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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科43巻4号

2008年04月発行

雑誌目次

視座

医療が大事か,道路が大事か

著者: 安永裕司

ページ範囲:P.299 - P.300

 最近,ある夜のニュースで,国会での野党からの質問に対して,福田首相が「医療も大事,道路も大事」と憶面もなく答弁する場面が放送されていた.ガソリン暫定税率延長問題が現時点での国会の最重要議題であるとしても,日本のリーダーが国民の安全保障の根幹である医療と道路建設を同一レベルに表現することに,医療に携わる一人として,唖然とし,また強い怒りを感じた.

 広島県医師会の主催でマイケル・ムーア監督の「SiCKO」の鑑賞会があり,参加した.先進国で唯一,国営の国民健康保険が存在しない米国の医療の実像を示すドキュメンタリー映画であるが,ここでは無保険の人のことではなく,HMO(健康維持機構)という民間保険に入っている人々の悲惨な現状を訴えている.例えば,癌治療を受けたが,その治療が実験的な治療であるとの査定で医療保険金が降りず破産した患者,交通事故で意識消失して救急車で搬送されたことに対し,保険会社の許可を得ずに利用したとして救急車の費用が出なかった患者,9.11テロ後に救護活動にボランティアとして参加した後,重度の呼吸器障害を生じた人がまったく救済されないという理不尽な現実が写し出されていた.保険適応は保険会社専属の医師が行うが,「治療は不必要,あるいは不適切」と判定した医師には,会社が支出を減じたという旨の奨励金を与え,会社は加入者の既往症の未記載などの加入者の書類上のミスを徹底的に調査して契約を無効にするという.また,米国に比して優れた医療制度を持つカナダ,フランス,イギリス,キューバの医療も紹介されていたが,なぜかWHOの総合評価で世界一の日本の紹介はなかった.一説によると,いくらGDP(国内総生産)に占める医療費の割合がOECD(経済協力開発機構)加盟国中18位と低いにもかかわらず,健康達成度は世界一で効率がよく,誰もが希望する病院に行ける平等な環境にあるとしても,日本の医療機関のあまりにも劣悪なアメニティのために参考にはならないからである.

誌上シンポジウム 骨粗鬆症性脊椎骨折の病態

緒言 フリーアクセス

著者: 星野雄一

ページ範囲:P.302 - P.302

 骨粗鬆症を背景とする高齢者における骨折は,ほぼ全例が入院となる大腿骨頚部骨折では発生率,治療成績,予後などの実態が比較的よく把握されている.一方,脊椎骨折は必ずしも入院とはならないために,実態の全貌を捉えることが難しく,これまでの議論は必然的に手術例を中心とするものであった.もちろん,このような問題点は従来から指摘され,日本脊椎脊髄病学会でも保存的治療を含めた検討が継続的に行われてきているが,知見は単発的,断片的であり,未解明な点が多い.たとえば,骨粗鬆症性脊椎骨折に対する保存的治療として,軟性コルセットが無意味であることはいくつかの施設から報告されているが,この知見が普及しているとはいえない.また,経皮的椎体形成術が世界的に流行しているが,その適応にはいまだ一致した見解がない.即時的除痛が得られることから,2週間程度の安静で改善するはずのものにも不必要な手術が行われているのが現状である.すなわち,骨粗鬆症性脊椎骨折に対して最適な治療が行われているとは限らないのが現状であり,これに適切に対処するには,その病態の正確な把握と,病態に沿った治療法の普及が重要なのである.

 骨粗鬆症を背景とする脊椎骨折に関し,以下の点の解明が急務であると考えられる.すなわち,本疾患の頻度はどのくらいか,偽関節の発生頻度はどのくらいか,偽関節を予測できる方法はないのか,偽関節あるいは下肢麻痺に対する治療はどうするのか,さらには現在行われている治療法の問題点は何か,などが重要な研究課題なのである.これらの中でも特に,偽関節となる病態が解明されれば,1~2週間の安静のみでよい保存療法,それではだめな場合に低侵襲で行う椎体形成術,下肢麻痺発生に対しては手術,などの適応が明確になる可能性が高く,最重要の課題であると思われる.

