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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科43巻2号

2008年02月発行

雑誌目次

視座

医療のリハビリテーション・介護のリハビリテーション

著者: 藤野圭司

ページ範囲:P.105 - P.106

 平成18年(2006年)の診療報酬改定でリハビリテーション(以下リハ)の枠組みが大きく変わりました.その中でも 1)疾患別リハの導入,2)日数制限の設定,が最大の変更です.これは急性期,回復期は専門医のもとで個別リハを行い,維持期(制限日数後)のリハは介護施設で集団療法を主として行う,という主旨に基づくものでした.しかしこれは医療におけるリハと介護施設(主として通所リハ施設)におけるリハとはその質も目的も全く異なることを無視した,机上の考えであったと思います.その理由として1)医療では疾患の治療を目的とし,専門医の診断,処方,定期的評価のもとにPT,OTらが1単位20分という決まりの中で行います.外来では1~2単位,多くても運動器リハでは3単位くらいで行われています.ところが介護のリハでは治療としてのリハよりもケアを目的とし,日常生活動作支援という観点が主体となります.そのため基本的には3時間以上施設にいることが義務付けられています.医療と同様のリハを希望する患者にとって,150日を過ぎた途端に「患者」から「利用者」と名前が変わり,ほとんどの場合は整形外科とは無関係な,専門医のいない介護施設で,新しいスタッフから,異なるリハを受けることには抵抗があります.そのため中医協の行った実態調査でも,制限日数終了後に介護施設でリハを継続したものは数%しかいませんでした.ちなみに現在,通所リハ施設は全国に約6,500施設あります.そのなかで整形外科医がリハを行っているところは病院,有床診療所,無床診療所を合わせて200施設程度で,とても制限日数終了後の患者の受け皿としては足りません.そのような現状から厚労省は,診療報酬改定年ではない平成19年4月,リハに関して異例の再改定を行い,リハ医学管理料という名目で制限日数後もリハを継続できるよう制度変更を行いました.しかしこれも残念ながら,患者への説明が難しいこと,4回目以降は無料となるため患者が頻回に受診することになり,採算が合わずあまり利用されていません.さらにこの制度自体も,介護施設でのリハ受け入れ体制が整うまでの暫定的処置とのことです.

誌上シンポジウム 整形外科手術におけるコンピュータナビゲーション支援

緒言 フリーアクセス

著者: 勝呂徹

ページ範囲:P.108 - P.108

 臨床的課題として手術成績の標準化がいわれ様々な工夫が行われてきた.そのひとつにコンピュータシステムを用いた,手術の訓練をはじめ,三次元的に手術概念を捉える技術が進歩し,手術のナビゲーションが用いられるに至った.

 今日用いられるナビゲーション手術は,1986年に脳外科領域でのCT baseが始まりである.コンピュータナビゲーション手術(股関節,膝関節,脊椎手術)に関する研究は緒についたばかりである.しかし今回の誌上シンポジウムでの論文は,臨床応用可能で今後さらなる進展が望まれる分野である.特に人工関節に必要な様々な新しい技術が用いられている.

人工股関節全置換術に対するナビゲーションシステムの応用と発展

著者: 菅野伸彦 ,   西井孝 ,   坂井孝司 ,   高尾正樹 ,   花之内健仁 ,   中原一郎 ,   塩見俊行 ,   津田晃佑

ページ範囲:P.109 - P.114

 人工股関節全置換術(THA)のナビゲーションは,CT画像を基にしたもの(CTナビ),フルオロイメージ(Fナビ)を基にしたもの,画像を使用しないもの(ILナビ)がある.CTナビでは,CT画像で3次元的に最適な手術計画をたて,計画どおり手術を誘導する.一方,FナビやILナビは,主に骨盤のカップの角度を骨盤前方基準面に対して計測表示するもので,簡素化したものである.THAのインプラントの最適設置について個人にあわせて詳細に検討できるCTナビについて解説し,THAにおけるナビゲーションの有用性と発展性について考察する.

大腿骨転子部骨折に対するナビゲーションの応用

著者: 内藤浩平 ,   飛田正敏 ,   熊橋伸之 ,   河野通快 ,   長谷亨 ,   大饗和憲

ページ範囲:P.115 - P.119

 ナビゲーションシステム(以下ナビゲーション)を大腿骨転子部骨折に対する髄内釘固定術へ応用する目的は,ラグスクリューを正確に骨頭内へ設置することにより固定力を強固にすることと,術中のX線透視時間を短縮することによって放射線被曝量を軽減することである.ナビゲーションをこの骨折に用いる場合は,術前に整復した骨折部の整復位が維持できるタイプの骨折に使用し,術中に髄内釘を挿入したあとX線透視画像を再入力してナビゲーションの精度を向上させたうえでラグスクリューを設置する必要がある.手術にナビゲーションを導入する際は術前・術中のシステム使用に習熟することで術中X線照射時間を短縮し,精度の高い手術が可能となる.

