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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科43巻10号

2008年10月発行

雑誌目次

視座

Locomotive syndrome(ロコモ)

著者: 岩谷力

ページ範囲:P.949 - P.950

 健康寿命延伸のために,「運動器疾患に起因するとじこもり,ねたきりを防ぎ,運動器の障害により要介護になるリスクの高い状態や運動器が障害を受けつつある状態」をlocomotive syndrome(ロコモ)と定義し,介護予防の柱としてその予防,治療への取り組みが提唱されている.同じように介護予防の柱として取り上げられている疾患にmetabolic syndrome(メタボ)がある.近年,メタボは生活習慣を最上流として,内臓脂肪蓄積,脂肪細胞の成熟肥大に伴い,アディポネクチンの分泌低下,TNFα,IL-6,MCP-1,レジスチン,レチノール結合蛋白の増加などのアディポサイトカインの分泌異常が生じ,インスリン抵抗性,炎症,血栓形成,高血圧,耐糖能異常,脂質異常を通じて動脈硬化へと達する病態が解明され,メタボの下流には,心筋梗塞と脳梗塞の発症による死亡と障害化があり,生活習慣がメタボを通じて障害発生に到達する径路が論理的に示された.

 先年,診療報酬点数の請求対象として認められた運動器不安定症の疾患概念は,いくつかの疫学データから転倒・骨折が要介護状態の重要な原因疾患であること,「高齢者」,「運動器疾患」,「バランス能力・歩行能力低下」,「転倒リスク」,「とじこもりリスク」の要因間の関連性が明らかになったことから提唱されたものである.しかし,運動器疾患,運動器機能,転倒,寝たきりに関連する因子,それらの因子間の関連性,ことに因果関係は検証されていない.さらに,転倒以外にも運動器機能不全に起因して要介護状態となりうるプロセスがあるはずである.運動器機能不全に起因して要介護状態に至る病態,プロセスの総体を,ロコモ(locomotive syndrome)としてとらえ,そのなかで転倒を介して生活機能の低下に至る運動器不安定症を含め,運動器疾患が運動器機能の低下,生活の活動性低下,要介護状態へと連なっていく過程を論理的に説明するモデルを作成し,検証することが喫緊の課題である.

誌上シンポジウム 発育期大腿骨頭の壊死性病変への対応

緒言 フリーアクセス

著者: 北純

ページ範囲:P.952 - P.952

 発育期の大腿骨頭に発生する骨壊死症としては,ペルテス病のほか多くの症候性骨壊死症が知られています.現在の医学では骨壊死を修復することはできず,ひとたび壊死が発生すると骨頭の成長障害や圧潰による変形を生じ,変形性股関節症に至って甚大な障害をもたらします.小児では人工関節置換も行い得ず,壊死に陥った大腿骨頭と股関節の予後が悪いことはよく知られていますが,その診断・治療の方針についてはあまり知見がなく,取り扱いに苦慮する場合が多いと考えられます.

 そこで昨年6月に仙台市で開催しました第46回日本小児股関節研究会で「大腿骨頭の壊死性病変に対する対応」を主題に取り上げました.これまで行われた様々な対応とその結果を報告していただき,骨壊死による機能障害を防ぐ方策を検討いたしました.研究会では骨壊死の病態,予防,診断,治療などについて19題の大変有意義な演題をいただきましたが,この中から本シンポジウムでは治療に関する7題を取り上げております.

先天性股関節脱臼治療後に発生した大腿骨頭のペルテス様変化に対するソルター骨盤骨切り術の有用性

著者: 薩摩真一 ,   小林大介 ,   浜村清香

ページ範囲:P.953 - P.958

 先天性股関節脱臼治療後に発生した大腿骨近位骨端部のペルテス様変化に対するソルター骨盤骨切り術の有効性を評価するために29関節の長期成績を調査した.ぺルテス様変化が骨端部にとどまる場合,ソルター骨盤骨切り術施行例は非施行例に比べ,良好な臼蓋の被覆のみならず求心性の獲得と骨頭を正円に導く効果が期待できると考えられた.一方,病変が骨幹端部にも及ぶ場合は,手術によっても骨頭の正円化は期待できないが,臼蓋被覆および骨頭と臼蓋との適合性という観点からは効果が期待できると思われた.