高齢者脊椎骨折の入院治療に関する施設特性別全国調査

著者: 原田敦 ,   中野哲雄 ,   倉都滋之 ,   出口正男 ,   末吉泰信 ,   町田正文 ,   伊東学

ページ範囲:P.303 - P.308

 65歳以上の脊椎骨折入院患者に対する診療実態を全国調査した.調査への回答は473施設から得られ,回答日の整形外科入院患者数は計14,242名,施設当たり平均31.0名で,脊椎骨折入院患者数は整形外科患者の10%を占め,その92%が保存治療を受けていた.診断で最も信頼する検査はMRIだったが.施設間差がみられた.外固定は92%の施設がしており,コルセットの軟性と硬性は同率であった.最も強い疼痛時には大半でNSAIDs座薬が使用されていた.平成17年度観血的手術施行数は119施設から622名,経皮的椎体形成術は75施設から257名と回答された.

骨粗鬆症性椎体骨折後偽関節発生に関与する予後不良因子について―多施設前向きコーホート研究

著者: 中村博亮 ,   辻尾唯雄 ,   寺井秀富 ,   星野雅俊 ,   松村昭 ,   加藤相勲 ,   鈴木亨暢 ,   高山和士 ,   高岡邦夫

ページ範囲:P.309 - P.314

 関連27施設において65歳以上の骨粗鬆症性椎体骨折例を登録し,6カ月後の予後を検討した.登録時に疼痛部位の単純X線とルーチンMRIを施行した.6カ月後に症例を偽関節症例群と骨癒合症例群に分類し,登録時の画像的所見を比較検討した.対象症例は150例で,6カ月後のX線像で骨癒合群が129例に,偽関節が21例にみられ,偽関節への移行率は14.0%であった.登録時のMRI T2強調画像で高輝度限局型が最も偽関節への移行率が高く,次いで低輝度広範型が高かった.また椎体後壁損傷がある症例では,ない症例に比較して偽関節へ移行しやすかった.

骨粗鬆性脊椎椎体骨折の造影MRIによる偽関節の検討

著者: 清水純人 ,   新保純

ページ範囲:P.315 - P.319

 骨粗鬆性脊椎椎体骨折の骨癒合例と偽関節例における造影MRIの検討を行った.椎体全体がすべてenhanceされるall enhancement群,椎体の一部が造影されない非造影部分が存在するがその周囲が強く造影されるrim enhancement(+)群,周囲が造影されないrim enhancement(-)群の3群に分けられた.最終的に骨癒合したものではall enhancementもしくはrim enhancement(+)を呈したのに対し,偽関節になったものは全経過を通じてrim enhancement(-)であった.偽関節の予測に造影MRIは非常に有用であった.

骨粗鬆症性脊椎椎体骨折遷延治癒における骨癒合過程の観察

著者: 浦山茂樹

ページ範囲:P.321 - P.326

 受傷後3カ月以上経過したにもかかわらず,体動時痛が持続し,しかも骨癒合していない遷延治癒例でも治療を継続することによって骨癒合が得られた.その骨癒合過程はすべて椎体後方部から生じ,まず後方部の骨量が増加し安定化した.その後,骨量が前方に向かって増加し,側方から前方部が骨癒合したが,中央部の修復は最後であった.椎体内cleftもしばしば消失し,椎体周囲に生じた仮骨から成長した骨橋がcleftを包み込むように隣接椎体と連続し,骨癒合遷延部に安定性を与えた.この生体反応によってcleftを認める遷延治癒例でも骨癒合に向かった.

胸腰椎固定術後に発生する脆弱性椎体骨折―脊椎インストゥルメンテーションの時間的空間的影響

著者: 豊根知明 ,   男澤朝行 ,   神川康也 ,   渡辺淳也 ,   松木圭介 ,   山下剛司 ,   松本信洋 ,   落合俊輔 ,   内村暢幸 ,   和田佑一 ,   田中正

ページ範囲:P.327 - P.330

 固定術後の隣接椎間障害が注目される一方,固定術後の椎体骨折の発生に関する報告は少ない.胸腰椎にインストゥルメンテーションを併用した固定術を施行し,手術時年齢55歳以上,インストゥルメンテーションは3椎間以下,継続的に7年以上経過観察し得た78症例を対象とした.術後新規脆弱性椎体骨折は女性49例中の11例(22%)19椎に観察されたが,男性には認められなかった.隣接椎骨折は術後8カ月以内に,遠隔椎骨折は術後8~22カ月で発生し,固定椎からの距離が遠ければ遠いほど遅く発生する傾向を認めた.