脊椎手術へのナビゲーションシステムの応用と発展

著者: 星地亜都司

ページ範囲:P.121 - P.127

 コンピュータナビゲーション支援により脊椎に対するスクリュー挿入手術の精度は明らかに向上している.術前計画の段階で,挿入不能椎を察知できるので危険なスクリュー挿入を回避できることも利点である.スクリュー挿入以外に,脊柱靱帯骨化巣や腫瘍性病変の的確な切除などにもこのシステムを使用することができる.最近では術中CTを併用したナビゲーション手術も可能となっているが,画像の鮮明度にまだ課題がある.

Fluoroscopic navigation systemを使用した膝前十字靱帯再建術

著者: 中山修一 ,   中川匠 ,   中嶋耕平 ,   栗林聰 ,   武田秀樹 ,   深井厚 ,   平岡久忠 ,   中村耕三

ページ範囲:P.131 - P.136

 ナビゲーションシステムは手術の精度を高め,再現性の高い操作を可能にするツールである.われわれは2001年10月から2006年10月まで鏡視下ACL再建術にfluoroscopic navigation systemを使用し脛骨骨孔を作成した.仮想骨孔・仮想靱帯をリアルタイムにコントロールしながら骨孔を作成した.脛骨骨孔の設置位置は正確で,術後の臨床成績も良好であった.ガイドピン刺入前の段階で仮想靱帯を高い精度で画像上に作り出すことができる本システムは,個々の症例に対し最適な骨孔の作成が可能な有用なツールである.

人工膝関節置換術ナビゲーションシステムと透視下動作解析の比較検討

著者: 宮崎芳安 ,   土谷一晃 ,   中村卓司 ,   高亀克典 ,   青木秀之 ,   窪田綾子 ,   原田孝 ,   山本慶太郎 ,   勝呂徹

ページ範囲:P.137 - P.141

 ナビゲーションシステムと透視画像から動作解析を行った.ナビゲーションシステムでは設置後,いったん外旋運動を示し,その後に内旋運動へと変化した.一方,透視を用いた計測では屈曲に従い内旋運動が発生した.内旋運動では類似点を認めたが,ナビゲーションシステムでは屈曲初期に外旋運動を示したため荷重下,非荷重下での比較検討も行った.荷重下では伸展位から直ちに内旋したが,非荷重下では屈曲初期にいったん外旋し,その後に脛骨内旋運動が認められた.ナビゲーションシステムは術後の膝関節運動を予測しうることが示唆された.

人工膝関節置換術における3-D measured cutting methodの有用性

著者: 佐藤卓 ,   有海明央 ,   大森豪 ,   古賀良生

ページ範囲:P.143 - P.150

 独自に開発した三次元術前計画法と連携ジグを用いた人工膝関節置換術(TKA)術中支援法の精度向上における有用性を検討した.CTから得られる骨形状モデルとコンポーネント形状モデルをコンピュータ上で設置して目標設置位置を決定し,その状態での適合性を視覚的に把握するとともに,髄内アライメントロッドの挿入方向や各部位の骨切り量を予測しておく.術中に連携ジグを用いてこれらの値を再現し確認する.今回本法を用いて16膝に対してTKAを行った結果,従来法に比して目標設置角度からの逸脱を認める膝が減少し,ナビゲーションに遜色ない結果を示していた.これは術者が術前に多くの視覚的情報を得られたことと,術前に予測した各定量値を術中に計測することが術中のアラームとして機能したことによるものと考えられた.

国際学会印象記

第4回世界脊椎学会(World Spine Ⅳ)に参加して

著者: 細江英夫

ページ範囲:P.152 - P.153

 2007年7月29日~8月1日,イスタンブール(トルコ)においてMehmet Zileli会長(Spine Section of Neurosurgery Dept, Ege University)のもと,第4回世界脊椎学会(World Spine Ⅳ)が開催された.イスタンブールは,ボスポラス海峡をはさんでアジア大陸とヨーロッパ大陸とをまたぐ国際都市である.学会は,ヨーロッパ側の新市街にあるIstanbul Covention & Exhibition Centre(ヒルトンホテルの近く)にて3つの会場に分かれ行われた.ポスター会場はなく2つのモニターでe-posterを閲覧するようになっていた.第1会場周囲の廊下が展示ブースとなっていた(写真1).