ペルテス病難航例(関節症ハイリスク例)に対する治療

著者: 二見徹 ,   尾木祐子 ,   共田義秀 ,   片岡浩之 ,   太田英吾 ,   貴志夏江

ページ範囲:P.959 - P.965

 診断が遅れたり,保存的・手術治療後に著明な骨頭変形を有する関節症発症ハイリスクと思われるペルテス病難航例の治療と成績に関して検討した.診断が遅れ手術治療を要した15例と,および主に装具治療が奏功せず強い骨頭変形を来したため手術治療を行った治療難航例の10症例,計25例(手術時年齢6.2~12.3歳,平均8.8歳)を対象とした.積極的に骨頭の球面性を獲得する目的の手術的なcontainment療法は有効であったが,正確な適応とともに良好な関節可動域の維持と骨頭の圧潰防止が極めて重要であった.特に骨修復能に限界のある年長児の場合は,術後の免荷も含めた綿密な管理とフォローアップが肝要である.

大腿骨頭すべり症に伴う骨頭壊死に対する長期免荷治療

著者: 入江太一 ,   大山正瑞 ,   田中正彦 ,   岡田秀人 ,   大出武彦 ,   北純

ページ範囲:P.967 - P.971

 大腿骨頭すべり症において,骨頭壊死と変形性関節症は最も重篤な合併症である.壊死に続き骨頭圧潰が生じると関節症を生じるので補正手術が必要となるが,その効果なく関節症が進行することもある.今回,当院で経験した大腿骨頭すべり症に伴う骨頭壊死8症例について,免荷による骨頭圧潰の予防効果を調べた.大腿骨頭すべり症に対する初期治療後,壊死の評価がされず,免荷が継続して7カ月以下であったものは,骨頭が圧潰し,高度の関節症性変化が生じていた.一方,早期に壊死の発生を把握し1年から1年半以上継続して免荷が行われたものでは,骨頭圧潰を免れる例が多く,関節症変化がないかまたは軽度であった.早期に壊死の発生を診断し,1年から1年半の免荷を行うことは,骨頭の圧潰と関節症発生の予防に有用と考えられた.

小児大腿骨頭壊死に対する血管柄付き腸骨移植の経験

著者: 堀内統 ,   関谷勇人 ,   和田郁雄 ,   若林健二郎 ,   大塚隆信

ページ範囲:P.973 - P.977

 小児における大腿骨頭壊死は比較的稀な病態である.成人の特発性大腿骨頭壊死に対しては様々な関節温存手術が考案され一定の成績を残しており,また関節温存がかなわなかった場合には人工関節置換術で対応可能である.しかし小児大腿骨頭壊死に対する統一された治療手段はない.人工股関節置換術が躊躇される小児大腿骨頭壊死に対しては最大限関節温存を目指すべきであろう.今回,当施設で施行した観血治療後の経過について述べるとともに術式選択について検討した.血管柄付き骨移植術のうち遊離腓骨術は血管吻合のリスクを伴うとの理由で,われわれは血行状態のより安定している有茎で,移植可能な腸骨のうち骨への血流の安定している深腸骨回旋動脈を用いた腸骨移植を使用している.

思春期の大腿骨頭壊死症に対する杉岡式回転骨切り術2例の短期成績

著者: 滝川一晴 ,   田中弘志 ,   岡田慶太 ,   芳賀信彦 ,   中村茂

ページ範囲:P.979 - P.982

 成人では大腿骨頭壊死症に対する杉岡式回転骨切り術の適応や治療成績は確立されているが,小児では適応や治療成績は確立されていない.大腿骨頭すべり症後とステロイド性各1例の思春期の大腿骨頭壊死症に対して前方回転骨切り術を行った.成人では術後圧潰を生じやすい条件(術後X線正面像健常部占拠率34%未満,ステロイド性では1日最大ステロイド使用量30mg以上)を有していたが,2例とも術後圧潰は生じなかった.したがって,回転骨切り術は思春期の大腿骨頭壊死症に対して成人より幅広い適応を有している可能性がある.