結語

著者: 高橋啓介

ページ範囲:P.331 - P.331

 骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折に対しては,一定の治療方針が決まっているわけではない.施設によってそれぞれ独自に治療されているのが実情と推測されていたが,原田らは全国規模調査を行い,その治療の実態を明らかにした.入院・外来治療,外固定の有無と種類,薬物治療の種類など,いまだに施設によってこれほど治療法が異なる疾患も現在ではそうないと思われる.この報告からも本症に対しての最適な治療法の確立が急務であり,そのための研究の必要性が痛感される.しかし,様々な因子が治療結果に影響を及ぼすと考えられ,簡単に結論の出る問題ではない.今後は学会などが主導しての大規模な研究の継続が必要である.

 本症の病態で重要な問題の一つが椎体偽関節の発生である.中村らの調査では,6カ月以上観察した例の14.0%に偽関節が発生したと報告している.この頻度は本邦における他の報告と同等の頻度であり,偽関節の発生は稀ではなく一定の頻度で生じていることになる.また椎体後壁損傷例などで偽関節へ移行する比率が高いと報告した.さらに清水らは偽関節発生の予測に造影MRIが有効であったと報告している.このように偽関節がどのような場合に生じやすいかは,以前からの知見を含めて,ある程度明らかになってきている.今後は,その発生リスクが高い症例に対して,どのようにすればその発生を予防できるかが課題となる.

論述

進行期・末期変形性股関節症に対する外反骨切り術の長期成績

著者: 佐々木幹 ,   石井政次 ,   川路博之 ,   大楽勝之 ,   濱崎允

ページ範囲:P.333 - P.338

 当院における青壮年期の進行期・末期変形性股関節症に対する外反骨切り術の15年以上経過例の成績を報告する.対象は51例54股で,平均観察期間は17.2年であった.JOAスコア疼痛20点と人工股関節置換術移行をend pointとして生存率を調べ,年齢,術前・後acetabular head index(AHI),反対側股関節,骨反応の状態と生存率の関連について検討した.生存率は10年91%,15年63%となり,術後14~15年頃から急激に低下した.生存率と年齢,反対側の状態,骨反応状態には関連が示唆されたが,有意差は認めなかった.外反骨切り術の10年成績は安定し,青壮年期の進行期および末期の股関節症には有用な手術法である.

調査報告

手術部位感染を防ぐためには準備された術野も不潔と考える必要がある―術中の細菌培養検査の分析

著者: 山崎隆志 ,   小久保吉恭

ページ範囲:P.339 - P.344

 準備された術野でも落下菌や患者の常在菌によって汚染されていることを確認するために菌の検出状況を調査した.蓋をせず保管した移植骨からは10例中6例,蓋をした場合は10例中1例から菌が検出され,手術終了時の術野からは10例中8例,イソジン消毒後30分の術野からは10例中2例で菌が検出された.術野をさらに清潔にする処置によって菌検出の減少が確認され,これは手術スタッフの手術部位感染(SSI)防止のモチヴェーション向上に役立った.SSI防止のためには準備された術野を清潔とはみなさず,その根拠がなくともさらに清潔度を上げる行為の積み重ねが重要である.

国際学会印象記

第62回米国手の外科学会に参加して

著者: 副島修

ページ範囲:P.346 - P.347

 第62回米国手の外科学会(American Society for Surgery of the Hand:ASSH)は,Washington大学整形外科主任教授Richard H. Gelberman先生を会長に,2007年9月27日より29日まで,Washington州Seattleで開催されました.Pre-registration listには1,634名の名前が記載されていましたが,実際にはさらに多くの参加者で非常に盛況な学会でした.

 今回の学会テーマは「The future in hand:advancing evidence-based care through scientific discovery」と題して,14のsymposiums,22のinstructional course lectures,16のinteractive case reviewsと盛りだくさんのプログラムが組まれていました.さらに学会前日には,私も米国留学中にお世話になったresidents and fellows conferenceと,有料の教育研修講演(pre-course)が6講演用意されていました.特に印象深かったのは会長講演とそれに続く2つの基調講演で,Gelberman会長がまず手の外科におけるEBMの重要性とそれに伴う基礎的・臨床的研究への支援の必要性,ならびに研究支援組織および予算に対するASSHの取り組みについて将来の構想を力強く話されました.続いて前々回の会長であるLight先生(Loyola University Medical Center)がAmerican Foundation for Surgery of the Handの立場から,2010年までに手の外科研究予算を300万ドルから600万ドルへと倍増させる必要性と,基金への寄付呼びかけを熱心にされました.さらに次々々回(2010年)会長のSzabo先生(University of California, Davis)が,「Show me the evidence」と題して,手の外科領域でのEBMの重要性を再度強調され,Gelberman会長指導のもとで手の外科領域の研究支援に対する組織としての強い意気込みを感じました.