 本会は,第1回が2000年にMario Brock会長のもとベルリンで開催され,第2回は2003年にシカゴ(Edward C Benzel会長),第3回は2005年にブラジルの首都ブラジリア(Marcos Masini会長)で開催された.今回,30数カ国から脳神経外科医,整形外科医,リハビリテーション医,理学療法士,看護師,研究者など数百名が参加した.この会は,World Spine Society(WSS:2003年設立)の集会で,雑誌もあり,NASS(北米脊椎外科学会)が支援している.

連載 小児の整形外科疾患をどう診るか?─実際にあった家族からの相談事例に答えて・10

大腿骨頭すべり症

著者: 亀ヶ谷真琴

ページ範囲:P.154 - P.155

大腿骨頭すべり症

 はじめまして.12歳(中学1年)の息子についての相談です.

 6月前半に学校の体育授業で立ち幅跳びをしたところ,右の股関節を痛めました.

 2週間ほど痛みを我慢して片道25分の通学と部活(卓球)をしていましたが,あまりに痛かったのか自分から近所の整形外科医院へ行きました.そこでの診断は右股関節炎とのことでした.その後1カ月近く通いましたが痛みが治らないため,通院中2度ほど再診察を受けました.すると,今度は成長痛だと言われました.7月下旬に部活の先生から大きな病院へ行ってみてはと言われ病院を変えたところ,大腿骨頭すべり症と診断されました.「あと2週間でも早く来てくれれば初歩の治療ができたのに,今はすべりが大きくなっているのでその治療は無理」と言われました.先生のお話だと「手術をしても骨が壊死してしまうこともあるので,成長が終わるまでそのままのほうがいい」との回答を受けました.今後MRI(機械がないため他の病院で)を撮り,その後に詳しい話を聞く予定ですが,大腿骨頭すべり症について調べていると,ほとんどが手術を必要とし,予後も悪いことがあるので,専門医のいる病院が望ましいと書いてありました.同じ手術でも大人の大腿骨骨折と同じ扱いをする医師もいるが,それは危険と書いてあるものもありました.正直言って調べすぎて頭でっかちになってしまっています.親としては将来,今のような極端に足を引き続けることは避けさせたいと思っています.

 この病気自体はめずらしいものなのでしょうか?

 もしも手術をした場合の入院期間はどのくらいになるのですか?

 これからお世話になる病院は総合病院の整形外科ですが,病気の特殊性から考えると病院を変える方向も考えたほうがよいのでしょうか?

 ぜひ,ご回答いただけたらと思います.宜しくお願い致します.

臨床研修医のための整形外科・14

研修医のための下肢の外傷 救急室編

著者: 照屋徹 ,   高橋正明

ページ範囲:P.156 - P.161

 救急室で診察や処置する可能性が高い下肢の外傷について採り上げました.下肢外傷の中には全身状態が急変する可能性の高い外傷もあります.時としてマンパワーを要すると判断したら,応援医師を呼びましょう.

臨床経験

手根骨に囊腫状陰影を来した5例

著者: 佐藤大祐 ,   荻野利彦 ,   高原政利 ,   菊地憲明 ,   井上林

ページ範囲:P.165 - P.170

 手根骨に囊腫状陰影を認めた5例を経験した.有痛性の4例は疼痛の改善を目的に,無症状の1例は病的骨折の予防を目的として,掻爬骨移植術を施行した.術中に骨囊腫内から採取した組織と手術成績について調査した.採取した組織の病理所見は,線維組織が3骨,粘液が2骨,滑膜組織が1骨であった.手術施行側の手関節痛は,4例では消失し,1例では改善した.術後の囊腫状陰影は,2例では消失し,3例では一部残存した.有痛性のものには掻爬骨移植術が有効であり,無症状でも病的骨折の危険があるものには手術を検討すべきである.