思春期大腿骨頭壊死性疾患に対する大腿骨頭回転骨切り術の術前計画

著者: 北野利夫 ,   中川敬介 ,   今井祐記 ,   高岡邦夫

ページ範囲:P.983 - P.987

 小児股関節疾患のうち,重症ペルテス病,大腿骨頭すべり症後や大腿骨頚部骨折後の大腿骨頭壊死などの変形を遺残しうる思春期大腿骨壊死性疾患に対する大腿骨頭回転骨切り術を,術前CTデータから作成した造型モデルを用いてシミュレーションした.すなわち,寛骨臼との良好な適合性を保ちつつ,壊死を免れた荷重に耐える骨頭部分を荷重部に移動する最適な方向と角度を術前に求め,手術施行の支援とした.対象とした7股中5股において骨頭後方回転骨切り術のほうが前方回転骨切り術よりも良好な臼蓋-健常骨頭適合性が得られることが判明した.

思春期の高度圧潰広範囲大腿骨頭壊死に対する大腿骨頭高度後方回転骨切り術

著者: 渥美敬 ,   山野賢一 ,   柁原俊久 ,   武村康 ,   平沼泰成 ,   玉置聡 ,   中村健太郎 ,   朝倉靖博 ,   中西亮介 ,   加藤英治 ,   渡辺実 ,   小原周

ページ範囲:P.989 - P.996

 治療が困難である思春期の高度圧潰広範囲大腿骨頭壊死10関節に対して大腿骨頭高度後方回転骨切り術を施行した.手術時年齢は平均14.6歳であり,急性すべり症後6関節,頚部骨折後2関節,ステロイド多量投与後が2関節である.後方回転角度は平均126°であり,平均20°の内反を加えた.術後経過観察期間は2~9年(平均4.2年)であり,最終観察時X線正面像では全例再圧潰はみられず,関節裂隙は保たれており,術前裂隙狭小化の5関節では改変がみられ,内側に移動した圧潰壊死域は再球形化がみられた.本症に対する本術式は,良好な修復が生じる有用な手術療法と考えた.

論述

頚椎椎弓形成術後の包括的健康関連QOL―頚部日常生活運動機能および軸性疼痛との関連

著者: 沼沢拓也 ,   横山徹 ,   小野睦 ,   竹内和成 ,   和田簡一郎 ,   藤哲

ページ範囲:P.997 - P.1003

 頚椎椎弓形成術後の頚部の運動機能および軸性疼痛と健康関連QOLとの関連を調査した.対象は2003年11月から2004年10月までの1年間に手術をした25例で,術前と術後1年時にJOAスコア,SF 36®によるQOL評価,および頚部運動機能および軸性疼痛を評価した.術後頚部の日常生活運動制限を認めた患者群は制限を認めなかった群と比較し,SF 36®の身体健康の2項目と精神健康の3項目のサブスケールで有意な低下を認めた.一方,術後の軸性疼痛の有無はすべてのSF 36®のサブスケールと有意な相関を認めなかった.以上から頚部の運動機能の温存,改善に目を向けた手術治療の改良が,患者のQOLの向上に必要と考えた.

脊椎手術における術前抗菌薬単独投与のみの感染管理

著者: 沼沢拓也 ,   横山徹 ,   小野睦 ,   和田簡一郎 ,   藤哲

ページ範囲:P.1005 - P.1009

 術前のみの予防的抗菌薬投与で,従来の術中および術後抗菌薬投与法の場合と術後感染率に違いがあるかを調査した.対象は2003年11月から2007年12月までに術前感染症例を除いた,手術時間4時間以内の236例である.インストゥルメンテーション手術例は43例(18.2%),compromised host例は61例(25.8%)であった.対象全例は術前のみの抗菌薬投与で,術中および術後の追加投与を行わなかった.術後感染率は1.3%(3/236例)であり,従来の術中および術後抗菌薬投与群に比較し術後感染率,耐性菌出現率において低値を示していた.今回の結果から脊椎の短時間手術においては,術中および術後の抗菌薬投与は,術後感染予防に必ずしも効果があるとは言えないことがわかった.