第35回Cervical Spine Research Societyに参加して

著者: 石井賢

ページ範囲:P.348 - P.349

 第35回Cervical Spine Research Society(CSRS)が,2007年11月29日から12月1日の3日間にわたり,アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコのPalace Hotelで開催された.本学会は1973年にニューヨークで第1回学会が環軸関節回旋位固定で有名なJ. William Fielding会長のもと開催され以来,毎年アメリカの主要都市で開催されている,頚椎を主体とした脊椎脊髄の臨床と基礎系の学会であり,最も歴史と由緒ある学会の1つである.日本からも古くから多くの諸先輩の先生方が参加し,数多くの優秀な演題を発表されている.筆者は今回が4回目の参加でありいわば新参者であるが,本学会の内容と印象を紹介したい.

 本年度はUtah大学脳神経外科学教授のRonald I. Apfelbaum先生(写真1)が学会長を務められ,約500人が参加し盛大に開催された.学会参加者は欧米の脊椎脊髄外科医が主体であるが,ここ数年は日本からも多くの脊椎脊髄外科医が参加している.本学会は他の国際学会に比べて演題の採択率が低いため,発表できる機会を与えられることは非常に名誉なことである(ちなみに今回の応募演題数は約500題で,採択は口演が54題,ポスターが85題であった).したがって,選りすぐりの質の高い演題に対し,専門性の高い討論が繰り広げられる.口演会場とポスター会場は各1会場であるが,ポスターの討論はwelcome receptionの間に2時間ほど行われるのみで,その学会の主体は口演である.本年度はサンフランシスコという土地柄もあり,非常に和やかな雰囲気の中での開催であったが,いざpaperの発表が始まるとその雰囲気は一転し,非常に活発な討論が交わされた.これがまさに本学会の醍醐味であり,魅力であろう(写真2).

連載 整形外科と蘭學・22

辛島正庵と種痘

著者: 川嶌眞人

ページ範囲:P.352 - P.355

■はじめに

 昭和53(1978)年,獨協医科大学の星野孝教授(当時)を初代会長として,日本骨・関節感染症研究会が発足し,筆者も第10回を中津市で開催させていただいた.以来研究会も次第に発展し,今日では学会となり,若手の医師たちも感染症が整形外科領域においても大きな課題の一つであることに関心を持ち始めている.折りしも近年ではSARSをはじめ,高病原性鳥インフルエンザなどの感染症が世界的な拡大を起こしており,パンデミックがいずれ日本にも及ぶことが危惧されている.1918年にスペインかぜが大流行したときでは,日本においても死者38~45万人であったといわれている.新型インフルエンザがパンデミックに至れば日本でも60~210万人の死者が出ることが予想されている.

 医学・医療の発展した今日ですら感染症は解決困難な課題の一つであるが,予防法や治療法が確立されていなかった時代の痘瘡(天然痘)は有史以来,人類に多大の恐怖と惨禍を与え続けてきた.痘瘡に関しては1796年,イギリスのエドワード・ジェンナー(1749~1843)による牛痘接種によって,ようやくその災厄から脱出する可能性が見出されてきた.WHO(世界保健機関)は1966年,天然痘根絶計画の強化を提案し,総額1億ドルを投じて根絶計画十カ年計画を発足させ,1979年10月26日,痘瘡根絶を宣言した.

臨床研修医のための整形外科・16

四肢手術―手術室編

著者: 照屋徹 ,   高橋正明

ページ範囲:P.356 - P.364

 四肢手術患者の担当医になった時に,ぜひ知っておいてもらいたいことについて記載します.

