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視座
医療が大事か,道路が大事か
著者: 安永裕司1
所属機関: 1広島大学大学院医歯薬学総合研究科人工関節・生体材料学
ページ範囲:P.299 - P.300
文献購入ページに移動広島県医師会の主催でマイケル・ムーア監督の「SiCKO」の鑑賞会があり,参加した.先進国で唯一,国営の国民健康保険が存在しない米国の医療の実像を示すドキュメンタリー映画であるが,ここでは無保険の人のことではなく,HMO(健康維持機構)という民間保険に入っている人々の悲惨な現状を訴えている.例えば,癌治療を受けたが,その治療が実験的な治療であるとの査定で医療保険金が降りず破産した患者,交通事故で意識消失して救急車で搬送されたことに対し,保険会社の許可を得ずに利用したとして救急車の費用が出なかった患者,9.11テロ後に救護活動にボランティアとして参加した後,重度の呼吸器障害を生じた人がまったく救済されないという理不尽な現実が写し出されていた.保険適応は保険会社専属の医師が行うが,「治療は不必要,あるいは不適切」と判定した医師には,会社が支出を減じたという旨の奨励金を与え,会社は加入者の既往症の未記載などの加入者の書類上のミスを徹底的に調査して契約を無効にするという.また,米国に比して優れた医療制度を持つカナダ,フランス,イギリス,キューバの医療も紹介されていたが,なぜかWHOの総合評価で世界一の日本の紹介はなかった.一説によると,いくらGDP(国内総生産)に占める医療費の割合がOECD(経済協力開発機構)加盟国中18位と低いにもかかわらず,健康達成度は世界一で効率がよく,誰もが希望する病院に行ける平等な環境にあるとしても,日本の医療機関のあまりにも劣悪なアメニティのために参考にはならないからである.
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