手術手技/私のくふう

習慣性膝蓋骨脱臼を合併した変形性膝関節症への人工膝関節置換術の工夫

著者: 柳澤真也 ,   寺内正紀 ,   畑山和久 ,   高岸憲二

ページ範囲:P.1011 - P.1015

 習慣性膝蓋骨脱臼を合併した変形性膝関節症に対して人工膝関節置換術を施行した症例を報告した.68歳の女性で,主訴は右膝関節痛で,膝90°以上で膝蓋骨は外側へ脱臼した.単純X線像において変形性関節症変化と膝蓋骨の外側への亜脱臼を認めた.手術は人工膝関節置換術を施行した.手術時の工夫点として大腿前面の骨切り術は可及的に後方で行い,さらに大腿骨コンポーネントの外旋,外側設置,脛骨コンポーネントの外旋設置,膝蓋コンポーネントの内側設置によって膝蓋骨のトラッキングの改善を図った.術後1年経過時,膝蓋骨脱臼はみられない.

境界領域/知っておきたい

インターロイキン(IL)-17

著者: 菊田順一 ,   佐伯行彦

ページ範囲:P.1016 - P.1020

■はじめに

 インターロイキン(IL)-17は1993年にクローニングされ,1995年に新しいサイトカインとして命名された.最近,IL-17を産生するCD4陽性ヘルパーT細胞の存在が明らかにされ,従来から知られているTh1あるいはTh2とよばれるサブセット以外の新たなサブセット(Th17)であることが判明した.さらに,Th17細胞は自己免疫疾患や感染防御などにおいて鍵となる役割を果たしていることが報告され,非常に注目されている.今回,炎症性自己免疫疾患や感染症におけるIL-17の役割について概説したい.

国際学会印象記

第13回FESSH(欧州手の外科連合学会)印象記

著者: 水関隆也

ページ範囲:P.1022 - P.1023

 昨年シドニーで開かれたIFSSH(国際手の外科連合)のシンポジウムでご一緒したスイス,ロザンヌ大学のEgloff教授から突然1通のメールが届いた.彼が会長を務める欧州手の外科連合学会(以下,FESSH)への講演招待であった.彼とは会場で挨拶をする程度の間柄であったので応召に躊躇したが,欧州の手の外科を知るよい機会と心得て参加を決意した.私にとっては今回が初めての参加となったFESSHではあるが,いろいろな意味で勉強になった学会であった.会場はロザンヌ市の山手に位置するBeaulieuという総合展示/会議場(図1)で行われた.欧州ハンドセラピスト学会も同時に開催され,ここでも一つ講演を依頼された.もとより手の外科学会とハンドセラピスト学会は表裏一体のようなものではあるが,両者の関係は日本よりも親密な印象を受けた.

 主催者側の発表によると参加者は1,520人であった由.主に欧州からの参加であったが,東アジア,中東,北米,南米からも参加がみられた.日本からの登録者は10人前後であったであろうか若い先生の参加が多かった.口演発表で数題採用されていたが,臆することなく堂々と発表された彼等の姿をみると何か嬉しくなってしまった.会場は口演3会場とポスター1会場であった.日本の全国学会でみられるような同時に5~6会場で口演発表ということもなかったので,興味のある分野は大体聞けるような枠組みであった.内容は玉石混交という感じで採用基準に不明確さも感じた.日本で既に発表されたと同じような内容のものが発表されたり,とてもわれわれには受け入れられないような手術法の発表があったりで驚かされることも間々あった.

連載 小児の整形外科疾患をどう診るか?─実際にあった家族からの相談事例に答えて・18

特発性つま先歩行

著者: 亀ヶ谷真琴

ページ範囲:P.1026 - P.1027

特発性つま先歩行

 初めてメールをさせていただきます.

 長男3歳1カ月は,歩き始めた当初(9カ月)から今日に至るまで,ピンとしたつま先立ちで歩き,あまり踵を地に着けて歩きません.つま先で歩くのを注意すれば踵を着けて歩きますが,10歩程度で,またつま先歩きに戻るといった感じです.外見的には,全く健常で障害らしき点は見当たらないのですが,初めて診察を受けた整形外科の先生も完全には信じてくださらず,何かの真似をワザとやっているのでは? と判断されました.息子にとっては爪先歩きがスタンダードであり,踵を下ろすほうが不自由そうです.レントゲンなどで骨格の診断を受けたほうが良いのか判断に苦しんでいます.