 

四肢における代表的手術

手術全般に関する説明事項

四肢手術に関する説明事項

手術の体位の取り方と注意点

四肢手術器具

小児の整形外科疾患をどう診るか?―実際にあった家族からの相談事例に答えて・12

骨囊腫

著者: 亀ヶ谷真琴

ページ範囲:P.366 - P.367

相談例「骨囊腫」

 私は6歳の息子を持つ母親です.本日は息子の骨囊腫についてご相談させていただきたく,メールにて失礼いたします.

 今年の5月に大腿骨頚部骨折を機にX線上で骨囊腫が発見され,現在大学病院でフォロー中です.初診時に主治医からは,骨折の治癒過程で骨囊腫も治る可能性があると説明を受け,3カ月間経過観察(1カ月に1度X線撮影)のみでしたが,先週3度目の受診時に,骨折は完治しているものの骨囊腫の大きさは変わっていないとのことで,ステロイドの注入を勧められ「1回で反応がある場合もあるが,大体3回くらいが目安である.ステロイドによって治るのは五分五分.」と言われました.来年は小学生になり,ますます活発になるため,今のうちに治療をという主治医の言うこともわかりますが,親としてはあまり活発でない今だからこそ長期的に様子をみてやりたいという気持ちです.X線の所見もなく,客観的な情報もない中,私の説明からのみお答えいただくのはかなり難しいかと存じますが,長期経過観察のみで治った事例があるのかどうか,また経過観察の対象となる骨囊腫の大きさはどの程度なのか,ステロイドによる治癒率はどの程度なのか,などの情報が知りたいのです.主治医の先生にすべてお任せというのではなく,私自身も子供にとってどういう方法が一番よいのかを考えていきたいと思い,私なりに情報収集をしているところです.お忙しいとは存じますが,よろしくお願いいたします.

臨床経験

環軸関節穿刺・注射で軽快する急性頚部痛―Crowned Dens Syndrome

著者: 小林孝 ,   今野則和 ,   石川慶紀

ページ範囲:P.369 - P.373

 Crowned dens syndrome(CDS)と診断した症例に環軸関節穿刺を行い,痛みの原因が環軸関節に起因しているかを検証した.CDS 4例に環軸関節穿刺をした後,ゲンタシン®または1%塩酸メピバカインを1ml注入した.Visual analogue scale(VAS)は穿刺前平均89mmが穿刺30分後48mm,翌日には40mmとなった.3例で穿刺液が吸引され,穿刺液中にピロリン酸カルシウム(CPPD)結晶を確認できた.CDSは環軸関節に生じた偽痛風発作であることが示唆された.

F波による腰部脊柱管狭窄症手術例における安静時しびれの予後予測

著者: 原由紀則 ,   松平浩 ,   原慶宏 ,   荻原哲 ,   竹下克志 ,   中村耕三

ページ範囲:P.375 - P.379

 安静時足底しびれを有する腰部脊柱管狭窄症9例16肢(2例2肢は除外)を対象に除圧術前後のF波を測定し,安静時しびれの予後予測のパラメータとなり得るかを検討した.術後安静時しびれが改善した7肢中6肢では術前のF波最小潜時は33.0ms/m未満であった.術後安静時しびれの改善がなかった9肢中8肢では,術後のF波潜時は2.0ms/m以上改善するものの,術前のF波潜時は33.0ms/mを超えていた.術前のF波潜時が足底部の安静時しびれの術後予測の指標となる可能性が示唆された.

症例報告

ラテックス-フルーツ症候群を伴う特発性側弯症の手術例について

著者: 町田正文 ,   福田健太郎 ,   山岸正明

ページ範囲:P.381 - P.384

 ラテックスアレルギー患者の一部に栗やバナナ,アボカドなどの植物性食品を摂取した際にアナフィラキシーを訴えることがあり,この現象はラテックス-フルーツ症候群と呼ばれている.今回,麻酔導入直前にラテックスーフルーツ症候群を指摘され,手術を延期し,可能な限りラテックスを含む製品を排除した状態で安全に手術を施行した特発性側弯症の1例を経験したので報告する.

膵臓転移を含む多発転移のみられた骨肉腫の1例

著者: 星学 ,   高見勝次

ページ範囲:P.385 - P.388

 骨原発性悪性腫瘍,特に骨肉腫では遠隔転移の好発部位は主に肺,骨などがあげられる.しかしながら膵臓転移の報告は稀である.今回,37歳の男性の右第2肋骨に発生した軟骨形成性骨肉腫の症例で,肺転移など多発性転移を来した後に,膵臓転移がみられた症例を報告する.