症例報告

胸椎高位に発生した無症候性epidermoid cyst成人例の1例

著者: 辻王成 ,   吉野興一郎 ,   濱崎将弘 ,   馬渡玲子 ,   古川雄樹 ,   宮里朝史 ,   重盛廉 ,   高口太平

ページ範囲:P.171 - P.174

 症例は74歳の女性で,腰痛,間欠性跛行を呈しL4すべり症の手術目的で入院した.術前の脊髄腔造影で,偶然にTh10椎体後面に騎跨状陰影欠損を認めた.MRIではT1強調像で低信号,T2強調像で高信号を呈し,脊髄の圧迫は著明であった.Gd-DTPAでrim-enhanceを認めた.理学所見では胸腹部の感覚異常,下肢腱反射亢進,病的反射もなく無症候性の脊髄腫瘍と診断し,腫瘍摘出とL4/5の部分椎弓切除術を行った.病理診断はepidermoid cystであった.現在,術後2年経過し再発はない.再発に対する長期の経過観察が必要である.

神経根障害を引き起こした第4腰椎上関節突起陳旧性骨折と思われる1例

著者: 五嶋謙一 ,   森川精二 ,   南部浩史

ページ範囲:P.175 - P.178

 症例は,左殿部から大腿部の疼痛に対して9カ月間の保存療法が奏効せず入院となった25歳の男性である.CTで左L4上関節突起陳旧性骨折が疑われた.また左L4神経根ブロックで疼痛の再現性と消失を認めた.以上から偽関節骨片が左L4神経根を圧迫していると考え,内視鏡下に骨片を摘出した.術直後から症状は消失し職場復帰している.脊椎内視鏡手術は,腰椎後方要素を十分に温存でき,本症例においても,椎間関節への侵襲を最小限にとどめた.このため,術後不安定性が出現する可能性は低いと考える.

仙骨部の巨大表皮囊腫に,有棘細胞癌を合併した1例

著者: 小林洋 ,   菊地臣一 ,   田地野崇宏 ,   紺野愼一 ,   山田仁 ,   杉野隆

ページ範囲:P.179 - P.182

 症例は,64歳の男性である.15年前に殿部に腫瘤が出現して,徐々に増大したため当科を受診した.MRIで,仙骨部皮下脂肪内にT1強調画像で等信号,T2強調画像で高信号を呈する多房性腫瘤を認めた.造影MRIでは被膜のみが造影された.表皮囊腫と診断して摘出術を行った.病理組織検査の結果,囊腫は増殖性表皮囊腫と外毛根鞘性囊腫からなり,増殖性表皮囊腫から連続性に有棘細胞癌が認められた.後日,追加切除と大殿筋皮弁術を行い,放射線療法を追加した.治療終了後,6カ月経過後の時点では,再発や転移はない.

第1趾基節骨に発生したprimitive neuroectodermal tumorの1例

著者: 丹沢義一 ,   土屋弘行 ,   白井寿治 ,   山内健輔 ,   武内章彦 ,   木村浩明 ,   富田勝郎 ,   全陽

ページ範囲:P.183 - P.187

 第1趾基節骨に発生したPNET(primitive neuroectodermal tumor)の1例を経験したので報告する.症例は21歳の男性で,右第1趾の疼痛を認め,単純X線像で第1趾基節骨に菲薄化を伴う骨透亮像を認めた.良性腫瘍を考え,掻爬・骨移植を行ったが,病理結果はPNETであり,放射線・化学療法を施行した.追加手術は行わず経過観察を行い,15年間再発・転移は認めない.PNETは一般に予後不良であるが,本例は足趾の発生で,化学療法が有効であったことなどが良好な経過が得られた要因と考えられた.

コンパートメント症候群を併発した前脛骨筋腱断裂の1治療例

著者: 佐々木宏 ,   冨岡正雄 ,   中山伸一 ,   小澤修一 ,   戸田一潔 ,   角田雅也

ページ範囲:P.189 - P.191

 【目的】コンパートメント症候群を併発した前脛骨筋断裂に対し,縫合のうえ創外固定と筋膜切開を行い良好な結果を得たので報告する.【方法】2トントラック運転中に約40分間左下腿を挟まれて救出された.前脛骨筋腱を縫合し,創外固定を施行し,外側コンパートメント内圧が85mmHgと高値なため減張切開を施行した.【結果】術後外側は11mmHgと改善し,術後4週間で創外固定を抜去し,足関節の自動運動を開始した.【結論】コンパートメント症候群を合併した前脛骨筋断裂の固定に創外固定は有効である.

日常診療徒然草

筋萎縮(大腿四頭筋,棘上・下筋)

著者: 高橋正明

ページ範囲:P.161 - P.161

 視診・触診になりますが,膝関節疾患では大腿四頭筋内側広筋,肩関節疾患では棘上・下筋が重要です.