 何かご教授いただけますようよろしくお願いいたします.

医者も知りたい【医者のはなし】・31

ドイツ医学導入の立役者 相良知安(1836-1906)

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1028 - P.1032

まえがき

 今回は佐賀藩(鍋島藩)の医学者・相良知安(通常「ちあん」と呼ばれいる)を紹介する.

 維新政府は明治維新時の鳥羽・伏見の戦いと戊辰戦争で維新政府側の救護に活躍し,新政府樹立後に東京大病院長になった英国の外科医ウィリアム・ウィリスを擁して,英国医学にその範を求めようとしていた.そこに相良知安が登場し,ドイツ医学を導入するために勢力的に明治新政府に働きかけて,成功した.今回は彼の苦難の物語を述べる.

 平成21年度の日本医史学会は佐賀市で開催され,幕末から明治新政府の下で活躍した多くの佐賀藩出身の医師たちが紹介されると思う.

臨床経験

整形外科で初めて癌と診断された症例の臨床的検討―癌を見逃さないための注意点

著者: 武田明 ,   菊地臣一 ,   鹿山悟 ,   荒井至 ,   近内泰伸 ,   福田宏成 ,   市地賢治 ,   田地野崇宏

ページ範囲:P.1035 - P.1038

 既往歴のない癌患者が整形外科を受診して約0.05%(20/37,927例)の頻度で,癌と診断されていた.内訳は,骨髄腫が7例と内臓癌が13例であった.病期は,骨髄腫7例中4例が病期Ⅲの進行期であった.内臓癌13例では,全例が他臓器に転移を有するⅣ期であった.初診時症状は,癌性疼痛が17例,癌に関連しない症状が3例であった.診断時に17例中13例(76%)に癌性疼痛を想起させる強い疼痛,安静時痛,あるいは夜間痛が認められた.残る4例(24%)は,消炎鎮痛薬でコントロールされており,疼痛の性状から癌の存在は疑われなかった.

脊髄除圧術後の機能回復期における歩行能力改善経過と下肢協調運動障害―脊椎腫瘍による胸髄圧迫性対麻痺例での検討

著者: 八幡徹太郎 ,   前田眞一 ,   川原範夫 ,   村上英樹 ,   出村諭 ,   土屋弘行 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.1039 - P.1045

 脊髄硬膜外病変による亜急性脊髄圧迫のため対麻痺・歩行困難となった患者では,脊髄除圧術後において下肢筋力が十分回復しても,それと同時には歩行可能とならないことが多い.本研究では,脊椎腫瘍による胸髄圧迫性対麻痺22例を対象に,後方視的に脊髄除圧術後6カ月までの歩行能力,筋力,協調運動障害(痙性,運動失調)の経過を調べた.その結果,下肢筋力の回復は術後平均1カ月に対し,実用歩行達成は術後平均3カ月であった.筋力回復後には失調歩行の持続例が多かった.運動失調のタイプは後索性と非後索性が半々であった.

症例報告

小児に発生した脂肪塞栓症候群の1例

著者: 小野真義 ,   冨岡正雄 ,   中村雅彦 ,   西倉哲司 ,   松山重成 ,   中山伸一 ,   小澤修一

ページ範囲:P.1047 - P.1051

 脂肪塞栓症候群は骨折の合併症として知られているが,小児においては,骨髄成分が成人のものとは違うため稀であると言われてきた.今回われわれは11歳の男児に発生した脂肪塞栓症候群を経験したので報告する.外傷は左大腿骨骨幹部骨折,両足関節脱臼骨折,第5腰椎破裂骨折であったが,臨床症状は安定していた.大腿骨骨幹部骨折に対して鋼線牽引を,足関節脱臼骨折に対してはギプスシーネ固定を行い入院となった.その後ヘモグロビンと血小板の著明な減少と,急激な呼吸状態の悪化がみられたため本症と診断し,人工呼吸管理を中心とした集中治療を行い,左大腿骨骨幹部骨折に創外固定を行い軽快した.診断に関してはGurdや鶴田らの臨床診断基準が有名であるが,本症に特異的な基準はなく,本症を疑わなければ出血や他の呼吸器合併症との鑑別は困難である.また,治療は成人と同様に呼吸管理と骨折部の安定化が重要である.