小児前腕両骨骨折術後に環指,小指深指屈筋腱癒着を来した1例

著者: 古川雄樹 ,   松本伸也 ,   吉野啓四郎 ,   濱崎将弘 ,   石村啓司 ,   吉野興一郎 ,   重盛廉

ページ範囲:P.389 - P.391

 今回われわれは小児前腕両骨骨折に対する観血的整復術後に環指,小指深指屈筋腱癒着を経験したので報告する.症例は12歳の女性で,走っている時に転倒し左前腕両骨骨折を受傷した.同日,徒手整復とギプス固定を行った.その後,骨折部の再転位を認めたため観血的に整復し1.8mm Kirschner鋼線で固定を行った.初回手術後20日目に環指,小指の伸展障害を認めた.手術にて環指,小指深指屈筋腱の骨折部骨膜との癒着を剝離し伸展障害は改善した.原因として手術操作による骨折部骨膜との癒着が考えられた.

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あとがき フリーアクセス

著者: 戸山芳昭

ページ範囲:P.398 - P.398

 この度,厚生労働省から平成20年度診療報酬改訂が示され,同時にDPC対応医療機関には調整係数が通知された.しかし,全国の入院設備を有する医療機関の約7割が赤字経営を余儀なくされている現在,医師には安全・安心な上に高度な医療の提供と同時に,収益増も強く求められている.このように医師の役割,負担がますます増加している中で,医師はすべての責任を取らされ,何か事が起こったら直ぐに訴えられるような現状にある.これでは日本にブラック・ジャックは絶対に生まれない.リスクの高い手術は敬遠され,その結果,外科医の技術は低下し,高度先端外科治療などは海外で受けざるを得ない時代が間もなくやって来るような予感がしてならない.実際,勤務医は病院から離れ開業に向かうか,勤務・職場・立地条件などのよい施設に異動するという現象が既に始まっている.その結果,まず産科・小児科・救急医療体制の崩壊が進み,特に地方では最悪の状況に陥っている.次は外科が同じ状況となり,その次が整形外科とも言われている.慌てて国もその対応策を打ち出してはみたが,時既に遅しである.経済危機に陥っていたイギリスがサッチャー時代に行った医療改革,つまり医療費締め付け,市場原理主義導入などでイギリスの医療は完全に崩壊した.その後,イギリスがこの医療崩壊から立ち直るために相当の苦労,努力,時間を要したようである.今,まさに日本がそのイギリスと同じ医療崩壊の危機に陥っている.危機ではなく,実際は崩壊に至っている感が強い.その引き金は,新臨床研修制度か,マスコミの医者叩きか,国民感情か,医者・医療側の問題か,国の無策の問題か,国民皆保険・医療制度の問題か…….今,抜本的医療改革が必要な時期にあるが,国も医療側も大きな動きがとれていない.今回の診療報酬改訂を見ても全くの期待外れである.特定機能病院である大学病院等を含めて,病院に対して手厚い報酬が与えられ,1床当たり年間17万円増収,300床で5千万円増と報道されてはいるが,抜本的改革には全く結び付いていない.産科医の給与を上乗せする施策も報じられてはいるが,これで解決するほど問題は簡単ではない.わが国の総医療費はGDP比8%程度で,先進国の中では低い.そして,日本は総人口に比べて病床数が多く,医師は少ない.また,確実に少子高齢化,超高齢化社会に突入しているわが国では,2050年頃には65歳以上の高齢者比率は40%になると推計されている.これらの現状と将来を考えると,本当に今が医療体制全体を見直す時期にあることは間違いない.国が動かないのであれば,医療関係者が国民に理解を求め,国民と一体となって改善策を提言する以外ないように思える.本号の「視座」に寄稿してくれた安永先生の意見に全く同感である.日本の医療危機を脱するために今何をすべきか,医師一人ひとりが真剣に考え行動する時期に来ている.

 さて,本号のシンポジウムでは高齢社会到来で大きな問題となっている「骨粗鬆症性脊椎骨折」が取り上げられている.まさに良いタイミングである.そして,それぞれ示唆に富んだ論文が掲載されている.日本の医療は今危機的状況にあるが,医学は,学問は不滅でありたい.間もなく桜前線が全国を通過する季節を迎えるが,日本の医療に一日も早く春が訪れることを願って止まない.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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