塘について講演を行った.長い間詳細が不明であった春塘について,多くの史料を調査された結果,控えめで史料を残すことが少ないわりに蘭学の歴史の中ではきら星のような業績を残して消えていった春塘の実像が浮かび上がってきた.

確認したいオリジナル・7

足底を指でくすぐっても確認できるBabinski反射

著者: 鳥巣岳彦

ページ範囲:P.707 - P.707

 医学部4年生は平成17年度から,全国共通の“共用試験”に合格しなければ,進学できなくなった.“共用試験”では学生の診察実技能力が他大学の教員によって評価される.診察法でBabinski反射は習熟すべき必須の診察手技である.「先がやや尖った鍵か安全ピンで,足裏の外側を踵から小趾に向かってこすり,遠位で母趾のほうに曲げる.母趾の基部までは擦らないがよい」とまでBabinski反射の調べ方が神経学の教科書に記載されている.

 整形外科実習にきた学生の前で,頚椎症性脊髄症患者の足裏を“くすぐり”,母趾が背屈する現象を示して“Babinski反射が陽性だよ”と教えても,“手技が違いますよ”といつも反発された.

 Babinskiが「ある種の神経疾患患者の足底の皮膚を刺激すると,健常者とは異なり,足趾が緩慢に中足骨に対して背屈する」との観察結果とその意義にかんする歴史的な発表を行ったのは1896年である.その2年後の論文の321頁には,「ある種の病的状態では,感度は劣るが足裏を“くすぐる”だけで母趾の背屈運動が起こる」ことが記載されている.

臨床研修医のための整形外科・7

手の外科疾患

著者: 照屋徹 ,   高橋正明

ページ範囲:P.710 - P.715

 整形外科医の中でも,「手の外科」と聞くと腰が引けてしまうDr.もいらっしゃるようです.中には気難しい手の外科専門医の先生が取っ付きにくくしているのかもしれません.しかし,これから整形外科を志す研修医の方々に少しでも興味を持って接していただければ幸いです.手の領域には「no man's land」といわれた部位がありますが,手の外科そのものがno man's landとならないことを祈るばかりです.

 ○診察室に入る前に研修中の先生は以下の疾患について勉強してください.

小児の整形外科疾患をどう診るか?─実際にあった家族からの相談事例に答えて・3

筋性斜頚

著者: 亀ヶ谷真琴

ページ範囲:P.716 - P.717

相談例(筋性斜頚)

 こんにちは,3カ月になる息子の筋性斜頚についてお尋ねしたくメールさせていただきました.

 私自身,斜頚であったため生後3週間でわが子の斜頚に気が付き整形外科へ受診しました.母も,私も吸引分娩で子供を出産したのが原因かとも思っています.小児整形外科の先生は,「しこりの大きくしっかりした斜頚」とおっしゃっていました.

 「しこりの大きさが大きければ自然治癒へも影響しますか?」と尋ねましたが,「一概に言えない」との返答,私自身は1歳頃に良くなったようですが,「大きい」と言われ心配です.

 また,息子の斜頚と反対側の目が大きく開いて左右アンバランスになっているのが気になります.やはり斜頚の影響でしょうか? 斜頚とともに良くなるのでしょうか?

 ほとんどが自然治癒するとのことで,今は,枕と向き難い方向からの声掛け程度しか注意していませんし,良くなっている様子もありません.また,斜頚のあるほうを上に横向きで寝かせると良いと聞きましたが実践してよいものでしょうか?

 お忙しいことと存じますが,ご返答よろしくお願いいたします.

臨床経験

掌側ロッキングプレートを施行した背側転位型橈骨遠位端骨折の治療成績―本当によい治療法なのか?

著者: 森谷浩治 ,   大井宏之 ,   高橋勇二 ,   友利裕二 ,   斎藤英彦

ページ範囲:P.719 - P.722

 掌側ロッキングプレートで内固定した背側転位型橈骨遠位端骨折55例55骨折を対象にX線形態計測,自動関節可動域,握力の推移について調査した.尺側傾斜,掌側傾斜,尺骨変異の整復位損失は,0°,0.7°,0.7mmであった.最終調査時までに,自動関節可動域は健側比で89~98%,握力は79%まで回復した.掌側ロッキングプレートは他覚的評価に優れていたが,手関節尺側部痛が8例に遺残し,決して自覚的評価に優れているわけではなかった.今後,さらに安心できる治療法へ確立していく必要がある.

症例報告

肩関節脱臼骨折における術中動脈損傷

著者: 三笠貴彦 ,   山中一良 ,   野本聡 ,   脇田哲 ,   松井秀和 ,   市川理一郎 ,   松岡佑嗣 ,   佐々木孝 ,   河野克己 ,   斉藤毅 ,   三笠元彦 ,   池上博泰 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.725 - P.729

 肩関節脱臼骨折に対する人工骨頭置換術中の脱臼骨頭摘出時に生じた動脈損傷を経験したので考察を加え報告する.症例は上腕骨人工骨頭置換術を施行した4 part肩関節脱臼骨折の2症例である.2例とも術中,骨頭の摘出の際に肩甲下動脈からの動脈出血を認め,止血困難となった.Neer分類で前方脱臼骨折での骨頭の整復および摘出の際には,受傷時に損傷した動脈からの出血や,不整な骨折面による動脈損傷を起こすリスクがある.2症例の経験からも,出血後の術野からの止血は困難で,われわれ整形外科医による処置にも限界がある.その認識と予防が大切と考え,また動脈損傷を念頭に置き血管外科医など専門医の確保が必要と考える.