踵骨後滑液包に発生した滑膜骨軟骨腫症の1例

著者: 武智泰彦 ,   篠崎哲也 ,   柳川天志 ,   高岸憲二

ページ範囲:P.1053 - P.1056

 踵骨後滑液包に発生した滑膜骨軟骨腫症の1例を経験したので報告する.症例は50歳の男性で主訴は足関節部腫瘤である.8年ほど前から足関節外果部後方の腫瘤に気づいていたが,疼痛や増大傾向がなかったため放置していた.歩行時に腫瘤部の疼痛を自覚するようになり近医を受診した.精査の結果,悪性腫瘍が疑われたため当科を紹介され受診した.単純X線写真側面像では足関節後方の石灰化を認め,腫瘤はMRI T1強調で低信号,T2強調で等信号と一部低信号が混在する所見を呈していた.滑膜肉腫などの悪性腫瘍を疑い手術を施行した.手術時,アキレス腱前方の白色被膜を切開すると,内腔から多数の白色で軟骨様の腫瘤が摘出された.病理結果は滑膜骨軟骨腫症であった.臨床および病理所見から,本症例はMilgramの3期で,踵骨後滑液包に生じた滑膜骨軟骨腫症と診断した.足関節後方部の石灰化病変では距骨後滑液包と滑膜骨軟骨腫症の存在を念頭に置くべきである.

書評

「メディカルストレッチング―筋学からみた関節疾患の運動療法」―丹羽滋郎,高柳富士丸,宮川博文,山本隆博●共著 フリーアクセス

著者: 寺山和雄

ページ範囲:P.1033 - P.1033

 この本は愛知医科大学運動療育センターの丹羽滋郎参与,高柳富士丸准教授,宮川博文理学療法士および山本隆博工学士の共著である.まずメディカルストレッチングの代表的な実技を紹介する.

 膝関節の伸展制限のある膝関節症の患者さんに対して,従来のストレッチングは膝伸展位,足関節背屈位で上体を前屈する方法が一般的であった.メディカルストレッチングでは,膝関節最大屈曲位として,足関節を最大背屈させる.膝関節の伸展制限は大腿後面にあるハムストリングスと下腿後面にある腓腹筋の拘縮が主体である.これらは二関節筋であるが,メディカルストレッチングの肢位ではハムストリングスの停止部が弛緩した状態で,腓腹筋は主として起始部が弛緩した状態になっている.この状態でストレッチングをかけたとき,ストレッチングが十分にかからないと思われてきた.ところが筋の長さをあらかじめ弛めておくと,ストレッチしたときに筋の緊張が低下しているので,無理なく筋を引き伸ばすことができ,伸展制限が改善されるのである.

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あとがき フリーアクセス

著者: 高岸憲二

ページ範囲:P.1064 - P.1064

 北京オリンピックで日本選手は北島選手が平泳ぎ100m,200mの二冠を達成し,女子ソフトボールの金メダル,陸上で400mリレーでの銅メダルなどをとり,テレビの前に釘付けになられた方も多いと思います.それが終わった後,日本列島は記録的豪雨に見舞われました.今日は長く続いた雨もようやくあがり,晴天になりました.記録的な雷雨で,数時間落雷が続き,夜眠れませんでした.アメリカにはカリブ海に大きなハリケーン「アイク」が発生して,地球温暖化の影響が問題視されています.

 今回の「視座」は国立身体障害者リハビリテーションセンターの岩谷力先生が「Locomotive syndrome(ロコモ)」について書かれています.皆さんにとってあまりなじみのない言葉かもしれませんが,内科のmetabolic syndromeと並んで介護予防の柱としてその予防,治療への取り組むことが提唱されています.その定義は「運動器疾患に起因するとじこもり,寝たきりを防ぎ,運動器の障害により要介護になるリスクの高い状態や運動器が障害を受けつつある状態」と述べられています.「ロコモ」は機能に注目した概念で,この研究が進むと新たな病理学的疾患概念が産まれるかもしれないと結ばれています.運動器のプロとして整形外科医が関与できる分野ですので,大いに期待しています.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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