 数カ月前から膝が痛い患者を診察する時,第一に太ももの内側を健側と見比べてください.明らかに患側の筋肉が落ちていれば,痛みが強く思うように動けていないことがわかります.痛みは個人差があり,どの程度辛いのか話だけではわからないことが多いです.しかし筋肉の萎縮を見ればある程度判断できると思っています.萎縮が著明な時はどんどん検査を進めていってください.

 肩関節痛と挙上障害がある患者の場合,肩甲骨の後ろ側の筋肉を見て・触ってください.棘上筋または棘下筋の萎縮があれば第一に腱板断裂を疑ってください.腱板断裂による筋萎縮の可能性があります.肩甲上神経麻痺(ガングリオンによる圧迫など)による筋萎縮もありますが….

書評

これが私の手術法 脊椎脊髄手術―基本的手術手技からオリジナル手術まで―井須豊彦●編著 フリーアクセス

著者: 白石建

ページ範囲:P.163 - P.163

 本書は,私を含めた多くの脊椎・脊髄外科医が尊敬し,この分野の世界的第一人者である方の筆によるものでありながら,これまでに出版された権威ある手術書とは趣の異なった大変ユニークなものです.序文では,本書に記載されていない術式をその理由とともに明らかにしていますが,脊椎・脊髄外科医が日常の診療で遭遇する疾患の診断と治療法は基本から応用まで,ほぼすべて網羅されています.しかも,その内容の1つひとつが自身の経験に基づく,詳細を極めたものであり,これまでに筆者が実感し,確信したこと以外は徹底的に排除されています.各術式の症例数と合併症を含めた手術成績も提示され,筆者がこの手術書を執筆する目的,勇気,責任感の強さを明確に物語っています.各術式についてのきめ細やかな記述は,初心者でも十分に理解できる平易な言葉で書かれていて,かつて発展途上であった自身の視点を今も忘れずに持ち続けている筆者ならではのものと感じます.特にイラストは質・量ともにすばらしく,術式の詳細がさらに理解しやすくなっています.完成に至るまでに筆者とイラストレーターとの間で行われた妥協なき戦い?をうかがい知ることができます.

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あとがき フリーアクセス

著者: 黒坂昌弘

ページ範囲:P.198 - P.198

 新しい年を迎え,世の中では暗い話題が多かった2007年のニュースと新年への希望が取り上げられている.屈託無く笑えるお笑い番組の鑑賞は私の趣味の1つであるが,昨年のM-1グランプリという若手芸人の漫才大会で,「サンドウィッチマン」というコンビが優勝したことをご存知の読者の方もおられると思う.世間の風評や記憶というものも,極めて曖昧でほとんどの事象は時間の経過とともに忘れ去られる.サンドイッチマンという,街角で看板を体の前後につけてサンドイッチを思わせる風貌で宣伝活動をする仕事は,われわれの世代では常識であったが,ほとんどの若い整形外科医はその単語を知らないか,漫才コンビの名前としてしか認識していない.アメリカで始まったのではないかと思われる仕事で,英語の辞書にも載っているこの言葉も,世の中から忘れ去られつつあるということである.

 同じように,整形外科の先人が積み上げてきた業績も時代の流れとともに風化してゆく.学問での多くの新しい発見は先人たちの業績の上に積み重ねられていくものであり,お笑いとは本質が違うので不埒なことを考える私がおかしいと思うのでお許しいただきたいが,遠い未来に渡り伝えられていく業績がどのぐらいあるのかと考えることがある.本号では「整形外科手術におけるナビゲーション支援」が誌上シンポジウムとして取り上げられている.IT革命は明らかに新しい世界をもたらしており,携帯電話の普及などはその良い例であって,本誌から整形外科領域での最新の情報が読み取れる.コンピュータによるナビゲーション支援手術は,時代の先端を走る話題であり,今後の整形外科の常識を覆す可能性が十分にある.さらなる技術の進歩と,より一般的な使用が可能になる革新的な飛躍を期待したいものである.一方では,昔は常識であった,手書きでデータを書き込んだCBスライドでの学会発表や,多くの手術術式は記憶から消えていく.揚子江のような大河は,遠くから見ると全く流れがないように見えるが,近寄るとその流れの激しさに驚くという.学問の流れも同じで,その中に身を置くと,すさまじい流れに多くの事項が淘汰されていく.サンドイッチマンがネットのコマーシャルに置き換えられていったように,従来の手術がナビゲーション支援手術などの新しい形の革新につながる可能性もあり,今後の発展を心から期待したい.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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