外側型肘離断性骨軟骨炎に対して骨軟骨ブロック移植術を行った3例

著者: 三好直樹 ,   入江徹 ,   研谷智 ,   島崎俊司 ,   松野丈夫 ,   後山恒範

ページ範囲:P.731 - P.737

 外側型の肘離断性骨軟骨炎(以下肘OCD)に対して大腿骨内顆から骨軟骨ブロック移植術を行った3例につき報告する.症例は2例が野球選手,1例はバドミントン選手である.骨軟骨をブロック状に採取し,肘欠損部へ移植してスクリューで固定した.3症例とも肘・膝に愁訴なくスポーツに復帰している.外側型肘OCDに対して,硝子軟骨による関節面と安定した外側壁を同時に再建可能な本術式は有用な方法と考える.

書評

関節のMRI―福田国彦,杉本英治,上谷雅孝,江原 茂●編集 フリーアクセス

著者: 菊地臣一

ページ範囲:P.683 - P.683

 この本を一読して,運動器の領域である関節の画像検査もMRIの出現によって,「ついにここまできたのか!」というのが私の想いです.一時代前の関節や脊髄造影で確定診断をしていた時代は,ある意味,これらの手技は名人芸でした.事実,脊椎・脊髄外科領域で頭頚移行部や脊髄髄内の病変描出は,当時は真に名人芸のレベルでした.造影検査が患者さんに与える苦痛も,決して少ないものではありませんでした.

 診療現場へのMRIの導入は,最近における医療技術革新の最たるものの1つではないでしょうか.私は医師として長い間生きてきて,診療現場にこれほどの革命をもたらした機器は今までにないと言えます.従来の整形外科領域の画像診断は,「影」をみていたと言ってよいと思います.すなわち,形態学的評価が主たる診断価値でした.これに対して,MRIはあらゆる部位や組織の描出を可能にしました.さらに,MRIは形態とともに組織それ自体の変化をも描出してくれます.患者さんにとっての侵襲もないか,あっても軽度で,しかも読み手側に以前と比べたら比較にならないほど大きな情報を与えてくれます.例えば,骨軟部腫瘍の評価では,形態のみならず,組織性状の描出,関節外科では軟骨病変は勿論のこと,骨内病変や軟部組織の変化を読み取れます.

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あとがき フリーアクセス

著者: 戸山芳昭

ページ範囲:P.744 - P.744

 今年4月より10年計画で国民の“健康づくり”とさらなる“健康寿命延伸”を目的に「新健康フロンティア戦略」が策定され,行政主導により実行される運びとなった.この施策は少子化・超高齢社会に突入したわが国において取り組むべき重要課題の1つである.本戦略の趣旨は『国民の健康寿命の延伸に向け,国民自らがそれぞれの立場に応じ,予防を重視した健康づくりを行うことを国民運動として展開するとともに,家庭の役割の見直しや地域コミュニテイの強化,技術と提供体制の両面からのイノベーションを通じて,病気を患った人,障害のある人および年をとった人も持っている能力をフルに活用して充実した人生を送ることができるよう支援すること』と資料に記されている.今後取り組むべき分野として,①子どもの健康,②女性の健康,③メタボリックシンドローム克服,④がん克服,⑤こころの健康,⑥介護予防,⑦歯の健康,⑧食育,⑨運動・スポーツの9つが取り上げられ,それぞれの分野で積極的に対策を進めていく方針が示されている.運動器を扱う整形外科関連では,「女性の健康」分野で運動推進や骨粗鬆症の予防が課題として取り上げられ,「介護予防」分野においては特にその中心的役割を整形外科が担うことになりそうである.つまり,この分野には運動器疾患対策の推進,骨・関節・脊椎の痛みによる身体活動の低下や,閉じこもりの防止が盛り込まれ,その対象疾患として「大腿骨頚部骨折」「骨粗鬆症性脊椎骨折」「変形性膝関節症」「腰部脊柱管狭窄症」の4疾患が明記されている.どれも整形外科,運動器疾患のcommon diseaseであり,要支援・要介護の原因の上位を占める疾患群である.今後は整形外科を中心に行政と一体となって,これら疾患群に対する基礎研究の推進,疫学・実態調査の実施,予防と重症化防止への運動療法を主体とした至適プロトコールの確立,早期診断法の確立と実行,安全で低侵襲な手術法の開発などに積極的に関与し,その責任の一端を担うことになる.ようやく行政も国民の健康寿命延伸,介護予防には運動器疾患対策が最大のキーポイントであることを理解し,「がん」や「生活習慣病」,そして「うつ病や痴呆」と同様に取り組むべき最重要課題であることを認識してくれたようである.これは整形外科にとっても今後の大きな発展に繋がるものと確信しているが,その反面,科学的根拠に基づいた診断法や治療法を確立していく必要があり,いよいよ整形外科の力量が試される時でもある.この機会を逸することなく,全国の整形外科医が一致団結して運動器疾患対策に取り組み,国民から絶対的に信頼される整形外科を築き,運動器が循環器や消化器と同等の地位を確保するための絶好の機会である.

 さて今月号は,誌上シンポジウムとして「人工股関節―骨セメント使用時の問題点と工夫」が取り上げられている.セメントレス型人工関節使用例が増えてはいるが,今後の超高齢化に反映してセメント型適応例も増加していくものと思われる.このセメント型人工関節の術後成績を大きく左右する因子の1つがセメント手技であり,「人工関節手術の術後成績はセメント手技の善し悪しで全て決まる」といっても過言ではない.関節外科の先生方には本号をぜひご一読いただき,明日からの臨床に役立てていただければ幸いである.そして読者の皆様には,どうぞ素晴らしい夏(夏休み?)を十分満喫してください.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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